特許拒絶査定不服審判
2018-001599
流体の流れを変える装置
- 審判番号
- 2018-001599
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-021732
- 請求日
- 2018年01月18日
- 審決日
- 2020年01月14日
- 公報発行日
- 2020年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】森本 敏雄
- 【請求人】五十嵐 秀雄
- 【請求人】森本 幸一
- 【請求人】五十嵐 成子
- 【請求人】森本 陽司
- 審判長/審判官
- 審判長 島田 信一
- 審判官 出口 昌哉
- 審判官 岡▲さき▼ 潤
- 分類
- P18 .561-WZ (B62D) / P18 .575-WZ (B62D) / P18 .55 -WZ (B62D) / P18 .537-WZ (B62D) / P18 .536-WZ (B62D) / P18 .113-WZ (B62D) / P18 .121-WZ (B62D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-21732号「流体の流れを変える装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月30日出願公開、特開2015-137093号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月21日の出願であって、平成29年4月6日付けで拒絶理由が通知され、同年7月27日付け(受付日7月28日)で意見書及び手続補正書が提出され、同年9月22日付けで拒絶査定がされ、平成30年1月18日に拒絶査定不服審判が請求され、その後当審において、平成31年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年3月22日付け(受付日3月26日)で意見書及び手続補正書が提出され、令和1年5月20日付けで拒絶理由(最後;以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月30日付け(受付日7月31日)で意見書が提出され、同年8月3日付け(受付日8月6日)で手続補正書が提出されたものである。
第2 令和1年8月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年8月3日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和1年8月3日付けの手続補正(以下「本件補正1」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前の請求項1
「 【請求項1】
複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体で、何れもこれらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じあらゆる方向にばらばらになって分散して出る装置である。
この装置に流体が入りますと流体は装置内でベルヌーイの法則により減圧を発生します。次に当該装置を界して装置の外の大気圧と装置内の減圧した流体(以下「減圧空気」と言います)との気圧差により気圧の高い大気圧が気圧の低い減圧空気を装置内から押し出すので装置内は大気圧で充満します。従って装置の内外と車は全く同じ大気圧で覆われたことになりますので他には何も障害物はありません。障害物が無くなれば車は慣性で走りますので走行中の燃費は大部分不要となりスピードはUPします。
この補正は出願当初の明細書の段落「0016」「0017」に基ずくものですので新規事項の追加をしておりません。これに対し「引用発明1・2及び3」は「流体が流れると減圧を生ずる」ことの記載はありませんので技術分野の機能に大きな違いがあります。」
(2)補正後の請求項1
「 【請求項1】
複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体でどの面から流体が入っても分散して流れ出て何れもこれらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ、あらゆる方向にばらばらになって分散して出る装置」
2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無について
ア
本件補正1により補正された特許請求の範囲は、「物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」(以下「事項A」ともいう。)という事項を含むものである。
そこで、この補正が、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」といい、特許請求の範囲及び図面を併せて「当初明細書等」という。)、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるか否か、すなわち、「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである」か否か(参考判決:知財高裁 平成20年5月30日特別部判決 平成18年(行ケ)第10563号)について、以下検討する。
イ
事項Aは、以下に述べるとおり、当初明細書等に記載されていないし、それらの記載から自明な事項であるともいえない。
(ア)
審判請求書及び各意見書等の記載を総合すると(詳細については、後述の「(2)ウ」を参照)、事項Aすなわち「物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」という事項は、「複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体」内で「減圧を生じ」ることを、意味しているといえる。
(イ)
