特許拒絶査定不服審判
2021-010098
予防保守システム、予防保守方法
- 審判番号
- 2021-010098
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-009342外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年07月29日
- 審決日
- 2022年09月29日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エーエスエム アイピー ホールディング ビー.ブイ.
- 【請求人代理人】桑野 敦司
- 分類
- P18 .121-Z (G05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017- 9342「予防保守システム、予防保守方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017-174402〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年(2017年)1月23日(パリ条約による優先権主張 2016年3月22日、アメリカ合衆国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年10月 7日付け:拒絶理由通知書
令和3年 1月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 5月 6日付け:拒絶査定
令和3年 7月29日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和3年7月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 【請求項1】
可動部に取り付けられたセンサと、
前記センサで検知した前記可動部の稼働データを蓄積し、前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係を参照し、前記可動部が故障していないものの前記稼働データが正常値から逸脱した場合に、前記可動部の故障の予兆を検知し、前記可動部の故障の予兆が見出されたときに作業者に通知する、又は前記故障の予兆の原因となっている部品を発注する予防保守装置と、を備え、
前記予防保守装置は前記可動部の制御主体ではないことを特徴とする予防保守システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
本件補正前の、令和3年1月13日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
可動部に取り付けられたセンサと、
前記センサで検知した前記可動部の稼働データを蓄積し、前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係から前記可動部の故障の予兆を検知し、前記可動部の故障の予兆が見出されたときに作業者に通知する、又は前記故障の予兆の原因となっている部品を発注する予防保守装置と、を備え、
前記予防保守装置は前記可動部の制御主体ではないことを特徴とする予防保守システム。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係から前記可動部の故障の予兆を検知」する内容について、上記1(1)の下線部のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 引用文献1の記載
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-225632号公報(平成22年10月7日公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同様。)
a「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、液晶表示装置用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板等(以下、単に「基板」と称する)に対して処理を施す基板処理装置で発生する故障を予知する故障予知システムおよび故障予知方法に関する。」
b「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1における故障予測時期の演算は、対象となる駆動部品について仕様上の寿命(例えば、寿命駆動回数)に、駆動部品の使用環境(温度および湿度等)を考慮に入れた係数k(0<k<1)を乗ずることにより行われている。そのため、係数kの値によっては、駆動部品を必要以上に早く交換することになり、基板の製造コストが増大するという問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明では、良好に基板処理装置の故障を予知できる故障予知システムおよび故障予知方法を提供することを目的とする。」
c「【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし請求項9に記載の発明によれば、情報処理装置で管理されている第1故障パターンは、故障機器の履歴データに基づいて更新される。これにより、各機器の使用環境に応じた故障予知を適切に実行することができ、機器の交換時期を適切に決定することができる。そのため、機器を必要以上に早く交換することなく、各基板処理装置で故障が発生することを未然に防止することができる。」
d「【0024】
<1.故障予知システムの全体構成>
図1は、本発明の実施の形態における故障予知システム100の全体構成の一例を示す図である。ここで、故障予知システム100は、複数の基板処理装置1の各機器で発生する故障を予知する故障予知システムである。図1に示すように、故障予知システム100、主として、複数(図1においては図示の都合上3台)の基板処理装置1と、故障パターンサーバ7と、を備えている。
【0025】
各基板処理装置1(1a~1c)は、その外部の搬送装置(例えば、AVG(Automatic Guided Vehicle):図示省略)から受け渡される基板に対してレジスト塗布、洗浄等の所定の処理を施す装置である。図1に示すように、各基板処理装置1(1a~1c)は、主として、処理ユニット10(10a~10c)と、制御ユニット20(20a~20c)と、表示部31(31a~31c)と、操作部32(32a~32c)と、を有している。
