2019-002059
はんだ合金、ソルダペースト、成形はんだ、及びはんだ合金を用いた半導体装置
- 審判番号
- 2019-002059
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-087111外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年02月14日
- 審決日
- 2019年04月09日
- 公報発行日
- 2019年06月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ニホンハンダ株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人きさ特許商標事務所
- 分類
- P18 .113-WY (B23K) / P18 .121-WY (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
本願は、平成30年 4月27日の出願であって、平成30年10月26日付けで拒絶理由が通知され、同年11月20日付けで意見書が提出され、平成31年 1月 7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年 2月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 本願発明
本願請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明7」という。)は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】全体の質量%のうち、0.03質量%~0.09質量%のニッケルと、全体から前記ニッケル及び不可避不純物を除いた残部であるビスマスと、からなるはんだ合金。続きを表示(全28行)【請求項2】前記ニッケルを0.05質量%~0.07質量%含有する、請求項1に記載のはんだ合金。【請求項3】請求項1又は2に記載のはんだ合金の粉末と、フラックスと、を有するソルダペースト。【請求項4】請求項1又は2に記載のはんだ合金が一定の形状に成形された成形はんだ。【請求項5】半導体チップと、前記半導体チップを支持するダイパッドと、前記半導体チップと前記ダイパッドとの間に設けられた、請求項1又は2に記載のはんだ合金と、前記半導体チップ及び前記ダイパッドを覆う樹脂と、を有する半導体装置。【請求項6】半導体チップと、前記半導体チップを支持する絶縁基板と、前記絶縁基板と前記半導体チップとの間に設けられた、請求項1又は2に記載のはんだ合金と、を有する半導体装置。【請求項7】半導体チップを支持する絶縁基板と、前記半導体チップから発生する熱を放出する放熱板と、前記絶縁基板と前記放熱板との間に設けられた、請求項1又は2に記載のはんだ合金と、を有する半導体装置。」
第3 原査定の概要
原査定(平成31年 1月 7日付け拒絶査定)における拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1.本願請求項1、2、6、7に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.本願請求項1、2、3、4、6、7に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由3.本願請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2007-281412号公報
2.特開2006-310507号公報
第4 引用文献、引用発明
1.引用文献1について
1-1.引用文献1の記載事項
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2007-281412号公報)には、「パワー半導体モジュール」(発明の名称)に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(「…」によって記載の省略を表す。また、下線は当審による。以下同様。)
1ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu層を表面に備えたパワー半導体素子と、Cu層を表面に備えた絶縁基板と、を有し、前記パワー半導体素子と前記絶縁基板とをそれぞれのCu層が対向するように配して、該2つのCu層の間を前記Bi系ハンダ材料で接合してなるパワー半導体モジュール。
【請求項2】
