特許拒絶査定不服審判
2018-002356
吸湿消臭微粒子および該微粒子の樹脂製品への添加剤としての使用
- 審判番号
- 2018-002356
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-518192外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年02月20日
- 審決日
- 2018年11月13日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】日本エクスラン工業株式会社
- 分類
- P18 .121-WY (A61L) / P18 .537-WY (A61L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-518192「吸湿消臭微粒子および該微粒子の樹脂製品への添加剤としての使用」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月27日国際公開、WO2014/188908、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願は、2014年(平成26年)5月13日(優先権主張 平成25年5月24日)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月16日付けで拒絶理由が通知され、同年10月19日付けの意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年2月20日に審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願に係る発明は、平成30年2月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める(以下、それぞれ、「本願発明1」~「本願発明10」という。)。
「 【請求項1】
架橋性モノマーを共重合することによって導入された架橋構造および1.8mmol/g以上の塩型カルボキシル基を有する吸放湿性微粒子に、塩基性高分子が0.05重量%以上付着されている吸湿消臭微粒子であって、平均粒子径が0.01~200μmの範囲にあり、水に対する膨潤度が5倍以下であることを特徴とする吸湿消臭微粒子。
【請求項2】
20℃×65%RH環境下での飽和吸湿率が15%以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿消臭微粒子。
【請求項3】
アンモニア臭除去率:70%以上、酢酸臭除去率:80%以上、イソ吉草酸臭除去率:85%以上、ノネナール臭除去率:75%以上の消臭性能を有することを特徴とする請求項1または2に記載の吸湿消臭微粒子。
【請求項4】
前記吸放湿性微粒子中の全カルボキシル基量に対する塩型カルボキシル基量の比率が、40~99%の範囲であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の吸湿消臭微粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の吸湿消臭微粒子の樹脂製品への添加剤としての使用。
【請求項6】
前記樹脂製品が人造皮革であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記樹脂製品がフィルムであることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記樹脂製品が繊維であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項9】
前記樹脂製品が、ウレタン系樹脂を含有することを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
前記樹脂製品が、セルロース系重合体および/またはアクリロニトリル系重合体を含有することを特徴とする請求項8に記載の使用。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
理由1 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2 (明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(特許法第29条第2項)
請求項1~10
引用文献等1~4
引用例1には、加水分解により、カルボキシル基を有する、架橋構造を導入したアクリロニトリル系の重合体を、1.8mmol/g以上の塩型カルボキシル基を有し、塩基性高分子が0.05重量%以上付着されていることに該当する吸湿消臭性繊維とすることについての記載は認められるが、架橋性モノマーを共重合することによって該重合体を平均粒子径が0.01~200μmの範囲にある微粒子とすることの記載はない。
しかるに、カルボキシル基を有する、架橋性モノマーを共重合することができる架橋構造を導入したアクリロニトリル系の重合体を、その用途に応じて繊維状や粉末状とすることは、例えば引用例2に例示されるように周知の事項である。
してみれば、引用例1のカルボキシル基を有する、架橋構造を導入したアクリロニトリル系の重合体を周知の用途に供するために、請求項1のように構成することは当業者が容易になし得たことである。
よって、請求項1~4に係る発明は、引用例1~2により進歩性を有しない。
また、カルボキシル基を有する、架橋構造を導入したアクリロニトリル系の重合体の微粒子を樹脂製品に添加することは、引用例2~4に例示されるように周知の事項である。
