特許拒絶査定不服審判
2017-002278
抗TLR4抗体およびその使用法
- 審判番号
- 2017-002278
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-548613外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年02月17日
- 審決日
- 2017年12月21日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WY (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-548613「抗TLR4抗体およびその使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月19日国際公開、WO2012/096917、平成26年 2月27日国内公表、特表2014-505056、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年 1月10日(パリ条約による優先権主張 2011年 1月10日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月30日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年 5月 6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年 2月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 現査定の概要
原査定(平成28年10月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1~10、14に係る発明は、以下の引用文献1、2に記載された発明に基づいて、そして同請求項11~13、15に係る発明は、同引用文献1~3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.FASEB Journal,2007年,Vol.21,p.2840-2848
2.特表2009-509540号公報
3.特表2010-526868号公報
第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正に関し、請求項1における「Toll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片」について、「段階(i)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片、段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片、または段階(i)および段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片が、重鎖アミノ酸配列・・・(SEQ ID NO: 9)、および軽鎖アミノ酸配列・・・(SEQ ID NO: 10)を含む、薬剤。」なる事項を追加する補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮(以下「限定的減縮」という。)を目的とするものであるかについて検討する。
上記の補正は、請求項1における「Toll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片」を、補正前の請求項13に記載された特定の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列を含むものに限定するものであって、かつ、その補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、当該補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
また、当該補正は、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)に記載された事項に基づくものであるから(段落【0006】~【0009】、段落【0020】等)、新規事項を追加するものではない。
そして、以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、上記補正後の請求項1~10に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。
第4 本願発明
本願請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明10」という。)は、平成29年 2月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明であると認める。
「【請求項1】
Toll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片を含む、対象における移植された生物材料の拒絶を阻害するまたは生物材料の生存を延長させるための薬剤であって、移植される生物材料が膵島細胞であり、
薬剤が、
(i)移植可能な組成物を作製するために、ヒトToll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片を、移植される膵島細胞に接触させる段階;
(ii)移植可能な組成物を対象における所望の位置に植え込む段階;および
(iii)対象における移植片の拒絶を防止するために十分なまたは膵島細胞の生存を延長させるために十分な量で、ヒトTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片の1つまたは複数の追加の用量を対象に投与する段階
を含む方法において用いられ、
