特許拒絶査定不服審判
2019-013734
酸化イットリウム膜
- 審判番号
- 2019-013734
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-106564外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年10月15日
- 審決日
- 2020年11月24日
- 公報発行日
- 2021年01月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社FLOSFIA
- 分類
- P18 .121-WY (C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-106564「酸化イットリウム膜」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-216331、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成27年 5月26日の出願であって、平成30年 5月25日付けで手続補正書及び上申書が提出され、同年11月26日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年 4月 2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和 1年 7月 5日付けで拒絶査定(以下、原査定という)がされ、これに対し、同年10月15日付けで拒絶査定不服審判の請求されたものである。
第2 原査定の概要
原査定の概要は次の通りである。
理由2(進歩性)
平成31年 4月 2日付け手続補正書により補正された請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.ALARCON-FLORES. G. et al.、Optical and structural characteristics of Y2O3 thin films synthesized from yttrium acetylacetonate、J. Mater. Sci.、2008発行、vol. 43、p. 3582-3588
第3 本願発明
本願の請求項1~8に係る発明は、平成31年 4月 2日付けで提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次のとおりのものであると認める。
「 【請求項1】
結晶性酸化イットリウムを含む酸化イットリウム膜であって、膜厚が1μm以上で且つ波長350nm~800nmにおける光透過率が90%以上であり、単層膜であり、さらに、自乗平均面粗さ(RMS)が50nm以下であることを特徴とする酸化イットリウム膜。
【請求項2】
膜厚が1μm~100μmである請求項1に記載の酸化イットリウム膜。
【請求項3】
基体表面の一部または全部が直接または他の層を介して酸化イットリウム膜で被覆されている部材であって、前記酸化イットリウム膜が、請求項1または2に記載の酸化イットリウム膜であることを特徴とする部材。
【請求項4】
基体が、酸化アルミニウム、ガラスまたはシリコン、金属を構成材料として含む請求項3記載の部材。
【請求項5】
基体の少なくともプラズマに曝される部位の表面に、少なくとも1層の耐プラズマ膜が形成された耐プラズマ性部材であって、前記耐プラズマ膜が、請求項1または2に記載の酸化イットリウム膜であることを特徴とする耐プラズマ性部材。
【請求項6】
基体の少なくとも腐食性ガスに曝される部位の表面に、少なくとも1層の耐食膜が形成された耐食性部材であって、前記耐食膜が、請求項1または2に記載の酸化イットリウム膜であることを特徴とする耐食性部材。
【請求項7】
発光素子と波長変換部材とを備え、前記波長変換部材が蛍光体材料を含む発光装置であって、前記蛍光体材料の一部または全部が請求項1または2に記載の酸化イットリウム膜で被覆されていることを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の酸化イットリウム膜を耐プラズマ性部材または耐食性部材として含む半導体製造装置。」
なお、当審決において、本願の請求項1乃至8に係る発明のうちいずれか一つ又は複数の発明を、単に「本願発明」ということがある。
第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、ALARCON-FLORES. G. et al.、Optical and structural characteristics of Y2O3 thin films synthesized from yttrium acetylacetonate、J. Mater. Sci.、2008発行、vol. 43、p. 3582-3588(以下、「引用文献1」という)には、次の記載がある。(下線は当審が付した。「…」は当審による省略を表す。以下同様。)
a 「Abstract Yttrium oxide thin films are deposited on silicon substrates using the ultrasonic spray pyrolysis technique from the thermal decomposition of a β-diketonate, yttrium acetylacetonate (Y(acac)3).」(第3582頁左欄第1~4行)
(当審仮訳:概要 超音波スプレー熱分解法を用い、シリコン基板上に、βジケトネートであるイットリウムアセチルアセトナート(Y(acac)3)の熱分解による酸化イットリウムの堆積を行った。)
b 「Introduction
…Yttrium oxide (Y2O3), is considered an interesting material for different technological applications due to its unique properties such as a high melting point (2,410 ℃)[12], wide energy band gap (5.5eV)[13], high resistivity of 1011-1012 Ω-m, high dielectric strength, and high dielectric constant (up to 13) [9, 14]. Because of its transparency (in the ultraviolet and visible range of the electro magnetic spectrum), Y2O3 is a prospective material to be used as antireflection and protective layer [15]. In addition, recent studies consider Y2O3, as a good candidate to replace SiO2 in the microelectronic industry because of its high dielectric constant [16]. Furthermore, Y2O3 has been studied as a host matrix to obtain high efficiency phosphors when doped with rare-earth elements [17].
