特許拒絶査定不服審判
2020-014657
フェーズドアレイ増幅器線形化
- 審判番号
- 2020-014657
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-204981
- 請求日
- 2020年10月21日
- 審決日
- 2021年06月29日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アナログ・ディヴァイシス・グローバル・アンリミテッド・カンパニー
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 審判長/審判官
- 審判長 北岡 浩
- 審判官 佐藤 智康
- 審判官 丸山 高政
- 分類
- P18 .121-Z (H04B) / P18 .575-Z (H04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-204981「フェーズドアレイ増幅器線形化」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月 6日出願公開、特開2019- 88001〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許出願は、平成30年10月31日(パリ条約による優先権主張2017年(平成29年)11月1日、米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年10月21日付け :拒絶理由通知書
令和 2年 2月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月16日付け :拒絶査定
令和 2年10月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 1月 8日 :上申書
令和 3年 4月 5日 :上申書
第2 令和2年10月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月21日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、令和 2年 2月 5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2(以下、「補正前の請求項2」という。)の記載を以下のとおりの特許請求の範囲の請求項2(以下、「補正後の請求項2」という。)の記載に補正することを含むものである。
(なお、補正後の請求項2において付された下線は、拒絶査定不服審判の請求時に請求人により付されたものである。)
(補正前の請求項2)
「【請求項2】
フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置であって、
アンテナ素子を送信経路またはリターン経路のいずれかに接続するように各々が構成された複数のスイッチであって、前記送信経路から前記リターン経路に十分な量の電力を故意に漏洩させてRFサンプル信号を提供し、それにより、前記リターン経路がプリディストーションの適合調整のために十分な送信電力を受け取るようさらに構成されている、複数のスイッチと、
複数のRF電力増幅器の少なくとも前記RFサンプル信号を搬送するように構成された複数の前記リターン経路と、
前記RFサンプル信号を組み合わせて、組み合わされた信号を生成するように構成されたハードウェアRF電力コンバイナと、
前記RFサンプル信号が、前記ハードウェアRF電力コンバイナにおいて位相整合されるように、前記RFサンプル信号の位相シフトを調整するように構成された複数のリターン側位相シフタと、
入力信号をプリディストーションして、プリディストーションされた信号を生成するように構成され、かつ前記組み合わされた信号から導出された信号の観測に少なくとも部分的に基づいて、プリディストーションのためのプリディストーション係数を適合させるように構成されたプリディストータと、を備えた装置。」
(補正後の請求項2)
「【請求項2】
フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置であって、
アンテナ素子を送信経路またはリターン経路のいずれかに接続するように各々が構成された複数のスイッチであって、前記送信経路から前記リターン経路に十分な量の電力を故意に漏洩させて前記送信経路上の複数のRF電力増幅器のそれぞれのRFサンプル信号を提供し、それにより、前記リターン経路がプリディストーションの適合調整のために十分な送信電力を受け取るようさらに構成されている、複数のスイッチと、
少なくとも前記RFサンプル信号を搬送するように構成された複数の前記リターン経路と、
前記RFサンプル信号を組み合わせて、組み合わされた信号を生成するように構成されたハードウェアRF電力コンバイナと、
前記RFサンプル信号が、前記ハードウェアRF電力コンバイナにおいて位相整合されるように、前記RFサンプル信号の位相シフトを調整するように構成された複数のリターン側位相シフタと、
入力信号をプリディストーションして、プリディストーションされた信号を生成するように構成され、かつ前記組み合わされた信号から導出された信号の観測に少なくとも部分的に基づいて、プリディストーションのためのプリディストーション係数を適合させるように構成されたプリディストータと、を備えた装置。」
