2020-012555
高電圧高周波絶縁トランス
- 審判番号
- 2020-012555
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-120231外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年09月08日
- 審決日
- 2021年04月21日
- 公報発行日
- 2021年06月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (H01F) / P18 .537-WY (H01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 21項目
第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月16日の出願であって、令和元年12月6日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月13日に手続補正がなされ、令和2年5月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年9月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
「●理由1(特許法第36条第6項第2号)についてこの出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。・請求項 1-3,5,7-11・特許できない理由続きを表示(全27行)補正後の請求項1-3、5には、ボビンを形成する「樹脂材料」が「低誘電率と高絶縁性とを有する」と記載されているが、該記載では、「ボビン」を形成する「樹脂材料」が具体的に特定できず、明確でない。また、請求項1、請求項3、又は、請求項5を直接又は間接的に引用する請求項のうち、具体的な樹脂を特定していない請求項7-11についても同様である。●理由2(特許法第29条第2項)についてこの出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)・請求項 1,7-10・引用文献等 1-4,9・請求項 2-4・引用文献等 1-6,9・請求項 2,5,6・引用文献等 1-4,7-9・請求項 11,12・引用文献等 1-4,9<引用文献等一覧>1.米国特許第5175525号明細書2.特開2014-127650号公報3.特開昭63-305151号公報4.特開昭61-155410号公報5.特開2001-118963号公報6.特開平5-283247号公報7.特開2015-88758号公報(周知技術を示す文献)8.特開昭53-67830号公報9.関井康夫、海老沼康光,"基礎から応用まで 高電圧工学",日本,株式会社電気書院,2015年 3月,第79-83頁,[令和2年5月14日検索]、インターネット<URL;http://www.denkishoin.co.jp/products/detail.php?product_id=692>(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)」
第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許請求の範囲の請求項1について、気密封止する樹脂材料がボビンを形成する樹脂材料と同一の樹脂材料であることを明確にするとともに、ボビンを形成する樹脂材料の選択の仕方と樹脂材料の種類について限定を付加して、上記拒絶の理由に示された事項についての明瞭でない記載の釈明を行うとともに、明細書の記載を、該補正された特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、特許法第17条の2第5項第2号、第4号に掲げる事項を目的とするものである。
第4 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和2年9月8日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は、補正箇所を示す。)。
「【請求項1】磁路を構成する脚部を有するコアと、前記脚部に巻装される複数の巻線と、低誘電率と高絶縁性とを有する樹脂材料で成形されたボビンと、を備え、続きを表示(全25行)前記複数の巻線のうち高電圧が印加される巻線は、前記ボビンに巻き回されているとともに、前記ボビンを形成する前記樹脂材料と同一の樹脂材料で気密封止されることによって、前記ボビンと一体に形成されており、二層誘電体モデルにおいて、下記(1)式で表される、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層での部分放電開始電圧(Vpd)が、所定の電圧値となるように、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)と、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)と、比誘電率(εr)を有する前記樹脂材料とが選択され、Vpd = {d1+(d2/εr)}・Vp/d1 (1)Vpd;部分放電開始電圧[Vrms]、Vp;パッシェン(Paschen)電圧[Vrms]、d1;空気層の厚さ[m]、d2;樹脂材料の厚さ[m]、εr;樹脂材料の比誘電率、前記樹脂材料は、ジシクロペンタジエン、PTFE(四フッ化エチレン)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS(スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体)、及びAS(スチレン・アクリロニトリル共重合体)の中から選択された少なくとも1種の樹脂材料であることを特徴とする高電圧高周波絶縁トランス。【請求項2】前記ボビンは、中心部に形成される筒部と、この筒部から延設される鍔部とからなることを特徴とする請求項1記載の高電圧高周波絶縁トランス。【請求項3】前記高電圧が印加される巻線は、前記筒部に巻き回されるとともに、前記筒部と前記鍔部とで形成される空間内で、前記樹脂材料によって気密封止されることによって前記ボビンと一体に形成されることを特徴とする請求項2に記載の高電圧高周波絶縁トランス。【請求項4】前記高電圧が印加される巻線は、一次巻線であることを特徴とする請求項1記載の高電圧高周波絶縁トランス。【請求項5】二次巻線が、金属板をリング状に打ち抜いて形成された一枚以上の金属導体で構成されていることを特徴とする請求項4記載の高電圧高周波絶縁トランス。【請求項6】複数の前記一次巻線と前記二次巻線とが、前記コアの前記脚部の一方端から他方端に向かって、前記二次巻線、前記一次巻線の順に交互に配置されていることを特徴とする請求項5記載の高電圧高周波絶縁トランス。【請求項7】前記複数の一次巻線は、それぞれの巻線が直列に接続されていることを特徴とする請求項6記載の高電圧高周波絶縁トランス。」
第5 引用発明、引用文献等
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。また、行数は、文献の中欄に記入されている行番号を用いた。)。
(1)「 FIELD OF THE INVENTIONThis invention relates to power transformers, and more particularly to an improved power transformer having a low profile, increased electromagnetic coupling between the primary and the secondary winding, and better isolation characteristics.」(第1欄第4-9行)
