特許拒絶査定不服審判
2018-008199
ブラシレス永久磁石モータを制御する方法
- 審判番号
- 2018-008199
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-239007
- 請求日
- 2018年06月14日
- 審決日
- 2020年02月26日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイソン テクノロジー リミテッド
- 【請求人代理人】小野 新次郎
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】宮前 徹
- 【請求人代理人】中西 基晴
- 【請求人代理人】松尾 淳一
- 審判長/審判官
- 審判長 堀川 一郎
- 審判官 窪田 治彦
- 審判官 久保 竜一
- 分類
- P18 .121-WZ (H02P) / P18 .537-WZ (H02P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-239007「ブラシレス永久磁石モータを制御する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月16日出願公開,特開2017- 55658〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 経緯の概略
本願は,平成26年6月11日(パリ条約による優先権主張:2013年6月13日,英国)に出願された特願2014-120475号の一部を,平成28年12月9日に新たな特許出願としたものであって,平成29年10月20日付けで拒絶の理由が通知され,平成30年2月21日に意見書が提出されたが,平成30年2月21日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し,平成30年6月14日に拒絶査定不服審判が請求され,令和元年6月10日付けで拒絶の理由が通知され,令和元年12月10日に意見書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本願発明1」などという。)は,特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
ブラシレス永久磁石モータを制御する方法であって,50krpmより速い速度で動作するとき,前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する工程を含む,方法。
【請求項2】
少なくとも5krpmに及ぶ速度範囲に亘り動作するとき,逆起電力におけるゼロ交差に対して遅延した時に前記巻線を転流する工程を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遅延期間により前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に前記巻線を転流する工程と,前記巻線を励磁するのに使用される供給電圧又は前記モータの速度の変化に応じて前記遅延期間を変化させる工程とを含む,請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記供給電圧の増加又は前記モータの速度の減少に応じて前記遅延期間を増加する工程を含む,請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各電気的半周期を後にフリーホイール期間が続く導通期間に分割する工程を含み,前記巻線は,前記導通期間に励磁され,前記フリーホイール期間にフリーホイールされる,請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記導通期間を第1の励磁期間,さらなるフリーホイール期間及び第2の励磁期間に分割する工程を含み,前記巻線は,各励磁期間に励磁され,前記巻線は,前記さらなるフリーホイール期間にフリーホイールされる,請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1の速度範囲に亘り動作するとき,逆起電力のゼロ交差に対して遅延された時に前記巻線を転流する工程と,第2の速度範囲に亘り動作するとき,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して先行する時に前記巻線を転流する工程とを含み,前記第2の速度範囲は,前記第1の速度範囲より速い,請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の速度範囲及び前記第2の速度範囲に亘り動作するとき,前記モータの各電気的半周期を後にフリーホイール期間が続く導通期間に分割する工程を含み,前記巻線は,前記導通期間に励磁され,前記フリーホイール期間にフリーホイールされる,請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の速度範囲に亘り一定の電力で前記モータを駆動する工程と,前記第2の速度範囲に亘りより大きな一定の電力で前記モータを駆動する工程とを含む,請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の速度範囲及び前記第2の速度範囲は,それぞれ少なくとも5krpmに及ぶ,請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ブラシレス永久磁石モータの制御回路であって,前記制御回路は,請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実行するよう構成されている,制御回路。
【請求項12】
