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特許拒絶査定不服審判

2020-000639

燃料蒸発ガス処理装置

審判番号
2020-000639
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-191395外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年01月17日
審決日
2020年11月05日
公報発行日
2020年12月25日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WY (F02M) / P18 .121-WY (F02M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-191395「燃料蒸発ガス処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月6日出願公開、特開2017-66926、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 14項目
【理 由】

第1 手続の経緯

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本願は、平成27年9月29日の出願であって、その手続は以下のとおりである。

平成31年4月 5日付け(発送日:同年4月16日):拒絶理由通知書
令和元年 6月 4日:意見書及び手続補正書の提出
令和元年 6月26日付け(発送日:同年7月2日) :拒絶理由通知書
令和元年 8月27日:意見書の提出
令和元年10月29日付け(発送日:同年11月8日):拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和2年 1月17日:審判請求書の提出

第2 原査定の概要

原査定の概要は、次のとおりである。

この出願については、令和1年6月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。

備考

●理由1(特許法第36条第6項第2号)について

・請求項 1-3

請求項1において、「パージコントロールバルブを開状態にすること」と、「エアバイパスバルブを開状態とすること」の技術的な関連性を理解することができず発明が不明確となる。

請求項3についても、「前記濃度推定手段が推定した燃料蒸発ガスの濃度増加に応じて前記バイパス流路の空気流量を減少させること」が特定されているが、同様の理由により、技術的意味を理解することができず、発明が不明確となる。

請求項1に従属する請求項2についても、同様の点が指摘される。

よって、請求項1-3に係る発明は、明確でない。

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項 1-2

・引用文献等 1-3

請求項1-2に係る発明は、引用文献1-3記載の発明に基いて、当業者が、容易に想到し得たものである。

・請求項 3

・引用文献等 1-4

請求項3に係る発明は、引用文献1-4記載の発明に基いて、当業者が、容易に想到し得たものである。

<引用文献等一覧>

1.米国特許出願公開第2009/0114180号明細書

2.特開2012-102617号公報(周知技術を示す文献)

3.特開2012-154292号公報(周知技術を示す文献)

4.特開平11-280568号公報

第3 本願発明

本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、令和元年6月4日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
エンジンの要求トルクを設定する要求トルク設定手段と、
排気により駆動されるタービン及び前記タービンにより駆動され空気を圧縮するコンプレッサを有し、エンジンが発生するトルクが前記要求トルクに近付くよう過給圧が制御されるターボチャージャと、
前記コンプレッサの出口側から空気の一部を抽出して前記コンプレッサの入口側へ還流させるバイパス流路と、
続きを表示(全18行)
前記バイパス流路による空気の還流を可能とする開状態と前記バイパス流路を実質的に閉塞する閉状態とを切換可能なエアバイパスバルブと
を備えるエンジンに設けられる燃料蒸発ガス処理装置であって、
燃料タンクから排出される燃料蒸発ガスを吸着する吸着剤を有するキャニスタと、
前記キャニスタから放出される燃料蒸発ガスを前記エンジンの吸気流路における前記コンプレッサの入口と隣接する領域に導入するパージ流路と、
前記パージ流路による燃料蒸発ガスの導入を可能とする開状態と前記パージ流路を実質的に閉塞する閉状態とを切換可能なパージコントロールバルブと、
前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする制御手段と
を備えることを特徴とする燃料蒸発ガス処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記要求トルクが所定値以上である場合には前記パージコントロールバルブの状態に関わらず前記エアバイパスバルブを閉状態とすること
を特徴とする請求項1に記載の燃料蒸発ガス処理装置。
【請求項3】
前記キャニスタから放出される燃料蒸発ガスの濃度を推定する濃度推定手段を備え、
前記制御手段は、前記エアバイパスバルブの開度を制御して前記バイパス流路の空気流量を変化させる機能を備えるとともに、前記濃度推定手段が推定した燃料蒸発ガスの濃度増加に応じて前記バイパス流路の空気流量を減少させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料蒸発ガス処理装置。」

第4 理由1(特許法第36条第6項第2号)についての判断

1 請求項1ないし3について

本願発明1が明確であるか否か検討するにあたり、請求項1の「前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする制御手段」との記載が特定しようとする事項が明確であるか否かについて検討する。

