特許拒絶査定不服審判
2018-014957
ルテニウムをベースとする錯体
- 審判番号
- 2018-014957
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-020948外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年11月09日
- 審決日
- 2019年05月24日
- 公報発行日
- 2019年07月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】前川 純一
- 【請求人代理人】二宮 浩康
- 【請求人代理人】上島 類
- 分類
- P18 .121-WY (C07F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016- 20948「ルテニウムをベースとする錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-138105、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2011年5月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年 5月21日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2013-511765の一部を、平成28年2月5日に新たな特許出願としたものである。これに対して、平成28年11月2日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年4月11日に誤訳訂正書が提出され、平成29年4月28日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年11月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月29日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年5月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年7月2日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(平成30年7月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1-7、9-15に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開平3-5492号公報
2.特表平6-506485号公報
3.特表2003-535869号公報
4.DOUCET, H. et al.,Tetrahedron Asymmetry,1996年,Vol.7, No.2,p.525-528
5.ALBERS, M. O. et al,Journal of Organometallic Chemistry,1984年,272,C62-C66
6.SHELDRICK, W. S. et al.,Synthesis and Stereochemistry of Diene-Ruthenium(II) Complexes of α-Amino Acids. Crystal Structures of [(cod)Ru(D,L-phe)Cl]4 and Δ-[(nbd)Ru(L-phe)2],Inorganica Chimica Acta,1989年,Vol.166,p.213-219
7.BUCHMEISER, M. B. et al.,Novel Ruthenium(II) N-Heterocyclic Carbene Complexes as Catalyst Precursors for the Ring-Opening Metathesis Polymerization (ROMP) of Enantiomerically Pure Monomers: X-ray Structures, Reactivity, and Quantum Chemical Considerations,Eur. J. Inorg. Chem,2007年,p.3988-4000(周知技術を示す文献)
9.編者 社団法人日本化学会,実験化学講座 18 有機化合物の合成 VI -金属を用いる有機合成-,2007年,第5版 第2刷,p.1-2(周知技術を示す文献)
10.CHEN,Y. et al,Different isomers of [RuII(NO+)(hedta)(H2O)] prepared from Ru(NO)Cl3 via chelation by hedta3- than by NO2- addition to [Ru(H2O)(hedta)]-,Inorganica Chimica Acta,2003年,Vol.343,p.281-287(周知技術を示す文献)
11.MANNER,V.W. et al.,Concerted Proton-Electron Transfer in a Ruthenium Terpyridyl-Benzoate System with a Large Separation between the Redox and Basic Sites,Journal of the American Chemical Society,2009年,Vol.131, No.29,p.9874-9875,Supporting Information(周知技術を示す文献)
12.NAKAI, M. et al.,Inorganic Chemistry,2006年,Vol.45, No.7,p.3048-3056(周知技術を示す文献)
13.POZGAN, F. et al.,Ruthenium(II) acetate catalyst for direct functionalisation of sp2-C-H bonds with aryl chlorides and access to tris- heterocyclic molecules,Advanced Synthesis & Catalysis,2009年,Vol.351,p.1737-1743(周知技術を示す文献)
