特許拒絶査定不服審判
2016-008627
III-V族窒化物基板ボウル、並びにIII-V族窒化物基板ボウル製造法及び使用法
- 審判番号
- 2016-008627
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-030490外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年06月09日
- 審決日
- 2017年05月22日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】クリー インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 分類
- P18 .121-Z (C30B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014- 30490「III-V族窒化物基板ボウル、並びにIII-V族窒化物基板ボウル製造法及び使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月24日出願公開、特開2014-133695〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2001年3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年3月13日、米国)を国際出願日とする特願2001-567830号の一部を平成26年2月20日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月20日に手続補正書が提出され、平成27年1月15日付け拒絶理由通知書に対して、平成27年4月16日に手続補正書が提出され、平成27年8月25日付け拒絶理由通知書に対して、平成27年11月30日に手続補正書が提出され、その後、平成28年2月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年6月9日に拒絶査定に対する不服審判請求がなされたものである。
2 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明は、平成27年11月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも1つの(Al,Ga,In)Nブールをワイヤー・ソーによりスライシングして(Al,Ga,In)Nウエハーブランクを形成するスライシング工程と、
前記スライシング工程で得た(Al,Ga,In)Nウエハーブランクの表面を研磨して(Al,Ga,In)Nウエハーを得る工程と
を含み、
前記スライシング工程では、複数のワイヤーが平行に配置され、かつ単一のスライス操作で少なくとも1つの(Al,Ga,In)Nブールがスライスされて、a-軸、c-軸、m-軸およびr-軸からなる群から選択された1つの結晶軸の方向から10度以下ずれた配向を有する(Al,Ga,In)Nウエハーブランクを得る、(Al,Ga,In)Nウエハーの製造方法。」
3 引用文献及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-22212号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】図1はGaN成長のための基板となりうる材料のGaNに対する格子定数と熱膨張率の比を示す。サファイヤ(Al2O3)、SiC、Si、GaAs、ZnOなどが比較衡量される。窒化物系半導体発光デバイス或いはGaN系発光デバイスは従来サファイヤ基板の上にGaN薄膜などをエピタキシャル成長して作られていた。・・・
・・・
【0004】ところがサファイヤ基板にもなお問題がある。サファイヤ基板上のGaNエピタキシャル層の欠陥密度は極めて高い。これは格子のミスマッチからくるのであろうか。
・・・
【0009】薄膜、基板間の熱膨張係数の違いによる第1の問題は、GaN薄膜に熱応力が発生しGaN薄膜に欠陥やマイクロクラックなどが入ってしまう事である。熱膨張係数相違による第2の問題は、冷却時に反りが発生するということである。ウエハ-の全体が反りによる変形を受ける。第3の問題は大きい複合GaN基板ができないということである。・・・
【0012】熱膨張係数の差、格子定数の差は異種材料を使う限り常につきまとう。最も理想的な基板はGaN基板である。・・・」
イ 「【0017】
【発明が解決しようとする課題】GaN発光素子を作製する基板はGaN単結晶が最も適する。・・・」
ウ 「【0059】(4)GaNの厚付け