上記記載は、本願発明1の「制御手段」が「前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする」ことを実行するものであるという事項を特定しようとするものであり、「制御手段」が実行する制御の内容を特定するものとして、記載自体は明確であるし、当該記載が特定しようとする事項も明確であるといえる。

また、本願発明1は、「燃料蒸発ガス処理装置」において、上記の「前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする制御手段」とともに、「エンジンの要求トルクを設定する要求トルク設定手段」と、「排気により駆動されるタービン及び前記タービンにより駆動され空気を圧縮するコンプレッサを有し、エンジンが発生するトルクが前記要求トルクに近づくよう過給圧が制御されるターボチャージャ」を備えるものであるところ、本願の明細書の段落【0032】ないし【0039】及び出願時の技術常識を考慮すれば、過給時、すなわち、「エンジンが発生するトルクが前記要求トルクに近づくよう過給圧が制御されるターボチャージャ」を使用している時には「要求トルクに近づくよう過給圧が制御」されているから、この下で、「前記パージコントロールバルブが開状態である場合」に「前記エアバイパスバルブを開状態とする」ことによって、段落【0039】に記載されるように「コンプレッサ42の効率を低下させてコンプレッサ42の入口部における負圧を大きく(圧力を低く)し、パージライン73のパージガス流量を増加させることができる。」と理解できる。

したがって、請求項1の「前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする制御手段」との記載が特定しようとする事項は、明確である。

請求項3の「前記濃度推定手段が推定した燃料蒸発ガスの濃度増加に応じて前記バイパス流路の空気流量を減少させること」との記載についても、「制御手段」が実行する制御の内容を特定するものとして、同様に、明確である。

また、他に、請求項1ないし3において明確でない記載はないから、本願の請求項1ないし3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。

第5 理由2(特許法第29条第2項)についての判断

1 引用文献の記載及び引用発明

(1)引用文献1

原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、米国特許出願公開第2009/0114180号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、「INTAKE MANIFOLD WITH INTEGRATED CANISTER CIRCUIT FOR A SUPERCHARGED INTERNAL COMBUSTION ENGINE(当審仮訳:過給式内燃機関のための一体型のキャニスタを備えた吸気マニホールド)」に関して、図面(特にFIG.1を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。また、仮訳は当審で作成したものである。以下同様。)。

ア「[0015] In FIG. 1, numeral 1 indicates as a whole an internal combustion engine supercharged by a turbocharger supercharging system 2.」

(仮訳)図1において、符号1はターボ過給機2により過給される内燃機関全体を示す。

イ「[0016] The internal combustion engine 1 comprises four cylinders 3, each of which is connected to an intake manifold 4 by means of at least one corresponding intake valve (not shown) and to an exhaust manifold 5 by means of at least one corresponding exhaust valve (not shown). The intake manifold 4 receives fresh air (i.e. air coming from the external environment) through an intake pipe 6, which is provided with an air filter 7 and is adjusted by a butterfly valve 8. An intercooler 9 for cooling the aspirated air is arranged along the intake pipe 6. To the exhaust manifold 5 there is connected an exhaust pipe 10 which feeds the exhaust gases produced by the combustion to an exhaust system, which emits the gases produced by the combustion into the atmosphere and normally comprises at least one catalyzer 11 and at least one muffler (not shown) arranged downstream of the catalyzer 11.」

(仮訳)内燃機関1は4つのシリンダ3を含み、その各々は、少なくとも1つの対応する吸気弁(図示せず)を介して吸気マニホールド4に接続され、少なくとも1つの対応する排気弁(図示せず)を介してして排気マニホールド5に接続されている。吸気マニホールド4は、吸気管6を通じて新鮮な空気(即ち、外部環境から来る空気)を受け入れ、新鮮な空気は空気フィルタ7に提供され、バタフライ弁8によって調節される。吸引された空気を冷却するインタークーラ9が、吸気管6に沿って配置されている。排気マニホールド5には、燃焼により発生した排気ガスを排気システムに排出する排気管10が接続されており、排気システムは、燃焼によって生成されるガスを大気中へ放出するものであり、通常、少なくとも1つの触媒11および触媒11の下流に配置された少なくとも1つの消音装置(図示せず)を備えている。

