特許拒絶査定不服審判
2016-012128
バイオプラスチックを用いた電子写真用トナー及びその製造方法
- 審判番号
- 2016-012128
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-054118外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月10日
- 審決日
- 2017年10月24日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】カシオ計算機株式会社
- 分類
- P18 .537-WY (G03G) / P18 .113-WY (G03G) / P18 .121-WY (G03G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014- 54118「バイオプラスチックを用いた電子写真用トナー及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-176077、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月17日の出願であって、平成27年4月28日に手続補正がなされ、平成28年2月10日付けで拒絶理由が通知され、同年4月18日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年5月2日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、当審において、平成29年7月18日付けで拒絶理由を通知し、その応答期間中の同年8月25日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされた。
第2 本願発明
本願請求項1~7に係る発明は、平成29年8月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりの発明(以下、「本願発明1」~「本願発明7」という。)
「 【請求項1】
重量平均分子量(Mw)が30,000~100,000の非晶質ポリ乳酸と、フェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂の少なくとも一方とを含み、前記非晶質ポリ乳酸はトナー質量に対して20~80質量%の割合で含まれ、前記フェノール樹脂と前記テルペンフェノール樹脂との合計量はトナー質量の10~60質量%の範囲にある電子写真用トナー。
【請求項2】
前記非晶質ポリ乳酸は、50,000~80,000の重量平均分子量(Mw)を有する請求項1に記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
フェノール樹脂を含む請求項1又は2に記載の電子写真用トナー。
【請求項4】
更にテルペンフェノール樹脂を含む請求項3に記載の電子写真用トナー。
【請求項5】
前記フェノール樹脂の量は、トナー質量の5~20質量%の範囲内にある請求項3又は4に記載の電子写真用トナー。
【請求項6】
前記フェノール樹脂または前記テルペンフェノール樹脂の重量平均重合度は、500~5000の範囲内にある請求項1~5の何れか1項に記載の電子写真用トナー。
【請求項7】
重量平均分子量(Mw)が30,000~100,000の非晶質ポリ乳酸と、フェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂の少なくとも一方とを含み、前記非晶質ポリ乳酸はトナー質量に対して20~80質量%の割合で含まれ、前記フェノール樹脂と前記テルペンフェノール樹脂との合計量はトナー質量の10~60質量%の範囲にある混合物を溶融混練して混練物を得る工程と、
硬化後の前記混練物を粉砕する工程と
を含んだ電子写真用トナーの製造方法。」
第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成24年8月2日に頒布された刊行物である特開2012-145642号公報(以下「引用文献1」という)には、以下の事項が記載されている。(下線部は、発明の認定に用いた箇所を示す。以下同様)
(ア) 「【請求項1】
5,000~50,000の分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂および着色剤マスターバッチを含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記着色剤マスターバッチが、100~140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂および顔料を含むことを特徴とする電子写真用トナー。
(中略)
【請求項3】
前記バイオプラスチックがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用トナー。」
(イ) 「【0006】
しかし、上記のように改善したバイオプラスチックを用いても、ポリ乳酸樹脂の特有の樹脂の硬さがあり、十分に粉砕性がいいとは言えず、量産性などの製造工程でフィード量が小さいなどの問題点があった。」
(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような事情に鑑みてなされ、結着樹脂としてバイオプラスチックを含み、粉砕性および色相を改善した電子写真用トナー、およびそれに用いる着色剤マスターバッチを提供することを目的とする。」
