特許拒絶査定不服審判
2021-008540
遮熱コーティング皮膜およびタービン部材
- 審判番号
- 2021-008540
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-510030外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月29日
- 審決日
- 2022年03月17日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (F01D) / P18 .575-Z (F01D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-510030「遮熱コーティング皮膜およびタービン部材」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月4日国際公開、WO2018/181559〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)3月28日(優先権主張 2017年3月28日 日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続は、以下のとおりである。
令和元年9月27日:出願審査請求書、手続補正書の提出
令和2年9月29日付け(発送日:同年10月6日):拒絶理由通知書
令和2年12月7日:意見書、手続補正書の提出
令和3年3月24日付け(発送日:同年4月6日):拒絶査定
令和3年6月29日:審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和3年6月29日の手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和3年6月29日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1 本件補正について
(1)本件補正前(令和2年12月7日の手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
低質燃料を使用する重油焚きガスタービンエンジンにおけるタービン部材を構成する耐熱合金からなる母材上に溶射形成されたセラミック材料からなる遮熱コーティング皮膜であって、
前記皮膜のセラミック材料としてイッテルビア部分安定化ジルコニアが用いられ、且つその皮膜の気孔率が5~6%の範囲内である遮熱コーティング皮膜。」
(2)そして、本件補正は、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のとおり補正するものである(下線は、補正箇所を示すために当審で付与した。)。
「【請求項1】
低質燃料を使用する重油焚きガスタービンエンジンにおけるタービン部材を構成する耐熱合金からなる母材上に溶射形成されたセラミック材料からなる遮熱コーティング皮膜であって、
前記皮膜のセラミック材料としてイッテルビア部分安定化ジルコニアが用いられ、且つその皮膜の気孔率が5~6%の範囲内であり、
前記気孔率は、前記皮膜の厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する前記白色部分の面積率を求め、前記面積率をもって前記気孔率とする遮熱コーティング皮膜。」
2 本件補正の適否
(1)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「気孔率」に関して、「前記気孔率は、前記皮膜の厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する前記白色部分の面積率を求め、前記面積率をもって前記気孔率とする」という事項を付加して限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(2)引用文献
ア 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016-076305号(以下「引用文献2」という。)には、「遮熱コーティング、および、タービン部材」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。
(ア)「[0006] この発明は、十分な遮熱性能、および、強度を確保しつつ耐エロージョン性を向上することができる遮熱コーティング、および、タービン部材を提供することを目的とする。」
(イ)「[0021] この発明の第一実施形態に係る遮熱コーティング、および、タービン部材を図面に基づき説明する。
図1は、この発明の第一実施形態におけるガスタービンの概略構成図である。
図1に示すように、この第一実施形態におけるガスタービン1は、圧縮機2と、燃焼器3と、タービン本体4と、ロータ5と、を備えている。
圧縮機2は、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する。
燃焼器3は、圧縮機2にて圧縮された圧縮空気Aに燃料を混合して燃焼させる。
[0022] タービン本体4は、燃焼器3から導入された燃焼ガスGの熱エネルギーを回転エネルギーに変換する。このタービン本体4は、ロータ5に設けられた動翼7に燃焼ガスGを吹き付けることで燃焼ガスGの熱エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換して動力を発生する。タービン本体4には、ロータ5側の複数の動翼7の他に、タービン本体4のケーシング6に複数の静翼8が設けられる。タービン本体4では、これら動翼7と静翼8とが、ロータ5の軸方向に交互に配列されている。
