審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2018-003971

ヒト、動物または植物の表面、とりわけ皮膚または粘膜エリアをプラズマ治療するための装置

審判番号
2018-003971
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-510820外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2018年03月20日
審決日
2019年09月02日
公報発行日
2020年03月27日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61B) / P18 .537-WZ (A61B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-510820「ヒト,動物または植物の表面,とりわけ皮膚または粘膜エリアをプラズマ治療するための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日国際公開,WO2013/167693,平成27年11月12日国内公表,特表2015-532597〕について,次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は,成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は,2013年(平成25年)5月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月9日,ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって,以降の手続は次のとおりである。 平成28年 4月22日  :手続補正書 平成29年 3月 6日付け:拒絶理由通知 平成29年 6月13日  :意見書,手続補正書 平成29年11月14日付け:拒絶査定 平成30年 3月20日  :審判請求,請求と同時の手続補正書 平成31年 4月10日付け:当審が通知した拒絶理由通知 令和 1年 7月16日  :意見書,手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。 「ヒトまたは動物または植物の表面領域を,低温大気圧プラズマを用い誘電体バリア表面放電を形成することによって治療するための装置であって, 少なくとも1つの高電圧ケーブルと, 少なくとも1つのアースケーブルと, 少なくとも1つのガス供給部と, 少なくとも1つの接地電極と, 少なくとも1つの高電圧電極 とを有する装置であって, 前記接地電極は,導電性,ガス透過性かつフレキシブルな素材の織られ,編まれ,撚り合わされ,または毛編みされている導電性織物平面構造体であり, 前記高電圧電極は,フレキシブルな1本のワイヤまたは導電性の1本の繊維から作製され,前記ワイヤ又は前記繊維は伸縮自在な絶縁層によって被覆されて電気的絶縁を成す構成において, 前記絶縁層で被覆された前記高電圧電極が治療すべき身体エリアまたは表面の輪郭に適合するように変形可能であると同時に,誘電体バリア放電のための誘電体として用いられ,破壊電圧が少なくとも2kVである ことを特徴とする装置。」 第3 拒絶の理由 平成31年4月10日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由1は,次のとおりのものである。 この出願の請求項に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された事項に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2010/094304号 引用文献2:特開2012-061393号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1の記載 引用文献1には,以下の事項が記載されている。なお,『』内の日本語訳は,引用文献1の日本語ファミリー文献である特表2012-518256号公報の対応する記載を援用し,下線は当審が付した。 (1-ア) 「The invention relates to an electrode arrangement for generating a non-thermal plasma, particularly for the treatment of patients.」(1頁9~11行) 『本発明は,非熱プラズマを生成するための電極列,特に患者を治療するための電極列に関する。』 (1-イ) 「In a preferred embodiment of the invention, at least one of the first electrode and the second electrode comprises a wire-mesh, wherein the afore-mentioned perforations are arranged between individual meshes of the wire-mesh. In other words, each mesh of the wire-mesh forms one of the aforementioned perforations. One advantage of such an arrangement is that it is scalable, adaptive and can be customized to any form and shape thereby allowing new applications, e.g. as a wound dressing which will be described in more detail later. Further, such an electrode arrangement is easy to manufacture and very cost-effective. Unlike conventional dielectric barrier devices proposed for plasma medicine, it does not pass a current through human tissue. Moreover, a double mesh system can be gas permeable so that a gas flow can transversely penetrate the electrode arrangement so that it is useful for .air purification, sterilization and pollution (exhaust) con trol. Further, it is possible to arrange several of the aforementioned double-mesh electrode systems at distances of a few centimeters, wherein the double-mesh systems are preferably aligned parallel to each other.」(2頁14行~3頁2行) 『本発明の好ましい実施形態によれば,第一電極及び第二電極のうち少なくとも一はワイヤメッシュを備えており,上述した複数の孔はワイヤメッシュにおける個々のメッシュ間に配置されている。換言すれば,ワイヤメッシュにおける各メッシュが上記の各孔を形成している。このような配列によって得られる利点は,配列が拡張可能であり,適応自在であり,任意の形態及び形状に適合できるので,例えば創傷被覆材(詳しくは後述)としての新たな用途が実現できる。さらに,このような電極列は製造が容易であり,費用対効果が非常に高い。プラズマ医療として提唱されている従来の誘電体バリア装置と異なり,患者の皮膚に電流を通すようなことはしない。さらにまた,二重メッシュのシステムではガス透過性を持たせることができるので,ガスの流れが横方向に電極列に浸透でき,これにより,空気清浄,滅菌,及び汚染(排出)制御に有用である。 また,上述した二重メッシュの電極システムのいくつかを数センチメートルの距離に離間させて配置することも可能であり,このような二重メッシュのシステムは相互に平行に配列することが好ましい。』 (1-ウ) 「In one embodiment of the invention, the first electrode comprises a plate made of an electrically conductive material, wherein the plate is preferably massive and does not comprise any perforations. The dielectric barrier is substantially layer-shaped and formed on a surface of the plate. For example, the dielectric barrier can have a thickness in the range of 0.5-lmm. In this embodiment, the second electrode com- prises either the afore-mentioned wire-mesh or a perforated plate made of an electrically conductive material. The first electrode formed as a massive plate is preferably energized with an alternating current with a voltage of 10-20kV and a typical electrical current of 10-30mA while the second electrode formed as a wire-mesh is preferably electrically grounded.」(3頁23行~4頁2行) 『本発明の一実施形態によれば,第一電極は導電性材料で作製されたプレートを備えており,このプレートは塊状であって,いかなる孔も備えていないことが好ましい。誘電体バリアは実質的に層状でありプレート表面に形成される。例えば,誘電体バリアの厚さは0.5~1mmの範囲とできる。本実施形態において,第二電極は,上述のワイヤメッシュを備えているか,導電性材料で作製された有孔プレートを備えている。