特許無効審判
2019-800017
流体ポンプ
- 審判番号
- 2019-800017
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2012-515871
- 登録番号
- 特許第5494801号(P5494801)
- 請求日
- 2019年03月01日
- 審決日
- 2020年07月10日
- 公報発行日
- 2021年01月29日
- 結論
- 却下
- 当事者
- 【請求人】曽 賢仁
- 【請求人代理人】新保 斉
- 【被請求人】株式会社 村田製作所
- 【被請求人代理人】特許業務法人 楓国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 芳枝
- 審判官 窪田 治彦
- 審判官 柿崎 拓
- 分類
- P1113.02 -X (F04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第123条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5494801号発明「流体ポンプ」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求を却下する。
審判費用は,請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第5494801号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は,概ね,以下のとおりである。
1 本件特許に係る出願は,2011年5月16日(優先日:2010年5月21日,2011年2月4日)を国際出願日とする出願であって,平成26年3月14日に特許権の設定登録がなされた。
2 平成31年3月1日に請求人曽賢仁より本件特許に対する特許無効審判請求がなされ,令和元年8月9日に被請求人村田製作所より審判事件答弁書及び訂正請求書が提出された。
3 請求人に対し令和元年8月23日付けで答弁書副本の送付通知を発し,期間を指定し請求人の利害関係について釈明を求めたところ,期間内に請求人から特段応答はなかった。
4 両当事者に対し令和元年12月17日に第1回口頭審理に関する審理事項通知案(請求人に対する,請求人の利害関係についての釈明の求めを含む。)を送付したところ,令和2年1月8日に請求人より,本件無効審判については,すでに審判請求書においてすべてを主張した,これ以上の主張等はなく,追加の主張や反論を行う予定はないから,口頭審理に出頭する意思はない,審判請求書の内容に基づく書面審理を希望する,旨記載された上申書が提出された。
そして,令和2年1月16日に被請求人より,これ以上の主張はなく,請求人が口頭審理に出頭する意思がない以上,被請求人も口頭審理に出頭する必要はない,書面審理で審理を進めるべきである,旨記載された上申書が提出された。
5 両当事者に対し令和2年1月27日付けで書面審理通知書を発した後,請求人に対し令和2年3月17日付けで審尋を発し,期間を指定し請求人の利害関係について釈明を求めたところ,期間内に請求人から特段応答はなかった(なお,令和2年5月7日に,請求人代理人弁理士新保斉より令和2年3月17日付けの審尋について,請求人はこれまでの提出書類の内容により言い尽くされているため回答する意思はない旨連絡があった。)。
第2 請求人の主張
請求人は,本件特許の請求項1~6に係る発明についての特許を無効にする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,甲第1号証~甲第4号証(下記2,以下,各証拠について,証拠番号に従って「甲1」などという。)の証拠方法を提出し,以下の無効理由を主張する。
1 無効理由
本件特許の請求項1~6に係る発明は,甲1~4,周知技術に基いて,当業者が本件特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。よって,同法123条1項2号に該当し,本件特許は無効とすべきものである。
2 証拠方法
甲1:国際公開第2009/148005号
甲2:国際公開第2009/148008号
甲3:国際公開第2008/069264号
甲4:特開2008-14148号公報
