2020-017506
複合部材およびこれからなる切削工具
- 審判番号
- 2020-017506
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-150496外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年12月22日
- 審決日
- 2022年06月06日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】三菱マテリアル株式会社
- 【請求人代理人】木村 孔一
- 【請求人代理人】山田 靖
- 【請求人代理人】影山 秀一
- 分類
- P18 .121-WY (C22C) / P18 .536-WY (C22C) / P18 .537-WY (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、平成28年 7月29日の出願であって、令和 2年 2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年 4月11日に意見書、手続補正書が提出され、同年 9月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月22日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに上申書が提出され、令和 3年12月 3日付けで当審から拒絶理由が通知され、令和 4年 1月20日に意見書、手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明4」とい、これらを総称して「本願発明」という。)は、令和4年 1月20日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は補正箇所を示している。
「【請求項1】鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層が設けられている複合材料であって、(a)前記WC基超硬合金層は、50μm以上1000μm以下の最大厚さを有し、(b)前記WC基超硬合金層表面を含む任意の縦断面を観察した場合、WC粒子が占める面積割合は、前記WC基超硬合金層の面積の50%以上であり、続きを表示(全12行)(c)前記WC基超硬合金層表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において縦断面を観察し、前記WC基超硬合金層におけるWC粒子について、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合をX面積%とした場合、アスペクト比が2以上のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合Y%は、0.5X≦Y≦2Xを満足することを特徴とする複合材料。【請求項2】請求項1に記載の複合材料において、前記WC基超硬合金層の結合相は、Feを20原子%以上50原子%以下含有し、前記WC基超硬合金層の硬さは、前記鉄鋼系材料との界面側から前記WC基超硬合金層表面に向かって漸次増加する硬さプロファイルを備え、かつ、前記WC基超硬合金層の最表面におけるビッカース硬さHVは1500以上2000以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。【請求項3】前記複合材料において、前記WC基超硬合金層を設ける以前の前記鉄鋼系材料の表面を基準面とした場合、前記WC基超硬合金層の最大侵入深さが前記鉄鋼系材料の基準面から内部へ20μm以上200μm以下に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料。【請求項4】請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合材料から構成されていることを特徴とする切削工具。」
第3 原査定の拒絶理由と当審から通知した拒絶理由の概要
1 原査定における拒絶理由の概要
理由1(進歩性)この出願の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1~2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2010- 596号公報
2.特開2011- 83822号公報
理由3(実施可能要件)この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 当審から通知した拒絶理由の概要
当審理由1(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
すなわち、請求項2の「前記WC基超硬合金層表面におけるビッカース硬さHVは1500以上2000以下である」との記載のうち、「WC基超硬合金層表面におけるビッカース硬さ」は、本願明細書の【0008】に基づいた次の(1)の解釈と、本願明細書の【0032】、【0044】、【0045】の記載に基づいた次の(2)の解釈の2通りの解釈が可能であり、そのいずれを意味するのか不明である。
(1)WC基超硬合金の最表面の硬さを意味する。
(2)2000倍の走査型電子顕微鏡を用いて取得された、鉄鋼系材料とWC基超硬合金層との界面近傍の画像において、鉄鋼系材料とWC基超硬合金層との界面からWC基超硬合金層側に、前記界面からWC基超硬合金層表面に向けてWC基超硬合金層を10等分するように、前記WC基超硬合金層を設ける以前の鉄鋼系材料の表面と平行方向に9本の線を引き、当該9本の線のうち、WC基超硬合金層表面側の3本の線について求めた硬さの平均値(「表面側硬さ」)のことを意味する。
第4 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号(明確性、当審理由1)について