2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である「複数のスイッチ」が「提供」する「RFサンプル信号」について、その内容を限定するために、「前記送信経路上の複数のRF電力増幅器のそれぞれの」との事項を付加するとともに、「前記RFサンプル信号」に対する「複数のRF電力増幅器の」との限定を取り除いたものである。
本願の明細書によれば、この発明は、「アナログビーム形成器のフェーズドアレイ増幅器にプリディストーションを適用する」ことが必要である(【0006】)との観点から「フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置」を提供するものであるから、「前記RFサンプル信号」が「フェーズドアレイの複数の増幅器」からサンプルされる信号でなければならないことは自明である。よって、文言上「前記RFサンプル信号」に対する「複数のRF電力増幅器の」との限定を取り除いても、実質的には本件補正の前後で「前記RFサンプル信号」の技術内容に変化はない。
そして、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項2に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 本件補正の内容 (補正後の請求項2)」に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献(国際公開第2016/167145号)
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2016/167145号には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付したものである。)
(ア)「この発明は、変調波信号を増幅する電力増幅器における信号の非線形性を補償する機能を有するフェーズドアレイアンテナ装置に関するものである。」([0001])
(イ)「実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるフェーズドアレイアンテナ装置を示す構成図である。
図1のフェーズドアレイアンテナ装置は、時分割複数通信であるデュプレクス通信が可能な装置であり、モデム1、信号変換部2及び4個の単位モジュールであるアンテナモジュール4を含む4個のアレイアンテナモジュール3から構成されている。
図1の例では、アレイアンテナモジュール3の個数が4個である例を示しているが、アレイアンテナモジュール3の個数は1個以上であれば何個でもよい。また、アレイアンテナモジュール3に含まれるアンテナモジュール4の個数が4個である例を示しているが、アンテナモジュール4の個数は1個以上であれば何個でもよい。
図1において、モデム1のDSP11は送信信号であるディジタル信号を変調部12に出力するとともに、復調部18により直交復調された受信信号に対する所定のディジタル信号処理を実施するディジタル信号処理部である。このディジタル信号処理は、例えば、通信装置が信号を受信する際に行う一般的な信号処理が想定される。
変調部12はDSP11から出力されたディジタル信号を直交変調し、直交変調後のディジタル信号であるベースバンド信号をプリディストーション部(以下、「PD部」と称する)13及び歪補償信号出力部15に出力する。ここでは、変調部12がDSP11から出力されたディジタル信号を直交変調して、直交変調後のディジタル信号であるベースバンド信号を出力する例を示しているが、これは一例に過ぎず、例えば、ディジタル信号を直交変調して、直交変調後のディジタル信号であるIF(Intermediate Frequency)信号を出力するようにしてもよい。
PD部13は変調部12から出力されたベースバンド信号に対して、歪補償信号出力部15から出力される歪補償信号であるプリディストーション信号を用いる歪補償処理を実施して、フェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪みを補償する歪補償部である。
信号変換部2のDAコンバータ(以下、「DAC」と称する)21はモデム1のPD13による歪補償処理後のベースバンド信号をディジタル/アナログ変換して、アナログのベースバンド信号を出力する。
周波数変換部22はDAC21から出力されたアナログのベースバンド信号の周波数を無線周波数に変換することで、無線周波数の信号であるRF信号を出力する。 分配器23は周波数変換部22から出力されたRF信号を4個のアレイアンテナモジュール3に分配する。
アレイアンテナモジュール3の分配器31は信号変換部2の分配器23により分配されたRF信号を4個のアンテナモジュール4に分配する。なお、分配器23及び分配器31から分配部が構成されている。
アンテナモジュール4の移相器41はアレイアンテナモジュール3の分配器31により分配されたRF信号の位相を調整し、位相調整後のRF信号を可変利得器42に出力する。移相器41によるRF信号の移相量は、フェーズドアレイアンテナの指向方向によって決定される。
可変利得器42は移相器41から出力されたRF信号の振幅を調整し、振幅調整後のRF信号を電力増幅器43に出力する。各アンテナモジュール4には、フェーズドアレイアンテナにおけるアンテナパターンのサイドローブを抑圧する目的で振幅分布がつけられており、可変利得器42の利得は、図15(b)に示すような各アンテナモジュール4の所要振幅分布によって決定される。