・・・
【0028】
処理ユニット10は、基板処理装置1内に搬入された基板に対して、処理(例えば、レジスト塗布処理、現像処理、露光処理、洗浄処理、または熱処理等の処理)を施す基板処理ユニットである。処理ユニット10は、これらの基板処理を実行するため、(1)基板に対して薬液や純水(以下、単に、「処理液」とも呼ぶ)を供給する処理液ノズル、(2)基板に供給される薬液を温調する薬液温調部、(3)枚葉式の装置においては、基板保持部に設けられており、受け渡された基板外周端面を支持することにより基板を保持する基板チャック、(4)基板保持部を回転させる基板保持部用回転モータ等の機器(いずれも図示省略)を有している。
【0029】
ここで、基板保持部に設けられている基板チャック(図示省略)は、基板の外周端面を支持する支持状態と、基板の外周端面から離れる開放状態と、を切替可能である。したがって、基板チャックが支持状態になると、基板は、基板保持部にて把持状態とされる。一方、基板チャックが開放状態になると、基板は、基板保持部から搬出可能となる。
・・・
【0031】
制御ユニット20は、処理ユニット10の下方に配置されており、処理ユニット10を構成する各機器の動作を制御する。なお、制御ユニット20のハードウェア構成および機能構成については、後述する。
・・・
【0034】
故障パターンサーバ7は、いわゆるパーソナルコンピュータやワークステーションにより構成された情報処理装置であり、例えば、故障予知に使用されるデータ(故障パターン格納テーブル23b、73a:図2ないし図4参照)を管理する。図1に示すように、故障パターンサーバ7は、各基板処理装置1とネットワーク9を介して電気的に接続されており、主として、制御ユニット70と、表示部81と、操作部82と、を有している。
【0035】
ここでは、故障パターンとは、各機器で発生する故障状況の前兆を示すデータをいう。ネットワーク9は、各基板処理装置1と故障パターンサーバ7との間を、例えば、有線LAN(Local Area Network)等により有線接続している。無線LAN等により無線接続するものであっても良い。」
e「【0038】
<2.基板処理装置および故障パターンサーバのハードウェア構成>
図2は、制御ユニット20を中心とした基板処理装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、図3は、制御ユニット70を中心とした故障パターンサーバ7のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0039】
まず、図2を参照しつつ、制御ユニット20について説明する。制御ユニット20は、処理ユニット10を構成する各機器の動作を制御する制御部である。図2に示すように、制御ユニット20は、主として、RAM21と、ROM22と、大容量記憶部23と、CPU24と、表示処理部25と、入出力部26と、通信制御部28と、を有しており、各要素21~26、28は、信号線29を介して電気的に接続されている。
・・・
【0045】
入出力部26は、I/Oポート(Input/Output Port)により構成されており、制御ユニット20と、制御ユニット20の外部機器との間のデータ授受に使用される。図2に示すように、入出力部26は、信号線26cを介して、処理ユニット10の各機器や操作部32と電気的に接続されており、主として、入力ポート26aと、出力ポート26bと、を有している。
・・・
【0047】
なお、本実施の形態において、枚葉式の装置の場合には、処理ユニット10に含まれている基板チャック(図示省略)には、基板の把持状況を検出するための把持センサ(図示省略)が設けられている。把持センサの出力は、基板チャックが支持状態となると「ON」状態(「H」側)となり、基板チャックが開放状態となると「OFF」状態(「L」側)となるように設定されている。・・・(略)・・・したがって、CPU24は、入力ポート26a上の所定アドレスで指定される1ビット分の値を取得することによって、基板チャックによる基板の把持状況を確認することができる。
・・・
【0049】
出力ポート26bは、入力ポート26aと同様に、外部ユニットと電気的に接続されたレジスタ(メモリ)により構成されている。出力ポート26b上の所定アドレスに指令値としてのデータが書き込まれると、対応する外部機器の稼働状況が制御される。
・・・
【0051】
また、基板チャックの把持動作を制御する場合、出力ポート26b上の所定アドレスの値が更新される。例えば、基板チャックを開放状態から支持状態に変更する場合、CPU24は、把持指令として出力ポート26bの所定アドレスに「1」を記憶させる。一方、基板チャックを支持状態から開放状態に変更する場合、CPU24は、把持指令として出力ポート26bの所定アドレスに「0」を記憶させる。」
f「【0062】
まず、制御ユニット20の機能構成について説明する。図4中のCPU24内に記載されているブロック(それぞれ符号24a~24fが付与されている)が、CPU24により実現される演算機能に対応する。なお、基板処理装置1a~1cに含まれる制御ユニット20a~20cは、それぞれ略同様なハードウェア構成を有している。そこで、以下では制御ユニット20aについてのみ説明する。
【0063】
パラメータ収集部24aは、対応する基板処理装置1aに含まれている機器(例えば、上述の薬液温調部、基板チャック、および基板保持部用回転モータ等)の稼働履歴を履歴データとして入出力部26の入力ポート26aから収集する。つまり、パラメータ収集部24aは、基板チャックによる基板の把持状態、薬液温調部に温調された薬液の温度、および基板保持部用回転モータの回転速度(実測値)等の稼働状況値を取得する。
【0064】
また、パラメータ収集部24aは、大容量記憶部23に格納されているレシピテーブル23dを参照することによって、基板保持部用回転モータの回転速度(設定値)等の指令値を取得する。そして、パラメータ収集部24aに収集された各履歴データは、パラメータ履歴テーブル23aのレコードとして登録される。」
g「【0065】
図5は、パラメータ履歴テーブル23aのデータ構造の一例を示す図である。パラメータ履歴テーブル23aは、各レコードとして収集された履歴データを格納している。図5に示すように、パラメータ履歴テーブル23aは、主として、「履歴ID」、「時刻」、「機器名」、「履歴内容」、および「値」の各フィールド(列)を有している。
【0066】
