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特許拒絶査定不服審判

2019-007539

光触媒塗工液及びそれを用いた光触媒フィルム

審判番号
2019-007539
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2014-040959
請求日
2019年06月06日
審決日
2020年11月04日
公報発行日
2021年02月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】日本光触媒センター株式会社
  • 【請求人代理人】山内 博明
  • 【請求人】東曹産業株式会社
  • 【請求人代理人】山内 博明
審判長/審判官
  • 審判長 天野 斉
  • 審判官 木村 敏康
  • 審判官 蔵野 雅昭
分類
P18 .55 -WZ (B01J) / P18 .536-WZ (B01J) / P18 .537-WZ (B01J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法49条1号特許法49条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第49条第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2014- 40959「光触媒塗工液及びそれを用いた光触媒フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開、特開2017- 42683〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、平成26年3月3日の出願であって、 平成30年4月5日付けの拒絶理由通知に対して、平成30年6月4日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、 平成30年8月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成30年10月5日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、 平成31年3月5日付けの拒絶査定に対して、令和元年6月6日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、 令和2年6月23日付けの審判合議体による拒絶理由に対して、令和2年8月31日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願は、その発明の名称を「光触媒塗工液及びそれを用いた光触媒フィルム」とするものであって、令和2年8月31日付けの手続補正(以下「第4補正」ともいう。)により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 ナノオーダーサイズの光触媒粒子を含有していてpHが中性かつ負に帯電している光触媒含有体と、 前記光触媒粒子を含む水中で当該光触媒粒子との間で相互に反発しあう平均2次粒子径で5nm以上18nm以下のシリカ粒子が分散したゼータ電位のピークが-30mV~-70mVの負帯電物質と、 溶剤系又は水系の樹脂と、 を含む光触媒塗工液であって、 前記負帯電物質は、pHが7以上9以下、乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して40wt%以上60wt%以下となる割合で含まれており、 前記光触媒フィルムの全光線透過率が86%以上である光触媒塗工液。 【請求項2】 前記光触媒含有体は乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して3wt%~70wt%、 前記樹脂は乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して3wt%~60wt%の中から選択される請求項1記載の光触媒塗工液。 【請求項3】 前記樹脂は、アクリル樹脂、シリコン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂のいずれかを含む、請求項1記載の光触媒塗工液。 【請求項4】 前記光触媒粒子は、扁平形状の結晶粒子と、それに比較して厚みがある立体形状の結晶粒子とが結合した光触媒粒子である、請求項1記載の光触媒塗工液。 【請求項5】 請求項1記載の光触媒塗工液を硬化させた、光触媒フィルム。」 第3 令和2年6月23日付けの拒絶理由通知の概要 令和2年6月23日付けの審判合議体による拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)で通知された拒絶理由の概要は、次の理由1~4からなるものである。 理由1:平成30年6月4日付け、平成30年10月5日付け、及び令和元年6月6日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 1.(1)ゼータ電位が-30mV~-70mVの負帯電物質の点 1.(2)平均2次粒子径で5nm以上18nm以下の範囲の点 理由2:この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.「発明の具体的な実施態様を正しく理解し得ない」点 理由3:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.