ブラシレス永久磁石モータと,請求項11に記載の及び制御回路とを備えるモータアセンブリ。」
第3 当審にて通知した拒絶の理由の概要
当審にて令和元年6月10日付けで通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1 本願発明1~12は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1~3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用例)
引用例1 特開2013-110961号公報
引用例2 特開2002-112577号公報
引用例3 特開2012-80767号公報
2 この出願は,特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
発明の詳細な説明には,Hブリッジ回路によりブラシレス永久磁石モータを制御するものであって,各電気的半周期を導通期間及びその後のフリーホイール期間に分割し,導通期間に相巻線を励磁し,フリーホイール期間に相巻線をフリーホイールするように制御すること,ローパワーモード(動作速度範囲:60~70krpm)において遅延した時に転流し,ハイパワーモード(動作速度範囲:90~100krpm)において先行する時に転流すること,このような制御によってモータの効率が改善されたことが記載されているのみである。
請求項1に記載された「50krpmより速い速度で動作するとき」とは,50krpmより速い速度のすべての動作速度範囲において,遅延した時に転流することを意味するならば,発明の詳細な説明には,そのような発明は記載がなく,課題を解決することができるとも認められない。
そして,請求項1には,Hブリッジ回路によりブラシレス永久磁石モータを制御する点,各電気的半周期を導通期間及びその後のフリーホイール期間に分割し,導通期間に相巻線を励磁し,フリーホイール期間に相巻線をフリーホイールするように制御する点について特定がなく,当該事項はモータの効率に影響を及ぼすものであるから,本願発明1は課題を解決することができるとは認められないものを含むものである。
よって,本願発明1まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるものとは認められない。
3 この出願は,特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
請求項7において,「第1の速度範囲に亘り動作するとき,逆起電力のゼロ交差に対して遅延された時に前記巻線を転流する工程」を含む旨記載されているが,この工程と,請求項1に特定されている工程との関係が明確でないから,請求項7において,さらにどのような事項を特定しているのか明確でない(請求項1に特定されている工程のほかに,さらに請求項7に特定されている工程を含むことを意味するのか。)。
第4 当審にて通知した拒絶の理由についての判断
1 29条2項について
(1) 引用例,引用発明等
ア 引用例1には,以下の事項が記載されている(下線は,当審にて付与した。)。
・「【0019】
図1及び図2のモータシステム1は,交流電源2によって電力が供給され,ブラシレスモータ3と,制御システム4を有している。
【0020】
モータ3は,ステータ6に対して回転する永久磁石ロータ5を有し,ステータ6は,単相の相巻線7を有している。」
・「【0027】
ロータ位置センサ13は,デジタル信号HALLを出力するホール効果センサを有し,デジタル信号HALLは,ロータ位置センサ13を通過する磁束の方向に応じて,論理HIGH又は論理LOWである。ロータ位置センサ13をロータ5に隣接して配置することによって,HALL信号は,ロータ5の角度方向位置の測定値を供給する。詳細には,HALL信号の各エッジは,ロータ5の極性の変化を示す。永久磁石ロータ5は,それが回転するとき,相巻線7に逆起電力を生じさせる。その結果,HALL信号の各エッジは,相巻線7内の逆起電力の極性の変化を更に表わす。」
・「【0033】
コントローラ15は,ロータ5の速度に応じて,2つのモードのうちの一方で作動する。予め定められた閾値よりも小さい速度では,コントローラ15は,加速モードで作動する。閾値と同じ速度又はそれよりも大きい速度では,コントローラ15は,定常モードで作動する。ロータ5の速度は,HALL信号の2つの連続するエッジの間の期間T_HALLで決められる。この期間を,以下,HALL期間と呼ぶ。」
・「【0034】
〔加速モード〕
速度閾値よりも小さい速度では,コントローラ15は,相巻線7を,HALL信号のエッジと同期するように整流させる。各HALL信号は,相巻線7内の逆起電力の極性の変化を表わす。結果的に,コントローラ15は,逆起電力のゼロ交差と同期して,相巻線7を整流させる。」
・「【0037】
〔定常モード〕
速度閾値と同じ速度又はそれよりも大きい速度では,コントローラ15は,整流を各HALLエッジに対して先進させてもよいし,同期させてもよいし,後退させてもよい。相巻線7を特定のHALLエッジに対して整流させるために,コントローラ15は,前のHALLエッジに応答して作動する。整流期間T_COMを得るために,コントローラ15は,前のHALLエッジに応答して,HALL期間T_HALLから位相期間T_PHASEを引き算する。
[数1]
T_COM=T_HALL-T_PHASE
【0038】
次に,前のHALLエッジの後,コントローラ15は,相巻線7を整流期間T_COMで整流させる。結果的に,コントローラ15は,相巻線7を次のHALLエッジに対して,位相期間T_PHASEだけ整流させる。位相期間が正のとき,整流は,HALLエッジの前に起こる(先進整流)。位相期間がゼロのとき,整流は,HALLエッジのところで起こる(同期整流)。位相期間が負のとき,整流は,HALLエッジの後に起こる(後退整流)。