当初明細書等の段落【0016】に「流体(以下空気と云います)が流れると減圧を生じ、その減圧に回りのものが引き込まれます。これは列車が時速50Kmで走っているとそのすぐそばにいる人を約8Kgの力で引き込むことで分かります。」と記載されているが、これは、従来技術の説明であり、特許請求の範囲に記載された特定の構成を備える装置に関する説明とはいえない。したがって、事項Aすなわち「物体」内で「減圧を生じ」ることを説明しているとはいえない。
また、当初明細書等の段落【0017】には、「自動車に対する空気抵抗を図1により説明すると、2は正面の空気の抵抗で3、4、5は空気の流れで生ずる減圧の力で、これらの合計が空気抵抗となり自動車の走る方向と反対の方向に働きます。この空気抵抗は摩擦による空気抵抗と別のものです。」と記載されているが、「減圧の力」は、以下の「(2)」で述べるとおり、定義が不明であるし、それを措くとしても、「減圧の力」は、自動車の側面、下面、後方で生じるものであるから、事項Aすなわち「物体」内で「減圧を生じ」るものと理解することはできない。
さらに、当初明細書等の段落【0019】には、「前項[0018]で流れ出る空気の量は、多方面に分散しているため個々の量は入った量に対して非常に少なくなっていると共に、方向もバラバラである。このため空気の流れによる減圧の力は、それぞれの出口で非常に少なくなっているので全体の力も非常に少なくなります。」と記載されているが、この記載の「それぞれの出口」が、物体内であるのか物体外であるのかは不明であり、「物体内で」「減圧を発生する」ものと理解することはできない。
(ウ)
このように、「物体」内で「減圧を生じ」る事項すなわち事項Aである「物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」る事項は、当初明細書等に記載されていないし、それらの記載から自明な事項であるともいえない。
ウ
したがって、事項Aを含む本件補正1は、「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである」とはいえず、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
よって、本件補正1は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない
(2)独立特許要件について
仮に、本件補正1が、上記(1)には該当せず、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であって、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであった場合、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、念のため以下に検討する。
ア
本件補正発明は、「複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体」(以下「構成A」ともいう。)及び「これらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」(以下「構成B」ともいう。)という構成を含む「装置」である。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明等を参照しても、構成Bの「減圧」に関連すると考えられる「減圧の力」は定義が不明であり、さらに、構成Aを前提とする構成Bの機序は不明であり、「流体の流れに起因する抵抗(例えば自動車の場合は空気抵抗)を低減することができる」(段落【0002】)、「流体の流れに起因する抵抗を低減する装置を取り付けることにより、動く物体の燃費を改善すると共にスピードアップ、安定化を実現することができる」(段落【0003】)及び「自動車、船舶等の燃費を向上し、インフラの劣化防止を図る」(段落【0013】)という、本願の課題を解決できるとはいえず、当業者であっても、本件補正発明を実施することはできない。
以下に補足して説明する。
イ
本願の発明の詳細な説明の段落【0017】には、「自動車に対する空気抵抗を図1により説明すると、2は正面の空気の抵抗で3、4、5は空気の流れで生ずる減圧の力で、これらの合計が空気抵抗となり自動車の走る方向と反対の方向に働きます。」と記載されている。
この記載に関して、図1において「3、4、5」で示される「空気の流れで生ずる減圧の力」が、どのようにして発生するのか、そのメカニズムが不明である。
また、これら「減圧の力」は、それぞれ、厳密にどの位置のどの方向の力を示すのか不明であるし、それら「減圧の力」と、図1において「2」で示される「正面の空気の抵抗」との合計が、なぜ、「空気抵抗となり自動車の走る方向と反対の方向に働」くようになるのか、不明である。
また、発明の詳細な説明の段落【0019】には、「前項[0018]で流れ出る空気の量は、多方面に分散しているため個々の量は入った量に対して非常に少なくなっていると共に、方向もバラバラである。このため空気の流れによる減圧の力は、それぞれの出口で非常に少なくなっているので全体の力も非常に少なくなります。」と記載されている。
この記載に関して、「方向」が「バラバラである」と、どうして「空気の流れによる減圧の力」が「それぞれの出口で非常に少なく」なり、それにより「全体の力も非常に少なくな」るのか、そのメカニズが不明であるし、「全体の力」は、何の全体の力であるのかも不明である。
したがって、「減圧の力」は、どのような力を意味するのか不明であり、「減圧の力」の定義は不明である。
ウ
発明の詳細な説明を参照しても、構成Bの「減圧」は、どの部分の圧力に比べてどの部分の圧力が「減圧」しているのか不明であるが、補正前の請求項1の「装置の外の大気圧と装置内の減圧した流体(以下「減圧空気」と言います)との気圧差」という記載、審判請求書の「ネットの中の減圧の空気の層(d)に対してその周りの気圧の高い大気の層(C)」(【請求の理由】の「4・ 本願発明が特許されるべき理由」の▲12▼を参照)という記載、平成31年3月22日付けの意見書の「ネットの中は減圧の空気(d)で充満します。するとネットを境にしてネットの外は大気圧が接触しネットの中は減圧の空気が接触するので気圧差を生じます。」(【意見の内容】の4の(5-5)を参照)という記載、及び、令和1年7月30日付けの意見書の「この装置の機能即ち『装置の中で空気が流れると乱流して渦を発生して減圧を生ずる機能』のことであります。」(【意見の内容】の5を参照)という記載等を総合すると、「減圧」は、「複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体」内、で生じ、しかも、大気圧よりも低い圧力になるものと一応解される。