「履歴ID」フィールドには、パラメータ履歴テーブル23aに登録されている各レコード(各行)を一意に識別するための値が格納されている。「時刻」フィールドには、パラメータ収集部24aにより履歴データが取得された時刻、または、パラメータ収集部24aにより取得された履歴データがパラメータ履歴テーブル23aに格納された時刻が、格納されている。
【0067】
また、「機器名」フィールドには、履歴データに対応する機器を特定するためのデータが格納されている。図5の例では、各機器の名称を示す文字列データが格納されている。「履歴内容」フィールドには、取得された履歴データの種別、例えば、出力ポート26bを介して機器に送信される指令値(設定値)、または入力ポート26a(図2)を介して取得される機器の稼働状態を示す実測値等を特定するための文字列データが格納されている。「値」フィールドには、取得された履歴データ自体が格納されている。
【0068】
例えば、図5に示すように、「履歴ID」=「1101」で指定されるレコードの「値」フィールドには、基板保持用回転モータの稼働状況を示すデータのうち、回転速度(実測値)が格納されていることが分かる。
【0069】
故障予知部24bは、大容量記憶部23に記憶されているパラメータ履歴テーブル23aと、故障パターン格納テーブル23bと、に基づいて、基板処理装置1aに含まれる各機器の故障を予知する。」
h「【0070】
図6は、基板処理装置1の制御ユニット20中の大容量記憶部23および故障パターンサーバ7の制御ユニット70中の大容量記憶部73に記憶されている故障パターン格納テーブル23b、73aのデータ構造の一例を示す図である。故障パターン格納テーブル23b、73aは、各機器で発生する故障を故障状況に応じて分類するとともに、分類された故障毎に、故障の前兆を示す複数のパターン(本実施の形態では、パターン1~3)と対応付けて格納するテーブルである。図6に示すように、故障パターン格納テーブル23b、73aは、互いに同様のデータ構造を有している。また、故障パターン格納テーブル23b、73aは、故障パターンサーバ7にて一元管理されている。
【0071】
図6に示すように、故障パターン格納テーブル23b、73aは、主として、「格納ID」、「故障機器名」、「故障状況」、および「バージョン」の各フィールドと、故障パターンに関するフィールドと、を有している。
【0072】
「格納ID」フィールドには、故障パターン格納テーブル23bに格納されている各レコードを一意に識別するための値が格納されている。「故障機器名」フィールドには、故障が発生した機器を識別するためのデータとして、各機器の名称を示す文字列データが格納されている。「故障状況」フィールドには、「故障機器名」で指定される機器で発生した故障の具体的な内容を示す文字列データが格納されている。例えば、「格納ID」=「501」で示されるレコードは、「基板チャック」で発生した「軸の破断」に関するものであることが分かる。
・・・
【0074】
故障パターンに関するフィールドには、故障状況に応じて分類された各故障について、各故障の前兆が現れているか否かを判断するために使用される複数(本実施の形態では3つ)のパターンが格納されている(図6ではパターン1~3)。そして、各パターンは、「内容」フィールドと、「範囲」フィールドと、を有している。
【0075】
「内容」フィールドには、故障の前兆判断に使用されるパターンの具体的な内容を示す文字列が格納されている。「範囲」フィールドには、「内容」で指定されるパターンについて、故障の前兆であると判断される範囲(異常範囲)が数値データとして格納されている。
【0076】
このように、故障パターン格納テーブル23b、73aの各レコードは、各機器で発する各故障状況の前兆を示すデータ群に該当し、各レコードは故障パターンに該当する。すなわち、故障パターン格納テーブル23b、73aは、一または複数の故障パターンから構成されている。
【0077】
そして、パラメータ収集部24aに基づいて取得されたパラメータの実測値が、故障パターンの各パターンのいずれかの条件を満たす(すなわち、パラメータの実測値のいずれかが異常範囲内となる)場合、故障予知部24bは、対応する故障の前兆が現れていると判断する。
【0078】
故障通知部24cは、故障予知部24において、処理ユニット10aのいずれかの機器で故障の前兆が現れていると判断される場合に、オペレータに対してその旨を報知する処理を実行する。なお、基板処理装置1aのオペレータに対する報知としては、警告音が発せられてもよいし、警告灯が点灯させられてもよい。また、表示部31に故障予知を通知するためのダイアログボックスが表示されることや、故障予知を通知する電子メールによって、報知が行われてもよい。さらに、基板処理装置1a以外の装置の表示部、例えば、故障パターンサーバ7やその他の情報処理装置の表示部に、故障予知を通知するためのダイアログボックスが表示させてもよい。
・・・
【0080】
また、本実施の形態の故障予知システム100は、故障予知の精度を向上させるため、故障が発生する毎に、故障パターン格納テーブル73aに格納されている複数のレコード(故障パターン)のうち、故障機器および故障状況に対応するレコードを更新する。
【0081】
データ生成部24eは、故障検出部24dにより故障が検出された場合、故障パターンサーバ7で管理されている故障パターン格納テーブル73aの更新用に使用される差分データ71aを生成する。」(当審注:段落【0078】の「故障予知部24」は「故障予知部24b」の誤記と認められる。)
i「【0085】
図7に示すように、故障状況データ23cには、故障パターン格納テーブル23b、73aの各フィールドのうち、「故障機器名」および「故障状況」フィールドに対応する値が格納されている。そして、複数の故障状況データ23cから故障機器に対応する故障状況データ23cが、選択されるとともに、故障パターンサーバ7に送信される。例えば、基板チャックの軸が破断した場合、図7に示す故障状況データ23cが選択される。
【0086】
なお、大容量記憶部23に記憶されている複数の故障状況データ23cから、故障機器に対応する故障状況データ23cを選択する処理は、故障検出部24dの検出結果に基づいて行われてもよい。また、操作部32を介したオペレータの選択操作によって、所望の故障状況データ23cが選択されてもよい。」
j「【0087】