ウ「[0017] The supercharging system 2 of the internal combustion engine 1 comprises a turbocharger 12 provided with a turbine 13, which is arranged along the exhaust pipe 10 in order to rotate at high speed under the action of the exhaust gases expelled from the cylinders 3, and a compressor 14, which is arranged along the intake pipe 6 and is mechanically connected to the turbine 13 in order to be rotationally pulled by the turbine 13 itself and thus to increase the pressure of the air fed into the intake pipe 6.」

(仮訳)内燃機関1の過給システム2は、シリンダ3から排出される排気ガスの作用の下で高速に回転するために排気管10に沿って配置されたタービン13と、タービンそれ自体によって引っ張られて回転し、そして、吸気管6へ供給される空気の圧力を増大させるために吸気管6に沿って配置されたコンプレッサ14とを備えるターボチャージャ12を有している。

エ「[0018] Along the exhaust pipe 10 a bypass pipe 15 is provided, which is connected in parallel to the turbine 13 so as to have the ends thereof connected upstream and downstream of the turbine 13 itself; along the bypass pipe 15 a wastegate valve 16 is arranged, which is adapted to adjust the flow rate of the exhaust gases which flow through the bypass pipe 15 and is driven by an actuator 17. Along the intake pipe 6 a bypass pipe 18 is provided, which is connected in parallel to the compressor 14 so as to have the ends thereof connected upstream and downstream of the compressor 14 itself; along the bypass pipe 18 a Poff valve 19 is arranged, which is adapted to adjust the flow rate of air which flows through the bypass pipe 18 and is driven by an actuator 20.」

(仮訳)排気管10に沿って、タービン13の上流側と下流側とを接続するようにタービン13に並列に接続されるバイパス管15が設けられており;バイパス管15に沿って、このバイパス管15を通って流れる排気ガスの流量を調節するよう適合され、アクチュエータ17により駆動される、ウエストゲートバルブ16が配置されている。吸気管6に沿って、コンプレッサ14の上流側と下流側とを接続するようにコンプレッサ14に並列に接続されるバイパス管18が設けられており;バイパス管18に沿って、このバイパス管18を通って流れる空気の流量を調節するように適合され、アクチュエータ20によって駆動される、Poff弁19が配置されている。

オ「[0019] The internal combustion engine 1 is controlled by an electronic control unit 21, which supervises the operation of all the components of the internal combustion engine 1.」

(仮訳)内燃機関1は、電子制御ユニット21により制御され、これは内燃機関1の全ての構成要素の動作を管理する。

カ「[0020] Furthermore, the internal combustion engine 1 comprises a canister circuit 22, which has the function of recovering the fuel vapours which are produced in a fuel tank 23 and of introducing such fuel vapours into the cylinders 3 in order to be burnt; this prevents the fuel vapours which are produced in the fuel tank 23 from leaking from the fuel tank 23 (specifically when the fuel filler cap is opened for refueling) and being freely dispersed into the atmosphere.」

(仮訳)さらに、内燃機関1は、燃料タンク23で発生する燃料蒸気を回収し、そのような燃料蒸気をシリンダ3に導入する機能を有しているキャニスタ22を有する;これは、燃料タンク23内で発生した燃料蒸気が、燃料タンク23(具体的には燃料フィラーキャップが燃料補給のために開放されるとき)から漏れて大気中に自由に分散されることを防止できる。

キ「[0021] The canister circuit 22 comprises a recovery pipe 24 which originates in the fuel tank 23 and ends in a plenum 25 of the intake manifold 4 and is controlled by a canister solenoid valve 26 of the on/off type. Downstream of the canister solenoid valve 26, the recovery pipe 24 has a fork adjusted by a one-way membrane valve 27; one branch 28 of the recovery pipe 24 leads into the plenum 25 of the intake manifold 4, while the other branch 29 of the recovery pipe 24 leads into the intake pipe 6 upstream of the turbocharger 12. Specifically, the one-way membrane valve 27 is coupled to the mouth of the branch 28 of the recovery pipe 24 so as to allow the gas flow only towards the plenum 25 of the intake manifold 4.」