(エ) 「【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく研究を行った結果、顔料を100~140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を用いてマスターバッチ化して、トナーの着色剤として用いることで、トナーの粉砕性を向上させることができるとともに、色相を広げることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明の一実施形態に係る電子写真用トナーは、5,000~50,000の分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂および着色剤マスターバッチを含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記着色剤マスターバッチが、100~140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂および顔料を含むことを特徴とする。
【0023】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、結着樹脂として使用するバイオプラスチックの分子量は、5,000~50,000、好ましくは10,000~50,000、より好ましくは30,000~40,000であり、分子量が50,000を超える場合、5,000未満の場合のいずれの場合にも粉砕性が劣り、トナー化が困難となる。
【0024】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、着色剤は、予め樹脂と顔料を高濃度に分散したマスターバッチの形態を有し、かかる着色剤マスターバッチは、100~140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂および顔料を含む。かかる着色剤マスターバッチを使用することにより、トナーの粉砕性を向上させ、優れた色相を得ることが可能となった。
【0025】
本実施形態において、顔料をマスターバッチ化するために使用されるテルペン系樹脂は、柑橘類等の植物(たとえばオレンジ)の精油に由来するテルペン化合物に、重合処理を行うことにより得られるテルペン樹脂、およびかかる天然由来のテルペン樹脂から誘導されるテルペン樹脂誘導体を意味し、たとえば、かかる天然由来のテルペン樹脂に更に水素添加処理を行うことにより得られる水素添加テルペン樹脂、フェノールと共重合したテルペンフェノール共重合樹脂を含む。
(中略)
【0034】
商業的に販売されているポリ乳酸は耐熱性向上等のため、より高分子のポリ乳酸が得られる開環重合法で合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。本実施形態で結着樹脂として使用されるバイオプラスチックは、5,000~50,000の分子量を有する。したがって、所望の分子量のポリ乳酸は、市販のポリ乳酸を加水分解することにより得ることができる。
【0035】
ポリ乳酸を加水分解させる方法としては、恒温恒湿槽にポリ乳酸を置く方法が挙げられる。例えば、恒温恒湿槽を温度80℃、湿度80%RHに設定し、ポリ乳酸を処理すると、加水分解により分子量が低下し、数十時間でトナー用樹脂として適当な軟化温度、良好な粉砕性を得ることができる。
【0036】
また、ポリ乳酸を加水分解させる別の方法として、過熱水蒸気を使用する方法や、ポリ乳酸と水とを溶融混練する方法が挙げられる。
(中略)
【0040】
本実施形態のトナーには、バイオプラスチック以外に、必要に応じて、従来公知のトナー用樹脂を添加することができる。そのような樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂があるが、顔料分散性、低温定着性の観点から、トナー用に開発されたポリエステル樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独であっても、2種類以上を混合しても構わない。これらの樹脂の配合量は、環境への影響を考慮すると、トナー全体に対して、0~50質量%であることが好ましい。
【0041】
その他の材料として、粉砕性、定着性等の改善のため、低分子量の樹脂を添加することができる。ここで、低分子量の樹脂としては、分子量数百~数千のオリゴマー領域の樹脂であり、粘着付与剤として市販されている。ロジン及びロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等がある。」
(オ) 「【0045】
以上説明した電子写真用トナーは、従来公知の方法により製造することができる。
【0046】
例えば、特定の分子量に調整されたバイオプラスチック、マスターバッチ化された着色剤、および必要に応じてその他添加剤を含む原料を混合した後、2軸混練機や加圧ニーダー、オープンロールなどの混練機で混練し、混練物を得る。この混練物を冷却した後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、風力分級機等で分級することで、トナーを得ることができる。」
イ 上記記載から、引用文献には次の技術事項が記載されている。
(ア)記載事項(ア)の【請求項3】の「前記バイオプラスチックがポリ乳酸である」との記載を鑑みると、記載事項(ア)の【請求項1】における「バイオプラスチック」は、「ポリ乳酸」であるといえる。
