特許拒絶査定不服審判
2016-003315
タイヤ
- 審判番号
- 2016-003315
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-223282外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年03月03日
- 審決日
- 2017年03月21日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社ブリヂストン
- 【請求人代理人】中島 淳
- 【請求人代理人】加藤 和詳
- 【請求人代理人】福田 浩志
- 分類
- P18 .113-WY (B60C) / P18 .121-WY (B60C) / P18 .537-WY (B60C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-223282号「タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 82310号、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願は、平成23年10月7日の出願であって、平成27年4月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月26日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成28年3月3日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。その後、当審において平成28年11月25日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年1月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の特許を受けようとする発明は、平成29年1月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は以下のとおりである。
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、極性を有する熱可塑性樹脂で被覆されており、
前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであり、
前記極性を有する熱可塑性樹脂のSP値が12.5以上であり、
前記極性を有する熱可塑性樹脂が、エチレン含量が28~50モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体であるタイヤ。」
第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の平成27年6月15日付けの手続補正により補正された請求項1~5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
刊行物等
引用文献1: 特開2011-42236号公報
引用文献2: 特開2011-42235号公報
引用文献3: 特開2010-125890号公報
引用文献4: 特開2002-331806号公報
引用文献1又は2に記載された発明において、SP値をどの程度とするかは、当業者が実験等により最適化を図りながら適宜決定しうる設計的事項であって、引用文献1又は2の被覆層29または第1の被覆用熱可塑性材料27の材料及び接合性等を考慮すると、12.5以上に設定することに格別の困難性はない。
また、引用文献3又は4には、補強コードを被覆する熱可塑性樹脂に、エチレン―ビニルアルコール共重合体を用いる技術が記載されている。
2 原査定の理由の判断
(1) 刊行物等の記載事項
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
(1a) 「【請求項1】
熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材の外周部に補強コード部材を巻回して形成され、前記タイヤ骨格部材の幅方向に沿った断面で見て前記補強コード部材の少なくとも一部が前記外周部に埋設された補強層と、
被覆用熱可塑性材料で形成され、前記外周部に接合されて前記補強層を覆う被覆層と、
を有するタイヤ。
…
【請求項6】
前記熱可塑性材料と前記被覆用熱可塑性材料が同種である請求項1~請求項5の何れか1項に記載のタイヤ。」
(1b) 「【0005】
特許文献1の空気入りタイヤでは、耐久性、乗り心地、走行性能等の観点から、タイヤ骨格部材の外周部に補強コードを連続螺旋状に巻回して補強層を形成している。しかしながら、熱可塑性の高分子材料を用いて成形されたタイヤ骨格部材のクラウン部表面に補強コードを直接螺旋巻きし、その上に他のタイヤ構成部材(例えばトレッドなど)を配設した場合、補強コード周囲(補強コードとクラウン部との間)に隙間が生じて空気が残る(空気が入る)ことがある。空気入りが生じた場合には、補強コードがクラウン部表面に接着剤で接着されていても、走行時の入力で補強コードが動いてタイヤの耐久性を低下させる虞がある。このため、特許文献1では、クラウン部に設けたクッションゴムに補強コードを被覆埋設して補強層を形成することで補強コード周囲に空気入りが生じるのを抑制して補強コードの動きを抑制している。
…
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、空気入りを抑制して耐久性を向上させたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供することが目的である。」
(1c) 「【0039】
[第1実施形態]
以下、図面にしたがって本発明のタイヤの第1実施形態に係るタイヤについて説明する。図1(A)に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0040】