[0023] ロータ5は、タービン本体4の回転する動力の一部を圧縮機2に伝達して圧縮機2を回転させる。
以下、この第一実施形態においては、タービン本体4の動翼7を、この発明のタービン部材の一例として説明する。」
(ウ)「[0025] 図3は、この発明の第一実施形態における動翼の要部を拡大した断面図である。
図3に示すように、動翼7は、母材10と、遮熱コーティング層11とにより構成されている。
母材10は、Ni(ニッケル)基合金等の耐熱合金からなる。
遮熱コーティング層11は、母材10の表面を覆うように形成されている。この遮熱コーティング層11は、ボンドコート層12と、トップコート層13とを備えている。」
(エ)「[0027] トップコート層13は、ボンドコート層12の表面に積層されている。このトップコート層13は、セラミックを含む溶射材をボンドコート層12の表面に溶射することで形成される。この第一実施形態におけるトップコート層13は、その気孔率(単位体積当たりの気孔の占有率)が、9%以下、より好ましくは6%以下となるように形成されている。トップコート層13を形成する際に用いられる溶射材としては、ジルコニア系セラミックを用いることができる。ジルコニア系セラミックとしては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、および、酸化イッテルビウム(Yb2O3)で部分安定化させたジルコニア(ZrO2)であるイッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)等が挙げられる。」
(オ)「[0037] トップコート層13の熱サイクル耐久性は、トップコート層13の気孔率(%)の低下に伴い低下するものとこれまで考えられてきた。しかし、今回、燃焼ガスが800℃を超えるような高温環境で稼働するガスタービンと同条件で試験を行った結果、図7に示すように、気孔率が9%以下の領域において、熱サイクル耐久性が上昇に転ずるとの知見が得られた。この熱サイクル耐久性の上昇は、気孔率6%以下とすることでより顕著に現れた。つまり、非常に高温な燃焼ガスGを用いるガスタービンの環境においては、気孔率9%以下、より好ましくは6%以下とすることで、熱サイクル耐久性の上昇分だけトップコート層13の厚さを増しても十分な強度を得られることとなる。そのため、この厚さを増した分だけトップコート層13における遮熱性を更に向上できる。」
(カ)図3
「
[図:0001385902000001.jpg]
」
(キ)図7
「
[図:0001385902000002.jpg]
」
イ 引用文献2に記載された発明
上記記載事項及び図面の図示内容を総合して整理すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
〔引用発明〕
「ガスタービン1における動翼7は、耐熱合金からなる母材10と、遮熱コーティング層11とにより構成されており、
母材10の表面を覆うように形成されており、ボンドコート層12と、トップコート層13とを備える遮熱コーティング層11のトップコート層13であって、
トップコート層13は、セラミックを含む溶射材をボンドコート層12の表面に溶射することで形成され、トップコート層13を形成する際に用いられる溶射材は、イッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)であり、トップコート層13は、その気孔率(単位体積当たりの気孔の占有率)が6%以下となるように形成されている、
トップコート層13。」
ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開2016/129521号(以下「引用文献3」という。)には、「遮熱コーティング、タービン部材、ガスタービン及び遮熱コーティングの製造方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「[0006] 本発明は、十分な耐久性を確保しつつ、遮熱性を向上させることが可能な遮熱コーティング、タービン部材、ガスタービン及び遮熱コーティングの製造方法を提供する。」
(イ)「[0024] 以下、本発明に係る実施形態について図1から図6を参照して説明する。
図1に示すように、この実施形態におけるガスタービン1は、圧縮機2と、燃焼器3と、タービン本体4と、ロータ5と、を備えている。
圧縮機2は、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する。
燃焼器3は、圧縮機2にて圧縮された圧縮空気Aに燃料を混合して燃焼させる。
[0025] タービン本体4は、燃焼器3から導入された燃焼ガスGの熱エネルギーを回転エネルギーに変換する。このタービン本体4は、ロータ5に設けられた動翼(タービン部材)7に燃焼ガスGを吹き付けることで燃焼ガスGの熱エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換して動力を発生させる。タービン本体4には、ロータ5側の複数の動翼7の他に、タービン本体4のケーシング6に複数の静翼(タービン部材)8が設けられる。タービン本体4では、これら動翼7と静翼8とが、ロータ5の軸方向に交互に配列されている。
[0026] ロータ5は、タービン本体4の回転する動力の一部を圧縮機2に伝達して圧縮機2を回転させる。
以下、この実施形態においては、タービン本体4の動翼7を、本発明のタービン部材の一例として説明する。