14.特表2009-520792号公報(周知技術を示す文献)
15.SHIMIZU,H. et al.,Synthesis of novel chiral benzophospholanes and their application in asymmetric hydrogenation,Advanced Synthesis & Catalysis,2003年,Vol.345, No.1+2,p.185-189,Supporting Information(周知技術を示す文献)
第3 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成30年5月7日に提出された手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
式
{[(ジエン)Ru(OOCR1)2]n(S)v} (I)
〔式中、nは、1または2であり、
vは、0、1または2であり、
Sは、極性の非プロトン性溶剤または水の配位分子であり、
”ジエン”は、2個の炭素炭素二重結合を有する直鎖状または分枝鎖状のC4~C15炭化水素基、または2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7~C20炭化水素基を表わし、および
R1は、次のもの:
- 水素原子、
- ピリジル基、
- 場合により1~5個のハロゲン原子および/またはC1~4アルキルまたはC1~4アルコキシル基によって置換されたフェニル基、
- 場合により1個のフェニル基で置換されたC1~12アルキル基、
- 場合によりハロゲン置換されたC1~12アルキル基、
- 1個のOH官能基またはアミノ官能基を有するC1~12アルキル基、
- アダマンチル基、または
- スチリル基を表わす〕の化合物を製造するための方法であって、
式:
[(ジエン)Ru(Cl)2] (II)
〔式中、”ジエン”は、式(I)中の定義と同じ意味を有する〕の単量体またはポリマーである前駆体化合物を、R1が上記定義と同じ意味を有し、かつMがアルカリ金属陽イオン(mが1である)またはアルカリ土類金属陽イオン(mが2である)であるカルボキシレート(R1COO)mMの存在下で反応させ、この反応が極性の非プロトン性溶剤中および不活性雰囲気下で実施される工程を有し、前記式(II)の前駆体化合物は、予め形成されたカルボキシレート(R1COO)mMと反応するか、あるいは、カルボン酸(R1COOH)と、塩基としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物との反応によりインサイチューで形成されたカルボキシレート(R1COO)mMと反応し、かつ、前記式(I)の化合物および前記式(II)の前駆体化合物は、Ru(II)錯体である、式(I)で示される化合物を製造するための方法。
【請求項2】
”ジエン”は、場合により置換された、2個の炭素炭素二重結合を有するC7~C12炭化水素基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
”ジエン”は、場合により置換された、2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7~C12炭化水素基であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
極性の非プロトン性溶剤は、C2~12アミド、C2~6スルホキシド、C6~9N-アルキルラクタム、C4~8カルバメートまたは尿素、C4~8アミンまたはその混合物であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
vが、0であることを特徴とする、請求項1記載の方法。」
第4 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1-9、10-15には、次の事項が記載されている。(なお、原文が英語で記載されているものは、当審による和訳で示す。)
1. 引用文献について
(1)引用文献1について
(1a)「20mlメタノール中の2.58g(2.9mmol)の[(COD)2Ru2(CF3COO)4](H2O)懸濁液を2.38g(29.0mmol)の酢酸ナトリウムと一緒に40℃で1時間乾燥した。溶媒を除去した後、残渣を0.1ミリバールで乾燥し、ひきつづきフリットに添加した。該生成物を15mlのCH2Cl2で抽出し、そして溶媒を除去し、残渣をそれぞれ5mlのペンタン/ジエチルエーテル(5/1 v/v)で2回洗浄した。残存した黄色の固体を真空中で乾燥した。1.24gの(COD)Ru(CH3COO)2が得られた。・・・(略)・・・」(第14頁左上欄第2行-第18行の実施例7)
(1b)「η6-p-シメン)Ru(CH3COO)2・・・(略)・・・トルエン中で[(p-シメン)RuCl2]をAgO2CCH3と反応させて製造」(第14頁右上欄第9行-第16行の実施例7)
(1c)「[Ru(COD)(CF3COO)2]2」(第14頁左下欄第11行の実施例8)
(2)引用文献2について
(2a)「[Ru(CF3COO)2(COD)]2」(第5頁右上欄第1行の実施例4)
(3)引用文献3について
(3a)「RuCOD(CF3CO2)2]2」(段落【0037】の実施例12)
(4)引用文献4について
(4a)「
」(第526頁の化合物(IIa)-(IIe))
(5)引用文献5について
(5a)「
」(C64の化合物(I))
(6)引用文献6について
(6a)「[(diene)RuCl(aa)]n (diene(ジエン)=ノルボルナジエン nbd、1,5-シクロオクタジエン cod、Haa=α-アミノ酸)」(第213頁左の「Abstract」の欄、第1行-第3行)
(6b)「全ての反応は、アルゴン雰囲気下で行われた。」(第213頁右の「Experimental」の欄、第1行-第2行)
(6c)「[(nbd)Ru(aa)2] (10,11) (aa=L-val,L-phe)