このように、物体内で減圧するためには、物体内の流れが物体の前方の流れよりも速くなる等の減圧に必要な諸条件が必要になると考えられるが、構成Aすなわち「複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体」は、その重ね方、多数の穴の開け方、寸法、材質などにより、内部の流路が異なったものとなるから、その諸条件を満たす具体的な流路の構造を特定することはできず、構成Aだけで、減圧に必要な諸条件が得られるとはいえない。
そして、その諸条件を満たす具体的な流路の構造は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、当該記載を参照しても、当業者が実施できるとはいえない。
また、同様に、構成Aである「装置の中で空気が流れると乱流して渦を発生して減圧を生ずる」(上記の令和1年7月30日付けの意見書)ための諸条件が得られる具体的な流路も不明である上に、構成Aの中の流路で「乱流すると渦を巻いて減圧を生ずる」という論理は、技術的に理解することができない。
さらに、本願の発明の詳細な説明、上記各意見書及び審判請求書にも、装置内の具体的な流路の構造や、具体的にその流路の定まった位置で圧力を計測し、その計測結果を具体的な数値で示した実験データ等は記載されていない。
したがって、本件補正発明の「減圧」に係るメカニズムは不明であり、物体内で減圧して、物体内を大気圧よりも低い圧力にすることは、本願の発明の詳細な説明の記載を参照しても、当業者が実施できるとはいえない。
エ
そして、仮に、構成Aにより構成Bが得られ、物体内で大気圧よりも低く減圧できたとしても、それによって、どのようにして、「流体の流れに起因する抵抗(例えば自動車の場合は空気抵抗)を低減することができる」のか不明である。
高圧部分から低圧部分に流体が移動することは、技術常識であるところ、本件補正1前の請求項1に記載のように、「気圧差により気圧の高い大気圧が気圧の低い減圧空気を装置内から押し出す」ということは、この技術常識と矛盾するものであり、さらに、そのようにできたとしても、本件補正発明の装置を装着した車両が走行すれば、何らかの空気抵抗が生ずることは明らかであり、「止まっている時と同じ状態(空気抵抗のない状態と同じ)」(審判請求書の【請求の理由】の「4・ 本願発明が特許されるべき理由」の▲12▼を参照)にして、「空気抵抗を低減することができる」(本願の課題を解決できる)とはいえない。
さらに、仮に、上記「減圧」によって何らかの抵抗抑制の作用効果が得られるとしても、車両の屋根の上などに、構成Aすなわち「複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体」を設ければ、設けない場合に比べて、空気抵抗が増加すること(特に当該物体の前端部分などで空気抵抗が増加するといえる。)、及び、当該物体内に空気が流れる際の摩擦抵抗が増加することは技術的に明らかであり、総合的には空気抵抗及び摩擦抵抗が増加し、本願の課題(特に段落【0002】、【0003】及び【0013】等)は、解決できなくなるといえる。
オ
上記イ~エのとおりであり、この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものではない。
3 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正1は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていないものであり、又は、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものではなく、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
令和1年8月3日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は、平成31年3月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、前記「第2[理由] 1(1)補正前の請求項1」に記載されたとおりのものである。
第4 当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
[理由1]
平成31年3月22日付け(同年同月26日受付)でした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由3]
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
[理由4]
この出願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由5]
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由6]
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 当審の判断
第5の1 理由1について
1
平成31年3月22日付けでした手続補正は、特許請求の範囲を、
「 【請求項1】
複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体で、何れもこれらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じあらゆる方向にばらばらになって分散して出る装置である。