塊状のプレートとして形成された第一電極は,10~20kVの電圧と10~30mAの通常電流で励起されることが好ましく,他方,ワイヤメッシュとして形成された第二電極は電気的に接地されることが好ましい。』 (1-エ) 「Preferably, the electrode arrangement is substantially two- dimensional, flat and deformable so that the shape of the entire electrode arrangement can be adapted to the contour of a body part which is to be treated. Such an arrangement allows the use of the inventive electrode arrangement in a wound dressing which will be described in more detail later. In another embodiment of the invention, the electrode arrangement further comprises a cover which is covering the electrode arrangement. The cover can be adapted to increase the local density of the reactive species of the plasma thereby reducing the time needed for a sterilization. Further, the cover can be adapted to filter out unused reactive species. It is further possible to adapt the cover to effect a better control of the plasma. Finally, the cover can be adapted so that the electrode arrangement can operate under reduced pressure.」(6頁6~22行) 『好ましくは,電極列は実質的に二次元状で平坦状かつ変形自在であって,これにより電極列全体の形状が治療対象の身体部分の輪郭に適応できる。このような配列により本発明の電極列を創傷被覆材(詳しくは後述)において使用できるようになる。 本発明の他の実施形態によれば,電極列はさらに,電極列を被覆するカバーを備えることもできる。このカバーは,プラズマの反応種の局所強度を増大させて,滅菌に要する時間を減少させるのに利用できる。さらにこのカバーを利用して,使用されなかった反応種を濾過排出することもできる。さらにまた,このカバーを利用してプラズマをより良好に制御することもできる。最後に,このカバーを利用して電極列を減圧下で作動させることもできる。』 (1-オ) 「Finally, the invention is also directed to a dressing, particularly a wound dressing, comprising a flexible and flat electrode arrangement as mentioned above for covering a body surface (e.g. a wound) of a patient. The integration of a DBD electrode arrangement into a wound dressing allows a plasma treatment of the wound while the wound is covered by the dressing.」(9頁8~14行) 『最後に,本発明は被覆材,特に創傷被覆材に対象としており,上述したように患者の身体表面(例えば創傷)を被覆するための,可撓性を有する平坦な電極列を備えている。DBD電極列を創傷被覆材の中に合体させると,創傷が被覆材で被覆されているときも創傷をプラズマ治療することが可能となる。』 (1-カ) 「Figure 3 shows another embodiment of a two-dimensional electrode arrangement 11 similar to the electrode arrangement 1 shown in Figures IA and IB. However, the electrode arrangement 11 comprises two mesh- shaped electrodes 12, 13, wherein the individual wires of at least one of the electrodes 12, 13 are surrounded by a cladding made of an electrically insulating and dielectric material forming a dielectric barrier between the electrodes 11, 12. The electrode 13 is electrically grounded while the other electrode 12 is connected to a high-voltage generator 14 triggering a dielectric barrier discharge in the electrode arrangement 11 wherein the plasma is generated in the meshes of the electrodes 12, 13. It should further be noted that the electrode arrangement 11 is flexible so that the shape of the electrode arrangement 11 can be adapted to any desired shape.」