特許拒絶査定不服審判
2016-018909
多層透明基材、多層透明基材を用いた積層体、及びそれらを用いた画像表示装置
- 審判番号
- 2016-018909
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-156012外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月16日
- 審決日
- 2017年12月18日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-156012「多層透明基材,多層透明基材を用いた積層体,及びそれらを用いた画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月30日出願公開,特開2014- 16591,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 事案の概要
1 手続の経緯
特願2012-156012号(以下「本件出願」という。)は,平成24年7月11日の特許出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 2月22日付け:拒絶理由通知
平成28年 4月28日付け:意見書
平成28年 4月28日付け:手続補正書
平成28年 9月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成28年12月16日付け:審判請求
平成28年12月16日付け:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)
2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1-請求項4に係る発明(以下「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1-請求項4に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
第1の透明基材と,該第1の透明基材よりもリタデーションの小さい第2の透明基材を積層してなる多層透明基材であって,
前記第1の透明基材と前記第2の透明基材は,それらの面内において最も屈折率が大きい方向であるそれぞれの遅相軸が,平面視上,互いに直交するように積層されており,
前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は,測定波長548.2nmにおいて3000nm以上のリタデーションを有し,
前記第1の透明基材と前記第2の透明基材のリタデーションの差が,測定波長548.2nmにおいて3000nm以上である多層透明基材のそれぞれの裏面側に,開口部と不透明部を有する実質的に透明なパターンからなり,前記不透明部が金属又は導電性インキからなる導電層が形成された,導電性積層体。
【請求項2】
前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は,前記遅相軸の方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸の方向と直交する方向である進相軸の方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上である請求項1に記載の導電性積層体。
【請求項3】
前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は,ポリエステル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,(メタ)アクリル系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリエーテルサルホン系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリスルホン系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリエーテルケトン系樹脂,(メタ)アクロニトリル系樹脂,及び,シクロオレフィン系樹脂からなる群より選択されるいずれか1種の材料からなる請求項1又は2に記載の導電性積層体。
【請求項4】
反射防止機能を備える光学積層体であって,
請求項1から3のいずれかに記載の導電性積層体の表面に,微小突起が密接して配置されており,
隣接する前記微小突起の間隔が,反射防止を図る波長帯域の最短波長以下である光学積層体。」
3 原査定の理由
本願発明1は,本件補正前の請求項5に係る発明を,さらに減縮したものに相当するところ,その原査定の拒絶の理由は,概略,当該発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例1に記載された発明,周知技術及び慣用技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特開2000-231450号公報