[0027] 図2に示すように、動翼7は、例えば、Ni基合金等の周知の耐熱合金により形成されている耐熱合金基材である。本実施形態の動翼7は、翼本体部71と、プラットフォーム部72と、不図示の翼根部と、を有している。翼本体部71は、ガスタービン1のケーシング6内の高温の燃焼ガスGが流れる燃焼ガス流路内に配置されている。プラットフォーム部72とは、翼本体部71の基端部に設けられて翼本体部71の延びる方向と交差する面を有している。翼根部は、プラットフォーム部72から翼本体部71と反対側へ突出している。
[0028] 図3に示すように、遮熱コーティング100は、耐熱合金基材である動翼7の表面を覆うように形成される。遮熱コーティング100は、動翼7の表面のうち、翼本体部71の表面と、プラットフォーム部72の翼本体部71と接続されている側の表面とにそれぞれ形成される。本実施形態の遮熱コーティング100は、動翼7の表面上に積層される金属結合層200と、金属結合層200の表面に積層されるセラミックス層300と、を有している。」
(ウ)「[0030] セラミックス層300は、金属結合層200が形成された動翼7の表面に向かって溶射粒子を溶射して形成されるトップコート層である。セラミックス層300は、セラミックス層300の厚さ方向に延びる縦割Cが面の広がる面方向に分散されて内部に複数の気孔Pを含む緻密なDVC(Dense Verticaly Crack)コーティングである。本実施形態のセラミックス層300は、1mm当たりの縦割Cの分布が、0.5本/mm以上40本/mm以下のピッチで分散し、気孔率が4%以上15%以下の範囲に収まるように形成されている。セラミックス層300は、0.2mmから1mm程度の膜厚で形成されている。
[0031] セラミックス層300は、1mm当たりの縦割Cの分布が、1本/mm以上6本/mm以下のピッチで分散し、気孔率が9%以上15%以下の範囲に収まるように形成されていることが好ましい。特に、セラミックス層300は、1mm当たりの縦割Cの分布が、1本/mm以上2本/mm以下のピッチで分散し、気孔率が9%以上10%以下の範囲に収まるように形成されていることがより好ましい。
[0032] なお、本実施形態における気孔率とは、単位体積当たりの気孔Pのみの占有率だけでなく、縦割C及び気孔Pを合わせた占有率である。したがって、仮に、上述したセラミックス層300の気孔率9%以上10%以下という範囲を単位体積当たりの気孔Pのみの占有率で表すならば、本実施形態のセラミックス層300の気孔率は、5%以上7%以下の範囲に収まるように形成されることが好ましい。
[0033] セラミックス層300を形成する溶射粒子は、Yb2O3で部分安定化させたZrO2であるYbS(イッテルビア安定化ジルコニア)からなる。本実施形態の溶射粒子は、積算粒度分布50%粒径が40μm以上100μm以下とされる粒度分布を有するYbSZである。」
エ 引用文献3に記載された事項
上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。
〔引用文献3記載事項〕
「遮熱コーティング100は、耐熱合金基材である動翼7の表面を覆うように形成され、動翼7の表面上に積層される金属結合層200と、金属結合層200の表面に積層されるセラミックス層300と、を有し、
セラミックス層300は、金属結合層200が形成された動翼7の表面に向かって溶射粒子を溶射して形成されるトップコート層であり、セラミックス層300を形成する溶射粒子は、Yb2O3で部分安定化させたZrO2であるYbS(イッテルビア安定化ジルコニア)からなり、セラミックス層300は、1mm当たりの縦割Cの分布が、1本/mm以上2本/mm以下のピッチで分散し、気孔率が9%以上10%以下の範囲に収まるように形成されていることがより好ましく、単位体積当たりの気孔Pのみの占有率で表すならば、セラミックス層300の気孔率は、5%以上7%以下の範囲に収まるように形成されること。」
(3)対比、判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「動翼7」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明の「タービン部材」に相当し、以下同様に、「耐熱合金からなる母材10」は「耐熱合金からなる母材」に、「イッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)」は「イッテルビア部分安定化ジルコニア」に、それぞれ相当する。
また、本件補正発明の「タービン部材」は、本願明細書の段落【0025】及び【0027】を参照すると、母材10と、結合層12と、遮熱コーティング皮膜13からなるものを含んでいる。
そして、引用発明の「セラミックを含む溶射材をボンドコート層12の表面に溶射することで形成され」る「トップコート層13」は、母材10上のボンドコート層12にトップコート層13を形成するから、本件補正発明の「母材上に溶射形成されたセラミック材料からなる遮熱コーティング皮膜」に相当する。
さらに、引用発明の「ガスタービン1」と、本件補正発明の「低質燃料を使用する重油焚きガスタービンエンジン」とは、「ガスタービンエンジン」という限りにおいて一致する。
よって、両者は、次の点で一致する。
〔一致点〕
「ガスタービンエンジンにおけるタービン部材を構成する耐熱合金からなる母材上に溶射形成されたセラミック材料からなる遮熱コーティング皮膜であって、
前記皮膜のセラミック材料としてイッテルビア部分安定化ジルコニアが用いられる、
遮熱コーティング皮膜。」
そして、両者は、以下の点で相違又は一応相違する。
〔相違点1〕
「ガスタービンエンジン」に関して、本件補正発明は、「低質燃料を使用する重油焚きガスタービンエンジン」であるのに対し、引用発明は、「ガスタービン1」である点。
〔相違点2〕
「気孔率」に関して、本件補正発明は、「5~6%の範囲内であ」るのに対し、引用発明は、「6%以下」である点。
〔相違点3〕