(12頁11~30行) 『図3は,図1A及び図1Bに示した電極列1に類似した二次元電極列11に関する他の実施形態を示している。 しかしながら,この電極列11は2つのメッシュ状電極12,13を備えており,これらの電極12,13のうち少なくとも一における個々のワイヤは,電気絶縁性と誘電性を有し,電極11,12間で誘電体バリアを形成する材料で作製されたクラッド材で包囲されている。 電極13は電気的に接地され,他方の電極12は電極列11内で誘電体バリア放電を開始する高圧電源14に接続されており,電極12,13のメッシュ内でプラズマが生成される。 なお,電極列11は可撓性を有しているので,電極列11の形状は所望の形状に任意に適応できる。』 (1-キ) 「18. Apparatus according to claim 17, wherein a) the electrode arrangement (1; 6; 11; 24; 28; 39; 40) is permeable to gas, b) the polluted air transversely passes through the electrode arrangement (1; 6; 11; 24; 28; 39; 40) so that the electrode arrangement (1; 6; 11; 24; 28; 39; 40) cleans the air from the pollutants while the polluted air passes through the electrode arrangement. <省略> 21. Dressing (11) , particularly wound dressing, comprising an electrode arrangement (11) according to one of claims 1 to 13 for covering a body surface of a patient. 22. Dressing according to claim 21, wherein the electrode arrangement (11) is flexible so that the shape of the electrode arrangement can be adapted to the body surface of the patient . 」(24頁5~34行) 『18.請求項17に記載のプラズマ治療用装置であって, a)電極列(1;6;11;24;28;39;40)はガス透過性であり, b)汚染された空気は横方向に電極列(1;6;11;24;28;39;40)を通過し,これにより汚染された空気が電極列を通過する際に電極列(1;6;11;24;28;39;40)が空気から汚染物質を除去して清浄にしてなることを特徴とするプラズマ治療用装置。 <省略> 21.患者の身体表面を被覆するために,請求項1~13のいずれか一に記載の電極列(11)を備えた被覆材(11),特に創傷被覆材。 22.請求項21に記載の被覆材であって,電極列(11)が可撓性を有しており,これにより電極列の形状を患者の身体表面に適応可能としてなることを特徴とする被覆材。』 (1-ク) 「Fig.3 」 2 引用発明 (1)上記記載事項(1-ア)の特に「本発明は,非熱プラズマを生成するための電極列,特に患者を治療するための電極列に関する。」という記載,(1-オ)の特に「本発明は被覆材,特に創傷被覆材に対象としており,上述したように患者の身体表面(例えば創傷)を被覆するための,可撓性を有する平坦な電極列を備えている。」という記載,(1-キ)の特に「プラズマ治療用装置」という記載,(1-カ)の特に「電極13は電気的に接地され,他方の電極12は電極列11内で誘電体バリア放電を開始する高圧電源14に接続されており,電極12,13のメッシュ内でプラズマが生成される。」という記載を総合すると,引用文献1には「患者の身体表面を,非熱プラズマを用い誘電体バリア放電を開始するプラズマ治療用装置」が記載されているといえる。 (2)上記記載事項(1-カ)の特に「電極13は電気的に接地され,他方の電極12は電極列11内で誘電体バリア放電を開始する高圧電源14に接続されており,電極12,13のメッシュ内でプラズマが生成される。」という記載,(1-ク)の「Fig.3」において,「電極12」,「電極13」のそれぞれが「HV」と「GND」に接続されているケーブルが看取できることを総合すると,引用文献1には「高電圧ケーブルと,接地ケーブルと,接地されたメッシュ状電極と,高圧電源に接続されたメッシュ状電極とを有するプラズマ治療用装置」が実質的に記載されているといえる。 (3)上記記載事項(1-イ)の特に「さらにまた,二重メッシュのシステムではガス透過性を持たせることができるので,ガスの流れが横方向に電極列に浸透でき,これにより,空気清浄,滅菌,及び汚染(排出)制御に有用である。」という記載,(1-カ)の特に「この電極列11は2つのメッシュ状電極12,13を備えており,これらの電極12,13のうち少なくとも一における個々のワイヤは,電気絶縁性と誘電性を有し,電極11,12間で誘電体バリアを形成する材料で作製されたクラッド材で包囲されている。」及び「なお,電極列11は可撓性を有しているので,電極列11の形状は所望の形状に任意に適応できる。」という記載を総合すると,引用文献1には「接地されたメッシュ状電極は,導電性,ガス透過性かつ可撓性のワイヤから作成されたワイヤメッシュであり,高圧電源に接続されたメッシュ状電極は,可撓性のワイヤからに作成され,個々のワイヤは電気絶縁性,誘電性及び可撓性を有する材料で作製されたクラッド材で包囲されている構成」が記載されているといえる。 (4)上記記載事項(1-オ)の特に「本発明は被覆材,特に創傷被覆材に対象としており,上述したように患者の身体表面(例えば創傷)を被覆するための,可撓性を有する平坦な電極列を備えている。DBD電極列を創傷被覆材の中に合体させると,創傷が被覆材で被覆されているときも創傷をプラズマ治療することが可能となる。」という記載,(1-カ)の特に「この電極列11は2つのメッシュ状電極12,13を備えており,これらの電極12,13のうち少なくとも一における個々のワイヤは,電気絶縁性と誘電性を有し,電極11,12間で誘電体バリアを形成する材料で作製されたクラッド材で包囲されている。」及び「なお,電極列11は可撓性を有しているので,電極列11の形状は所望の形状に任意に適応できる。」という記載,(1-エ)の特に「電極列は実質的に二次元状で平坦状かつ変形自在であって,これにより電極列全体の形状が治療対象の身体部分の輪郭に適応できる。このような配列により本発明の電極列を創傷被覆材(詳しくは後述)において使用できるようになる。」という記載を総合すると,引用文献1には「クラッド材で包囲された高圧電源に接続されたメッシュ状電極が患者の身体表面を被覆できるよう所望の形状に任意に適応可能であると同時に,誘電体バリア放電のための誘電体として用いられる」ことが記載されているといえる。 (5)上記(1)~(4)を総合すると,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「患者の身体表面を,非熱プラズマを用い誘電体バリア放電を開始するプラズマ治療用装置であって, 高電圧ケーブルと, 接地ケーブルと, 接地されたメッシュ状電極と, 高圧電源に接続されたメッシュ状電極 とを有するプラズマ治療用装置であって, 接地されたメッシュ状電極は,導電性,ガス透過性かつ可撓性のワイヤから作成されたワイヤメッシュであり, 高圧電源に接続されたメッシュ状電極は,可撓性のワイヤから作成され,個々のワイヤは電気絶縁性,誘電性及び可撓性を有する材料で作製されたクラッド材で包囲されている構成において, クラッド材で包囲された高圧電源に接続されたメッシュ状電極が患者の身体表面を被覆できるよう所望の形状に任意に適応可能であると同時に,誘電体バリア放電のための誘電体として用いられるプラズマ治療用装置。」(以下「引用発明」という) 3 引用文献2の記載 引用文献2には,以下の事項が記載されている。 (1-ア) 「【0057】 図6(a)~(d)の低温プラズマ反応層の誘電体8の材質は,柔軟性を有するものであればよい。誘電体8としては,ポリイミド,液晶ポリマー,PTFE,ETFE,PVF(poly vinyl fluoride),PVDF(poly vinylidene difluoride),ポリエーテルイミド,ポリアミドイミドなどが挙げられる。また,反応管に剛性を持たせたい場合は,ガラスやセラミックスなどの無機絶縁材料を用いてもよい。 【0058】 さらに,浄化装置に用いられる電源7は,AC高電圧,パルス高電圧,DC高電圧,DCバイアスにACあるいはパルスを重畳させたもの,マイクロウエーブなどの高電圧電源である。この電源7により放電空間9にプラズマが発生するように,放電電極4とアース電極5に所定の電圧を印加すればよい。電源7による印加電圧は,処理対象とするガス中の揮発性有害物質等の濃度などにより変動するが,通常1~20kV,好ましくは2から10kVである。また,その周波数は数十Hzから数kHz,マイクロウエーブの場合,数GHzである。」 (1-イ) 「図6(a) 」 4 引用文献2に記載された技術 上記記載事項を総合すると,引用文献2には,以下の技術が記載されていると認められる。 「低温プラズマの反応層の誘電体8を介して放電電極4とアース電極5に印加する電圧が,通常1~20kV,好ましくは2から10kVである。」(以下,「引用文献2に記載された技術」という。) 第5 対比等 1 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「患者の身体表面」が,その機能・構成からみて,本願発明の「ヒトまたは動物または植物の表面領域」に相当することは明らかである。