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特許拒絶査定不服審判

2017-002634

ミリセチンを有効成分として含む運動遂行能力の増強用または疲労回復用の組成物

審判番号
2017-002634
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2015-536673外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年02月23日
審決日
2017年11月13日
公報発行日
2017年12月28日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2015-536673「ミリセチンを有効成分として含む運動遂行能力の増強用または疲労回復用の組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日国際公開、WO2014/058160、平成27年12月10日国内公表、特表2015-535218、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、平成25年9月16日(パリ条約による優先権主張 2012年 10月11日(KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月25日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年6月29日付けで手続補正がされ、平成28年10月21日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年2月23日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 1.本願請求項1-6に係る発明は、引用文献1に記載の発明と発明特定事項において差異がなく、または同文献に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1には、うつ病関連疾患や慢性疲労といったN-アセチルトランスフェラーゼ関連疾患を対象とする薬学的組成物、及び情動安定性を保つための食品組成物としてのミリセチン含有組成物が開示されており、運動能力の増強用の組成物である点は明示されていないが、実施例で示される強制水泳試験の結果は運動遂行能力の増強を示すものといえる。 2.本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1、4に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 特に、引用文献4には、運動中の個体の筋肉パフォーマンスを増大させるためにフラバノール化合物であるクエルセチンを投与することが記載されており、クエルセチンに代えて、同じフラバノール化合物として同文献に例示されるミリセチンを用いて本願発明を導くことは当業者が容易になし得るものである。 引用文献等一覧 1.国際公開第2002/015901号(以下、「引用文献1」という。) 4.国際公開第2012/037023号(以下、「引用文献4」という。) 第3 本願発明 本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成29年2月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 ミリセチン(myricetin)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む運動遂行能力の増強用の薬学的組成物であって、 該運動遂行能力の増強は、筋力強化、バランス感覚の増進、及び/又は運動協調能力(exercise adaptation)の増進である、薬学的組成物。」 また、本願発明2は本願発明1の「薬学的組成物」を「食品組成物」に置き換えた発明であり、本願発明3-5は本願発明1,2のいずれかを減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている(訳文の作成、下線の付与は当審にて行った)。 (4a)「5.運動中の個体の筋肉パフォーマンスを増大させる方法であって、運動前の時点で個体に1種類以上のフラバノール化合物を投与すること、運動を行うこと、及び、より低い血中乳酸濃度を達成することを含む、方法。 6.前記1種類以上のフラバノール化合物は、クエルセチン、ルチン、イソクエルセチン、イソクエルセトリン、カンフェロール、ミリセチン又はイソラムネチン(当審注:原文では「isohamnetin」。