図8および図9は、それぞれ差分マスタデータ21aおよび差分データ71aのデータ構造の一例を示す図である。ここで、差分マスタデータ21aは、故障状況データ23cに応じて、故障パターンサーバ7から対応する基板処理装置1aに送信される1次元テーブルである。一方、差分データ71aは、故障パターンサーバ7の故障パターン格納テーブル73aを更新するために、故障機器に対応する基板処理装置1aから故障パターンサーバ7に送信される1次元テーブルである。
【0088】
図8および図9に示すように、差分マスタデータ21aには、故障パターン格納テーブル23b、73aの各フィールドのうち、「故障機器名」および「故障状況」のフィールドに対応する値と、故障パターンに関するフィールドに対応する値と、が格納されている。ただし、差分マスタデータ21aについて、各パターンの「範囲」フィールドには、NULL文字(図8中では図示の都合上「---」を記載)が格納されている。
【0089】
差分マスタデータ21aが受信されると、データ生成部24eは、パラメータ履歴テーブル23aを検索して故障機器の故障状況に対応する履歴データを抽出する。そして、データ生成部24eは、抽出された履歴データに基づいて、各パターンの「範囲」フィールドのすべてにデータを格納し、差分データ71a(図9)を生成する。
【0090】
例えば、図8の「チャック動作時間の最大値」に対応する「範囲フィールド」には、基板チャックを開放状態とするための把持指令が出された時点から基板が開放状態とされるまでの時間、または、基板チャックを支持状態とするための把持指令が出された時点から基板が支持状態とされるまでの時間、のうち最大となるものが格納される。
・・・
【0098】
これにより、更新前の故障パターン格納テーブル23b(図6参照)は、図12のように更新され、故障パターン格納テーブル23bに格納されている故障パターンの各レコードは、最新状態に維持される。
・・・
【0100】
更新部74aは、機器故障が発生した基板処理装置1aにて生成された差分データ71aに基づいて、大容量記憶部73に記憶されている故障パターン格納テーブル73aを更新する。」
・・・
【0103】
次に、更新部74aは、抽出されたレコードおよび差分マスタデータ21aの各「範囲」フィールドに格納されている値を比較する。そして、更新部74aは、抽出されたレコードの「範囲」フィールドのそれぞれについて、更新が必要か否かの判断を行う。
【0104】
例えば、抽出されたレコードおよび差分データ71aのパターン1は、「チャック動作時間の最大時間」であり、故障パターン格納テーブル73aのパターン1の「範囲」の値(=0.15:図6参照)は、差分データ71aに対応するもの(=0.16:図9)より小さい。すなわち、故障パターン格納テーブル73aのパターン1の方が、故障予知に関して厳しい条件となっている。したがって、更新部74aは、故障パターン格納テーブル73aから抽出されたレコードのパターン1については、更新が不要であると判断する。
【0105】
また、抽出されたレコードおよび差分データ71aのパターン2は、「チャック動作時間の平均値」であり、故障パターン格納テーブル73aのパターン2の「範囲」の値(=0.12:図6参照)は、差分データ71aの対応するもの(=0.11:図9)より大きい。すなわち、差分データ71aのパターン2の方が、故障予知に関して厳しい条件となっている。したがって、更新部74aは、故障パターン格納テーブル73aから抽出されたレコードのパターン2については、更新が必要であると判断する。
【0106】
さらに、抽出されたレコードおよび差分データ71aのパターン3は、「チャック動作時間の傾き」に関するものである。故障パターン格納テーブル73aのパターン3の「範囲」の値(=0.05:図6参照)は、差分データ71aの対応するもの(=0.04:図9)より大きい。
【0107】
ここで、「チャック動作時間の傾き」には、横軸に基板チャックの動作回数が、縦軸に基板チャックの動作時間が、それぞれプロットされる場合において、故障が検出された時点の直近k回分(kは自然数)をプロット点についての横軸に対する傾きが格納されている。そして、「チャック動作時間の傾き」の値が、より小さい値に設定される程(すなわち、動作時間の変動幅が、より小さい値に設定される程)、故障予知に関して厳しい条件となる。したがって、更新部74aは、故障パターン格納テーブル73aから抽出されたレコードのパターン3については、更新が必要であると判断する。」
k「【0118】
<4.故障パターンを用いた故障予知>
図13は、故障パターンを用いた故障予知の手順を説明するためのフローチャートである。ここでは、図13を参照しつつ、故障パターン格納テーブル23bに格納されている各レコード(故障パターン)に基づいて各機器の故障を予知する手順を説明する。
・・・
【0120】
本手順において、各基板処理装置1の故障予知部24bは、パラメータ履歴テーブル23aの各レコード(履歴データ)と、故障パターン格納テーブル23bの各レコード(故障パターン)とを比較する(S101)。」
・・・
【0122】
一方、ステップS101において、故障パターンのいずれかが履歴データに合致すると判断され、故障前兆機器が存在すると判断される場合(S102)、故障予知部24bは、故障前兆機器に対応する故障パターン(レコード)を故障パターン格納テーブル23bから抽出する。そして、故障予知部24bは、抽出された故障パターンから「故障機器名」および「故障状況」フィールドに格納されているデータを取得し、故障前兆機器の機器名および故障状況を特定する(S103)。
【0123】
続いて、故障通知部24cは、故障前兆機器に関する情報、すなわち、特定された機器名および故障状況、を報知するためのダイアログボックスを作成する(S104)。そして、ステップS104で作成されたダイアログボックスが表示部31に表示された後(S105)、ステップS101に戻る。」
l「【0131】
このように、故障予知システム100の基板処理装置1に含まれる機器で故障が発生すると、基板処理装置1のCPU24内のデータ生成部24eは、故障機器に対応した差分データ71aを生成する。そして、この差分データ71aに基づいて、故障パターンサーバ7に記憶されている故障パターン格納テーブル73aのうち、故障機器に対応する故障パターン(レコード)が更新される。すなわち、故障パターンサーバ7で管理されている故障パターン格納テーブル73aは、故障が発生する毎に更新される。そのため、各基板処理装置1の故障予知をさらに適切に実行することができ、不要な機器交換をさらに抑制することができる。」
m「【0140】
<7.本実施の形態の故障予知システムの利点>