(仮訳)キャニスタ22は、燃料タンク23内から始まりインテークマニホールド4のプレナム25で終了する回収管24を備えており、この回収パイプ24は、オン/オフ型のキャニスタソレノイド弁26によって制御される。キャニスタソレノイド弁26の下流側には、回収管24が一方向膜弁27によって調節される分岐を有しており;回収管24の1つの分岐管28は吸気マニホルド4のプレナム25に繋がっている一方、回収管24の他の分岐管29はターボチャージャ12の吸気管6の上流側に至る。一方向膜弁27は、吸気マニホールド4のプレナム25方向へのみガス流を許容するように回収管24の分岐管28の口に接続されている。

ク「[0022] In the plenum 25 of the intake manifold 4 there may be either a slight vacuum determined by the intake action generated by the cylinders (turbocharger 12 not running) or an overpressure determined by the compression action of the turbocharger 12 (turbocharger 12 running). When the turbocharger 12 is not running, there is a slight vacuum determined by the intake action generated by the cylinders in the plenum 25 of the intake manifold 4, while there is atmospheric pressure in the intake pipe 6 upstream of the turbocharger 12; in this situation, the one-way membrane valve 27 opens the branch 28 of the fork of the recovery pipe 24 and thus allows the gasoline vapours to enter the plenum 25 of the intake manifold 4 directly through the branch 28 of the recovery pipe 24. When the turbocharger 12 is running, there is an overpressure determined by the compression action of the turbocharger 12 in the plenum 25 of the intake manifold 4, while there is a vacuum determined by the intake action of the turbocharger 12 in the intake pipe 6 upstream of the turbocharger 12; in this situation, the one-way membrane valve 27 closes the branch 28 of the recovery pipe 24 and therefore the gasoline vapours enter in the intake pipe 6 upstream of the turbocharger 12 through the branch 29 of the recovery pipe 24.」

(仮訳)吸気マニホールド4のプレナム25内は、シリンダによって生成された吸込作用により引き起こされた僅かな真空(ターボチャージャ12が非作動)又はターボチャージャ12の圧縮作用により引き起こされた過圧(ターボチャージャ12が作動)のいずれであってもよい。ターボチャージャ12が作動していないときに、吸気マニホールド4のプレナム25内のシリンダにより発生する吸気の作用によりわずかな真空状態が生じており、一方、ターボチャージャ12の上流側の吸気管6内には大気圧がある;この状況では、一方膜弁27は、回収管24の分岐の分岐管28を開放し、従ってガソリン蒸気は、回収管24の分岐部28を介して吸気マニホールド4のプレナム25に直接入ることが可能になる。ターボチャージャ12の作動時には、吸気マニホールド4のプレナム25にターボチャージャ12の圧縮動作によって引き起こされた過圧が発生し、ターボ過給機12の上流側の吸気管6は、ターボチャージャ12の吸気動作によって引き起こされた真空であるが、この状況では、一方向膜弁27は回収管24の分岐管28を閉鎖し、これによってガソリン蒸気は回収管24の分岐部29を介してターボチャージャ12の吸気管6上流側に入る。

ケ 上記カ及びキの記載事項及び図1の図示内容からみて、引用文献1記載のキャニスタ22は、燃料蒸気を回収して処理するものであるから、内燃機関1に設けられる燃料蒸気を処理する装置の一部であるといえる。

コ 上記ウ及びエの記載事項及び図1の図示内容、並びに、引用文献1記載のコンプレッサ14の下流側は上流側よりも流路における流体の圧力が高いことが出願時の技術常識であることを踏まえると、引用文献1記載のバイパス管18は、コンプレッサ14の下流側から空気の一部を抽出してコンプレッサ14の上流側へ還流させる流路であるといえる。

サ 上記エの記載事項及び図1の図示内容並びに出願時の技術常識からみて、引用文献1記載のバイパス管18における空気の流量を調節するPoff弁19は、開状態のときに空気の還流を可能とし、閉状態のときにバイパス管18を実質的に閉塞するものであるといえる。

