特許拒絶査定不服審判
2017-009748
パン類、菓子類、ドーナツ類、パイ類、中華皮類の品質改良剤
- 審判番号
- 2017-009748
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-510140
- 請求日
- 2017年07月03日
- 審決日
- 2018年06月18日
- 公報発行日
- 2018年09月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オリエンタル酵母工業株式会社
- 【請求人代理人】廣田 浩一
- 【請求人代理人】流 良広
- 【請求人代理人】松田 奈緒子
- 【請求人代理人】山下 武志
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 紀本 孝
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P18 .121-Z (A21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-510140号「パン類、菓子類、ドーナツ類、パイ類、中華皮類の品質改良剤」拒絶査定不服審判事件〔2013年10月17日国際公開、WO2013/154030〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月4日(優先権主張 平成24年4月13日)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年8月5日付けの拒絶理由通知書に対して平成28年10月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年3月29日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年4月4日)、これに対して平成29年7月3日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出されたものである。
2.本願発明
特許請求の範囲の請求項6の記載は、平成29年7月3日に提出された手続補正書により補正された次のとおりであり、以下、この請求項6に記載された発明を「本願発明」という。
「【請求項6】
グリシン、及び、5炭糖及び/又は6炭糖を、前記5炭糖及び/又は6炭糖が前記グリシンの2倍量の組成比としてなるように生地に均一に練り込むことを特徴とする、パン類、又は、菓子類、又は、ドーナツ類、又は、パイ類、又は、中華皮類の製造方法。」
3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-11に係る発明は、その出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
記
引用文献1.Cereal Chem.,1963年,Vol. 40,p. 658-665
4.引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、以下の記載がある(括弧内に当審訳を示す。)。
ア.「EFFECTS OF SUGARS AND CERTAIN FREE AMINO ACIDS ON BREAD CHARACTERISTICS」(658頁1行~2行)
(糖類と特定の遊離アミノ酸のパンの特性に与える効果)
イ.「 Materials and Methods
Untreated flour, used for the experimental baking tests, was experimentally milled from a composite grist of several hard winter wheat varieties grown at a number of locations throughout the Great Plains in 1961 or 1962.」(659頁14行~18行)
( 材料と方法
実験的なべイキングテストのために使われる処理されていない小麦粉は、1961年あるいは1962年にグレイトプレ-ンの多くの場所で栽培された幾つかの硬い冬小麦の品種を複合した穀粉から実験的に製粉されたものである。)
ウ.「Baking properties of the two composite flours were determined by employing a formula which included, in addition to the basic formula, 4 g. sucrose, 0.25 g. 120°L malt syrup, 4 g. nonfat dry milk, and 3 mg. potassium bromate. The basic formula applied in the sugar and amino acid studies included 100 g. flour, 2 g. sucrose, 1.5 g. salt, 3g, shortening, 2g. yeast, 1.5 mg. potassium bromate (optimum), and water as needed. An optimum mixing time with the straight-dough procedure and a 3-hr, fermentation at 30°C. were employed. Punching and panning were performed mechanically. Baking time was 24 min. at 218°. Bakings were replicated at least twice. A third replicate was made when loaf volumes differed more than 25 cc. Data for all replicates were averaged. 」(659頁下から15行~3行)