この装置に流体が入りますと流体は装置内でベルヌーイの法則により減圧を発生します。次に当該装置を界して装置の外の大気圧と装置内の減圧した流体(以下「減圧空気」と言います)との気圧差により気圧の高い大気圧が気圧の低い減圧空気を装置内から押し出すので装置内は大気圧で充満します。従って装置の内外と車は全く同じ大気圧で覆われたことになりますので他には何も障害物はありません。障害物が無くなれば車は慣性で走りますので走行中の燃費は大部分不要となりスピードはUPします。
この補正は出願当初の明細書の段落「0016」「0017」に基ずくものですので新規事項の追加をしておりません。これに対し「引用発明1・2及び3」は『流体が流れると減圧を生ずる』ことの記載はありませんので技術分野の機能に大きな違いがあります。」(以下「事項B」ともいう。下線は、当審が加筆した。)と補正したものである。
そこで、この補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえるか否か、すなわち、「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである」か否かについて、以下検討する。
2
事項Bは、「これらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」という事項すなわち事項Aを含むものであり、事項Aについては、上記第2 2(1)で述べたとおり、当初明細書等に記載されていないし、それらの記載から自明な事項であるともいえず、当該事項Aを含む事項Bについても、同様のことがいえる。
さらに、事項Bの「装置の外の大気圧と装置内の減圧した流体(以下「減圧空気」と言います)との気圧差により気圧の高い大気圧が気圧の低い減圧空気を装置内から押し出す」という事項や「装置の内外と車は全く同じ大気圧で覆われたことになりますので他には何も障害物はありません」という事項は、当初明細書等に記載されていないし、それらの記載から自明な事項であるともいえない。
3
したがって、平成31年3月22日付けでした手続補正は、「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである」とはいえず、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
第5の2 理由2について
上記第5の1のとおりであり、事項Bにおける事項A等が、発明の詳細な説明に記載されていないことは、明らかである。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
第5の3 理由3について
1
請求項1(事項B)の記載は、句点で区切られた文章(節)同士の関係が、不明であり、全体として構成を特定することができない。
2
請求項1(事項B)には、「複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体で、何れもこれらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」と記載されているが、「複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体」の具体的な流路の構造を特定することはできず、なぜ、「これらの中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」るのか不明である。
また、このように、流路の具体的な構造が特定されておらず、流路の各位置における具体的な圧力や流速が何ら示されていないものについて、なぜベルヌ-イの法則を採用し得るのか、不明である。
3
請求項1(事項B)には、「装置の外の大気圧と装置内の減圧した流体(以下『減圧空気』と言います)との気圧差により気圧の高い大気圧が気圧の低い減圧空気を装置内から押し出す」と記載されている。
この記載に関して、装置(すなわち複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体)内の減圧空気の圧力が、周囲の大気圧の圧力よりも低い場合は、装置内に空気を吸い込むものと理解でき、装置内の減圧空気の圧力が、周囲の大気圧の圧力よりも高い場合は、空気が装置内から外部に流出する、すなわち、その空気が「あらゆる方向にばらばらになって分散して出る」ことになると理解できる。
しかしながら、当該記載は、装置内の減圧空気の圧力が、周囲の大気圧の圧力よりも低い場合は、空気が装置内から外部に流出することを意味していると理解でき、前者及び後者のいずれの場合とも矛盾する記載であり、技術的に明確であるとはいえない。
そもそも、低圧の箇所(装置内)から高圧の箇所(大気圧)に空気が押し出される(移動する)ということは、技術的に理解することができず、原理が不明である。
4
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
第5の4 理由4について
1
事項Bの「複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体」という構成は、上記第2 2(2)アで述べた構成Aすなわち「複数のネットを重ねたり多数の穴のある複数の面を有することで立体的な形状に形成された物体」という構成と実質的に同じ構成であり、事項Bの「これらの物体の中に流体が通過する時に、その流体が減圧を生じ」という構成は、上記第2 2(2)アで述べた構成Bであるから、事項Bは、実質的に、構成A及び構成Bを含んでいる。
したがって、上記第2 2(2)で述べたことと同様のことがいえる。
要は、事項Bの「複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体」という構成だけで、「装置内の減圧した流体」すなわち「減圧空気」を得るために必要な諸条件が得られるとはいえず、その諸条件を満たす具体的な流路の構造は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、当該記載を参照しても、当業者が実施できるとはいえない。
2
また、事項Bの「装置の外の大気圧と装置内の減圧した流体(以下『減圧空気』と言います)との気圧差により気圧の高い大気圧が気圧の低い減圧空気を装置内から押し出す」ことは、上記第5の3 3で述べたとおり、原理が不明であり、本願の発明の詳細な説明に記載を参照しても、当業者が実施できるとはいえない。