典型的な調製において、[(nbd)RuCl2]n の181mg(0.68mmol)と161mg(1.37mmol)のL-バリンは20mlの水の中で撹拌されつつ8時間加熱されて還流される。溶液は濾過されて蒸発乾燥された。固体は3mlのメタノールに溶解され、溶液は-30℃に冷却され、オレンジ-黄色の結晶10が得られた。・・・(略)・・・」(第214頁第11行-第22行)
(6d)「[(nbd)Ru(L-val)2] (10)」 (第214頁のTABLE 2.中の化合物のうち、下から第2行)
(7)引用文献7について
(7a)「
」(第3989頁のFigure 1.化合物6、化合物7)
(7b)「・・・(略)・・・[RuCl2(p-cymene)PCy3](114mg、0.20mmol)はTHFに溶解され、そしてTHF中のトリフルオロ酢酸銀(97.2mg、0.44mmol)の溶液に添加され、どちらも-36℃に冷却された。混合した後、溶液は更に4時間撹拌され、室温にまでされた。・・・(略)・・・[RuCl2(p-cymene)PPh3](56.8mg、0.10mmol)はTHFに溶解され、そしてTHF中のトリフルオロ酢酸銀(44.2mg、0.20mmol)の溶液に添加され、どちらも-36℃に冷却された。混合した後、溶液は更に4時間撹拌され、室温にまでされた。・・・(略)・・・」(第3998頁右欄第21行-第3999頁左欄第25行)
(なお、上記[Ru(CF3CO2)(p-cymene)PCy3]は、化学反応や下記(7c)の化合物6の記載から[Ru(CF3CO2)2(p-cymene)PCy3]と考えられる。)
(8)引用文献9について
(9a)「有機金属化合物は、反応剤および錯体触媒として多くの有機合成反応に用いられているが、一般に酸素や水により分解されやすい性質をもっている。したがって、空気や湿気が影響しないように実験を進める必要がある。」(第1頁第1行-第3行)
(9)引用文献10について
(10a)「0.47914gのRu(NO)Cl3(H2O)2のサンプルは、0.43632gのH3hedtaと混合され、3MのNaOHでpHを6.0に調整された後に30.0mlの水中で2時間還流された。NaClの溶解性を抑えるためにエタノールが混合物中に添加された。[Ru(NO)hedta(H2O)]はエバポレーションの過程のいくつかの段階で過剰のNaClを濾過しつつ、ロータリーエバポレーションにより分離された。・・・(略)・・・」(第282頁右欄第5行-第16行)
(10)引用文献11について
(11a)「
」(S2-S3の「Ru(pydic)(tpy-PhCOOH)(RuIIPhCOOH)」の欄)
(11)引用文献12について
(12a)「Scheme 1に記載されているように、K[Ru2(dhpta)(μ-O2CCH2-1-naph)2](1)は直接法により合成され、K[Ru2(dhpta)(μ-O2CCH2-2-naph)2](2)は置換反応により合成された。」(第3051頁「Results and Discussion」の欄第2行-第5行)
(12b)「
」(第3052頁のScheme 1)
(12)引用文献13について
(13a)「[RuCl2(p-cymene)]2 1、Ru(OAc)2(p-cymene) 2」 (第1738頁のTable 1. の上に記載された式1中の記載)
(13b)「2は、KOAc(0.05mmol)と触媒前駆体1(0.0125mmol)からNMP(1.5mL)中、室温で1時間撹拌されてインサイチュで調製された」(第1738頁のTable 1.の注[b])
(13)引用文献14について
(14a)「≪RuII(bipy)2oxの合成≫」 (段落【0087】)
(14b)「Ru(bipy)2Cl2(0.2g、0.41mmol)を、水(20mL)及びエタノール(10mL)に懸濁し、混合液を2分間沸騰させた。シュウ酸カリウム二水和物(52.1mg、0.41mmol)を加え、混合液を還流下で2時間加熱し、鮮赤色の溶液を得た。・・・(略)・・・」(段落【0088】)
(14)引用文献15について
(15a)「Ru(OAc)2((+)-ipr-beephos)
[RuCl(p-cymene)((+)-ipr-beephos)]Cl(100mg、0.136mmol)と酢酸ナトリウム(27.9mg、0.34mmol)はジオキサン(5mL)に溶解させた。混合物は、100℃で一晩撹拌され、室温に冷却後濾過された。真空乾燥されて、錯体を得た。・・・(略)・・・」(Supporting Information 第8頁下から第3行-第9頁第5行の「Ru(OAc)2((+)-ipr-beephos)」の欄)
2. 引用発明1について
引用文献6には、上記摘示(6a)-(6d)の記載から、下記の発明が記載されている。
「(nbd)Ru(L-Val)2を製造するための方法であって、[(nbd)RuCl2]n とL-バリンをアルゴン雰囲気下、水中で反応させる工程を有し、(nbd)Ru(L-Val)2及び[(nbd)RuCl2]n はRu(II)錯体である方法。」(以下、「引用発明1」という。)
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1における「(nbd)Ru(L-Val)2」は、nbdがノルボルナジエン(摘示(6a))であり、ノルボルナジエンが2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7炭化水素基であり、L-Valが、アミノ酸のバリンを表すから、本願発明1の式(I)において、nが1、vが0、ジエンが2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7炭化水素基、R1がアミノ官能基を有するC4アルキル基である化合物に相当する。
イ 引用発明1における「[(nbd)RuCl2]n」は、上記アで述べた理由によりnbdがジエンを表すから、本願発明1における「式(II)の単量体またはポリマー」に相当する。
ウ 引用発明1における「アルゴン雰囲気下」は、本願発明1における「不活性雰囲気下」に相当する。