【0039】
先進整流は,比較的大きいロータ速度に採用され,後退整流は,比較的小さいロータ速度に採用される。ロータ5の速度が大きくなるにつれて,HALL期間は減少し,かくして,相巻線インダクタンスと関連した時定数(L/R)は,ますます重要になる。加えて,相巻線7に誘導される逆起電力が増大し,相電流が上昇する速度に影響を及ぼす。従って,相巻線7に電流を供給すること,従って,電力を供給することが,ますます困難になる。相巻線7を,HALLエッジの前に,従って,逆起電力のゼロ交差の前に整流させることによって,供給電圧を,逆起電力によって上昇させる。結果として,相巻線7の中を流れる電流の方向が,速やかに反転する。加えて,相電流が逆起電力を導くようにさせ,それにより,電流上昇の低速度を補償するのを助ける。このことは,次いで,負のトルクを短期間発生させるけれども,通常,この負のトルクは,引続く正のトルクのゲインによって補償されるものよりも大きい。低速で作動するとき,所望の電流を相巻線7に供給するために,整流を先進させることは必要ない。更に,最適な効率は,典型的には,整流を後退させることによって達成される。」
・「【0050】
図5を参照して,速度制御スキームの作動を例示的に以下に説明する。この例において,ルックアップテーブルは,94krpm以上のロータ速度に対して,位相期間90μsを記憶している。上閾値SPEED_UPPERは,100krpmであり,下閾値SPEED_LOWERは,95krpmであり,予め定められた定数DELTAは,0.25μsである。ロータの初期速度は,94krpmである。ロータの初期速度が下閾値95krpmよりも小さいので,速度調整変数SPEED_ADJUSTは,ゼロにセットされ,かくして,ルックアップテーブルから選択された位相期間は調整されない。t=20msにおいて,ロータ速度は96krpmであり,下閾値95krpmを超えている。ロータ速度が上閾値100krpm以下であり且つ下閾値95krpm以上であるので,速度調整変数SPEED_ADJUSTは変更されず,従って,ゼロのままである。t=140msにおいて,ロータ速度は101krpmに上昇し,上閾値100krpmを超える。従って,速度調整変数SPEED_ADJUSTを,0.25μsだけ増大させる。結果的に,位相期間T_PASDEは,89.75μsに減少する。t=160msにおいて,ロータ速度は,位相期間の減少にも関わらず,101krpmであり続ける。ロータ速度が上閾値100krpmを超え続けているので,速度調整変数SPEED_ADJUSTを0.25μsだけ再び増大させる。従って,コントローラによって採用されている位相期間T_PASDEは,89.5μsである。t=180msにおいて,ロータ速度は,100krpmに低下する。ロータ速度が上閾値100krpm以下であり且つ下閾値95krpm以上であるので,速度調整変数,かくして位相期間は変更されない。t=300msにおいて,ロータ速度は,94krpmに低下する。ロータ速度が下閾値95krpmよりも小さいので,速度調整変数は,ゼロにセットされ,かくして,位相期間T_PHASEは90μsに戻る。」
イ 「モータシステム1は,交流電源2によって電力が供給され,ブラシレスモータ3と,制御システム4を有している。」(【0019】)こと,「モータ3は,ステータ6に対して回転する永久磁石ロータ5を有し,ステータ6は,単相の相巻線7を有している。」(【0020】)ことから,引用例1に記載のものは,相巻線7を有するステータ6に対して回転する永久磁石ロータ5を有するブラシレスモータ3を,制御システム4により制御するものであることがわかる。
また,「HALL信号の各エッジは,ロータ5の極性の変化を示す。永久磁石ロータ5は,それが回転するとき,相巻線7に逆起電力を生じさせる。その結果,HALL信号の各エッジは,相巻線7内の逆起電力の極性の変化を更に表わす。」(【0027】)から,HALLエッジは,相巻線7における逆起電力のゼロ交差に対応するものである。
そして,「結果的に,コントローラ15は,相巻線7を次のHALLエッジに対して,位相期間T_PHASEだけ整流させる。…位相期間が負のとき,整流は,HALLエッジの後に起こる(後退整流)。」(【0038】)こと,「後退整流は,比較的小さいロータ速度に採用される。…低速で作動するとき,所望の電流を相巻線7に供給するために,整流を先進させることは必要ない。更に,最適な効率は,典型的には,整流を後退させることによって達成される。」(【0039】)ことからすると,比較的小さいロータ速度で作動するときは,ゼロ交差に対して後退した時に整流することがわかる。
そうすると,上記の記載及び図面の記載からみて,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「ステータ6に対して回転する永久磁石ロータ5を有するブラシレスモータ3を制御する方法であって,比較的小さいロータ速度で作動するとき,前記モータ5の相巻線7を,前記相巻線7における逆起電力のゼロ交差に対して後退した時に整流する工程を含む,方法」
(2) 対比及び判断
ア 対比
本願発明1と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明の「ステータ6に対して回転する永久磁石ロータ5を有するブラシレスモータ3」は,本願発明1の「ブラシレス永久磁石モータ」に相当し,引用発明は,本願発明1と同様に,「ブラシレス永久磁石モータを制御する方法」であるといえる。
引用発明は「相巻線7を,前記相巻線7における逆起電力のゼロ交差に対して後退した時に整流する工程を含む」ところ,その技術的な意味からすると,「相巻線7を,…整流する」ことは,本願発明1における「前記モータの巻線を,…転流する」ことに相当し,「逆起電力のゼロ交差に対して後退した時」は,本願発明1の「逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時」に相当する。
