特許訂正審判
2016-390139
フレキシブル基材をコーティングして、高い付着性、機械的強度および反応性を有する架橋コーティングを形成するためのシリコーン組成物
- 審判番号
- 2016-390139
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2011-520508
- 登録番号
- 特許第5616339号(P5616339)
- 請求日
- 2016年10月28日
- 審決日
- 2017年03月14日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】ブルースター・シリコーン・フランス・エスアエス
- 【請求人代理人】加藤 卓士
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 原 賢一
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P141 .852-Y (C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5616339号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5616339号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5616339号(以下、「本件特許」という。)は、2009年(平成21年)7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年7月30日、(FR)フランス共和国)の国際出願であって、平成26年9月19日に特許権の設定登録がされ、平成28年10月28日に本件審判の請求がされた後、同年12月20日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、平成29年2月10日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5616339号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤」と記載されているのを、「重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2乃至11と請求項13も同様に訂正する)。
また、特許請求の範囲の請求項8に「請求項1乃至8のいずれか1項」と記載されているのを「請求項1乃至7のいずれか1項」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応による架橋で得られる、」と記載されているのを、「重付加反応、ラジカル反応もしくはカチオン反応による架橋で得られる、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項12に「前記液体シリコーン組成物は、ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み」と記載されているのを、「前記液体シリコーン組成物は、重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
明細書の段落[0037]に「該組成物がラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」と記載されているのを、「該組成物が重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落[0039]に「 このシリコーンオイルをベースとしたシリコーン組成物は、好ましくはカチオン経路またはラジカル経路による重付加により架橋され、急速に硬化するものであり、紙(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)上または膜上、特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜上に高い機械的強度を有する剥離性コーティングを形成可能なものである。」と記載されているのを、「 このシリコーンオイルをベースとしたシリコーン組成物は、好ましくは重付加により架橋され、または、カチオン経路により架橋され、或いはラジカル経路により架橋されて、急速に硬化するものであり、紙(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)または膜(特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜)の上に、高い機械的強度を有する剥離性コーティングを形成可能なものである。」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落[0040]に「高速コーティング用の液体シリコーンコーティング組成物のラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応による架橋によって得られる、」と記載されているのを、「高速コーティング用の液体シリコーンコーティング組成物に施された重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応による架橋によって得られる、」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落[0042]に「高速コーティング用の液体シリコーン組成物が架橋され、該液体シリコーン組成物がラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」と記載されているのを、「高速コーティング用の液体シリコーン組成物が架橋される。ここで、液体シリコーン組成物は重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」に訂正する。
第3 当審の判断
1.訂正の目的(特許法第126条第1項)について
まず、上記訂正事項1~7の各訂正事項に係る本件訂正が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか、検討する。
(1)訂正事項1について
(1-1)訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1における「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤」を「重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」に訂正することを含むものである。