段階(i)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片、段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片、または段階(i)および段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片が、重鎖アミノ酸配列、
および軽鎖アミノ酸配列
を含む、薬剤。
【請求項2】
対象がヒトである、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
移植される膵島細胞が、同種異系膵島細胞である、請求項1または2記載の薬剤。
【請求項4】
段階(i)および(iii)におけるTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片が、同じ抗体または免疫活性断片である、請求項1記載の薬剤。
【請求項5】
段階(i)におけるTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片と、段階(iii)におけるTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片が、異なる抗体または免疫活性断片である、請求項1記載の薬剤。
【請求項6】
TLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片が、段階(iii)において1つまたは複数の追加の作用物質と併用して投与される、請求項1記載の薬剤。
【請求項7】
1つまたは複数の追加の作用物質が1つまたは複数の免疫抑制剤である、請求項6記載の薬剤。
【請求項8】
1つまたは複数の追加の作用物質が、メトトレキサート、シクロスポリンA、タクロリムス、シロリムス、エベロリムス、コルチコステロイド、抗胸腺細胞グロブリン、インフリキシマブ、エタネルセプト、およびアダリムマブから選択される、請求項6記載の薬剤。
【請求項9】
段階(i)におけるTLR4に結合する抗体またはその免疫活性断片、段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体またはその免疫活性断片、もしくは段階(i)および段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体またはその免疫活性断片が、モノクローナル抗体である、請求項1記載の薬剤。
【請求項10】
段階(i)におけるTLR4に結合する抗体またはその免疫活性断片、段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体またはその免疫活性断片、もしくは段階(i)および段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体またはその免疫活性断片が、マウス、キメラ、ヒト化、完全なヒトのモノクローナル抗体、ドメイン抗体、単鎖、Fab、Fab'、またはF(ab')2断片、scFv、またはFab発現ライブラリである、請求項1記載の薬剤。」
第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(引用文献1は英語のため、当審による日本語訳文にて記す。)
(1)記載事項1-1
「抗TLR4抗体によるTLR4の遮断によってBALB/cレシピエントにおけるC57BL/6膵島の移植片の生存が延長される
我々は、インビトロで、分離した膵島におけるTLR4を抗TLR4抗体により遮断することで、膵島移植片に対する移植後の免疫拒絶反応を抑制しうるか否かを試験した。新鮮な分離された膵島を、抗TLR4抗体(25μg/ml)とともに、又は正常ラットIgG2a対照とともに前培養し、糖尿病のレシピエントに移植した。図5に示すとおり、ラットIgG2a対照とともに培養された膵島は、18.0+-3.1日(n=5)で拒絶された。抗TLR4抗体とともに培養された膵島前培養では、膵島移植片の生存が、30+-12.6日間(n=5、P<0.05 対、対照)へと顕著に延長された。」
(第2844頁右欄第1~13行。上記下線部の記載は、それぞれ「C57BL/6 recipients」及び「BABL/c islet」であるが、下記記載事項1-2等をはじめ引用文献1の記載全体から、「BALB/cレシピエント」における「C57BL/6膵島」の誤記であることが明らかであるため、上記下線部のとおり訳した。)
(2)記載事項1-2
「
図5 BALB/cレシピエントにおける抗TLR4抗体とともに培養されたC57BL/6膵島の生存。抗TLR4抗体とともに、又はIgG対照とともに前培養したC57BL/6膵島が、BALB/cレシピエントに移植された。抗TLR4抗体とともに前培養された移植片(○、n=5)は、ラットIgG2aとともに前培養された膵島(×、n=5、P<0.05、対、対照)と比較し、顕著に長く生存した。」
(第2844頁右欄 図5)
(3)記載事項1-3
「抗TLR4抗体の使用は効果的ではなかったが、抗体処置された膵島は、長期生存を示すものではないものの、生存の延長を示した。」
(第2846頁右欄第9~12行)
(4)引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)
引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。
「分離した膵島移植片とともに前培養され、その後当該膵島移植片がレシピエントに移植される、抗TLR4抗体。」
2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(1)記載事項2-1
「【請求項1】
造血幹細胞のToll様受容体(TLR)経路の一つまたは複数をTLR経路アンタゴニストとの接触を通じて阻害する工程を含む、リンパ系細胞の移植後の生着率を向上させる方法。
【請求項2】
細胞が患者から獲得され、アンタゴニストを用いてエクスビボで処置され、その後患者に戻される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が同種のドナーから獲得され、アンタゴニストを用いてエクスビボで処置され、その後患者に移植される、請求項1記載の方法。
