特許拒絶査定不服審判
2016-001427
セルフパージ、沈澱防止、および、ガス除去の構造を備えた印刷システム
- 審判番号
- 2016-001427
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-508600外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年01月29日
- 審決日
- 2017年03月14日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】エックスジェット エルティーディー.
- 【請求人代理人】清原 義博
- 分類
- P18 .121-WY (B41J) / P18 .536-WY (B41J) / P18 .537-WY (B41J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-508600「セルフパージ、沈澱防止、および、ガス除去の構造を備えた印刷システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月10日国際公開、WO2011/138729、平成25年 6月27日国内公表、特表2013-527056、請求項の数(22)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件出願は、2011年5月2日を国際出願日とする出願であって、平成27年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年6月12日付けで手続補正がされ、同年10月19日付けで拒絶の査定(以下、「原査定」という。)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年同月21日)、これに対し、平成28年1月29日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に手続補正がされ、その後、当審において同年9月12日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月29日付けで手続補正がされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし22に係る発明は、平成28年11月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるものと認められる。本願の請求項1ないし22に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明22」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
一体型のパージ機構を備えた印字ヘッドアセンブリであって、
前記印字ヘッドアセンブリは、
(a)少なくとも第1と第2の圧力によって駆動される、ノズル板で囲まれた1つまたはそれ以上の分注ノズルを含む液体分注ヘッド、
(b)前記1つまたはそれ以上のノズルの分注方向前方に位置する、開口部を含む遮蔽マスク、および、
(c)前記遮蔽マスクと前記ノズル板の間に形成され、毛細管現象を生じさせる細長い空隙を備え、
前記開口部は、
(i)印刷液が前記第1の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は前記遮蔽マスク内の前記開口部を介してパルスで分注され、
(ii)印刷液が前記第2の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は、毛細管力によって、前記細長い空隙へと引き込まれ、それによって、近くの前記ノズルから前記印刷液を取り除く、
ように構成される、印字ヘッドアセンブリ。
【請求項2】
請求項1に記載の1つまたはそれ以上の印字ヘッドアセンブリを含む印刷システム。
【請求項3】
複数の液体分注ヘッドを含み、
前記遮蔽マスクが、液体分注ヘッドの各々の前に開口部を含む、請求項1に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項4】
前記遮蔽マスクの開口部はスリットを含む、請求項1に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項5】
前記1つまたはそれ以上のノズルが、前記液体分注ヘッドの各々で前記スリットの縁部に近接して構成されることで、前記印刷液は、前記スリットの前記縁部を介して前記細長い空隙に引き込まれる、請求項4に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項6】
前記ノズルから前記スリットの1つの縁部までの距離が、前記ノズルから前記スリットの反対側の縁部までの距離の20%未満であるように、前記スリットは、前記ノズルに対して中心から外れている、請求項4に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項7】