以下同様に,「誘電体バリア放電を開始」が「誘電体バリア表面放電を形成」に,「プラズマ治療用装置」が「治療するための装置」に,「高電圧ケーブル」が「少なくとも1つの高電圧ケーブル」に,「接地ケーブル」が「少なくとも1つのアースケーブル」に,「接地されたメッシュ状電極」が「少なくとも1つの接地電極」に,「高圧電源に接続されたメッシュ状電極」が「少なくとも1つの高電圧電極」に,「可撓性のワイヤ」が「フレキシブルな素材」に,「クラッド材」が「絶縁層」に,「個々のワイヤは電気絶縁性,誘電性及び可撓性を有する材料で作製されたクラッド材で包囲されている」が「前記ワイヤ又は前記繊維は伸縮自在な絶縁層によって被覆されて電気的絶縁を成す」に,それぞれ相当する。 (2)引用発明の「クラッド材」は,本願発明の「絶縁層」に相当するので,引用発明の「クラッド材で包囲された高圧電源に接続されたメッシュ状電極が患者の身体表面を被覆できるよう所望の形状に任意に適応可能である」は,本願発明の「絶縁層で被覆された前記高電圧電極が治療すべき身体エリアまたは表面の輪郭に適合するように変形可能である」に相当する。 (3)引用発明の「非熱プラズマ」の「非熱」とはその技術的意味からして「低温」であることが当業者にとって明らかなところ,本願発明の「低温大気圧プラズマ」とは,「低温プラズマ」という限りにおいて共通する。 (4)引用発明の「前記接地されたメッシュ状電極は,導電性,ガス透過性かつ可撓性のワイヤから作成されたワイヤメッシュ」と本願発明の「前記接地電極は,導電性,ガス透過性かつフレキシブルな素材の織られ,編まれ,撚り合わされ,または毛編みされている導電性織物平面構造体」は,「接地電極は,導電性,ガス透過性かつフレキシブルな素材の導電性構造体」という限りにおいて共通する。 (5)引用発明の「高圧電源に接続されたメッシュ状電極は,可撓性のワイヤから作成され」と本願発明の「高電圧電極は,フレキシブルな1本のワイヤまたは導電性の1本の繊維から作製され」は,「高電圧電極は,フレキシブルなワイヤまたは導電性の繊維から作製され」という限りにおいて共通する。 2 一致点 そうすると,両者は, 「ヒトまたは動物または植物の表面領域を,低温プラズマを用い誘電体バリア表面放電を形成することによって治療するための装置であって, 少なくとも1つの高電圧ケーブルと, 少なくとも1つのアースケーブルと, 少なくとも1つの接地電極と, 少なくとも1つの高電圧電極 とを有する装置であって, 前記接地電極は,導電性,ガス透過性かつフレキシブルな素材の導電性構造体であり, 前記高電圧電極は,フレキシブルなワイヤまたは導電性の繊維から作製され,前記ワイヤ又は前記繊維は伸縮自在な絶縁層によって被覆されて電気的絶縁を成す構成において, 前記絶縁層で被覆された前記高電圧電極が治療すべき身体エリアまたは表面の輪郭に適合するように変形可能であると同時に,誘電体バリア放電のための誘電体として用いられる装置。」の点で一致し,以下の点で相違する。 3 相違点 (1)相違点1 「低温プラズマ」について,本願発明では大気圧で発生するものであるのに対して,引用発明ではその点が明らかでない点。 (2)相違点2 本願発明では「少なくとも1つのガス供給部」を有するのに対して,引用発明ではガス供給部を有するか否か不明である点。 (3)相違点3 接地電極の構造について,本願発明では,織られ,編まれ,撚り合わされ,または毛編みされている平面構造体であるのに対して,引用発明ではワイヤから作成されたものであるものの,織られ,編まれ,撚り合わされ,または毛編みされている平面構造体であるかどうか不明な点。 (4)相違点4 高電圧電極について,本願発明では「フレキシブルな1本のワイヤまたは導電性の1本の繊維から作製され」るのに対して,引用発明では「可撓性のワイヤから作成され」るものの1本のワイヤまたは1本の繊維から作製されるものかどうか不明である点。 (5)相違点5 本願発明では「破壊電圧が少なくとも2kV」であるのに対して,引用発明では不明である点。 第6 判断 上記相違点について,判断する。 1 相違点1の検討 引用文献1の記載事項(1-エ)に,「本発明の他の実施形態によれば,電極列はさらに,電極列を被覆するカバーを備えることもできる。このカバーは,プラズマの反応種の局所強度を増大させて,滅菌に要する時間を減少させるのに利用できる。さらにこのカバーを利用して,使用されなかった反応種を濾過排出することもできる。さらにまた,このカバーを利用してプラズマをより良好に制御することもできる。最後に,このカバーを利用して電極列を減圧下で作動させることもできる。」と記載されている。 この記載によると,プラズマを発生するための電極列はカバーを備えることができ,その場合は電極列を減圧下で作動させることができるが,必ずしもカバーを必要としないことをも意味しており,その場合は減圧下ではなく大気圧下であることを示唆していることは技術常識である。 そうすると,引用発明の「非熱プラズマ」は大気圧下で発生させるものを含んでいると認められるので,相違点1は実質的な相違点ではない。 なお,たとえ実質的な相違点であったとしても,大気圧下で低温プラズマを発生させることは例を挙げるまでもなく周知技術であるので,引用発明を大気圧下で作動させる程度のことは当業者が容易になし得ることである。 2 相違点2の検討 引用文献1の記載事項(1-イ)に,「さらにまた,二重メッシュのシステムではガス透過性を持たせることができるので,ガスの流れが横方向に電極列に浸透でき,これにより,空気清浄,滅菌,及び汚染(排出)制御に有用である。」と記載されている。 この記載によると,引用発明のワイヤメッシュからなる電極はガス透過性であるので,何らかの供給源からガスが電極に供給されていることを示唆している。