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特許拒絶査定不服審判

2020-015258

誘電体複合材料及びその製造方法

審判番号
2020-015258
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-128351外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年11月04日
審決日
2021年12月07日
公報発行日
2022年01月28日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (H01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-128351「誘電体複合材料及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開,特開2018- 6052,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。

結論

結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は,平成28年6月29日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年1月21日付け :拒絶理由通知書
令和2年3月6日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年9月16日付け :拒絶査定
令和2年11月4日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要

原査定(令和2年9月16日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1~9に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2~4に示される周知技術に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例一覧

1.特開平3-146653号公報

2.特開2007-149503号公報

3.特開2006-32326号公報

4.特開平11-261029号公報

第3 本願発明

本願の請求項1~9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」~「本願発明9」という。)は,令和2年3月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
以下の構成を備えた誘電体複合材料。
(1)前記誘電体複合材料は,
樹脂からなるマトリックスと,
前記マトリックスの内部に分散している無機化合物からなる誘電体相と
を備え,
前記誘電体相は,前記マトリックスの内部において,電極対向方向に連結している構造を持つ。
(2)前記誘電体複合材料は,前記樹脂からなるマトリックス粒子の周囲に前記無機化合物からなる被膜が形成された複合粒子の結合体からなる。
(3)前記無機化合物は,結晶子サイズが20nm以上である。」

なお,本願発明2~7は本願発明1を減縮した発明であり,本願発明8~9は本願発明1の発明特定事項を全て含む誘電体複合材料の製造方法の発明である。

第4 引用例の記載と引用発明

1.引用例1について

(1)引用例1の記載

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開平3-146653号公報)には,次の記載がある。

ア 「本発明の被覆粒子は,各種成型体,フィルム,シート,各種フィラーなどの素材として単独または他の基材と併用して用いられる。該被覆粒子を原料として加熱押し出し成型させた場合,その中核部を構成している有機高分子基材の熱変形に応じて外殻部を構成している結晶質の金属化合物が該基材と均一に密着しているため無理なく変形して成型体中に均等に分散して存在させることができる。従って,結晶質の金属化合物のもつ特性が成型体全体に渡って伝達される。」(2頁右下欄4行~13行)

イ 「従って,有機高分子基材は好ましくは平均粒子径1~10000μm,より好ましくは10~10000μmの粒子が好ましい。
本発明の被覆粒子は有機高分子基材の表面に結晶質の金属化合物を10~10000Åの範囲の厚みで均一な膜状に被覆してなる。」(3頁右上欄15行~20行)

ウ 「結晶質の金属化合物としてTiO2,BaTiO3,PbTiO3,PZT,PLZTなどの誘電性を有するものを用いて誘電性を付与した被覆粒子はコンデンサー,超音波探触子などの誘電性を要求される製品向けに特に有用である。このような用途向けには,被覆粒子を直径20mm,高き3mmの円柱状に2t/cm2で加圧成型し,温度25℃,湿度60%RHの雰囲気下,周波数1kHzで測定したときの比誘電率が10以上,好ましくは30以上の誘電性を有するものが望ましい。」(4頁左上欄14行~右上欄3行)

エ 「有機高分子基材の表面に結晶質の金属化合物を均一な膜状に被覆する方法としては例えば以下のような方法がある。
真空容器内に回転容器を配置し,該回転容器の内面に回転方向に対して傾斜角のある邪魔板を設け,有機高分子基材からなる粒子を該回転容器中に入れ,該回転容器を回転させて回転容器内の粒子が静止状態をとることなく常に粒子の面が変化するように動かし,結晶質の金属化合物をターゲットとしてスパッタリング法により粒子の表面に結晶質の金属化合物を被覆する。」(4頁右上欄8行~18行)
オ 「・被覆層の結晶性
被覆粒子をX線回折により分析し,被覆層に基づくピークが検出された場合に結晶質であると判断した。」(5頁左上欄3行~6行)
カ 「・被覆粒子の比誘電率
被覆粒子を直径20mm,高さ3mmの円柱状に2t/cm2で加圧成型し,その両面に電極として金をスパッタリング法により付着させた。次に,温度25℃,湿度60%RHの恒温恒湿容器中に一昼夜放置した後,付着させた金の各面を平滑なアルミニウム板で挟み,電磁波シールドきれたボックス内に挿入し,比誘電率を測定した。測定機器は積河ヒューレットパッカード社製MODEL 4192A LF インピーダンスアナライザーを使用した。」(5頁右上欄14行~左下欄4行)
キ 「実施例1
水で十分に洗浄後,50℃で減圧乾燥したポリメチルメタクリレート球状粒子(積水化成品(株)製 MB-100 平均粒子径100μm)をマグネトロン型RFスパッタリング装置を用いて表1に示した条件でスパッタリングを行い,ポリメチルメタクリレート球状粒子の表面に膜厚1400Åの均一なITO膜を形成した。
得られた被覆粒子についての各種測定結果を表2に示した。
実施例2~5
有機高分子基材からなる粒子,ターゲット,導入ガス,カソード電圧および電流,回転容器の回転速度を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして被覆粒子を製造した。
得られた各被覆粒子についての各種測定結果を表2に示した。」(5頁左下欄5行~右下欄1行)
ク 「
[図:0001380549000001.jpg]
[図:0001380549000002.jpg]
」

