2020-008321
ポリビニルアルコール系フィルム、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、及び偏光膜
- 審判番号
- 2020-008321
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-542783外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年06月16日
- 審決日
- 2021年04月07日
- 公報発行日
- 2021年06月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】三菱ケミカル株式会社
- 【請求人代理人】西藤 征彦
- 【請求人代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【請求人代理人】西藤 優子
- 【請求人代理人】寺尾 茂泰
- 分類
- P18 .113-WY (G02B) / P18 .121-WY (G02B) / P18 .536-WY (G02B) / P18 .537-WY (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 手続等の経緯
特願2016-542783号(以下「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)6月23日(先の出願に基づく優先権主張 2015年(平成27年)6月24日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 理由1(委任省令要件)
本件出願は、発明の詳細な説明が経済産業省令で定めるところにより記載されたものでないので、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由2(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
3 理由3(新規性)、理由4(進歩性)
本件出願の請求項1~4、6、7及び9~11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
本件出願の請求項1~11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.国際公開第2014/050697号
第3 本件発明
本件出願の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。)は、令和3年1月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。
「 偏光膜の原反として用いられるポリビニルアルコール系フィルムであって、ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを7~12重量%含有するポリビニルアルコール系樹脂からなり、厚さD(mm)、30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をA(N/mm2)、50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をB(N/mm2)とした時に、下式(1)及び(2)を満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。式(1)0.6≦D×A≦1.2式(2)0.2≦D×B≦0.4」
なお、本件発明2~7は、本件発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。また、本件発明8は、本件発明1~7のいずれかの製造方法の発明である。加えて、本件発明9は、本件発明1~7のいずれかの偏光フィルムを具備する「偏光膜」の発明である。
第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
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1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2014/050697号(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、実施例における項目にある下線とは別に、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(1)「技術分野[0001] 本発明は、偏光フィルム製造用の原反フィルムとして好適なポリビニルアルコールフィルム、その製造方法およびそれを用いた偏光フィルムの製造方法に関する。また本発明は、薄型の偏光板の製造に有用な偏光性能に優れた偏光フィルムおよびそれを用いて製造した偏光板に関する。・・・省略・・・発明が解決しようとする課題続きを表示(全22行)[0006] 偏光フィルム製造用の原反フィルムとして使用されるPVAフィルムは、延伸時の皺の発生を防止するなどの理由から膨潤度を190~210%程度にすることが必要になることがある。ところが従来公知の方法で厚み40μm程度以下の薄型のPVAフィルムを製膜した場合には、従来厚みのPVAフィルムを製膜した場合と比較して製膜時に乾燥しやすいため、結晶化度が低くて膨潤度の高いPVAフィルムとなってしまう。このようなPVAフィルムの結晶化度を上げて膨潤度を190~210%程度に低下させるためには熱処理を行うことが考えられるが、従来公知の熱処理方法によって膨潤度を低下させた場合には延伸応力の高いフィルムとなってしまい、偏光フィルム製造時の一軸延伸処理においてフィルムが破断しやすくなって偏光フィルムの収率の低下を招く問題があった。