パワー半導体素子と、Cu層を表面に備えた絶縁基板と、Cu層を表面に備えた放熱板と、を有し、前記絶縁基板と前記放熱板とをそれぞれのCu層が対向するように配して、該2つのCu層の間を前記Bi系ハンダ材料で接合してなるパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記Bi系ハンダ材料が、(1)Bi単体、(2)Bi中にCuAlMn合金粒子を分散させたBi-CuAlMn、(3)BiにCuを添加した材料、又は(4)BiにNiを添加した材料、であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記BiにNiを添加した材料は、Niの含有率が0.01質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体モジュール。」
1イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールに関し、詳細には、鉛フリー高温ハンダ材料により接合してなるパワー半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、通常、パワー半導体と電流通電部とが電気的に絶縁されるよう、パワー半導体に絶縁体を設けた構成となっている。このパワー半導体と絶縁体とは、ハンダなどによって接合されている。
【0003】
また、パワー半導体モジュールでは、半導体素子から発生する熱を効率よく放散するために、あるいは一時的に熱を分散するために、放熱板が設けられ、この放熱板と上記絶縁体とは、ハンダによって接合されている。したがって、パワー半導体モジュールでは、半導体素子と絶縁体との間、及び絶縁体と放熱板との間の2箇所でハンダにより接合することが一般的である。
【0004】
ここで、2回目のハンダ付けの温度が、1回目に用いたハンダ材料の融点よりも高いと、2回目のハンダ付けの際に1回目にハンダ付けした部分が溶融して、位置ずれを起こしたり傾斜したりといった不具合を発生させてしまう。したがって、この問題を回避するため、1回目に用いるハンダ材料の融点は、2回目に用いるハンダ材料の融点よりも高くなるように、ハンダの材料を選択している。
【0005】
これまでは2回のハンダ接合工程にPb系ハンダ材料が用いられていた。特にPb-Snハンダ材料を用い、PbとSnの比率を変えることによって、融点を183~300℃前後の範囲で変化させて、2回のハンダ付けを行っていた(例えば、非特許文献1参照。)。
しかし、Pbは毒性を有するために使用廃止の方向にあり、Pbフリーのハンダ材料の開発が望まれている。
【0006】
このようなハンダ材料に対する要求の中、例えば、種々の組成のSn系ハンダ材料が提案されている。しかしSn系ハンダ材料は、その融点を220℃前後の狭い範囲でしか変動させることができず、2回のハンダ付けの工程に適用させることが難しい。
【0007】
また、次世代のパワー半導体素子であるGaNやSiCは、200℃以上の耐熱性を有し、且つ絶縁破壊電界及び飽和電子密度等が大きいことから、高い動作電圧を用いて大電流を扱うことが可能である。この電流の大きさに起因して半導体素子からの発熱が200℃程度にまで上昇するため、ハンダによる接合部分に対しても200℃以上の耐熱性が要求されている。
しかし、Sn系ハンダ材料の融点は220℃程度であるが故に、この温度で溶けてしまい、また、200℃前後において引っ張り強度が著しく低下してしまうため、200℃を超える熱を発する次世代パワー半導体素子に対しては、接合材料としてSn系ハンダ材料を用いることは実用上難しい。
【0008】
また、接合材料としてAg系のロウ材料が一般的に知られているが、それらの融点は650℃以上と高く、このような温度では半導体素子を壊したり変質させてしまうために、本用途に用いることができない。
【0009】
このような状況下において、ハンダ材料としてBiを用いると、Bi単体の融点が270℃であるため、耐熱性に優れた接合体となる。
例えば、所望の接合温度で接合できるよう、固相線温度と液相線温度を適切な範囲とすべく、Ag、Cu、Sb、Znを含むBiがハンダ材料として提示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、AgなどBiと共晶しうる金属元素と、Sn、Cu、In、Sb、Znなどの金属元素とをBiに添加した3成分以上からなるハンダ材料が提示されている(例えば、特許文献2参照。)。」
1ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、Bi系ハンダ材料をパワー半導体モジュールの接合材料に適用しようとすると、その過酷な冷熱サイクルによって接合界面での反応が顕著になり、ハンダ材料に接する部材の材質によっては不要な反応生成物を生成させてしまうことが明らかとなった。この反応生成物は、周りに存在するハンダ材料よりも硬かったり脆かったりするので、この反応生成物が存在する位置を起点にクラックが発生したり、反応生成物が割れてクラックの発生の原因となったりする。
このような界面反応は、次世代の半導体素子として注目されているGaNやSiC半導体素子の場合に特に問題となる。これら次世代半導体素子では、発熱量が極めて多く、200℃以上にまで達する場合がある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、Bi系ハンダ材料を用いて接合したときに、接合界面に不要な反応生成物を生成させ難く、その結果クラックなどの不具合を発生させ難いパワー半導体モジュールを提供することにある。」
1エ 「【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などの不具合を生じない信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することができる。また、製造工程上、位置ずれなどの不具合を生じないパワー半導体モジュールをも提供することができる。」
1オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明のパワー半導体モジュールは、被接合面にCu層を備え、前記Cu層の間を、Bi系ハンダ材料によって接合してなる。この被接合面を有する部材としては、パワー半導体素子と絶縁基板との組み合わせ、或いは絶縁基板と放熱板との組み合わせである。また、本発明のパワー半導体モジュールにおいて、少なくとも1箇所がBi系ハンダ材料で接合されていればよく、したがって、2箇所以上をBi系ハンダ材料で接合していてもよい。
以下では、まず始めにパワー半導体モジュールの構成について説明し、次に各構成部材について説明する。
【0052】
<パワー半導体モジュール>
図1に、本発明のパワー半導体モジュール10の腰部断面図を模式的に示す。
パワー半導体モジュール10は、パワー半導体素子20と絶縁部30と放熱板40とを有する。パワー半導体素子20と絶縁部30との間は第一接合部50によって接合される。絶縁部30と放熱板40との間は第二接合部60によって接合される。
【0053】
パワー半導体モジュール10は、車載用インバータなどに用いられるものである。パワー半導体モジュール10の周辺には図示しない内燃機関が設けられているために、パワー半導体モジュール10が置かれている環境はかなり高温となっている。さらに、パワー半導体素子として次世代のGaNやSiCを用いた場合には、パワー半導体素子20からの発熱が大きく、パワー半導体モジュール10の温度が上昇する。
【0054】
パワー半導体素子が自身の発する熱や高温の周囲環境によって破壊するのを防ぐよう、冷却水が流動する冷却管(図示せず)が設けられ、冷却管とパワー半導体素子との間に放熱板40が設けられる。
【0055】
したがって、一般的にパワー半導体モジュールに求められる性能としては、第一に冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などの不具合を生じさせないことであり、第二に絶縁基板によって確実に絶縁させることであり、第三にパワー半導体素子から発せられた熱を放熱板までなるべく蓄積することなく伝えることである。
【0056】
冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などを発生させないためには、半導体素子、絶縁基板、放熱板及び接合部材などの部材そのものが温度変化に対して耐久性がなければならず、加えて、冷熱サイクルにおいて不要な反応生成物を発生させないことが重要である。かかる反応生成物は脆い物質であったり、硬すぎる物質であったりして、反応生成物が発生した部位を起点として亀裂や剥離等を起こしやすい。
また、各部材の熱膨張係数が近い値であることも、冷熱サイクルによる亀裂や剥離などの発生を抑制するのに重要である。熱膨張係数が全く異なる部材を接合すると、冷熱サイクルによって繰り返し起こる部材の体積変化によって、亀裂や剥離等を発生させやすくなる。」
1カ 「【0065】
[第一の実施態様]
<第二接合部>