シ 上記カの記載事項及び出願時の技術常識からみて、引用文献1記載のキャニスタ22は燃料蒸気を吸着する吸着剤を有しているといえる。

ス 上記キの記載事項及び出願時の技術常識からみて、引用文献1記載のオン/オフ型のオン/オフ型のキャニスタソレノイド弁26は、オンの状態のときに分岐管18を開状態とし、オフの状態のときに分岐管18を実質的に閉塞するものであり、オン/オフを切換可能なものといえる。

上記アないしスの記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕

「内燃機関1の全ての構成要素の動作を管理し制御する電子制御ユニット21と、
排気ガスにより駆動されるタービン13及び前記タービン13により駆動され空気を圧縮するコンプレッサ14を有する、ターボチャージャ12と、
前記コンプレッサ14の下流側から空気の一部を抽出して前記コンプレッサの上流側へ還流させるバイパス管18と、
前記バイパス管18による空気の還流を可能とする開状態と前記バイパス流路を実質的に閉塞する閉状態とを切換可能なPoff弁19と
を備える内燃機関1に設けられる燃料蒸気を処理する装置であって、
燃料タンク23から排出される燃料蒸気を吸着する吸着剤を有するキャニスタ22と、
前記キャニスタ22から放出される燃料蒸気を前記内燃機関1の吸気管6における前記コンプレッサ14の上流部分と隣接する領域に導入する分岐管29と、
前記分岐管29による燃料蒸気の導入を可能とするオンの状態と前記分岐管29を実質的に閉鎖するオフの状態とを切換可能なオン/オフ型のキャニスタソレノイド弁26と
を備える燃料蒸気を処理する装置。」

(2)引用文献2

原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2012-102617号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「内燃機関」に関して、図面(特に図1ないし2を参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア「【0020】

バイパス通路7は、コンプレッサ51やインタクーラ32、スロットル弁33を回避して空気を気筒1の吸気ポートへと導く。バイパス通路7の入口は、吸気通路3における吸気絞り弁35の上流の所定箇所に接続している。バイパス通路7の出口は、吸気通路3におけるスロットル弁33の下流の所定箇所(サージタンク34であることがある)に接続している。このバイパス通路7上には、バイパス弁71を設けてある。バイパス弁71は、必要な場合以外には全閉する。」

イ「【0024】

図2に、制御部たるECU6が実行する処理の手順を示している。ECU6は、過給を行っておりかつ要求負荷が全開に近い高負荷でないときに(ステップS1)、全閉していたバイパス弁71を開弁する(ステップS2)。ステップS1では、例えば、吸気圧が所定の下限閾値以上で所定の上限閾値以下であること、及び/または、アクセルペダルの踏込量(または、スロットル弁33の開度)が所定の下限閾値以上で所定の上限閾値以下であることを条件として、過給中でありかつ全負荷ではないものと判断する。従って、エンジン出力を全開(Wide Open Throttle)にする場合等にあっては、バイパス弁71を開かず全閉に維持する。

【0025】

バイパス弁71を開いている間は、気筒1に充填されるべき吸気の一部がバイパス通路7に逃げてしまうので、スロットル弁33の操作のみによって吸気量ひいてはエンジン出力をコントロールすることは難しい。故に、スロットル弁33を略全開とした上(ステップS3)、要求負荷に対応した吸気量となるようにバイパス弁71の開度を操作する(ステップS2)。ステップS2とステップS3とは略同時に実行し、エンジントルクの変動を可及的に抑制する。スロットル弁33を略全開にすることで、吸気通路3を流通する吸気の流量が増大し、吸気を冷ます効果が増進される。」

上記アないしイの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕

「内燃機関の過給時のECU6による制御において、要求負荷が全開に近い高負荷でない場合にバイパス弁71を全開とし、要求負荷がエンジン出力を全開にする場合はバイパス弁71を全閉に維持すること。」

(3)引用文献3

原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2012-154292号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「過給機付き内燃機関の制御装置」に関して、図面(特に図1及び2を参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア「【0019】