(当審訳:発明の技術分野
本発明は、電力変圧器に関し、特に、低プロファイル、一次及び二次巻線間の電磁結合の増大、及び、より良好な絶縁特性を有する改善された電力変圧器に関するものである。)
(2)「 In power transformer 50, bobbin 56 provides the mechanical location of primary winding 58 and leads 60, 62. Bobbin 56 also provides insulation between primary winding 58 and the two ferrite cores 54, 72. In addition, the tape used for insulating secondary winding 64 and the sleeve used for insulating primary winding 58 also provide insulation.」(第4欄第10-16行)(当審訳:電源トランス50において、ボビン56は、一次巻線58と2つのリード60, 62の機械的位置を提供する。ボビン56は、一次巻線58と2つのフェライトコア54, 72の間の絶縁を提供する。また、絶縁二次巻線64を絶縁するのに用いられるテープと、一次巻線58を絶縁するのに用いられるスリーブも、絶縁を提供する。)
(3)「 FIG. 3A is a drawing showing a perspective view of an exemplary primary winding 110 according to the present invention before the primary winding is encapsulated in an insulating material. Primary winding 110 comprises a bobbin 112, preferably made from plastic, wound with winding wire 114. Bobbin 112 preferably comprises a slanted section 115 for facilitating the winding of wire 114 inside bobbin 112, as explained below. Wire 114 further comprises leads 116, 118 for coupling to external circuit elements (not shown). Wire 114 is preferably magnet wire coated with enamel.」(第4欄第43-53行)(当審訳:図3Aは、一次巻線が絶縁材料内にカプセル化される前の、本発明に係る典型的な一次巻線110の斜視図を示す図である。一次巻線110は、好ましくはプラスチックから作られ、巻線114が巻回されたボビン112を有している。ボビン112は、ボビン112の内部に巻線114の巻き付けを容易にするための傾斜部115を備えている。巻線114は、外部回路(図示せず)に接続するためのリード線116、118を備えている。巻線114は、エナメルで被覆された巻き線であることが好ましい。)
(4)「 FIG. 3D is a drawing showing a cross sectional view across line 2-2 of primary winding 130, shown in FIG. 3C. Primary winding 130 includes an insulating enclosure 140. Insulating enclosure 140 further comprises two portions, a portion 142 corresponding to bobbin 112, shown in FIG. 3A, and a portion 144 which results from overmolding, as explained below. Primary winding 130 also comprises winding wire 146 which corresponds to winding wire 114, shown in FIG. 3A.」(第5欄第8-16行)(当審訳:図3Dは、図3Cに示されている一次巻線130の2-2線の断面図を示し、一次巻線130は、絶縁エンクロージャ140を備えている。絶縁エンクロージャ140は、更に、2つの部分、即ち、図3Aに示されたボビン112に対応する部分142と、オーバーモールドからなる部分144を含む。一次巻線130は、図3Aに示された巻線114に対応する巻線146からなっている。)
(5)「 The plastic chosen for bobbin 112, shown in FIG. 3A, preferably is a thermal plastic which is able to melt and reflow with overmolding plastic 144, shown in FIG. 3D, to form a homogeneous single part. Referring again to FIG. 3A, bobbin 112 preferably also locates the winding wire within a mold tool to guarantee a minimum thickness of insulation around the winding. An example of thermal plastic which could be used in the present invention is Rynite FR530.」(第5欄第29-37行)(当審訳:図3Aに示されているボビン112のために選択されたプラスチックは、図3Dに示されたオーバーモールド・プラスチック144とともに均質な単一部品を形成するために、溶融及びリフローすることができる熱可塑性樹脂であることが好ましい。再び図3Aを参照すると、ボビン112は、好ましくは、金型内に巻線ワイヤを配置し、巻線の周囲の絶縁体の最小の厚さを保証する。本発明で使用することのできるプラスチックの例は、ライナイト(Rynite) FR530である。)
(6)「 The overmolding operation is now described. Bobbin 112 is placed inside a mold tool. The overmolding plastic which forms portion 144 is injected into the mold tool. The injection pressure forces the overmolding plastic down to the bottom of bobbin 112 into winding wire 114. The injection temperature and mold tool temperature must be chosen and controlled to allow plastic reflow, but not cause damage to the enamel coating of wire 114. In order to withstand the heat, winding wire 114 preferably comprises high temperature magnetic wire. The preferred injection pressure and temperature are 50 bar and 286℃.,respectively.Thepreferredmoldtooltemperatureis60℃.」(第5欄第38-50行)(当審訳:オーバーモールド動作について説明する。ボビン112は、金型内に配置される。部分144を形成するオーバーモールド・プラスチックは金型に注入される。射出圧力は、オーバーモールド・プラスチックをボビン112の下方底部に押し出して巻線114に入る。射出温度及び金型温度は塑性リフローを可能にし、かつ、線114のエナメル被膜の損傷を引き起こさないように選択、制御されなければならない。熱に耐えるようにするため、巻線114は、好ましくは、高温の巻き線を備える。好ましい注入圧力及び温度は50バール及び286℃である。好適な金型温度は、60℃である。)