前記細長い空隙と流体相互接続する吸引システムをさらに含み、前記吸引システムは、前記細長い空隙に圧力勾配を与え、それによって、前記細長い空隙から前記印刷液を取り除く、請求項1に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項8】
前記開口部の真下に取り外し可能なように取り付けられた前記細長い空隙と流体相互接続する吸引システムをさらに備え、前記吸引システムは、前記開口部に圧力勾配を与え、それによって、前記開口部を介して前記細長い空隙から前記印刷液を取り除く、請求項1に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項9】
前記遮蔽マスクは印字ヘッドハウジングをさらに含む、請求項1に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項10】
前記印字ヘッドハウジングを冷却する冷却システムを含む、請求項9に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項11】
前記細長い空隙で捕らえられた前記印刷液を前記印字ヘッドアセンブリの印刷液貯蔵部に戻す、印刷液貯蔵および再循環システムをさらに備える、請求項8または9に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項12】
前記液体分注ヘッドが印刷領域にある間、印刷液は分注される、請求項1に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項13】
前記印字ヘッドハウジングは、液体分注ヘッドが、前記ノズル板の近傍にある湿気のあらかじめ定められたレベルを維持するために、加熱したプリント基板上に分注された印刷液から噴出するガスの少なくとも一部を抜くように配置された、補助吸引システムをさらに備える、請求項9に記載の印字ヘッドアセンブリ。
【請求項14】
(a)印字ヘッドアセンブリに、一体型のパージ機構を提供する工程であって、各々の印字ヘッドアセンブリが、
(i)1つまたはそれ以上のノズルを含む印字ヘッド、
(ii)多くの前記ノズルに合わせるように並べられた開口部を含む遮蔽マスク、および
(iii)前記遮蔽マスクとノズル板の間のノズルの分注方向前方に形成され、毛細管現象を生じさせる細長い空隙を含む、工程、
(b)印刷液が開口部を通過して印字ヘッドからパルスで分注されるように、第1の圧力によって前記印字ヘッドを始動させることにより印刷する工程、および、
(c)分注された液体が毛細管力によって前記細長い空隙に引き込まれるように、第2の圧力によって前記1つまたはそれ以上のノズルに印刷液を通すことによってパージする工程、を含む、印刷方法。
【請求項15】
請求項14に記載の1つまたはそれ以上の印字ヘッドアセンブリを使用する、印刷方法。
【請求項16】
前記遮蔽マスクは、印字ヘッドの各々の前に開口部を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記遮蔽マスクの開口部はスリットを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記印字ヘッドの各々の前記スリットの縁部の近傍に前記1つまたはそれ以上のノズルを構成する工程であって、したがって、前記印刷液が前記スリットの前記縁部を介して前記細長い空隙に引き込まれる、工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ノズルから前記スリットの1つの縁部までの距離が前記ノズルから前記スリットの反対側の縁部までの距離の20%未満になるように、前記ノズルに対して中心から外れて前記スリットを構成する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記細長い空隙に流体的に接続された吸引システムを用いて、前記細長い空隙から前記印刷液を取り除く工程であって、真空システムが前記細長い空隙に圧力勾配を与え、それによって、前記細長い空隙から前記印刷液を取り除く、工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記開口部の真下に取り外し可能なように取り付けられた前記細長い空隙と流体相互接続される吸引システムを用いて、前記細長い空隙から前記印刷液を取り除く工程であって、前記吸引システムが前記開口部に圧力勾配を与え、それによって、前記開口部を介して前記細長い空隙から前記印刷液を取り除く、工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記細長い空隙に引き込まれた前記印刷液を、印字ヘッドアセンブリの印刷液貯蔵部へと再循環させる工程をさらに含む、請求項20または21に記載の方法。」
第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
原査定は、平成27年2月6日付けの拒絶理由によるものであって、その概要は以下のとおりである。