[0007] そこで本発明は、延伸時の皺の発生を低減することができるとともに、延伸応力が低く延伸時の破断が低減されて薄型の偏光フィルムを収率よく製造することのできるPVAフィルム、その製造方法およびそれを用いた偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。[0008] また、PVAフィルムを原反フィルムとして用いて製造された従来の偏光フィルムを薄型の偏光板の製造に用いた場合には、用いられるガラスが薄いことなどに起因して偏光板に反りが生じやすい。特に偏光性能を向上させるために原反フィルムをより高い延伸倍率で延伸した場合にこのような問題が生じやすい。[0009] そこで本発明は、薄型の偏光板を製造する場合であっても反りが生じにくい偏光性能に優れた偏光フィルムおよびそれを用いて製造した偏光板を提供することをも目的とする。課題を解決するための手段[0010] 本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、厚みが40μm以下の薄型のPVAフィルムに対して、特定の条件下で湿熱処理を施すことによって膨潤度が190~210%である厚みが40μm以下のPVAフィルムを製造すると、水中で延伸した後の膨潤度が260%以上である従来にないPVAフィルムが効率よく得られること、および、このようなPVAフィルムは延伸時の皺の発生が低減されるとともに、延伸応力が低く延伸時の破断が低減されて薄型の偏光フィルムを収率よく製造することができることを見出した。また、収縮応力が特定範囲にある偏光性能に優れた偏光フィルムによれば、偏光フィルムおよび偏光板に係る上記目的が達成されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。[0011] すなわち、本発明は、[1]膨潤度(A)が190~230%である厚みが40μm以下のPVAフィルムであって、30℃の水中で延伸倍率3倍に延伸した後の膨潤度(B)が260%以上であるPVAフィルム;[2]偏光フィルム製造用の原反フィルムである、上記[1]のPVAフィルム;[3]膨潤度(A)が190~230%である厚みが40μm以下のPVAフィルムの製造方法であって、膨潤度(A)が250%以上のPVAフィルムを温度55~100℃、相対湿度80%RH以上の条件下で200秒以上湿熱処理する工程を有する製造方法;[4]湿熱処理する工程の後に、温度90~130℃の条件下で10秒以上熱処理する工程をさらに有する、上記[3]の製造方法;[5]上記[2]のPVAフィルムを染色および一軸延伸する工程を有する偏光フィルムの製造方法;[6]二色性比が55以上の偏光フィルムであって、配向方向を固定した状態で、温度80℃、相対湿度5%の条件下で1時間経過した際の配向方向の収縮応力が73N/mm2以下である、偏光フィルム;[7]厚みが20μm以下である、上記[6]の偏光フィルム;および、[8]上記[6]または[7]の偏光フィルムを用いて製造した偏光板;に関する。発明の効果[0012] 本発明によれば、延伸時の皺の発生を低減することができるとともに、延伸応力が低く延伸時の破断が低減されて薄型の偏光フィルムを収率よく製造することのできるPVAフィルム、その製造方法およびそれを用いた偏光フィルムの製造方法が提供される。また本発明によれば、薄型の偏光板を製造する場合であっても反りが生じにくい偏光性能に優れた偏光フィルムおよびそれを用いて製造した偏光板が提供される。」
(2)「発明を実施するための形態[0014] 以下に本発明について詳細に説明する。本発明のPVAフィルムは膨潤度(A)が190~230%であることが必要であり、膨潤度(A)は、195%以上であることが好ましく、また、210%以下であることが好ましく、205%以下であることがより好ましい。膨潤度(A)が190%未満であると延伸応力が高くなり、延伸時に破断が多発する。一方、膨潤度(A)が230%を超えると延伸時に皴が発生して工程通過性が低下する。[0015] 膨潤度(A)はPVAフィルムを水中に浸漬した際の保水能力を示す指標であり、PVAフィルムをそのまま(延伸を施すことなく)30℃の水中に30分間浸漬した後の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除すことによって百分率として求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。続きを表示(全21行)[0016] また本発明のPVAフィルムは、30℃の水中で延伸倍率3倍に延伸した後の膨潤度(B)が260%以上であることが必要であり、265%以上であることが好ましく、270%以上であることがより好ましい。当該膨潤度(B)が260%未満であると延伸応力が高くなり、延伸時に破断が生じやすい。なお当該膨潤度(B)があまりに高いと延伸時に皺が発生しやすくなって工程通過性が低下する傾向があることから、当該膨潤度(B)は320%以下であることが好ましく、300%以下であることがより好ましい。[0017] 当該膨潤度(B)はPVAフィルムを30℃の水中で延伸倍率3倍に延伸した後の当該PVAフィルムの保水能力を示す指標であり、PVAフィルムを30℃の水中で240%/分の延伸速度で延伸倍率3倍に延伸した後の質量を、延伸した後105℃で16時間乾燥した後の質量で除すことによって百分率として求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。なお本発明を何ら限定するものではないが、PVAフィルムを水中で延伸すると延伸初期にはPVAフィルム中の微結晶が溶解して膨潤度が高くなり、延伸倍率3倍付近を過ぎると今度は配向結晶化によって膨潤度が低下すると考えられる。本発明においては水中で延伸倍率3倍に延伸した際の膨潤度(B)を特定することによってPVAフィルムを特定する。・・・省略・・・[0026] 本発明のPVAフィルムは可塑剤を含有することが好ましい。当該可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールなどを挙げることができ、本発明のPVAフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。