(2)引用発明1

上記(1)ウ,カから,引用例1には,「被覆粒子」を円柱状に加圧成型して両面に電極として金を付着させることが記載されており,そのようにして形成された成型体が記載されているものと理解できる。

また,上記(1)イ,エには,引用例1の「被覆粒子」が有機高分子基材からなる粒子の表面に結晶質の金属化合物を被覆してなるものであることが記載され,上記(1)ウには,結晶質の金属化合物として誘電性を有するものを用いて誘電性を付与した被覆粒子が,上記(1)エには,スパッタリング法により有機高分子基材の表面に結晶質の金属化合物を被覆することが記載されている。

さらに,上記(1)アには,被覆粒子を原料として加熱押し出し成型させた場合に,結晶質の金属化合物が成型体中に均等に分散して存在することが記載されている。

以上によれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「被覆粒子を円柱状に加圧成型して両面に電極として金を付着させた成型体であって,
被覆粒子が,有機高分子基材からなる粒子の表面に誘電性を有する結晶質の金属化合物をスパッタリング法で被覆してなるものであり,
誘電性を有する結晶質の金属化合物が,成型体中に均等に分散して存在している,成型体。」

2.引用例2~4について

(1)引用例2の記載

原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用された引用例2(特開2007-149503号公報)には,次の記載がある。

「【0041】
(実施例1)
[1. 複合粒子の作製]
45wt%Pt/C10gと,蒸留水130g,エタノール90g,カチオン交換樹脂溶液(デュポン社製,ナフィオン(登録商標)ディスパージョンDE2020,固形分21%)21.4gとを混合し,超音波ホモジナイザーを用いて十分に分散させた。これをスプレードライヤーを用いて噴霧・乾燥させ,球状の複合粒子を得た。
続きを表示(全15行)
【0042】
[2. 被覆粒子の作製]
図1に,被覆粒子の作製に用いたレーザーアブレーション装置10の概略構成図を示す。図1において,レーザーアブレーション装置10は,真空チャンバー12と,真空チャンバー12内に設置された揺動装置14及びターゲット16と,レーザー光照射装置(図示せず)とを備えている。揺動装置14は,その上に乗せた複合粒子30を揺動させるためのものである。ターゲット16は,レーザー光20に対して回転可能になっており,レーザー光20の入射角に対してその表面の角度を任意に変化できるようになっている。本実施例において,ターゲット18には,PTFE板((株)フロンケミカル製)を用いた。さらに,レーザ光照射装置から照射されたレーザー光20は,レンズ18で集光された後,ターゲット16表面に照射されるようになっている。
図1に示すレーザーアブレーション装置を用いて,以下の手順により被覆粒子を作製した。すなわち,まず,複合粒子30を揺動装置14に乗せ,これをレーザーアブレーション装置10の真空チャンバー12内に配置した。また,揺動装置14から所定の距離(本実施例では,約10cm)にターゲット16を配置した。揺動装置14により複合粒子30を揺動させ,かつ,ターゲット16を回転させながら,波長532nmのレーザー(Nd:YAGレーザー)を,エネルギー密度40J/cm2でターゲット16に照射した。照射時間は,0~120分とした。
【0043】
[3. 評価(1)]
レーザー光をターゲット16に照射すると,ターゲット(PTFE板)16が分解されてフラグメントが生成する。生成したフラグメントは,複合粒子表面に蒸着し,複合粒子表面において再重合し,PTFEとなる。[1.]及び[2.]で得られた被覆粒子の場合,事前に測定した蒸着速度から換算すると,PTFEの含有量は,それぞれ,全粉末重量に対して0.125wt%(30分),0.25wt%(60分),0.50wt%(120分)であった。
【0044】
[4. 評価(2)]
カチオン交換樹脂を添加しなかった以外は,[1.]及び[2.]と同一条件下で,被覆粒子を作製した。得られた被覆粒子について,エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)により,粉末中に含まれるF量及びPt量を分析した。なお,カチオン交換樹脂を添加しない被覆粒子を評価に用いたのは,カチオン交換樹脂にもFが含まれているためである。カチオン交換樹脂のない被覆粒子で評価することによって,PTFEに由来するFのみを検出することができる。
図2に,処理時間と,FとPtのEDX検出量の強度比(F/Ptピーク比)との関係を示す。図2より,処理時間の増大に伴い,PTFE由来のF分の検出量が直線的に増大することがわかる。また,面分析から,粒子表面に均一にFが分散していることが確認された。以上の結果から,揺動装置14により複合粒子を揺動させながら撥水性材料の被覆を行うと,複合粒子の表面をPTFEで均一に被覆できることがわかった。」