In this work, we report the synthesis of Y2O3 thin films by means of the ultrasonic spray pyrolysis technique from Y(acac)3 as source of yttrium. For this task, the study of the thermal decomposition of the latter reagent was carried out first by means of thermogravimetry, differential scanning calorimetry, mass and infrared spectroscopies. The information obtained by these studies led us to determine the deposition conditions for Y2O3 thin films using the spray pyrolysis technique. Once the films were deposited they were physically characterized: the crystalline structure, the surface morphology, and some optical parameters were determined by X-ray diffraction, atomic force microscopy, infrared spectroscopy, and ellipsometry.」(第3582頁右欄第1行~第3583頁第16行)
(当審仮訳:イントロダクション
…酸化イットリウム(Y2O3)は、高い融点(2410℃)[12]、広いバンドギャップ(5.5eV)[13]、1011-1012Ω-mの高い抵抗率、高い絶縁耐力、及び(13に至るまでの)高い比誘電率といった、その特有の性質のために、異なる技術的応用のための興味深い材料として考えられている[9,14]。その(電磁スペクトルにおける紫外及び可視領域の)透明性のために、Y2O3は反射防止層及び保護層として用いられることが見込まれる材料である[15]。加えて、最近の研究において、Y2O3はその高い比誘電率のために、マイクロエレクトロニクス業界においてSiO2を置換するための良い候補として考えられている[16]。さらに、Y2O3は、希土類元素でドープした際に高効率の蛍光体を得るためのホストマトリックスとして研究されてきた[17]。
本報告において、イットリウム源としてのY(acac)3からの超音波スプレー熱分解法によるY2O3薄膜の形成を報告する。この報告のために、まず、熱質量分析、示差走査熱量分析、質量分析及び赤外スペクトル分析を用いて、後者の試料(当審注:Y(acac)3のこと)の熱分解について研究した。これらの研究により得られた情報により、スプレー熱分解法によるY2O3薄膜の堆積条件を決定した。薄膜を堆積した後に物理的特性評価を行った。結晶評価、表面形状、いくつかの光学特性がX線回折、原子間力顕微鏡、赤外スペクトル及びエリプソメトリーにより決定された。)
c 「The Y2O3 thin films were deposited with a 0.03 M solution of Y(acac)3 in N-N Dimetylformamide (NN-DMF). The deposition process was performed using the ultrasonic spray pyrolysis technique. In this technique a mist of the spraying solution is generated by means of ultrasonic vibrations. Figure 1 shows a diagram of the deposition set up. The mist is transported through a glass pipe to the heated substrate's surface where a thin solid film is obtained by means of a pyrolytic reaction. A commercial ultrasonic humidifier (operated at 0.8 MHz) was used for this purpose. The substrates were c-Si(100) and (111) wafers. The substrates were previously cleaned before being loaded into the deposition chamber [18]. The deposition substrate temperature was 400, 450, 500, and 550℃. Ultrapure air at 10L/min was used as carrier gas. The index of refraction and thickness of the deposited films were measured by ellipsometry (Gaertner LSE stokes ellipsometer), at 632 nm. In general, the thickness of the Y2O3 films was around 1,000 Å.」(第3583頁右欄第5~23行)