[0027] 本発明のPVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、それに含まれるPVA100質量部に対して、1~20質量部の範囲内であることが好ましく、3~17質量部の範囲内であることがより好ましく、5~15質量部の範囲内であることがさらに好ましい。可塑剤が1質量部以上であることにより、PVAフィルムの延伸性をより向上させることができる。一方、可塑剤が20質量部以下であることにより、PVAフィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを防止することができる。・・・省略・・・[0031] 本発明のPVAフィルムの厚みは、薄型の偏光フィルムを得ることができ、当該偏光フィルムさらにはそれを用いた偏光板の収縮応力を低減させ、積層される薄型のガラスが反ることを防止するなどの観点から、40μm以下であることが必要であり、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、15μm以下であることが特に好ましい。一方、あまりに薄いPVAフィルムはその製造や取り扱いが困難になる傾向があることから、当該厚みは5μm以上であることが好ましい。[0032] 本発明は、膨潤度(A)が190~230%である厚みが40μm以下のPVAフィルムの製造方法であって、膨潤度(A)が250%以上のPVAフィルムを温度55~100℃、相対湿度80%RH以上の条件下で200秒以上湿熱処理する工程を有する製造方法を包含する。当該製造方法によれば、膨潤度(B)が特定範囲にある上記した本発明のPVAフィルムを効率よく製造することができる。・・・省略・・・[0044] 具体的な製膜方法としては、T型スリットダイ、ホッパープレート、I-ダイ、リップコーターダイなどを用いて、製膜原液を回転する加熱したロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出し、このロール(あるいはベルト)上に吐出された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥してPVAフィルムとするか、あるいは、このように乾燥させた後、1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥したり、熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥したりしてPVAフィルムを製膜する方法が挙げられる。製膜後のPVAフィルムは、巻き取り装置により一旦巻き取った後に必要に応じて巻き出すなどして後述する湿熱処理を施してもよいが、上記のようにして連続的に製膜されたPVAフィルムに対して後述する湿熱処理を連続的に施した後に巻き取ってもよい。[0045] 製膜に使用されるロールの表面温度としては、例えば、50~100℃とすることができる。また、製膜原液をベルト上に吐出する場合の乾燥温度としては、例えば、50~100℃とすることができる。[0046] 湿熱処理における温度は55~100℃の範囲内である。湿熱処理の温度が55℃未満であると湿熱処理の効果が十分に発揮されず、上記した膨潤度(A)を有するPVAフィルムを得るのが困難になったり、後述する熱処理をさらに施して上記した膨潤度(A)を有するPVAフィルムにしたとしても膨潤度(B)が260%未満になって延伸応力が高くなり、延伸時に破断が生じやすくなったりする。一方、湿熱処理の温度が100℃を超えると得られるPVAフィルムの膨潤度(B)が260%未満になって延伸応力が高くなり、延伸時に破断が生じやすい。本発明のPVAフィルムをより効率的に製造することができることから、湿熱処理の温度は58~90℃の範囲内であることが好ましく、60~80℃の範囲内であることがより好ましい。・・・省略・・・[0049] 本発明のPVAフィルムの製造方法では、上記した湿熱処理によって膨潤度(A)が190~230%であるPVAフィルムとしてもよいが、当該湿熱処理後のPVAフィルムの膨潤度(A)が230%を超える場合において当該湿熱処理後に熱処理をさらに施すことによって最終的に膨潤度(A)が190~230%であるPVAフィルムとしてもよい。湿熱処理後にこのような熱処理を施せば、より短い湿熱処理時間で膨潤度(B)が上記範囲にあるPVAフィルムを製造することができ、生産性の観点から好ましい。[0050] 熱処理の効果を高める観点から、上記の熱処理は温度90~130℃の条件下で10秒以上行うことが好ましい。熱処理の温度が90℃以上であることにより膨潤度(A)をより効率的に190~230%にすることができる。一方、熱処理の温度が130℃以下であることによりPVAフィルムの膨潤度(B)が低下するのを抑制することができる。本発明のPVAフィルムをより効率的に製造することができることから、熱処理の温度は100~125℃であることがより好ましく、110~120℃であることがさらに好ましい。[0051] また、熱処理時間が10秒以上であることにより熱処理の効果を高めることができる。熱処理の効果の観点から、熱処理時間は30秒以上であることがより好ましい。一方、熱処理時間の上限に関し、PVAフィルムの膨潤度(A)が190~230%となるまでの時間を採用することができるが、PVAフィルムが黄変するのを防ぐ観点から15分以下であることが好ましい。[0052] 熱処理における相対湿度は特に制限されず、100℃を超える温度で熱処理をする場合には任意の相対湿度を採用することができ、100℃以下の温度で熱処理をする場合には相対湿度80%RH未満とすることができる。」