令和4年 1月20日提出の手続補正書によって、請求項2に記載されていた「前記WC基超硬合金層の表面におけるビッカース硬さHVは1500以上2000以下である」は、「前記WC基超硬合金層の最表面におけるビッカース硬さHVは1500以上2000以下である」と補正された。なお、この補正は、本願明細書の段落【0008】の記載「また、前記WC基超硬合金層の硬さを、その厚さ方向に向かって漸次増加させることによって、WC基超硬合金層の最表面では、1500~2000HVの硬さを得られることを見出したのである。」等に基づくものである。
したがって、補正前の「WC基超硬合金層の表面におけるビッカース硬さ」とは、
(2)2000倍の走査型電子顕微鏡を用いて取得された、鉄鋼系材料とWC基超硬合金層との界面近傍の画像において、鉄鋼系材料とWC基超硬合金層との界面からWC基超硬合金層側に、前記界面からWC基超硬合金層表面に向けてWC基超硬合金層を10等分するように、前記WC基超硬合金層を設ける以前の鉄鋼系材料の表面と平行方向に9本の線を引き、当該9本の線のうち、WC基超硬合金層表面側の3本の線について求めた硬さの平均値(「表面側硬さ」)のことではなく、(1)WC基超硬合金の最表面における硬さを意味することが明らかになった。
よって、当審で通知した明確性に関する拒絶理由は解消した。
2 特許法第29条第2項(進歩性、理由1)について
(1)引用文献及び引用発明
ア 引用文献1について
(ア)引用文献1の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。(なお、「…」は記載の省略を表す。また、下線は当審による。以下同様。)
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具のブレードを製造する方法において、該方法が、
硬質材料により被覆された鋼帯を形成するために、前記硬質材料を含む混合物を移動可能な鋼帯の縁部に被着させる工程と、
前記硬質材料により被覆された鋼帯の前記縁部を研削する工程と、
前記研削する工程に続いて、前記硬質材料により被覆された鋼帯から個々のブレードを形成する工程と
を含む、ブレードを製造する方法。
【請求項2】
…
【請求項3】
前記被着させる工程が、
前記鋼帯の一部分を融解させるために、前記移動可能な鋼帯を放射線ビームで照射する工程と、
前記硬質材料及び結合剤元素を含む前記混合物を前記鋼帯の融解部分に供給する工程とを含む、請求項1に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項4】
前記放射線ビームがレーザーによって形成される、請求項3に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項5】
…
【請求項7】
前記結合剤がコバルト結合剤である、請求項3に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項8】
前記硬質材料が炭化タングステンである、請求項1に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項9】
空隙を含まない硬質材料の被着体を形成するために、前記硬質材料及び前記結合剤元素の前記混合物が前記鋼帯の前記融解部分に供給される、請求項3に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項10】
前記硬質材料及び前記結合剤元素の前記混合物が、照射の間、前記鋼帯の前記融解部分に供給される、請求項3に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項11】
…
【請求項12】
前記鋼帯上の前記硬質材料の被着体の厚さが、前記融解部分への前記硬質材料及び前記結合剤元素の前記混合物の供給速度、又は前記硬質材料及び前記結合剤元素の前記混合物の粒径、又は前記鋼帯と前記放射線ビームとの相対的変位速度、或いはその任意の組み合わせを調整することによって制御される、請求項3に記載されたブレードを製造する方法。
【請求項13】
前記ブレードの母材上の前記硬質材料の被着体の厚さが約1mm未満である、請求項3に記載されたブレードを製造する方法。」
(1b)「【0002】
本発明は、切削工具のブレード(刃)を製造する方法に関するものである。
…
【0004】
本発明の1つの観点によれば、縁部に硬質被覆が被着されたブレードを製造する方法を含む。この方法は、硬質材料、例えば炭化タングステンを切削工具の縁部被着させる工程と、次に、刃付け後に表面全体が硬質材料、例えば炭化タングステンでできたものとなるように刃付けする工程とを含む。
【0005】
本発明の1つの観点によれば、切削工具のブレードを製造する方法が提供され、その方法は、硬質材料(例えば、炭化タングステン)を被覆された鋼帯を形成するため、硬質材料、例えば炭化タングステンを含む混合物を、移動可能な鋼帯の縁部に被着させる工程と、硬質材料(例えば、炭化タングステン)を被覆された鋼帯の縁部を研削する工程と、硬質材料(例えば、炭化タングステン)を被覆された鋼帯から個々のブレードを形成する工程とを含む。」
(1c)「【0020】
次に、急冷された鋼帯のコイルは、ステップ90aで、硬質材料(例えば、炭化タングステン)の被覆を鋼帯の縁部に付与するように構成された、硬質材料(例えば、炭化タングステン)被着ステーションに連続的に供給される。硬質材料は、鋼帯よりも著しく大きな硬さを有する。本発明の一実施例では、硬質材料の硬さは少なくとも60Rcである。本発明の一実施例では、硬質材料の硬さは約70?80Rcの範囲である。
…
【0023】
図3を再び参照すると、放射線源305は、鋼帯200を融解するのに十分な出力及びエネルギーを有する放射線ビームを出力するように構成される。一実施例では、放射線源は、波長が数マイクロメートルの赤外(IR)範囲の放射線ビームを出力するレーザーである。使用できるIRレーザーの一例は、主波長帯が約9.4~10.6マイクロメートル付近を中心とするCO2レーザーである。CO2レーザーの出力は、約数キロワットの範囲、例えば1~8キロワットであってもよい。一実施例では、CO2レーザーの出力は約6キロワットである。或いは、本発明の別の実施例では、例えば波長が400nm未満のUVレーザーなどの紫外(UV)範囲で動作するレーザーも使用できる。UVレーザーの例としてはエキシマー・レーザーが挙げられる。