本発明における第二接合部60は、絶縁部30と放熱板40との間を接合するために設けられる。図1に示す第一の実施態様では、第二接合部60の材質として、Bi系ハンダ材料を用いる。本発明ではBi系ハンダ材料としては、Biを主成分とするものであれば特に制限されない。なお、「Bi系ハンダ材料」とは、ハンダ材料中、Biを80質量%以上含有するものをいう。
具体的には、Bi系ハンダ材料としては、Bi単体のほかに、BiにCu、Ni、Agを添加したものなどを挙げることができるが、下記(1)~(4)に記載のBi系ハンダ材料であることが固相線温度を低下させない観点から好ましい。例えば、BiにAgを2.5質量%添加したものは、固相線温度がBi単体の270℃から262℃程度に低下してしまい、半導体素子の動作により発せられる熱に対する耐性の観点から望ましくはない。
更に、下記(1)~(4)に記載のBi系ハンダ材料の中でも、Biの脆性の高さを解消して機械的強度を高める観点からは、下記(2)~(4)のBi系ハンダ材料であることが好ましい。
【0066】
(1)Bi単体
(2)Bi中にCuAlMn合金粒子を分散させたBi-CuAlMn
(3)BiにCuを添加した材料
(4)BiにNiを添加した材料
以下、それぞれのBi系ハンダ材料について詳細に説明する。
…
【0079】
(3)BiにCuを添加した材料
上述の通り、ハンダ材料はBi単体であってもパワー半導体モジュールの耐熱性を向上させることができるが、Biの脆性の低さを改善するのであれば、BiにCuを添加したハンダ材料とすることが好適である。
…
【0086】
BiにCuを添加したハンダ材料の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、具体的な製造方法として下記の方法を挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
所定量のBi及びCuを準備し、高周波溶解炉等により加熱、混合した後に、冷却する。
【0087】
(4)BiにNiを添加した材料
BiにNiを添加すると、Biの脆性が改善され、機械的強度が高まる。この原因については明らかになっていないが、微細なBi3Niの化合物相がBi中に分散することによるものと思われる。
【0088】
Biの脆性を低く抑えるという観点からは、Niの含有率は0.01質量%以上であり、好適には0.1質量%以上であり、更に好適には0.4質量%以上である。
一方、Niを多く添加すると、Cuを添加したときと同様に、液相線温度が上昇する。したがって、ハンダによる接合時の加熱温度を考慮すると、Niの含有率は7質量%以下であり、好適には2質量%以下であり、更に好適には1質量%以下である。
BiにNiを含有させたときの具体的な液相線温度及び固相線温度を下記表2に示す。
【0089】
【表2】
」
【0090】
BiにNiを添加したハンダ材料の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができ、上述のBiにCuを添加したハンダ材料と同様の方法を採用することができる。」
1キ 「【0148】
[実施例2]
図2にしめすような、パワー半導体素子と絶縁基板とをBi系ハンダ材料で接合した評価試験体-1を作製した。
【0149】
<パワー半導体素子の準備>
GaNを用いたパワー半導体素子20を準備し、その最表面にCu層221をスパッタリングで形成した。
【0150】
<絶縁部の準備>
一方、絶縁基板32としてのAlNの両面にロウ付けによってAl層34、36を貼り付け、Al層34/AlN層32/Al層36の積層体を作製した。更にこの積層体の一方の表面にCu層381をメッキにより形成し絶縁部30を作製した。なお、メッキの際には、メッキしない面はマスキングシートなどを貼って保護した。
【0151】
<第一接合部の接合>
Bi単体を150~200μmの厚みに切り出した。切り出されたBi単体層の表面を覆っている酸化膜を、研磨及び酸洗浄を利用して除去した。
上記準備したパワー半導体素子20のCu層221と、絶縁部30のCu層381とを対向するように配置し、その間にBi単体層50を挟み込んだ状態で、5%H2/N2の還元ガス雰囲気下においてリフロー法を利用して、320℃の接合温度で接合した。
【0152】
<冷熱サイクル試験>
得られた評価試験体-1について、冷熱サイクル試験を行った。
本実施例において冷熱サイクル試験は、-40℃と200℃の間を20分で上昇・降下させるのを1サイクルとし、その1サイクルを合計で1000サイクル行った。1000サイクル後の接合部の断面を電子顕微鏡により観察し、界面の反応生成物の有無、亀裂や空隙などの不具合の有無を調べた。