本件補正発明は、「前記気孔率は、前記皮膜の厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する前記白色部分の面積率を求め、前記面積率をもって前記気孔率とする」のに対し、引用発明は、気孔率の具体的な測定方法を特定していない点。
上記相違点について検討する。
〔相違点1について〕
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-175315(以下「引用文献1」という。)の段落【0003】に例示されるように、低質燃料を使用する重油焚きガスタービンエンジンに遮熱コーティング材を用いることは、本願優先日前の周知技術である。
そうすると、周知技術を踏まえ、引用発明を低質燃料を使用する重油焚きガスタービンエンジンに用いることで、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
〔相違点2について〕
本願の発明の詳細な説明の段落【0029】には「また遮熱コーティング皮膜13は、その気孔率(単位体積当たりの気孔の占有率;vol%)が、5%以上、8%未満、より好ましくは5%以上、6%未満となるように形成されている。」、段落【0034】には「そして本発明者等が、遮熱コーティング皮膜のセラミック材料の種類、さらにはその気孔率と、上記のような溶融塩浸透試験方法及び熱サイクル試験による耐久性評価結果との関係を調査したところ、セラミックとしてイッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)を使用して、しかも皮膜の気孔率を5%以上、8%未満とすることによって、従来から常用されているイットリア部分安定化ジルコニア(YSZ)からなる気孔率10%程度のポーラスな遮熱コーティング皮膜よりも、溶融塩環境下での耐久性が確実に優れることを新規に見出した。」、段落【0037】には「本発明の実施形態において、YbSZからなる遮熱コーティング皮膜13の気孔率が5%未満では、熱伝導率が高くなって、母材10に対する遮熱の効果を充分に発揮させることが困難となる。一方、気孔率が8%以上となれば、溶融塩環境下での使用における耐久性を充分に確保することが困難となる。すなわち、YbSZからなる遮熱コーティング皮膜13であっても、その気孔率が8%以上となれば、従来の一般的なYSZからなる気孔率10%程度の遮熱コーティング皮膜(従来材)と比較して、溶融塩環境下での使用における耐久性が充分に優れているとは言えなくなる。このようにYbSZからなる遮熱コーティング皮膜13の気孔率が溶融塩環境下での使用における耐久性に及ぼす影響は、後に実験例に従って詳細に説明するように、本発明者等の詳細な実験によって見出されたことである。」と記載されているものの、段落【0088】ないし【0100】及び図14等に記載の実験例をみても、気孔率を5%以上とする数値範囲の下限値に臨界的意義は認められない。
一方、引用発明は、トップコート層13の気孔率が6%以下であるところ、引用文献2の段落[0037]の「この熱サイクル耐久性の上昇は、気孔率6%以下とすることでより顕著に現れた。つまり、非常に高温な燃焼ガスGを用いるガスタービンの環境においては、気孔率9%以下、より好ましくは6%以下とすることで、熱サイクル耐久性の上昇分だけトップコート層13の厚さを増しても十分な強度を得られることとなる。そのため、この厚さを増した分だけトップコート層13における遮熱性を更に向上できる。」との記載及び図7並びに気孔率と遮熱性との関係を考慮すると、引用発明において、気孔率を5%以上とすることは、当業者が適宜設定し得た設計的事項である。
さらに、引用文献3記載事項は、セラミックス層300の気孔率を5%以上とすることを示している。
そして、引用発明及び引用文献3記載事項は、ともにタービン部材におけるイッテルビア部分安定化ジルコニアからなる遮熱コーティングのトップコート層に係るものであり、遮熱性の向上という共通の課題を有するものであるから、引用発明において、引用文献3記載事項を参照しても、気孔率を5%以上とすることは、当業者が適宜設定し得た設計的事項にすぎない。
よって、引用発明及び引用文献3記載事項に基いて、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
〔相違点3について〕
本願の発明の詳細な説明の段落【0038】には「なお遮熱コーティング皮膜13の気孔率の測定方法は特に限定されないが、例えば皮膜13の断面を観察して、その断面における気孔部分の占有率を測定すればよい。具体的には、例えば皮膜の厚み方向の断面の光学顕微鏡写真(例えば図15)を撮り、その写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像(例えば図16)における、気孔部分に相当する部分(例えば白色部分)の面積率を求め、その面積率をもって気孔率とすればよい。なおこの場合、面積率が算出されることになるが、気孔部分の面積率は、気孔部分の体積率と実質的に同等であるから、上記の面積率の値をもって気孔率(vol%)とみなすことができる。」と記載されており、当該記載は気孔率の測定方法を特定する記載であると解される。
本件補正発明は「遮熱コーティング皮膜」という「物」の発明であるところ、「単位体積当たりの気孔の占有率」である「気孔率」は測定方法によらず変わらないから、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項は「物」としての「遮熱コーティング皮膜」を実質的に特定するものではない。
してみれば、上記相違点3は実質的な相違点とはいえない。