3
さらに、仮に、上記「減圧空気」よって何らかの抵抗抑制の作用効果が得られるとしても、車両の屋根の上などに、「複数のネットを重ねたり、丸めたりした物体、又は多数の孔を有した物体」を設ければ、設けない場合に比べて、空気抵抗が増加すること(特に当該物体の前端部分などで空気抵抗が増加するといえる。)、及び、当該物体内に空気が流れる際の摩擦抵抗が増加することは明らかであり、総合的には空気抵抗及び摩擦抵抗が増加し、本願の課題(特に段落【0002】及び【0003】等)は、解決できなくなるといえる。
4
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
第5の5 理由5及び理由6について
1 本願発明
上記「第5の3 理由3について」で述べたとおり、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、明確でないが、実質的には、平成31年3月22日付けでした手続補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項と同様の発明特定事項であり、すなわち、平成29年7月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認めて、理由5及び理由6について検討する。
「 【請求項1】
複数のネットを重ねたもの、ネットを丸めたもの、又は多数の孔を有した物体で、何れも流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」
2 引用文献等
1:特開平5-141218号公報
2:特開2003-219506号公報
3:特開平5-97082号公報
以下それぞれ「引用文献1、2及び3」という。
(1)引用文献1について
段落【0017】~【0019】及び図2、6等を参照すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明1]
「触媒を担持した網目状金属板を比較的密に巻回して円柱状に形成したフィルタエレメント1で、排気ガスの流れを変え、排気ガスの流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにするフィルタエレメント1」
(2)引用文献2について
段落【0004】~【0006】、【0031】及び図1~4等を参照し、図1の左側のメッシュカバー3に着目すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明2]
「前面メッシュ3aと後面メッシュ3bとを備えるメッシュカバー3で、対向気流10の前面メッシュ3aを通過した通過気流は、中速渦流11となり、この中速渦流11はさらに後面メッシュ3bを分散通過することにより、さらなる勢力の減衰、低速化、およびカルマン渦のさらなる微細化を図った低速渦流12となる、メッシュカバー3」
(3)引用文献3について
段落【0001】~【0005】、【0009】~【0011】及び図1~5等を参照すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明3]
「全体に多数の通気孔20が内外(表裏)へ貫通して穿設され、全体が概略メッシュ状を呈しているフェアリング2及びリヤカウル10で、走行風が多数の通気孔20を通過するフェアリング2及びリヤカウル10」
3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明1との対比・判断
ア
(ア)
引用発明1の「網目状金属板」は、本願発明の「ネット」に相当するから、引用発明1の「触媒を担持した網目状金属板を比較的密に巻回して円柱状に形成したフィルタエレメント1」は、本願発明の「ネットを丸めたもの」に相当する。
(イ)
引用発明1の「排気ガス」は、本願発明の「流体」に相当する。
(ウ)
引用発明1の「フィルタエレメント1」は、本願発明の「装置」に相当する。
イ
したがって、引用発明1は、「ネットを丸めたもので、流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」であり、本願発明と引用発明1とは、「複数のネットを重ねたもの、ネットを丸めたもの、又は多数の孔を有した物体で、何れも流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本願発明は引用発明1である。
ウ
また、仮に実質的な相違点が存在するとしても、当該相違点は当業者が適宜になし得たものにすぎない。
(2)本願発明と引用発明2との対比・判断
ア
(ア)
引用発明2の「前面メッシュ3a」及び「後面メッシュ3b」は、それぞれ、本願発明の「ネット」に相当する。
引用発明2において、「対向気流10の前面メッシュ3aを通過した通過気流は、中速渦流11となり、この中速渦流11はさらに後面メッシュ3bを分散通過する」ことから、「前面メッシュ3a」と「後面メッシュ3b」とは、「通過」方向で、重なっているといえる(図1等も参照)。
したがって、対向気流10の流れる方向に限れば、引用発明2の「前面メッシュ3aと後面メッシュ3bとを備えるメッシュカバー3」は、本願発明の「複数のネットを重ねたもの」に相当するといえる。
(イ)
引用発明2「低速渦流12」は、「カルマン渦のさらなる微細化を図った」ものであり、「対向気流10」の流れを変え、「対向気流10」の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにしたものといえる(図1も参照)。
引用発明2の「対向気流10」は、本願発明の「流体」に相当する。
引用発明2の「メッシュカバー3」は、本願発明の「装置」に相当する。
これらのことを踏まえると、引用発明2の「対向気流10の前面メッシュ3aを通過した通過気流は、中速渦流11となり、この中速渦流11はさらに後面メッシュ3bを分散通過することにより、さらなる勢力の減衰、低速化、およびカルマン渦のさらなる微細化を図った低速渦流12となる、メッシュカバー3」は、本願発明の「流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」に相当する。