その結果、接合部の界面には反応生成物は観察されなかったが、微小な空隙が僅かに観察された。しかし、亀裂は生成していなかった。したがって過酷な条件の冷熱サイクルに対しても高い信頼性があることが確認された。
【0153】
…
【0154】
[実施例4]
実施例2において、接合部材としてBi単体を用いたところを、Biに0.5質量%のNiを添加したものに変更した以外は同様にして、評価試験体-3を作製した。
得られた評価試験体-3について、実施例2と同様の冷熱サイクル試験を行ったところ、接合部の界面には反応生成物は観察されず、空隙や亀裂も確認されなかった。したがって過酷な条件の冷熱サイクルに対しても高い信頼性があることが確認された。
【0155】
…
【0161】
作製した評価試験体の構成とその評価結果を下記表3にまとめる。
【0162】
【表3】
」
1-2.引用文献1に記載された発明
ア 上記1ウによれば、引用文献1において解決しようとする課題は、パワー半導体モジュールにおいて、高温ハンダ材料であるBi系ハンダ材料を用いて接合したときに、接合界面に不要な反応生成物を生成させ難く、その結果クラックなどの不具合を発生させ難いパワー半導体モジュールを提供することである(以下、単に「課題」という。)。
イ 上記アの課題を解決するための手段は、上記1アによれば、2つのCu層の間を接合するBi系ハンダ材料を、BiにNiを添加した材料であって、Niの含有率が0.01質量%以上7質量%以下であるものとすることであり、上記1エ、1オによれば、このようなBi系ハンダ材料を用いることにより、冷熱サイクルに対して亀裂、剥離などの不具合を生じない信頼性の高いパワー半導体モジュールを提供することができる。
ウ 上記1カの段落【0087】~【0088】によれば、BiにNiを添加したBi系ハンダ材料において、Niの含有率を0.01質量%以上7質量%以下とする理由は次のとおりである。すなわち、BiにNiを添加すると、微細なBi3Niの化合物相がBi中に分散することになって、Biの脆性を低く抑えることができるので、Niの含有率は0.01質量%以上であり、好適には0.1質量%以上であり、更に好適には0.4質量%以上である。また、Niを多く添加すると液相線温度が上昇するが、ハンダ接合時の加熱温度が上昇しすぎないように、Niの含有率は7質量%以下であり、好適には2質量%以下であり、更に好適には1質量%以下である。
エ 上記1キによれば、接合面をCu層とし、Biに0.5質量%のNiを添加したBi系ハンダ材料を用いた実施例4では、反応生成物・空隙・亀裂はいずれも発生しないことが確認された。
オ そこで、上記1ア~1キの記載及び上記ア~エの検討によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「パワー半導体モジュール用の高温ハンダ材料である、BiにNiを添加したBi系ハンダ材料であって、Niの含有率が、0.01質量%以上、7質量%以下である、Bi系ハンダ材料。」
2.引用文献2について
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2006-310507号公報)には、「半導体装置」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
2ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用接合部材、これを用いた半導体装置、およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、高耐圧用半導体装置に関するものである。」
2イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年世界的に鉛(Pb)を含まないはんだの利用が推奨され、電子機器の分野においてもPbを含む従来のはんだに代わる接続材料(代替接続材料)を使用した半導体装置や、その他の接続構造体の採用が要求されるようになってきている。
【0006】
接続構造体及びそれに用いる接続材料については要求される条件は様々であるが、高耐圧用半導体装置に用いる接続材料の場合には、使用環境において200℃前後の耐熱温度が要求される。
【0007】
そこで本発明の目的は、Pbを含む従来のはんだに代わる新規なはんだを用いながら、これによる接合構造を、低コストで且つ耐熱性等に優れたものとして実現するに好適な半導体装置用接合材料材及びこれを用いた半導体装置及びその製造方法を提供することにある。」(第1頁左下欄14行~右下欄7行)
2ウ 「【実施例3】
【0063】