図1(A)に示すように、タイヤ10は、リム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する一対のビード部12(図1(B)参照)、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)からなる環状のタイヤケース17(タイヤ骨格部材の一例)を備えている。
【0041】
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(ビード部12、サイド部14、クラウン部16など)に異なる特徴を有する熱可塑性材料を用いてもよい。
また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0042】
熱可塑性材料としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができるが、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0043】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、熱可塑性材料の同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
【0044】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。」
(1d) 「【0049】
図1(A)及び図2に示すように、クラウン部16には、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料よりも剛性が高い補強コード26の一部(本実施形態では直径の約半分)が埋設されると共に螺旋状に巻回されて補強層28(図2では破線で示されている)が形成されている。補強層28は、クラウン部16に接合された被覆層29によって覆われている。この被覆層29は、被覆用熱可塑性材料で形成されており、被覆層29の幅方向両端部29Eは、補強層28の幅方向両端部28Eよりも幅方向外側に位置している。なお、幅方向とは、タイヤケース17又はタイヤ10の幅方向を示し、補強層28の幅方向両端部28Eとは、補強層28を形成する補強コード26のうち幅方向最外側の補強コード26の幅方向端部を示している。ここで、被覆層29の幅方向両端部29Eは、補強層28の幅方向両端部28Eよりも幅方向外側に位置している、すなわち、被覆層29は補強層28が形成された領域よりも広い領域でクラウン部16を覆っていることから、クラウン部16と被覆層29との接合面積が広く確保され、クラウン部16と被覆層29との間の接合強度が向上している。
【0050】
また、図2に示すように、補強コード26は、外周面の一部(図2では下部)がクラウン部16に埋設されてクラウン部16の熱可塑性材料に密着し、クラウン部16から露出した外周面の残りの部分(図2では上部)が被覆層29に覆われて被覆用熱可塑性材料に密着している。
【0051】
また、補強コード26は、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態では補強コード26としてスチール繊維を撚ったスチールコードを用いている。なお、補強層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。」
(1e) 「【0058】
また、押出機44は、ノズル46をノズル88に交換可能となっている。このノズル88は、出口部がノズル46よりも幅広とされた略矩形状とされ、押出機44内の材料を被覆用熱可塑性材料と交換することで、溶接用熱可塑性材料53よりも幅広(本実施形態では一例として幅20mmとしている)とされた帯状の溶融又は軟化状態の被覆用熱可塑性材料90を吐出することができるようになる(図7参照)。この被覆用熱可塑性材料90は、後述するコード部材巻回工程でクラウン部16に埋設された補強コード26を覆い、補強コード26周囲の熱可塑性材料と溶接されるものである。このため、タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種のもの、特に同一のものが好ましいが、溶接できれば異なる種類のものであってもよい。なお、以下では符号のない被覆用熱可塑性材料は固化状態のものを示し、符号の付された被覆用熱可塑性材料90は溶融又は軟化状態のものを示す。
…
【0088】
(作用)
本実施形態のタイヤ10では、熱可塑性材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16に補強コード26を埋設すると共に巻回して補強層28を形成していることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、熱可塑性材料で形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
【0089】
また、図2に示すように、補強コード26は、クラウン部16に埋設された部分が熱可塑性材料に密着し、クラウン部16から露出した部分が被覆層29の被覆用熱可塑性材料に密着していることから、補強コード26周囲への空気入りが抑制されている。これにより、走行時の入力などで補強コード26が動くのが抑制されて耐久性が向上する。
…
【0092】
また、熱可塑性材料と被覆用熱可塑性材料90とが同種の場合には、被覆用熱可塑性材料90で補強層28を覆って被覆層29を形成することから、接合部分(覆った部分)の熱可塑性材料と被覆用熱可塑性材料90とが良く混ざり合い、クラウン部16と被覆層29との接合強度が向上する。」
(1f) 引用文献1の図1、2及び6にはそれぞれ以下の図が記載されている。
(2) 引用文献に記載された発明
引用文献1には、