「isorhamnetin」の誤記と認める)か、これらの硫酸塩、グルコロニド又はグリコシド抱合体形状かである、請求項5に記載の方法。」(特許請求の範囲) (4b)「本発明の目的は、クエルセチン投与により血中乳酸濃度を低下させることである。血中乳酸濃度を低下させることにより、高強度で肉体が活動できる時間を長くすることは、本発明のさらなる目的である。」(第3頁段落[007]) (4c)「さらに、その個体が運動を行うとき、同じ仕事出力でもクエルセチンを服用しないで運動する場合より血中乳酸濃度が低下して、これが、クエルセチンを服用しないでその個体が経験するよりも、疲労困憊するまでにより長い運動時間及びより多くの仕事出力をもたらすであろう。この局面によると、クエルセチン投与は、その個体の乳酸閾値又はその個体の最大乳酸定常値を増大させ、特定の肉体活動について疲労困憊までの時間が長くなることか、特定の距離を完走するための時間がより速くなることか、あるいは、特定の運動量を蓄積するための時間が短くなることによって測定される、運動耐性を改善する。・・・(略)・・・本実施態様の1つの局面によると、運動パフォーマンスを向上させる方法、すなわち、4ミリモルの血中乳酸濃度での仕事出力能力の増大は、運動トレーニング処方中の個体に特定の用法にしたがってクエルセチンを投与することにより提供される。さらに、その個体が運動を行うとき、血中乳酸濃度が低下し、これは、クエルセチン消費後により高強度の運動が最大乳酸定常値で達成できることによって、その個体が決まった距離をより速く移動できたり、特定量の仕事を蓄積するための時間を短くできることを意味する。・・・(略)・・・追加の局面によると、その個体が運動を行うとき、同じ仕事出力でもクエルセチンを服用しないで運動するときより血中乳酸濃度が低下して、疲労困憊までの運動時間が長くなり仕事出力が増大することにつながる。この局面によると、クエルセチンの服用は、その個体の乳酸閾値又は最大乳酸定常値を増大させ、特定の肉体活動について疲労困憊までの時間が長くなること、又は、決められた距離を移動したり特定量の仕事を蓄積するための時間が短くなることによって測定される運動耐性を改善する。」(第4-5頁、段落[008]) (4d)「本発明によると、培養中の電気刺激によるか、肉体運動によるかのような反復収縮を行う筋細胞は、乳酸又は乳酸塩を生成する。正常な安静状態の細胞中の濃度を超える細胞内での乳酸又は乳酸塩の蓄積は、筋肉の疲労困憊及び/又は筋細胞のパフォーマンスの低下をもたらす場合がある。本発明の1つの局面によると、乳酸又は乳酸塩の量か、細胞内濃度かを低下させるやり方でクエルセチンを投与されるとき、筋細胞は、収縮能力が向上する、すなわち、収縮能力が当該細胞の天然の能力を超えて向上するであろう。」(第5頁段落[009]) (4e)「本発明の方法は、個体の疲労困憊までの運動時間を長くすることにより、その個体の血中乳酸閾値又は最大乳酸定常値を増大させることによって、その個体の運動耐性か、強度の運動の許容量かを向上させること、及び、細胞内の乳酸の量又は濃度を低下させるやりかたか、ある仕事出力の運動中の個体の血中乳酸の量又は濃度を低下させるやりかたかでクエルセチンを投与することによって、決められた距離を移動するためにかかる時間を短くしたり、ある仕事出力について血中乳酸濃度を低下させることを含む。」(第6頁段落[011]) (4f)「筋細胞内の乳酸又は乳酸塩か、血中乳酸濃度かを下げることは、筋肉が疲労困憊する前、及び/又は、筋細胞不全がさらなる収縮を阻止又は低下する前に、継続して収縮できる能力を増大させる。したがって、一部の局面は、クエルセチンを筋細胞に投与して、これによりクエルセチンを投与しない対照筋細胞よりも筋細胞の収縮能を長続きさせることによって、該筋細胞の収縮能を増強することに向けられる。本発明の局面は、運動前にクエルセチンを投与して、運動中の血中乳酸濃度を低下させることにより、運動に関連する個体の筋肉の疲労困憊の進行を、防止するか、低減するか、そうでなければ、遅延させるかすることを含む。本発明の局面は、運動前にクエルセチンを投与して、運動中の血中乳酸濃度を低下させることにより筋肉の疲労困憊を低減することによって、個体の運動時間を長くするか、個体が特定の距離を移動するのに要する時間を短くするかすることも含む。本発明のなおさらなる局面は、運動前にクエルセチンを投与して、運動中の血中乳酸濃度を低下させることにより筋肉の疲労困憊を低減することによって、個体の運動パフォーマンスを増強することを含む。」