理由1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1-5,7,11,12,14-18,20,22
・刊行物 実願昭55-190354号(実開昭57-113942号)のマイクロフィルム
2.原査定の理由の判断
(1)引用例
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の国際出願日前に頒布された刊行物である引用文献(実願昭55-190354号(実開昭57-113942号)のマイクロフィルム)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア.「インクジエツト記録用ヘツド1は、第1図に示すように、ヘツド本体10を有しており、本体10にはインク層6が設けられている。インク層6にはインク噴射系8を構成する複数の供給路4を介して圧電素子からなるインク室3がそれぞれ連通しており、各インク室3には導通路2を介して、撥水性処理の施されたノズル面10aに穿設形成されたノズル5が連通している。ノズル面10aの図中左方、即ちインク噴射方向にはインク受け板10bが設けられ、受け板10bとノズル面10a間には吸引孔10cが形成されている。吸引孔10cはチユーブ11を介してインク溜12と連通しており、インク溜12には加圧吸引装置13が接続している。加圧吸引装置13にはインクタンク15が接続しており、インクタンク15はホース16等を介してインク層6に接続している。
本考案は、以上のような構成を有するので、通常の印字に際しては、各インク室3を構成する圧電素子を選択的に駆動してインク室3内の容積を急速に減少させ、インク室3内のインク7を導通路2を介してノズル5からインク粒子9として噴射させて印字動作を行なつてゆくが、供給路4、インク室3、導通路2、ノズル5等のインク噴射系8内に気泡、異物等が混入したり、ノズル面10aに塵埃が付着したり、又蒸発等によって品質の変化したインク7が残留しているような場合には、加圧吸引装置13を駆動してインクタンク15、ホース16を介してインク層6内のインク7を一定時間加圧する。すると、インク噴射系8内のインク7は加圧され、各ノズル5からノズル面10aに、第2図(a)に示すように、インク7がメニスカス状に流出し、噴射系8内の気泡、異物、変質したインク等が噴射系外に排出される。」(第2ページ第15行~第4ページ第9行)
イ.「ノズル面10aにインク7が排出されたところで、加圧吸引装置13を駆動して、インク溜12、チユーブ11を介して吸引孔10cから吸引動作を行うと、第2図(b)、(c)に示すように、流出したインク7は異物等と共に吸引孔10cから吸引されてインク溜12中に貯留される。」(第4ページ第18行~第5ページ第4行)
ウ.第1図からは、ヘツド本体10が、導通路2、インク室3、供給路4、ノズル5、インク層6、ノズル面10a、インク受け板10b及び吸引孔10cを有する点、及び、インク受け板10bが開口部を有する点を看取することができる。
上記の記載事項を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジエツト記録用ヘツド1はヘツド本体10を有し、
ノズル面10aにノズル5が穿設形成され、
インク受け板10bとノズル面10a間には吸引孔10cが形成され、
ノズル面10aのインク噴射方向にはインク受け板10bが設けられ、
通常の印字に際しては、圧電素子を選択的に駆動して、インク7をノズル5からインク粒子9として噴射させて印字動作を行ない、
加圧吸引装置13を駆動してインク層内のインク7を一定時間加圧すると、インク噴射系8内のインク7は加圧され、各ノズル5からノズル面10aに、インク7がメニスカス状に流出し、供給路4、インク室3、導通路2、ノズル5等のインク噴射系8内の気泡、異物、変質したインク等が噴射系8外に排出され、
ノズル面10aにインク7が排出されたところで、加圧吸引装置13を駆動して、吸引孔10cから吸引動作を行うと、流出したインク7は異物等と共に吸引孔10cから吸引され、
ヘツド本体10は導通路2、インク室3、供給路4、ノズル5、インク層6、ノズル面10a、インク受け板10b及び吸引孔10cを有し、
インク受け板10bは開口部を有する
インクジエツト記録用ヘツド1。」
(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「インクジエツト記録用ヘツド1」は、その機能、作用等からみて、前者の「印字ヘッドアセンブリ」に相当し、同様に、「ヘツド本体10」は「液体分注ヘッド」に、「インク受け板10b」は「遮蔽マスク」に、「ノズル5」は「分注ノズル」に、「インク7」及び「インク粒子9」は「印刷液」に、「吸引孔10c」は「空隙」に、「開口部」は「開口部」にそれぞれ相当する。
後者の「各ノズル5からノズル面10aに、インク7がメニスカス状に流出し、供給路4、インク室3、導通路2、ノズル5等の噴射系8内の気泡、異物、変質したインク等が噴射系8外に排出され」る動作は、印字ヘッドの技術分野の技術常識に照らせば「パージ」であるといえ、当該動作に係る機構である「供給路4、インク室3、導通路2、ノズル5」は、「ヘツド本体10」を有する「インクジエツト記録用ヘツド1」に備えられるものであるから、後者の「インクジエツト記録用ヘツド1」は「一体型のパージ機構を備え」るといえる。