(3)「実施例[0068] 本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例および参考例において採用された各測定方法を以下に示す。・・・省略・・・[0071] PVAフィルムの延伸応力の測定続きを表示(全19行)測定対象となるPVAフィルムから幅方向に3cm、長さ方向に10cmのサンプルを切り出し、長さ方向に一軸延伸するためにチャック間が1.5cmになるように延伸治具に挟み、30℃の蒸留水中に60秒間浸漬した。その後、36mm/分(240%/分)の延伸速度で長さ方向に一軸延伸しながら延伸倍率に対する応力を連続的に測定した。そして、延伸倍率が3.0倍の時の応力を延伸応力とした。なお、応力の測定には株式会社島津製作所製のオートグラフ(AG-I)を用い、また、測定された力を延伸前の断面積(サンプル厚み×サンプル幅(3cm))で除すことにより応力とした。同様の測定を5回行い、その平均値を採用した。・・・省略・・・[0074] [実施例1]PVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、重合度2,400、けん化度99.95モル%)100質量部、可塑剤としてグリセリン6質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部および水からなる揮発分率66質量%の製膜原液を60℃の金属ドラムに流延し、揮発分率(含水率)が5質量%になるまで乾燥して厚み30μmのPVAフィルム(処理前のPVAフィルム)とした。このPVAフィルムの膨潤度(A)は480%であった。[0075] このPVAフィルムを、温度60℃、相対湿度90%RHの条件下で50分湿熱処理した。得られたPVAフィルム(処理後のPVAフィルム)の膨潤度(A)は200%、厚みは30μm、膨潤度(B)は272%、延伸応力は6.8MPaであった。なお延伸応力の測定時に皺の発生(延伸時の皺の発生)はみられなかった。[0076] 上記のPVAフィルム(処理後のPVAフィルム)を、温度30℃の水中に浸漬している間に240%/分の延伸速度で元の長さの1.1倍に長さ方向(MD)に一軸延伸(1段目延伸)した後、ヨウ素を0.04質量%およびヨウ化カリウムを4質量%の濃度で含有する温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬している間に240%/分の延伸速度で元の長さの2.4倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(2段目延伸)し、次いでホウ酸を3質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬している間に240%/分の延伸速度で元の長さの2.7倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(3段目延伸)し、さらにホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを6質量%の濃度で含有する温度56℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬している間に240%/分の延伸速度で元の長さの6.4倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(4段目延伸)し、その後、ヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のヨウ化カリウム水溶液中に5秒間浸漬することによりフィルムを洗浄し、続いて60℃の乾燥機で90秒間乾燥することにより、厚み12μmの偏光フィルムを製造した。得られた偏光フィルムの二色性比および収縮応力を上記した方法により測定したところ、二色性比は63、収縮応力は66.6N/mm2であった。[0077] [実施例2~5、比較例1~4および参考例1]処理前のPVAフィルムの構成、湿熱処理条件および熱処理条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAフィルム(処理後のPVAフィルム)を得た。なお、湿熱処理および熱処理の両方を施した実施例3では、湿熱処理後に熱処理を施した。また、熱処理では相対湿度30%RH未満の条件を採用した。得られた各PVAフィルムの膨潤度(A)、厚み、膨潤度(B)、延伸応力、および延伸時の皺の発生の有無を表1に示した。[0078] 実施例3および比較例1のPVAフィルム(処理後のPVAフィルム)を用いて、実施例1と同様にして厚み12μmの偏光フィルムを製造した。但し、延伸性の最適化のため、4段目延伸の際に使用されるホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液の温度について、実施例3では57℃を、比較例1では58℃をそれぞれ採用した。また、比較例1においては、延伸時の破断を抑制するために、4段目延伸の際の延伸速度を120%/分とした。得られた偏光フィルムの二色性比および収縮応力を表1に示した。[0079] [比較例5]PVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物、重合度2,400、けん化度99.95モル%)100質量部、可塑剤としてグリセリン6質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部および水からなる揮発分率66質量%の製膜原液を60℃の金属ドラムに流延し、揮発分率(含水率)が5質量%になるまで乾燥して厚み30μmのPVAフィルム(処理前のPVAフィルム)とした。このPVAフィルムの膨潤度(A)は480%であった。[0080] このPVAフィルムを、温度140℃、相対湿度30%RH未満の条件下で3分熱処理した。得られたPVAフィルムの膨潤度(A)は198%であった。その後、温度60℃、相対湿度90%RHの条件下で10分湿熱処理した。得られたPVAフィルム(処理後のPVAフィルム)の膨潤度(A)は181%、厚みは30μmであった。」