これに対し、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の「シリコーン基剤」の記載箇所に対応する原文は、国際特許出願の特許請求の範囲として国際公開第2010/012787号を援用すると、「une base silicone apte a durcir par des reactions de polyaddition, radicalaires ou cationiques」(フランス語のアクサン記号の付いた「a」及び「e」は、それぞれアクサン記号のない「a」、「e」で代替表記した。以下同様。)である。原文の「une base silicone apte a durcir」の日本語訳は、「架橋可能なシリコーン基剤」に相当し、原文の「reactions」、「polyaddition」、「radicalaires」、「cationiques」の日本語訳は、「反応」、「重付加」、「ラジカル」、「カチオン」に相当し、原文の「ou」は、日本語訳の「または」に相当する。原文からは、シリコーン基剤の架橋反応が、重付加、ラジカル又はカチオンの3つの選択肢から選ばれるものであることが読み取れ、「重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」と訳すべきであったことは明らかであるから、「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤」との記載は、「重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」の誤訳であると認められる。
よって、訂正事項1のうち、上記の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものである。
(1-2)また、訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項8における「請求項1乃至8のいずれか1項」を「請求項1乃至7のいずれか1項」に訂正することを含むものである。この訂正は、訂正前の請求項8が、請求項8自身を引用するという明らかな誤記を含むものであるのを、請求項8自身を引用しないように訂正するものであるので、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2は特許請求の範囲の請求項10、訂正事項3は特許請求の範囲の請求項12をそれぞれ訂正することを含むものであるが、これらの請求項は、国際特許出願の特許請求の範囲の請求項11、13にそれぞれ由来する請求項と解される。訂正前の請求項10に記載された「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応による架橋で得られる、」に対応する原文、及び訂正前の請求項12に記載された「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤」に対応する原文は、国際公開第2010/012787号の請求項11及び13をそれぞれ援用すると、「obtenu par reticulation par des reactions de polyaddition, radicalaires ou cationiques」、「une base silicone apte a durcir par des reactions de polyaddition, radicalaires ou cationiques」である。上記1.(1)(1-1)における検討も踏まえると、いずれの原文からも、シリコーン基剤の架橋反応が、重付加、ラジカル又はカチオンの3つの選択肢から選ばれるものであることが読み取れ、それぞれ「重付加反応、ラジカル反応もしくはカチオン反応による架橋で得られる、」、「前記液体シリコーン組成物は、重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」と訳すべきであったことは明らかであるから、請求項10の「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応による架橋で得られる、」との記載は、「重付加反応、ラジカル反応もしくはカチオン反応による架橋で得られる、」の誤訳であり、また、請求項12の「前記液体シリコーン組成物は、ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み」との記載は、「前記液体シリコーン組成物は、重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み」の誤訳であると認められる。
よって、上記訂正事項2、3は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものである。
(3)訂正事項4、6、7について
訂正事項4は明細書の段落[0037]、訂正事項6は明細書の段落[0040]、訂正事項7は明細書の段落[0042]の記載事項をそれぞれ訂正するものであるが、これらは、国際特許出願の明細書として国際公開第2010/012787号の明細書を援用すると、第7頁2~23行、第8頁5~19行、第8頁25行~第9頁12行にそれぞれ対応する。訂正前の段落[0037]に記載された「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤」、訂正前の段落[0040]に記載された「液体シリコーンコーティング組成物のラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応による架橋によって得られる」、訂正前の段落[0042]に記載された「高速コーティング用の液体シリコーン組成物が架橋され、該液体シリコーン組成物がラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み」に対応する原文は、国際公開第2010/012787号の明細書を援用すると、「une base silicone apte a durcir par des reactions de polyaddition, radicalaires ou cationiques」、「obtenu par reticulation par des reactions de polyaddition, radicalaires ou cationiques」、「reticule une composition silicone liquide d'enduction a grande vitesse, ladite composition silicone liquid comprenant une base silicone apte a durcir par des reactions de polyaddition, radicalaires ou cationiques」である。上記1.(1)(1-1)における検討も踏まえると、いずれの原文からも、シリコーン基剤の架橋反応が、重付加、ラジカル又はカチオンの3つの選択肢から選ばれるものであることが読み取れ、それぞれ「重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」、「液体シリコーンコーティング組成物に施された重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応による架橋によって得られる」、「高速コーティング用の液体シリコーン組成物が架橋される。