次に、実施例3として、半導体装置について、図9を用いて説明する。実施例3に係る半導体装置は、表面に回路が作りこまれた半導体素子1と、半導体素子1を支持するCu系リードフレーム10と、Cu系リードフレーム10の外部リード11部分と半導体素子1とを電気的に接続するワイヤ12と、少なくとも半導体素子1を封止する封止材8とで構成されている。本実施例においては、半導体素子1の裏面とCu系リードフレーム10とに10μm以下、好ましくは5μm以下の厚さのAg膜が形成された状態で、Bi系接合部材2で接合されている。そして、上記に説明した実施例1及び実施例2の場合と同様に、Bi系接合部材層の半導体素子1の裏面およびCu系リードフレーム10との界面にはAgの傾斜拡散層が形成され接続されている。これにより、耐熱性、耐熱応力性、放熱性に優れた半導体装置を提供することができる。封止材8は、耐熱性のある樹脂あるいはシリコーンゴム等を用いればよい。」
2エ 「図9
」
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1のBi系ハンダ材料は、BiにNiを添加したBi系ハンダ材料であるところ、上記1カの段落【0090】に記載の(4)の製造方法を参照すると、その製造方法は、(2)のBiにCuを添加したハンダ材料と同様の方法、すなわち「所定量のBi及びCuを準備し、高周波溶解炉等により加熱、混合した後に、冷却する」方法を採用することができるとのことであるから、所定量のBi及びNiを準備し、高周波溶解炉等により加熱、混合した後に、冷却する方法により製造されるものと認められる。
したがって、引用発明1のBiにNiを添加したBi系ハンダ材料は、その製造原料が所定量のBi及びNiのみであって、技術常識によれば、Bi及びNi以外には不可避不純物が含有されているのみといえる。
よって、引用発明1の「BiにNiを添加したBi系ハンダ材料」は、本願発明1の「ニッケルと、全体から前記ニッケル及び不可避不純物を除いた残部であるビスマスと、からなるはんだ合金」に相当する。
イ したがって、本願発明1と引用発明1は、次の点で一致し、相違する。
(一致点)
「ニッケルと、全体から前記ニッケル及び不可避不純物を除いた残部であるビスマスと、からなるはんだ合金。」
(相違点1)
「はんだ合金」における「ニッケル」の含有量が、本願発明1においては「全体の質量%のうち、0.03質量%~0.09質量%」であるのに対して、引用発明1は「0.01質量%以上、7質量%以下である」点。
(2)相違点1についての判断
ア まず、相違点1が実質的な相違点であるかについて検討する。
ニッケル含有量が、引用発明1では「0.01質量%以上、7質量%以下」であるのに対して、本願発明1では「0.03質量%~0.09質量%」であるので、本願発明1のニッケル含有量の範囲は、引用発明1のニッケル含有量の範囲内に全て含まれるから、形式的には、両者でニッケル含有量が重複しており、一致しているようにも見える。
イ そこで、上記ニッケル含有量の範囲の技術的意義について両者を対比する。
まず、本願発明1において、ニッケル含有量が「0.03質量%~0.09質量%」としたことの技術的意義について検討するために本願明細書と図面を確認すると、次の記載がある。
3ア 「 【0040】
図4は、BiへのNi添加量と曲げたわみとの関係を示すグラフである。図4の縦軸は、上述した3点曲げ試験において、試験片6に亀裂が入るまでの曲げたわみを示し、横軸はBiへのNiの添加量[質量%]を示す。矢印のあるプロットは、図2に示した3点曲げ試験装置10の寸法上の制約から、亀裂が入るまでたわませることができなかったことを示す。図4に示すグラフから、BiへのNi添加量が増加するにつれて、合金の延性が向上し、Ni添加量が0.05%~0.07%で合金の延性がピークを示し、それ以上Ni添加量が増加すると、合金の延性が低下することがわかる。
【0041】
Bi単体は、高い融点を示すが脆いため、熱疲労による劣化が生じ易かった。このようなBi単体にNiを添加することで、上述したように、合金の延性が向上し、耐熱疲労性を向上させることができる。ダイボンド用はんだとして実績のある高鉛はんだの一例であるPb-10%Sn-2.5%Agの伸び率が15%に対し、Bi単体の伸び率は5%である。このことから、はんだに適用し得る、Bi単体へのNi添加による延性改善の目安として、押込み長を3倍とした。Bi単体にNiを添加しない場合、押込み長が8mmで折れることから、押込み長が3倍となる24mmになるNi添加量は、0.03%~0.09%であればよい。」
3イ 「図4
」