これを十分に洗浄した。図6(4)のような状態になる。GaNだけになったものをふたたびHVPE装置にセットした。基板温度を1020℃として、HVPE法によってGaNを厚付けしGaNのインゴットを得た。図7(1)に示す状態である。このインゴットは中央部が少し窪んだ形状であった。最低高さは約20mm、外径55mmのインゴットであった。
【0060】(5)スライサーによるウエハ-の切り出し
内周刃スライサーによってインゴットを軸方向に直角な方向に切りだした。図7(2)に示すようである。外径約50mm、厚み350μmのGaN単結晶基板20枚を得た。GaNを分析したところ、As、炭素ともにバックグランドのレベルであった。ひ素(As)、炭素が、GaNのなかに殆ど含有されていない事が分かる。
【0061】(6)研磨
さらにラッピング研磨、仕上げ研磨をした。図7(3)のような透明ウエハ-である。機械加工をしているため基板には反りは無かった。
(7)X線回折
このGaN基板を実施例1と同じように、X線回折装置によって、基板表面とGaN(0001)面との角度の関係を調査した。基板表面の法線とGaN(0001)面の法線のなす角度が、基板内で最大0.6゜であることが分かった。GaN(0001)面の法線の方向のバラツキが基板内で、0.5゜であることが分かった。また研磨後の基板の反り量は、2インチ長(D=50mm)でH=約15μmであった。R=D2/8Hであるから、R=20000mm程度である。十分にフォトリソグラフィが適用できる平坦さである。」
(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-44399号公報(以下、「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0015】・・・50時間保持する事により10mmのバルクGaN結晶が成長する。成長したGaNバルク結晶をGa原料中より取り出し、ダイヤモンドを電着したワイヤーを用いたワイヤー切断機でウエハー状に切断し、評価した結果、欠陥密度が104cm-3以下と少なく結晶性に優れた、キャリア濃度1×1019cm-3の単結晶基板が成長できた。・・・」
(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平10-337725号公報(以下、「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体用シリコンや石英、ガラス、セラミックス等の硬脆材料、特にはこれら硬脆材料のインゴット等を切断する切断方法および前記切断方法により得られる硬脆材料ディスクに関する。」
イ 「【0002】
【従来の技術】従来、半導体用シリコンや石英、ガラス、セラミックス等の硬脆材料、特にはこれら硬脆材料のインゴット等を切断する切断方法としては、主に円盤状の内周に研磨刃を設けた内周刃を高速回転させて硬脆材料を切断する内周刃スライサーを用いる方法や複数列に張ったワイヤ表面に切削油剤と遊離砥粒を混合したスラリーを供給し、硬脆材料を前記ワイヤに押しつけながら切り込むマルチワイヤーソーを用いる方法等が用いられている。」
ウ 「【0016】(実施形態1)本発明の硬脆材料の切断方法を実施する装置としては、図1に示されるように、従来のワイヤソー装置とほぼ同様の機構を有しているが、揺動をさせるための機構として、切断される硬脆材料であるインゴット1が固定スタンド2にワックス等を用いて固定されており、この固定スタンド2を有する揺動台3を揺動軸4を中心に揺動させる前記揺動軸に連結された揺動用ロータリーエンコーダー5を有している。
【0017】前記揺動を行う揺動用ロータリーエンコーダー5は、垂直移動するスライドテーブル7に連結されている水平支持板6に固定されており、前記水平支持板6を垂直移動用ロータリーエンコーダー9により上下させることにより、揺動台3の固定スタンド2に固定されたインゴット1を下方に移動させ、切断用のワイヤ12に当接させて切断を実施できるようにされている。」
エ 「【0029】また、本実施形態1によれば、複数の切断加工を同時に実施できることから切断能力が高く、内周刃における研磨刃等に比較して使用するワイヤが細いことから切断ロスが少ないという従来のワイヤーソーの特徴をそのままに、高い強度と平滑性を兼ね備えた硬脆材料デイスクを得ることができる。」