したがって,引用発明のプラズマ治療用装置はガス供給源を実質的に備えていると認められる。 よって,相違点2は実質的な相違点ではない。 なお,たとえ実質的な相違点であったとしても,ガス環境下で低温プラズマを発生させることは例を挙げるまでもなくこの種の装置において周知技術であるので,引用発明のプラズマ治療用装置にガス供給源を設ける程度のことは当業者が容易になし得ることである。 3 相違点3の検討 電極に関して,柔軟性を持たせるために織物導電性材料から構築することは,本件出願の優先日前に周知技術である(例えば,特表2010-505552号公報の【0031】の「第1の電極210はまた,形状操作のために構造上の柔軟性が可能である,他のいかなる導電性材料から,少なくとも部分的に構築されることができる。一実施形態においては,第1の電極210は,中心空洞を画定する円形断面を有する織物導電性材料である。他の一実施形態においては,第1の電極210は,織物導電性材料から構築され,略球状であり,電極内に略球状の空洞を画定する。」という記載参照。)。 ここで,上記周知技術と引用発明のワイヤメッシュからなる接地されたメッシュ状電極は,柔軟性または可撓性を備えるための電極である点で共通するので,引用発明の接地されたメッシュ状電極のワイヤメッシュを織物導電性材料から構築すること,即ちワイヤメッシュを織られたものとすることは,当業者が容易になし得ることである。 4 相違点4の検討 引用発明の高圧電源に接続されたメッシュ状電極は,可撓性のワイヤから作成されており,例えば図3に示されているようなワイヤメッシュからなる引用発明の高圧電源に接続されたメッシュ状電極について,1本のワイヤから作成することや,複数本のワイヤから作成することが技術的に可能であることが当業者にとって明らかであるところ,このようなワイヤメッシュを1本のワイヤから作成するか,複数本のワイヤから作成するかは,実施に際して当業者が適宜選択し得る設計事項というべきである。 5 相違点5の検討 引用文献1の記載事項(1-ウ)に「塊状のプレートとして形成された第一電極は,10~20kVの電圧と10~30mAの通常電流で励起されることが好ましく,他方,ワイヤメッシュとして形成された第二電極は電気的に接地されることが好ましい。」と記載されており,そもそも引用発明においても「少なくとも2kVである」という範囲に含まれる10~20kVの破壊電圧(高圧電源に接続された電極に印加する電圧)を想定しているので,相違点5の本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることである。 なお,引用文献2に「低温プラズマの反応層の誘電体8を介して放電電極4とアース電極5に印加する電圧が,通常1~20kV,好ましくは2から10kVである。」という技術が記載されていることを鑑みると,引用発明の破壊電圧(高圧電源に接続された電極に印加する電圧)を,少なくとも2kVとすることは,引用文献2に記載された技術に基づいて,当業者が容易になし得ることである。 6 効果について そして,これらの相違点1ないし5を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明,引用文献2に記載された技術及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2018-003971

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ論点・分野の審決(審決分類)2,205件(121・A61B、537・A61B)
  • 2024-014320拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)生理学的データのモニタリング方法
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2025-010743拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)乳房の病変を同定する方法及びモデル
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2024-019207拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)少なくとも1つの呼吸パラメータを決定するための測定装置及び方法
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2024-020357拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)情報処理装置、情報処理方法及びコンピュータプログラム
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B
  • 2025-001465拒絶査定不服審判 / 2026-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)耳、鼻、および咽喉の不調を治療するデバイスおよび方法
    共通の審決分類: 121・A61B、537・A61B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存