周知技術:「一般に,延伸フィルムの引き裂き強度を向上するために,直交する方向に延伸された延伸フィルムを積層すること。」
慣用技術:「導電層が開口部と不透明部を有する実質的に透明なパターンからなり,前記不透明部が金属又は導電性インキからなること。」
第2 当合議体の判断
1 引用例1の記載及び引用発明,並びに,引用例2-引用例4の記載
(1) 引用例1の記載
引用例1には,以下の記載がある。
ア 「【請求項1】 リターデーション値が4000nm以上である一軸延伸された高分子フィルムを基材(11)とし,該基材(11)の少なくとも片方の面に非晶質である透明導電性薄膜層(12)を形成した透明導電性フィルムであって,前記透明導電性薄膜層(12)の表面張力が35~60dyne/cmであることを特徴とする透明導電性フィルム。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,基材として高分子フィルムを用いた透明導電性フィルム,特に液晶表示素子において上側偏光板と液晶パネルの間に配置するタッチパネルに好適な透明導電性フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックフィルム上に透明かつ電気抵抗の低い化合物薄膜層を形成した透明導電性フィルムは,従来,その導電性を利用した用途,例えば,液晶ディスプレイ,ELディスプレイ,エレクトロクロミックディスプレイなどの表示素子の電極,太陽電池などの光電変換素子の窓電極,電磁波シールドの電磁波遮蔽膜,あるいはタッチパネルなどの入力装置の電極として広く使用されている。
【0003】一方,近年の携帯情報端末の普及により,入力や操作性の簡便さが要求され,表示画面上の任意の点を押圧することにより入力できるペン入力タイプの表示装置が広く用いられるようになってきている。ペン入力の方式としては,静電容量方式や光センサー方式,タッチパネル方式が知られており,特に,タッチパネル方式は,位置検出がアナログ的であり,高分解能であることや,周辺装置をコンパクトにできるため,ワープロ,パソコン,電子手帳等,携帯用や個人用の情報端末の表示素子に多く使われてきている。
【0004】上記のようなタッチパネルに用いられる透明導電性フィルムは,基本的にはITOなどの導電性層/高分子フィルムからなる基材層の層構成を有し,タッチパネルとして使用するときは,2枚の透明導電性フィルムの導電性層側をスペーサを介して対向配置して用いる。
【0005】通常,上記のようなタッチパネルは,液晶表示素子の表示画面側に配置して用いられるため,タッチパネルに使用される基材としては,透明性,機械的強度,表面平滑性,耐溶剤性,耐スクラッチ性,非透湿性,コストなどの総合性能を考慮して二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが一般的に用いられている。
【0006】また,上記のようにタッチパネルを配設した液晶表示素子においては,表示画面側での光の反射を少なくすることによる視認性の向上,表示素子全体の軽量化,また,ペン入力により位置検出精度が劣化しないなどの耐久性の向上が要求されている。
【0007】この様な要求に対し,前記の液晶表示素子の表示画面側に配置して用いられるタッチパネルにおける光の反射を少なくすることによる視認性の向上を目的として,タッチパネルの表示画面側に更に反射防止フィルムを設置する方法や,タッチパネルを構成する透明導電性フィルムの導電性層が形成されていない方の面に,反射防止層をドライコート法やウェットコート法などにより設ける方法が提案されている。あるいは,視認性を向上させるために,例えば,光等方性を有する透明導電性フィルムを用いたタッチパネルを液晶表示素子の偏光板と液晶パネルの間に設置する方法(特開平8-155988号,特開平8-161116号等)も提案されている。
【0008】ところが,光の反射を少なくすることによる視認性の向上には限界があり,また,光等方性を有する透明導電性フィルムを用いる方法は,基材として光等方性を有するフィルムを用いる必要があるため,通常の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは使用できず,製造コストが高くなる問題がある。
【0009】さらに,上記のような表示素子においては,位置検出回路とタッチパネルの接続に対する接続部材の耐久性と,ペンでの押圧による透明導電性フィルムの透明導電性層にクラックや剥離が生じないという導電性層の耐久性が特に求められている。通常,位置検出回路とタッチパネルの接続には銀ペーストが用いられており,銀ペーストと導電性層とを強固に接着するには,導電性層上に銀ペースト塗布した後の焼成を150℃以上の高温で行えばよい。しかし,通常のポリエステルフィルムを150℃で熱処理すると,オリゴマーの析出によりフィルムが白濁するため,オリゴマー析出防止層として基材と導電性層との間に,有機ケイ素化合物を加水分解してなる層を設けた透明導電性フィルム(特開昭60-131711号)が提案されている。