…
【0025】
放射線源305によって出力される放射線ビーム355は、移動している鋼帯200の縁部にビームを集束させるように構成された投射系325に向けられる。鋼帯200の縁部201に集中された投射ビーム355のエネルギーは、鋼帯の目標部分と、供給粉末342中の結合剤(使用される場合)とを融解するために使用される。投射系325は、放射の方向付け、形付け、或いは制御を行うために、屈折型、反射型、磁気型、電磁型、静電型、若しくは他のタイプの光学部品、又はそれらの任意の組み合わせなど、様々なタイプの光学部品を含むことができる。
…
【0027】
放射線源305と鋼帯200との間に配置されたディスペンサー、即ち被着ヘッド320は、硬質材料(例えば、炭化タングステン)と結合剤元素との混合物342を鋼帯200の薄い縁部201に供給するように構成される。ディスペンサー320は、放射線ビーム355が通り抜けることができるように、全体として中空の形状を有する。」
(1d)「【0040】
作動中は、鋼帯200の薄い縁部201は放射線ビーム355下で連続的に移動される。次に図6を参照すると、この図面は、被着プロセス中の鋼帯200の図を概略的に示す。x方向は、被着中の鋼帯200の移動方向を表す。図6に示されるように、鋼帯200の薄い縁部201を照射することによって、放射線ビーム355の焦点Fにおいて溶融池365が作られる。混合物342の粒子367は、ディスペンサー320によって放出され、重力の作用を受けて溶融池内に自由落下する。粒子367は、鋼帯200上に落下しながら、放射線ビーム355によって照射され融解される。その結果、ほぼ全ての粒子367は、溶融池365に達するときに既に融解している。
【0041】
結合剤元素は、硬質材料(例えば、炭化タングステン)を溶融池の融解材料に結合させるように選択される。粒子367と鋼帯200との結合は全て、溶融池内の硬質材料(例えば、炭化タングステン)/結合剤元素の凝固によって達成される。これによって、硬質材料(例えば、炭化タングステン)/結合剤の空隙を含まない被着体が鋼帯200上に形成される。本発明の一実施例で使用できる結合剤の一例としては、コバルトが挙げられる。しかし、これは限定的なものではない。本発明の他の実施例では、追加の結合剤を使用できることが想到される。
【0042】
被着物の厚さは、粒子の供給速度、粒径、放射線源の照射設定(例えば、放射パルスのエネルギー、出力、周波数)、及び集束された放射線ビーム355の下を鋼帯200が通過する速度によって制御される。これらのパラメータは、コントローラ345によって入力され制御される。被着物の厚さは測定装置351によって測定される。
【0043】
鋼帯200の変位速度は、被着物の厚さが常に規格内に留まっているように制御される。鋼帯200の速度は、放射線ビームの特性(例えば、パルスの波長及び周波数、エネルギー及び出力)、焦点のサイズ、並びに鋼帯200を構成する材料に応じて変えることができる。
【0044】
次に図7を参照すると、この図面は、単一のヘッド又はノズルを使用して混合物342を被着させた後の鋼帯200の概略図を示す。この図で分かるように、混合物342の単層202が鋼帯200の薄い縁部201に被覆される。図8は、複数のヘッド又はノズルを使用して異なる混合物を被着させた後の鋼帯200の概略図を示す。この実施例では、2つのヘッドが使用され、各ヘッドは異なる混合物組成を供給するように構成される。図8に示されるように、2つの層203a~bが鋼帯200の薄い縁部201に被覆される。同じ又は異なる混合物組成を有する2つを超える層を、薄い縁部201に被覆できることが理解されるであろう。更に、層はそれぞれ、異なる被着ヘッド又はノズルにより被覆できる。」
(1e)「【図3】
[図:0001385655000001.jpg]
【図6】
[図:0001385655000002.jpg]
【図7】
[図:0001385655000003.jpg]
」
(イ)引用発明
上記(ア)より、引用文献1には、鋼帯の縁部を硬質材料で被覆することにより形成した切削工具のブレードが記載されており、そして、このブレードは次の方法によって製造される。すなわち、放射線源305によって出力される放射線ビーム355(IRレーザー)は集束されて鋼帯200の縁部201に投射され、鋼帯の目標部分と、供給粉末342中の結合剤を融解し(【0023】、【0025】)、放射線ビーム355の焦点Fにおいて溶融池365が作られ(【0040】、【図6】)、硬質材料(炭化タングステン)と結合剤元素(コバルト)の混合物342の粒子367は、ディスペンサー320によって放出され、溶融池内に自由落下しながら、放射線ビーム355によって照射されほぼ全ての粒子が融解されることで(【0040】、【0041】)、鋼帯200の縁部201に混合物304が被着され混合物の単層202が形成される(【0044】、【図7】)。当該被着された混合物の単層の厚さは1mm未満である(【請求項13】)。
したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「硬質材料である炭化タングステン及び結合剤元素であるコバルトの混合物の単層によって縁部が被覆された鋼帯であって、上記混合物の単層は、IRレーザーを上記鋼帯の縁部に投射し収束させて溶融池を作るとともに、上記混合物の粒子を前記溶融池に供給しながら上記IRレーザーを照射することによってほぼ全ての粒子が融解することによって形成されたものであり、上記混合物の単層は厚さが約1mm未満である、鋼帯。」