(イ)記載事項(エ)の段落【0034】の「その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。本実施形態で結着樹脂として使用されるバイオプラスチックは、5,000~50,000の分子量を有する。」との記載に基づけば、記載事項(ア)の「5,000~50,000の分子量」及び記載事項(エ)の段落【0023】の「本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、結着樹脂として使用するバイオプラスチックの分子量は、5,000~50,000、好ましくは10,000~50,000、より好ましくは30,000~40,000であり、分子量が50,000を超える場合、5,000未満の場合のいずれの場合にも粉砕性が劣り、トナー化が困難となる。」において用いられる「分子量」は、いずれも「数平均分子量」を意味するといえる。
そして、上記記載事項(エ)の段落【0023】の「より好ましくは30,000~40,000であり」との記載を考慮すると、より好ましいバイオプラスチックとして、「数平均分子量30,000~40,000の分子量を有するポリ乳酸」が開示されているといえる。
(ウ)記載事項(エ)の段落【0025】の記載によれば、テルペン系樹脂として「テルペンフェノール共重合樹脂」を用いることが開示されているといえる。
ウ 以上の記載事項及び技術事項に基づけば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「数平均分子量30,000~40,000の分子量を有するポリ乳酸を含有する結着樹脂および着色剤マスターバッチを含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記着色剤マスターバッチが、100~140℃の軟化点を有するテルペンフェノール共重合樹脂および顔料を含む電子写真用トナー。」(以下、「引用発明」という。)
2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成13年6月22日に頒布された刊行物である特開2001-166537号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0005】
【発明の実施の形態】本発明の電子写真用トナーにおいては、ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体を含有することを必須とする。ポリ乳酸系生分解性樹脂は、主として乳酸成分からなるもので、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーをも含められる。ポリ乳酸系生分解性樹脂の重量平均分子量は、一般に5~50万である。また、ポリ乳酸系生分解性樹脂におけるL-乳酸単位とD-乳酸単位の構成モル比(L/D)は、100/0~0/100のいずれであっても良い。また、より高い定着強度を有し、かつより低い温度域での流動性を得るにはL乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位を75モル%~98モル%含むことが好ましい。更に好ましくはL乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位を80モル%~95モル%含むことが好ましい。75モル%を下まわる場合、ポリ乳酸系生分解樹脂はアモルファス状態となり定着強度が低下し、オフセット発生の原因となる傾向がある。他方、98モル%を上まわる場合、ポリ乳酸系生分解樹脂は高結晶性となり、流動開始点が高くなり、さらにポリ乳酸系生分解樹脂の融点においてシャープメルトし、キャリヤやその他の帯電部材への融着が発生する原因となる傾向がある。」
3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成15年9月5日に頒布された刊行物である特開2003-248339号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0037】本発明の電子写真用トナーは、結着樹脂成分として、ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体樹脂のブレンド品を含有して構成されているものである。ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体樹脂の含有比率(ブレンド比率)は、重量比で80:20から20:80の間で変更が可能である。ポリ乳酸系生分解性樹脂の含有量がこの範囲より増えると、混練物が強靭になり過ぎるため、粉砕分級が困難になるおそれがある。さらに、ポリ乳酸系生分解性樹脂の結晶が残存するため、その融点までの流動性が低減し、低温定着特性が不十分となるおそれがある。一方、テルペンフェノール共重合体樹脂の含有量が上記範囲より増えると製品のトナーが脆くなり過ぎるため、耐久性を含めた現像特性に問題を生じるおそれがあり、また、トナーの生分解性が低下する。生産性と製品品質を両立させるために、望ましいブレンド比率は、ポリ乳酸系生分解性樹脂:テルペンフェノール共重合体樹脂が50:50から30:70までの間である。」
4 引用文献4
原査定に引用され、本願出願前の平成26年2月13日に頒布された刊行物である特開2014-28882号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0066】
本発明で用いる(B)非晶性ポリ乳酸樹脂の製造方法については、開環重合法および直接重合法のいずれの方法も用いることができる。
【0067】
直接重合法にて(B)非晶性ポリ乳酸樹脂を得る方法としては、例えば、L-乳酸単位とD-乳酸単位、L-乳酸単位と他の成分単位、またはD-乳酸単位と他の成分単位を触媒存在下で開環重合を行うことで非晶性ポリ乳酸樹脂を得る方法を挙げることができる。」
5 引用文献5
原査定に引用され、本願出願前の平成18年3月16日に頒布された刊行物である特開2006-70057号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0025】