コンプレッサ18からインタークーラ20に至る吸気通路12の途中には、吸気バイパス通路22の一端が接続されている。吸気バイパス通路22の他端は、コンプレッサ18の上流側に接続されている。吸気バイパス通路22の途中には、吸気バイパス通路22を流れる空気の流量を制御するためのエアバイパスバルブ(以下、単に「ABV」と称する)24が配置されている。ABV24を操作して吸気バイパス通路22を開放することで、コンプレッサ18により圧縮された空気の一部が再びコンプレッサ18の入口側に戻される。ターボ過給機のサージが生じ易い運転状態のときに、コンプレッサ18を出た空気の一部を、吸気バイパス通路22を通してコンプレッサ18の入口側に戻すことにより、サージを防止することができる。」

イ「【0027】

図3に示すルーチンでは、先ず、スロットル弁通過吸気流量mが算出される(ステップ100)。具体的には、スロットル弁通過吸気流量mは、例えば、特開2010-38077号公報に開示される公知の手法に従って、吸気温度センサ34により検出されるスロットルバルブ26の上流側の吸気温度と、上流側吸気圧力センサ30により検出されるスロットル上流圧力pと、下流側吸気圧力センサ32により検出されるスロットル下流圧力と、スロットル開度センサ28により検出されるスロットル開度とに基づいて算出することができる。

【0028】

次に、サージ発生上限流量msが算出される(ステップ102)。具体的には、サージ発生上限流量msは、例えば、上記図2に示すようにサージ発生上限流量msとスロットル上流圧力(過給圧)pとの関係を予め設定したマップに従って算出することができる。次いで、上記ステップ100において算出されたスロットル弁通過吸気流量mが、上記ステップ102において算出されたサージ発生上限流量ms以下であるか否かが判定される(ステップ104)。

【0029】

上記ステップ104においてスロットル弁通過吸気流量mがサージ発生上限流量ms以下であると判定された場合、つまり、現在のコンプレッサ18の作動領域がサージ領域であると判断できる場合には、ABV24が開弁される(ステップ106)。

【0030】

一方、上記ステップ104においてスロットル弁通過吸気流量mがサージ発生上限流量msよりも多いと判定された場合、つまり、現在のコンプレッサ18の作動領域がサージ領域にないと判断できる場合には、次いで、ABV24の開弁中であるか否かが判定される(ステップ108)。

【0031】

上記ステップ104の判定が不成立である状況下において上記ステップ108においてABV24の開弁中であると判定された場合、つまり、ABV24の開弁中にコンプレッサ18の作動領域がサージ領域から外れたと判断できる場合には、次いで、内燃機関10 のトルク要求度の変化量が所定の基準値よりも大きいか否かが判定される(ステップ110)。具体的には、トルク要求度自体は、アクセル開度センサ40を利用して、検出されるアクセル開度が大きいほど、トルク要求度が高いと判断することができる。そして、このようなトルク要求度の変化量が正となる状況は、アクセル開度がゼロもしくは小開度からそれよりも大開度に向けて踏み込まれた状況、すなわち、トルク増加要求が出された状況を意味することになる。また、本ステップ110では、一例として、上記基準値がゼロに設定されているものとする。ただし、上記基準値は、正の値であってもよい。

【0032】

上記ステップ110において、トルク要求度の変化量が上記所定値(ここでは、ゼロ)よりも大きいと判定された場合、つまり、トルク増加要求が出されていると判断できる場合には、ABV24が閉弁される(ステップ112)。つまり、この場合には、ABV2 4の閉弁が禁止されずに許可される。

【0033】

一方、上記ステップ110において、トルク要求度の変化量が上記所定値以下であると 判定された場合には、トルク要求度の変化量がゼロであるために現在のトルクを保持する要求が出されているか、または、トルク要求度の変化量がマイナスの値であるためにトルクを低下させようとする要求が出されていると判断することができる。この場合には、ABV24が開弁状態で保持される(ステップ114)。言い換えれば、この場合には、ABV24の閉弁が禁止される。」

上記アないしイの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕

「過給機付き内燃機関の制御装置において、コンプレッサ18の作動領域がサージ領域であると判断できる場合にはエアバイパスバルブ24を開弁し、内燃機関10のトルク要求度の変化量がゼロより大きいトルク増加要求が出されていると判断できる場合にはエアバイパスバルブ24を閉弁すること。」