(3)比較例1は本件発明に該当すると認められるが比較例(課題を 解決できないもの)である点 4.(4)ゼータ電位及びpHの数値範囲が広すぎる点 4.(5)負帯電物質、光触媒粒子及び樹脂の配合量が広すぎる点 4.(6)未硬化状態の樹脂の種類が限定されていない点 理由4:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.(1)「負帯電物質」の意味するところ 2.(2)「多く存在する」の意味するところ 2.(3)「負帯電物質」の濃度の意味するところ 2.(4)「光触媒粒子」と「樹脂」の濃度の意味するところ 第4 当審の判断 1.理由1(新規事項)について (1)ゼータ電位が-30mV~-70mVの負帯電物質の点について 平成30年6月4日付けの手続補正(以下「第1補正」という。)、平成30年10月5日付けの手続補正(以下「第2補正」という。)、及び令和元年6月6日付けの手続補正(以下「第3補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の請求項1の「ゼータ電位が-30mV~70mVの負帯電物質と」との記載部分を「ゼータ電位が-30mV~-70mVの負帯電物質と」との記載に改める補正を含むものである。 そして、第4補正による補正後の請求項1においては、当該記載部分が「ゼータ電位のピークが-30mV~-70mVの負帯電物質と」との記載に改められ、第4補正による補正について、第4補正と同日付の意見書(以下「第3意見書」という。)の第3頁において、審判請求人は『これは出願当初の「70mV」との記載は本来記載すべきマイナス(-)が欠落していたという単なる誤記でした。…普通は、ゼータ電位をゼロを跨るように規定するとなると、何らかの一種類の粒子ではないことを意味しますので、本願発明の精神に則って考えれば、「+70mV」になるとは当業者は考えないはずです。なお、「ゼータ電位が-30mV~-70mV」という表記は、正確には「ゼータ電位のピーク値が-30mV~-70mV」とすべきであったことに気が付きましたので、そのように補正しました。』と主張する。 しかしながら、本願の「当初明細書等」には「ゼータ電位のピーク値が-30mV~-70mV」であることを直接的に記載した箇所が見当たらない。 ここで、第3意見書の第17頁には、本願明細書の段落0070の「比較例2…スノーテックスXSは…ゼータ電位が-23mV~-35mV程度である。」との記載にある「スノーテックスXS」の「ゼータ電位」の測定結果「 」が示され、ゼータ電位が+15mV~-50mVの範囲(ゼロを跨ぐ範囲になっている)で、ゼータ電位のピークが-15.0mVにあること(「-23mV~-35mV程度」には該当しないこと)が示され、 第3意見書の第14頁には、本願明細書の段落0065の「実施例1…シリカ粒子:本出願人らの一である東曹産業株式会社製のハイパーグラスN」との記載にある「ハイパーグラスN」の「ゼータ電位」の測定結果「 」が示され、ゼータ電位が+5mV~-75mVの範囲で、ゼータ電位のピークが-35.3mVであることが示されているところ、 ゼータ電位の範囲とゼータ電位のピークとが同義の内容を意味すると解することはできない。 このため、第3意見書の上記『正確には「ゼータ電位のピーク値が-30mV~-70mV」とすべきであったことに気が付きましたので、そのように補正しました。』との記載にある補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認めることはできない。 さらに、第3意見書の第3頁において、審判請求人は『(a)まず、第1意見書に添付された「添付資料1」自体の頒布年月日は平成27年2月19日です。(b)また、「ハイパーグラスN」という製品名の、シリカ粒子を含むコロイダルシリカの製品仕様についてですが、これは発売当初から一切変更されていません。証拠として、然るべき宣誓書等が必要であれば準備して提出します。なお、本願明細書の(0065)における「シリカ粒子:本出願人らの一である東曹産業株式会社製のハイパーグラスN」という記載は、明らかに言葉足らずであり「シリカ粒子を含むコロイダルシリカ:…」或いは単に「コロイダルシリカ:…」とすべきでした。』と主張する。 しかしながら、当該「添付資料1」の頒布年月日は、本願の出願日(平成26年3月3日)の後であり、仮に本願出願日前における「ハイパーグラスN」の製品仕様が、当該「添付資料1」に記載のとおりの物性値を有し、第3意見書の第14頁の測定結果にあるとおりの「ゼータ電位のピーク」の物性値を有すると善解しても、当該「ハイパーグラスN」の物性値の詳細は本願の当初明細書等に開示がなく、その物性値の詳細が本願出願時の技術常識として当業者に知悉されていたといえる事情も見当たらないので、当初明細書等の「ハイパーグラスN」との記載を含むすべての記載を総合しても、本願請求項1に記載された「平均2次粒子径で5nm以上18nm以下のシリカ粒子が分散したゼータ電位のピークが-30mV~-70mVの負帯電物質」との記載にある「平均2次粒子径」と「ゼータ電位のピーク」に関する物性値の技術的事項を導き出し得るとはいえない。 してみると、同段落0065の「実施例1」で用いられている「ハイパーグラスN」という製品名の「シリカ粒子」の物性値が明らかにされていないことも相俟って、上記補正が『当業者によって,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において ,新たな技術的事項を導入しないものであるとき』に該当するとはいえない。 