ア 熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、前記タイヤ骨格部材の外周部に補強コード部材を巻回して形成され、前記タイヤ骨格部材の幅方向に沿った断面で見て前記補強コード部材の少なくとも一部が前記外周部に埋設された補強層と、被覆用熱可塑性材料で形成され、前記外周部に接合されて前記補強層を覆う被覆層と、を有するタイヤに関し(摘示(1a)【請求項1】)、
イ
(ア) タイヤケース17は、タイヤ骨格部材の一例であること(摘示(1c)【0040】)、
(イ) タイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されていること(摘示(1c)【0041】)、
(ウ) タイヤケース17を形成する熱可塑性材料は、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)であること(摘示(1c)【0043】)、
ウ 補強コード26はスチールコードであること(摘示(1d)【0051】)、
エ
(ア) 被覆用熱可塑性材料90は、クラウン部16に埋設された補強コード26を覆い、補強コード26周囲の熱可塑性材料と溶接されること(摘示(1e)【0058】)、
(イ) 被覆用熱可塑性材料90は、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料と同種又は同一のものであること(摘示(1e)【0058】)
が記載されており、また、
オ
(ア) 上記「ウ」の「補強コード26」は上記「ア」における「補強コード部材」に相当するものであること、
(イ) 上記「(ア)」、摘示(1f)の図1及び6より、上記「ア」において補強コード部材はタイヤケース17の「周方向」に巻回されているといえること、
が明らかである。
これらのことから、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材と、前記タイヤ骨格部材の外周部に補強コード部材をタイヤ骨格部材の周方向に巻回して形成され、前記タイヤ骨格部材の幅方向に沿った断面で見て前記補強コード部材の少なくとも一部が前記外周部に埋設された補強層と、被覆用熱可塑性材料で形成され、前記外周部に接合されて前記補強層を覆う被覆層と、を有するタイヤであって、
補強コード部材は、スチールコードであり、
被覆用熱可塑性材料は、補強コード部材を覆うものであり、
被覆用熱可塑性材料は、タイヤ骨格部材を形成する熱可塑性材料と同種又は同一のものである、
タイヤ。」
(3) 対比
ア 本願発明と引用発明1を対比する。
(ア) 引用発明1の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材」「を有する」ことは、本願発明の「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体」「を有する」こと及び「タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであ」ることに相当する。
(イ)
a 引用発明1の「補強コード部材」は、「スチールコードであ」ることから、本願発明の「補強金属コード部材」に相当する。
b 引用発明1の「補強コード部材」は、「タイヤ骨格部材の外周部に」当該「補強コード部材」を「タイヤ骨格部材の周方向に巻回」されるものであるから、上記「a」の相当関係より、本願発明の「タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材」に相当する。
(ウ) 引用発明1の「被覆用熱可塑性材料は、補強コード部材を覆うものであ」ることは、本願発明の「補強金属コード部材の少なくとも一部が、極性を有する熱可塑性樹脂で被覆されて」いることと、「補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されて」いる限度で一致する。
(エ) 引用発明1の「タイヤ」は、本願発明の「タイヤ」に相当する。
イ 以上によれば、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されており、
前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであるタイヤ。」
[相違点]
本願発明においては、被覆用物質は「極性を有する熱可塑性樹脂」であって「SP値が12.5以上であ」り、かつ「エチレン含量が28~50モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体である」のに対し、引用発明1の「被覆用熱可塑性材料」はそのように特定された物質ではない点。
(4) 判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明1の「被覆用熱可塑性材料」は、「タイヤ骨格部材を形成する熱可塑性材料と同種又は同一のもの」であって、摘示(1e)【0092】には同種の材料を用いることで「接合強度が向上する」と記載されている。よって、引用文献1に接した当業者は、当該「被覆用熱可塑性材料」として、引用発明1の「被覆用熱可塑性材料」の材料をタイヤ骨格部材と同一の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)」、又は、同種(摘示(1c)【0043】)の「ポリアミド樹脂」(摘示(1c)【0044】)等を選択することを想起するといえる。
イ なお、摘示(1e)【0058】には「溶接できれば異なる種類のものであってもよい。」と記載されている。しかしながら、引用文献1(摘示(1c)の【0041】~【0044】等)には、上記相違点に係る本願発明の被覆用物質を用いることは記載も示唆もされていない。