(4)周知技術を示す文献として引用する特開平8-330236号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】有機金属気相成長法により、GaAs,AlGaAs,InGaP,InP,InGaAs等の化合物半導体結晶薄膜を作製する場合、化合物半導体基板の結晶面方位は、<100> 面から、<110> 方向に2°傾斜させたもの(通称2°オフ基板)を一般に用いる。その理由は、<100> 面(通称ジャスト基板)に、有機金属気相成長法により薄膜を成長すると、基板の転位(欠陥)を核に異常成長し、得られるエピタキシャル薄膜に欠陥が多くなるからである。このため、鏡面成長が困難になり、表面が曇ることが多い。一方、2°オフ基板を用いると、基板上に単原子層のステップ(モノレイヤーステップ)が存在し、そのステップ(キンク)を核とした成長(ステップフロー成長)が行われるため、ジャスト基板に比較し基板の転位を核にした異常成長が抑えられ、鏡面成長が可能となる。」
(5)周知技術を示す文献として引用する特開平9-12396号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【0003】上記{111}ウエハには結晶基板面の垂線と〈111〉方位とが一致している結晶基板を用いるが、気相エピタキシャル成長法によりエピタキシャル膜(以後、単に「膜」と略す)を成長させる{100}ウエハには、結晶基板面の垂線が結晶の面方位からずれているオフセット結晶基板が用いられている。気相エピタキシャル成長法では、結晶基板面の垂線と結晶の面方位とが一致していない方が結晶の成長性に優れているからである。」
イ 「【0018】
【実施例】液体封止引き上げ法により〈100〉方位に引き上げられた単結晶を20本用意し、10本は種結晶から見て{111}Ga面側に5度、残りの10本は種結晶から見て{111}P面側に5度オフセットを設け、ワイヤーソーにて切断した。オフセット方向を種結晶から見て{111}Ga面側とした結晶基板は全て種結晶側が凸に反っており、{111}P面側とした結晶基板は全て種結晶側が凹に反っていた。」
(6)周知技術を示す文献として引用する特開平7-237993号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【0011】
【作用】ファセット面のジャスト基板よりも傾斜した基板(ジャスト基板に傾斜角度を持った面で切り出される基板をオフ基板という。以下、オフ基板という)を用いることにより、具体的な例としては0.5~5゜傾斜した基板を用いることにより、核発生サイト密度を多くすることが可能となる。すなわち、基板結晶表面にステップが現れ、その結果多数のキンクが存在するため、ファセット面においても見かけ上の成長速度を速める事ができ、ガーネット基板上に付着した不純物粒子の影響を受けることなく、成長速度の速い面方位と同程度の平坦性の良好な磁性ガーネット膜を得ることができる。」
イ 「【0012】
【実施例】以下に、GGG単結晶基板にYIG単結晶薄膜をLPE法により成膜した例を示す。(110)面について、[100]および[111]方向に2゜および5゜傾けてスライスし、高精度に研磨処理されたオフ基板を用いて成膜を行った。」
4 当審の判断
(1)引用文献1に記載された発明
上記3(1)ウの記載事項によれば、引用文献1には、内周刃スライサーによってGaNインゴットを軸方向に直角な方向に切りだし、GaN単結晶基板を得て、さらにラッピング研磨及び仕上げ研磨をして、透明ウエハ-を得ることが記載されている。また、上記3(1)ウの記載事項によれば、前記透明ウエハーであるGaN基板の基板表面の法線は、GaN(0001)面の法線となす角度は最大0.6゜であることが記載されていることから、前記透明ウエハーであるGaN基板は、基板表面がGaN(0001)面であるGaN単結晶基板といえる。
これら記載を本願請求項1の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、「GaNインゴットを内周刃スライサーにより軸方向に直角な方向に切りだして、GaN単結晶基板を得ること、前記切りだされたGaN単結晶基板をラッピング研磨及び仕上げ研磨することによって、表面が(0001)面であるGaN単結晶基板を得る方法。」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本願発明1と引用1発明との対比
本願発明1と引用1発明を対比すると、引用1発明の「GaNインゴット」、「切りだし」すること、「切りだされたGaN単結晶基板」、「ラッピング研磨及び仕上げ研磨」、「表面が(0001)面であるGaN単結晶基板」は、それぞれ、本願発明1の「少なくとも1つの(Al,Ga,In)Nブール」、「スライシング」、「(Al,Ga,In)Nウエハーブランク」、「研磨」、「(Al,Ga,In)Nウエハー」に相当するから、両者は、「少なくとも1つの(Al,Ga,In)Nブールをスライシングして(Al,Ga,In)Nウエハーブランクを形成するスライシング工程と、前記スライシング工程で得た(Al,Ga,In)Nウエハーブランクの表面を研磨して(Al,Ga,In)Nウエハーを得る工程とを含む、(Al,Ga,In)Nウエハーの製造方法」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