第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求を却下する,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,乙第1号証~乙第4号証(下記3,以下,各証拠について,証拠番号に従って「乙1」などという。)の証拠方法を提出し,請求人は本件特許に関し利害関係を有しない,無効理由は理由がない旨主張する。
1 請求人適格について
(1) 請求人は台湾籍の個人であり,日本における本件特許権に係る特許を無効とすることについていかなる利害関係を有するのか不明である。請求人が請求人適格を有する者であることを明らかにしない限り,本件審判の請求は,特許法123条2項に規定する要件を満たすものとはならず,同法135条の規定により不適法なものとして却下されるべきものである。
(2) 請求人は,特許第5528404号特許無効審判事件(無効2017-800113号)における請求人であるが(乙1,以下「別件」という。),別件において請求人が提出した証拠(乙2~4)は以下の事実により,請求人が利害関係人であることについての証明になっていない(以下,各証拠に添付された別紙を,「乙2別紙1」などという。)。
ア 事実1:乙3別紙3の書面は簡体字であり,乙2別紙1は繁体字である。
イ 事実2:乙3別紙3と乙2別紙1とは,改行位置が異なる。
ウ 事実3:乙4別紙4の「曽賢仁」の前には空白が存在するが,乙2別紙1のその他の黒塗りされていない部分にこのような空白は存在しない。当該箇所には,実際には4文字の記載があるものと推定される。
請求人が真に利害関係を有するのであれば,そもそも乙2別紙1の当該箇所を黒塗りする必要などなく,それをあえて黒塗りしていることは,請求人とは異なる者が記載されていると考えるのが自然である。
よって,乙3別紙3,乙4別紙4は,証拠として信頼性に欠け,乙2別紙1の黒塗り部分を開示した証拠は存在せず,乙2別紙1の黒塗り部分に「曽賢仁」の氏名が記載されているとは認められないから,請求人が利害関係人であることは立証できておらず,請求人が利害関係人であるとは認められない。
2 無効理由について
甲1に記載された発明,甲2に記載された発明を主引用発明として,本件の請求項1~6に係る発明の進歩性を否定することはできない。甲3に記載された発明,甲4に記載された発明を主引用発明(あるいは副引用発明)として,本件の請求項1~6に係る発明の進歩性を否定する論理を構築することは不可能である。
よって,本件特許の請求項1~6に係る発明について特許法29条2項を根拠とする無効審判請求は成り立たない。
3 証拠方法
乙1:無効2017-800113号(特許第5528404号特許無
効審判事件)の審判請求書
乙2:平成30年2月16日付け上申書(添付:別紙1~4)
乙3:平成30年3月1日付け上申書(添付:別紙3)
乙4:平成30年3月9日付け上申書(添付:別紙4)
第4 本件特許
本件特許の請求項1~6に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
円板状の振動板と,前記振動板に設けられている円板状の圧電素子と,を有するアクチュエータと,
前記アクチュエータに近接対向して配慣される平面部と,
前記平面部のうち前記アクチュエータと対向するアクチュエータ対向領域の中心又は中心付近に配置された1つまたは複数の中心通気孔と,
前記振動板の外周から隙間をあけて,前記振動板を囲む振動板支持枠と,
前記振動板と前記振動板支持枠との間に設けられ,前記振動板の外周を前記振動板支持枠に対して支持する弾性構造の連結部と,
を備え,
前記振動板支持枠は,第1外部端子を有し,
前記振動板,前記振動板支持枠および前記連結部は,導電性を有し,
前記圧電素子の一方の主面は前記振動板および前記連結部を介して前記第1外部端子に接続し,前記圧電素子の他方の主面は第2外部端子に接続し,
前記アクチュエータは,少なくとも駆動電圧が前記第1外部端子および前記第2外部端子から前記連結部および前記振動板を介して印加されている間,前記平面部に対して非接触状態を保ちながら,中心部から周辺部にかけて屈曲振動する,流体ポンプ。
【請求項2】
前記アクチュエータ対向領域は,中心又は中心付近が屈曲振動可能な薄板部であり,周辺部が実質的に拘束された厚板部である,請求項1に記載の流体ポンプ。
【請求項3】
前記薄板部と対向して前記厚板部と接合され,前記薄板部および前記厚板部とともに内部空間を形成するカバー板部を備え,
