特許拒絶査定不服審判
2021-005232
推力発生機構
- 審判番号
- 2021-005232
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-017454
- 請求日
- 2021年04月22日
- 審決日
- 2021年10月25日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 片野工業
- 【請求人代理人】伊藤 温
- 【請求人代理人】谷口 誠
- 【請求人】エアーサクセスジャパン株式会社
- 【請求人代理人】伊藤 温
- 【請求人代理人】谷口 誠
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 芳枝
- 審判官 柿崎 拓
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P18 .536-WZ (H02K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 17454「推力発生機構」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 8月30日出願公開、特開2021-125959〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年2月4日の出願であって、令和2年6月10日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年7月29日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年10月20日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年11月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和3年1月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和3年4月22日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審において令和3年6月23日付けで拒絶の理由が通知され、令和3年8月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の各請求項に係る発明は、令和3年8月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1~3に係る発明(以下、これらの発明をまとめて「本願発明」という。)は、その請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
不動側永久磁石と、
前記不動側永久磁石の両側でかつ互いに対面するように位置する第一移動側永久磁石および第二移動側永久磁石と、
第一方向に移動可能でかつ前記第一移動側永久磁石および前記第二移動側永久磁石が取り付けられた移動部と、
前記移動部の移動方向を前記第一方向に規制する移動方向規制部と、
を備え、
前記第一移動側永久磁石は、前記不動側永久磁石の一方の面と対面するとともに、前記不動側永久磁石の一方の面と同一極性の第一対向面を有しており、
前記第二移動側永久磁石は、前記不動側永久磁石における前記一方の面とは反対側の他方の面と対面するとともに、前記不動側永久磁石の他方の面と同一極性の第二対向面を有しており、
前記第一移動側永久磁石は、この第一移動側永久磁石の前記第一対向面が、前記第一方向に向かうにつれて次第に、前記不動側永久磁石の一方の面との距離が大きくなるよう傾斜しており、
前記第二移動側永久磁石は、この第二移動側永久磁石の前記第二対向面が、前記第一方向に向かうにつれて次第に、前記不動側永久磁石の他方の面との距離が大きくなるよう傾斜しており、
前記不動側永久磁石における高さ方向の中心を通る中心線を第一中心線とし、
前記第一移動側永久磁石の高さ方向の中心を通る中心線は、前記第一方向および高さ方向に対して垂直な方向からみて、前記第二移動側永久磁石の高さ方向の中心を通る中心線と一致しており、これらの一致した中心線を第二中心線とし、
前記第一中心線と、前記第二中心線とは、前記第一方向および高さ方向に対して垂直な方向からみて一致している
ことを特徴とする推力発生機構。
【請求項2】
前記第一移動側永久磁石は、前記第一方向に沿って複数配置され、
前記第二移動側永久磁石は、前記第一方向に沿って前記第一移動側永久磁石と同数配置され、
複数の前記第一移動側永久磁石の前記第一対向面と前記不動側永久磁石の一方の面とがなす角度はそれぞれ同一であり、
複数の前記第二移動側永久磁石の前記第二対向面と前記不動側永久磁石の他方の面とがなす角度はそれぞれ同一であり、
前記第一移動側永久磁石の前記第一対向面と前記不動側永久磁石の一方の面とがなす角度と、前記第二移動側永久磁石の前記第二対向面と前記不動側永久磁石の他方の面とがなす角度とは同一である
ことを特徴とする請求項1に記載の推力発生機構。
【請求項3】
前記移動部は、
前記不動側永久磁石の一方の面側でかつ前記第一方向に沿って延びるとともに、前記第一移動側永久磁石が取り付けられた第一取付部と、
前記不動側永久磁石の他方の面側でかつ前記第一方向に沿って延びるとともに、前記第二移動側永久磁石が取り付けられた第二取付部と、
前記第一取付部および前記第二取付部を互いに連結する連結部とを備え、
前記第一取付部と、前記第二取付部と、前記連結部とで、前記移動方向規制部を構成している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の推力発生機構。」
第3 拒絶の理由
令和3年6月23日付けで当審が通知した拒絶の理由のうち、理由1(実施可能要件)の概要は、次のとおりのものである。
この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2,3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないため、この出願は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
1.実施可能要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号には、発明の詳細な説明の記載について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることと規定されているところ、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
2.本願発明について