そうすると,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,相違すると認める。
(一致点)
「ブラシレス永久磁石モータを制御する方法であって,前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する工程を含む,方法。」
(相違点)
本願発明は,「50krpmより速い速度で動作するとき」,「前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する」のに対し,引用発明は,「比較的小さいロータ速度で作動するとき」,「前記モータ5の相巻線7を,前記相巻線7における逆起電力のゼロ交差に対して後退した時に整流する」ものの,「比較的小さいロータ速度で作動するとき」が「50krpmより速い速度で動作するとき」であるか否か明らかでない点。
イ 判断
(ア) 引用例1に当該比較的小さいロータ速度の値について明示はないが,速度閾値までは加速モードとすること(【0034】~【0036】),定常モードでは,先進整流は,比較的大きいロータ速度に採用され,後退整流は,比較的小さいロータ速度に採用されること(【0039】),95~100krpmのロータ速度で先進整流する速度制御スキームに関する記載(【0050】,図5)があることからすると,当該比較的小さいロータ速度は,比較的大きいロータ速度である95~100krpmよりも小さいロータ速度であることがわかる。
ところで,本願発明1は,「50krpmより速い速度で動作するとき」であれば如何なる速度で動作するときにおいても,モータの巻線を,巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流するものを包含するから,その意味において,95~100krpmよりも小さいロータ速度である当該比較的小さいロータ速度が,本願発明1の速度の範囲内にあることが十分に窺われる。
また,引用例1に「低速で作動するとき,所望の電流を相巻線7に供給するために,整流を先進させることは必要ない。更に,最適な効率は,典型的には,整流を後退させることによって達成される。」(【0039】)と記載されていることからすると,引用発明において,当該比較的小さいロータ速度の値について,効率の観点から検討することは当然で,当業者が適宜になし得る事項であるいえる。
そして,引用発明において,95~100krpmよりも小さいロータ速度を効率の観点から検討し,95~100krpm半分程度の速度である50krpm程度のロータ速度を,より小さいロータ速度の目安として採用することに,格別の困難なこととは考えられず,当業者が通常の創作能力の発揮の範囲内にてなし得ることと認められる。
そうすると,引用発明において,相違点に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものと認められる。
本願発明1の奏する効果をみても,引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。
(イ) この点に関し,請求人は,引用発明は「100krpm前後の比較的大きいロータ速度にて先進整流を採用し,先進整流が採用される比較的大きいロータ速度と重ならないような比較的小さいロータ速度といえる範囲において後退整流が採用する」ものである,本願発明1は「より速い速度で動作するとき」という条件であるのに対し,引用発明は「先進整流が採用される比較的大きいロータ速度と重ならないような比較的小さいロータ速度といえる範囲」ということであって,仮に,請求項1に係る発明と引用文献1記載の発明では「遅延した時に転流する」ことが適用される速度範囲が,互に重なったとしても,逆の領域となっている(審判請求書4.3.),本願発明1と引用発明で「遅延した時に転流する」ことが適用される速度範囲が,互に重なったとしても,その領域は逆の方向に向かう領域である,このように遅延整流の範囲を逆の方向の範囲にすることができる旨の記載は,引用例1~3にはない(令和元年12月10日意見書2.1.),などと主張している。
しかしながら,既に述べたとおり,引用発明において,当該比較的小さいロータ速度の値について,95~100krpmよりも小さいロータ速度を効率の観点から検討し,95~100krpm半分程度の速度である50krpm程度のロータ速度をより小さいロータ速度の目安として採用することは,当業者が通常の創作能力の発揮の範囲内にてなし得ることと認められる。たとえ,本願発明1と引用発明とが,「遅延した時に転流する」ことが適用される速度範囲の領域は逆の方向に向かう領域であるとしても,引用発明において本願発明1と重複するような値とすることが,当業者にとって格別困難なこととは認められない。
よって,請求人の主張は採用することができない。
ウ 以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
2 36条6項1号について
(1)ア 本願明細書の発明の詳細な説明には,
・ブラシレス永久磁石モータの効率を改善する必要性が高まっていること(【0003】)
・請求人(出願人)は,一旦モータが50krpmより速い速度になると,モータの効率の改善は,転流を遅延することにより達成され得ることを確認したこと,転流を逆起電力のゼロ交差のそれぞれの後まで遅延させることにより,相電流の上昇は,逆起電力の上昇により密接に追従させられ得る結果,モータの効率は改善され得ること(【0005】)
が記載されている。
このような記載からすると,本願発明1は,ブラシレス永久磁石モータの効率を改善することを解決しようとする課題としたものであることがわかる。