前記カバー板部には,前記内部空間と流体ポンプ筐体の外部とを連通させる通気溝が形成された,請求項2に記載の流体ポンプ。
【請求項4】
前記アクチュエータ対向領域の周辺部分に,1つまたは複数の周辺通気孔を備えた,請求項1乃至3の何れかに記載の流体ポンプ。
【請求項5】
前記アクチュエータは,当該アクチュエータと前記平面部との間に一定の隙間をあけて保持されている,請求項1乃至4の何れかに記載の流体ポンプ。
【請求項6】
前記平面部上に前記アクチュエータを位置決めする開口部を有する位置保持構造が設けられ,前記アクチュエータは前記開口部内に収められている,請求項1,2乃至5の何れかに記載の流体ポンプ。」
第5 当審の判断
1 本件無効審判の請求について,被請求人は,請求人は台湾籍の個人であり,日本における本件特許権に係る特許を無効とすることについていかなる利害関係を有するのか不明であるとし,請求人の請求人適格について争う旨主張している(前記第3・1)。
これに対し,請求人は,すでに審判請求書においてすべてを主張した(前記第1・4),これまでの提出書類の内容により言い尽くされている(前記第1・5),などと主張するのみで,請求人が本件特許に関する利害関係人であることについて,具体的に主張,立証をしていない。
2(1) 特許無効審判は,「利害関係人」のみが請求できるものとされているところ(特許法123条2項),特許無効審判における「利害関係人」とは,本件特許を無効にすることについて私的な利害関係を有する者で,例えば,
・当該特許発明と同一である発明を実施している又はしていた者
・当該特許発明を将来実施する可能性を有する者(当該特許発明に類似する発明を実施している者,当該特許発明の実施を準備している者)
・当該特許発明を実施できる設備を有する者
・当該特許権に係る製品・方法と同種の製品・方法の製造・販売・使用等の事業を行っている者
・当該特許権の専用実施権者,通常実施権者等
・当該特許権について訴訟関係にある若しくはあった者又は警告を受けた者
・当該特許発明に関し,特許を受ける権利を有する者
などが,これに当たるものと認められる。
そこで,請求人が本件特許に関する「利害関係人」と認められるかについて検討する。
(2) 審判請求書についてみるに,審判請求書には,請求人適格に関する主張は特段なく,甲1~甲4をみても,請求人と本件特許との関係は明らかでない。
よって,請求人が前記(1)に記載のような者であるとは認められず,本件特許と利害関係があるとは認められない。
(3) 小括
以上のとおりであるから,請求人が本件特許に関する利害関係人であるとは認められない。
3 被請求人の主張に対する判断
(1) この点に関し,被請求人は,別件において請求人が提出した書類(乙2~4)を提出しているが,乙2~4はあくまでも別件に関する書類で,別件特許と請求人の利害関係を説明したものに過ぎず,本件特許と請求人との関係を説明したものではない。
(2) しかしながら,その内容からすると本件特許と関連があると解する余地もあるから,事案に鑑み,乙2~4により,請求人が本件特許に関する利害関係人と認められるかについて,以下,検討する。
(3) 乙2~4添付の別紙に記載された事項
ア 乙2別紙1~4
(ア) 別紙1
・「
」
(イ) 別紙2
・「
」
(ウ) 別紙3
・「
」
(エ) 別紙4
・「
」
イ 乙3別紙3
・「
」
ウ 乙4別紙4
・「
」
(4) 判断
ア 乙2別紙1について
(ア) 乙2別紙1は,「圧電式ポンプ自動化設備仕様書」(乙2別紙2)との表題が付された,プラント設計企画会社から請求人に提出された当該プラントの仕様書の写しと解されるが(乙2・2頁),多岐にわたり黒塗りがなされており,当該仕様書(以下「乙2仕様書」という。)の詳細について,明らかでないところが多い。
(イ) 乙2仕様書の表紙には,請求人名が記載され,表題からすると,乙2仕様書が,請求人宛てに作成された圧電式ポンプ自動化設備仕様書であることがわかる。
また,本文(2~14頁)の記載から,当該仕様書が,「気体導入板」,「作動片」等(乙2別紙2・5頁「4.設備基本規範」)を備えた圧電式ポンプに関するものであることがわかる(なお,乙2別紙2は乙2別紙1の翻訳文であるが(乙2・2頁),乙2別紙1では黒塗りされている箇所について開示があるなど,正確な翻訳文であるかについては疑問は残る。)。