そして、引用発明1の課題は、タイヤ骨格部材に熱可塑性の高分子材料を用いたタイヤにおいて、補強コード周囲に隙間が生じて空気が残ることを抑制することである(摘示(1b)【0005】)ところ、引用文献3(【0023】)及び引用文献4(【0008】)には、タイヤにエチレン―ビニルアルコール共重合体を用いることが記載されているものの、いずれもタイヤ骨格部材にゴムを用いたタイヤに関する技術であって、引用発明1の課題を解決するものでもないから、引用文献3及び4に記載されたエチレン―ビニルアルコール共重合体を用いる技術を引用発明1に適用する動機付けも存在しないし、また、引用文献3及び4に記載されたエチレン―ビニルアルコール共重合体は「エチレン含量が28~50モル%」と特定されたものではないから、仮に適用したとしても上記相違点に係る本願発明の事項に至らないことは明らかである。
ウ また、「第4 当審拒絶理由について」において詳細に検討しているので省略するが、上記相違点に係る本願発明の事項は、引用文献2にも記載も示唆もされていないものである。
エ さらに、本願発明は、当該相違点に係る本願発明の事項により、本願明細書の【0133】の表1に示されるような効果を奏するものであって、当該効果は引用発明1及び引用文献1~4の記載事項に基いて当業者が予測できる範囲のものとはいえない。
オ よって、当該相違点に係る本願発明の構成は、引用発明1及び引用文献1~4の記載事項に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。
(4) 小括
本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用発明1及び引用文献1~4の記載事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
[理由A]この出願の平成28年3月3日付けの手続補正により補正された下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由B]この出願の平成28年3月3日付けの手続補正により補正された下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[理由C]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
記
刊行物等
引用文献A: 特開2011-42235号公報(引用文献2と同じ文献)
引用文献B: 社団法人高分子学会編、「プラスチック加工技術ハンドブック」、初版、日刊工業新聞社、1995年6月12日発行、1252~1257ページ
[理由A及びBについて]
引用文献A(請求項1、【0055】、【0061】、【0075】、図1及び図8等参照。)には、技術常識(引用文献B)を参酌すれば、請求項1~3に係る発明が記載されている。また、引用文献Aの記載事項に基づいて請求項5に係る発明に想到することは当業者が適宜なし得る設計変更である。
[理由Cについて]
本願の明細書【0006】では、「タイヤの耐久性を更に高めるためには、タイヤ骨格体に対する補強コードの接着耐久性の観点から改善の余地がある。」と記載され、また、【0007】には「本発明は、前記問題を解決すべく成されたものであり、樹脂材料で形成され、補強コードとタイヤ骨格体との接着耐久性に優れたタイヤを提供することを目的とする。」と記載されているから、本願の解決すべき課題は、「タイヤ骨格体に対する補強コードの接着耐久性」であると認められる。
これに対し、【0132】~【0133】には、その評価試験の結果が記載されているところ、当該評価試験ではタイヤ骨格体に相当する試験片として「ポリアミドエラストマーXPA9044」のみが用いられ、また、ワイヤー被覆樹脂として「EVOH」、「ポリアミドMX」、「ポリアミド6」のみが用いられている。
樹脂やエラストマーの接着性は、その種類によって様々に異なることが技術常識であるから、当該評価試験の結果によっては、タイヤ骨格体としてポリアミド系エラストマー以外の樹脂材料を用いたとき、及び、ワイヤー被覆樹脂としてエチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリアミド樹脂以外の樹脂材料を用いたときにも課題が解決できるものとはいえない。
よって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1~4、及び、請求項1~3のいずれかを引用する請求項5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものとはいえない。
2 当審拒絶理由の判断
本願発明は、平成28年3月3日付けで補正された特許請求の範囲の請求項5(請求項1を引用する請求項4をさらに引用するもの)に係る発明に相当するから、当審拒絶理由の理由A~Cはいずれも解消したものといえるが、念のため、以下で検討する。
(1) 刊行物等の記載事項
ア 引用文献Aには、次の記載がある(下線は当審で付与。以下同様。)。
(Aa)「【請求項1】
熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、
補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材を、前記タイヤ骨格部材の外周部に巻回し且つ接合して形成された補強層と、
を有するタイヤ。
【請求項2】
前記補強コードと前記第1の被覆用熱可塑性材料とが接着剤により接合されている請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記外周部と前記被覆コード部材とが溶着により接合されている請求項1又は請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記熱可塑性材料と前記第1の被覆用熱可塑性材料が同種である請求項3に記載のタイヤ。」
(Ab) 「【0050】
[第1実施形態]
以下、図面にしたがって本発明のタイヤの第1実施形態に係るタイヤについて説明する。図1(A)に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0051】