【0010】ところが,この方法では,この透明導電性フィルムは,透明導電性薄膜層(導電性層)を形成した後に,有機ケイ素化合物を加水分解してなる層を,耐久性を得るために架橋する必要があり,150℃,10時間もの熱処理を要する。このため,導電性層が結晶質となり,タッチパネル作製時の導電性層のエッチング特性が極めて悪く,タッチパネルの製造コストが高いものになる。
【0011】また,上記のようなペン入力用タッチパネルに従来の透明導電性フィルムを用いた場合,スペーサーを介して対向させた導電性層同士が,ペン入力による押圧で強く接触するため,導電性層にクラックや剥離が生じ,電気抵抗が増大したり,断線を生じたりするという問題があった。
【0012】この様な問題の解決方法としては,例えば,120μm以下の厚さの透明プラスチックからなる基材上に導電性層を形成し,粘着剤層を介して保護層を積層した透明導電性フィルム(特開平2-66809号)や,加熱処理によりインジウム酸化物の結晶粒径を0.3μm以下とした透明導電性フィルム(特許番号第2525475号)が提案されている。
【0013】ところが,上記のように粘着剤層を介して保護層を積層する方法は,ペン入力に対する耐久性が十分ではなく,また,粘着剤層を介するため,保護層の積層時にゴミなどの異物が混入し,光学欠点の多くなりやすい。また,加熱処理によりインジウム酸化物の結晶粒径0.3μm以下する方法は,導電性層が結晶質の透明導電性薄膜となるため,タッチパネル作製時の透明導電性薄膜(導電性層)のエッチング特性が極めて悪く,タッチパネルの製造コストが高いものになる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,ペン入力タイプの表示素子に用いるタッチパネル構成用として,視認性を低下させることがなく,しかも,ペン入力時の耐久性を始めとして透明性等の諸性質に優れ,更に低コストで製造できる透明導電性フィルムを提供することを目的としている。」
ウ 「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,特定のリターデーション値を有する一軸延伸された高分子フィルムを基材として,該基材上に特定の表面張力を有し,かつ非晶質である透明導電性薄膜層を形成した透明導電性フィルムが,ペン入力タイプの表示素子に用いるタッチパネル構成用として優れることを見出し,本発明に至った。
【0016】即ち,本発明は,リターデーション値が4000nm以上である一軸延伸された高分子フィルムを基材(11)とし,該基材(11)の少なくとも片方の面に非晶質である透明導電性薄膜層(12)を形成した透明導電性フィルムであって,前記透明導電性薄膜層(12)の表面張力が35~60dyne/cmである透明導電性フィルムである。」
エ 「【0017】
【発明の実施の形態】以下,本発明についてさらに詳細に説明する。図1に,本発明の透明導電性フィルムの構成の一例を示す。本発明の透明導電性フィルムは,図1に示されるように,リターデーション値が4000nm以上である一軸延伸された高分子フィルムからなる基材(11)の少なくとも片方の面に非晶質である透明導電性薄膜層(12)を形成してなる。なお,透明導電性薄膜層(12)は,基材(11)の両面に形成されていてもよい。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)
オ 「【0018】本発明において基材(11)として用いる一軸延伸された高分子フィルムを構成する高分子としては,有機高分子であれば特に限定されず,本発明の作用を阻害しない範囲で適宜選択できる。
…(省略)…
【0020】本発明において基材(11)として用いる一軸延伸された高分子フィルムは,単層であっても,本発明の作用を阻害しない範囲で多層構造を有していてもよい。多層構造の場合,各層を形成する材料は特に特に限定されず,層毎に同一であっても異なっていてもよい,また,各層の積層方法および形成方法についても特に限定されない
【0021】本発明において基材(11)は,リターデーション値が4000nm以上である必要があり,好ましくは5000nm以上であるのが良い。
…(省略)…
【0022】本発明において基材(11)の厚みは,10μmを超え,300μm以下の範囲であることが好ましく,とくに好ましくは30~200μmの範囲であるのがよい。
…(省略)…
【0023】本発明において透明導電性薄膜層(12)を構成する材料としては,透明性,及び導電性をあわせもち,後述の表面張力を現出あるいは付与可能な非晶質薄膜を形成可能であれば特に限定されず,通常一般に透明導電性薄膜層を形成する材料,例えば,酸化インジウム,酸化亜鉛,酸化スズ,インジウム-スズ複合酸化物,スズ-アンチモン複合酸化物,亜鉛-アルミニウム複合酸化物,インジウム-亜鉛複合酸化物等の薄膜形成条件により透明性と導電性をあわせもつ材料が挙げられる。
…(省略)…
【0028】本発明において,透明導電性薄膜層(12)の表面張力は,35~60dyne/cmである必要がある。本発明の透明導電性フィルムをタッチパネルに用いて表示素子を形成する場合,表示素子における位置検出回路とタッチパネルの接続に銀ペーストを用いるが,透明導電性薄膜層(12)の表面張力が上記範囲であることにより,従来より低温,例えば120℃程度の焼成温度でも銀ペーストと透明導電性薄膜とを強固に接着することが可能となる。