なお、移相器41及び可変利得器42によってRF信号の位相と振幅が適宜調整されることで、送信系における各アンテナモジュール4の振幅位相誤差が抑圧される。
電力増幅器43は可変利得器42から出力されたRF信号の電力を増幅する。
アイソレータ44はフェーズドアレイアンテナを構成している素子アンテナ47のアクティブインピーダンスや反射の影響を低減するために入出力間を絶縁している。ただし、アクティブインピーダンスの影響を受けない場合はアイソレータ44を省略するようにしてもよい。
フィルタ45は電力増幅器43で発生した高調波を低減し、高調波低減後のRF信号を出力する。
スイッチ46はRF信号を送信する場合、フィルタ45と素子アンテナ47を接続する。これにより、フィルタ45から出力されたRF信号が素子アンテナ47に与えられるが、そのRF信号の一部はフィードバック信号として可変減衰器48に出力される。
スイッチ46はRF信号を受信する場合、素子アンテナ47とフィルタ49を接続する。
素子アンテナ47はスイッチ46から出力されたRF信号を空間に放射する一方、到来してきたRF信号を受信し、そのRF信号である受信信号をスイッチ46に出力する。
可変減衰器48はスイッチ46から出力されたフィードバック信号の振幅を減衰し、振幅減衰後のフィードバック信号を出力する。
フィルタ49はスイッチ46から出力された受信信号に重畳されている高調波を低減し、高調波低減後の受信信号を出力する。
低雑音増幅器50はフィルタ49から出力された受信信号の電力を増幅する。
スイッチ51はRF信号を送信する場合、可変減衰器48と可変利得器52を接続し、RF信号を受信する場合、低雑音増幅器50と可変利得器52を接続する。
可変利得器52はスイッチ51から出力されたフィードバック信号又は受信信号の振幅を調整する。
移相器53は可変利得器52により振幅が調整されたフィードバック信号又は受信信号の位相を調整する。
移相器53によるフィードバック信号又は受信信号の移相量は、そのフィードバック信号又は受信信号の位相が、他のアンテナモジュール4から合成器32に出力されるフィードバック信号又は受信信号の位相と同位相になるように決定される。
なお、可変利得器52及び移相器53によってフィードバック信号又は受信信号の振幅と位相が適宜調整されることで、受信系における各アンテナモジュール4の振幅位相誤差が抑圧される。
アレイアンテナモジュール3の合成器32は4個のアンテナモジュール4から出力されたフィードバック信号又は受信信号を合成する。
信号変換部2の合成器24は4個のアレイアンテナモジュール3の合成器32により合成されたフィードバック信号又は受信信号を合成する。なお、合成器32及び合成器24から合成部が構成されている。
周波数変換部25は合成器24により合成されたフィードバック信号又は受信信号の周波数を変換して、ベースバンドのフィードバック信号又は受信信号を出力する。
ADコンバータ(以下、「ADC」と称する)26は周波数変換部25から出力されたフィードバック信号又は受信信号をアナログ/ディジタル変換して、ディジタルのフィードバック信号又は受信信号を出力する。
モデム1のスイッチ14はRF信号を送信する場合、ADC26と歪補償信号出力部15を接続し、RF信号を受信する場合、ADC26と復調部18を接続する。
歪補償信号出力部15は変調部12から出力されたベースバンド信号と、ADC26からスイッチ14を介して出力されたフィードバック信号との差分から、そのベースバンド信号に対して、フェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪み特性と逆の歪み特性を与える歪補償係数を求め、その歪補償係数を示すプリディストーション信号をPD部13に出力する。
歪補償信号出力部15によるプリディストーション信号の求める方式として、LUT方式、多項式方式、メモリポリナミナル方式などが考えられる。
どの方式でプリディストーション信号を求めてもよいが、この実施の形態1では、LUT方式で求める例を説明する。
歪補償信号出力部15の信号比較部16は変調部12から出力されたベースバンド信号と、ADC26からスイッチ14を介して出力されたフィードバック信号との差分を算出する。
PD信号生成部17は、予めベースバンド信号とフィードバック信号の差分に対応する歪補償係数を格納しているルックアップテーブルを保持しており、そのルックアップテーブルから信号比較部16により算出された差分に対応する歪補償係数を読み出し、その歪補償係数を示すプリディストーション信号をPD部13に出力する。
復調部18はADC26からスイッチ14を介して出力されたディジタルの受信信号を直交復調し、直交復調後の受信信号をDSP11に出力する。」([0015]~[0024])
(ウ)「[図1]
[図:0001380526000001.jpg]
」
(エ)「各アンテナモジュール4のスイッチ46は、RF信号を送信する場合、フィルタ45と素子アンテナ47を接続しているので、フィルタ45から出力されたRF信号が素子アンテナ47に与えられる。
これにより、素子アンテナ47からRF信号が空間に放射されるが、フィルタ45から出力されたRF信号の一部はフィードバック信号として、スイッチ46を通って可変減衰器48に与えられる。