(7)「 FIG. 5 is an exploded view of a power transformer 210 according to the present invention. Power transformer 210 comprises a top ferrite core 212 having a center pole 214 and outer poles 216, 218, an insulated primary winding 220, a secondary winding 230 having two annulus windings 232, 234, and a bottom ferrite core 240 having a center pole 242 and outer poles 244, 246. Insulated primary winding 220 is disposed inside the two annulus windings 232, 234 of secondary winding 230. The annulus windings 232, 234 of secondary winding 230 comprises a two turn winding. Ferrite cores 212 and 240 couple magnetic flux generated by primary winding 220 to secondary winding 230.」(第6欄第27-39行)(当審訳:図5は、本発明による電力変圧器210の分解図である。電力変圧器210は、中心磁極214と外側磁極216、218を有する頂部フェライトコア212、絶縁された一次巻線220、2つの環状巻線232、234、及び、中心磁極242と外側磁極244、246を有する底部フェライトコア240を有している。絶縁された一次巻線220は二次巻線230の2個の環状巻線232、234の内側に配置されている。二次巻線230の環状巻線232、234は、2ターンの巻線を備えている。フェライトコア212、240は、一次巻線220により発生する磁束を二次巻線230に結合する。)
(8)「 Although the exploded view in FIG. 5 shows that primary winding 220 is separated from secondary winding 230, primary winding 220, when transformer 210 is assembled, is actually inserted between the two annulus windings 232, 234 of secondary winding 230. The surface of two annulus windings 232, 234 are coextensive with the two planar surfaces 227, 229 of annulus section 226 of primary winding 220 and preferably touch the planar surfaces 227, 229 for enhancing electromagnetic coupling, as explained below. If primary winding 220 has a slanted section 228, annulus winding 232 should have a portion 233 having substantially the same angle as section 228 so that primary winding 220 can fit into secondary winding 230.」(第6欄第40-53行)(当審訳:図5の分解図では、一次巻線220が二次巻線230から分離されて示されているが、変圧器210が組み立てられるとき、一次巻線220は、二次巻線230の2つの環状巻線232、234の間に挿入される。2つの環状巻線232、234の表面は、一次巻線220の円環部226の2の平坦な表面227、229と同一の広がりであり、好ましくは、以下に説明するように、電磁結合を良好にするために平坦面227、229に接触する。一次巻線220は傾斜部228を有している場合、環状巻線232は、一次巻線220を二次巻線230にはめ込むことができるように、セクション228と実質的に同一の角度を有する部分233を有していなければならない。)
(9)「 The components shown in FIG. 5, i.e., top ferrite core 212, primary winding 220, secondary winding 230 and bottom ferrite core 240, are coaxially assembled such that their vertical axes, shown as numeral reference 4 in FIG. 5, coincide. Top ferrite core 212 has a shaped recess 217 and bottom ferrite core 240 has a shaped recess 247 for accepting primary winding 220 and secondary winding 230. Primary winding 220 has a hole 225 for accepting center pole 214 of top ferrite core 212 and center pole 242 of bottom ferrite core 240. The diameter of the center openings of annulus windings 232, 234 are large enough so that center poles 214, 242 can pass through.」(第6欄第54-66行)(当審訳:図5に示す構成要素、すなわち、頂部フェライトコア212、一次巻線220、二次巻線230と、底部フェライトコア240は、垂直軸線(図5では参照符号4として示される)が一致するように同軸上に組み立てられる。一次巻線220および二次巻線230を受け入れるように、頂部フェライトコア212は凹部217を有し、底部フェライトコア240は凹部247を有している。一次巻線220は、頂部フェライトコア212の中心磁極214及び底部フェライトコア240の中心磁極242を受け入れるための孔225を有している。環状巻線232、234の中央開口部の直径は十分に大きく、中心磁極214、242が通過できるようになっている。)