(ウ) 確かに,乙2仕様書は,表紙に請求人名が記載されているものの,それ以外に請求人名の記載を確認することができない。「1.行程目的」(4頁)の欄に当該自動化設備の共同開発者名が記載されていると推認できるが,当該箇所には黒塗りがなされており,明らかでない。
この点に関し,乙3別紙3は,乙2仕様書の当該箇所について,黒塗りを外し,翻訳したものとして提出されたものであるが(乙3・2頁),原文と字体が異なり,改行位置も異なるなど,原文どおりに開示したものとは認められない。なお,乙3別紙3は,「当該箇所の黒塗りの箇所を外したものではなかった」(乙4・2頁)とされたものである。
また,乙4別紙4は,乙3別紙3に代えて,乙2仕様書の当該箇所について,黒塗りを外し,翻訳したものとして提出されたものであるが(乙4・2頁),乙2仕様書4頁のうち当該箇所のみを摘記したものであって,原文どおりであるか確認することができない。
そして,原文では4文字相当分の箇所に請求人名(3文字)が記載され,請求人名の前に空白が存在するなど,記載として不自然であって,乙2仕様書の当該箇所を,原文どおりに開示したものとは認められない(かえって,原文には請求人名が記載されていないと推認されるものである。請求人が本件特許と利害関係があるならば,そもそも乙2仕様書の当該箇所を黒塗りする必要はなく,それをあえて黒塗りしていることは,請求人とは異なる者の名が記載されていることが窺える。)。
このように,乙3別紙3,乙4別紙4は,証拠として信頼性に欠け,乙2仕様書の当該箇所を原文どおりに開示したものとはいえないから,乙2仕様書本文において,請求人名が記載されていることを確認することはできない。表紙の記載は,請求人が圧電式ポンプの製造に関わりがあることを窺わせるが,本文の記載からは,請求人と乙2仕様書に開示された圧電式ポンプとの関係は明らかでなく,請求人がどのような圧電式ポンプの製造に関わりがあるのか不明である。
さらに,乙2別紙1は,表紙と本文との一体性に疑義がある。すなわち,
・本文において,請求人名を確認することができない。
・自動化設備に関し,「1.工程の目的」において「氣體微型◎浦自動化設備」(「気体小型ポンプ自動化設備」(乙2別紙2),「◎」は,原文では封の下に帛。)と,表題(「壓電式○浦自動化設備」(「圧電式ポンプ自動化設備」(乙2別紙2),「○」は,原文では石の下に水。)とは異なる表記がなされるなど,本文において表題と同じ記載を確認することができない。
・ポンプに相当する用語が,表題(「○浦」)と本文(「◎浦」)では異なる。
このような事情に照らすと,乙2仕様書は,表紙と本文とを一体的に作成したとすることに疑問が生じ,表紙の記載との関係で請求人が本文に開示された圧電式ポンプの製造に関わりがあるとすることはできない。
加えて,乙2仕様書が正式な文書として作成されたものであるのか判然としないこと(表紙の承認・APPROVED欄,規格書確認署名欄が空白である。),乙2別紙1が乙2仕様書の写しであることも考慮し,総合的に判断すれば,乙2別紙1をもって,請求人が前記2に記載のような者であるとは認められず,本件特許と利害関係があるとは認められない。
イ 乙2別紙3について
乙2別紙3は,「圧電式ポンプの試作品の写真」(乙2別紙4)との表題が付された,請求人が作成した圧電式ポンプの試作品の写真が掲載された文書であると解されるところ(乙2・4頁),「共振板」,「圧電気のアクチュエータ」等(乙2別紙4)を備えた圧電式ポンプの試作品の写真が掲載されているが,請求人に関する記載はなく,請求人と掲載された圧電式ポンプとの関係は明らかでない。
よって,乙2別紙3をもって,請求人が前記2に記載のような者であるとは認められず,本件特許と利害関係があるとは認められない。
(5) 小括
以上のとおりであるから,乙2~4をもって,請求人が本件特許と利害関係があるとは認められない。
4 また,その他,請求人が本件特許と利害関係があるとすべき証拠はない。
5 以上を総合すると,請求人は,本件特許に関し利害関係人であるとは認められず,請求人適格を有するものとは認められない。
第6 むすび
以上のとおり,本件審判の請求は,特許法123条2項の要件を欠く不適法なものであって,その補正をすることができないものであるから,同法135条の規定により却下すべきものである。
審判に関する費用については,同法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
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