ここで、液体シリコーン組成物は重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み」と訳すべきであったことは明らかであるから、段落[0037]の「該組成物がラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」との記載は、「該組成物が重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」の誤訳であり、段落[0040]の「高速コーティング用の液体シリコーンコーティング組成物のラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応による架橋によって得られる、」との記載は、「高速コーティング用の液体シリコーンコーティング組成物に施された重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応による架橋によって得られる、」の誤訳であり、段落[0042]の「高速コーティング用の液体シリコーン組成物が架橋され、該液体シリコーン組成物がラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」との記載は、「高速コーティング用の液体シリコーン組成物が架橋される。ここで、液体シリコーン組成物は重付加反応、ラジカル反応またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤を含み、」の誤訳であると認められる。
よって、上記訂正事項4、6、7は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものである。
(4)訂正事項5について
訂正事項5は明細書の段落[0039]を訂正するものであるが、これは、国際特許出願の明細書として国際公開第2010/012787号の明細書を援用すると、第7頁33行~第8頁4行に対応する。訂正前の段落[0039]に記載された「好ましくはカチオン経路またはラジカル経路による重付加により架橋され」、「紙(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)上または膜上、特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜上に」に対応する原文は、国際公開第2010/012787号の明細書を援用すると、「reticulant de preference par polyaddition, par voie cationique ou radicalaire」、「sur papier (par exemple glassine ou kraft) ou sur un film, notamment en polyester ou polyethylene」である。
まず、前者の訂正については、上記1.(1)(1-1)における検討も踏まえると、原文から、架橋が重付加によるか、カチオン経路によるか、又はラジカル経路によることが読み取れ、「好ましくは重付加により架橋され、または、カチオン経路により架橋され、或いはラジカル経路により架橋されて」と訳すべきであったことは明らかであるから、段落[0039]の前半部分の「 このシリコーンオイルをベースとしたシリコーン組成物は、好ましくはカチオン経路またはラジカル経路による重付加により架橋され、急速に硬化するものであり、」との記載は、「 このシリコーンオイルをベースとしたシリコーン組成物は、好ましくは重付加により架橋され、または、カチオン経路により架橋され、或いはラジカル経路により架橋されて、急速に硬化するものであり、」の誤訳であると認められる。
次に、後者の訂正について検討すると、原文の「sur papier」、「(par exemple glassine ou kraft)」、「sur un film」、「notamment en polyester ou polyethylene」の日本語訳は、それぞれ「紙上」、「(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)」、「膜上」、「特にポリエステルもしくはポリエチレン」に相当する。ここで、訂正前の日本語訳では「特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜」という語句が、「紙」と「膜」の両者を受けて全体の代表として記載されている語句なのか、あるいは「膜」のみを受けて膜の代表として記載されている語句なのかがわかりにくいが、原文の記載に基づくと、「notamment en polyester ou polyethylene(特にポリエステルもしくはポリエチレン)」という語句は、「film(膜)」の直後に置かれていることから、「膜」のみを受けて記載されている語句であることが読み取れる。そうすると、訂正前の「紙(例えば・・・)上または膜上、特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜上に」という記載を、「紙(例えば・・・)または膜(特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜)の上に」と訳すべきであったことは明らかであるから、段落[0039]の後半部分の「紙(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)上または膜上、特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜上に高い機械的強度を有する剥離性コーティングを形成可能なものである。」との記載は、「紙(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)または膜(特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜)の上に、高い機械的強度を有する剥離性コーティングを形成可能なものである。」の誤訳であると認められる。
よって、上記訂正事項5は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものである。
(5)小括
以上のとおり、訂正事項1~7は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
2.新規事項の追加の有無(特許法第126条第5項)について