(4)「 請求の範囲[請求項1] 膨潤度(A)が190~230%である厚みが40μm以下のポリビニルアルコールフィルムであって、30℃の水中で延伸倍率3倍に延伸した後の膨潤度(B)が260%以上であるポリビニルアルコールフィルム。[請求項2] 偏光フィルム製造用の原反フィルムである、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。[請求項3] 膨潤度(A)が190~230%である厚みが40μm以下のポリビニルアルコールフィルムの製造方法であって、膨潤度(A)が250%以上のポリビニルアルコールフィルムを温度55~100℃、相対湿度80%RH以上の条件下で200秒以上湿熱処理する工程を有する製造方法。[請求項4] 湿熱処理する工程の後に、温度90~130℃の条件下で10秒以上熱処理する工程をさらに有する、請求項3に記載の製造方法。[請求項5] 請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルムを染色および一軸延伸する工程を有する偏光フィルムの製造方法。[請求項6] 二色性比が55以上の偏光フィルムであって、配向方向を固定した状態で、温度80℃、相対湿度5%の条件下で1時間経過した際の配向方向の収縮応力が73N/mm2以下である、偏光フィルム。[請求項7] 厚みが20μm以下である、請求項6に記載の偏光フィルム。[請求項8] 請求項6または7に記載の偏光フィルムを用いて製造した偏光板。」
2 引用発明
引用文献1の上記1の記載に基づけば、引用文献1には、請求項1を引用する請求項2に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「膨潤度(A)が190~230%である厚みが40μm以下のポリビニルアルコールフィルムであって、30℃の水中で延伸倍率3倍に延伸した後の膨潤度(B)が260%以上であり、偏光フィルム製造用の原反フィルムである、ポリビニルアルコールフィルム。」
第4 対比・判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明は、「ポリビニルアルコールフィルムであって」、「偏光フィルム製造用の原反フィルムである」。
上記構成からみて、引用発明の「偏光フィルム」及び「ポリビニルアルコールフィルム」は、それぞれ、本件発明1の「偏光膜」及び「ポリビニルアルコール系フィルム」に相当する。また、引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は、本件発明1の「ポリビニルアルコール系フィルム」における、「偏光膜の原反として用いられる」との要件を満たす。
さらに、技術的にみて、引用発明の「ポリビニルアルコールフィルム」は、ポリビニルアルコール樹脂からなる。そうしてみると、引用発明は、本件発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂からなる」との要件を満たす。
(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、「偏光膜の原反として用いられるポリビニルアルコール系フィルムであって、ポリビニルアルコール系樹脂からなる、ポリビニルアルコール系フィルム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
「ポリビニルアルコール系樹脂」が、本件発明1は、「ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを7~12重量%含有する」のに対して、引用発明は、「ポリビニルアルコール系樹脂に対してグリセリンを」「含有する」かどうかが一応明らかでなく、また、グリセリンを「7~12重量%」含有するとは特定されていない点。
(相違点2)
「ポリビニルアルコール系フィルム」が、本件発明1は、「厚さD(mm)、30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をA(N/mm2)」、「50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力をB(N/mm2)」「とした時に」、「式(1)0.6≦D×A≦1.2」、「式(2)0.2≦D×B≦0.4」「を満足する」のに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。
(3)判断
ア 新規性について
本件発明1と引用発明は、少なくとも上記(2)で述べた点で相違するから、本件発明1と引用発明は、同一であるということができない。
イ 進歩性について
「グリセリン」は可塑剤として機能し、延伸時の張力に関係するので、上記相違点1及び2についてまとめて検討する。
相違点2に係る「ポリビニルアルコール系フィルム」の「厚さD(mm)」に関して、引用文献1の[0031]には、「40μm以下であることが必要であり、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、15μm以下であることが特に好ましい」と記載されている。しかしながら、引用文献1には、「30℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力」及び「50℃の水中においてフィルムの流れ方向(MD方向)に6倍に延伸した時の張力」については記載されておらず、「式(1)」及び「式(2)」についても記載されていない。
したがって、引用文献1には、技術思想として、ポリビニルアルコールフィルムの厚さと張力の関係を特定の範囲とすることは、記載されていない。
さらに進んで検討する。