…(省略)…
【0046】本発明の透明導電性パネルは,透明導電性薄膜層を有する一対のパネル板を透明導電性薄膜層が対向するようにスペーサーを介して配置してなるタッチパネルの構成部材(パネル板)として好適に使用することができる。
…(省略)…
【0047】図3に本発明の透明導電性フィルムを構成部材として用いたタッチパネルの構成例を示す。図3に示すようなタッチパネルは,表示画面上の任意の点を押圧することにより入力するペン入力タイプであって,透明導電性フィルム側からペン入力によって,押圧された透明導電性薄膜層同士が接触して導通し,電気的にONの状態となるため,タッチパネル上の入力位置を検出することができる。本発明の透明導電性フィルムは,ぺン入力等に対する耐久性に優れるため,本発明の透明導電性フィルムをタッチパネルの構成部材として用いることにより,長期にわたって安定性を維持できる。」
(当合議体注:図3は以下の図である。)
カ 「【0048】さらに,上記タッチパネルは,液晶表示素子の構成部材として好適に使用することができる。上記タッチパネルを液晶表示素子の構成部材として使用する場合は,図4に示すように,上側偏光板(図中A側)と液晶パネルの間に,上記タッチパネルを配設するのが好ましい。上記タッチパネルの構成,および配置以外の液晶表示素子の構成(液晶パネル,偏光板)および製造方法は特に限定されず,通常一般の液晶表示素子と同様の構成および製造法を用いることができる。」
(当合議体注:図4は以下の図である。)
キ 「【0063】
【実施例】実施例1 ポリエチレンテレフタレート(東洋紡(株)製)を水冷却した回転急冷ドラム上にフィルム形成ダイを通して押出し,未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを幅方向に90℃で4.0倍延伸した。さらに,220℃で熱固定し,続いて200℃で4%リラックスして厚さ46μmの一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得,基材(11)とした。この基材(11)を,表面の汚れを除去するために洗浄剤(商品名:スキャット20-X,第一工業製薬( 株)製)の10vol%水溶液中に2分間浸漬し,さらに表面に残存している洗浄剤を洗浄するために純水の流水中に2分間浸漬,処理した。該基材(11)上に,酸化スズ含有率8.5重量%のインジウム-スズ複合酸化物をターゲットに用いて,高周波マグネトロンスパッタリング法により,300Å厚,酸化スズ含有率8重量%のインジウム-スズ複合酸化物薄膜を製膜した。
…(省略)…
【0080】
【発明の効果】本発明の透明導電性フィルムは,基材(11)としてリターデーション値が4000nm以上である一軸延伸高分子フィルムを用いることにより,本発明の透明導電性フィルムをタッチパネルに用いて表示素子を形成する場合に,干渉縞等が発生せず,視認性などの表示品位に優れ,また,コスト的にも有利である。
【0081】また,本発明の透明導電性フィルムは,透明導電性薄膜層(12)の表面張力を特定範囲の35~60dyne/cmとすることにより,本発明の透明導電性フィルムをタッチパネルに用いて表示素子を形成する場合に,表示素子における位置検出回路とタッチパネルの接続に用いる銀ペーストを低温で処理可能でありながら,銀ペーストと透明導電性薄膜層(12)の密着性に優れ,また,透明導電性薄膜層(12)を非晶質のままとすることができるため,透明性および導電性はもとより,タッチパネル作製時のエッチング特性にも優れる。」
(当合議体注:実施例1の試験結果に関して,引用例1の【0061】の表1の一部を以下に示す。)
(2) 引用発明
引用例1の【請求項1】には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,「リターデーション」は,以下,「リタデーション」で統一する。
「 リタデーション値が4000nm以上である一軸延伸された高分子フィルムを基材(11)とし,
該基材(11)の少なくとも片方の面に非晶質である透明導電性薄膜層(12)を形成した透明導電性フィルムであって,
前記透明導電性薄膜層(12)の表面張力が35~60dyne/cmである,
透明導電性フィルム。」
(3) 引用例2の記載
原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として挙げられた特開平1-316742号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の記載がある。
ア 特許請求の範囲