(4)引用文献4

原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開平11-280568号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「希薄燃焼内燃機関の蒸発燃料濃度検出装置及びその応用装置」に関して、図面(特に、図2を参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア「【0054】成層燃焼のときパージをすると、元来、基本燃料噴射量が均質燃焼のときより少ない一方、パージされる燃料の量は均質燃焼のときと変わらないので、パージガス中の蒸発燃料量の変動が与える影響は、均質燃焼のときより成層燃焼のときの方が大きい。そこで、成層燃焼のときパージをする場合、燃焼を安定させる制御が必要となる。

【0055】パージガス流量は、パージ制御弁の開度と吸気管負圧とでおおよそ算出できるので、パージガス中の蒸発燃焼濃度が一定である限り、蒸発燃料量を算出することは可能である。しかし、蒸発燃料濃度は運転の状態によって変わってくる。例えば、外気の温度、エンジン等の熱により、燃料タンク内の燃料が加熱されることがある。また、燃料が環流するタイプでは、エンジン側で加熱されて燃料タンクに戻って来る燃料により燃料タンク内の燃料温度が上昇する。この結果、蒸発燃料濃度が高くなる。また、パージ制御弁を閉じ、パージを中止することがあるが、すると、キャニスタに蒸発燃料が蓄積され、その濃度が高くなる。このような蓄積後に再度パージ制御弁を開くと、その当初濃度の高いパージガスがキャニスタから流出する。このとき、成層燃焼であると、空燃比A/F=10以下の極めて高いリッチ状態となり、リッチ失火が生じるおそれが生じる。これを避ける方法としては、濃度が濃くなったとき、パージ制御弁の開度を小さくする方法と、燃料噴射量を減らす方法とがある。」

上記アの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献4には、次の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献4記載事項〕

「希薄燃焼内燃機関の制御において、燃料タンク内の蒸発燃料濃度が高くなってパージ制御弁を閉じ、キャニスタに蒸発燃料が蓄積され濃度が高くなってキャニスタに蒸発燃料が蓄積後に再度パージ制御弁を開き、濃度の高いパージガスをキャニスタから流出させるときに、空燃比A/Fが極めて高いリッチ状態となってリッチ失火が生じるおそれを避けるために、濃度が濃くなったときにパージ制御弁の開度を小さくすること。」

2 対比・判断

(1)本願発明1について

本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「内燃機関1」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「排気ガス」は「排気」に、「タービン13」は「タービン」に、「空気」は「空気」に、「コンプレッサ14」は「コンプレッサ14」に、「ターボチャージャ12」は「ターボチャージャ」に、「下流側」は「出口側」に、「上流側」は「入口側」に、「バイパス管18」は「バイパス流路」に、「Poff弁19」は「エアバイパスバルブ」に、「燃料蒸気を処理する装置」は「燃料蒸発ガス処理装置」に、「燃料タンク23」は「燃料タンク」に、「燃料蒸気」は「燃料蒸発ガス」に、「吸着剤」は「吸着剤」に、「キャニスタ22」は「キャニスタ」に、「上流部分」は「入口」に、「分岐管29」は「パージ流路」に、「オンの状態」は「開状態」に、「オフの状態」は「閉状態」に、「オン/オフ型のキャニスタソレノイド弁26」は「パージコントロールバルブ」に、それぞれ相当する。

引用発明の「内燃機関1の全ての構成要素の動作を管理し制御する電子制御ユニット21」と本願発明1の「エンジンの要求トルクを設定する要求トルク設定手段」及び「前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする制御手段」とは、「エンジンの構成要素を制御する制御手段」という限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]