以上のように、本実施の形態の故障予知システム100で使用される故障パターン格納テーブル23bは、故障機器の履歴データに基づいて更新される。これにより、故障予知システム100の各基板処理装置1は、各機器の使用環境に応じた故障予知を実行することができ、各機器の交換時期を適切に決定することができる。そのため、各機器が必要以上に早く交換されることを防止しつつ、各基板処理装置1で故障が発生することを未然に防止できる。」
n「【0142】
(1)本実施の形態において、各故障パターン格納テーブル23b、73aの各レコード(故障パターン)は、3つの故障パターン(パターン1~3)を有するものとして説明したが、これに限定されるものではない。各故障パターンを構成するパターンの個数は、1つ(「パターン1」のみ)であってもよいし、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。すなわち、故障パターンを構成するパターンの個数は、対応する機器の故障状況に応じて決定される。」
o「
[図:0001394472000001.jpg]
」
p「
[図:0001394472000002.jpg]
」
q「
[図:0001394472000003.jpg]
」
r「
[図:0001394472000004.jpg]
」
s「
[図:0001394472000005.jpg]
」
t「
[図:0001394472000006.jpg]
」
u「
[図:0001394472000007.jpg]
」(当審注:図9の「差分マスタデータ71a」は「差分データ71a」の誤記と認められる。)
v「
[図:0001394472000008.jpg]
」
w「
[図:0001394472000009.jpg]
」
(イ)上記(ア)の記載及び図面から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 「把持センサ」について
上記(ア)dの段落【0024】-【0025】、【0028】-【0029】、上記(ア)eの段落【0047】からみて、「故障予知システム100」が有している「処理ユニット10」は「基板チャックに設けられた把持センサ」を備えていることが記載されていると認められる。
b 「基板チャックの稼働履歴の履歴データを収集して格納」することについて
上記(ア)dの段落【0024】-【0025】、上記(ア)fの段落【0062】-【0064】、上記(ア)pの【図2】、上記(ア)qの【図3】、上記(ア)rの【図4】からみて、「故障予知システム100」が備える「基板処理装置1の制御ユニット20」及び「故障パターンサーバ7」は「把持センサで検出した基板チャックの稼働履歴の履歴データを収集して格納」するものであることが記載されていると認められる。
c 「複数の故障パターンと比較」することについて
上記(ア)dの段落【0035】、上記(ア)hの段落【0070】-【0072】、【0074】-【0076】上記(ア)tの【図6】からみて、「複数の故障パターン」は、「基板チャックの故障状況の前兆を示す前記履歴データからなる」ものであると認められる。
また、上記(ア)dの段落【0024】-【0025】、上記(ア)eの段落【0039】、上記(ア)fの段落【0062】、上記(ア)gの段落【0069】、上記(ア)hの段落【0077】、上記(ア)kの段落【0120】及び【0122】、上記(ア)pの【図2】、上記(ア)rの【図4】、上記(ア)wの【図13】からみて、「故障予知システム100」が備える「基板処理装置1の制御ユニット20」の「故障予知部24b」は「基板チャックの故障状況の前兆を示す前記履歴データからなる複数の故障パターンと比較」することが記載されていると認められる。
d 「基板チャックが故障していないものの履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」について
(a)上記(ア)hの段落【0077】、上記(ア)kの段落【0122】、上記(ア)wの【図13】からみて、「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」について記載されていると認められる。
(b)そして、「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」については、以下のようなものと認められる。
まず、上記(ア)aの段落【0001】、上記(ア)bの段落【0006】、上記(ア)cの段落【0016】、上記(ア)dの段落【0024】からみて、引用文献1に記載されているのは「故障を予知する故障予知システム」であると認められる。
そして、上記(ア)dの段落【0034】及び【0035】、上記(ア)gの段落【0069】、上記(ア)hの段落【0070】、【0074】-【0078】及び【0080】からみて、「複数の故障パターン」は「各機器の故障を予知」する際に「各故障の前兆が現れているか否かを判断する」ために使用される「故障状況の前兆を示すデータ」であると認められる。
また、上記(ア)kの段落【0118】、【0120】、【0122】及び【0123】の記載からみて、「故障パターンを用いた故障予知」の手順について記載されていると認められる。
さらに、上記(ア)cの段落【0016】、上記(ア)mの段落【0140】の記載からみて、「発明の効果」ないし「故障予知システムの利点」として「各機器の使用環境に応じた故障予知を適切に実行する」ことにより「各基板処理装置1で故障が発生することを未然に防止できる」ものであると認められる。
さらにまた、最新の故障の検出に対応して更新される「故障パターン」の具体的な内容について、上記(ア)hの段落【0080】-【0081】、上記(ア)iの段落【0085】-【0086】、上記(ア)jの段落【0090】、【0100】及び【0103】-【0107】、上記(ア)tの【図6】、上記(ア)vの【図12】の記載からみて、例示されている「チャック動作時間の最大値」、「チャック動作時間の平均値」及び「チャック動作時間の傾き」は、いずれも「基板チャック」が故障には至らずに「動作」している間に収集されるデータであると認められ、特に段落【0107】の「故障が検出された時点の直近k回分(kは自然数)をプロット点についての横軸に対する傾き」なる記載からみて、「基板チャックが故障」に至るよりも前、すなわち、「基板チャックが故障していない」場合について記載されていると認められる。
以上より、「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」というのは、「基板チャックが故障していない」場合であると解される。