イ 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、部品、特にガスタービン部品、たとえばガスタービン翼を溶接する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの動翼は、運転時に高い温度と強い機械的負荷を受ける。したがってこのような種類のコンポーネントには、特に、γ’相の析出によって強化することができるニッケル基の超合金が使用される。それでも時間がたつと動翼に亀裂が生じる可能性があり、そうした亀裂は時間の経過とともにさらに広がっていく。このような亀裂は、たとえばガスタービン運転時の極端な機械的負荷に基づいて発生することがあり、あるいは、すでに製造プロセス中に生じることもある。タービン翼およびこのような種類の超合金からなるその他の部品の製造には高い費用がかかり、コストが集中するので、製造時の不良品をできるだけ少なくしながら製造をするとともに、製造された製品の長い耐用寿命を確保する努力がなされている。
【0003】
稼働しているガスタービン翼は定期的に保守整備され、運転に起因する負荷に基づいてそのままでは機能を確保することができなくなると、場合により交換される。交換されたタービン翼を引き続いて使用することを可能にするために、このタービン翼はふたたび可能な限り再処理され、そのようにして、あらためてガスタービンで使用できるようになる。このような種類の再処理作業においては、たとえば当初の壁厚を回復させるために、損傷した領域での肉盛溶接が必要になることがある。
【0004】
すでに製造プロセスにおいて亀裂を生じたタービン翼も、たとえば肉盛溶接によって使用可能にすることができ、それにより、製造時の不良品を減らすことができる。
【0005】
しかしながらγ’硬化されたニッケル基超合金は、同種類の溶加材による従来式の溶接方法によっては、現在のところ溶接することが困難である。その原因は、ミクロ偏析すなわち溶融物のミクロな成分分離を防止しなくてはならないことにある。さらに溶接プロセス自体が、後続する熱処理中に溶接部での亀裂生成につながることがある。その原因は、溶接をするときの熱注入中の可塑変形による溶接残留応力である。」
(2b)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、特にγ’硬化されたニッケル基超合金に適しており、上に挙げた欠点を有しておらず、もしくは低い程度にしか有していない、肉盛溶接をするための上記に代わる溶接方法が求められている。本発明のさらに別の課題は、本発明の方法を実施するのに適した溶接装置を提供することにある。」
(2c)「【0015】
本発明による方法は、たとえばγ’含有のニッケル基超合金からなる部品を、γ’を形成するニッケル基超合金材料である溶加材によって溶接するのに適している。その場合、同一種類の溶加材を使用することによって溶着金属における高い強度が実現され、是認できる溶接品質すなわち非常に少ない数の亀裂と非常に短い平均亀裂長さが実現される。局所的に融液浴に接している保護ガス雰囲気によって室温で溶接プロセスを行うことが可能なので、本発明による溶接方法は高い経済性を実現する。」
(2d)「【0022】
本発明の溶接装置は、本方法の枠内で説明した溶接パラメータ、たとえば一方の熱源および供給装置と他方の部品との間の相対運動の軌道、プロセス速度、レーザ出力、ビーム直径などを溶接プロセスについて備えている制御プログラムを利用することで、本発明による溶接方法の実施を可能にする。本方法の枠内で説明した方法パラメータおよびメカニズムは、基礎材料や溶融物に凝固亀裂や再溶融亀裂のような亀裂が形成されるのを抑制するのに役立つ。このことは、特に、基礎材料と溶加材が両方ともγ’形成ニッケル基超合金である場合にも成り立つ。その結果として、たとえばタービン翼その他の部品の高い負荷を受ける領域での補修や接合の目的のために構造的な溶接について是認することができる、本発明の方法および本発明の溶接装置により生成可能な溶接の品質が得られる。」
(2e)「【0036】
コンポーネントの材料、特にタービン翼120,130及び燃焼室110のコンポーネントの材料として、たとえば鉄基の超合金、ニッケル基の超合金、またはコバルト基の超合金が用いられる。
このような超合金は、たとえば欧州特許第1204776B1号明細書、欧州特許第1306454号明細書、欧州特許出願公開第1319729A1号明細書、国際公開第99/67435号パンフレット、国際公開第00/44949号パンフレットから知られている。」
(2f)「【0072】
図4は、本発明による溶接装置1を大幅に模式化した図面で示している。
【0073】
この装置は、レーザ3と、部品9の溶接されるべき領域へ粉末状の溶加材を投入することができる粉末供給装置5とを備えている。レーザ放射により、熱注入ゾーン11が部品表面に形成され、そこへ粉末13も粉末供給装置5により投入される。レーザは300Wレーザであるのが好ましく、特にNd-YAGレーザであり、さらには特に波長λ=1.06μmである。レーザ出力は100Wから300Wの間であり、好ましくは100Wから200Wの間であり、さらには特に100Wから150Wの間である。そのようにして溶接材料が良好に溶融するとともに下地も溶融するという利点があり、それによって稠密な溶接個所が得られる。
【0074】
レーザ3と粉末供給装置5は、溶接されるべき領域7をもつコンポーネント表面に沿って2つの次元(図4のx方向とy方向)でのレーザ3および粉末供給装置5の移動を可能にするスキャン装置(または搬送装置)15に配置されている。プロセス速度は少なくとも250mm/minであり、特に400mm/min~600mm/min、さらには特に500mm/minである。そのようにして、溶接材料と基材への好ましい熱注入が可能である。さらに本実施例のスキャン装置15は、コンポーネント表面に対して垂直方向(図4のz方向)へのレーザ3と粉末供給装置5のスライドも可能にする。このように、スキャン装置15を用いて、熱注入ゾーンと粉末の付着ゾーンを所定の経路に沿って移動させることができる。スキャン装置としては、たとえばロボットアームを利用することができる。レーザビームの直径は特に500μmから700μmであり、さらには特に600μmである。それにより、供給される溶接材料を好ましく加熱することができる。」