結晶性ポリ乳酸(A)は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造することができる。乳酸の縮合重合法とは、乳酸の有するカルボキシル基及び水酸基をエステル化反応させる方法であり、例えばL-乳酸もしくはD-乳酸又はこれらの混合物を高沸点溶媒存在下、減圧下で共沸脱水させる方法が挙げられる。ラクタイドを用いた開環重合法とは、開環したラクタイド同士をエステル化反応させる方法であり、例えば重合調節剤及び重合触媒の存在下でL-ラクタイド又はD-ラクタイドを開環させる方法が挙げられる。このとき、D-乳酸とL-乳酸の2量体であるDL-ラクタイドを本発明の目的を達成する範囲内で併用しても良い。」
イ 「【0086】
非結晶性ポリ乳酸は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造できる。乳酸の縮合重合法とは、乳酸の有するカルボキシル基及び水酸基をエステル化反応させる方法であり、例えばL-乳酸もしくはD-乳酸、又はこれらの混合物を高沸点溶媒存在下、減圧下で共沸脱水させる方法である。ラクタイドを用いた開環重合法とは、開環したラクタイド同士をエステル化反応させる方法であり、例えば重合調節剤及び重合触媒の存在下でL-ラクタイドもしくはD-ラクタイド、又はD-乳酸とL-乳酸の2量体であるDL-ラクタイドを開環させる方法である。」
第4 対比・判断
1 本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「数平均分子量30,000~40,000の分子量を有するポリ乳酸」と本願発明1の「重量平均分子量(Mw)が30,000~100,000の非晶質ポリ乳酸」とは、「ポリ乳酸」である点で共通する。
(イ)引用発明の「電子写真用トナー」は、「テルペンフェノール共重合樹脂」を含むものであるから、本願発明1の「フェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂の少なくとも一方とを含」むとする要件を満たしている。
以上より、本願発明1と引用発明とは、
「ポリ乳酸と、フェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂の少なくとも一方とを含む電子写真用トナー。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本願発明1のポリ乳酸は「重量平均分子量(Mw)が30,000~100,000」であるのに対し、引用発明のポリ乳酸は「数平均分子量が30,000~40,000」である点。
[相違点2]本願発明1のポリ乳酸は「非晶質」であるのに対し、引用発明のポリ乳酸は非晶質とされていない点。
[相違点3]本願発明1は、トナー質量に対するポリ乳酸の割合、及び、トナー質量に対するフェノール樹脂とテルペンフェノール樹脂との合計量を特定の範囲としているのに対し、引用発明では、特定の範囲としていない点。
イ 判断
事案に鑑みて、[相違点2]について検討する。
引用文献1の記載事項(エ)の段落【0034】には、「商業的に販売されているポリ乳酸は耐熱性向上等のため、より高分子のポリ乳酸が得られる開環重合法で合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。・・・したがって、所望の分子量のポリ乳酸は、市販のポリ乳酸を加水分解することにより得ることができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用発明の「ポリ乳酸」は、開環重合法で合成され、加水分解することにより得られるものであるといえるが、引用発明の「ポリ乳酸」が非晶質であるか否かについては明らかではない。
一方、引用文献2~5の記載を参酌すると、開環重合法で合成されたポリ乳酸は、ポリ乳酸を構成する単位の割合によって非晶質となる場合と結晶状態となる場合があり、トナーにおける結着樹脂として用いるものであったとしても、開環重合法で合成されたポリ乳酸が「非晶質」であるとはいえない。ここで、引用文献2には、「ポリ乳酸系生分解性樹脂は、主として乳酸成分からなるもので、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーをも含められる。」との記載があり、さらにL乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位のモル%について、「75モル%を下まわる場合、ポリ乳酸系生分解樹脂はアモルファス状態となり定着強度が低下し、オフセット発生の原因となる傾向がある。他方、98モル%を上まわる場合、ポリ乳酸系生分解樹脂は高結晶性となり、流動開始点が高くなり、さらにポリ乳酸系生分解樹脂の融点においてシャープメルトし、キャリヤやその他の帯電部材への融着が発生する原因となる傾向がある。」と記載されており、ポリ乳酸系生分解性樹脂は、主として乳酸成分からなるもので、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーをも含められるところ、L乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位が75モル%を下まわる場合、ポリ乳酸系生分解樹脂はアモルファス状態となり、98モル%を上まわる場合、ポリ乳酸系生分解樹脂は高結晶性となることが開示されているといえる。また、引用文献3には、結着樹脂成分として、ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体樹脂のブレンド品を含有している電子写真用トナーにおいて、「さらに、ポリ乳酸系生分解性樹脂の結晶が残存するため、その融点までの流動性が低減し、低温定着特性が不十分となるおそれがある。」