(10)「 FIG. 6 shows a cross sectional view of the assembled power transformer 210 shown in FIG. 5 taken along the line 3-3. The parts in FIG. 6 which are the same as the corresponding parts in FIG. 5 are assigned the same numeral reference. FIG. 6 shows primary winding 220 being placed between annulus windings 232 and 234, and the windings are surrounded by cores 212 and 240. FIG. 6 further shows winding wire 258 being enclosed by bobbin 256 and overmolding portion 254.」(第6欄第67行-第7欄第7行)(当審訳:図6は、線3-3に沿って取られた、図5に示すように組み立てられたパワー変圧器210の断面図を示している。図5の対応する部品と同じである図6の部品には同じ参照符号が付されている。図6は、環状巻線232と234との間に配置されている一次巻線220を示しており、巻線はコア212および240によって囲まれている。図6は、さらにボビン256とオーバーモールド部254によって囲まれた巻線258を示している。)
(11)「 All the metal wire in primary winding 220 is totally enclosed by an insulating enclosure, except for two leads 222, 224 which are positioned outside transformer 210 and are used for coupled primary winding 220 to external circuit elements (not shown). As is explained above, leads 236, 238 of secondary winding 230 are positioned below bottom ferrite core 240. Thus, there is no creepage path between primary winding 220 and secondary winding 230 inside power transformer 210. In addition, the insulation enclosure used for primary winding 220 is able to withstand a Hi-Pot test of 3000 VAC. Consequently, the isolation requirements of UL 1950 and IEC 950 are easily met.」(第7欄第35-47行)(当審訳:一次巻線220の金属線は、変圧器210の外側に配置され一次巻線220を外部回路(図示せず)に結合するのに使用される2本のリード線222、224を除いて、絶縁エンクロージャによって全体的に囲まれている。以上説明したように、二次巻線230のリード線236、238は、フェライトコア240の下方に配置されている。このように、電力変圧器210の一次巻線220と二次巻線230間の沿面経路が存在しない。また、一次巻線220に使用される絶縁エンクロージャは、交流3000Vの耐電圧試験に耐えることができ、これにより、UL 1950とIEC 950の絶縁に関する要求は容易に満たされる。)
(12)「 As was noted above, secondary winding 230 has a large surface area compared with prior art secondary windings. One of the advantages of this large surface area is that a large amount of current can be carried by secondary winding 230. In high frequency operation, the amount of current carried by a conductor is proportional to its surface area. This is because the skin depth is small so that practically all the current flows along the surface. As an example, the skin depth for 1 MHz operation is about 0.066 mm, i.e., most of the current is concentrated within 0.066 mm from the surface, regardless of how thick the conductor is.」(第7欄第58行-第8欄第1行)(当審訳:上述したように、二次巻線230は、従来技術の二次巻線と比べて大きな表面積を有している。この大きな表面積の利点の一つは、二次巻線230によって運ばれる電流量を大きくすることができることである。また、高周波動作時の、導体によって通される電流の量は、その表面積に比例する。これは、表皮深さが小さいため、実質的に全ての電流が表面に沿って流れるためである。一例として、1MHzの表皮深さは約0.066mmである、すなわち、電流の大部分は、導体の厚さに拘わらず表面から0.066mm以内に集中している。)
よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「電力変圧器210は、中心磁極214と外側磁極216、218を有する頂部フェライトコア212、絶縁された一次巻線220、2つの環状巻線232、234、及び、中心磁極242と外側磁極244、246を有する底部フェライトコア240を有し(「(7)」より。)、絶縁された一次巻線220は二次巻線230の2つの環状巻線232、234の間に挿入され(「(7)」、「(8)」より。)、フェライトコア212、240は、一次巻線220により発生する磁束を二次巻線230に結合し(「(7)」より。)、環状巻線232と234との間に配置されている一次巻線220はコア212および240によって囲まれ、巻線258はボビン256とオーバーモールド部254によって囲まれ(「(10)」より。)、一次巻線130は、絶縁エンクロージャ140を備え、絶縁エンクロージャ140は、更に、2つの部分、即ち、ボビン112に対応する部分142と、オーバーモールドからなる部分144を含み(「(4)」より。)、一次巻線110は、プラスチックから作られ巻線114が巻回されたボビン112を有し(「(3)」より。)、ボビン112のために選択されたプラスチックは、オーバーモールド・プラスチック144とともに均質な単一部品を形成するために、溶融及びリフローすることができる熱可塑性樹脂であり(「(5)」より。)、オーバーモールド動作では、ボビン112は、金型内に配置され、部分144を形成するオーバーモールド・プラスチックは金型に注入され、射出圧力は、オーバーモールド・プラスチックをボビン112の下方底部に押し出して巻線114に入り(「(6)」より。)、頂部フェライトコア212、一次巻線220、二次巻線230と、底部フェライトコア240は、垂直軸線が一致するように同軸上に組み立てられ、一次巻線220および二次巻線230を受け入れるように、頂部フェライトコア212は凹部217を有し、底部フェライトコア240は凹部247を有し、一次巻線220は、頂部フェライトコア212の中心磁極214及び底部フェライトコア240の中心磁極242を受け入れるための孔225を有し、環状巻線232、234の中央開口部は中心磁極214、242が通過でき(「(9)」より。)、一次巻線220の金属線は絶縁エンクロージャによって全体的に囲まれ、一次巻線220に使用される絶縁エンクロージャは、交流3000Vの耐電圧試験に耐えることができ(「(11)」より。)、二次巻線230は、大きな表面積を有し、高周波動作時、二次巻線230によって運ばれる電流量を大きくすることができる(「(12)」より。)、電力変圧器210(「(7)」より。)。」