(c)上記(a)及び(b)からみて、「基板チャックが故障していないものの前記履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」について記載されていると認められる。
e 上記dの場合に、「基板チャックの故障の前兆が現れていると判断」することについて
上記(ア)dの段落【0024】-【0025】、上記(ア)eの段落【0039】、上記(ア)fの段落【0062】、上記(ア)gの段落【0069】、上記(ア)hの段落【0077】、上記(ア)kの段落【0120】及び【0122】、上記(ア)pの【図2】、上記(ア)rの【図4】、上記(ア)wの【図13】からみて、「故障予知システム100」が備える「基板処理装置1の制御ユニット20」の「故障予知部24b」は、上記dの「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」に、「基板チャックの故障の前兆が現れていると判断」することについて記載されていると認められる。
f 上記eの場合に「オペレータに報知する」ことについて
上記eで指摘した記載に加えて、上記(ア)hの段落【0078】、上記(ア)kの段落【0123】からみて、「故障予知システム100」が備える「基板処理装置1の制御ユニット20」の「故障通知部24c」は、上記eの「基板チャックの故障の前兆が現れていると判断」された場合に「オペレータに報知する」ことについて記載されていると認められる。
g 「基板処理装置1の制御ユニット20」が「基板チャックの動作を制御する」ことについて
上記(ア)dの段落【0024】-【0025】、上記(ア)eの段落【0038】-【0039】、【0045】、【0049】及び【0051】、上記(ア)pの【図2】からみて、「故障予知システム100」が備える「基板処理装置1の制御ユニット20」は「基板チャックの動作を制御」することについて記載されていると認められる。
イ 引用発明
上記ア(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 基板チャックに設けられた把持センサと、
前記把持センサで検出した前記基板チャックの稼働履歴の履歴データを収集して格納し、前記基板チャックの故障状況の前兆を示す前記履歴データからなる複数の故障パターンと比較し、前記基板チャックが故障していないものの前記履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合に、前記基板チャックの故障の前兆が現れていると判断し、前記基板チャックの故障の前兆が現れていると判断された場合にオペレータに報知する基板処理装置1の制御ユニット20及び故障パターンサーバ7と、を備え、
前記基板処理装置1の制御ユニット20及び故障パターンサーバ7のうち前記基板処理装置1の制御ユニット20は前記基板チャックの動作を制御する故障予知システム100。」
(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)「可動部に取り付けられたセンサ」について
引用発明における「把持センサ」が本件補正発明における「センサ」に相当することは明らかであり、同様に、「基板チャック」は「可動部」に相当し、「設けられた」は「取り付けられた」に相当することから、引用発明における「基板チャックに設けられた把持センサ」は「可動部に取り付けられたセンサ」に相当する。
(イ)「センサで検知した可動部の稼働データ」を「蓄積」することについて
引用発明における「把持センサで検出した」ことは、本件補正発明における「センサで検知した」ことに相当し、同様に、「基板チャックの稼働履歴の履歴データ」は「可動部の稼働データ」に相当し、「収集して格納」することは「蓄積」することに相当する。
(ウ)「稼働データと可動部の故障モードとの相関関係を参照」することについて
引用発明における「基板チャックの故障状況」は本件補正発明における「可動部の故障モード」に相当する。
そして、引用発明における「基板チャックの故障状況の前兆を示す履歴データからなる複数の故障パターン」は、本件補正発明における「可動部の稼働データ」に相当する「基板チャックの稼働履歴の履歴データ」と、本件補正発明における「可動部の故障モード」に相当する分類された「基板チャックの故障状況」との対応関係を表すものであることから、本件補正発明における「稼働データと可動部の故障モードとの相関関係」に相当するものである。
また、引用発明における「基板チャックの故障状況の前兆を示す履歴データからなる複数の故障パターンと比較」することは本件補正発明における「稼働データと可動部の故障モードとの相関関係を参照」することに相当するものである。
(エ)「可動部の故障の予兆を検知」することについて
引用発明における「基板チャックの故障の前兆」は本件補正発明における「可動部の故障の予兆」に相当し、また、引用発明における「基板チャックの故障の前兆が現れていると判断」することは本件補正発明における「可動部の故障の予兆を検知」することに相当する。
(オ)「可動部が故障していないものの稼働データが正常値から逸脱した場合」について
引用発明における「基板チャックが故障していないものの履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」は「故障の前兆が表れていると判断」するものであることから「可動部が故障していないものの稼働データが可動部の故障の予兆を示す値となった場合」に限り本件補正発明における「可動部が故障していないものの稼働データが正常値から逸脱した場合」に相当する。
(カ)「可動部の故障の予兆が見出されたとき」について
引用発明における「基板チャックの故障の前兆が現れていると判断された場合」は本件補正発明における「可動部の故障の予兆が見出されたとき」に相当する。
(キ)「作業者」に「通知する」ことについて
引用発明における「オペレータ」は、本件補正発明における「作業者」に相当し、同様に、「報知する」ことは「通知する」ことに相当する。
(ク)「予防保守装置」について
引用発明における「基板処理装置1の制御ユニット20及び故障パターンサーバ7」は、「センサで検知した可動部の稼働データを蓄積し、稼働データと可動部の故障モードとの相関関係を参照し、可動部が故障していないものの稼働データが可動部の故障の予兆を示す値となった場合に、可動部の故障の予兆を検知し、可動部の故障の予兆が見出されたときに作業者に通知する予防保守装置」という限りにおいて本件補正発明における「予防保守装置」に相当する。