(2g)「【0078】
溶接されるべき領域7に第1の層を肉盛溶接するときに熱注入ゾーン11と粉末13の付着領域が進む経路P1が、図5に模式的に示されている。この図面は、溶接されるべき領域7と、第1の層19を肉盛溶接するときの溶接方向S1とともに、タービン翼9を示している。ただし、同時に粉末13の付着領域でもある熱注入ゾーン11は、溶接方向S1に沿って直線的にスライドするのではなく、溶接方向に沿った移動中に、同時に、溶接方向に対して垂直方向へ振動する。それにより、熱注入ゾーン11と粉末13の付着領域は、溶接されるべき領域7にわたって蛇行した経路P1を描く。
【0079】
第2の層21(図4)の肉盛溶接のために、レーザ3と粉末供給装置5はスキャン装置15のz方向へわずかに移動する。さらに本実施例では、溶接方向S2は、第1の層の溶接方向S1に対して90°だけ回転する。第2の層21を肉盛溶接するときの熱注入ゾーン11および粉末13の付着領域の経路P2が、図6に示されている。第2の層21の肉盛溶接のときにも、熱注入ゾーン11は粉末13の付着領域とともに、溶接方向S2に対して垂直な方向へ振動する。したがって全体として、熱注入ゾーン11と粉末13の付着領域の蛇行した経路P2が、溶接されるべき領域7にわたって生じる。」
(2h)「【図4】
[図:0001385655000004.jpg]
」
(2)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「硬質材料である炭化タングステン及び結合剤元素であるコバルトの混合物の単層」は、本願発明1の「WC基超硬合金層」に相当する。
b 引用発明の「硬質材料である炭化タングステン及び結合剤元素であるコバルトの混合物の単層によって縁部が被覆された鋼帯」は、「鋼帯」が「鉄鋼系材料」であり、「縁部」は「鋼帯」表面の一部であるといえるから、上記aの検討を踏まえると、本願発明1の「鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層が設けられている複合材料であ」ることに相当する。
c 引用発明において、「硬質材料である炭化タングステン及び結合剤元素であるコバルトの混合物の単層」は「IRレーザーを上記鋼帯の縁部に投射し収束させて溶融池を作るとともに、上記混合物の粒子を前記溶融池に供給しながら上記IRレーザーを照射することによってほぼ全ての粒子が融解することによって形成されたもの」であるところ、上記混合物はIRレーザーによっていったん融解された後で、冷却し固化することは明らかであるが、当該固化する過程で上記単層中にどのような組織が生成するかは不明である。したがって、「混合物の単層」中に「WC粒子」が含まれているかは不明であるし、仮に「WC粒子」が含まれていたとしても、その面積割合や、異なるアスペクト比のWC粒子の面積割合の比がどのようなものになっているかは不明である。
してみると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層が設けられている複合材料」の点。
<相違点1>
本願発明1は、「WC基超硬合金層」の「最大厚さ」が「50μm以上1000μm以下」であるのに対して、引用発明は、「混合物の単層は厚さが約1mm未満である」点。
<相違点2>
本願発明1は、「(b)前記WC基超硬合金層表面を含む任意の縦断面を観察した場合、WC粒子が占める面積割合は、前記WC基超硬合金層の面積の50%以上」であり、「(c)前記WC基超硬合金層表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において縦断面を観察し、前記WC基超硬合金層におけるWC粒子について、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合をX面積%とした場合、アスペクト比が2以上のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合Y%は、0.5X≦Y≦2Xを満足する」ものであるのに対し、引用発明は、「混合物の単層」において、WC粒子が含まれるか不明であり、仮に、WC粒子が含まれていたとしても、その占める面積割合が不明であり、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子の面積割合Xと、アスペクト比2以上のWC粒子の面積割合Yとが、「0.5X≦Y≦2X」なる関係式を満足するか否かについても不明である点。
(イ)相違点についての判断
a 事案に鑑み、相違点2について検討する。
引用発明において混合物の単層を形成するために、硬質材料である炭化タングステン及び結合剤元素であるコバルトの混合物の粒子はほぼ完全に融解される。これは、上記混合物の粒子を融解するためのIRレーザーが、1~8kWという高出力のレーザーであることによって可能となっているものと考えられる(【0023】)。このような高出力のレーザーを使用している限り、炭化タングステンの粒子とコバルトはほぼ全てが融解して合金を形成すると考えられ、炭化タングステン粒子が元の形状や大きさを維持することはなく、融解後冷却し固化した際に炭化タングステン粒子を含む組織が形成されるともいえない。
b 一方、本願明細書において、本願発明1の上記(b)や(c)の特徴を備えたWC基超硬合金層の製造条件がどのようなものであるかを確認すると、本願明細書の【発明の詳細な説明】には以下の記載がある。