(第7頁段落[012]) (4g)「一部の実施態様では、前記化合物は、クエルセチン、ルチン、イソクエルセチン、イソクエルセトリン、カンフェロール、ミリセチン又はイソラムネチン(isohamnetin)か、これらの硫酸塩、グルコロニド又はグリコシド抱合体形状かのようなフラバノールである。・・・(略)・・・そして培地中の乳酸濃度が測定され、化合物とのインキュベーションなしで収縮するように刺激された細胞からの乳酸濃度と比較される。乳酸濃度を低下させる前記候補化合物の能力が、他の候補化合物又は対照化合物の乳酸濃度を低下させる能力より高いか低いかとして評価される。このやりかたで、例えば個体で筋肉の疲労困憊低減、及び/又は、肉体パフォーマンス増強するある化合物の能力が、ある一定の仕事出力について個体の運動中の血中乳酸濃度低下及び/又は血中乳酸閾値の増大により決定される。」(第9頁段落[015]) (4h)「収縮中の筋細胞内の乳酸濃度を防止、減少、阻害、制限及び/又は低下させ、及び/又は、運動中の個体の血中乳酸濃度を防止、減少、阻害、制限及び/又は低下させる、本発明の範囲内の化合物は、クエルセチン、ルチン、イソクエルセチン、イソクエルセトリン、カンフェロール、ミリセチン又はイソラムネチン(isohamnetin)と、これらの硫酸、グルコロニド又はグリコシド抱合体形状とのようなフラバノールを含む。かかる化合物は、天然に存在する化合物と、これらの誘導体及び修飾体と、人工合成化合物とを含む。」(第11-12頁段落[026]) (4i)「特定の実施態様では、クエルセチンはスポーツ飲料その他の飲料に存在し、望ましい運動、肉体的活動又は運動イベントの最中に血中乳酸濃度を減少させ、筋肉及び/又は運動及び/又は肉体的活動及び/又は運動パフォーマンスを改善するために、望ましい運動、肉体的活動又は運動イベントの前の適切な日数にわたって適切な量で毎日摂取される。」(第15-16頁段落[031]) (4j)「本発明の方法によると、クエルセチンのような本発明の化合物は、収縮中の筋細胞中の乳酸の減少、及び/又は、運動中の個体の血中乳酸濃度の減少をする方法において、個体に送達される。本明細書に開示されるとおり投与されるとき、筋肉の疲労困憊の開始点を遅らせて、これにより、筋細胞収縮過程から生じる血中乳酸濃度の減少により運動パフォーマンスを改善する方法において、前記化合物は有用である。」(第38頁段落[076]) (4k)「 図1は、4ミリモル/Lの血中乳酸蓄積開始点(OBLA)を示す、血中乳酸濃度対VO2ピークの百分率のグラフである。データは、クエルセチンが投与されなかったときと対比して、クエルセチンが投与されたときは4ミリモルの血中乳酸濃度を達成するために必要な仕事出力が高くなり、最大乳酸定常値での仕事負荷を増大させたことを証明する。血中乳酸レベルと、運動強度の増大との間の関係も図1に示される。運動中は、最大努力の60%あたりまでは血中乳酸レベルは基線近くに止まり、その後初期上昇と、その後の最大強度近傍での指数的上昇とがあるのが正常である。最も耐久力のある選手については、4ミリモルの血中乳酸濃度をもたらす運動強度(いわゆる血中乳酸蓄積開始点又はOBLA)は、長時間の肉体的努力(例えば1時間)についての最高の持続可能な運動強度である。したがって、4ミリモルの血中乳酸を発生させる持続型運動の最中の仕事出力又は自転車をこぐ速度は、パフォーマンスの有効な予測指標である。例えば、4ミリモルの血中乳酸を発生させるための仕事出力又は自転車をこぐ速度が高いほど、その選手は約4ミリモルの血中乳酸応答をもたらす一定ペースでレースを終えるのが速いであろう。クエルセチン投与(1日あたり1000mg)の28日間の前と後とで持続型自転車競技者で行った乳酸閾値テストからの結果が図1に示され、クエルセチン補足後、4ミリモルの血中乳酸を発生させるのに必要な自転車運動の仕事出力は、有利な改善である、244Wから250Wまで6ワット(W)の増大がみられたことを強調する。例えば、自転車競技者が20kmのタイムトライアル中平均6Wの増大を持続できた場合には、当該自転車競技者はコースを約30秒速く完走するであろう。」(第43頁段落[085]) 以上の(4a)-(4k)より、要するに、引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。 「クエルセチンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む筋肉パフォーマンス増大用の薬学的組成物であって、 該筋肉パフォーマンスの増大は、血中乳酸濃度の低下に由来する疲労困憊の減少に基づくものである、薬学的組成物。」 2.