(ケ)「予防保守システム」について
引用発明における「故障予知システム」は上記(ア)の「センサ」及び上記(ク)の限りにおける「予防保守装置」とを備えた「予防保守システム」という限りにおいて本件補正発明における「予防保守システム」に相当する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「 可動部に取り付けられたセンサと、
前記センサで検知した前記可動部の稼働データを蓄積し、前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係を参照し、前記可動部が故障していないものの前記稼働データが可動部の故障の予兆を示す値となった場合に、前記可動部の故障の予兆を検知し、前記可動部の故障の予兆が見出されたときに作業者に通知する予防保守装置と、を備えた、
予防保守システム。」
【相違点1】
「予防保守装置」が「可動部の故障の予兆を検知」するにあたり、「可動部が故障していないものの稼働データが可動部の故障の予兆を示す値となった場合」について、本件補正発明では「可動部が故障していないものの稼働データが正常値から逸脱した場合」であるのに対して、引用発明では「基板チャック(可動部)が故障していないものの履歴データ(稼働データ)が故障状況(故障モード)の前兆を示す複数の故障パターン(相関関係)のいずれかに合致した場合」であり、本件補正発明のように「稼働データが正常値から逸脱した場合」であることについて明らかでない点。
【相違点2】
「予防保守装置」について、本件補正発明では「可動部の制御主体ではない」のに対して、引用発明では「基板チャック(可動部)の動作を制御する」ものである点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 【相違点1】について
(ア)引用発明における「基板チャックが故障していないものの履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」というのは、以下に説示するとおり、本件補正発明のような「稼働データが正常値から逸脱した場合」であると解される。
(イ)引用発明における「複数の故障パターン」は「故障状況の前兆を示す履歴データ」からなり、履歴データ(稼働データ)と分類された故障状況(故障モード)との対応関係を表すものであり、引用文献1において、以下のように記載されている。
a 「複数の故障パターン」を最新のものとして生成する更新について、上記(2)ア(ア)jの段落【0089】において「故障機器の故障状況に対応する履歴データを抽出する。・・・抽出された履歴データに基づいて、・・・差分データ71a・・・を生成する。」と記載され、また、同段落【0100】において「機器故障が発生した・・・差分データ71aに基づいて、・・・故障パターン格納テーブル73aを更新する。」と記載されている。
b 「複数の故障パターン」の具体的なものについては、上記(2)ア(ア)jの段落【0090】及び【0104】に記載された「パターン1」として「チャック動作時間の最大値」、同段落【0105】に記載された「パターン2」として「チャック動作時間の平均値」並びに同段落【0106】及び【0107】に記載された「パターン3」として「チャック動作時間の傾き」が例示されており、そのうち、「チャック動作時間の傾き」について、同段落【0106】に「抽出されたレコードおよび差分データ71aのパターン3は、「チャック動作時間の傾き」に関するものである。」と記載され、また、同段落【0107】に「「チャック動作時間の傾き」には、横軸に基板チャックの動作回数が、縦軸に基板チャックの動作時間が、それぞれプロットされる場合において、故障が検出された時点の直近k回分(kは自然数)をプロット点についての横軸に対する傾きが格納されている。」と記載されている。
(ウ)そして、上記(イ)aの記載からみて、「複数の故障パターン」は正常ではない故障機器の故障状況に対応する履歴データに基づいて生成・更新された故障パターンであり、これに合致する場合というのは、当然に、正常値から逸脱した場合であるといえる。また、上記(イ)bの記載からみて、「複数の故障パターン」は、故障が検出された時点の直近のデータからなるものと解されるところ、それは当然に正常値から逸脱した場合に該当するものといえる。
そうすると、引用発明における「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」というのは、本件補正発明のような「稼働データが正常値から逸脱した場合」であると解されるので、相違点1については、実質的に相違するものではない。
イ 【相違点2】について
可動部を備えた装置の保守システムの技術分野において、「保守装置が可動部の制御主体ではないこと。」は周知の技術(例えば、原査定の際に新たに引用した特開2005-148873号公報(平成17年6月9日公開。以下「引用文献10」という。)の段落【0013】の「ロボット劣化診断装置2の形態としては、例えばパソコン等のロボット制御装置とは独立したコンピュータである。」、段落【0014】の「ロボット劣化診断装置2とロボット制御装置1とを別々の装置とすることによって、パソコンが搭載しているハードディスク等の大容量メモリにより劣化診断のための大量データの蓄積やその解析を容易にするばかりでなく、生産ラインに設置された複数台のロボットの劣化診断を1台のロボット劣化診断装置で実現できることになる。」、段落【0019】の「ロボット劣化診断装置2内の劣化診断部6では、前述したデータ解析部5においてロボット駆動系に何らかの機械的劣化の兆候があるものと判断された場合は、すみやかに警告のメッセージを表示する旨の指示を出し、・・・ロボット駆動系の劣化診断作業を作業者に対して促す」を参照。以下、「周知技術」という。)である。
そして、引用発明は、引用文献1の【発明が解決しようとする課題】欄の段落【0006】に記載されているように、良好に基板処理装置の故障を予知できる故障予知システムを提供することを課題としていることから、より良好な故障予知を実現するべく、同様な技術分野における周知技術を採用して、相違点2に係る本件補正発明の特定事項のように構成することは、当業者であれば容易になし得るものである。
ウ 効果の予測性
本件補正発明の効果については、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が予測し得る程度のものである。
(5)審判請求人の主張の検討