したがって、本願の当初明細書等についてした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2)平均2次粒子径について 第1補正は、当初明細書等の請求項1の「光触媒塗工液。」との記載部分に「光触媒塗工液であって、前記負帯電物質は、pHが7以上9以下、平均2次粒子径で5nm以上18nm以下の範囲で、少なくとも、光触媒塗工液全体に対して大凡40wt%以上となる割合で含まれている光触媒塗工液。」との事項を導入する補正を含み、第2補正、及び第3補正においても、同様な事項が導入されている。 そして、第4補正による補正後の請求項1においては、当該記載部分に対応して「前記光触媒粒子を含む水中で当該光触媒粒子との間で相互に反発しあう平均2次粒子径で5nm以上18nm以下のシリカ粒子が分散したゼータ電位のピークが-30mV~-70mVの負帯電物質」という事項が発明特定事項とされ、第3意見書の第4頁において、審判請求人は『本願出願人らの第1意見書における主張の論理は、「添付資料1」の記載に基づいて「ハイパーグラスN」の「粒子径」の補足説明をするというものであり、ここでは、一般にカタログ等に明記されないものの、特許明細書であれば記載が要求されるであろう「2次粒子径」という用語を補って、「ハイパーグラスNは、添付資料1に明記されているように、粒子径が平均2次粒子径で5nm以上18nm以下であり…」と補足説明しています。』と主張する。 しかしながら、本願の「当初明細書等」には「平均2次粒子径で5nm以上18nm以下のシリカ粒子」という事項を直接的に記載した箇所が見当たらない。 そして、本願明細書の段落0065の「実施例1…シリカ粒子:本出願人らの一である東曹産業株式会社製のハイパーグラスN」との記載にある「ハイパーグラスN」の平均粒子径やpH値やゼータ電位などの具体的な物性値は、本願の当初明細書等に示唆を含めて記載がなく、仮に第1意見書の第5頁の「添付資料1」の「 」との記載にある「粒子径 5~18nm」が「平均2次粒子径」を意味すると解すべき「技術常識」の存在を裏付ける証拠は提出されておらず、仮に添付資料1に記載の「粒子径」が「平均2次粒子径」を意味するものと善解しても、本願明細書の段落0044の「なお、本実施形態に係る負帯電物質は、平均1次粒子径でのサイズの下限を1nm、好ましくは5nmとするとよい。…負帯電物質の粒子サイズは400nmを上回ってもよく、具体的には、平均2次粒子径で4000nm程度を上限とすることができる。」との記載と整合しない。 すなわち、本願の当初明細書等では、負帯電物質の粒子径の下限値は「平均2次粒子径で5nm以上」ではなく「平均1次粒子径で5nm以上」とされ、負帯電物質の「平均2次粒子径」の上限値は「4000nm程度」とされているので、当該製品名を根拠に当該「平均2次粒子径で5nm以上18nm以下のシリカ粒子が分散した」という事項を導入することが『当業者によって,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において ,新たな技術的事項を導入しないものであるとき』に該当するとはいえない。 したがって、本願の当初明細書等についてした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 2.理由4(明確性要件)について 先の拒絶理由通知の「2.(3)」と「2.(4)」の記載不備に関して、第4補正により、 補正前の請求項1の「前記負帯電物質は、pHが7以上9以下、平均2次粒子径で5nm以上18nm以下の範囲で、少なくとも、光触媒塗工液全体に対して40wt%以上となる割合で含まれており」との記載に対応する部分が「前記負帯電物質は、pHが7以上9以下、乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して40wt%以上60wt%以下となる割合で含まれており」との記載に改められ、 補正前の請求項2の「前記光触媒粒子は光触媒塗工液を用いて製造した光触媒フィルムに対して3wt%~70wt%」との記載に対応する部分が「前記光触媒含有体は乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して3wt%~70wt%」との記載に、同じく「前記樹脂は乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して3wt%~60wt%」との記載に対応する部分が「前記樹脂は乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して3wt%~60wt%」との記載に改められた。 その結果、補正後の請求項1の「負帯電物質」の「40wt%以上60wt%以下」という濃度範囲と、補正後の請求項2の「光触媒含有体」の「3wt%~70wt%」という濃度範囲は、負帯電物質の下限値の「40wt%」に対して光触媒含有体の上限値の「70wt%」が技術的に成り立たない関係になっている(合計が100wt%を越える)という点において著しく不明確な内容のものとなっている。 また、補正後の「前記負帯電物質は…乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して光触媒塗工液全体に対して40wt%以上60wt%以下となる割合」等の記載にある下線を付した部分の配合量の定義は、これが「乾燥」後の「光触媒フィルム」を基準としているのか、乾燥前の「液体」状態の「光触媒塗工液全体」を基準としているのか、その技術的な内容を日本語として明確に把握できない記載となっている。 したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、その請求項1における「負帯電物質」の濃度に関する発明特定事項の意味するところ、並びにその請求項2における「光触媒含有体」及び「樹脂」の濃度に関する発明特定事項の意味するところが「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確」であって、特許を受けようとする発明が明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 この点に関して、審判請求人は、第3意見書の第2頁において『今にして思えば、この引用箇所及び同様の記載ぶりとしている箇所は、基準を統一して「光触媒粒子:樹脂:シリカ粒子を…」或いは「光触媒含有体:樹脂:コロイダルシリカを…」としておけば読み易かったと考えています。もっとも、(0007)段落の既述の引用箇所によりますと、「wt%」という表記を用いた説明箇所は、これを乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算した値としているため、技術的に誤りというわけではありません。』と主張し、同第5頁において『この根拠は本願明細書の(0007)段落にある「本明細書において光触媒塗工液に関して「wt%」という表記を用いた説明箇所は、これを乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算した値としている。」という記載にあります。明確性を担保するために、本願請求項1、2に適宜「乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して」というような記載を付加する補正をしました。』と主張する。 しかしながら、基準を統一した結果、請求項1の「負帯電物質」と請求項2の「光触媒含有体」の配合量の範囲に不整合ないし矛盾が生じたことは上記のとおりであり、適宜「乾燥させて光触媒フィルムとした場合の量に換算して」という記載を付加した結果、補正後の配合量の定義が明確に把握できないものとなったことも上記のとおりであるから、第4補正による補正によっても、先の拒絶理由通知で指摘した2.(3)及び(4)の記載不備が解消したとはいえない。 なお、第4補正がなされた結果、請求項1の記載は、以下の点でも明確ではない。 すなわち、請求項1の「ナノオーダーサイズの光触媒粒子を含有していてpHが中性かつ負に帯電している光触媒含有体」は、その記載のとおりに解釈すれば「ナノオーダーサイズの光触媒粒子」が何らかの媒体中に「含有」されている物品(例えば、何らかの溶媒中に光触媒粒子が分散している液状の組成物)であって、「pHが中性」であり、かつ、「負に帯電している」ものであると認められるが、ここで、「pHが中性」については、当該溶媒として「水」を想定すれば、当該物品(液状の組成物)の「pHが中性」である態様を想定し得るものの、「負に帯電している」を充足する態様を想定し得ないため、請求項1の記載は明確ではない。 また、請求項1の「シリカ粒子が分散したゼータ電位のピークが-30mV~-70mVの負帯電物質」は、その記載のとおりに解釈すれば、「シリカ粒子」が何らかの媒体中に「分散」している物品(例えば、何らかの溶媒中にシリカ粒子が分散している液状の組成物)であって、「ゼータ電位のピークが-30mV~-70mV」であり、かつ、「負に帯電」しているものであると認められるが、ここで、「ゼータ電位」は固体の粒子の表面における電位であって、液状の組成物のゼータ電位を測定することはできないし、「負に帯電している」を充足する液状の組成物も想定し得ないため、請求項1の記載は明確ではない。 3.理由2(実施可能要件)について 本願明細書の段落0065には「(実施例1) 光触媒塗工液の組成物として、 光触媒含有体:既述の鯤コーポレーション株式会社製のサガンコートTPX-HL、 樹脂:水系ウレタン樹脂として大成ファインケミカル株式会社製WBR、 シリカ粒子:本出願人らの一である東曹産業株式会社製のハイパーグラスN、 を用意した。そして、これらの光触媒含有体:樹脂:シリカ粒子を、大凡15wt%:30wt%:55wt%となる割合で混合し、既述の撹拌工程を経て光触媒塗工液を製造した。なお、本明細書で示す割合は、明示した数値の±10%程度までの割合を含むものとする。」と記載されている。 これに対して、第3意見書の第9~10頁では「面接時にご指示いただきました、光触媒塗工液を製造する上での、サガンコートTPX-HL、WBR、ハイパーグラスNの製品ベースの混合割合を算出しました。実施例1の場合には、サガンコートTPX-HLが6.0L、WBRが0.5L、ハイパーグラスNが1.4Lになります。…ちなみに、サガンコートTPX-HL、WBR、ハイパーグラスNの各固形分は、それぞれ、0.8~0.9wt%、25wt%、17wt%です。」との釈明がなされている。 すなわち、本願明細書の段落0065の記載に接した当業者にしてみれば、実施例1の「光触媒塗工液」は、光触媒含有体としての「サガンコートTPX-HL」という製品それ自体を15重量部と、樹脂としての「WBR」という製品それ自体を30重量部と、シリカ粒子としての「ハイパーグラスN」という製品それ自体を55重量部の重量割合で混合して調製されるものと理解されるのに対して、実際には、第3意見書の第9頁の記載にある「サガンコートTPX-HLが6.0L、WBRが0.5L、ハイパーグラスNが1.4L」という容積割合で混合して調製されるものとされている。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、発明の具体的な実施態様を正しく理解し得ないものであり、上記2.