上記の張力は、原反フィルムを製造するときの熱処理(ロールの表面温度)や、グリセリン等の可塑剤の分量等に関係すると考えられる(当合議体注:本件出願の明細書の[0053]においても、「本発明においては、ポリビニルアルコール系フィルムの水中張力を制御する点で、複数の金属加熱ロールの温度が、下記条件(a)~(d)の順であることが好ましい。」、「条件(a)≧80℃」、「条件(b)<80℃」、「条件(c)≧100℃」及び「条件(d)<100℃」と記載され、また、[0036]には、「グリセリンを使用する場合の配合量は、ポリビニルアルコール系樹脂に対して、5~12質量%が好ましく」、「かかる配合量が少なすぎると、ポリビニルアルコール系フィルムの水中張力が増大する傾向があり、多すぎるとポリビニルアルコール系フィルムの水中張力が不足する傾向がある。」と記載されている。)。
そこで、これら事項について、引用文献1の記載を確認する。
引用文献1の[0074]~[0081]には、ポリビニルアルコールフィルムとしての実施例1~5、比較例1~4及び参考例が記載されている。これらの記載において、実施例1~5及び比較例3、4には、湿熱処理が記載され、実施例3、比較例1、2及び参考例1には、熱処理が記載されている。しかしながら、いずれの実施例、比較例及び参考例においても、ロールの表面温度は不明である。また、ポリビニルアルコールに対するグリセリンの質量部は6質量部であり、本件発明1を下回っている。
そうしてみると、引用文献1に記載された実施例、比較例及び参考例のポリビニルアルコールフィルムが、上記相違点2に係る本件発明1の式(1)及び式(2)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。
さらに、引用文献1の[0026]及び[0027]に、それぞれ、「グリセリンが好ましい」及び「PVA100質量部に対して1~20質量部」と記載されている。また、引用文献1に記載されたポリビニルアルコールフィルムの製膜方法として、[0045]には、「製膜に使用されるロールの表面温度としては、例えば、50~100℃とすることができる。」、[0050]には、湿熱処理後の熱処理の温度として、「熱処理は温度90~130℃の条件下で10秒以上行うことが好ましい。」と、それぞれ、記載されている。上記記載から、引用文献1において、ポリビニルアルコール100質量部に対するグリセリンの質量部や湿熱処理後の熱処理の温度の数値範囲は、本件発明8や本件明細書の[0092]の実施例の温度と一部重複している。しかしながら、引用文献1において、製膜に使用されるロールの表面温度は、本件発明8や本件明細書の[0092]の[表1]の実施例に記載されたような順序で熱ロール温度を用いるものではない。また、引用文献1においては、ポリビニルアルコール100質量部に対するグリセリンの質量部、製膜に使用されるロールの表面温度及び湿熱処理後の熱処理の温度との組み合わせについても、明らかでない。
そうしてみると、引用文献1の記載を参酌しても、引用発明のポリビニルアルコールフィルムが、上記相違点2に係る本件発明1の式(1)及び式(2)を満たす蓋然性が高いとまではいえない。
そして、上述したように、引用文献1には、技術思想として、ポリビニルアルコールの厚さと張力の関係を特定の範囲とすることは、記載されていない。
そうしてみると、引用文献1に記載された事項に基づいて、ポリビニルアルコールフィルムについて、ポリビニルアルコール100質量部に対するグリセリンの質量部、製膜に使用されるロールの表面温度、及び湿熱処理後の熱処理の温度を調整するなどして、上記相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても、容易になし得たということはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ということができない。また、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
2 本件発明2~9
本件発明2~9は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2~9も、本件発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ということができず、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない。
第5 原査定についての判断
1 理由1(委任省令要件)
本件明細書の[0015]の記載を考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~9について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものである。
2 理由2(サポート要件)
本件明細書の[0092]の[表1]の実施例1~4と比較例1~3の式(1)及び式(2)についての関係を図にすると以下のとおりである。
上図において、●が実施例、▲が比較例であり、枠で囲っている箇所が本件発明1の式(1)及び式(2)を満たす範囲内である。上図に加えて、本件明細書の[0092]の[表1]及び[0093]の[表2]における実施例と比較例との特性の差等の要因も参酌して定性的に理解すると、本件発明1~9は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものである。
したがって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとの要件に適合する。
3 理由3(新規性)、理由4(進歩性)
上記第4で述べたように、本件発明1~11は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1記載された発明であるということができない。また、本件発明1~11は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。
4 原査定についてのまとめ
以上のとおりであるから、原査定を維持することはできない。
第6 当合議体が通知した拒絶の理由
令和3年1月18日に提出された手続補正書により、当合議体が通知した拒絶の理由は解消した。
第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-008321