よって、請求項5~8に係る発明は、引用例1~4により進歩性を有しない。
●理由2(特許法第36条第6項第2号)
平成29年10月19日付け手続補正書に基づき、請求項5に係る発明は、「樹脂を成型加工して得られる樹脂製品であって、請求項1~4のいずれかに記載の吸湿消臭微粒子を0.1~60重量%含有することを特徴とする樹脂製品。」と特定される。
しかるに、製品が成型されたものであることは、製品という概念に内在する当然の事項であって、成型を含む何らかの加工が施されていなければ、それは、単なる組成物である。そして、請求項5の記載では組成も何の規定もない。
すると、樹脂を成型加工して得られる樹脂製品とは、樹脂製品を言い換えただけであって、客観的に把握できる製品としての特徴に基づいて、樹脂製品を規定したものではない。
そして、請求項5の記載は、樹脂製品とは無関係な吸湿消臭微粒子の含有割合によって樹脂製品が規定されている点で、その記載は、樹脂製品として明確でない。
よって、請求項5~10の記載は、「樹脂製品」の発明として、特許を受けようとする発明が明確でない。
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2013/069659号
2.特開平10-156179号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2002-339215号公報(周知技術を示す文献)
4.特開平08-225610号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 理由1(特許法第29条第2項)について
(1)国際公開第2013/069659号(以下、「引用例1」という。)の記載事項
引用例1は、発明の名称を「吸湿消臭性繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造物」とする、本願の優先日である平成25年(2013年)5月24日前の同年同月16日に国際公開されたものであり、次の記載がある。
「[0001]
本発明は、吸湿性能と消臭性能、なかでも汗臭および加齢臭に対して優れた消臭性能を併せ持つ吸湿消臭性繊維に関する。」
「[0006]
本発明の目的は、従来技術では提供されていなかった、衣料・寝具分野等において、汗臭や加齢臭等の複合臭に対する高い消臭性能と、蒸れ感を低減する吸湿性能を併せ持ち、さらには、繰り返し洗濯しても優れた消臭性能を維持できる吸湿消臭性繊維を提供することにある。」
「[0007]
本発明の上記目的は、下記の手段により達成される。
(1) 架橋構造を有しかつ3~8mmol/gのカルボキシル基を有する吸湿性繊維の表面に、塩基性高分子をアミノ基量として0.2~4mmol/gイオン結合させてなることを特徴とする吸湿消臭性繊維。」
「[0009]
本発明に採用する吸湿性繊維は、架橋構造とカルボキシル基を有することが必要である。かかる吸湿性繊維としては、カルボキシル基又はそのアルカリ金属塩基などの親水性基含有モノマーと、カルボキシル基と反応してエステル架橋構造を形成できるヒドロキシル基含有モノマーなどとが共重合され、かつエステル架橋結合が導入されてなるポリアクリル酸系架橋体繊維、無水マレイン酸系架橋体繊維、アルギン酸系架橋体繊維などや、アクリロニトリル系繊維に架橋剤により架橋構造を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入したアクリレート系架橋体繊維などを挙げることができる。特に、アクリレート系架橋体繊維は、架橋剤による架橋条件、加水分解条件をコントロールすることにより、吸湿性に優れた繊維が得られるため、本発明に採用する吸湿性繊維として好ましい。以下、かかるアクリレート系架橋体繊維を例にとり、本発明の吸湿消臭性繊維について詳述する。
[0010]
アクリレート系架橋体繊維の原料繊維であるアクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から公知の方法に準じて製造される。該重合体の組成としては、アクリロニトリルが40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。後述するように、アクリロニトリル系繊維を形成するアクリロニトリル系共重合体のニトリル基とヒドラジン系化合物等の窒素含有化合物を反応させることで、繊維中に架橋構造が導入される。架橋構造は繊維物性に大きく影響する。アクリロニトリルの共重合組成が少なすぎる場合には、架橋構造が少なくならざるを得なくなり、繊維物性が不十分となる可能性があるが、アクリロニトリルの共重合組成を上記範囲とすることで良好な結果を得られやすくなる。
[0011]
アクリロニトリル系重合体におけるアクリロニトリル以外の共重合成分としては、アクリロニトリルと共重合可能な単量体であれば特に限定されず、具体的にはメタリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の単量体などが挙げられる。」
「[0030]
(3)アミノ基量
使用する塩基性高分子のアミン価をA[mmol/g]とする。塩基性高分子処理前の繊維重量を測定し、B[g]とする。塩基性高分子処理後の繊維重量を測定し、C[g]とする。次式によりアミノ基量を算出する。
アミノ基量[mmol/g]=A×(C-B)/C」
「[0034]
[実施例1]