そして,発明の詳細な説明には,発明の実施形態として,Hブリッジ回路によりブラシレス永久磁石モータを制御するものであって,各電気的半周期を導通期間及びその後のフリーホイール期間に分割し,導通期間に相巻線を励磁し,フリーホイール期間に相巻線をフリーホイールするように制御すること,ローパワーモード(動作速度範囲:60~70krpm)において遅延した時に転流し,ハイパワーモード(動作速度範囲:90~100krpm)において先行する時に転流すること,このような制御によってモータの効率が改善されたことが記載されているが(【0019】~【0068】),それ以外に,「50krpmより速い速度で動作するとき,前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する工程」を含む方法について特段記載はない。
イ 請求項1の記載からすると,本願発明1は,「50krpmより速い速度で動作するとき」,例えば,90~100krpmの速度で動作するときにおいても,モータの巻線を,巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する工程を含むものであると認められるが,発明の詳細な説明には,そのような発明について具体的に記載されていない。
発明の詳細な説明によれば,ハイパワーモード(動作速度範囲:90~100krpm)において先行する時に転流することによって,モータの効率が改善されるのであるから,動作速度範囲:90~100krpmにおいて,モータの巻線を,巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流することによって,上記課題を解決することができるとも認められない。すなわち,本願発明1は,課題を解決することができるとは認められないものを含むものである。
そして,請求項1には,Hブリッジ回路によりブラシレス永久磁石モータを制御する点,各電気的半周期を導通期間及びその後のフリーホイール期間に分割し,導通期間に相巻線を励磁し,フリーホイール期間に相巻線をフリーホイールするように制御する点について特定されていないが,当該事項はモータの効率に影響を及ぼすものであるから,請求項1に係る発明は課題を解決することができるとは認められないものを含むものである。
よって,本願発明1まで,発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるものとは認められない。
ウ 請求人は,発明の詳細な説明【0058】の記載を根拠に,「50krpmより速い速度で動作するとき,前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する工程」とは,「モータ3の効率を改善する」ことを述べたものに過ぎず,発明としては「50krpmより速い速度で動作するとき,前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する」ことを行うことがあればよいという意味であることは明らかであると主張し,36条6項1号に規定する要件を満たしていると主張している(令和元年12月10日意見書2.2.(1))。
しかしながら,請求項1において,「モータ3の効率を改善する」こととの関係で,「50krpmより速い速度で動作するとき,前記モータの巻線を,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する」ことを行うことに関し,何ら特定されていないから,本願発明1は,課題を解決することができるとは認められないものを含むものである。
よって,請求人の主張は採用することができない。
(2) 以上のとおりであるから,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
3 36条6項2号について
(1)ア 請求項7には,「第1の速度範囲に亘り動作するとき,逆起電力のゼロ交差に対して遅延された時に前記巻線を転流する工程」を含む旨記載されているが,この工程と,請求項1に特定されている工程との関係が明確でないから,請求項7において,さらにどのような事項を特定しているのか明確でない。
また,「第2の速度範囲に亘り動作するとき,前記巻線における逆起電力のゼロ交差に対して先行する時に前記巻線を転流する工程とを含み,前記第2の速度範囲は,前記第1の速度範囲より速い」と記載されているところ,請求項1にて特定された,「50krpmより速い速度で動作するとき」であれば如何なる速度で動作するときにおいても,モータの巻線を,巻線における逆起電力のゼロ交差に対して遅延した時に転流する工程と整合しない工程を含むこととなる。
このように,請求項1を引用する請求項7に係る発明がどのような構成を含むものであるか,明確に特定することができない。
イ 請求人は,請求項7の記載は請求項1をさらに限定したものであるから,36条6項2号に規定する要件を満たしている,と主張しているが(令和元年12月10日意見書2.2.(3)),既に述べたとおり,請求項1に記載された工程と請求項7に記載された工程との関係は明確でない。
よって,請求人の主張は採用することができない。
(2) 以上のとおりであるから,請求項7において,請求項7に係る発明が明確であるとは認められない。
第5 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
また,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号及び36条6項2号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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