2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0002】一般に、電気自動車や大型サーバーなどに使用される電源トランスやDC-DCコンバーターとして、2次側の低圧用コイルに100A以上の大電流が流れるトランスが用いられている。このようなトランスにおいては、通常、低圧用コイルとして、抵抗値が小さい金属製の平板を用いることにより、上記大電流化の対応を行っている。【0003】ところで、上記低圧用コイルを金属製の平板で構成した場合には、2次側の低圧用コイルと1次側の高圧用コイルとを層巻き構造にすることができないため、低圧用コイルと高圧用コイルとを分割して配置させる構造を採っていたが、当該構造によっては結合が悪く、所望の特性を得ることが難しいという問題点があった。【0004】そこで、従来、図5~図8に示すように、ボビン40の巻胴部40aに線材tが巻回された高圧用コイル20、および開環リング状の平板部材からなる低圧用コイル30が互いの軸線方向に交互に積層され、かつ積層された積層体の軸線方向の外側に、円環板状のカバー部材50が同軸上に各々積層されたトランス10が用いられていた。なお、図中符号40bは、ボビン40の鍔部である。また図中符号60は、低圧用コイル30および高圧用コイル20を囲繞して、日字状の閉磁路を形成する一対のE型フェライトコアであり、カバー部材50が、当該E型フェライトコア60と低圧用コイル30との間に介装された絶縁部材である。」
よって、引用文献2には、次の技術が記載されているものと認められる。
「ボビン40の巻胴部40aに線材tが巻回された高圧用コイル20、および開環リング状の平板部材からなる低圧用コイル30が互いの軸線方向に交互に積層されたトランス10。」
3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
(1) 「一方、加工性にすぐれたフッ素樹脂として、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)がある。このPCTFEは電気的には低誘電率、高抵抗で、高耐湿性であり、しかも耐熱性、耐薬品性にもすぐれている。」(第1頁右下欄第9-13行。なお、旧字の「シツ」を常用漢字の「湿」と表記した。)
(2) 「第1表の架橋助剤を加えたPCTFE組成物を、型締圧力70tの射出成形機を用いて成形し、第1図に示す形状のトランス用ボビンを得た。第1図において、(1)はピン立て部、(2)はボビン本体、(3)はツバ部である。」(第2頁左下欄第5-9行)
第1図
よって、引用文献3には、次の技術が記載されているものと認められる。
「三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)は電気的には低誘電率、高抵抗であり(「(1)」より。)、架橋助剤を加えたPCTFE組成物を成形し、トランス用ボビンを得る(「(2)」より。)技術。」
4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献4には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
(1)「〔発明の背景〕近年、各種電子機器の発達に伴い、リレー、スイチツング、レギレーター等の電子部品に対してより高速化、高性能化が要求される様になった。この為、低誘電率、高抵抗の材料が必要となり、この点で、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は低誘電率、高抵抗の電気特性をもち、しかも耐薬品性、耐熱性に優れており理想的な素材といえる。」(第1頁左下欄第20行-同頁右下欄第7行)
(2)「〔実施例〕第1表の架橋助剤を加えた樹脂組成物を、型締圧力70tの射出成型機を用い、第1図に示した形状のトランス用ボビンを成形した。第1図においてはピン立て部、(2)はボビン本体、(3)はツバ部である。」(第2頁右下欄第16行-第3頁左上欄第1行)
第1図
よって、引用文献4には、次の技術が記載されているものと認められる。
「四フッ化エチレン樹脂(PTFE)は低誘電率、高抵抗の電気特性をもち(「(1)」より。)、架橋助剤を加えた樹脂組成物を、トランス用ボビンに成形する技術(「(2)」より)。」
5 引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献5には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0062】(2)第1樹脂層として用いられるオレフィン系ポリマ(図1~図4中のCで示される部分)ケース内に収容した部品を覆う第1樹脂層として用いられるオレフィン系ポリマの例を下記に示す。<樹脂1:オレフィン系ポリマ>高純度ジシクロペンタジエン(丸善石油化学(株)製、純度99%以上)50重量部、シクロオクタジエン(HULS社製 純度98.5%以上)50重量部、トリフェニルフォスフィン0.1重量部および2,5ジ-ターシャリブチルフェノール1重量部を配合し、この配合ワニスに式(2)で示されるメタセシス重合触媒0.1重量部を注型直前に添加し供試した。硬化条件は38℃×2時間+100℃×1時間+125℃×1時間とした。」
よって、引用文献5には、次の技術が記載されているものと認められる。
「ケース内に収容した部品を覆う第1樹脂層として、高純度ジシクロペンタジエンを配合したワニスを供試する技術。」
6 引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献6には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0012】【実施例】以下、図1~図11を参照しながら本発明の実施例を説明する。図1は、本実施例に係るスイッチング電源用のトランスを示す斜視図、図2はその縦断面図である。【0013】このトランスは、図示するように、同軸の磁気コア1と、一次コイル用ボビン2と二次コイル用ボビン3とを有する。一次コイル用ボビン2は多セクションタイプであり、熱硬化性樹脂、例えば不飽和ポリエステル系樹脂にて形成され、その軸方向中央部に隔壁4が一体に形成されている。この隔壁4によって、ボビン2には2つの巻回部5a及び5bが形成され、例えば絶縁被覆された銅線による一次コイル6は、この2つの巻回部5a及び5bに分割巻きされる。尚、図において、7は外部端子ピンを示す。【0014】二次コイル用ボビン3は、一次コイル6を封止するモールド樹脂Mにて一体に形成され、一次コイル用ボビン2の横に二次コイル用の巻回部5cをかたち作るようにして成形される。従って、磁気コア1は、一次コイル用ボビン2の貫通孔8と二次コイル用ボビン3の貫通孔9にわたって挿入される。この二次コイル用ボビン3の材料としては、一次コイル用ボビン2と同じに熱硬化性樹脂、例えば不飽和ポリエステル系樹脂が用いられる。尚、具体的には、一次コイル用ボビン2として、CE5100(商品名:松下電工)を用い、二次コイル用ボビン3として、CE2870(商品名:松下電工)を用いた。」