スライシング工程において、本願発明1では、「ワイヤー・ソー」によるスライシングであって、「複数のワイヤーが平行に配置され、かつ単一のスライス操作で少なくとも1つの(Al,Ga,In)Nブールがスライス」されているのに対して、引用1発明では、「内周刃スライサー」によってスライシングされている点。
(相違点2)
スライシング工程によって、本願発明1では、「a-軸、c-軸、m-軸およびr-軸からなる群から選択された1つの結晶軸の方向から10度以下ずれた配向を有する(Al,Ga,In)Nウエハーブランク」を得ているのに対して、引用1発明では、GaNインゴットを軸方向に直角な方向に切りだして、研磨後のGaN単結晶基板の基板表面は(0001)面である点。
(3)相違点の検討
上記相違点1について検討する。
上記3(3)ア~エの記載事項によれば、引用文献6には、半導体用シリコンや石英、ガラス、セラミックス等の硬脆材料のインゴットをマルチワイヤーソーで切断する切断方法が記載され、また、マルチワイヤーソーによる切断が、複数の切断加工を同時に実施できることから切断能力が高く、内周刃における研磨刃等に比較して使用するワイヤが細いことから切断ロスが少ないという特徴を有することも記載されている。
そして、引用文献6には、硬脆材料のインゴットとして、GaNインゴットを切断対象とすることは明示されていないが、上記3(2)アの引用文献5の記載事項によれば、GaNインゴットは、ワイヤーソーで切断できることから、引用文献6に記載されたマルチワイヤーソーによる切断対象として、GaNインゴットが除外されるものでもない。
そうしてみると、引用1発明のGaNインゴットの内周刃スライサーによるスライシングに代えて、切断能力を向上させ、切断ロスを少なくするために、引用文献6に記載されたマルチワイヤーソーによるスライシング、すなわち、複数のワイヤーが平行に配置され、かつ単一のスライス操作でGaNインゴットをスライスすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
そして、単一のスライス操作で複数のウエハーを得ることができるとの本願発明の効果は、引用文献1、5、6に記載された事項から当業者が予測できる範囲内のものである。
次に、上記相違点2について検討する。
引用1発明の研磨後のGaN単結晶基板の基板表面は(0001)面であるから、研磨前の切りだされたGaN単結晶基板も、(0001)面、すなわち、c-軸の結晶軸の方向に配向を有する面を有しているといえる。
ここで、エピタキシャル成長に適した基板として、結晶基板表面の垂線が結晶の面方位からずれており、その表面にステップを有する、オフセット結晶基板を使用することは、周知技術(例えば、上記3(4)ア、上記3(5)ア、上記3(6)アの記載事項を参照)であるし、また、当該オフセット単結晶基板を得るために、単結晶インゴットの結晶の面方位から傾けてオフセット結晶基板を切り出すことも、周知技術(上記3(5)イ、上記3(6)イの記載事項を参照)である。
そして、引用1発明で得られるGaN単結晶基板は、上記3(1)ア及びイの記載事項によれば、GaN薄膜などのエピタキシャル成長に用いるものであるから、該GaN単結晶基板をエピタキシャル成長に適した基板とするために、GaNインゴットを切り出す際に、結晶の面方位から傾けて切りだして、c-軸の結晶軸の方向に配向を有する面からオフセットしたGaN単結晶基板を得ることは、当業者であれば、容易に想到し得ることであるし、また、エピタキシャル膜に適するように、該オフセットの角度の10度以下とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
そして、エピタキシャル成長に適した、ステップのある表面を備える(Al,Ga,In)Nウエハーを、(Al,Ga,In)Nブールをスライスする際の方向を調整するだけで形成できるとの本願発明の効果は、引用文献1に記載された事項や周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。
また、上記相違点1及び2に係る本願発明1の発明特定事項を組み合わせることによって新たな効果を奏するものでもない。
5 むすび
したがって、本願発明1は、引用文献1、引用文献5及び引用文献6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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