で指摘したように、本願請求項1及び2の記載における「負帯電物質」並びに「光触媒含有体」及び「樹脂」の濃度に関する発明特定事項の意味するところが不明確であることも相俟って、当業者といえども本願請求項1及び2並びにその従属項に係る発明の「光触媒塗工液」又は「光触媒フィルム」を製造・使用できるとはいえない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1~5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 4.理由3(サポート要件)について (1)明細書のサポート要件の適合性について 一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 (2)本願発明の解決しようとする課題 本願請求項1~5に係る発明の解決しようとする課題は、本願明細書の段落0004の「本発明は、上記各問題点を回避する条件の光触媒塗工液及びそれを用いた光触媒フィルムを提供することを課題とする。」との記載、同段落0074の「目視による外観観察…外観の見た目の評価…透明性…密着性…表面粗さ…硬度…分解活性…全光線透過率」との記載、同段落0086の「以上の指標に基づいて、各実施例及び各比較例の合計点数を算出する」との記載を含む発明の詳細な説明の全記載からみて『目視による外観観察、外観の見た目の評価、透明性、密着性、表面粗さ、硬度、分解活性、及び全光線透過率の評価結果に優れた光触媒塗工液及びそれを用いた光触媒フィルムの提供』にあるものと認められる。 (3)比較例1の点 第3意見書の第7頁において、審判請求人は『比較例1の光触媒含有体における光触媒粒子は、その平均粒径が「60nm~65nm」であって「ナノオーダーサイズの光触媒粒子」の要件を満たすという認定はそのとおりですが、例えば、比較例1で用いている「石原産業株式会社製のチタニアゾルSTS-01」は、「東曹産業株式会社製のハイパーグラスN」に混合しますと、光触媒含有体における光触媒粒子の「均一な分散が実現でき」ません。これは、「ハイパーグラスN」がpH7.5~8.5という中性域に属しているのに対して、「チタニアゾルSTS-01」がpH1.5という強酸性域に属していることから、pHのギャップが非常に大きいため凝集が生じてしまうことが原因です。この結果、光触媒フィルムは「白色」になりますし、見た目も悪くなりますし、光触媒粒子が有する分解活性が得られません。』と主張する。 しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「チタニアゾルSTS-01」という「ナノオーダーサイズの光触媒粒子」がpH1.5という強酸性域に属していることについての記載がなく、第4補正による補正によって補正前の請求項1の「ナノオーダーサイズの光触媒粒子」という発明特定事項に対応する事項が「ナノオーダーサイズの光触媒粒子を含有していてpHが中性かつ負に帯電している光触媒含有体」に補正され、光触媒含有体が「pHが中性」であるものに限定されているものの、本願明細書の実施例1~3及び比較例1~2の「試験結果」の記載を含む発明の詳細な説明の書きぶりによっては、本願請求項1に記載の「ナノオーダーサイズの光触媒粒子を含有していてpHが中性かつ負に帯電している光触媒含有体」という発明特定事項と、得られる効果(性能)との関係の技術的な意味を、当業者が正しく把握ないし認識できるとはいえない。 したがって、本願請求項1及びその従属項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1及びその従属項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 (4)ゼータ電位及びpHの数値範囲の点 第3意見書の第8頁において、審判請求人は『本願明細書の(0070)段落には、「スノーテックスXSは…ゼータ電位が-23mV~-35mV程度である。」と記載していましたが、実測値としましては、ピークが「-15mV」であり、これらの範囲に納まらず、低い値(プラスよりの値)であり、本願請求項1で規定されるゼータ電位と重複しないことが判明しました。』と主張する。 しかしながら、本願明細書の段落0070には、比較例2のシリカ粒子のゼータ電位が「-23mV~-35mV」のものとして記載され、特段の補正もなされていないので、このような記載に接した当業者にしてみれば、ゼータ電位が『-30mV~-35mV』の範囲にある場合に、本願所定の課題を解決できると認識できず、本願請求項1の「-30mV~-70mV」という広範な数値範囲の全てが、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあると認めることはできない。 ない。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の実施例1~3の具体例で用いられている「ハイパーグラスN」というコロイダルシリカが、補正後の請求項1の「ゼータ電位のピークが-30mV~-70mV」という発明特定事項を満たす「ゼータ電位のピーク」にあるものとして記載されていない(第3意見書の第9頁にあるように、ゼータ電位のピーク値が-35.3mVであるものとして記載されていない)ので、本願明細書の実施例1~3及び比較例1~2の「試験結果」の記載を含む発明の詳細な説明の書きぶりによっては、本願請求項1に記載の「前記光触媒粒子を含む水中で当該光触媒粒子との間で相互に反発しあう平均2次粒子径で5nm以上18nm以下のシリカ粒子が分散したゼータ電位のピークが-30mV~-70mVの負帯電物質」という発明特定事項と、得られる効果(性能)との関係の技術的な意味を、当業者が正しく把握ないし認識できるとはいえない。 