「【0008】本発明者等は、上述のような観点から、タングステン使用量の低減を図るとともに、硬度、靱性(曲げ強度)にすぐれたWC基超硬合金と鉄鋼系材料からなる複合材料について鋭意検討したところ、鉄鋼系材料をレーザー照射により融解し、融解した鉄鋼系材料にWC基超硬合金粉末を分散させ、鉄鋼系材料上にWC基超硬合金層を形成するにあたり、レーザー照射条件(レーザー出力、レーザースポット径、走査速度)を適切にコントロールし、WC基超硬合金層における所定のアスペクト比のWC粒子を所定の面積割合で形成することにより、WC基超硬合金層の硬度、靱性(曲げ強度)を高め得ることを見出したのである。また、前記WC基超硬合金層の硬さを、その厚さ方向に向かって漸次増加させることによって、WC基超硬合金層の最表面では、1500?2000HVの硬さを得られることを見出したのである。さらに、前記WC基超硬合金層を、鉄鋼材料内部に所定の深さ侵入するように形成することにより、靱性(曲げ強度)をさらに高め得ることを見出したのである。そして、前記複合材料によって切削工具を構成することにより、この切削工具は、硬度、靱性にすぐれるため、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。」
「【0023】本発明の複合材料は、例えば、レーザー肉盛法によって作製することができる。まず、WC基超硬合金層を形成する鉄鋼系材料の所定位置に対してレーザー照射を行い、該位置の鉄鋼系材料を溶融させてプールを形成し、該プールに向けて所定成分組成のWC基超硬合金粉末を吹きつけ、該プールにおいて溶融した鉄鋼系材料でWC基超硬合金を希釈・溶融し、その後、これを冷却し、さらにこの操作を複数回繰り返し行うことにより、本発明で規定するWC基超硬合金層(厚さ、WC粒子の面積割合、所定アスペクト比率のWC粒子、結合相成分組成、硬さプロファイル、最大浸入深さ)が、鉄鋼系材料の表面の一部または全部に設けられた、すぐれた硬さと靱性を有する複合材料を作製することができる。なお、レーザー肉盛操作を繰り返し行う場合には、レーザー照射によって、鉄鋼系材料は溶融させず、直前に形成したWC基超硬合金層のうちの、結合相のみを溶融させることが好ましい。なお、レーザー照射に際して、鉄鋼系材料にクラックを発生させないため、大出力、大スポット径の照射は避けるべきであって、レーザー出力100~300W、スポット径0.1~2mm程度の低エネルギー照射が望ましい。」
「【0029】表1に示す成分組成の鉄鋼系材料の表面に、表2に示す本発明条件にてレーザーを照射し、レーザー照射箇所に表3に示す配合組成からなる造粒-仮焼したWC基超硬合金粉末を表2に示す条件で投射し、この操作を、表2に示す回数繰り返し行い、鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層を形成することにより、表4に示す本発明の複合材料1~12(本発明複合材料1~12という)を作製した。なお、レーザー照射条件は、いずれも、レーザー出力100~300W、スポット径0.1~2.0mm、操作速度500~2000mm/min、繰返し肉盛回数1~10回の範囲内である。なお、本発明複合材料1の縦断面概観組織とWC基超硬合金層内の組織を図3に示す。」
c 上記bで引用した本願明細書の記載によれば、本願発明1の「WC基超硬合金層」を製造する際のレーザー出力は「100~300W」と比較的小さいものであり、このような低出力のレーザーは、クラックの発生を防止するとともに、融点の低い結合相を溶融させる一方で、融点の高いWC基超硬合金粉末は溶融し難いようにしていると考えられる。また、レーザー出力以外にも、本願発明1の「WC基超硬合金層」を製造する際のレーザー照射条件が「スポット径0.1~2.0mm、操作速度500?2000mm/min、繰返し肉盛回数1~10回の範囲内」であると記載されており、これらの照射条件を適宜調整することにより、WC基超硬合金層において、WC粒子の占める面積割合を所定の範囲としたり、アスペクト比の異なる粒子の面積割合X、Yの比を特定の範囲とすることができることが理解される。なお、このことは、本発明の複合材の測定結果を表した【表4】と比較例の複合材料の測定結果を表した【表6】において、同一材料(例えば種別1の鉄鋼系材料種別記号AとWC基超硬合金粉末種別A)に対して異なる肉盛種別(Aとa)(【表2】、【表5】参照)を採用した場合に、異なるX、Yの値となることからも理解される。
[図:0001385655000005.jpg]
[図:0001385655000006.jpg]
[図:0001385655000007.jpg]
[図:0001385655000008.jpg]
d 一方、引用文献1には、レーザー照射条件を「レーザー出力100~300W、スポット径0.1~2.0mm、操作速度500~2000mm/min、繰返し肉盛回数1~10回の範囲内」とすることは記載も示唆もされておらず、一般に、金属への加熱条件(加熱時の状態)や冷却条件が異なれば、同じ組織が生じるとはいえないことが技術常識であることも踏まえると、引用発明において、上記レーザー照射条件を採用することが当業者にとって容易になし得たことであるとはいえないし、当該レーザー照射条件を採用した結果得られる「混合物の単層」を「WC基超硬合金層表面を含む任意の縦断面を観察した場合、WC粒子が占める面積割合は、前記WC基超硬合金層の面積の50%以上」であり、「WC基超硬合金層表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において縦断面を観察し、前記WC基超硬合金層におけるWC粒子について、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合をX面積%とした場合、アスペクト比が2以上のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合Y%は、0.5X≦Y≦2Xを満足する」複合材料とすること、すなわち、相違点2に係る本願発明1の特定事項を備える複合材料とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるともいえない。
e 次に、引用文献2の記載に基づいて検討する。