イ
したがって、引用発明2は、「複数のネットを重ねたもので、流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」であり、本願発明と引用発明2とは、「複数のネットを重ねたもの、ネットを丸めたもの、又は多数の孔を有した物体で、何れも流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本願発明は引用発明2である。
ウ
また、仮に、引用発明2において、「前面メッシュ3a」と「後面メッシュ3b」とが重なっているとはいえず、実質的な相違点が存在するとしても、網目の大きさ等を調整するために、メッシュ同士を重ねることは、当業者であれば適宜になし得ることであり、引用発明2の「前面メッシュ3a」及び「後面メッシュ3b」のそれぞれを、メッシュ同士を重ねる構成として、上記の実質的な相違点に係る本願発明の構成を想到することは、当業者が容易になし得たといえる。
したがって、本願発明は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本願発明と引用発明3との対比・判断
ア
(ア)
引用発明3の「フェアリング2及びリヤカウル10」は、本願発明の「物体」に相当するから、引用発明3の「全体に多数の通気孔20が内外(表裏)へ貫通して穿設され、全体が概略メッシュ状を呈しているフェアリング2及びリヤカウル10」は、本願発明の「多数の孔を有した物体」に相当する。
(イ)
引用発明3の「フェアリング2及びリヤカウル10」は、湾曲構造となっていることが技術常識であり、湾曲部分では多数の通気孔20が異なる方向を向いており、その湾曲部分の方向が異なる多数の通気孔20を走行風が通過するといえるから、引用発明3では、走行風の流れを変え、走行風の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにしていることが明らかである(特に図2を参照)。
引用発明3の「走行風」は、本願発明の「流体」に相当する。
引用発明3の「フェアリング2及びリヤカウル10」は、本願発明の「装置」にも相当する。
これらのことを踏まえると、引用発明3の「走行風が多数の通気孔20を通過するフェアリング2及びリヤカウル10」は、本願発明の「多数の孔を有した物体で、流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」に相当する。
イ
したがって、引用発明3は、「多数の孔を有した物体で、流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」であり、本願発明と引用発明3とは、「複数のネットを重ねたもの、ネットを丸めたもの、又は多数の孔を有した物体で、何れも流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする装置」で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本願発明は引用発明3である。
ウ
仮に、引用発明3において、「流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする」構成を特定することができず、実質的に相違点が存在するとしても、引用発明3の「走行風が多数の通気孔20を通過する」構成のそれぞれの通気孔20に関して、通気孔20を長円形状にするとともに、その長軸方向を左右方向、上下方向、前方斜め下がり、後方斜め下がり等と任意の向きに配列させるなどして、それぞれの通気孔20を通過する走行風に指向性を持たせることで(段落【0011】及び図5等を参照)、上記の実質的な相違点に係る本願発明の「流体の流れを変え、流体の流れを分散し、流れ出る方向をバラバラにする」構成を想到することは、当業者が容易になし得たといえる。
したがって、本願発明は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)
なお、本願発明と各引用発明については、以下のこともいえる。
ア
本願発明が、実質的に「減圧空気」が得られる構造のものであり、その記載がいずれの引用発明にも無い旨主張したとしても、各引用発明は、本願と同様の構成を備えているから、同様に「減圧空気」が得られるといえる。
イ
また、動く物体(例えば電車や自動二輪)が移動する際に、その物体の特定の部分(例えば、パンタグラフやフェアリングなど、その形状のために風圧を受けやすい部分)が風圧を受けて、抵抗が高まることを防止するために、その風圧を受ける特定の部分に衝突する空気の圧力を減少させるように、「複数のネットを重ねたもの、ネットを丸めたもの、又は多数の孔を有した物体」の構成を採用すること、すなわち、当該構成を採用する前に比べて、その部分に対する風圧が減少することが、本願の「減圧空気」を意味しているというのであれば、同様の構成は、引用発明2及び3も備えているといえる(引用発明2は、メッシュカバーによって、パンタグラフが受ける風圧が減少され、引用発明3は、通気孔により、フェアリングが受ける風圧が全体として減少され、いずれも走行抵抗が減少されるといえる。)。
第5の6 小括
したがって、平成31年3月22日付けの手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、本願の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本願の特許請求の範囲の記載は明確でなく、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
さらに、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、また、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、平成31年3月22日付けの手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-001599