引用文献1について また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(訳文の作成、下線の付与は当審にて行った)。 (1a)「1.セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性を阻害するためのミリセチン(5,7,3’,4’,5’-ペンタヒドロキシフラボノール)の使用。 ・・・(略)・・・ 3.ミリセチンの有効量を投与することを含む、哺乳類におけるセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性を阻害するための方法。 ・・・(略)・・・ 6.ミリセチンを活性成分として含む、セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ関連疾患の治療のための医薬組成物。 7.請求項6において、セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ関連疾患はうつ関連疾患、ストレス関連疾患、もしくは肥満である医薬組成物。 ・・・(略)・・・ 12.ミリセチンを活性成分として含む、感情の安定または抗肥満用の健康食品組成物。 (以下略)」(特許請求の範囲) (1b)「発明の分野 本発明はミリセチン(5,7,3’,4’,5’-ペンタヒドロキシフラボノール)がセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの効果的な阻害剤として働くという発見に関連し、ミリセチンを有効成分として含有するセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ関連疾患を治療するための薬学的組成物に関連する。 発明の背景 セロトニンとメラトニンは、うつの病理学的経路に関与する重要な神経伝達物質および神経ホルモンであって、・・・(略)・・・セロトニンはトリプトファンから合成され、セロトニンN-アセチルフェラーゼの作用によって、N-アセチルセロトニンに変わり、さらにヒドロキシインドール-O-メチルトランスフェラーゼによってメラトニンに変化する。・・・(略)・・・セロトニンは、うつ、不安、食欲、強迫観念、妄想、気分、覚醒、攻撃的気質、痛み、睡眠、学習、記憶、恐れの調節に関与し、メラトニンは、睡眠、気分、再生、癌の進行、老化に関与する。・・・(略)・・・」(第1頁3-23行) (1c)「本発明者達はセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの効果的な阻害剤を開発したものであって、ミリセチンが特にセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼに作用し、セロトニンN-トランスフェラーゼ活性関連疾患、特に睡眠障害、うつ、ストレス、肥満の治療に使用できることを見出したものである。」(第2頁28行-第3頁3行) (1d)「発明の概要 ・・・(略)・・・ この発明のさらなる目的は、例えばうつ、ストレス関連疾患、肥満といったセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ関連疾患の治療に用いることができる組成物を提供することである。・・・(略)・・・ミリセチンを活性成分として含むセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ阻害剤が提供される。」(第3頁8-13行) (1e)「明細書を通して、「セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ関連疾患」とは、セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性が正常より高いことにより引き起こされる疾患を意味し、・・・(略)・・・そのような疾患の例はうつ関連疾患、ストレス関連疾患、肥満を含む。 「うつ関連疾患」とは・・・(略)・・・そのような疾患の例は、季節性情動障害、月経前症候群、単極性うつ病、双極性うつ病、躁うつ病、非定型うつ病、うつ病関連睡眠障害を含む。 「ストレス関連疾患」とは・・・(略)・・・そのような疾患の例は、心的外傷後ストレス障害、突発性疼痛症候群や慢性疲労症候群のようなストレス関連の身体障害を含む。 「うつ病関連睡眠障害」とは・・・(略)・・・そのような疾患の例は、不眠症、過睡眠、睡眠時随伴症、睡眠異常、繊維筋痛症、時差ぼけ、交代勤務睡眠障害、睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群を含む。」