「 密度が0.941g/cm3以上でメルトインデックスが0.1~1.0g/10分,軟化点が120℃以上の高密度ポリエチレン樹脂を50重量%以上含む高密度ポリエチレン樹脂系フィルム層と,密度が0.940g/cm3以下でメルトインデックスが0.5~15.0g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を30重量%以上含む直鎖状低密度ポリエチレン樹脂系フィルム層とを有する多層共押出し一軸分子配向フィルムと少なくとももう1つの異なる一軸分子配向フィルムを,分子配向軸が交差するように2枚以上積層し,かつ遮光性を有する層を少なくとも一層具備することを特徴とする感光物質用包装材料」
イ 1頁左欄18-20行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は,感光物質,特に写真感光材料の包装に適した包装材料に関するものである。」
ウ 1頁右欄15-20行
「 従来,感光物質用包装材料は,カーボンブラックを練り込んだ高圧法分岐状低密度ポリエチレン(以後LDPEと表示)樹脂フィルムや,第13図に示すように,高密度ポリエチレン(以後HDPEと表示)樹脂フィルム9aや,複数のフィルムを積層した複合ラミネートフィルムがあった。」
(当合議体注:第13図は以下の図である。)
エ 2頁左上欄15行-右上欄5行
「〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら,カーボンブラックを練り込んだLDPE樹脂フィルムや第13図に示すHDPE樹脂フィルム等の包装材料は,ヒートシール適性や物理強度(特に引裂き強度や衝撃穴あけ強度)が劣り,包装作業中や輸送中に穴があいたり,裂けたり,ヒートシール部分が剥がれたりして遮光性や防湿性,ガスバリヤ性を確保することが難しく,特にロール状写真感光材料や1kg以上の重量のあるシート状写真感光材料用密封遮光袋としては実用化が困難であった。」
オ 2頁右下欄4-11行
「〔課題を解決するための手段〕
本発明は上記目的を達成するためになされたものであって,HDPE樹脂系フィルム層と,L-LDPE樹脂系フィルム層とを有する多層共押出し一軸分子配向フィルムと少なくとももう1つ以上の異なる一軸分子配向フィルムを分子配向軸が交差するように積層することにより解決したものである。」
カ 8頁左上欄17行-右上欄11行
「〔作用〕
本発明の感光物質用包装材料では,多層共押出し一軸分子配向フィルムがHDPE樹脂系フィルム層とL-LDPE樹脂系フィルム層の構造であるため,L-LDPE樹脂の長所であるヒートシール性,引裂き強度,衝撃穴あけ強度に優れ,抗張力,耐摩耗性の不足やヤング率が小さい点を耐熱性を有するHDPE樹脂で補ってヒートシール性,物理強度,耐熱性等すべての特性が優れたものとする。
そして,このフィルムが,少くとも,もう1つ以上の一軸分子配向フィルムと分子配向軸が交差するように積層された構造であるので,フィルムの物理強度特に引裂き強度,破裂強度,ヒートシール強度を著しく向上させている。」
(4) 引用例3の記載
原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として挙げられた実願昭58-203038号(実開昭60-106719号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)には,以下の記載がある。なお,「フイルム」は,「フィルム」に書き改めた。
ア 実用新案登録請求の範囲
「(1) 一方向に延伸したポリビニルアルコール系フィルム層(a)および(a)とは異なる方向に延伸したポリエチレン系フィルム層(b)からなり,かつ(b)層の外側に熱接着樹脂層Cを有する複合フィルム。」
イ 2頁6-16行
「 本考案はポリビニルアルコール(以下PVAと記す)系フィルム層を有する複合フィルムに関する。
タテ方向に一軸延伸したPVA系フィルムは優れた性能を持ちながら,ヨコ方向の強度が低く,また防湿性に欠けるために充分な活用ができないでいる。
またタテ方向に一軸延伸したPVA系フィルムに未延伸ポリエチレン系フィルムを積層したものも知られているが,この積層物は腰が弱く,ヨコ方向の強度が低く,また防湿性も充分でないという欠点がある。」
ウ 3頁2-12行
「 すなわち本考案は,酸素遮断性のすぐれたタテ1軸延伸ポリビニルアルコール系フィルムと,防湿性のすぐれたヨコ1軸延伸ポリエチレン系フィルムを貼り合せ,両者の特性を具備した複合フィルムを得ようとするものでちり,さらにそれぞれのフィルムが異方向に延伸されているので,タテ,ヨコ方向の強度が優れ,さらにまたヨコ1軸延伸ポリエチレン系フィルムの短所である熱接着加工性の難かしさを補うために,熱接着樹脂をヨコ1軸延伸ポリエチレン系フィルムの表面に溶着させた高性能付加複合フィルムである。」
エ 8頁1-6行
「このようにして得られた本考案の複合フィルムはタテ,ヨコの強度が優れ,さらに酸素遮断性,防湿性も優れ,またヒートシール性および複合フィルムを包装袋とした場合の袋の引裂き性も優れているので,各種包装材料,包装容器材料として有用である。」
(5) 引用例4の記載
原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として挙げられた特開平3-215033号公報(以下「引用例4」という。)には,以下の記載がある。