後者の「ヘツド本体10」は、ノズル面10aにノズル5が穿設形成され、通常の印字に際しては、圧電素子を選択的に駆動して、ノズル5からインク粒子9として噴射させて印字動作を行い、また、加圧吸引装置13を駆動してインク層内のインク7を一定時間加圧すると、各ノズル5からノズル面10aに、インク7がメニスカス状に流出し、噴射系8内の気泡、異物、変質したインク等が噴射系外に排出されるところ、圧電素子を選択的に駆動する場合と、加圧吸引装置13を駆動してインク層内のインク7を一定時間加圧すると場合とで、生じる圧力が異なることは明らかである。そうすると、後者の「ヘツド本体10」と前者の「少なくとも第1と第2の圧力によって駆動される、ノズル板で囲まれた1つまたはそれ以上の分注ノズルを含む液体分注ヘッド」とは、「少なくとも第1と第2の圧力によって駆動される、1つまたはそれ以上の分注ノズルを含む液体分注ヘッド」との概念で共通する。
後者の「インク受け板10b」が「ノズル面10aのインク噴射方向に設けられ、開口部を有する」点は、前者の「遮蔽マスク」が「前記1つまたはそれ以上のノズルの分注方向前方に位置する」とともに、「開口部を含む」点に相当する。
後者の「インク受け板10bとノズル面10a間には吸引孔10cが形成され」る点と、前者の「前記遮蔽マスクと前記ノズル板の間に形成され、毛細管現象を生じさせる細長い空隙を備え」る点とは、後者の「ノズル面10a」はノズル5が穿設形成されるからヘツド本体10のノズル側の部分であり、前者の「ノズル板」は分注ノズルを囲むのだから液体分注ヘッドの分注ノズル側の部分であるから、「遮蔽マスクと液体分注ヘッドの分注ノズル側の部分の間に形成される空隙を備える」との概念で共通する。
後者が「通常の印字に際しては、圧電素子を選択的に駆動して、ノズル5からインク粒子9として噴射させて印字動作を行」うこと(以下、「(ア)の事項」という。)は、インク粒子9がインク受け板10bの開口部を通過すること、及び、印字に際してインク粒子9が間欠的に噴射されることは明らかであるから、前者の「印刷液が前記第1の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は前記遮蔽マスク内の前記開口部を介してパルスで分注され」ることに相当する。また、後者の「開口部」が上記(ア)の事項がなされるように構成されていることは明らかである。
後者の「加圧吸引装置13を駆動してインク層内のインク7を一定時間加圧すると、各ノズル5からノズル面10aに、インク7がメニスカス状に流出し、供給路4、インク室3、導通路2、ノズル5等のインク噴射系8内の気泡、異物、変質したインク等が噴射系外に排出され」ること(以下、「(イ)の事項」という。)と、前者の「印刷液が第2の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は、毛細管力によって、前記細長い空隙へと引き込まれ、それによって、近くの前記ノズルから前記印刷液を取り除く」こととは、「印刷液が第2の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は、近くの前記ノズルから前記印刷液を取り除く」との概念で共通する。また、後者の「開口部」が上記(イ)の事項がなされるように構成されていることは明らかである。
したがって、両者は、
「一体型のパージ機構を備えた印字ヘッドアセンブリであって、
前記印字ヘッドアセンブリは、
(a)少なくとも第1と第2の圧力によって駆動される、1つまたはそれ以上の分注ノズルを含む液体分注ヘッド、
(b)前記1つまたはそれ以上のノズルの分注方向前方に位置する、開口部を含む遮蔽マスク、および、
(c)前記遮蔽マスクと液体分注ヘッドの分注ノズル側の部分の間に形成される空隙を備え、
前記開口部は、
(i)印刷液が前記第1の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は前記遮蔽マスク内の前記開口部を介してパルスで分注され、
(ii)印刷液が前記第2の圧力によって駆動されて液体分注ヘッドから分注される際、印刷液は、近くの前記ノズルから前記印刷液を取り除く、
ように構成される、印字ヘッドアセンブリ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
前者は「分注ノズル」が「ノズル板で囲まれる」のに対して、後者はそのようなものでない点。
[相違点2]
前者は「空隙」が「遮蔽マスクとノズル板の間に形成され」るのに対して、後者はそのようなものでない点。
[相違点3]
前者は「空隙」が「毛細管現象を生じさせる細長い」ものであるのに対して、後者においてはその点が明らかでない点。
[相違点4]
前者の開口部が、「印刷液は、毛細管力によって、細長い空隙へと引き込まれ、それによって、近くのノズルから印刷液を取り除く」ように構成されるのに対して、後者はそのようなものでない点。