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%のアクリロニトリル系重合体を48%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。この紡糸原液を、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、0.8デニール×70mmの原料繊維を得た。この原料繊維1kgに、30重量%の加水ヒドラジン5kgを加え、98℃で3時間架橋処理した。窒素増加量は5.0%であった。該架橋繊維を水洗後、更に3重量%の水酸化ナトリウム5kgを加え、90℃で1時間加水分解した。次いで、1mol/l硝酸水溶液で処理して、カルボキシル基をH型に変換し、水洗後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを6.5に調整した。得られたアクリレート系架橋体繊維のカルボキシル基量、および塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率を表1に示す。次いで、該繊維をポリエチレンイミン(数平均分子量600、アミン価20mmol/g)の2%水溶液に浸漬して50℃×60分処理した。その後水洗、乾燥処理を行い、吸湿消臭性繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。」
「[表1]」(当審注:実施例1の「カルボキシル基量[mmol/g]」、「アミノ基量[mmol/g]」、「塩型/H型比率」の欄には、それぞれ、「3.5」、「0.3」、「76/24」と記載されている。)
(2)引用例1に記載された発明
引用例1には、「架橋構造を有しかつ3~8mmol/gのカルボキシル基を有する吸湿性繊維の表面に、塩基性高分子をアミノ基量として0.2~4mmol/gイオン結合させてなることを特徴とする吸湿消臭性繊維」([0007](1))について記載されている。
そして、引用例1には、上記「架橋構造を有しかつ3~8mmol/gのカルボキシル基を有する吸湿性繊維」について、「アクリロニトリル系繊維に架橋剤により架橋構造を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入したアクリレート系架橋体繊維」([0009])が具体的に記載されており、例えば実施例1では、3.5mmol/gのカルボキシル基のうち、塩型/H型比率が76/24であり、「塩基性高分子」が、アミノ基量として0.3mmol/gイオン結合させた上記「アクリレート系架橋体繊維」が記載されている。
そうすると、引用例1には、実施例1として、
「アクリロニトリル系繊維に架橋剤により架橋構造を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入したアクリレート系架橋体繊維であって、塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の比率が76:24である、3.5mmol/gのカルボキシル基を有する吸湿性繊維の表面に、塩基性高分子をアミノ基量として0.3mmol/gをイオン結合させてなることを特徴とする吸湿消臭性繊維」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
(3)本願発明1について
(ア)本願発明1と引用発明との対比
引用発明の「吸湿性繊維」に導入されたカルボキシル基のうち「塩型カルボキシル基」は、2.7mmol/g(=3.5*0.76)と計算され、「吸湿性繊維」の表面に、イオン結合された塩基性高分子はアミノ基量が0.3mmol/gであるから、1.5重量%(*)と計算される。
(*)[0030]の「(3)アミノ基量」に、
アミノ基量[mmol/g]=A×(C-B)/C
ここで、
A:使用する塩基性高分子のアミン価[mmol/g]
B:塩基性高分子処理前の繊維重量[g]
C:塩基性高分子処理後の繊維重量[g]
であることが記載されている。
この式にA=20、アミノ基量=0.3を代入すると、(C-B)/Cは、0.015(=0.3/20)となる。
よって、塩基性高分子処理量は1.5重量%と計算される。
そうすると、引用発明の「吸湿消臭性繊維」と、本願発明1の「吸湿消臭微粒子」とは、「架橋構造および1.8mmol/g以上の塩型カルボキシル基を有する吸湿性」の重合体に「塩基性高分子が0.05重量%以上付着されている吸湿消臭」の重合体である点で一致し、次の相違点1~3において相違する。
(相違点1)
架橋構造が、本願発明1は、「架橋性モノマーを共重合すること」によって重合体に導入されたものであるのに対し、引用発明は、重合体を「架橋剤」処理して導入されたものである点
(相違点2)
重合体が、本願発明1は、「吸放湿性微粒子」に塩基性高分子を付着した、「平均粒子径が0.01~200μmの範囲」にある「微粒子」であるのに対し、引用発明は、「繊維」である点
(相違点3)
重合体が、本願発明1は、「水に対する膨潤度が5倍以下」であるのに対し、引用発明は、不明である点
(イ)相違点1についての判断
原査定で引用された、各引用例の記載について検討する。
各引用例には以下の記載がある。
(a)引用例1
(再掲)「[0009]
本発明に採用する吸湿性繊維は、架橋構造とカルボキシル基を有することが必要である。かかる吸湿性繊維としては、カルボキシル基又はそのアルカリ金属塩基などの親水性基含有モノマーと、カルボキシル基と反応してエステル架橋構造を形成できるヒドロキシル基含有モノマーなどとが共重合され、かつエステル架橋結合が導入されてなるポリアクリル酸系架橋体繊維、…、アクリロニトリル系繊維に架橋剤により架橋構造を導入した後、加水分解することによりカルボキシル基を導入したアクリレート系架橋体繊維などを挙げることができる。特に、アクリレート系架橋体繊維は、架橋剤による架橋条件、加水分解条件をコントロールすることにより、吸湿性に優れた繊維が得られるため、本発明に採用する吸湿性繊維として好ましい。以下、かかるアクリレート系架橋体繊維を例にとり、本発明の吸湿消臭性繊維について詳述する。」