各アンテナモジュール4の可変減衰器48は、スイッチ46からフィードバック信号を受けると、そのフィードバック信号の振幅を減衰し、振幅減衰後のフィードバック信号を出力する。
各アンテナモジュール4のスイッチ51は、RF信号を送信する場合、可変減衰器48と可変利得器52を接続しているので、可変減衰器48から出力されたフィードバック信号が可変利得器52に与えられる。」([0031]、[0032])」
上記(ア)から(エ)の記載事項から、引用文献には、以下の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)
「変調波信号を増幅する電力増幅器における信号の非線形性を補償する機能を有するフェーズドアレイアンテナ装置であって([0001])、
当該フェーズドアレイアンテナ装置は、時分割複数通信であるデュプレクス通信が可能な装置であり、モデム1、信号変換部2及び4個の単位モジュールであるアンテナモジュール4を含む4個のアレイアンテナモジュール3から構成されており([0015])、
前記モデム1には、変調部12から出力されたベースバンド信号に対して、歪補償信号出力部15から出力される歪補償信号であるプリディストーション信号を用いる歪補償処理を実施して、フェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪みを補償する歪補償部であるPD部13が備わっており([0016])、そして、前記歪補償信号出力部15は、変調部12から出力されたベースバンド信号と、ADC26からスイッチ14を介して出力されたフィードバック信号との差分から、そのベースバンド信号に対して、フェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪み特性と逆の歪み特性を与える歪補償係数を求め、その歪補償係数を示すプリディストーション信号をPD部13に出力するものであり([0023])、
前記アンテナモジュール4のそれぞれには、電力増幅器43、スイッチ46、移相器53が備わっており([図1])、
前記電力増幅器43は、可変利得器42から出力されたRF信号の電力を増幅し([0019])、
前記スイッチ46は、RF信号を送信する場合、フィルタ45と素子アンテナ47を接続し、これにより、フィルタ45から出力されたRF信号が素子アンテナ47に与えられ、そして、そのRF信号の一部はフィードバック信号として、スイッチ46を通って可変減衰器48に出力され、一方、RF信号を受信する場合には、素子アンテナ47とフィルタ49を接続するものであって([0019]、[0031])、
各アンテナモジュール4のスイッチ51は、RF信号を送信する場合、可変減衰器48と可変利得器52を接続しているので、可変減衰器48から出力されたフィードバック信号が可変利得器52に与えられ([0032])、
前記移相器53は、可変利得器52により振幅が調整されたフィードバック信号又は受信信号の位相を調整し、移相器53によるフィードバック信号又は受信信号の移相量は、そのフィードバック信号又は受信信号の位相が、他のアンテナモジュール4から合成器32に出力されるフィードバック信号又は受信信号の位相と同位相になるように決定され([0021])、
さらに、当該フェーズドアレイアンテナ装置は、前記アレイアンテナモジュール3が備える合成器32と前記信号変換部2が備える合成器24から構成される合成部を備え、前記合成器32は4個のアンテナモジュール4から出力されたフィードバック信号又は受信信号を合成し、前記合成器24は4個のアレイアンテナモジュール3の合成器32により合成されたフィードバック信号又は受信信号を合成する([0022])、
フェーズドアレイアンテナ装置。」
(3)本件補正発明と引用発明との対比
(3-1)『フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置』について
引用発明の「フェーズドアレイアンテナ装置」は、「変調波信号を増幅する電力増幅器における信号の非線形性を補償する機能を有する」ものであり、引用発明の「変調波信号を増幅する電力増幅器における信号」が、本件補正発明でいう『フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)』に対応すること、及び、引用発明の「非線形性を補償する機能」の意味が、本件補正発明でいう『線形化』の意味に対応するものであることは、当業者にとって自明な事項である。
してみると、引用発明の「変調波信号を増幅する電力増幅器における信号の非線形性を補償する機能を有するフェーズドアレイアンテナ装置」は、本件補正発明でいう『フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置』に相当するものである。
(3-2)『アンテナ素子を送信経路またはリターン経路のいずれかに接続するように各々が構成された複数のスイッチであって、前記送信経路から前記リターン経路に十分な量の電力を故意に漏洩させて前記送信経路上の複数のRF電力増幅器のそれぞれのRFサンプル信号を提供し、それにより、前記リターン経路がプリディストーションの適合調整のために十分な送信電力を受け取るようさらに構成されている、複数のスイッチ』について