と記載しており、ポリ乳酸系生分解性樹脂が結晶として存在することが開示されているといえる。さらに、引用文献4には、「非晶性ポリ乳酸樹脂の製造方法については、開環重合法および直接重合法のいずれの方法も用いることができる。」と記載されており、開環重合法および直接重合法のいずれの方法でも非晶性ポリ乳酸樹脂を得ることができることが開示されているといえる。そして、引用文献5には、記載事項アに「結晶性ポリ乳酸(A)は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造することができる。」、記載事項イに「非結晶性ポリ乳酸は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造できる。」との記載があり、これらの記載に基づけば、開環重合法で結晶性ポリ乳酸及び非結晶性ポリ乳酸の両方が製造できることが開示されているといえる。
したがって、本願発明1と引用発明とが同一であるとはいえないものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとすることはできない。
また、引用発明の「ポリ乳酸」として、本願出願前に周知であった非晶質ポリ乳酸を採用することが当業者にとって容易になし得たことといえるかについて検討すると、本願明細書の段落【0014】には、結晶性バイオプラスチックを使用した場合について、「一般に、結着樹脂として結晶性バイオプラスチックを使用した電子写真トナーの製造においては、バイオプラスチックの分子量を相当に小さくしないと、高い粉砕性を達成することが難しい。」と記載されており、段落【0015】に非晶質バイオプラスチックを用いた場合には、「本発明者らは、非晶質バイオプラスチックと、フェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂の少なくとも一方との組み合わせは、バイオプラスチックの分子量がそれほど小さくなくても高い粉砕性を達成できることを知見し、本発明をなすに至った。」と記載されており、非晶質ポリ乳酸を採用することにより、加水分解などの分子量を小さくする処理を省くことができるという効果があるとされている。一方、引用文献1では、段落【0034】に「所望の分子量のポリ乳酸は、市販のポリ乳酸を加水分解することにより得ることができる。」と記載されており、分子量を小さくする処理を省くことができるという効果が示されていない。また、引用文献2~5についても同様である。このように、分子量を小さくする処理を省くことができるという効果は本願出願前に知られていた効果とはいえず、当該効果は当業者が予測しうる程度のものとはいえない。
したがって、引用発明において、ポリ乳酸を非晶質とすることが当業者にとって容易であったとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおり、引用発明において本願発明1の[相違点2]に係る構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえないものであるから、[相違点1]および[相違点3]について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないものである。したがって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
2 本願発明2~6について
本願発明2~6は、本願発明1を減縮した発明であり、いずれも本願発明1の[相違点2]に係る構成を具備するものである。
したがって、本願発明1と同じ理由により、引用発明と同一ではなく、また、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本願発明7について
本願発明7は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の[相違点2]に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明と同一ではなく、また、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1,2,7,8について、上記引用文献1に記載された発明との間に差異はない、又は、請求項1~8について、上記引用文献1に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものである。
しかしながら、上記「第4」に記載したとおり、本願発明1は引用発明と少なくとも[相違点2]で相違しており、既に記載したとおり、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1~8について、発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。
これについて、平成29年8月25日付けの手続補正において、「前記非晶質ポリ乳酸はトナー質量に対して20~80質量%の割合で含まれ、前記フェノール樹脂と前記テルペンフェノール樹脂との合計量はトナー質量の10~60質量%の範囲にある」と補正された。
この結果、当審で通知した拒絶の理由は解消した。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1~7は、引用発明と同一の発明ではなく、当業者が引用発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-012128