(b)特開平10-156179号公報 (以下「引用例2」という。)
引用例2は「発明の名称」を「酸・アルデヒド吸収性重合体及びその製造方法ならびに該重合体を含有したシート状物」とする、本願のの優先日前に頒布された特許文献であり、吸収性重合体の架橋構造について以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 ニトリル基を有するビニルモノマーの含有量が20重量%以上よりなる高ニトリル系重合体を、1分子中の窒素の数が2以上である窒素含有化合物で処理して得られたアミン構造を有することを特徴とする酸・アルデヒド吸収性重合体。
…
【請求項3】 重合体が架橋構造を有していることを特徴とする請求項1または2記載の酸・アルデヒド吸収性重合体。
【請求項4】 架橋構造が、高ニトリル系重合体の含有するニトリル基とヒドラジンとの反応により得られた構造であることを特徴とする請求項3記載の酸・アルデヒド吸収性重合体。」
「【0009】…また該重合体の組成については、ニトリル基を有するビニルモノマーの含有量が20重量%以上である限りにおいては、特に限定はなく、ニトリル基を有するビニルモノマー単独または、該モノマー含有量を20重量%以上とし残部が少なくとも1種の他のエチレン系不飽和化合物である重合体であればよい。ここでいう他のエチレン系不飽和化合物としては、具体的には、上述のニトリル基を有するビニルモノマーと共重合し得る公知の不飽和化合物、例えば…ハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデン類;…不飽和カルボン酸およびこれらの塩類;…アクリル酸エステル類;…メタクリル酸エステル類;…不飽和ケトン類;…ビニルエステル類;…ビニルエーテル類;…不飽和スルホン酸およびこれらの塩類;…スチレンおよびそのアルキルまたはハロゲン置換体;アリルアルコールおよびそのエステルまたはエーテル類;…塩基性ビニル化合物;…不飽和アルデヒド類;グリシジルメタクリレート、N-メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物をあげることができる。」
「【0015】高ニトリル系重合体と反応させる、上述の窒素含有化合物の量としては、目的とする用途に応じて要求される酸・アルデヒド吸収性が発現される限りにおいては特に限定はない。…ただし、反応により生じたアミン構造は親水性がつよいため、あまり多すぎると、用途によっては水に溶けてしまうという問題が生じる場合もある。このような問題の場合、反応せしめる高ニトリル系重合体自体に架橋構造を導入させたもの、あるいは窒素含有化合物との反応において架橋を導入させたものなど架橋構造を有しているものであれば、高濃度のアミン構造を有したものをつくることができ、酸・アルデヒド吸収特性の優れたしかも水不溶性の重合体とすることができるので好ましい。
【0016】この架橋構造としては、必要とされる重合体の形態が保持できる限りにおいては特に限定はなく、用途に応じて適宜選択できる。例えば、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。また、架橋を導入する方法においても、特に限定はなく、高ニトリル系重合体の重合段階での架橋剤、即ち架橋性モノマーの共重合による架橋、ポリマー化後での後架橋、物理的なエネルギーによる架橋構造の導入など一般に用いられる方法によることができる。なかでも、容易に効率よく架橋構造を導入することのできる、架橋剤による架橋が好ましく、具体的な架橋剤としては、後に行われる窒素含有化合物での処理においても変性をうけない、ジビニルベンゼンあるいはトリアリルイソシアヌレートによる架橋が好ましい。また、後架橋の例としては、高ニトリル系重合体中のニトリル基を利用したホルムアルデヒド、あるいはヒドラジンなどによるものがよく、なかでもヒドラジンの使用は、本願発明が必須とする窒素含有化合物での処理によるアミン構造の導入と同時に架橋の形成もできるので特に好ましい。」
(c)特開2002-339215号公報(以下「引用例3」という。)
引用例3は「発明の名称」を「吸放湿性皮革調不織布およびその製造方法」とする、本願のの優先日前に頒布された特許文献であり、下記「吸放湿性微粒子」の架橋構造について以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 繊度が0.3~10dtexの繊維からなる原料不織布から得られ、表層部に皮革調の細かい連続模様を付与した皮革調不織布であって、
前記原料不織布の片側表面から、10~90%の深さ位置まで、吸放湿性微粒子と、該吸放湿性微粒子を原料不織布の構成繊維に固着させるためのバインダー樹脂を含有すると共に、
前記バインダー樹脂の一部が前記吸放湿性微粒子を含んで、原料不織布の前記片側表面上に前記表層部を形成しており、且つ下記2条件下での吸湿率aおよびbが下式(1)~(3)を満たすことを特徴とする吸放湿性皮革調不織布。
…
【請求項6】 前記吸放湿性微粒子が、アクリル系架橋重合体であって、塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有するものである請求項1~5のいずれかに記載の吸放湿性皮革調不織布。