引用発明の「複数のアンテナモジュール」が備える「スイッチ46」は、「RF信号を送信する場合、フィルタ45と素子アンテナ47を接続し、これにより、フィルタ45から出力されたRF信号が素子アンテナ47に与えられ、そして、そのRF信号の一部はフィードバック信号として、スイッチ46を通って可変減衰器48に出力され、一方、RF信号を受信する場合には、素子アンテナ47とフィルタ49を接続するもの」である。
[図1]の記載を参酌するに、引用発明において、RF信号を送信する際の経路(つまり、DSP11、変調部12、PD部13、DAC21、周波数変換部22、分配器23、分配器31、移相器41、可変利得器42、電力増幅器43、アイソレータ44、フィルタ45、スイッチ46、アンテナ素子47を通る経路。)は、本件補正発明でいう『送信経路』に対応するものであり、そして、RF信号を送信する際、フィルタ45から出力されたRF信号の一部が与えられる経路(つまり、スイッチ51、可変利得器52、移相器53、合成器32、合成器24、周波数変換部25、ADC26、スイッチ14、歪補償信号出力部15(信号比較部16、PD信号生成部17)、PD部13を通る経路。)は、本件補正発明でいう『リターン経路』に対応するものである。
ここで、引用発明の「スイッチ46」は、RF信号を送信する際、フィルタ45の出力とアンテナ素子47及びリターン経路とを接続するに過ぎず、アンテナ素子47とリターン経路とを接続することを意図するものではない。アンテナ素子47とリターン経路との接続が意図されるのは、RF信号を受信する場合に限られる。
そうすると、引用発明の「複数のアンテナモジュール」が備える「スイッチ46」は、「アンテナ素子を送信経路またはリターン経路のいずれかに接続するように各々が構成された複数のスイッチ」といえる。
そして、引用発明の「フィードバック信号」は、歪補償部であるPD部13で用いられる歪補償信号出力部15から出力される歪補償信号であるプリディストーション信号を生成するために用いられる信号であって、スイッチ46がフィルタ45と素子アンテナ47に接続され、電力増幅器43によって増幅されたRF信号が素子アンテナ47から送信される際に、当該RF信号の一部をスイッチ46を通して、可変減衰器48に出力され、『リターン経路』に対応する経路の可変利得器52に与えられる信号であるから、本件補正発明でいう『RFサンプル信号』に対応し、本件補正発明と引用発明とは、「前記送信経路から前記リターン経路に前記送信経路上の複数のRF電力増幅器のそれぞれのRFサンプル信号を提供し、それにより、前記リターン経路がプリディストーションの適合調整のために送信電力を受け取るようにさらに構成されている」点で共通するといえる。
(3-3)『少なくとも前記RFサンプル信号を搬送するように構成された複数の前記リターン経路』について
上記(3-2)で言及したように、引用発明において、RF信号を送信する際、フィルタ45から出力されたRF信号の一部が与えられる経路は、本件補正発明でいう『リターン経路』に対応するものであるから、引用発明には、本件補正発明でいう『少なくとも前記RFサンプル信号を搬送するように構成された複数の前記リターン経路』が備わっているといえる。
(3-4)『前記RFサンプル信号を組み合わせて、組み合わされた信号を生成するように構成されたハードウェアRF電力コンバイナ』について
引用発明は、「前記アレイアンテナモジュール3が備える合成器32と前記信号変換部2が備える合成器24から構成される合成部」を備え、そして、当該合成部を構成する「合成器32」は、本件補正発明の「RFサンプル信号」に対応(上記(3-2))する「4個のアンテナモジュール4から出力されたフィードバック信号」を「合成」し、また、当該合成部を構成する「合成器24」は、「4個のアレイアンテナモジュール3の合成器32により合成されたフィードバック信号」を「合成」するものである。
したがって、引用発明が備える「前記アレイアンテナモジュール3が備える合成器32と前記信号変換部2が備える合成器24から構成される合成部」は、本件補正発明でいう『前記RFサンプル信号を組み合わせて、組み合わされた信号を生成するように構成されたハードウェアRF電力コンバイナ』に相当する。
(3-5)『前記RFサンプル信号が、前記ハードウェアRF電力コンバイナにおいて位相整合されるように、前記RFサンプル信号の位相シフトを調整するように構成された複数のリターン側位相シフタ』について
引用発明が備える「移相器53」は、「可変利得器52により振幅が調整されたフィードバック信号又は受信信号の位相を調整」するものであって、移相器53によるフィードバック信号又は受信信号の移相量は、そのフィードバック信号又は受信信号の位相が、他のアンテナモジュール4から合成器32に出力されるフィードバック信号又は受信信号の位相と同位相になるように決定されるものである。
ここで、「移相器53によるフィードバック信号の位相量」は、「そのフィードバック信号の位相が、他のアンテナモジュール4から合成器32に出力されるフィードバック信号の位相と同位相になるように決定される」のであるから、本件補正発明でいう『RFサンプル信号の位相シフト』に対応するものといえる。
してみると、引用発明において、可変利得器52により振幅が調整されたフィードバック信号の移相を調整する「移相器53」は、本件補正発明でいう『前記RFサンプル信号が、前記ハードウェアRF電力コンバイナにおいて位相整合されるように、前記RFサンプル信号の位相シフトを調整するように構成された複数のリターン側位相シフタ』に相当する。