(第4頁9-27行) (1f)「実施例1:ヤマモモの熱水抽出物によるセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性の阻害 ・・・(略)・・・結果は、ヤマモモ(Myrica rubra Siebold et Zuccarini cortex)抽出物の濃度の増加に応じてセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性の阻害が増大することを示した。・・・(略)」(第7頁20行-第8頁最終行) (1g)「実施例2:ミリセチンによるセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性の阻害 ・・・(略)・・・結果は、セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの活性はミリセチンによって濃度依存的に阻害されることを示した。 ・・・(略)・・・ 結果は、セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの活性はミリセチンでの処理時間の増加に従い、低減されることを表した。・・・(略)」(第9頁1-17行) (1h)「実施例3:ミリセチンの阻害メカニズム ・・・(略)・・・ 結果は、トリプタミンやアセチルCoAが共存しても、ミリセチンはセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの媒介する反応において非競合阻害剤として作用することを示した。」(第9頁19行-第10頁1行) (1i)「実施例4:強制水泳試験によるミリセチンの抗うつ効果の検討 ミリセチンの抗うつ効果を、標準化された行動断念試験であり、候補治療剤の抗うつ効果の測定に用いられる強制水泳試験を行うことによって計測した。 ・・・(略)・・・ミリセチンを投与された白ラットは対照に比べて無行動状態の時間が顕著に少なく、同時に水泳行動とクライミング行動で対照よりも活動的であった。このように、本結果よりミリセチンが効果的な抗うつ剤であることが示唆された。」(第10頁3-24行) 以上の(1a)-(1i)より、要するに、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「ミリセチンを有効成分として含む、セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼ活性を阻害するための薬学的組成物であって、 セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼに対する非競合阻害剤としての作用により、強制水泳試験において対照に比べ無行動時間が減少し活動的になる抗うつ効果を有する、薬学的組成物。」 第5 対比・判断 1-1.引用発明4を引用発明とする場合について (1)対比 本願発明1と引用発明4とを対比する。 引用発明4の「クエルセチン」は、本願発明の「ミリセチン」とは異なる構造を有する化合物であるが「フラバノール化合物」である点で共通する。 そうすると、本願発明1と引用発明4との間には、次の一致点、相違点が存在する。 (一致点) 「フラバノール化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む薬学的組成物。」 (相違点) (相違点1)薬学的組成物の用途が、本願発明1は「筋力強化、バランス感覚の増進、及び/又は運動協調能力(exercise adaptation)の増進」である「運動遂行能力の増強」であるのに対し、引用発明4では「血中乳酸濃度の低下に由来する疲労困憊の減少に基づく筋肉パフォーマンスの増大」である点。 (相違点2)「フラバノール化合物」が本願発明1ではミリセチンであるのに対し、引用発明4ではクエルセチンである点。 (2)相違点についての判断 上記相違点について検討する。 ア.相違点1について 本願発明1の「筋力強化、バランス感覚の増進、及び/又は運動協調能力(exercise adaptation)の増進」について、本願明細書には、次の記載がある(下線は当審で付した)。 (a)「実施例2:ミリセチンによるマウスの握力強化の効果測定 ・・・(略)・・・ 2-2.マウスの握力強化の効果測定 ミリセチンの筋肉最高力の変化を測定するために、対照群とミリセチン投与群の動物に握力テスト(Bioseb、France)を実施した。 【0036】 マウスの尾をつかんで、マウスが握力試験装置を握るようにした後、尾を後ろに引っ張る際に示される前足と後足の最大握力を測定した。握力は3回繰り返し測定した後、平均値を用いた。