【請求項7】 前記吸放湿性微粒子が、2以上の重合性ビニル基を有する化合物を共重合成分として架橋構造を導入したアクリロニトリル系架橋重合体のニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、該塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有するものである請求項6に記載の吸放湿性皮革調不織布。
【請求項8】 前記吸放湿性微粒子が、アクリロニトリル系重合体にヒドラジン系化合物処理により架橋構造を導入したアクリロニトリル系架橋重合体のニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであって、該塩型カルボキシル基を1.0mmol/g以上有するものである請求項6に記載の吸放湿性皮革調不織布。」
「【0031】架橋構造の導入は、上記の共重合単量体組成物に、さらに架橋構造を形成する共重合成分として2以上の重合性ビニル基を有する化合物を加え、これを共重合する方法が採用できる。2以上の重合性ビニル基を有する化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどが好ましく用いられる。
【0032】また、アクリル系重合体が、アクリロニトリル系モノマーに、必要に応じて他の共重合単量体を加えた共重合単量体組成物を共重合して得られるアクリロニトリル系重合体である場合は、ヒドラジン系化合物処理により、架橋構造を導入することも可能である。」
(d)特開平08-225610号公報(以下「引用例4」という。)
引用例4は、「発明の名称」を「高吸放湿性微粒子及びその製造方法」とする、本願の優先日前に頒布された特許文献であるが、「高吸放湿性微粒子」の架橋構造の導入方法に係る記載はない。
引用例1~3の上記各記載によれば、吸湿(収)性重合体への架橋構造の導入方法として、「架橋性モノマーを共重合する」導入方法も、重合体を「架橋剤」処理して導入する方法もいずれも知られていたことが認められるが、引用例1,2には、引用発明のように「架橋剤」処理して導入する方法が好ましい(引用例1【0009】、引用例2【0016】)ことが示唆されている。
さらに、引用発明の架橋を導入する前の原料繊維は、
「アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%のアクリロニトリル系重合体を48%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。この紡糸原液を、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、0.8デニール×70mmの原料繊維を得た」(【0034】)
ものであるから、仮に、紡糸原液に架橋性モノマー添加して架橋構造を導入すれば、上記紡糸処理により繊維を製造することが困難になることが予想される。
これに対し、本願の発明の詳細な説明には、
「上述のように、本発明においては酸性物質、アルデヒド類に対する吸着消臭性能と樹脂に対する密着性を向上させるために、塩型カルボキシル基含有微粒子に塩基性高分子を付着させている。…上述した架橋アクリロニトリル系重合体粒子の有するヒドラジン架橋構造も本来、酸性物質、及びアルデヒド類に対して高い吸着消臭性能を有しているが、加水分解反応で生成されるカルボキシル基と中和反応してしまい、十分な性能発現には至らない。」(【0020】)
と記載されており、重合体を「架橋剤」処理する方法によりヒドラジン架橋構造を導入した架橋アクリロニトリル系重合体粒子は、加水分解反応で生成されるカルボキシル基と中和反応してしまい、十分な性能発現には至らないことが理解できるから、本願発明1は、重合体を「架橋性モノマーを共重合することによって導入された架橋構造」を有するものとしたことにより、重合体を「架橋剤」処理した架橋構造のものに比し、より十分な性能発現のものとすることができるという、各引用例及び技術水準から予期し得ぬ格別の効果を奏するものということができる。
以上のことから、引用発明の架橋構造の導入方法について、重合体を「架橋剤」処理して導入されたものとすることに代え、「架橋性モノマーを共重合すること」によって導入されたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)本願発明1についてのまとめ
以上のとおり、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を適用することは、引用例1~4の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできないから、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用例1~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)本願発明2~10について
本願発明2~10は、本願発明1を引用し、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、引用発明及び引用例1~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
2 理由2(特許法第36条第6項第2号)について
平成30年2月20日付けの手続補正により、請求項5~10に係る発明は、「樹脂製品」の発明ではないことが明確となった。
第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-002356