また、第3意見書の第8頁において、審判請求人は『実施例1~3で用いた「ハイパーグラスN」という製品は、その安全データシート(SDS)においてpH7.5~8.5と記載してあります。』と主張する。 しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「ハイパーグラスN」のpH値が明らかにされておらず、本願明細書の段落0070には、比較例2のシリカ粒子のpHが「9.5~10程度」のものとして記載され、同段落0086の「比較例2…3点」との記載にあるように、非常に低い評価の性能にあることから、本願請求項1のpH9の近傍域(有効数字で8.50~9.49程度のpH域)を含む「pHが7以上9以下」という広範な数値範囲の全てが、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。 したがって、本願請求項1及びその従属項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1及びその従属項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 (5)負帯電物質、光触媒粒子及び樹脂の配合量の点 第3意見書の第8頁において、審判請求人は『数値範囲が広範囲であるという評価は、既述の本願発明の原理に接した当業者であれば、実施例1~3の光触媒塗工液の構成する材料の各々が固有の機能を発揮できる最低限の混合量を含有してさえいれば、それ以外は、例えばより分解活性を高めたいのであれば光触媒含有体の混合割合を増やせばよいだけということになります。』と主張する。 しかしながら、どのような「原理」を考慮したとしても、上記2.に示したように、補正後の請求項1の「負帯電物質」の「40wt%以上60wt%以下」という濃度範囲と、補正後の請求項2の「光触媒含有体」の「3wt%~70wt%」という濃度範囲は、負帯電物質の下限値の「40wt%」に対して光触媒含有体の上限値の「70wt%」が技術的に成り立たない関係になっている。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の「試験結果」及び「作用機序」の記載によっては、本願出願時の「技術常識」を考慮しても、本願請求項1の「40wt%以上60wt%以下」という広範な数値範囲の全て、並びに本願請求項2の「3wt%~70wt%」及び「3wt%~60wt%」という広範な数値範囲の全てが、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあると認めることはできない。 (6)未硬化状態の樹脂の点 第3意見書の第9頁において、審判請求人は『拒絶理由通知では、「WBR」という特定の「水性ウレタン樹脂」を用いることで課題解決の裏付けができても、当該特定の樹脂以外の場合にそうはいえない趣旨の指摘がされています。確かに、そのとおりですので、本願請求項1について全光線透過率に関する補正をすることで、補正前の本願請求項4についての拒絶理由が間接的に解消するようにしました。』と主張する。 しかしながら、補正前の「樹脂」は「未硬化状態」のものに限定されていたのに対して、補正後の「樹脂」は「未硬化状態」のものに限定されない範囲に拡張されており、当該「未硬化状態」のもの以外にまで発明を拡張ないし一般化できるといえる具体的な根拠は見当たらない。 また、樹脂の性質が「溶剤系」であるか「水系」であるかによらず同等であるといえる技術的な根拠は、審判請求人によって具体的に示されていない。 さらに、樹脂の「外観」や「透明性」や「密着性」や「硬度」や「分解活性」や「全光線透過率」の有用性が、補正後の「溶剤系又は水系の樹脂」という広範な範囲で同等であるといえる根拠も示されていない。 してみると、本願明細書の段落0065の「大成ファインケミカル株式会社製WBR」という特定の「水性ウレタン樹脂」を用いることで上記課題を解決できることが裏付けられているとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の「試験結果」及び「作用機序」の記載によっては、本願出願時の「技術常識」を考慮しても、本願請求項1の「溶剤系又は水系の樹脂」という広範な範囲の全てが、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあると認めることはできない。 (7)まとめ したがって、本願請求項1及び2並びにその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1~5の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、その特許出願の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲についてした補正が第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであり、また、本願は、その特許出願が第36条第4項第1項及び第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、特許法第49条第1号及び第4号の規定に該当し、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2019-007539

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