本件訂正審判に係る訂正事項は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであるところ、同条第5項を適用する際の「外国語書面出願」及び「外国語書面」は,同法第184条の19の規定により、それぞれ「第184条の4第1項の外国語特許出願」及び「第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」となるので、同法第126条第5項に規定する「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」は、「第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」となる。
そこで、訂正事項1~7について検討すると、上記1.(1)~(5)のとおり、訂正事項1~7に係る訂正は誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、技術的内容を変更するものではないから、いずれの訂正も国際出願日における本件国際出願の明細書、請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。よって、訂正事項1~7に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
3.特許請求の範囲の拡張又は変更の有無(特許法第126条第6項)について
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1に記載された「ラジカル重付加反応」及び「カチオン重付加反応」という用語は、いずれも高分子の技術分野において一般的な用語ではなく、特許請求の範囲の記載のみに基づいて用語の意味を一義的に明確に理解することは難しい。そこで、訂正前の明細書の記載を参照すると、明細書中には、「重付加」と「カチオン経路」と「ラジカル経路」の3種類の反応についてそれぞれ詳しく記載されており(例えば、訂正前明細書の[0002]、[0008]、[0050]、[0147]、[0148])、「重付加」はSi-HユニットとSi-EUユニットとが関与する反応に代表される重付加メカニズムによる反応に相当すること、「カチオン経路」はエポキシ官能基及び/又はオキセタン官能基が有効量のカチオン開始系の存在下で開環付加する反応に代表されるカチオンを活性種とする連鎖反応に相当すること、「ラジカル経路」はエチレン性不飽和官能基(例えばアクリレート官能基及び/又はアルケニルエーテル官能基)がラジカル開始系の存在下で付加する反応に代表されるラジカルを活性種とする連鎖反応に相当することが読み取れる。そうすると、訂正前の請求項1に記載された「ラジカル重付加反応またはカチオン重付加反応により架橋可能なシリコーン基剤」という記載は、訂正前の明細書の記載を参酌すると、「重付加」、「カチオン経路」又は「ラジカル経路」のいずれかの反応により架橋可能なシリコーン基剤を意味するものであったと解することができる。
これに対する、訂正後の請求項1に記載された「重付加反応、ラジカル反応、またはカチオン反応により架橋可能なシリコーン基剤」は、「重付加」、「ラジカル」、「カチオン」という技術用語の意味、及び訂正後の明細書の記載に照らしてみれば、訂正前に記載されていたと解釈されるものと同じものを意味すると解することができる。
よって、訂正事項1のうち上記請求項1についての訂正は、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
また、訂正事項1のうち、訂正前の請求項8が、請求項8自身を引用するという明らかな誤記を含むものであるのを、請求項8自身を引用しないように訂正する誤記の訂正についても、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないことは明らかである。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3も、上記3.(1)において検討した訂正事項1の請求項1についての訂正と同じ理由により、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
(3)訂正事項4、6、7について
訂正事項4は明細書の段落[0037]、訂正事項6は明細書の段落[0040]、訂正事項7は明細書の段落[0042]の記載事項をそれぞれ訂正するものであるが、訂正前の明細書の上記段落における「ラジカル重付加反応」や「カチオン重付加反応」の用語は、上記3.(1)において検討したとおり、例えば、訂正前明細書の[0002]、[0008]、[0050]、[0147]、[0148]の記載に基づいて、「重付加」、「カチオン経路」又は「ラジカル経路」のいずれかの反応を意味していたものと解することができるものであるから、訂正後の各段落に記載された技術内容は、訂正前に記載されていたと解釈されるものと同じと解することができ、特許請求の範囲の解釈に影響を与えるものでもない。よって、訂正事項4、6、7の訂正は、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
(4)訂正事項5について
訂正事項5のうち、訂正前の段落[0039]に記載された「好ましくはカチオン経路またはラジカル経路による重付加により架橋され」という記載の訂正については、上記3.(3)と同様の理由により、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。また、訂正事項5のうち、訂正前の段落[0039]に記載された「紙(例えば、グラシン紙またはクラフト紙)上または膜上、特にポリエステル製もしくはポリエチレン製の膜上に」という記載の訂正についても、訂正前後で意味する内容が実質的に変更されるものではなく、特許請求の範囲の解釈に影響を与えるものでもない。よって、訂正事項5の訂正は、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
(5)小括
以上のとおり、訂正事項1~7は、いずれも特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
4.独立特許要件(特許法第126条第7項)について
訂正事項1~7による訂正は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか検討したが、訂正後の本件特許に係る出願につき、拒絶すべき理由を発見することはできない。
よって、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項1~7による訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
第4 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正事項は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項乃至第7項に規定する要件に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
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