ウ 上記3ア、3イによれば、Biに対してNiを添加するにあたり、Ni添加量が増加するにつれて、合金の延性が向上し、Ni添加量が0.05%~0.07%で合金の延性がピークを示し、それ以上Ni添加量が増加すると、合金の延性が低下する。また、Ni添加量が0であるBi単体における延性の目安である押し込み長(曲げたわみ)8mmに対して、Ni添加量を0.03%~0.09%の範囲とすると、押し込み長(曲げたわみ)がその3倍の24mm以上となるから、より限定した範囲である0.05%~0.07%の範囲においても同様に、Bi単体の少なくとも3倍に改善した延性が確保できることを意味する。
エ 一方、引用発明1において、ニッケル含有量が「0.01質量%以上、1質量%以下」であることの技術的意義は、上記1カの段落【0087】~【0088】の記載によれば、下限値については、Niの含有率は0.01質量%以上とすることによりBiの脆性を低く抑えることができるが、0.1質量%以上とすることが好適であり、0.4質量%以上とすることが更に好適であるとされている。また、上限値については、7質量%以下とすることにより液相線温度が上昇しすぎないようにすることができるが、2質量%以下とすることが好適であり、1質量%以下とすることが更に好適であるとされている。なお、脆性を抑えることは、延性を向上することに対応している。
オ つまり、引用発明1では、ニッケル含有量の範囲「0.01質量%以上、7質量%以下」において、ニッケル含有量が多くなるほど延性が向上するという技術的意義を有するのに対して、本願発明1では、ニッケル含有量の範囲「0.03質量%~0.09質量%」において、延性がピークを有する、つまり、延性が特異的に大きく向上することを意味しており、延性が「0.03質量%~0.09質量%」の範囲でピークを有すること、すなわち、特異的に優れた延性を有することは、引用文献1に記載も示唆もされておらず、引用文献1に接した当業者が全く予測し得ない、新たな知見に基づく技術的事項であるといえる。
カ したがって、上記相違点1は、数値範囲として重複はしているものの、はんだ合金の延性という観点から見ると、全く異なる技術的意義を有しているものといえるから、本願発明1と引用発明1における実質的な相違点である。
キ そして、引用文献1の記載によれば、上記エで検討したとおり、脆性を低く抑えて延性を向上するために、ニッケル含有量の範囲である「0.01質量%以上、7質量%以下」のうち、下限値を0.1質量%や0.4質量%にするなど、より大きい含有量を選択する動機は存在するけれども、上記範囲のうち好適であるとされる0.1質量%以上の範囲には含まれない「0.03質量%~0.09質量%」を好ましい範囲として選択する動機はない。
また、ニッケル含有量について「0.03質量%~0.09質量%」の範囲が好ましいことは、引用文献2にも記載されておらず、当該技術分野の周知の技術ともいえない。
よって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
(3) 小括
以上の検討から、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるとはいえないし、引用発明1において、引用文献1及び引用文献2に記載された技術的事項や周知の技術に基づいて、上記相違点1に係る本願発明1の特定事項を採用することが、当業者にとって容易になし得ることであるともいえない。
2.本願発明2~7について
本願発明2~7はいずれも、請求項1を引用することによって、本願発明1の「全体の質量%のうち、0.03質量%~0.09質量%のニッケル」という特定事項、もしくは、当該特定事項をさらに限定した「前記ニッケルを0.05質量%~0.07質量%含有する」という特定事項を有するから、本願発明1と同様の理由により、本願発明2~7は、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明1において、引用文献1及び引用文献2に記載された技術的事項や周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものともいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1~7はいずれも、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明1において、引用文献1及び引用文献2に記載された技術的事項や周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2019-002059