引用文献2は「γ’含有のニッケル基超合金からなる部品を、γ’を形成するニッケル基超合金材料である溶加材によって溶接する」(【0015】)ことに適しているものである。そのため、引用文献2には、鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層を設けることは記載されておらず、WC基超硬合金層の最大厚さ、WC粒子の面積割合、異なるアスペクト比のWC粒子が占める面積比率の関係についても何ら開示されていない。
また、引用文献2には、部品を溶接する技術に関し、溶接時のレーザー照射条件について「レーザ出力は100Wから300Wの間」(【0073】)、「プロセス速度は少なくとも250mm/minであり、特に400mm/min~600mm/min」及び「レーザビームの直径は特に500μmから700μm」(【0074】)「第2の層21を肉盛溶接する」(【0079】)とすることが記載されており、これらのレーザー照射条件は、本願明細書に記載されたレーザー照射条件である「レーザー出力100~300W、スポット径0.1~2.0mm、操作速度500~2000mm/min、繰返し肉盛回数1~10回の範囲内」と重複している。
しかしながら、引用発明は「鋼帯」に「硬質材料である炭化タングステン/結合材(コバルト)」をレーザー照射によって被着させて「切削工具のブレードを製造」するものである一方、引用文献2に記載される技術は、亀裂を生じたタービン翼を肉盛溶接によって修復する技術に関するものであり、引用発明とは異なる技術分野に属するものである上に、レーザー肉盛溶接を行う材料も目的も全く異なる。
また、引用文献2に記載される技術は、亀裂を生じたタービン翼を肉盛溶接によって修復する技術に関し、ガスタービン翼等の「γ’含有ニッケル基超合金」からなる「基材」に対して「溶加材」として主に「γ’形成ニッケル基超合金材料」を使用して肉盛溶接する際に「基礎材料や溶融物に凝固亀裂や再溶融亀裂のような亀裂が形成」されるという好ましくない現象を抑制するためのものであり、引用文献2に記載されたレーザー照射条件は、上記好ましくない現象を抑制するために最適化された条件であるところ、引用発明は「鋼帯」に「硬質材料である炭化タングステン/結合材(コバルト)」をレーザー照射によって被着させて「切削工具のブレードを製造」するものであり、引用発明が「γ’形成ニッケル基超合金である基礎材料や溶融物に凝固亀裂や再溶融亀裂のような亀裂が形成」される好ましくない現象を抑制するという引用文献2に記載された課題を有しないことは明らかである。
したがって、引用文献2に記載された技術は、引用発明とは異なる技術分野に属するものであり、課題の共通性がない上に、「基材」及び「溶加材」がそれぞれ「γ’含有のニッケル基超合金からなる部品」及び「γ’を形成するニッケル基超合金材料」であるのに対して、引用発明では「鋼帯」及び「硬質材料である炭化タングステン及び結合剤元素であるコバルトの混合物」であり、用いる金属の種類も異なるため、引用発明に引用文献2に記載されたレーザー照射条件を適用するための動機付けが存在しない。
e したがって、引用文献2の記載を参照しても、引用発明において、相違点2に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
f そして、本願の発明の詳細な説明に開示された発明例等が示すとおり、本願発明1は、「WC基超硬合金層」が「50μm以上1000μm以下の最大厚さ」を有し、「WC基超硬合金層表面を含む任意の縦断面を観察した場合、WC粒子が占める面積割合は、前記WC基超硬合金層の面積の50%以上」であり、「WC基超硬合金層表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において縦断面を観察し、前記WC基超硬合金層におけるWC粒子について、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合をX面積%とした場合、アスペクト比が2以上のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合Y%は、0.5X≦Y≦2Xを満足する」ことによって、「鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層が設けられ、すぐれた靱性とすぐれた硬さを相兼ね備えた複合材料を得ることができる。そして、この複合材料は、そのすぐれた靱性とすぐれた硬さを生かし、切削工具として好適に使用することができる。」という顕著な効果を奏する。
(ウ)小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本願発明2~4について
本願発明2~4は、本願発明1を引用することによって本願発明1の特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2~4は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 中括
以上のとおり、本願発明1~4は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件、理由3)について
(1)拒絶査定において、本願の請求項1~4に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、以下の点で、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとされた。
すなわち、本願の請求項1に、「アスペクト比が1以上2未満のWC粒子」や「アスペクト比が2以上のWC粒子」が記載されているところ、本願の図2(下段)や図3(下段)の画像において看取される粒子は、円形や楕円形のような整った形状ではなく、歪な形状であり、このような歪な形状の粒子についてどのような方法によってアスペクト比が算出されるかについて、発明の詳細な説明に記載されておらず不明である。
(2)本願明細書の記載
上記(1)の点に関して、本願明細書の記載を確認する。
