特許拒絶査定不服審判
2017-002055
複合酸化物の作製方法
- 審判番号
- 2017-002055
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-188157外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年02月13日
- 審決日
- 2017年12月18日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社半導体エネルギー研究所
- 分類
- P18 .121-WY (C01B) / P18 .537-WY (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-188157「複合酸化物の作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日出願公開、特開2013- 63898、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月29日(優先権主張平成23年8月31日)の出願であって、平成27年8月5日付けで手続補正がされ、平成28年5月25日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月25日付けで手続補正がされ、平成28年8月16日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成28年10月14日付けで手続補正がされたが、平成28年11月7日付けで補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年2月13日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年4月12日付けで前置報告がされ、平成29年8月29日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年10月26日付けで手続補正がされたものである。
なお、原審にて2回、当審にて2回刊行物等の提出がなされている。
第2 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年10月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、Li(リチウム)を含む化合物を、窒素バブリングを施して酸素濃度を4.5ppm以下とした水に溶解して、Liを含む溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、P(リン)を含む化合物を、窒素バブリングを施して酸素濃度を4.5ppm以下とした水に溶解して、Pを含む溶液を生成する工程と、 大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、前記Liを含む溶液と、前記Pを含む溶液とを混合して、Li及びPを含む溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、及びMn(マンガン)の一つ又は複数の遷移金属を含む化合物を、窒素バブリングを施して酸素濃度を4.5ppm以下とした水に溶解して、Fe、Co、Ni、及びMnの一つ又は複数の遷移金属を含む溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、前記Li及びPを含む溶液と、前記遷移金属を含む溶液とを混合して、混合溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、水熱法により、前記混合溶液を用いて一般式LiMPO4(Mは、Fe,Co、Ni、及びMnの一つ又は複数)で表される複合酸化物を作製する工程と、を有し、
前記遷移金属を含む溶液を攪拌しながら前記Li及びPを含む溶液を滴下することにより、前記混合溶液を生成することを特徴とする複合酸化物の作製方法。」
第3 原査定の理由
原査定(平成28年11月7日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。
本願発明は、以下の引用例Aに記載された発明及び引用例A-Cに記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例等一覧
A.特表2007-511458号公報
B.特開2009-266813号公報
C.特開2010-040272号公報
なお、本願発明(補正前の請求項2を引用する請求項3に係る発明に相当)に対して、当審拒絶理由は通知されていない。
第4 引用発明
引用例Aには、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与)
「【0059】
実施例1:熱水処理を含む本発明による方法を用いたLiFePO4の生成
反応方程式
FeSO4・7H2O+H3PO4+3LiOH・H2O→LiFePO4+Li2SO4+11H2O
【0060】
完成生成物としてのLiFePO4を室温にて空気中で酸化しないよう保存することが可能である。
【0061】
上記の反応方程式によってLiFePO4を製造すると、注目すべきことにLiFeIIPO4がFeII前駆体水溶液から沈殿する。従って、反応及び乾燥/焼結は、Fe2O3又はFePO4のような副産物の更なる形成を伴うFeIIIの形成するFeIIの部分的酸化を避けるために保護ガス又は真空の下で実施する。
【0062】
前駆体混合物の生成及び沈殿
417.04gのFeSO4・7H2Oをおおよそ1リットルの蒸留水に溶解し、172.74gの85%濃度のリン酸を撹拌しながらゆっくり添加する。次に一回分として蒸留水を1.5リットルまで注ぎ足す。酸性溶液を撹拌速度400rpmの実験用オートクレーブ(容積:1ガロン)に収容し、おおよそ6-7バールの窒素を注液管(immersion pipe)を経由してオートクレーブへ注ぎ、そして次に安全弁を経由してこの圧力を再び開放する。この処置を二回繰り返す。
【0063】
188.82gの水酸化リチウムLiOH・H2Oを1リットルの蒸留水に溶解する。」
「【0065】
次に、調製されたLiOH溶液を著名な膜ポンプを用いて注液管(immersion pipe)を経由してオートクレーブ中へポンプ注入し(100%置換、180ストローク/分;ポンプの最高パワーに相当)その後におおよそ500乃至600mlの蒸留水でリンスする。操作はおおよそ20分続き、その間に形成された懸濁物の温度はおおよそ35℃まで上昇する。」