よって、引用文献6には、次の技術が記載されているものと認められる。
「スイッチング電源用のトランス(【0012】)は、一次コイル用ボビン2と二次コイル用ボビン3とを有し(【0013】)、二次コイル用ボビン3は、一次コイル6を封止するモールド樹脂Mにて一体に形成され、この二次コイル用ボビン3の材料としては、一次コイル用ボビン2と同じに熱硬化性樹脂、例えば不飽和ポリエステル系樹脂が用いられ、具体的には、一次コイル用ボビン2として、CE5100(商品名:松下電工)を用い、二次コイル用ボビン3として、CE2870(商品名:松下電工)を用いる(【0014】)、技術。」
7 引用文献7
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献7には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0008】図14の変圧器は、コア110、コア110に巻回された1次巻線(ボビン内側でコアに巻回されるので、図示省略)、テフロン(登録商標)などの絶縁性の材料からなるボビン130、及びボビン130に巻回された2次巻線140を含んでなる。そして、このような変圧器は、支持台160にボルト170などの締結手段で連結され、このような変圧器周囲にはバスバー150が備えられている。」
よって、引用文献7には、次の技術が記載されているものと認められる。
「コア110、コア110に巻回された1次巻線、テフロン(登録商標)などの絶縁性の材料からなるボビン130、及びボビン130に巻回された2次巻線140を含んでなる、変圧器。」
8 引用文献8
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献8には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
(1)「本発明に係る絶縁用モールドの実施例を添付図面に基づいて詳細に説明すれば、第1図及び第2図に示すように、コアー(4)に装着されたボビン(2)をある熱可遡性の合成樹脂で形成し、このボビン(2)に一次コイルと二次コイルからなるコイル(3)を捲着してトランス(1)を形成し、このトランス(1)の外周を、ボビン(2)を形成している熱可遡性合成樹脂と同一の合成樹脂からなる絶縁用モールド(5)で被覆してなるものである。」(第2頁左上欄第3-11行)
(2)「次に、本発明に係る絶縁用モールドの製造法は、次の通りである。即ち、トランス(1)を絶縁材で被覆するに当り、このトランス(1)を射出成形機の金型内に配置せしめ、この金型内に熱可遡性合成樹脂を射出せしめ、次いでこの金型を冷却してトランス(1)を熱可遡性合成樹脂で被覆するものである。従って、本発明の方法によれば、トランス(1)は熱可遡性合成樹脂で射出成形法により金型内で被覆されるため、この合成樹脂は、金型内で、この金型とトランス(1)との間の総ての空隙内に気密に行き渡り、しかも、熱硬化性合成樹脂で絶縁用モールドを形成する場合と異なり、成形時に気胞が発生するようなこともなく、又、従来の熱硬化性合成樹脂を使用する場合には、絶縁用モールドを成形する場合に硬化熱がトランスに長時間及ぶことになってトランスの品質を劣化させる原因ともなっていたが、本発明の場合の如く、射出成形法によれば、被覆されるトランス(1)が加熱される時間を極めて短時間にすることができて、それだけトランス(1)の品質の劣化を防止できるものである。」(第2頁右上欄第11行-同頁左下欄第10行)
よって、引用文献8には、次の技術が記載されているものと認められる。
「コアー(4)に装着されたボビン(2)をある熱可遡性の合成樹脂で形成し、このボビン(2)に一次コイルと二次コイルからなるコイル(3)を捲着してトランス(1)を形成し、このトランス(1)の外周を、ボビン(2)を形成している熱可遡性合成樹脂と同一の合成樹脂からなる絶縁用モールド(5)で被覆してなり(「(1)」より。)、トランス(1)は熱可遡性合成樹脂で射出成形法により金型内で被覆されるため、この合成樹脂は、金型内で、この金型とトランス(1)との間の総ての空隙内に気密に行き渡る(「(2)」より。)、技術。」
9 引用文献9
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献9には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。なお、「τ」については、分数表記に代え、「/」記号で記載した。)。
(1)「4.2.1二層誘電体図 4.1 のような均一電界内の二層誘電体を考え、それぞれの厚さを d1、d2、誘電率を ε1、ε2 とし、印加電圧を V とすると、各層に加わる電界の強さ E1、E2 は(4.1)式、(4.2)式で与えられます。図 4.1 二層誘電体のモデル」(第79頁第13-18行)
(2)「気体絶縁体と固体絶縁体からなる二層絶縁体においては、一般に、固体の絶縁破壊の強さ E (solid) が気体の絶縁破壊の強さ E (gas) より大きいので、気体の部分で絶縁破壊が起こります。図4.5は固体絶縁体の絶縁破壊試験に用いられる電極の端部ですが、高電圧電極の端部の空気層で絶縁破壊が起きます。図 4.5 電極端部における部分放電図4.1に示した二層誘電体の電界の計算結果を当てはめて求めてみることにします。電極端部のエアギャップに加わる電界を Ea、固体絶縁体試料に加わる電界を Es、エアギャップの厚さを d、試料の厚みを D、比誘電率をεとします。エアギャップの比誘電率が 1 であることを考慮すれば、図4.5の電極端部のエアギャップと固体絶縁体試料に(4.1)式と(4.2)式を適用すると、Ea とEs はつぎのように表せます。したがって、エアギャップに加わる電圧 Va はとなります。厚さ D と誘電率 ε の比をτ=D/εとすると、エアギャップの分担電圧 Va と印加電圧V の関係を表す式は(4.10)となります。」(第82頁第12行-第83頁第13行)
よって、引用文献9には、次の技術が記載されているものと認められる。
「気体絶縁体と固体絶縁体からなる二層絶縁体においては、一般に、固体の絶縁破壊の強さ E (solid) が気体の絶縁破壊の強さ E (gas) より大きいので、気体の部分で絶縁破壊が起こり、エアギャップの厚さを d、試料の厚みを D、比誘電率をεとし、厚さ D と誘電率 ε の比をτ=D/εとすると、エアギャップの分担電圧 Va と印加電圧V の関係を表す式はとなること。」
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1では、「頂部フェライトコア212、一次巻線220、二次巻線230と、底部フェライトコア240は、垂直軸線が一致するように同軸上に組み立てられ」、「一次巻線220および二次巻線230を受け入れるように、頂部フェライトコア212は凹部217を有し、底部フェライトコア240は凹部247を有し」、「一次巻線220」は、「孔225」で「頂部フェライトコア212の中心磁極214及び底部フェライトコア240の中心磁極242を受け入れ」、「二次巻線230の2つの」「環状巻線232、234の中央開口部は中心磁極214、242が通過でき」、「頂部フェライトコア212」と「底部フェライトコア240」は「一次巻線220により発生する磁束を二次巻線230に結合し」ているから、引用発明1における「中心磁極214と外側磁極216、218を有する頂部フェライトコア212」と「中心磁極242と外側磁極244、246を有する底部フェライトコア240」が、本願発明1における「磁路を構成する脚部を有するコア」に相当する。