(3)判断
上記相違点3及び4について検討する。
後者においては、「吸引孔10c」が「毛細管現象を生じさせる細長い」ものであることは特定されていないから、相違点3に係る本願補正発明1の発明特定事項を備えていない。
また、後者は「ノズル面10aにインク7が排出されたところで、加圧吸引装置13を駆動して、インク溜12、チユーブ11を介して吸引孔10cから吸引動作を行うと、流出したインク7は異物等と共に吸引孔10cから吸引され」るものであって、加圧吸引装置13を駆動してインク7を吸引しており、前者の「印刷液は、毛細管力によって、細長い空隙へと引き込まれ、それによって、近くのノズルから印刷液を取り除く」もののように、毛細管力によって印刷液を取り除いていないから、相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を備えていない。
そうすると、引用発明は、上記相違点3及び4に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。
また、上記相違点3及び4に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
また、引用発明において、他に上記相違点3及び4に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠もない。
そして、本願発明1は、上記相違点3及び4に係る本願発明1の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「印字ヘッドからプリント基板へ印刷液が滴り落ちるのを滴を防ぐ」(段落【0047】)という作用効果を奏するものである。
(4)小括
したがって、本願発明1は、引用発明であるとすることはできないし、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願発明2ないし13は、本願発明1をさらに限定したものである。また、本願発明14は、「印字ヘッドアセンブリ」が「前記遮蔽マスクとノズル板の間のノズルの分注方向前方に形成され、毛細管現象を生じさせる細長い空隙を含む、工程」、及び、「分注された液体が毛細管力によって前記細長い空隙に引き込まれるように、第2の圧力によって前記1つまたはそれ以上のノズルに印刷液を通すことによってパージする工程」を発明特定事項とするものであって、引用発明とは上記相違点3及び4と同様の相違点を有するものであり、本願発明15ないし22は、本願発明14をさらに限定したものである。
すると、本願発明2ないし22は、本願発明1と同様に、引用発明であるとすることはできないし、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
3.原査定の理由の判断についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
理由1.この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項23~26に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
理由2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
本願は、明細書の段落【0008】に記載された「a)パージされた液体が印字ヘッドから滴り落ちる可能性があるため、印刷領域からメンテナンス領域まで印字ヘッドを動かす必要がある。」ことを課題とし、その請求項1に係る発明は「前記遮蔽マスクと前記ノズル板の間に形成され、毛細管現象を生じさせる細長い空隙を備え」ることにより、当該課題の解決を図るものであると認められる。
しかしながら、実願昭55-190354号(実開昭57-113942号)のマイクロフィルム記載のもののようにインクの噴射が水平に行われるものにおいては、本願の「空隙」に相当する「吸引孔10c」が設けられていれば、「吸引孔10c」が「毛細管現象を生じさせる細長い」ものではない場合であっても、パージされた液体は「吸引孔10c」で受け止められて滴り落ちることはない。
一方、本願の実施例においては、段落【0053】の「便宜上、矢印(108)によって示される印字ヘッドからプリント基板までのインクの方向を、下方と呼ぶ。」との記載及び図1A~Bを参照すると、印刷液が下方に分注されている。そうすると、本願の請求項1に係る発明が「空隙」を「毛細管現象を生じさせる細長い」ものとしているのは、印刷液が下方に分注されることを前提としたものであると認められるが、請求項1にはこの点が記載されていない。
請求項14についても同様である。
したがって、請求項1及び14並びにこれらの請求項を引用する請求項2~13、15~22には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1~22に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、請求項1~22に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