図1(A)に示すように、タイヤ10は、リム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する一対のビード部12(図1(B)参照)、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)からなる環状のタイヤケース17(タイヤ骨格部材の一例)を備えている。
【0052】
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(ビード部12、サイド部14、クラウン部16など)に異なる特徴を有する熱可塑性材料を用いてもよい。
また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0053】
熱可塑性材料としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができるが、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0054】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、熱可塑性材料の同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
【0055】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
…
【0060】
図1(A)及び図2に示すように、クラウン部16には、被覆コード部材26が巻回されて補強層28(図2では破線で示されている)が形成されている。この被覆コード部材26は、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料よりも剛性が高い補強コード26Aに第1の被覆用熱可塑性材料27を被覆接合して形成されている。なお、補強コード26Aと第1の被覆用熱可塑性材料27とは、接着剤(詳細は後述)によって接着されており、補強コード26Aの外周面全体には接着剤による接着層が形成されている。また、被覆コード部材26はクラウン部16との接触部分において、被覆コード部材26とクラウン部16とが溶着して接合されている。
【0061】
また、補強コード26Aは、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態では補強コード26Aとしてスチール繊維を撚ったスチールコードを用いている。なお、補強層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
【0062】
また、補強層28は、被覆層29によって覆われている。この被覆層29は、第2の被覆用熱可塑性材料で形成されており、被覆層29の幅方向両端部は、補強層28の幅方向両端部よりも幅方向外側に位置している。なお、幅方向とは、タイヤケース17及びタイヤ10の幅方向を示し、補強層28の幅方向両端部とは、補強層28を形成する被覆コード部材26のうち幅方向最外側の被覆コード部材26の幅方向外側端部を示している。なお、本実施形態では、被覆層29の幅方向両端部が補強層28の幅方向両端部よりも幅方向外側に位置している構成としたが、本発明はこの構成に限らず、被覆層29の幅方向両端部と補強層28の幅方向両端部とが幅方向で同じ位置であってもよい。また、被覆層29と補強層28は、第2の被覆用熱可塑性材料と第1の被覆用熱可塑性材料27との溶着により、接合されている。」
(Ac) 「【0075】
この第1の被覆用熱可塑性材料27は、タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種のもの、特に同一のものが好ましいが、溶接できれば異なる種類のものであってもよい。また、第1の被覆用熱可塑性材料27は、被覆層29を形成する第2の被覆用熱可塑性材料90と同種のもの、特に同一のものが好ましいが、溶接(溶着)できれば異なる種類のものであってもよい。またさらに、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料と、被覆コード部材26の第1の被覆用熱可塑性材料27と、被覆層29を形成する第2の被覆用熱可塑性材料とが同種であることが接合強度の観点から好ましい。」
(Ad) 「【0111】
また、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料と被覆コード部材26の第1の被覆用熱可塑性材料27が同種の場合には、熱可塑性材料と第1の被覆用熱可塑性材料27との溶着時に熱可塑性材料と第1の被覆用熱可塑性材料とが良く混ざり合い、クラウン部16と被覆コード部材26との接合強度が向上する。」
(Ae) 引用文献Aの図1、2及び8には、それぞれ以下の図が示されている。
イ 引用文献B
引用文献Bには、次の記載がある。
(Ba) 引用文献Bの1255ページの図5.2には、以下の図が記載されている。
(2) 引用文献Aに記載された発明
引用文献Aには、
ア 熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材を、前記タイヤ骨格部材の外周部に巻回し且つ接合して形成された補強層と、を有するタイヤに関し(摘示(Aa)【請求項1】)、
イ
(ア) タイヤケース17は、タイヤ骨格部材の一例であること(摘示(Ab)【0051】)、
(イ) タイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されていること(摘示(Ab)【0052】)、
(ウ) タイヤケース17を形成する熱可塑性材料は、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)であること(摘示(Ab)【0054】)、
ウ 補強コード26Aはスチールコードであること(摘示(Ab)【0061】)、