また、上記相違点3が実質的な相違点であるとしても、気孔率について、一般に、厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する部分の面積率を求め、前記面積率をもって前記気孔率とすることは、本願優先日前に周知の事項(例えば、特開2010-1943号公報の段落【0026】、特開2006-249244号公報の段落【0026】等を参照。)である。
したがって、引用発明において、周知の事項に基いて、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
〔効果について〕
そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献3記載事項、周知技術及び周知の事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
〔まとめ〕
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献3記載事項、周知技術及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。
〔請求人の主張について〕
請求人は、審判請求書(【本願発明が特許されるべき理由】2.(2))において、以下のように主張する。
「(ア) 本願の請求項1に記載の発明(以下、本願発明1)では、重油焚きガスタービンでの使用環境下において、皮膜のセラミック材料としてイッテルビア部分安定化ジルコニアが用いられ、且つその皮膜の気孔率が5~6%の範囲内とされている。そして、この気孔率は、皮膜の厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する白色部分の面積率をとして定義されている。光学顕微鏡写真を用いた2値化画像で精密に定義された気孔率を5~6%という限定された数値の範囲内とすることで、本願発明では、通常のYSZを用いた従来材に比べて約30%も耐久性を向上させることができるという顕著な効果を生じるものである。
(イ) 一方、いずれの引用文献にも、気孔率を光学顕微鏡写真を用いた2値化画像で精密に定義するという構成は記載も示唆もされていない。そのため、引用文献1~4のいずれかに基づいて、本願発明1のように、気孔率を精密に定義することできず、本願発明のような顕著な効果を得るための構成を得るには至らない。さらに、本願発明のように気孔率を定義することが記載されていない引用文献に基づいて、単に光学顕微鏡写真を用いるだけでなく、その写真を画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化して気孔率に利用するという特徴的な思想に想到することはできない。
(ウ) 以上のように、上述の引用文献1から引用文献4に記載の発明に基づいて、本願の請求項1に係る発明に当業者が容易に想到できたとの論理付けを行い得るものではない。したがって、本願の請求項1及に係る発明は、引用文献に記載された発明に基づいて、いわゆる当業者が容易に発明することができたものではない。」
上記主張について検討する。
上述したとおり、気孔率について、一般に、厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する部分の面積率を求め、前記面積率をもって前記気孔率とすることは、本願優先日前に周知の事項(例えば、特開2010-1943号公報の段落【0026】、特開2006-249244号公報の段落【0026】等を参照。)である。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(4)むすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年12月7日の手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、前記第2〔理由〕1(1)に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定(令和3年3月24日付け)の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献等 1-3(主引用文献は2又は3)
・請求項 1
・引用文献等 1-3(主引用文献は1)
・請求項 2
・引用文献等 1-4
・請求項 3、4
・引用文献等 1-4
<引用文献等一覧>
1.特開2015-175315号公報
2.国際公開第2016/076305号
3.国際公開第2016/129521号
4.特許第5602156号公報
3 引用文献2及び3、引用発明、引用文献3記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2及び3並びに引用発明及び引用文献3記載事項は、前記第2〔理由〕2(2)に記載したとおりである。
4 対比、判断
本願発明は、前記第2〔理由〕2で検討した本件補正発明における「気孔率」に関して、「前記気孔率は、前記皮膜の厚み方向の断面を撮った光学顕微鏡写真を、画像処理によって白色部分と黒色部分とに2値化し、得られた2値化画像における、気孔部分に相当する前記白色部分の面積率を求め、前記面積率をもって前記気孔率とする」という限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2〔理由〕2(3)に記載したとおり、引用発明、引用文献3記載事項、周知技術及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も実質的に同様の理由により、引用発明、引用文献3記載事項、周知技術及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-008540