上記の実験結果は、実験群と対照群の集団ごとにt検定を実施して、その有意性を検証し、統計学的に有意な差があった(**p<0.005、****p<0.00005)。 【0037】 実験の結果、図2aおよび2bに示すように、ミリセチンの投与を受けた動物たちの最大筋力が増加されたことがわかった。このことから、本発明ミリセチンの摂取が筋力増進に大きく寄与することが確認できた。」(段落【0034】-【0037】) (b)「実施例3:ミリセチンによる感覚運動機能の効果測定 3-1.ミリセチン投与群及び陰性対照群の用意 ミリセチンがマウスの感覚運動機能に及ぼす効果を確認するために、8週齢のICRを(株)コアテック(KOATECH、韓国)から購入し、1週間の予備飼育した後、5匹ずつ2つのグループに分けた。実施例1と同様に実験動物を2つのグループに分けた後、一つ目のグループを陰性対照群に設定して、二つ目のグループは、ミリセチンを50mg/kgの濃度で2週間、毎日1mlを注射器を用いて経口投与した。 【0039】 運動協応 3-2.マウスの感覚運動機能の効果測定 ミリセチンが感覚運動機能に及ぼす効果を測定するために、対照群とミリセチン投与群の動物にロータロッド(Panlab&Harvard、Spain)を実施した。ロータロッド実験は、動物の運動協調(exercise adaptation)とバランスを測定するものである(Michel pratte et al.、Behavioural brain research 216:313-320、2011; Medina R.et al.、FEBS Lett.180(1):77-80、1985)。 マウスの尾をつかんでロータロッドに乗せた後、最初のスピードは4rpmから開始して30秒間隔で4rpmずつ上げて5分以内に40rpmまで至るようにしてマウスがロータロッドに留まる時間を測定した。総5回繰り返してロータロッドに最もとどまった時間を結果の値として用いた。上記の実験結果は、実験群と対照群の集団ごとにt検定を実施し、その有意性を検証し、統計学的に有意な差が見えた(** p <0.005)。 実験の結果、図3に示すように、ミリセチンの投与を受けた動物たちがロータロッドに長く滞在することができていることがわかった。したがって、上記の結果から、ミリセチンが運動協調とバランス感覚を増進させる効果があることが分かった。」(段落【0038】-【0039】) まず、本願発明1の「筋力強化」について見ると、上記(a)に摘記した実施例2は、マウスの握力に対するミリセチンの効果を調べるものであり、引っ張りに対して抵抗する瞬間的な握力の大きさを測定したこと、その値がミリセチン投与によって増大したことが記載されている。実施例2の内容から見て、本願発明1の「筋力強化」は、筋肉の発揮する瞬間的な力そのものの大きさが増大することと認められる。 次に本願発明1の「バランス感覚の増進」及び「運動協調能力の増進」について見ると、上記(b)に摘記した実施例3で採用しているロータロッド実験では、被験動物は回転するロータロッド上に留まるために、回転する足場(ロータロッド)上でバランスをとって姿勢を保ち、かつ足場の動きに合わせて四肢の運動を調和させることが必要となる。つまり、実施例3は、文字通り「バランス感覚」と「運動協調能力」との両者をロータロッド上に留まる時間として観察するものであり、ミリセチンの投与によってその時間が延長したことは、ミリセチンにより「バランス感覚」および「運動協調能力」が増進したことを示すといえる。 そうすると、本願発明1の「筋力強化」、「バランス感覚の増進」、「運動協調能力の増進」のいずれも、血中乳酸濃度が低下することによる疲労発生の遅延や疲労蓄積の低減に直接の関係があるとはいえず、血中乳酸濃度の低下に由来してもたらされる効果とも認められない。 そうしてみると、引用発明4が、「血中乳酸濃度の低下に由来する疲労困憊の減少に基づく筋肉パフォーマンスの増大」という作用を有していることに基いて、「筋力強化、バランス感覚の増進、及び/又は運動協調能力(exercise adaptation)の増進」である「運動遂行能力の増強」という用途に用いることは、当業者といえども容易に想到するものとはいえない。 イ.相違点2について 引用文献4には、上記「第4 引用文献、引用発明等」の2.(4a)、(4g)、(4h)で摘記したようにフラバノール化合物としてクエルセチンの他にミリセチンを含む6種の化合物が列挙されているが、血中乳酸濃度とこれに関連する筋肉パフォーマンスへの効果が確認されたことが具体的に示されているのはクエルセチンのみである。クエルセチンに換えて列挙されるその他のフラバノール化合物を用いるとしても、化合物をどのように選択すべきかの指針などは示されておらず、ミリセチンを選択する積極的な理由も記載されていない。