本願発明の「推力発生機構」(物の発明)に関し、本願の発明の詳細な説明には、「【0031】次に、上述した構成に基づき、本実施形態の作用を説明する。まず、図1(a)及び図4(a)に示すように、第一永久磁石3に対して移動体5を配置する(セット状態にする)。このとき、図1(b)に示すように、第一永久磁石3の中心線CL2と、第二永久磁石17等の中心線CL1及び第三永久磁石23等の中心線CL3とが一致し、この移動体5が矢印Aで示す第一方向に移動する。【0032】このように、移動体5の左右のスライド部7、9が、上記固定機能及び上記維持機能を有しているとともに、移動体5の左右の起立部11、13及び接続部15が上記規制機能を有しているので、移動体5が移動することができる。」(下線は当審で付与した。以下、同様である。)と記載されており、図4(a)に示された状態において、矢印Aで示す方向に移動体5が移動する旨が記載されている。
そこで、図4(a)の状態において、矢印A方向に生じる力を、以下の参考図を用いて検討する。
(参考図)
[図:0001380857000001.jpg]
前記参考図において、第三永久磁石27(本願発明の「第一移動側永久磁石」又は「第二移動側永久磁石」)のN極(前記参考図の黒色の極)の中心の1点に着目すると、第一永久磁石3(本願発明の「不動側永久磁石」)のN極(前記参考図の黒色の極)から、第三永久磁石27のN極の当該中心の点に働く斥力は、概略、矢印A方向の上流側から働く斥力ア、前記参考図のB方向に働く斥力イ、矢印A方向の下流側から働く斥力ウで表すことができる。そして、斥力アの矢印A方向の分力(以下、矢印A方向を正方向とする軸を「A軸」といい、A軸と平行な分力を「A軸分力」という。)と、斥力ウのA軸分力とは相殺されるため、第一永久磁石3のN極から、第三永久磁石27のN極の当該中心の点に働く斥力は、全体としてB方向のみに働き、A軸の方向に働くことはない(なお、このB方向に働く斥力も、第一永久磁石3のS極から、第二永久磁石21のS極の中心の点に働く斥力により相殺される。)。
そして、第三永久磁石27のN極の中心の点のみならず、当該N極の他の点においても同様に、斥力がA軸の方向に働くことはなく、さらには、第三永久磁石23,25のN極、第二永久磁石17,19,21のS極においても同様であるから、これら第二永久磁石17,19,21及び第三永久磁石23,25,27が取り付けられた移動体5に対して、第一永久磁石3からの斥力がA軸の方向に働くことはないと解される。
したがって、図4(a)の状態において、矢印Aで示す方向に移動体5は移動しないものと解される。
一方、本願の発明の詳細な説明には、前記した段落【0031】、【0032】に、図4(a)に示された状態において、矢印Aで示す方向に移動体5が移動する旨が記載されているのみであって、この移動が生じる理由や、その理論的な裏付け又は実験的な裏付けについて何ら記載されておらず、また、このような移動が生じることを、当業者が、本願の出願時における技術常識から把握できるともいえない。
そうすると、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、本願発明の「推力発生機構」を、移動が生じるように、すなわち推力を発生する機構として製造し、使用することができるとはいえない。また、仮に、特定の条件が満たされる場合に、推力を発生する機構として、当該「推力発生機構」を製造し、使用することができるとしても、発明の詳細な説明にはその特定の条件が示されていないから、この製造、使用には、過度の試行錯誤が必要であるといえる。
3.請求人の主張について
請求人は、令和3年8月27日提出の意見書の「(3)<理由1>について」において、「拒絶理由通知において、図4(a)の状態においてなぜ推力を発生させるかについて、拒絶理由通知において審判官殿に添付いただいた図のうち、右側の図を基に説明する。
まず、この右側の図では、斥力イは、第一永久磁石3の側面に垂直な方向(図において右方向)となっているが、これは、第一永久磁石3と第三永久磁石27とが平行の関係にあり、第一永久磁石3と第三永久磁石27のそれぞれの斥力の方向が互いに対向する関係にある場合に成立するものであるが、この右側の図のように、第一永久磁石3に対して第三永久磁石27が傾斜している状態では成立しない。具体的には、第三永久磁石27は、第一永久磁石3に対して傾斜しているため、第一永久磁石3の点Yからの斥力は上記右方向(図における斥力イと同方向)となる一方で、第三永久磁石27の斥力イは、第三永久磁石27の側面に垂直な方向であり、斥力イに対して交差する方向(概して、図における斥力イと斥力ウとの間の斜め方向)となる(以後、この斜め方向の斥力については、上記斥力イと区別するため、斥力Aというものとする)。
そして、この斥力Aは、第三永久磁石27における上流側(図で見て下方側)よりも、下流側(図で見て上方側)の方が強い(下流側の方が、上流側よりも第一永久磁石3との距離が短いため)ため、矢印Aで示す方向に分力が働くとともに、移動体5の移動方向が矢印Aに沿う方向に規制されているため、面接の場において実際に見ていただいた通り、移動体5が矢印A方向に移動することとなる。」(下線は当審で付与した。)と主張している。
請求人のこの主張によると、第三永久磁石27が、第一永久磁石3に対して傾斜しているため、第一永久磁石3の点Yからの斥力の方向と、第三永久磁石27の斥力の方向とが交差するとのことであるが、第三永久磁石27と第一永久磁石3との間に働く斥力は、第三永久磁石27と第一永久磁石3との相互に作用するものであるから、両者に対して同じ方向に働くものと解される。すると、第一永久磁石3の点Yからの斥力の方向と、第三永久磁石27の斥力Aの方向とが交差する、つまり両者の方向が異なるとする理由が不明であるし、第三永久磁石27の斥力Aの方向が、第三永久磁石27の側面に垂直な方向であるとする理由も不明である。そして、前記2で示したように、第三永久磁石27のN極における中心の点等、各点に働く、第一永久磁石3のN極からの斥力を考慮すると、第三永久磁石27が、第一永久磁石3に対して傾斜しているとしても、第三永久磁石27に働く斥力の方向は、第三永久磁石27の側面に垂直な方向にはなり得ないと解される。
また、仮に、請求人が主張するように、第三永久磁石27の斥力Aが、第三永久磁石27の側面に垂直な方向に働くとしても、この斥力Aは、「概して、図における斥力イと斥力ウとの間の斜め方向」に働くとのことであるから、斥力AのA軸分力は、矢印A方向とは逆の方向に向くこととなり、移動体5が矢印A方向に移動するという説明とは整合していない。
さらに、「斥力Aは、第三永久磁石27における上流側(図で見て下方側)よりも、下流側(図で見て上方側)の方が強い(下流側の方が、上流側よりも第一永久磁石3との距離が短いため)ため、矢印Aで示す方向に分力が働く」という主張についても、前記参考図の記載によると、第三永久磁石27における下流側(図で見て上方側)の方が、上流側(図で見て下方側)よりも第一永久磁石3との距離が長いから、請求人の前記主張は、参考図の図示内容と整合していない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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