特許拒絶査定不服審判
2020-000960
電線
- 審判番号
- 2020-000960
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-215930外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年01月23日
- 審決日
- 2020年10月20日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社三機コンシス
- 【請求人代理人】吉村 俊一
- 分類
- P18 .121-WY (H01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-215930「電線」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月23日出願公開、特開2016- 92009、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月 2日(優先権主張 2014年(平成26年)11月 4日)の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 7月30日付け:拒絶理由通知書(起案日)
令和 元年10月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年10月11日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 2年 1月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 原査定の概要
原査定(令和 元年10月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2007-191811号公報
2.実公昭48-28070号公報
第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、補正前の請求項1、2を引用する補正前の請求項3を請求項1とするとともに、請求項1に、「長手方向である所定方向X及び長手方向に直交する方向Yの両方の方向に伸張させることができる電線であって」という事項を追加し、「前記導電線同士は相互に交差して接触」を「前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触」とし、「複数の前記導電線は、前記導電性繊維に編み込まれ」を「複数の前記導電線は、導電性の前記編物の表面に重ねて編み込まれ」とし、「所定方向」を「所定方向X」とし、「直交する方向」を「直交する方向Y」とする補正がなされた。当該補正は、補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、当該補正は、出願当初明細書の段落【0022】、【0027】-【0043】、【0067】に記載されているから、新規事項を追加するものではないといえる。
さらに、補正前の請求項1、2、5を削除し、補正前の引用形式で記載された請求項6、4を、補正後の引用形式で記載された請求項2、3に繰り上げる補正は、特許請求の範囲の削除を目的とするものである。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-3に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。
第4 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和 2年 1月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
長手方向である所定方向X及び長手方向に直交する方向Yの両方の方向に伸張させることができる電線であって、
前記所定方向Xに延びる複数の導電線と、繊維が編み込まれてなり、前記繊維によって該導電線を保持する編物とを有し、
複数の前記導電線は、前記所定方向Xに対して直交する前記方向Yに各々振幅する波形を有し、前記波形の位相が前記所定方向Xにずれて配置され、前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触し、前記波形が前記所定方向Xにそれぞれ連ねられることにより、前記所定方向Xに延びており、
前記編物を構成する前記繊維は、導電性を有する導電性繊維であり、複数の前記導電線は、導電性の前記編物の表面に重ねて編み込まれ、前記導電性繊維には縮れが形成されており、前記導電性繊維は、前記導電線における前記所定方向Xに隣り合う前記波形同士をつなぎ合わせている、ことを特徴とする電線。
【請求項2】
前記導電性繊維がたて編みされている、請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記所定方向に延びる1本又は2本以上の補助導電線を、さらに備え、
前記補助導電線は、前記所定方向Xに対して直交する方向Yに振幅する波形をなして少なくとも2本の前記導電線同士をつないでいる、請求項1又は2に記載の電線。」
第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付加したもの。以下同じ。)
「【0001】
本発明は、編物特有の柔軟性を有し、変形・伸縮をしても安定した導電性を保持することの出来る、伸縮性導電繊維材料に関する。詳しくは、変形・伸縮の激しい、人体装着用のウェアラブルコンピュータ等の着用素材として使用可能な、伸縮性導電繊維材料に関する。」
「【0020】
[実施例1]
ポンチローマ組織にて編物を作成した。使用糸は銀めっきを施した導電糸(40d/13f)とポリウレタン糸(30dモノフィラメント糸)に銀めっき糸を550回/m巻き付けたカバーリング糸を使用した。この2つの糸を図2の配列で製編を行い、生機を得た。次いで、得られた生機を、精練・乾燥して、余分な油分や不純物を除去し熱セットにて形状を安定させ、目的の導電性伸縮繊維材料を得た。
得られた導電性伸縮性材料はコース75本/インチ、ウエル64本/インチ、柔軟で伸縮性に富み、50%伸張しても電気抵抗値の変化率が70%以下の優れた導電性伸縮繊維材料であった。」
(2)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「編物特有の柔軟性を有し、変形・伸縮をしても安定した導電性を保持することの出来る、人体装着用のウェアラブルコンピュータ等の着用素材として使用可能な、伸縮性導電繊維材料であって、