(当審仮訳:N-Nジメチルホルムアミド(NN-DMF)中のY(acac)3の0.03M溶液を用いて、Y2O3薄膜を堆積した。堆積プロセスは超音波スプレー分解法を用いて行った。この方法において、超音波振動を用いてスプレー用溶液の霧を生成した。図1は堆積装置のダイアグラムを示す。ミストはガラス管を通して加熱した基板表面に搬送され、そこで熱分解反応により固体薄膜が得られる。市販の加湿器(0.8MHzで運転)をこの目的に用いた。基板はc-Si(100)及び(111)ウェハであった。基板は堆積チャンバに設置される前に清浄化された[18]。堆積基板の温度は400、450、500及び550℃であった。10L/分の高純度空気をキャリアガスとして用いた。堆積した薄膜の屈折率及び厚さは、632nmにおいてエリプソメトリー(Gaertner LSE stokesエリプソメーター)により測定した。一般的に、Y2O3膜の厚さは1,000Åであった。」
d 「In addition, Fig. 9 shows a typical atomic force microscopy image of a film deposited at 500℃.Ingeneral,thesurfacemorphologyofthefilmswasveryflatwitharootmeansquaredsurfaceroughness(rms)lowerthan40Å.」(第3587頁左欄第14~18行)
(当審仮訳:さらに、500℃で堆積された膜の典型的な原子間力顕微鏡像を図9に示す。一般的に、膜の表面形態は非常に平坦であり、自乗平均表面粗さ(rms)は40Å以下である。)
e 「The X-ray diffraction patterns of the films are shown in Fig. 10. It can be observed that as the deposition temperature is increased, the crystalline structure of the films is improved.」(第3587頁左欄第21~24行)
(当審仮訳:膜のX線回折パターンが図10に示される。堆積温度が高いほど、膜の結晶構造が向上することが観察できる。)
f 「Conclusions Thin films with good optical and structural characteristics were obtained with the spray pyrolysis technique from the decomposition of Y(acac)3.」(第3587頁右欄第1~4行)
(当審仮訳:結論 スプレー熱分解法を用いて、Y(acac)3の分解により良好な光学的及び構造的特性を有する薄膜が得られた。)
(イ)引用文献1に記載の発明
上記(ア)cに示されるY2O3薄膜を堆積方法からみて、当該Y2O3薄膜は単層膜であるといえる。また、上記(ア)eから、Y2O3薄膜は結晶性のY2O3を含んでいるといえる。
そうすると、上記(ア)a、c~eから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「結晶性のY2O3を含むY2O3薄膜であって、厚さ1,000Åであり、単層膜であり、自乗平均表面粗さ(rms)が40Å以下である、Y2O3薄膜。」
(2)対比・判断
(2-1)請求項1に係る発明について
a 一致点及び相違点について
引用発明の「結晶性のY2O3」、「Y2O3薄膜」、「自乗平均表面粗さ(rms)が40Å以下」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「結晶性酸化イットリウム」、「酸化イットリウム膜」、「自乗平均面粗さ(RMS)が50nm以下」に相当する。
そうすると、引用発明は、「結晶性酸化イットリウムを含む酸化イットリウム膜であって、単層膜であり、さらに、自乗平均面粗さ(RMS)が50nm以下であることを特徴とする酸化イットリウム膜。」である点で請求項1に係る発明と一致し、下記の点で相違する。
<相違点1>
請求項1に係る発明の酸化イットリウム膜は「波長350nm~800nmにおける光透過率が90%以上」であるのに対し、引用発明はこの点が不明である点。
<相違点2>
引用発明のY2O3薄膜は「厚さ1,000Å」であるのに対し、請求項1に係る発明の酸化イットリウム膜は「膜厚が1μm以上」である点。
b 相違点2についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討するに、引用文献1に記載の発明は、上記(1)ア(ア)b、e及びfからみて、最終的な目的としてY2O3薄膜の各種物理的特性を検討するためになされたものと解される。そうすると、引用文献1に接した当業者が、引用発明のY2O3薄膜を「膜厚が1μm以上」になるよう変更する動機付けを見出すことはできない。
同様の理由で、仮に実際の用途において膜厚が1μm以上のY2O3薄膜が周知技術だとしても、引用文献1に記載のY2O3薄膜を膜厚が1μm以上になるよう変更する動機付けを見出すことはできない。
c 小括
してみれば、相違点1について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2-2)請求項2~8に係る発明について
請求項2~8に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて有する、酸化イットリウム膜、部材又は装置の発明である。
そうすると、上記(2-1)と同様に、請求項2~8に係る発明は、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、原査定の理由2(進歩性)を維持することはできない。
第5 むすび
以上の通り、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論の通り審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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