「【0069】
熱水処理:
いずれの場合にも、新たに調製した懸濁物は実験用オートクレーブ中にて熱水処理される。懸濁物の加熱前に、熱水工程前に存在する空気をオートクレーブから除去するため、オートクレーブは窒素でパージされる。LiFePO4はおおよそ100乃至120℃の熱水温度を越えて形成される。」
したがって、上記下線部の記載より引用例Aには次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
「真空下で、FeSO4・7H2Oを蒸留水に溶解し、85%濃度のリン酸を撹拌しながら添加し、蒸留水を注ぎ足し、酸性溶液を実験用オートクレーブに収容し、窒素を注液管を経由してオートクレーブへ注ぎ、真空下で、水酸化リチウムLiOH・H2Oを蒸留水に溶解し、調製されたLiOH溶液をオートクレーブ中へポンプ注入し、蒸留水でリンスし、その間に懸濁物が形成され、懸濁物は窒素でパージされた実験用オートクレーブ中にて熱水処理されて、LiFePO4を形成する方法。」
第5 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明Aとを対比する。
引用発明Aの「真空下」は本願発明の「大気より酸素濃度の低い雰囲気下」に相当し、以下同様に、「FeSO4・7H2O」は「Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、及びMn(マンガン)の一つ又は複数の遷移金属を含む化合物」に相当し、「蒸留水」は「水」に相当し、「リン酸」は「P(リン)を含む化合物」に相当し、「水酸化リチウムLiOH・H2O」は「Li(リチウム)を含む化合物」に相当し、「LiOH溶液」は、「Liを含む溶液」に相当し、「熱水処理されて」は「水熱法により」に相当し、「LiFePO4」は「一般式LiMPO4(Mは、Fe,Co、Ni、及びMnの一つ又は複数)で表される複合酸化物」に相当する。
そして、引用発明Aの「FeSO4・7H2Oを蒸留水に溶解し」たものは、本願発明の「Fe、Co、Ni、及びMnの一つ又は複数の遷移金属を含む溶液」といえ、以下同様に、「FeSO4・7H2Oを蒸留水に溶解し、85%濃度のリン酸を撹拌しながら添加し、蒸留水を注ぎ足し、酸性溶液を実験用オートクレーブに収容し、窒素を注液管を経由してオートクレーブへ注ぎ、真空下で、水酸化リチウムLiOH・H2Oを蒸留水に溶解し、調製されたLiOH溶液をオートクレーブ中へポンプ注入し、蒸留水でリンスし、その間に懸濁物が形成され」た液は、「混合溶液」といえる。
してみれば、本願発明と引用発明Aとは、
「大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、Li(リチウム)を含む化合物を、水に溶解して、Liを含む溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、及びMn(マンガン)の一つ又は複数の遷移金属を含む化合物を、水に溶解して、Fe、Co、Ni、及びMnの一つ又は複数の遷移金属を含む溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、LiとPと遷移金属とを含む混合溶液を生成する工程と、
大気より酸素濃度の低い雰囲気下で、水熱法により、前記混合溶液を用いて一般式LiMPO4(Mは、Fe,Co、Ni、及びMnの一つ又は複数)で表される複合酸化物を作製する工程と、を有する複合酸化物の作製方法。」である点で一致し、
溶液を生成する際に用いる溶媒について、本願発明では、「窒素バブリングを施して酸素濃度を4.5ppm以下とした水」を用いているのに対し、引用発明Aでは、この点が特定されていない点で相違し(相違点A1)、
本願発明では、Liを含む溶液とPを含む溶液とを混合して、Li及びPを含む溶液を生成した後、Li及びPを含む溶液と遷移金属を含む溶液を混合しているのに対し、引用発明Aでは、FeSO4・7H2Oを蒸留水に溶解し、85%濃度のリン酸を撹拌しながら添加した後、LiOH溶液を注入している点で相違し(相違点A2)、
本願発明では遷移金属を含む溶液を攪拌しながらLi及びPを含む溶液を滴下することにより、混合溶液を生成しているのに対し、引用発明AではFeSO4・7H2Oとリン酸を含む液に、LiOH溶液を注入している点で相違する(相違点A3)。
2.相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点A2から検討する。
相違点A2に係る本願発明のLiを含む溶液とPを含む溶液とを混合して、Li及びPを含む溶液を生成した後、Li及びPを含む溶液と遷移金属を含む溶液とを混合して、混合溶液を生成するという構成は、引用例A-Cには記載も示唆もされておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明A及び引用例A~Cに記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、前置報告書において引用された特開2007-035295号公報の段落【0039】には、「更に、共沈物の生成には、リン酸とリチウム化合物含有水溶液の滴下順序を変えたり、リン酸とリチウム化合物含有水溶液の同時滴下を行うことも可能である。」ことが記載されているだけであるから、引用発明Aにおいて、混合溶液を作製する際に、リン酸とLiOH溶液とを先に混合してLi及びPを含む溶液を生成させた後に、FeSO4・7H2Oを混合することを示唆するものとはいえない。
第6 原査定についての判断
上記第5のとおり、本願発明は、引用例Aに記載された発明及び引用例A-Cに記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
なお、平成27年8月17日、平成28年10月26日、平成29年3月3日、平成29年11月28日付けの刊行物提出書に記載のいずれの文献にも、Liを含む溶液とPを含む溶液とを混合して、Li及びPを含む溶液を生成した後、Li及びPを含む溶液と遷移金属を含む溶液とを混合して、混合溶液を生成すること及び「遷移金属を含む溶液を攪拌しながらLi及びPを含む溶液を滴下することにより、混合溶液を生成する」ことは記載も示唆もされていない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定及び当審の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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