ア 審判請求人の審判請求書における主張の内容
審判請求人は、審判請求書において、引用文献(すなわち、原査定において引用文献1として拒絶の理由に引用された、上記特開2010-225632号公報)に記載された発明に基く本件補正発明への容易想到性について、以下のように主張している。
本件補正発明は、本件補正により補正されたように「前記可動部が故障していないものの前記稼働データが正常値から逸脱した場合に、前記可動部の故障の予兆を検知」するので、故障が想定されるまでに相当の時間的余裕があり、例えば次のメンテナンスのタイミングで部品交換することで、装置故障によって生産性が低下することを防止できる。また、本件補正発明の「前記可動部が故障していないものの前記稼働データが正常値から逸脱した」場合における「正常値から逸脱した」というのは「可動部が故障していないことを保証」するものである。
これに対して、引用文献1に記載されたものは、「早すぎるタイミングで故障予知することを回避するために」、「パラメータの実測値のいずれかが異常範囲内(過去の実績からするといつ故障が起きてもおかしくない状況)となり、間もなく故障が予想される段階で、精度よく故障予知するので、当該故障予知が出されるとすぐに可動部を交換する必要があ」るものであって、「実測値が過去の故障パターンから得られた異常範囲内となることを検知するもの」であることから「可動部が故障していないことを保証でき」ないものである。
そうすると、引用文献1に記載された発明に接した当業者は、「故障タイミングをその直前に精度よく予知するはず」であることから、本件補正発明に容易に想到し得るものではない。
イ 上記アの主張に対する検討
引用発明における「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」というのは、上記(2)ア(イ)d(b)のとおり、「基板チャックが故障」に至るよりも前、すなわち、「基板チャックが故障していない」場合であると解され、上記(3)ア(オ)のとおり、本件補正発明における「可動部が故障していない」場合に相当するものである。
また、引用発明における「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」というのは、上記(4)アのとおり、本件補正発明のような「稼働データが正常値から逸脱した場合」でもあると解される。
そうすると、引用発明における「履歴データが故障状況の前兆を示す複数の故障パターンのいずれかに合致した場合」は、本件補正発明における「可動部が故障していないものの稼働データが正常値から逸脱した場合」に実質的に相当するものであるから、両者は実質的に相違するものではなく、審判請求人の上記アの主張は失当であって採用することはできない。
(6)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、令和3年1月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、
●理由3(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献10ないし12にて例示される周知技術に基いて、または、下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3にて例示される周知技術並びに引用文献10ないし12にて例示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
というものである。
引用文献1:特開2010-225632号公報
引用文献2:特開2008-77684号公報
引用文献3:特表2008-511180号公報
引用文献10:特開2005-148873号公報
引用文献11:特開2007-172150号公報
引用文献12:特開2002-287816号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、前記第2の[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。
4 対比・判断
(1)対比
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明における「前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係を参照し、前記可動部が故障していないものの前記稼働データが正常値から逸脱した場合に、前記可動部の故障の予兆を検知し」という事項を「前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係から前記可動部の故障の予兆を検知し」という事項としたものであり、「前記可動部の故障の予兆を検知」する場合について、本件補正発明における「前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係」を「参照」するという限定事項を削除して「前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係」「から」とし、さらに、本件補正発明における「前記可動部が故障していないものの前記稼働データが正常値から逸脱した場合」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明は、上記第2の[理由]2(3)アに記載した対比と同様に対比すると、次の点で一致し、上記第2の[理由]2(3)イの【相違点2】と同様な点で相違する。
【一致点】
「 可動部に取り付けられたセンサと、
前記センサで検知した前記可動部の稼働データを蓄積し、前記稼働データと前記可動部の故障モードとの相関関係から前記可動部の故障の予兆を検知し、前記可動部の故障の予兆が見出されたときに作業者に通知する予防保守装置と、を備えた、
予防保守システム。」
(2)判断
そして、相違点2に係る本願発明の特定事項のように構成することについては、上記第2の[理由]2(4)イに記載したとおり、引用発明及び引用文献10で例示される周知技術に基いて、当業者であれば容易になし得るものである。
また、本願発明の効果の予測性についても、上記第2の[理由]2(4)ウに記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が予測し得る程度のものである。
(3)小括
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-010098