エ 第1の被覆用熱可塑性材料27は、タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種又は同一のものであること(摘示(Ac)【0075】、摘示(Ad))、
が記載されており、また、
オ
(ア) 上記「ウ」の「補強コード26A」は上記「ア」における「補強コード」に相当するものであること、
(イ) 摘示(Ae)の図1及び図8より、被覆コード部材26はタイヤ骨格部材17の「周方向」に巻回されているといえること、
が明らかである。
イ これらのことから、引用文献Aには次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材と、補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材を、前記タイヤ骨格部材の外周部に周方向に巻回し且つ接合して形成された補強層と、を有するタイヤであって、
補強コードは、スチールコードであり、
第1の被覆用熱可塑性材料は、タイヤ骨格部材を形成する熱可塑性材料と同種又は同一のものである、
タイヤ。」
(3) 対比
ア 本願発明と引用発明Aとを対比する。
(ア) 引用発明Aの「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材」「を有する」ことは、本願発明の「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体」「を有する」こと及び「タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであ」ることに相当する。
(イ) 引用発明Aの「補強コード」は、「スチールコードである」ことから、本願発明の「補強金属コード部材」に相当する。
(ウ) 引用発明Aの「被覆コード部材」が「補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された」ことは、本願発明の「補強金属コード部材の少なくとも一部が、極性を有する熱可塑性樹脂で被覆されて」いることと、「補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されて」いる限度で一致する。
(エ) 引用発明Aの「補強コード」は、「被覆コード部材」をなすものであること及び上記「(イ)」の相当関係より、引用発明Aの「タイヤ骨格部材の外周部に周方向に巻回」された「被覆コード部材」は、本願発明の「タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材」に相当する。
(オ) 引用発明Aの「タイヤ」は、本願発明の「タイヤ」に相当する。
イ 以上のことから、本願発明と引用発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されており、
前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであるタイヤ。」
[相違点A]
本願発明においては、被覆用物質は「極性を有する熱可塑性樹脂」であって「SP値が12.5以上であ」り、かつ「エチレン含量が28~50モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体である」のに対し、引用発明Aの「第1の被覆用熱可塑性材料」はそのように特定された物質ではない点。
(4) 判断
ア まず、理由Aについて検討するに、本願発明と引用発明Aとの間には、上記のとおり相違点Aが存在するから、本願発明は、引用文献Aに記載された発明ではない。
イ 次に、理由Bについて検討する。
(ア) 引用発明Aの「第1の被覆用熱可塑性材料」は、「タイヤ骨格部材を形成する熱可塑性材料と同種又は同一のもの」であって、摘示(Ad)には同種の材料を用いることで「接合強度が向上する」と記載されている。よって、引用文献Aに接した当業者は、当該「第1の被覆用熱可塑性材料」として、引用発明1の「被覆用熱可塑性材料」の材料をタイヤ骨格部材と同一の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)」、又は、同種(摘示(Ab)【0054】)の「ポリアミド樹脂」(摘示(Ab)【0055】)等を選択することを想起するといえる。
(イ) そして、引用文献Bに記載されているのはポリアミドのSP値が12.7~13.6であるという技術事項であるから、引用文献Bの技術事項を参酌しても、引用発明Aに基づいて相違点Aに係る本願発明の事項に想到することは当業者にとって容易とはいえない。
(ウ) さらに、本願発明は、当該相違点Aに係る本願発明の事項により、本願明細書の【0133】の表1に示されるような効果を奏するものであって、当該効果は引用発明A及び引用文献Bの記載事項に基いて当業者が予測できる範囲のものとはいえない。
よって、当該相違点Aに係る本願発明の構成は、引用発明A及び引用文献Bの記載事項に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。
(5) 小括
ア 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献Aに記載された発明ではなく、また、当業者が引用発明A及び引用文献Bの記載事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様に、引用文献Aに記載された発明ではなく、また、当業者が引用発明A及び引用文献Bの記載事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
イ また、平成29年1月30日付けの手続補正によって、理由Cについての拒絶理由は解消した。
ウ そうすると、もはや、当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-003315