銀めっきを施した導電糸とポリウレタン糸に銀めっき糸を巻き付けたカバーリング糸を使用し、作成した編物である、伸縮性導電繊維材料。」
2.引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「本考案でいう混入方法を解り易くするために第1図、第2図を用いて説明する。第1図はボンデツド・フアブリツクの断面をモデル的に示した1例であり、1は表布をあらわし、3は裏布を意味し、2は1と3を貼り合せるために用いられた接着剤、ウレタンフオーム、1または3の溶融物を意味する。導電性繊維は3に混入する。さらに、第2図は第1図の3を簡単なラツセル編地にて混入する方法を説明する1例であり、4および5は経方向に打込んだ導電性繊維であり、6および7は緯方向に打込んだ導電性繊維である。この図では導電性繊維が交錯するようにかかれているがこれは交錯しなくてもよい。ここで、4から5または6から7の距離は3cm以下である必要がある。3cm以上離した場合には、導電性繊維を混入した効果は80%程度失なわれてしまう。さらに、必要なことは混入すべき導電性繊維の量は混入される編織物の全重量に対して0.1から30.0重量%になるようにすべきである。0.1%以下の場合には効果は小さくなり、30.0%以上混入してもその効果はほとんど変らない。」(第2欄第35行-第4欄第4行)
(2)したがって、上記引用文献2には、経方向に打込んだ導電性繊維(4、5)と緯方向に打込んだ導電性繊維(6、7)とをラツセル編地に混入するという技術的事項が記載されていると認められる。
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「伸縮性導電繊維材料」は、「導電性を保持」し、「人体装着用のウェアラブルコンピュータ等の着用素材として使用可能」であり、また、「編物特有の柔軟性を有し、変形・伸縮」させることができ、引用文献1の【図1】、【図2】のように編まれることから、タテ方向及びヨコ方向の両方の方向に「変形・伸縮」できることは明らかであり、本願発明1と引用発明とは、「長手方向である所定方向X及び長手方向に直交する方向Yの両方の方向に伸張させることができる電線」である点で一致する。
イ 引用発明の「銀めっきを施した導電糸」、「カバーリング糸」は、それぞれ、本願発明1の「導電線」、「繊維」に対応し、引用文献1の【図1】、【図2】のように「銀めっきを施した導電糸」と「カバーリング糸」は編まれることから、本願発明1と引用発明とは、「前記所定方向Xに延びる複数の導電線と、繊維が編み込まれてなり、前記繊維によって該導電線を保持する編物とを有」する点で一致する。
ウ 引用発明の「銀めっきを施した導電糸」は、引用文献1の【図1】、【図2】のように振幅する波形を有し、波形が連ねられて所定方向に延びたものであることが見てとれ、本願発明1と引用発明とは、「複数の前記導電線は、前記所定方向Xに対して直交する前記方向Yに各々振幅する波形を有し、」「前記波形が前記所定方向Xにそれぞれ連ねられることにより、前記所定方向Xに延びて」いる点で一致する。
エ 引用発明の「カバーリング糸」は、「銀めっき糸」を含むことから、本願発明1と引用発明とは、「前記編物を構成する前記繊維は、導電性を有する導電性繊維」である点で一致する。
オ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「長手方向である所定方向X及び長手方向に直交する方向Yの両方の方向に伸張させることができる電線であって、
前記所定方向Xに延びる複数の導電線と、繊維が編み込まれてなり、前記繊維によって該導電線を保持する編物とを有し、
複数の前記導電線は、前記所定方向Xに対して直交する前記方向Yに各々振幅する波形を有し、前記波形が前記所定方向Xにそれぞれ連ねられることにより、前記所定方向Xに延びており、
前記編物を構成する前記繊維は、導電性を有する導電性繊維である、電線。」
(相違点)
(相違点1)本願発明1では、「複数の前記導電線は、」「前記波形の位相が前記所定方向Xにずれて配置され、前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触」するのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。
(相違点2)本願発明1では、「複数の前記導電線は、導電性の前記編物の表面に重ねて編み込まれ、前記導電性繊維には縮れが形成されており、前記導電性繊維は、前記導電線における前記所定方向Xに隣り合う前記波形同士をつなぎ合わせている」のに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。
(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1の段落【0020】には、「銀めっきを施した導電糸」をポンチローマ組織にて編物とすることが記載されているものの、複数の「銀めっきを施した導電糸」の位相をずらして配置することは記載されておらず、引用発明において、「銀めっきを施した導電糸」の波形同士が接触するように位相をずらして、複数の「銀めっきを施した導電糸」を配置することは、設計的事項とはいえない。
また、引用文献2には、上記のとおり、「複数の前記導電線は、」「前記波形の位相が前記所定方向Xにずれて配置され、前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触」するものに対応する技術は記載されていない。
そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項を適用しても、相違点1に係る本願発明1の構成をなし得るものではない。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2.本願発明2、3について
本願発明2、3も、本願発明1の「複数の前記導電線は、」「前記波形の位相が前記所定方向Xにずれて配置され、前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触」するものと同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1-3は、「複数の前記導電線は、」「前記波形の位相が前記所定方向Xにずれて配置され」る際、「前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触」するという事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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