(3-6)『入力信号をプリディストーションして、プリディストーションされた信号を生成するように構成され、かつ前記組み合わされた信号から導出された信号の観測に少なくとも部分的に基づいて、プリディストーションのためのプリディストーション係数を適合させるように構成されたプリディストータ』について
本件補正発明に係る『プリディストータ』は、本願の明細書の段落【0058】に記載されているように、「デジタル信号プロセッサ(DSP)706」および「適合制御708」を含むものであり、前記「デジタル信号プロセッサ(DSP)706」は、「サンプルごとに入力信号VS(t)に対するプリディストーションを行って、フェーズドアレイ素子702a~702nのRF電力増幅器によって、まとめて導入された非線形性を補完する、プリディストーションされた駆動信号VP(t)を生成することができる。」(同段落【0058】)ものであり、そして、「適合制御708」は、「入力信号VS(t)のサンプルをデジタルフィードバック信号VDR(t)の対応するサンプルと比較して、DSP706によって適用されるプリディストーションの適切な係数を決定することができる。」(同段落【0059】)ものである。
一方、引用発明が備える「PD部13」は、「変調部12から出力されたベースバンド信号に対して、歪補償信号出力部15から出力される、歪補償信号であるプリディストーション信号を用いる歪補償処理を実施してフェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪みを補償する歪補償部」であって、そして、前記「歪補償信号出力部15」は、「変調部12から出力されたベースバンド信号と、ADC26からスイッチ14を介して出力されたフィードバック信号との差分から、そのベースバンド信号に対して、フェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪み特性と逆の歪み特性を与える歪補償係数を求め、その歪補償係数を示すプリディストーション信号をPD部13に出力する」ものである。
ここで、前記「変調部12から出力されたベースバンド信号」、及び、「ベースバンド信号に対して、フェーズドアレイアンテナから放射される信号の歪み特性と逆の歪み特性を与える歪補償係数」は、それぞれ、本件補正発明でいう『入力信号』、及び、『プリディストーションのためのプリディストーション係数』に対応することは明らかである。
また、前記「ADC26からスイッチ14を介して出力されたフィードバック信号」は、引用文献の[図1]の記載を参酌するに、本願補正発明でいう『前記組み合わされた信号』に対応することも明らかである。
そうすると、引用発明が備える「PD部13」および「歪補償信号出力部15」は、それぞれ、本件補正発明の『プリディストータ』を構成している「デジタル信号プロセッサ(DSP)706」および「適合制御708」に対応するものといえる。
してみると、引用発明の「PD部13」と「歪補償信号出力部15」とからなる構成は、本件補正発明でいう『入力信号をプリディストーションして、プリディストーションされた信号を生成するように構成され、かつ前記組み合わされた信号から導出された信号の観測に少なくとも部分的に基づいて、プリディストーションのためのプリディストーション係数を適合させるように構成されたプリディストータ』に対応する。
(4)一致点及び相違点
上記(3)で検討した事項を踏まえると、本件補正発明と引用発明とは、
「フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置であって、
アンテナ素子を送信経路またはリターン経路のいずれかに接続するように各々が構成された複数のスイッチであって、前記送信経路から前記リターン経路に前記送信経路上の複数のRF電力増幅器のそれぞれのRFサンプル信号を提供し、それにより、前記リターン経路がプリディストーションの適合調整のために送信電力を受け取るようさらに構成されている、複数のスイッチと、
少なくとも前記RFサンプル信号を搬送するように構成された複数の前記リターン経路と、
前記RFサンプル信号を組み合わせて、組み合わされた信号を生成するように構成されたハードウェアRF電力コンバイナと、
前記RFサンプル信号が、前記ハードウェアRF電力コンバイナにおいて位相整合されるように、前記RFサンプル信号の位相シフトを調整するように構成された複数のリターン側位相シフタと、
入力信号をプリディストーションして、プリディストーションされた信号を生成するように構成され、かつ前記組み合わされた信号から導出された信号の観測に少なくとも部分的に基づいて、プリディストーションのためのプリディストーション係数を適合させるように構成されたプリディストータと、を備えた装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本件補正発明が備える複数の『スイッチ』の各々がリターン経路に提供するRFサンプル信号が、『十分な量の電力を故意に漏洩させ』たものであり、リターン経路が受け取る送信電力は、プリディストーションの適合調整のために『十分』であるのに対し、引用発明が備える複数の「スイッチ46」から出力される「RF信号の一部」が、「十分な量の電力を故意に漏洩させ」たものであり、プリディストーションの適合調整のために「十分」であるかは特定がない点。
(5)判断
相違点について検討する。