理由3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
(1)請求項2の「請求項1に記載の一体型のパージ機構を備えた1つまたはそれ以上の印字ヘッドアセンブリを含む印刷システム。」という記載は、「請求項1に記載の」が「パージ機構」に係るのか、「印字ヘッドアセンブリ」に係るのかが文法的に不明であって、その結果、請求項2が引用するのが「パージ機構」なのか「印字ヘッドアセンブリ」なのかが不明である。
また、仮に「パージ機構」を引用している場合、請求項1におけるどのような機構が「パージ機構」であるのかが不明であるから、請求項2が請求項1のどの部分を引用しているのかが不明である。
請求項15についても、同様の点が不明である。さらに、請求項15については、請求項14記載の(b)及び(c)の工程が引用されているのか否かも不明である。
よって、請求項2、15に係る発明は明確でない。
(2)請求項1の「液体分注ヘッド」と請求項3、5、12及び13の「印字ヘッド」とは、同じものを指すのか否かが不明である。
よって、請求項3、5、12及び13に係る発明は明確でない。
(3)請求項5、7、8、11、18及び21には「前記パージ印刷液」との記載があるが、この記載よりも前に「パージ印刷液」の記載がないため、「前記パージ印刷液」が何を指し示しているのかが不明である。
よって、請求項5、7、8、11、18及び21に係る発明は明確でない。
(4)請求項13の「印字ヘッドが、(中略)印刷領域から出る間に」いう記載は、「印字ヘッド」がどのような位置や状態にあることを指すのかが不明である。
請求項23の「印字ヘッドが印刷領域を出るあいだに」という記載についても、同様の点が不明である。
よって、請求項13、23~28に係る発明は明確でない。
(5)請求項18~19には「前記スリット」との記載があるが、この記載よりも前に「スリット」の記載がないため、「前記スリット」が何を指し示しているのかが不明である(請求項17には「スリット」が記載されているが、請求項18~19は同項を引用していない。)。
よって、請求項18~19に係る発明は明確でない。
(6)請求項23の「前記ジェットノズルによって加熱した基板上に沈着したインクから本質的に生成される液体の蒸気」という記載は、「前記ジェットノズルによって」が「加熱した基板」に係るのか、「沈着したインク」に係るのかが文法的に不明である。
また、仮に当該記載が、ジェットノズルによって基板が加熱されることを意味するのであれば、どのようにしてジェットノズルが基板を加熱するのか不明である。
よって、請求項23~28に係る発明は明確でない。
(7)請求項23記載の「インクジェットヘッド」と「印字ヘッド」とは同じ部材を指すのか否かが不明である。
よって、請求項23~28に係る発明は明確でない。
(8)請求項26には「前記印字インクジェットヘッド」との記載があるが、この記載よりも前に「印字インクジェットヘッド」の記載がなく、「前記印字インクジェットヘッド」が何を指し示しているのかが不明である。
また、「印字インクジェットヘッド」が請求項23記載の「インクジェットヘッド」や「印字ヘッド」と同じ部材を指すのか否かが不明である。
よって、請求項26~28に係る発明は明確でない。
(9)請求項28記載の「パージシーケンス」は、何を指すのか不明である。
よって、請求項28に係る発明は明確でない。
理由4.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 23
・刊行物 A、B、C又はD
・請求項 24
・刊行物 B
・請求項 25、28
・刊行物 C又はD
理由5.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 23
・刊行物 A~D
・請求項 24
・刊行物 B
・請求項 24
・刊行物 A~D
・請求項 25、28
・刊行物 C~D
・請求項 25、28
・刊行物 A~D
・請求項 26、27
・刊行物 A~G
引 用 文 献 等 一 覧
刊行物A.特開2008-124413号公報
刊行物B.特開2011-16301号公報
刊行物C.特開平3-184852号公報
刊行物D.特表2008-528324号公報
刊行物E.特開平11-342598号公報
刊行物F.特開平4-235054号公報
刊行物G.特開2010-69856号公報
2.当審拒絶理由の判断
平成28年11月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)によって、本件補正前の請求項1ないし22は、上記「第2 本願発明」において摘示した請求項1ないし22のとおりに補正された。このことにより、請求項1ないし22に係る発明は明確となった。また、本件補正によって、本件補正前の請求項23ないし28は削除された。
よって、当審拒絶理由は解消した。
第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-001427