「エンジンの構成要素を制御する制御手段と、
排気により駆動されるタービン及び前記タービンにより駆動され空気を圧縮するコンプレッサを有する、ターボチャージャと、
前記コンプレッサの出口側から空気の一部を抽出して前記コンプレッサの入口側へ還流させるバイパス流路と、
前記バイパス流路による空気の還流を可能とする開状態と前記バイパス流路を実質的に閉塞する閉状態とを切換可能なエアバイパスバルブと
を備えるエンジンに設けられる燃料蒸発ガス処理装置であって、
燃料タンクから排出される燃料蒸発ガスを吸着する吸着剤を有するキャニスタと、
前記キャニスタから放出される燃料蒸発ガスを前記エンジンの吸気流路における前記コンプレッサの入口と隣接する領域に導入するパージ流路と、
前記パージ流路による燃料蒸発ガスの導入を可能とする開状態と前記パージ流路を実質的に閉塞する閉状態とを切換可能なパージコントロールバルブと、
を備える燃料蒸発ガス処理装置。」

[相違点1]

「エンジンの構成要素を制御する制御手段」に関して、本願発明1は、「エンジンの要求トルクを設定する要求トルク設定手段」を備えるとともに、「前記パージコントロールバルブが開状態である場合に前記エアバイパスバルブを開状態とする制御手段」を備えるのに対して、引用発明は、内燃機関1の全ての構成要素の動作を管理し制御する電子制御ユニット21を備えるものの、かかる事項を備えるかどうか不明な点。

[相違点2]

「ターボチャージャ」に関して、本願発明1は、「エンジンが発生するトルクが前記要求トルクに近付くよう過給圧が制御される」のに対して、引用発明はかかる事項を備えるかどうか不明な点。

相違点について検討する。

上記相違点1について検討する。

上記1 の(2)ないし(4)で述べたとおり、

引用文献2記載事項は、

「内燃機関の過給時のECU6による制御において、要求負荷が全開に近い高負荷でない場合にバイパス弁71を全開とし、要求負荷がエンジン出力を全開にする場合はバイパス弁71を全閉に維持すること。」というものであり、

引用文献3記載事項は、

「過給機付き内燃機関の制御装置において、コンプレッサ18の作動領域がサージ領域であると判断できる場合にはエアバイパスバルブ24を開弁し、内燃機関10のトルク要求度の変化量がゼロより大きいトルク増加要求が出されていると判断できる場合にはエアバイパスバルブ24を閉弁すること。」というものであり、

引用文献4記載事項は、

「希薄燃焼内燃機関の制御において、燃料タンク内の蒸発燃料濃度が高くなってパージ制御弁を閉じ、キャニスタに蒸発燃料が蓄積され濃度が高くなってキャニスタに蒸発燃料が蓄積後に再度パージ制御弁を開き、濃度の高いパージガスをキャニスタから流出させるときに、空燃比A/Fが極めて高いリッチ状態となってリッチ失火が生じるおそれを避けるために、濃度が濃くなったときにパージ制御弁の開度を小さくすること。」というものであって、いずれも上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。

また、引用発明において、パージコントロールバルブが開状態である場合にエアバイパスバルブを開状態とすることは、本願の出願前の周知技術であったという根拠は無く、また、当業者が適宜決定し得た設計的な事項であるともいえない。

そうすると、引用発明において、引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項を参酌しても、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできない。

そして、本願発明1は、当該発明特定事項により「エンジンの要求トルクを設定する要求トルク設定手段」と「排気により駆動されるタービン及び前記タービンにより駆動され空気を圧縮するコンプレッサを有し、エンジンが発生するトルクが前記要求トルクに近付くよう過給圧が制御されるターボチャージャ」とを備えることを前提とした上で、「パージコントロールバルブが開状態である場合にエアバイパスバルブを開状態とする制御手段」を備えることによって、過給時にパージコントロールバルブ74が開状態である場合にエアバイパスバルブ44を開状態とし、コンプレッサ42の入口部における負圧を大きく(圧力を低く)し、パージライン73のパージガス流量を増加させることができ(本願明細書の段落【0036】ないし【0039】を参照。)、簡単な構成によって過給時においてもパージガス流量を確保可能な燃料蒸発ガス処理装置を提供することができる(本願明細書の段落【0011】参照。)という特有の作用効果を奏するものである。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本願発明2ないし4について

本願の特許請求の範囲における請求項2ないし4は、請求項1の記載を他の記載に置換することなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。

したがって、本願発明2ないし4は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括

本願発明1ないし4は、原査定で引用された引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-000639

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