そして、引用文献4には、クエルセチンの効果がどのようなメカニズムによるものかも記載されていないため、構造の類似した化合物の間でもその薬理作用が同じであるとは限らないという技術常識を考慮すれば、ミリセチンが実際にクエルセチンと同様に血中乳酸濃度を低下させる効果を奏するかは、当業者といえども予測できない。 ましてや、上記ア.に説示したように、本願発明1の用途自体が、引用発明4の用途から当業者が容易に想到できたとはいえないのであるから、引用発明4において、そのように用途を変更した上で、さらにクエルセチンに換えて効果の予測できないミリセチンを選択して本願発明1の構成とすることは、なおさら、当業者といえども容易に想到できたということはできない。 したがって、本願発明1は引用発明4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 1-2.引用発明1を引用発明とする場合について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点が存在する。 (一致点) 「ミリセチンまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む薬学的組成物。」 (相違点) 本願発明1の「薬学的組成物」の用途は「運動遂行能力の増強」であって、「筋力強化、バランス感覚の増進、及び/又は運動協調能力(excercise adaptation)の増進」という効果を得られるのに対し、引用発明1の用途は「セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの阻害」であり、「セロトニンN-アセチルトランスフェラーゼに対する非競合阻害剤としての作用により、強制水泳試験において対照に比べ無行動時間が減少し活動的になる抗うつ効果を有する」点。 (2)相違点についての判断 上記相違点について検討する。 上記、(1a)~(1i)に摘記したとおり、引用文献1には神経伝達物質であるセロトニンの代謝に関わるセロトニンN-アセチルトランスフェラーゼの活性をミリセチンが阻害すること、その結果、ミリセチンはセロトニン代謝が関与する疾患の治療に有効であるという根拠として、強制水泳試験によるマウスにおける抗うつ効果が確認できたことが記載されている。 セロトニンは精神安定や睡眠に関与することが知られるが、筋力やバランス感覚、運動協調能力への関与については、引用文献1には何ら言及されておらず、技術常識として筋力、バランス感覚、運動協調能力に何らかの作用があるという知見が確立されているともいえない。 また、引用文献1の実施例4で用いられる強制水泳試験は、被験動物のうつ病様行動を評価するための試験として知られる方法であって(1i)、この試験で観察する水泳やクライミングといった被検動物の行動は、筋力やバランス感覚、運動協調能力の指標とされるものでないことは当該分野でよく知られるところである。 そうすると、引用文献1には、ミリセチンを含有する薬学的組成物の投与によって、被検動物においてうつ状態の指標となる行動に影響が現れることは記載されているものの、本願発明1の「運動遂行能力」である「筋力」、「バランス感覚」、「運動協調能力」との関連は記載されておらず、技術常識を踏まえても、そのような示唆があるともいえない。 したがって、本願発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本願発明2-5について 本願発明2-5は、「ミリセチン(myricetin)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む運動遂行能力の増強用の組成物であって、該運動遂行能力の増強は、筋力強化、バランス感覚の増進、及び/又は運動協調能力の増進である」点で本願発明1と同一の構成を備えているから、本願発明1と同じ理由により、当業者といえども引用発明4または引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1-5は、当業者が引用発明1、4及び引用文献1、4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 したがって、上記結論のとおり審決する。

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2017-002634

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