(2)引用例3の記載

原査定において周知技術を示す文献として引用された引用例3(特開2006-32326号公報)には,次の記載がある。

「【0002】
従来,薄膜素子は,一般的に,多結晶体からなる誘電体材料膜と,この誘電体材料膜を挟んで配置される上部電極及び下部電極と,を備えた構造を有している。この誘電体材料膜の組成は,一般的に,チタン酸ジルコン酸鉛(以下,「PZT」という)や,ペロブスカイト型の結晶構造を有するチタン酸バリウム系誘電物質(以下,「BST」という)が用いられ,この誘電体材料膜の製造に関しては,例えば,ゾルゲル法,レーザーアブレーション法及びCVD法等が用いられている。また,この薄膜素子における上部電極および下部電極を構成する材料としては,従来から白金,イリジウム,ルテニウム,チタン,金,ニッケル等,種々の導電体が使用されている。そして,上部電極および下部電極の従来の製造方法は,真空スパッタ法により成膜することにより上部電極および下部電極を製造していた(例えば,特許文献1参照。)。従って,従来では,下部電極を真空スパッタ法により製造した後,誘電体材料膜をその下部電極上に別工程からなるゾルゲル法,レーザーアブレーション法及びCVD法等で製造した後,得られた誘電体材料膜上に更に上部電極を真空スパッタ法により製造するという手順により得られていた。」

(3)引用例4の記載

原査定において周知技術を示す文献として引用された引用例4(特開平11-261029号公報)には,次の記載がある。

「【0031】・・・(省略)・・・
【発明の実施の形態】(1)第1の実施の形態
図1は,本発明の第1の実施形態に係る誘電体薄膜の作製装置を示す略線図である。この実施の形態においては,この作製装置1により薄膜作製手法の1つであるレーザーアブレーション法によりペロブスカイト化合物を成膜用基板4に堆積させ,層状ペロブスカイト構造による誘電体薄膜を作製する。
【0032】すなわちこの作製装置1は,真空チャンバー2内にターゲット3を配置し,このターゲット3に対して所定距離だけ離間して成膜用基板4を配置する。更にこの成膜用基板4の近傍に酸素ガスを導入した酸化雰囲気中で,エキシマレーザー発振器によるレーザー光源5より波長193〔nm〕のArFレーザービームを射出し,このレーザービームを反射ミラー6で反射してターゲット3に照射する。
【0033】これにより作製装置1は,レーザービームを照射したターゲット3から励起種等を飛散させ,対向する成膜用基板4にターゲット3とほぼ同組成を有する薄膜を成膜する。なお,薄膜形成を行う際の雰囲気酸素圧は,1〔mTorr〕,基板温度は700度である。
【0034】ここでターゲット3は,通常の粉末冶金法によって作製される。すなわち,所望の組成になるように原料粉末を混合し,その後,仮焼,成形,及び焼成をすることによりターゲットとなるセラミックス焼結体が得られる。ここでターゲット3は,Aサイト過剰でなるBa1.2 TiO3.2 の焼結体であり,ペロブスカイト構造をもつBaTiO3 粒子とその粒界に均一に分布した2次相Ba2 TiO4より構成される微細構造をもつ。
【0035】ターゲット3は,成膜時,図示しない回転機構により回転され,これによりBa,Ti元素の均一な飛散を確保するようになされている。
【0036】図2(A)及び(B)は,この作製装置1により作製した層状ペロブスカイト構造の断面を示す高分解能透過型電子顕微鏡像である。この図2によれば,原子レベルで岩塩型構造をもつBaO層の形成を確認することができ,また層状のBaTiO3 結晶が形成されていることがわかる。なおこの図2においては,層状構造を容易に確認できるように,単結晶/SrTiO3 による成膜用基板4を使用して誘電体膜をエピタキシャル成長させた。」