引用発明において、スイッチ46は、RF信号を送信する場合、フィルタ45と素子アンテナ47を接続し、電力増幅器43によって増幅されたRF信号が素子アンテナ47から送信される際に、フィルタ45から出力されたRF信号の一部をフィードバック信号として、可変減衰器48に出力し、スイッチ51、可変利得器52、移相器53、合成器32、合成器24、周波数変換部25、ADC26、スイッチ14を経て、歪補償信号出力部15(信号比較部16、PD信号生成部17)に提供するものであるから、送信経路からの信号を「故意に漏洩させ」ていると言い得るものである。
そして、当該フィードバック信号が、歪補償信号出力部15において、歪補償部(PD部13)で用いられる歪補償信号(プリディストーション信号)を生成するために用いられていることを踏まえると、引用発明を具現化する上では、RF信号を送信する場合にスイッチ46から出力される「RF信号の一部」(フィードバック信号)は、スイッチ46を通って歪補償(プリディストーション)を行うために「十分な量の電力」とし、リターン経路には「十分」な量の電力が与えられるよう構成することが合理的であり、この点に格別の困難性は存在しない。
加えて、相違点に係る構成は、周知の「送信時に漏洩電力を出力するアンテナ素子の送受信切り替えスイッチ」(例えば、原査定の引用文献6(特に、【0018】、【0033】、図1)参照。)を採用することによっても、当業者が容易になし得ることである。
したがって、本件補正発明は、引用発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和 2年10月21日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明は、令和 2年 2月 5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項2】
フェーズドアレイの複数の増幅器の無線周波数(RF)線形化のための装置であって、
アンテナ素子を送信経路またはリターン経路のいずれかに接続するように各々が構成された複数のスイッチであって、前記送信経路から前記リターン経路に十分な量の電力を故意に漏洩させてRFサンプル信号を提供し、それにより、前記リターン経路がプリディストーションの適合調整のために十分な送信電力を受け取るようさらに構成されている、複数のスイッチと、
複数のRF電力増幅器の少なくとも前記RFサンプル信号を搬送するように構成された複数の前記リターン経路と、
前記RFサンプル信号を組み合わせて、組み合わされた信号を生成するように構成されたハードウェアRF電力コンバイナと、
前記RFサンプル信号が、前記ハードウェアRF電力コンバイナにおいて位相整合されるように、前記RFサンプル信号の位相シフトを調整するように構成された複数のリターン側位相シフタと、
入力信号をプリディストーションして、プリディストーションされた信号を生成するように構成され、かつ前記組み合わされた信号から導出された信号の観測に少なくとも部分的に基づいて、プリディストーションのためのプリディストーション係数を適合させるように構成されたプリディストータと、を備えた装置。」
2 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項1-18に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術を示す文献として提示された引用文献4-6に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
請求項1、12については、引用文献1及び引用文献5
請求項2、13については、引用文献1及び引用文献6
請求項3-11、14-18については、引用文献1及び引用文献4-6
記
引用文献1:国際公開第2016/167145号
引用文献4:特開平10-190361号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2016-195331号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2008-166866号公報(周知技術を示す文献)」
3 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記「第2 令和 2年10月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)引用文献の記載事項」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記「第2 令和 2年10月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の「2 補正の適否」で検討した本件補正発明から、「複数のスイッチ」が「提供」する「RFサンプル信号」について、「前記送信経路上の複数のRF電力増幅器のそれぞれの」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 令和 2年10月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)、(3)、(4)、(5)」に記載したとおり、引用発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-014657