ア 1頁右欄7-12行
「〈産業上の利用分野〉
本発明は直鎖状低密度ポリエチレン斜配向クロスフィルムに関し,耐衝撃性,引裂強度,柔軟性およびヒートシール性に優れる,特にヒートシール強度,破袋強度の要求される重包装袋に好適な斜配向クロスフィルムに関する。」
イ 1頁右欄13行-2頁左上欄11行
「〈従来の技術〉
一定の斜方向に分子配向を有するポリオレフィンフィルムの2枚を,互いに分子配向が交差するように積層してなる斜配向クロスフィルムが,各種包装資材として利用ざれている。
たとえば,実公昭56-19087号公報および実公昭61-20590号公報には,感光材料の包装袋として使用されることが示されているし,実公昭60-13637号公報には,自立包装袋として使用することが示されている。
この斜配向クロスフィルムは,従来,高密度ポリエチレンを原料として製造されている。
この斜配向クロスフィルムは,衝撃,引裂に強く,またフィルムの縦横方向における引張り強さおよび引張り伸びのバランスが優れている。」
2 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 第1の透明基材
引用発明の「基材(11)」は,「透明導電性フィルム」の基材であるから,透明といえる。また,引用発明の「基材(11)」は,「リタデーション値が4000nm以上である」から,3000nm以上のリタデーションを有する。
そうしてみると,引用発明の「基材(11)」と本願発明1の「第1の透明基材」は,「透明基材」の点で共通する。また,引用発明の「基材(11)」は,本願発明1の「第1の透明基材」の「3000nm以上のリタデーションを有し」という要件を満たす。
イ 導電層
引用発明の「透明導電性フィルム」は,「該基材(11)の少なくとも片方の面に非晶質である透明導電性薄膜層(12)を形成した」ものである。
そうしてみると,引用発明の「透明導電性薄膜層(12)」は,「基材(11)」との層関係からみて,本願発明1の「導電層」に相当するとともに,本願発明1と,「透明基材」に「導電層が形成された」という構成において共通する。
ウ 導電性積層体
上記ア及びイを考慮すると,引用発明の「透明導電性フィルム」と本願発明1の「導電性積層体」は,「導電性体」の点で共通する。
(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致(共通)する。
「 透明基材は,3000nm以上のリタデーションを有し,
前記透明基材に,導電層が形成された,導電性体。」
イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
透明基材に関して,本願発明1は,「第1の透明基材と,該第1の透明基材よりもリタデーションの小さい第2の透明基材を積層してなる多層透明基材であって,前記第1の透明基材と前記第2の透明基材は,それらの面内において最も屈折率が大きい方向であるそれぞれの遅相軸が,平面視上,互いに直交するように積層されており,前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は,3000nm以上のリタデーションを有し,前記第1の透明基材と前記第2の透明基材のリタデーションの差が3000nm以上である多層透明基材」という構成を具備するのに対して,引用発明は,「リタデーション値が4000nm以上である一軸延伸された高分子フィルムを基材(11)とし」ている点。
(相違点2)
本願発明1は,前記相違点1に係る「前記第1の透明基材と前記第2の透明基材のリタデーションの差が3000nm以上である多層透明基材」「のそれぞれの裏面側に,開口部と不透明部を有する実質的に透明なパターンからなり,前記不透明部が金属又は導電性インキからなる導電層が形成された,導電性積層体」であるのに対して,引用発明は,この構成を具備しない点。
(3) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「基材(11)」は,「リタデーション値が4000nm以上である一軸延伸された高分子フィルム」であるから,延伸方向に直交する方向の引っ張り力に弱い(延伸方向に沿った裂け目が入りやすい)ことは,技術的にみて明らかである。また,延伸フィルムの引き裂き強度を向上するために,延伸方向が直交するように別の延伸フィルムを積層することは,周知技術といえる。加えて,引用例1の【0020】には,「本発明において基材(11)として用いる一軸延伸された高分子フィルムは,単層であっても,本発明の作用を阻害しない範囲で多層構造を有していてもよい。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明において基材(11)の引き裂き強度を向上するために,引用発明の作用を阻害しない範囲で,延伸方向が直交するように別の延伸フィルムを積層することは,当業者が容易に着想し得る事項といえる。