第5 対比・判断

1.本願発明1について

(1)本願発明1と引用発明1の対比

本願発明1と引用発明1を対比する。

ア 引用発明1における「有機高分子基材からなる粒子」及び「誘電性を有する結晶質の金属化合物」は,本願発明1における「樹脂からなるマトリックス粒子」及び「無機化合物」に相当する。

イ 引用発明1における「被覆粒子」は,「有機高分子基材からなる粒子の表面に誘電性を有する結晶質の金属化合物をスパッタリング法で被覆してなるもの」であるから,本願発明1における「複合粒子」に相当する。

ウ 引用発明1における「成型体」は,「誘電性を有する」「金属化合物」が被覆された「被覆粒子」を「円柱状に加圧成型」したものであるから,本願発明1と引用発明1は,ともに「前記樹脂からなるマトリックス粒子の周囲に前記無機化合物からなる被膜が形成された複合粒子の結合体からなる」点で一致する。また,引用発明1における「成型体」は,本願発明1における「誘電体複合材料」に相当する。

エ 引用発明1では,「誘電性を有する結晶質の金属化合物が,成型体中に均等に分散して存在している」ところ,この「成型体中に均等に分散して存在している」「誘電性を有する結晶性の金属化合物」は,本願発明1における「前記マトリックスの内部に分散している無機化合物からなる誘電体相」に相当する。

オ 引用発明1における「成型体」は,「誘電性を有する」「金属化合物」が被覆された「被覆粒子」を「円柱状に加圧成型して両面に電極として金を付着させた」ものである。一方,本願明細書の段落0017には次の記載がある。(下線は当審により付加。)

「【0017】
樹脂からなるマトリックスの内部において,無機化合物からなる誘電体を電極対向方向に連結させると,電極対向方向では,並列接続モデル又はこれに近い構造となる。そのため,少量の無機化合物の添加で高い比誘電率が得られる。また,並列接続モデル又はこれに近い構造を得るために導電体フィラーを添加する必要がないため,絶縁性も高い。
このような構造を備えた誘電体複合材料は,例えば,マトリックス粒子の表面に無機化合物からなる被膜を形成して複合粒子とし,複合粒子を成形することにより得られる。」

そうすると,「被覆粒子」を「加圧成型」してなる引用発明1の「成型体」においても,「複合粒子」を「成形」してなる本願発明1と同様に「前記誘電体相は,前記マトリックスの内部において,電極対向方向に連結している構造を持つ」といえる。

以上によれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。

<一致点>

「以下の構成を備えた誘電体複合材料。
(1)前記誘電体複合材料は,
樹脂からなるマトリックスと,
前記マトリックスの内部に分散している無機化合物からなる誘電体相と
を備え,
前記誘電体相は,前記マトリックスの内部において,電極対向方向に連結している構造を持つ。
(2)前記誘電体複合材料は,前記樹脂からなるマトリックス粒子の周囲に前記無機化合物からなる被膜が形成された複合粒子の結合体からなる。」

<相違点>

本願発明1では「前記無機化合物は,結晶子サイズが20nm以上である」のに対し,引用発明1では,「誘電性を有する結晶質の金属化合物」の結晶子サイズについて特定されていない点。