(2種類を複合した小麦粉のべーキング特性が、基本的な組成に加えて、スクロース4g、120°Lの麦芽水飴0.25g、脱脂粉乳4g、臭素酸カリウム3mgを含んだ組成を用いることで、決められた。糖類とアミノ酸の研究に用いられる基本的な組成は、小麦粉100g、スクロース2g、塩1.5g、ショートニング3g、イースト2g、臭素酸カリウム1.5mg(最適条件)と必要な量の水を含んでいた。 直捏工程で最適となる混合時間と30℃での3時間の発酵時間が採用された。パンチングとパニングは機械を用いて実行された。ベーキング時間は、218°で24分間であった。ベーキングは、最低二度繰り返された。三度目の繰り返しは、ローフ・ボリュームが25cc以上異なるときに行われた。繰り返しによるデータは、すべて平均値化された。)
エ.「Crumb and crust colors were measured with a Photovolt Reflectometer, Model 610, equipped with a green filter; the higher the reading, the less the color. 」(659頁末行~660頁2行)
(クラムとクラストの色が、緑のフィルターが付いたPhotovolt Reflectometer、モデル610で計測された。その読み取り値が高いほど色が薄いことになる。)
オ.「The data in TableIshow the results for bread containing various levels of amino acids with xylose, sucrose, and galactose. 」(660頁7行~下から8行)
(表Iは、様々なレベルのアミノ酸とキシロース、スクロース及びガラクトースを含んでいるパン類についてのデータを示している。)
カ.「On a weight basis, glycine imparted a deeper color to bread crusts than did lysine. ・・・・・・High concentrations (0.8 g.) of added free amino acids resulted in darkening of crust color accompanied by a decrease in loaf volume. No clear-cut differences in crumb color could be attributed to added amino acids or sugars. 」(661頁5行~15行)
(重量ベースでみて、グリシンは、リジンよりもパン類のクラストに深い色を付けた。・・・・・・高濃度(0.8g)の遊離アミノ酸を加えることで、ローフ・ボリュームを減じつつクラストの色を暗くする結果が得られた。クラムの色については、アミノ酸又は糖類により何ら明らかな違いは見られなかった。)
キ.「Varying the concentration of the three types of sugars and employing a uniform addition of amino acids (0.2 g.) at a 1.5-mg. bromate level gave the results shown in Table II.」(661頁16行~18行)
(1.5mgレベルの臭素酸の下で、アミノ酸(0.2g)を一定量で添加しつつ3つのタイプの糖類の濃度を変えることにより、表IIに示される結果が得られた。)
ク.「Adding 0.2 g. amino acid to the basic formula caused loaf volume with lysine to decrease from 711 to 687 and that with glycine from 711 to 650; that with glutamic acid increased from 711 to 740 cc. Changes resulting from increased sugar levels depended on the type of sugar added. Sucrose improved the quality and size of the loaf because of its contribution as a readily fermentable sugar; xylose was most detrimental; galactose gave intermediate results. The results of crumb and crust color determinations paralleled those recorded in TableI.」(662頁1行~8行)
(基本組成にアミノ酸を0.2g添加すると、ローフ・ボリュームは、リジンでは711ccから687ccに減じ、グリシンでは711ccから650ccに減じ、グルタミン酸では711ccから740ccに増えた。糖類のレベルを増やした場合の変化は、添加される糖類の種類に依存した。スクロースは、発酵しやすい糖類であるがために、ローフの質とサイズを改善した。キシロースの結果が最も良くなかった。ガラクトースが中間の結果であった。クラムとクラストの色の決定は、表Iに記録されたものと同様であった。)