「【0015】本発明において、前記WC粒子の面積割合、WC粒子のアスペクト比、Xの値、Yの値は、次の方法によって測定・算出する。まず、WC基超硬合金層の表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において、2000倍の走査型電子顕微鏡による縦断面の画像を取得し、この画像から、各WC粒子について面積割合とアスペクト比を求めるが、まず、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合を合計して、その値をXとする。ついで、アスペクト比が2以上のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合を合計して、その値をY%とし、前記Xの値とYの値が、不等式0.5X≦Y≦2Xを満足するか否かを判定する。また、前記2000倍の走査型電子顕微鏡により取得した画像全体の面積と、全てのWC粒子が占める面積を比較し、全てのWC粒子が占める面積割合を算出することにより、WC基超硬合金層に占めるWC粒子の面積割合を算出する。」
「【0029】表1に示す成分組成の鉄鋼系材料の表面に、表2に示す本発明条件にてレーザーを照射し、レーザー照射箇所に表3に示す配合組成からなる造粒-仮焼したWC基超硬合金粉末を表2に示す条件で投射し、この操作を、表2に示す回数繰り返し行い、鉄鋼系材料の表面の一部または全部にWC基超硬合金層を形成することにより、表4に示す本発明の複合材料1~12(本発明複合材料1~12という)を作製した。なお、レーザー照射条件は、いずれも、レーザー出力100~300W、スポット径0.1~2.0mm、操作速度500~2000mm/min、繰返し肉盛回数1~10回の範囲内である。なお、本発明複合材料1の縦断面概観組織とWC基超硬合金層内の組織を図3に示す。」
「【0031】また、本発明複合材料1~12について、2000倍の走査型電子顕微鏡によりWC基超硬合金層表面を含む任意の縦断面箇所の画像を取得し、画像全体の面積と、該画像中に存在する全てのWC粒子が占める合計面積とから、WC基超硬合金層に占めるWC粒子の面積割合を算出した。さらに、WC基超硬合金層の表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において、前記2000倍の走査型電子顕微鏡により縦断面箇所の画像を取得し、この画像から、各WC粒子についてのアスペクト比と面積割合を求め、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子の面積割合を合計して、その値をXとし、ついで、アスペクト比が2以上のWC粒子の面積割合を合計して、その値をYとし、前記Xの値とYの値が、不等式0.5X≦Y≦2Xを満足するか否かを判定した。」
「【図2】[図:0001385655000009.jpg]【図3】[図:0001385655000010.jpg]」
(3)当審の判断
上記(2)のとおり、本願明細書には、本願発明1の「WC基超硬合金層表面から、該層の厚さの1/5の内部深さまでの領域において縦断面を観察し、前記WC基超硬合金層におけるWC粒子について、アスペクト比が1以上2未満のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合をX面積%とした場合、アスペクト比が2以上のWC粒子が前記観察した縦断面の面積に占める面積割合Y%は、0.5X≦Y≦2Xを満足する」という特定事項に関し、WC粒子を2000倍の走査型電子顕微鏡により観察することが記載されているものの、WC粒子のアスペクト比の測定法が具体的に開示されていない。
しかしながら、発明の詳細な説明において請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かについては、当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合にどのように実施するかを理解できるか否かによって判断されるところ、請求人が審判請求書の「3.(3)理由3(特許法第36条第4項第1号)に対する請求人の主張」にて主張するように、粒子のアスペクト比が、当業者によって通常採用されるごく一般的な画像処理ソフトウェア(ソフトウェア名:「ImageJ」、パブリックドメインソフトウェア)を用いてごく普通に取得可能であることは、出願時の技術常識であるといえる。
そして、令和 2年12月22日に審判請求人が提出した上申書に添付された参考資料1によれば、前記画像処理ソフトウェア「ImageJ」は、歪な形状の粒子を楕円近似する機能を備えており、元の粒子に外接する最小長方形と長軸・短軸の方向、比率が同じで元の粒子と同じ面積の楕円を決定することができることが理解されるから、当業者は、前記画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いることにより、歪な形状のWC粒子に対しても近似された楕円形状を取得することができ、取得された当該楕円形状の長軸と短軸の長さに基いてアスペクト比を算出することが可能であるといえる。
以上の理由により、本願明細書の【発明の詳細な説明】にはWC粒子のアスペクト比の測定法が具体的に開示されていないものの、出願時の技術常識を考慮に入れれば、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1~4を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明1~4は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明1~4について、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
さらに、本願発明1~4について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。
したがって、原査定の拒絶理由と当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2020-017506