(2)相違点についての判断

ア 引用例1には,スパッタリング法により,有機高分子基材からなる粒子の表面に結晶質の金属化合物を10~10000Åの範囲の厚みで均一な膜状に被覆することは記載されているものの(上記第4の1.(1)イ,エ),被覆層の結晶性については,「被覆粒子をX線回折により分析し,被覆層に基づくピークが検出された場合に結晶質であると判断した。」(上記第4の1.(1)カ)と記載されているのみであり,本願発明では,被覆膜の結晶子サイズをX線回折ピークの半値幅から求めている(本願明細書段落0063)のに対して,引用例1では,上記したX線回折による分析において検出されたピークの半値半幅から結晶子サイズを求めることや,具体的な結晶子のサイズは記載されていない。すなわち,引用例1には「誘電性を有する結晶質の金属化合物」の結晶子サイズを20nm以上とすることについては記載も示唆もされていない。

引用例2には,レーザーアブレーション法を用いてPtとカチオン交換樹脂を含む複合粒子表面にPTFEを均一に被覆することが記載され,引用例3には,薄膜素子の下部電極上にレーザーアブレーション法により誘電体膜を形成することが記載され,引用例4には,成膜用基板上に層状ペロブスカイト構造による誘電体薄膜を形成することが記載されているものの,「誘電性を有する結晶質の金属化合物」の結晶子サイズを20nm以上とすることは,いずれの文献にも記載も示唆もされていない。また,「誘電性を有する結晶質の金属化合物」の結晶子サイズを20nm以上とすることが本願出願前において周知技術であるとはいえない。

イ 引用発明1における「誘電性を有する結晶質の金属化合物」は,「有機高分子基材の表面」に「スパッタリング法で被覆」された膜であるところ,引用例1には,その具体的実施形態として,スパッタリング法により結晶質のBaTiO3被覆層1を1000Å被覆した旨が記載されている(上記第4の1.(1)キ,ク)。ここで,引用例1には,スパッタリング後にアニール処理を行うことは記載されていない。

一方,BaTiO3をスパッタリングにより成膜した後アニール処理を行わない場合に得られる膜が非晶質であることは,下記参考文献にも記載されているとおり,当業者の技術常識である。また,上述のとおり,引用例1には被覆層のX線回折ピークの半値半幅から結晶子のサイズを求めることは記載されていない。

そうすると,引用発明1において「結晶質の金属化合物」との特定事項があるとしても,当該「金属化合物」が所定の結晶子サイズを有する被覆層であると認めることはできないから,引用発明1において当該「金属化合物」の結晶子サイズを20nm以上とすることが,適宜なし得たことであるとはいえない。

参考文献:Rose,T.L. et.al. “Characterization of rf-sputtered BaTiO3 thin films using a liquid electrolyte for the top contact”, Journal of Applied Physics, 1984, vol.55, p.3706-3714

上記参考文献には次の記載がある。(和訳及び下線は当審による。)

“Similar to results in earlier work using metal contacts for the top electrodes, our results show that BaTi03 films deposited on low-temperature substrates are amorphous with low dielectric constants, while annealing the films leads to crystalline material with higher effective dielectric constants. A wide range has been reported in the literature for the temperature at which the change from the amorphous to crystalline state takes place in sputtered BaTi03 films. ・・・

In our work, a substrate temperature above 930°C was required to produce crystalline films of pure BaTi03. This result is in agreement with those reported by Shintani and Tada.”(3712頁右欄”DISCUSSION”の項,1行目~22行目)

(和訳)「上部電極に金属コンタクトを用いた先行研究における結果と同様に,我々の結果は,低温の基板上に堆積されたBaTiO3膜は低比誘電率の非晶質であり,これに対し,膜をアニールすることで高い有効比誘電率の結晶性材料となることを示す。スパッタされたBaTiO3の非晶質から結晶状態への変化が起こる温度については,幅広い範囲が論文で報告がされている。・・・

我々の研究では,純粋なBaTiO3の結晶膜を形成するためには930℃以上の基板温度が必要だった。この結果は,新谷と多田により報告された結果と一致する。」

ウ したがって,引用発明1において「誘電性を有する結晶質の金属化合物」の結晶子サイズを20nm以上とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえないから,本願発明1は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

2.本願発明2~9について

本願発明2~9は本願発明1と同じ「前記無機化合物は,結晶子サイズが20nm以上である」との技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1に基づいて容易に発明できたものではない。

第6 結言

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。

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2020-015258

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