ケ.「All three pentoses tested imparted a dark brown color to the bread crust. 」(664頁22行~23行)
(試された3種類の五炭糖全てがパン類のクラストに濃い褐色の色を付けた。)
コ.「Adding glycine resulted in a consistent and pronounced decrease in loaf volume accompanied by enhanced crust coloration.」(664頁36行~38行)
(グリシンを加えると、クラストの色づけを増しつつ、一貫してはっきりとローフ・ボリュームが減ずる結果となった。)
サ.「Adding certain amino acids (0.0026 g. moles per 100 g. of flour) along with sugars augmented the effects of each separately on loaf volume or crust color.」(658頁21行~23行)
(特定のアミノ酸(小麦粉100g当たり0.0026gモル)を糖類とともに添加すると、ローフ・ボリュームあるいはクラストの色に対するそれぞれの効果を別々に増大させた。)
シ.表Iの記載は以下のとおりである。
ス.表IIの記載は以下のとおりである。
(2)引用発明
引用文献1の記載事項全般から、グリシン等のアミノ酸とキシロース、グルコース等の糖類を特定の組成比となるように生地に添加してパン類を製造したことが把握される。
アミノ酸としてグリシンを採用するとパン類のクラストに濃い色が付与されるとの認識が示されており(カ、コ参照)、グリシンを用いて具体的に製造したパン類として、グリシンを0.2gとしてキシロースを0.0g、0.5g、1.0g、2.0g、4.0gとしたもの及びグリシンを0.2gとしてガラクトースを0.0g、0.5g、1.0g、2.0g、4.0gとしたものが挙げられている(ス参照)。
そして、アミノ酸及び糖類の生地への添加は、生地に均一に練り込んで行われたものと解するのが自然である。
以上を踏まえると、引用文献1に以下の発明が記載されていると認めることができる(以下、この発明を「引用発明」という。)。
「グリシン、及び、キシロース又はガラクトースを、グリシン0.2gに対してキシロース又はガラクトースを0.5g、1.0g、2.0g又は4.0gの量の組成比となるように生地に均一に練り込む、パン類の製造方法。」
5.対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「キシロース」、「ガラクトース」は、それぞれ、本願発明の「5炭糖」、「6炭糖」に相当するから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
グリシン、及び、5炭糖又は6炭糖を生地に均一に練り込むパン類の製造方法。
<相違点>
グリシン及び5炭糖又は6炭糖の量に関し、本願発明は、「5炭糖及び/又は6炭糖が前記グリシンの2倍量の組成比としてなるように」と特定されているのに対して、引用発明は、グリシン0.2gに対して5炭糖又は6炭糖を0.5g、1.0g、2.0g又は4.0gの量とした点。
6.判断
上記相違点について検討する。
引用文献1には、グリシンを用いて具体的に製造したパン類として、グリシン0.2gに対して、キシロース又はガラクトースを0.0g、0.5g、1.0g、2.0g、4.0gと濃度を変化させてパンを製造し、ローフ・ボリュームとクラストの色を検討したことが記載されている(キ、ク、ス参照)。
そうすると、引用文献1には、グリシンに対するキシロース又はガラクトースの比を様々に変化させてパンを製造する技術思想が開示されているといえ、グリシン0.2gに対して、キシロース又はガラクトースを0.0g及び0.5g添加する例が記載されているのであるから、グリシン0.2gに対して、キシロース又はガラクトースを0.4gとすること、すなわちグリシンの2倍量の組成比となるようにすることも、当業者が適宜になし得たことである。
そして、引用文献1の記載によれば、引用発明は、アミノ酸及び糖類を添加しないものに比べて、クラストの色が濃くなるのであるから、本願発明と同様の効果を奏するといえるとともに、本願発明において、5炭糖及び/又は6炭糖がグリシンの2倍量の組成比となるようにしたことに、格別の技術的意義は見出せない。
請求人は、審判請求書において、比較実験を行った結果を提示し、「焼成時間を28分に短縮した条件下において、5炭糖及び/又は6炭糖がグリシンの2倍量である本願の品質改良剤を用いたときは(図Aの▲(3))、焼成時間が短縮されたにも関わらず、基本条件である、焼成時間が35分のとき(図Aの●(1))と同様の焼き色を得ることができます。」等と主張する(3.(d)本願発明と引用発明との対比)。
しかし、これは、特定の実験条件下、すなわち、温度が220℃、時間が28分間という条件の下で焼成を実施した場合に、「2倍量」の組成比のものが無添加焼成35分のものとa価、b価が近接したものとなった、という事実を示すにとどまる。すなわち、焼成の条件としては、このようなもの以外の種々のものが採用できるところ、上記特定の実験条件から離れた焼成条件下でも請求人が主張するような効果が認められるものではない。基本配合を変更した場合も同様である。
よって、上記比較実験を参照しても、本願発明の効果が、引用発明の効果と比べて格別顕著であるとは認められない。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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