イ 引用発明1における「一次巻線220は、頂部フェライトコア212の中心磁極214及び底部フェライトコア240の中心磁極242を受け入れるための孔225を有し、環状巻線232、234の中央開口部は中心磁極214、242が通過でき」るから、引用発明1における「一次巻線220」、及び「環状巻線232、234」からなる「二次巻線230」が、本願発明1における「前記脚部に巻装される複数の巻線」に相当する。
ウ 引用文献1の摘記事項(2)に記載されているとおり、ボビンは、一次巻線と2つのフェライトコアの間の絶縁を提供するものであるから、引用発明1における「プラスチックから作られ」た「ボビン112」と、本願発明1における「低誘電率と高絶縁性とを有する樹脂材料で成形されたボビン」とは「高絶縁性を有する樹脂材料で成形されたボビン」の点で共通する。
しかしながら、本願発明1における「ボビン」の樹脂材料は「低誘電」であるのに対し、引用発明1における「ボビン112」の「プラスチック」については、誘電率が明らかでない点で相違する。
エ 引用発明1における「一次巻線220に使用される絶縁エンクロージャは、交流3000Vの耐電圧試験に耐えることができ」るとされているから、引用発明1における「一次巻線220」が本願発明1における「前記複数の巻線のうち高電圧が印加される巻線」に相当する。
オ 引用発明1における「一次巻線110は、プラスチックから作られ巻線114が巻回されたボビン112を有し、ボビン112のために選択されたプラスチックは、オーバーモールド・プラスチック144とともに均質な単一部品を形成するために、溶融及びリフローすることができる熱可塑性樹脂であり、」「オーバーモールド動作では、ボビン112は、金型内に配置され、部分144を形成するオーバーモールド・プラスチックは金型に注入され、射出圧力は、オーバーモールド・プラスチックをボビン112の下方底部に押し出して巻線114に入」ることと、本願発明1における「前記複数の巻線のうち高電圧が印加される巻線は、前記ボビンに巻き回されているとともに、前記ボビンを形成する前記樹脂材料と同一の樹脂材料で気密封止されることによって、前記ボビンと一体に形成されており、」とは「前記複数の巻線のうち高電圧が印加される巻線は、前記ボビンに巻き回されているとともに、樹脂材料で気密封止されることによって、前記ボビンと一体に形成されており、」の点で共通する。
しかしながら、本願発明1では気密封止の樹脂材料が「前記ボビンを形成する前記樹脂材料と同一」の樹脂材料であるのに対し、引用発明1では「オーバーモールド・プラスチック」は「ボビン112のために選択されたプラスチック」と「均質な単一部品を形成する」ものの、「ボビン112のために選択されたプラスチック」と同一であることは示されていない点で相違する。。
カ 本願発明1では「二層誘電体モデルにおいて、下記(1)式で表される、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層での部分放電開始電圧(Vpd)が、所定の電圧値となるように、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)と、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)と、比誘電率(εr)を有する前記樹脂材料とが選択され、
Vpd = {d1+(d2/εr)}・Vp/d1 (1)
Vpd;部分放電開始電圧[Vrms]、
Vp;パッシェン(Paschen)電圧[Vrms]、
d1;空気層の厚さ[m]、
d2;樹脂材料の厚さ[m]、
εr;樹脂材料の比誘電率、」であるのに対し、引用発明1ではそのような選択は示されていない点で相違する。
キ 本願発明1では「前記樹脂材料は、ジシクロペンタジエン、PTFE(四フッ化エチレン)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS(スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体)、及びAS(スチレン・アクリロニトリル共重合体)の中から選択された少なくとも1種の樹脂材料である」のに対し、引用発明1では「ボビン112のために選択されたプラスチック」と、「射出」される「オーバーモールド・プラスチック」とが、ともに「熱可塑性樹脂」であることは明らかであるものの、具体的な材料が特定されていない点で相違する。
ク 引用発明1における「電力変圧器210」は、「交流3000Vの耐電圧試験に耐え」、「高周波動作」するものであるから、本願発明1における「高電圧高周波絶縁トランス」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「磁路を構成する脚部を有するコアと、前記脚部に巻装される複数の巻線と、高絶縁性を有する樹脂材料で成形されたボビンと、を備え、前記複数の巻線のうち高電圧が印加される巻線は、前記ボビンに巻き回されているとともに、樹脂材料で気密封止されることによって、前記ボビンと一体に形成されている、高電圧高周波絶縁トランス。」
(相違点1)
本願発明1における「ボビン」の樹脂材料は「低誘電」であるのに対し、引用発明1における「ボビン112」の「プラスチック」については、誘電率が明らかでない点。
(相違点2)
本願発明1では気密封止の樹脂材料が「前記ボビンを形成する前記樹脂材料と同一」の樹脂材料であるのに対し、引用発明1では「オーバーモールド・プラスチック」は「ボビン112のために選択されたプラスチック」と「均質な単一部品を形成する」ものの、「ボビン112のために選択されたプラスチック」と同一であることは示されていない点。
(相違点3)
本願発明1では「二層誘電体モデルにおいて、下記(1)式で表される、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層での部分放電開始電圧(Vpd)が、所定の電圧値となるように、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)と、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)と、比誘電率(εr)を有する前記樹脂材料とが選択され、
Vpd = {d1+(d2/εr)}・Vp/d1 (1)
Vpd;部分放電開始電圧[Vrms]、
Vp;パッシェン(Paschen)電圧[Vrms]、
d1;空気層の厚さ[m]、
d2;樹脂材料の厚さ[m]、
εr;樹脂材料の比誘電率、」であるのに対し、引用発明1ではそのような選択は示されていない点。
(相違点4)
本願発明1では「前記樹脂材料は、ジシクロペンタジエン、PTFE(四フッ化エチレン)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS(スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体)、及びAS(スチレン・アクリロニトリル共重合体)の中から選択された少なくとも1種の樹脂材料である」のに対し、引用発明1では「ボビン112のために選択されたプラスチック」と「射出」される「オーバーモールド・プラスチック」とが、ともに「熱可塑性樹脂」であることは明らかであるものの、具体的な材料が特定されていない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、まず、相違点1と相違点3とを併せて検討する。