エ 引用発明1における「[(nbd)RuCl2]n」は、(nbd)Ru(L-Val)2を製造する原料であるから、前駆体化合物であるといえる。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「式{[(ジエン)Ru(OOCR1)2]n(S)v}(I)[式中、nは1、vは0、ジエンは2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7炭化水素基、R1はアミノ官能基を有するC4アルキル基を表す]の化合物を製造するための方法であって、式[(ジエン)Ru(Cl)2](II)[式中、ジエンは2個の炭素炭素二重結合を有する環式C7炭化水素基を表す]の単量体またはポリマーである前駆体の反応を不活性雰囲気下で実施される工程を有し、かつ、前記式(I)の化合物および前記式(II)の前駆体化合物は、Ru(II)錯体である、式(I)で示される化合物を製造するための方法。」
(相違点)
(相違点1)式(II)の前駆体化合物について、本願発明1では、カルボキシレート(R1COO)mM(R1は本願発明1で定義されたものと同じ意味を有し、Mはアルカリ金属陽イオン又はアルカリ土類金属陽イオンである)であって、予め形成されたカルボキシレート(R1COO)mMと反応するか、あるいは、カルボン酸(R1COOH)と、塩基としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物との反応によりインサイチューで形成された(R1COO)mMと反応させているのに対し、引用発明1は、L-バリンを反応させている点。
(相違点2)本願発明1は式(II)の単量体またはポリマーである前駆体をカルボキシレートの存在下で反応させる際に、極性の非プロトン性溶媒中で反応しているのに対し、引用発明1は[(nbd)RuCl2]n とL-バリンを水中で反応させている点。
(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、上記「第4 1.」の「(9)引用文献10について」、「(10)引用文献11について」、「(11)引用文献12について」、「(12)引用文献13について」、「(13)引用文献14について」及び「(14)引用文献15について」に記載のとおり、塩素が配位しているルテニウム錯体と予め形成されたカルボキシレートとを反応させる、あるいは、塩素が配位しているルテニウム錯体と、カルボン酸と塩基としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物との反応によりインサイチューで形成されたカルボキシレートとを反応させることは広く行われている。
しかし、上記引用文献10-15に記載されている前駆体化合物に相当するルテニウム錯体は、塩素原子以外の配位子について、引用文献10が「NO」、引用文献11、13、15がいずれも「p-シメン」、引用文献12が「DMSO」、引用文献14が「bipy(ビピリジン)」であり、いずれも「ジエン」を有する本願発明1の式(II)の前駆体とは異なるルテニウム錯体である。
そうすると、引用文献10-15には、塩素原子が配位しているルテニウム錯体と予め形成されたカルボキシレートとを反応させる、あるいは、塩素原子が配位しているルテニウム錯体と、カルボン酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物との反応によりインサイチューで形成されたカルボキシレートとを反応させることが記載されていたとしても、そもそも、引用文献10-15に記載された塩素原子が配位しているルテニウム錯体は、本願発明1の式(II)の前駆体とは異なるルテニウム錯体であり、この異なるルテニウム錯体に適用する反応条件を、塩素原子以外の配位子として「ジエン」を有する本願発明1の式(II)の前駆体に対して適用しようとする動機付けを見出すことができない。
また、上記「第4 1.」の「(1)引用文献1について」及び「(7)引用文献7について」に記載されている前駆体化合物に相当するルテニウム錯体は、塩素以外の配位子が「p-シメン」のものが記載されるにとどまり、上記「第4 1.」の「(2)引用文献2について」-「(5)引用文献5について」には、塩素原子を含むルテニウム錯体すら記載されておらず、当然、これらの引用文献1-5及び7には、カルボン酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を、ジエンと塩素原子を有するルテニウム錯体と反応させる技術については、記載も示唆もなされていない。
さらに、上記「第4 1.」の「(8)引用文献9について」には、単に、有機金属化合物を扱う実験で空気や湿気が影響しないよう実験を行うことが記載されているに過ぎない。
そうすると、上記相違点1は、引用文献6に記載された引用発明1に、引用文献10-15並びに、引用文献1-5、7及び9に記載された技術的事項を参酌したとしても、当業者が容易に想到できたものということができない。
そして、本願発明1は、従来、二段階で行う反応を、上記相違点1に基づき一段階で反応させることにより、高い生産性を有するという効果を奏するものと認められる。
したがって、本願発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用文献6及び引用文献1-5、7、9-15に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
2.本願発明2-5について
本願発明2-5は、いずれも本願発明1を直接あるいは間接的に引用し、さらに、本願発明2-3は、「ジエン」を特定し、本願発明4は、「極性の非プロトン性溶媒」を特定し、本願発明5は「v」を特定するものである。
そうすると、本願発明2-5は、本願発明1と同様の理由により、引用文献6及び引用文献1-5、7、9-15に記載された技術的事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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