ところで,引用発明の基材(11)に対して延伸方向が直交するように別の一軸延伸フィルムを積層した場合には,基材(11)のリタデーション値の作用が阻害されることとなる。したがって,当業者ならば,別の延伸フィルムとして,例えば,引用例1の【0008】に開示されているような二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用すると考えられる。また,仮に,一軸延伸フィルムを積層するとしても,必要以上に厚くはしないと考えられる。
したがって,引用発明において周知技術を採用したとしても,本願発明1の「前記第2の透明基材は,3000nm以上のリタデーションを有し」の構成になるとまではいうことができない。
なお,周知技術を示す引用例2-引用例4に記載されたフィルムは,いずれも包装用途のものであって,引用発明の用途のものではない(求められる引き裂き強度が同じとはいえない。)。したがって,引用例2-引用例4に記載された材料,延伸倍率及び厚さ等を,リタデーション値を推測する根拠として採用することはできない。
イ 相違点2について
引用発明の「透明導電性フィルム」は,「タッチパネルに好適な」(【0001】)ものである。ここで,引用例1の【従来の技術】(【0002】-【0013】)の記載からみて,引用例1でいう「タッチパネル」とは,抵抗膜方式のものと考えられる。また,引用発明の「透明導電性薄膜層(12)」は「非晶質である」とともに「表面張力が35~60dyne/cmである」。そして,引用例1の【従来の技術】及び【0023】及び【0028】の記載からみて,この「透明導電性薄膜層(12)」は,実質的に銀ペーストにより位置検出回路と接続されることを前提とした,ITO等の透明酸化物半導体と解するのが相当である。
そうしてみると,仮に,引用発明に対して前記アで述べたとおり「基材(11)」と「別の延伸フィルム」を積層する構成を採用するとしても,引用発明の「透明導電性フィルム」を,「それぞれの裏面側に,開口部と不透明部を有する実質的に透明なパターンからなり,前記不透明部が金属又は導電性インキからなる導電層が形成された,導電性積層体」とすることは,予定されていないと考えられる。すなわち,このような変更は,引用例1の【0081】に記載された【発明の効果】の意義を失わせるものと考えられる。
なお,本件出願時において,第1の透明基材及び第2の透明基材のそれぞれの裏面側に,開口部と不透明部を有する実質的に透明なパターンからなり,前記不透明部が金属又は導電性インキからなる導電層が形成された導電性積層体は,例えば,投影型静電容量方式のタッチパネルのセンサーシートとして,周知のものである。
しかしながら,投影型静電様式のタッチパネルのセンサーシートとしては,必ずしもこのようなものに限られない。すなわち,例えば,特開2012-108844号公報の【図5】でいえば,FIG.5Aの構成のもの以外にも,FIG.5Bの構成のものがある。したがって,仮に,引用発明の透明導電性フィルムを投影型静電様式のタッチパネルのセンサーシートに変更するとしても,相違点1に係る本願発明1の構成に至るということはできない。
(当合議体注:【図5】は以下の図である。)
加えて,本願発明1は,引用発明において前記相違点1に係る本願発明1の「基材(11)」及び「別の延伸フィルム」の構成を採用することにより,ニジムラが抑制されかつ引き裂き強度に優れる多層透明基材を得た上で,さらにその「基材(11)」及び「別の延伸フィルム」を導電層の基体として活用することにより,前記相違点2に係る本願発明1の導電層の構成(上記FIG.5Aの構成)を具備した投影型静電様式のタッチパネルのセンサーシートを得たものと考えられる。あるいは,本願発明1は,引用発明が前提とするタッチパネルを投影型静電容量方式のものに変更するに際し,前記相違点2に係る本願発明1の導電層の構成(上記FIG.5Aの構成)を採用した上で,さらにその透明基体12A及び透明基体12Bを活用して前記相違点1に係る本願発明1の構成を採用することにより,ニジムラが抑制されかつ引き裂き強度に優れる導電性積層体を得たものとも考えられる。いずれにせよ,本願発明1は,一方の相違点に係る課題解決のための構成を積極的に活用して他方の相違点に係る課題解決のための構成を得たという関係にある。したがって,本願発明1は,透明基材の構成を巧みに活用することによって,相違点1及び相違点2を一挙両得で解決したものということができるから,本願発明1は,全体としてみて,引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたと評価できる範囲を超えるものと考えられる。
(4) 小括
本願発明1は,当業者が,引用発明,周知技術及び慣用技術に基づいて容易に発明できたものであるということができない。
3 本願発明2-本願発明4について
本願発明2-本願発明4も,前記相違点1及び相違点2に係る本願発明1の構成を具備するものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,周知技術及び慣用技術に基づいて容易に発明できたものであるということができない。
第3 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-018909