引用文献9に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「気体絶縁体と固体絶縁体からなる二層絶縁体においては、一般に、固体の絶縁破壊の強さ E (solid) が気体の絶縁破壊の強さ E (gas) より大きいので、気体の部分で絶縁破壊が起こり、エアギャップの厚さを d、試料の厚みを D、比誘電率をεとし、厚さ D と誘電率 ε の比をτ=D/εとすると、エアギャップの分担電圧 Va と印加電圧 V の関係を表す式はとなること。」
上記(4.10)式における「試料の厚み」「D」が、本願発明1における「ボビン」の「樹脂材料」「の厚さ」「d2」に相当する。また、上記(4.10)式における「エアギャップの厚さ」「d」が、本願発明1における「コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層」「の厚さ」「d1」に相当する。
しかしながら、引用文献9には、上記(4.10)式を「コア」と「ボビン」との間の「気体の絶縁破壊」に適用することは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献1の摘記事項(2)には、「ボビン56は、一次巻線58と2つのフェライトコア54, 72の間の絶縁を提供する。」と記載されているが、該記載は、ボビン56が、一次巻線58と2つのフェライトコア54, 72の間の短絡を防止する機能を有することを意味するにすぎず、ボビン56とコアとの間の空気層で絶縁破壊(部分放電)が生ずる可能性があることを示す記載ではない。
さらに、引用文献3、引用文献4及び引用文献7は、それぞれトランス用のボビンを「低誘電率、高抵抗」という電気的特性を有する「三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)」や「四フッ化エチレン樹脂(PTFE)」、「テフロン(登録商標)」で形成することを示すにすぎず、トランス用ボビンを「低誘電率」な樹脂で形成することで「ボビン」と「コア」との間の空気層における電界を緩和し、該空気層で絶縁破壊(部分放電)が生ずるのを防止することができることまで教示するものではない。
また、引用文献6、引用文献8は、トランスのボビンを形成する樹脂とコイルのモールド樹脂の異同について記載しているにすぎす、「ボビン」と「コア」との間の空気層における絶縁破壊(部分放電)については、記載も示唆もされていない。
さらに、引用文献5にも「ジシクロペンタジエン」を配合した注型用のワニスが示されているに過ぎす゛、引用文献2にも、ボビンの具体的な材料は記載されていない。
よって、いずれの引用文献にも、高電圧高周波絶縁トランスにおける、「ボビン」と「コア」との間の空気層における電界を緩和し、該空気層で絶縁破壊(部分放電)が生ずるのを防止するために「ボビン」を「低誘電率」な樹脂で形成することは記載も示唆もされていないのであるから、高電圧高周波絶縁トランスにおけるボビンの誘電率を、「コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)」と、「前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)」との関係において、「(1)式」で表されるような、比誘電率(εr)を有する樹脂材料を選択して上記相違点1及び相違点3に係る構成とすることは、当業者といえども、容易になし得たことではない。
したがって、本願発明1は、相違点2、4について検討するまでもなく、当業者であっても引用文献1に記載された発明及び引用文献2-9に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2.本願発明2ないし7について
請求項2ないし7は、請求項1を引用する請求項である。よって、本願発明2ないし7も、本願発明1と同じく、「ボビン」の樹脂材料は「低誘電」であり、「二層誘電体モデルにおいて、下記(1)式で表される、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層での部分放電開始電圧(Vpd)が、所定の電圧値となるように、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)と、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)と、比誘電率(εr)を有する前記樹脂材料とが選択され、」((1)式の記載は省略した。)という構成を有しているから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-9に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第7 原査定について
1.理由1(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により、請求項1は、「低誘電率と高絶縁性とを有する樹脂材料で成形されたボビンと、を備え」、「二層誘電体モデルにおいて、下記(1)式で表される、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層での部分放電開始電圧(Vpd)が、所定の電圧値となるように、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)と、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)と、比誘電率(εr)を有する前記樹脂材料とが選択され、
Vpd = {d1+(d2/εr)}・Vp/d1 (1)
Vpd;部分放電開始電圧[Vrms]、
Vp;パッシェン(Paschen)電圧[Vrms]、
d1;空気層の厚さ[m]、
d2;樹脂材料の厚さ[m]、
εr;樹脂材料の比誘電率、
前記樹脂材料は、ジシクロペンタジエン、PTFE(四フッ化エチレン)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS(スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体)、及びAS(スチレン・アクリロニトリル共重合体)の中から選択された少なくとも1種の樹脂材料である」(下線部は、補正箇所を示す)と補正されており、「ボビン」の「樹脂材料」が具体的に特定されているから、原査定の理由1は解消している。
2.理由2(特許法第29条第2項)について
審判時の補正により、本願発明1ないし7は、「ボビン」の樹脂材料が「低誘電率」であり、「二層誘電体モデルにおいて、下記(1)式で表される、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の空気層での部分放電開始電圧(Vpd)が、所定の電圧値となるように、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記空気層の厚さ(d1)と、前記コアと前記高電圧が印加される巻線との間の前記樹脂材料の厚さ(d2)と、比誘電率(εr)を有する前記樹脂材料とが選択され、」((1)式の記載は省略した。)という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-9に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由2を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2020-012555