・・・
【請求項18】
移植患者が、移植時にTLR経路アンタゴニストを用いてインビボで処置される、請求項1記載の方法。」
(【特許請求の範囲】の【請求項1】~【請求項18】)
(2)記載事項2-2
「なおさらに別の態様において、造血幹細胞のToll様受容体(TLR)経路の一つまたは複数をTLR経路アンタゴニストとの接触を通じて阻害する工程を含む、リンパ系細胞の患者への移植後の生着率を向上させる方法が提供される。細胞は患者から獲得され、アンタゴニストを用いてエクスビボで処置され、その後患者に戻され得る。細胞は同種のドナーから獲得され、アンタゴニストを用いてエクスビボで処置され、その後患者に移植され得る。TLR経路はTLR2アンタゴニストまたはTLR4アンタゴニストによって阻害され得る。アンタゴニストは可溶性TLR、抗TLR抗体、または可溶性TLR二量体化模倣物であり得る。アンタゴニストはsiRNA、リボザイム、モルホリノオリゴ、またはscFvもしくはscAbであり得る。例えばMAL/TIRAPアンタゴニストの場合、TLR経路は、MyD88発現の阻害を通じてまたはMyD88機能の阻害を通じて阻害され得る。アンタゴニスト、例えばTRAMまたはTRIFに作用するアンタゴニストは、MyD88非依存的な経路に作用し得る。患者は、免疫無防備状態もしくは免疫不全であるか、化学療法で処置されているか、かつ/または臓器移植を受ける患者であり得る。患者は、免疫抑制剤を投与されているまたは投与された患者であり得る。患者は、自己免疫障害、または自己免疫的要素を有する別の障害もしくは疾患に罹患した患者であり得る。患者はヒトであり得る。移植患者は、移植時にTLR経路アンタゴニストを用いてインビボで処置され得る。」
(段落【0015】)
(3)記載事項2-3
「実施例4-幹細胞移植
MyD88-/-マウスの造血前駆細胞が正常マウスのそれと比較してどのように機能するかを理解するため、骨髄移植実験を行った。MyD88-/-マウス由来の骨髄を、1:1の比率でMyD88+/+マウス由来の骨髄(計2×106細胞)と共に、致死量の照射(650R×2)を与えたC57BL/6(Ly5.1)マウスに移植した。キメラ現象の程度をフローサイトメトリーにより決定した。移植から三ヶ月後、レシピエント骨髄における血液産生細胞の大部分はMyD88-/-細胞由来であった(図16)。具体的には、胸腺細胞および末梢血顆粒球は主にMyD88-/-細胞から生成された。脾臓におけるMyD88-/-リンパ球の割合はほぼ1:1の比率であり、これはおそらく、リンパ球が長い半減期を有し、それらの生存が一部、有効なTLRシグナル伝達に依存し得るからであろう。」
(段落【0207】)
(4)記載事項2-4
「【図16】MyD88-/-幹細胞は正常マウス由来の幹細胞よりも生着性がよい。C57BL/6(Ly5.1)マウスに致死量の照射(650R×2)を与え、次いで計2×106の骨髄細胞を移植した。五つの実験動物グループのうちの二つに、示されるような50:50混合物を与えた。骨髄レシピエントにおけるキメラ現象の程度は、移植から3ヶ月後にフローサイトメトリーにより決定した。」
(段落【0214】の【図16】の説明部分)
(5)記載事項2-5
「【図16】
」
(図16)
3.引用文献3について
引用文献3には、抗TLR4抗体及びその製造方法が記載されている。
第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1との対比
引用発明1における「抗TLR4抗体」、「レシピエント」及び「膵島移植片」は、それぞれ本願発明1における、「Toll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体」、「対象」及び「膵島細胞」に相当し、また、引用発明1における「その後当該膵島移植片がレシピエントに移植される」なる抗TLR4抗体の使用方法は、本願発明1における「移植可能な組成物を対象における所望の位置に植え込む段階;」に相当する。
そして、引用発明1における「分離した膵島移植片とともに前培養され」なる抗TLR4抗体の使用方法は、本願発明1における「ヒトToll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片を、移植される膵島細胞に接触させる段階;」に相当するとともに、それが移植の前に行われる工程であることから、「移植可能な組成物を作製するため」のものといえる。
さらに、引用文献1の記載事項1-1及び1-2の記載によれば、抗TLR4抗体を膵島移植片に接触させることにより、レシピエントに移植された膵島移植片の生存が対照に比して延長されることは明らかである。
よって、本願発明1と引用発明1との間には、以下の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「Toll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体(以下、「抗TLR4抗体」ともいう。)を含む、対象における移植された生物材料の生存を延長させるための薬剤であって、移植される生物材料が膵島細胞であり、薬剤が、
(i)移植可能な組成物を作製するために、抗TLR4抗体を、移植される膵島細胞に接触させる段階;
(ii)移植可能な組成物を対象における所望の位置に植え込む段階;
を含む方法において用いられる、薬剤。」
(相違点1)
本願発明1における薬剤は、上記段階(i)及び(ii)に加え、「(iii)対象における移植片の拒絶を防止するために十分なまたは膵島細胞の生存を延長させるために十分な量で、ヒトTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片の1つまたは複数の追加の用量を対象に投与する段階」を含む方法において用いられると規定されているのに対し、引用発明1にはそのような規定がない点。
(相違点2)
本願発明1における、上記段階(i)及び/又は(iii)で用いられるTLR4に結合する抗体が、ヒトのTLA4に特異的に結合するものであって、かつ、特定の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列を含むものであると規定されているに対し、引用発明1にはそれらの規定がない点。
(2)引用発明1との相違点についての判断
上記相違点1について検討するに、引用文献1には、抗TLR4抗体を膵島移植片の前培養に用いることが開示されるにとどまり、対象における移植片の移植の後で、移植を受けた対象に対しても、さらなる抗TLR4抗体を、膵臓移植片の拒絶を防止するために十分なまたは膵島細胞の生存を延長させるために十分な量で、追加の用量を投与することについては、記載も示唆もされていない。
この点、引用文献2には、対象に造血幹細胞を移植するにあたり、移植後の生着率を向上させる目的で、TLR4経路アンタゴニストである抗TLR4抗体で造血幹細胞を接触させてから移植することのみならず、移植時に抗TLR4抗体で対象を処置することも記載されているものの(記載事項2-1及び2-2)、同引用文献においてあげられている移植細胞は、もっぱら造血幹細胞のみであって、膵島細胞については言及がないことに加え、当該引用文献に具体的に記載されている移植に関する実験結果は、MyD88-/-幹細胞、すなわちTLR4経路が遮断されたノックアウトマウス由来の造血幹細胞が、正常マウス由来の造血幹細胞よりも移植後の生着性に優れることが記載されるにとどまり(記載事項2-3~2-5)、抗TLR4抗体で移植後の対象を処理することにより、移植後の造血幹細胞の生着率を向上させることについては、その具体的な実験結果が何ら記載されていないため、そのような処理を行うことにより、造血幹細胞の生着が高まることを確認することもできない。そうすると、造血幹細胞とは異なる膵島細胞の移植に係る引用発明1において、移植を受けた対象に対しても、さらに抗TLR4抗体を投与することを、当業者が引用文献2の記載に基づいて、容易に想到し得たと解することはできない。
そして、抗TLR4抗体を移植後に投与することで、移植片の生存を延長させうることは、引用文献3にも記載されておらず、出願時の技術常識であったとも認められないから、引用発明1において、抗TLR4抗体を、対象における移植片の移植の後で、拒絶を防止するために十分なまたは膵島細胞の生存を延長させるために十分な量で、追加の用量を投与することを、当業者が想起し得たとは認められない。
また、それによる本願発明1の効果についても、本願【図5】及び【図6】には、抗TLR4抗体を、移植後に週2回、28日間、対象に投与することにより、膵島細胞の生存が少なくとも60日間まで延長されることが記載されている一方、引用文献1には、移植後に抗体を投与しない場合において、膵島移植片の生存は50日までの延長にとどまったことが記載されているところ(記載事項1-2)、当業者の予測を超える顕著な効果であると認められる。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、並びに、引用文献2及び3の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)小括
よって、本願発明1は、引用発明1、並びに、引用文献2及び3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2.本願発明2~10について
本願発明2~10は、本願発明1をさらに限定したものであり、本願発明1の「(iii)対象における移植片の拒絶を防止するために十分なまたは膵島細胞の生存を延長させるために十分な量で、ヒトTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片の1つまたは複数の追加の用量を対象に投与する段階」なる構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1、並びに、引用文献2及び3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 原査定について
1.理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1~10は、
「 Toll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片を含む、対象における移植された生物材料の拒絶を阻害するまたは生物材料の生存を延長させるための薬剤であって、移植される生物材料が膵島細胞であり、
薬剤が、
(i)移植可能な組成物を作製するために、ヒトToll様受容体4(TLR4)ポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片を、移植される膵島細胞に接触させる段階;
(ii)移植可能な組成物を対象における所望の位置に植え込む段階;および
(iii)対象における移植片の拒絶を防止するために十分なまたは膵島細胞の生存を延長させるために十分な量で、ヒトTLR4に特異的に結合する抗体またはその免疫活性断片の1つまたは複数の追加の用量を対象に投与する段階
を含む方法において用いられ、
段階(i)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片、段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片、または段階(i)および段階(iii)におけるTLR4に結合する抗体もしくはその免疫活性断片が、重鎖アミノ酸配列、
および軽鎖アミノ酸配列
を含む、薬剤。」
との事項を有するものとなっており、拒絶査定において引用された引用文献1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。
第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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