特許拒絶査定不服審判
2015-022579
偏光膜および偏光膜の製造方法
- 審判番号
- 2015-022579
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-213061外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月24日
- 審決日
- 2017年02月28日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-213061「偏光膜および偏光膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月5日出願公開,特開2014-102497,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 事案の概要
1 手続の経緯
特願2013-213061号(以下「本件出願」という。)は,平成25年10月10日(優先権 平成24年10月22日(以下「優先日」という。))の特許出願であって,その手続の経緯は,以下のとおりである。
平成27年 7月 8日発送:拒絶理由通知書
平成27年 9月 7日提出:意見書
平成27年 9月 7日提出:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)
平成27年 9月29日送達:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成27年12月24日請求:審判請求書
2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」~「本願発明9」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載されたとおりのものであるところ,本願発明1は,次の発明である。
「 ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成され,
該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面側の少なくとも一方がヨウ素低減層とされており,
該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚みが7μm以下であり,
該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの該ヨウ素低減層側の表面の波長680nmにおける異方性反射(Rc/Rp)が1.50以下であり(ここで,Rpは偏光膜の透過軸方向の反射率を,Rcは偏光膜の吸収軸方向の反射率を示す),
単体透過率が,40.0%以上であり,かつ,偏光度が,99.8%以上である,偏光膜。」
なお,本願発明2及び本願発明9は,本願発明1の発明特定事項をすべて含む発明である。本願発明3は,本願発明1の偏光膜の製造方法,又は本願発明2の製造方法の発明である。本願発明4~本願発明8は,本願発明3の発明特定事項をすべて含む発明である。
3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明1~9は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である下記の引用例1~4のいずれかに記載された発明及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
記
引用例1:特開2010-26498号公報
引用例2:特開2012-108202号公報
引用例3:特開昭56-14533号公報
引用例4:特開2008-70571号公報
なお,原査定では,周知技術を示す文献として,上記引用例4,特開2012-13764号公報(以下「引用例5」という。),及び特開2010-266769号公報(以下「引用例6」という。)が挙げられている。
第2 当合議体の判断
1 引用例1の記載及び引用発明1
(1) 引用例1の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1(公開日:平成22年2月4日,発明の名称:偏光板及びその製造方法,出願番号:特願2009-114772号,出願日:平成21年5月11日,出願人:日東電工株式会社)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものである。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板及びその製造方法に関する。また本発明は,当該偏光板を用いた光学フィルムおよび,液晶表示装置,有機EL表示装置,PDP等の画像表示装置に関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0003】
近年では,液晶表示装置はその広範な利用に伴い,高温条件下等で長期間使用される場合も多くなり,その利用される用途に応じた,画質の変化が少ない液晶表示装置が求められている。それに伴い偏光板にも,高温条件下に放置したときや高温高湿条件下に放置したときの光学特性が劣化しないような耐久性が求められている。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,ポリビニルアルコール系フィルムからなる耐久性に優れた偏光板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また,本発明は,当該偏光板を用いた光学フィルム,さらに当該偏光板,光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは,鋭意検討の結果,厚み方向にラマン分光ピーク強度の分布を有する偏光子を備える偏光板によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。
すなわち本発明は,ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色した偏光子の両面に保護フィルムを備える偏光板であって,該偏光子断面の厚み方向中心部のラマン分光法による105±5cm-1の範囲の最大ピーク強度T1と,該偏光子の厚み方向端部のラマン分光法による105±5cm-1の範囲の最大ピーク強度T2との比が,下記関係を満たす偏光板に関する。
0.920≦T2/T1≦0.985
【0010】
さらに,本発明は,前記偏光板の製造方法に関する。
本発明の偏光板の製造方法においては,ポリビニルアルコール系フィルムに,少なくともヨウ素染色工程および架橋工程をこの順で施して偏光子を得る工程,得られた偏光子に保護フィルムを積層する工程,を有し,ヨウ素染色工程における染色浴浸漬時間(tB)と,架橋工程における架橋浴浸漬時間(tC)の比(tC/tB)が1.30~3.90であることが好ましい。
…(省略)…
【発明の効果】
【0013】
ラマン分光法における105cm-1付近のピークは,ポリビニルアルコールとI3-イオンの錯体(PVA-I3-錯体)のラマン散乱に対応する。本発明においては,厚み方向中央部と端部とのラマン分光法におけるピーク強度が特定の比である,すなわち,厚み方向において,PVA-I3-錯体が所定の濃度分布を有する偏光子を備えることによって偏光板の耐久性が高められる。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の偏光板は,ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素染色処理を施した偏光子の両面に保護フィルムが積層されたものである。本発明の偏光板は,偏光板断面のうち,前記偏光子断面の厚み方向中心部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T1と,該偏光子の厚み方向端部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T2との比が,0.920≦T2/T1≦0.985,との関係を満たす。ピーク強度比T2/T1は,0.930以上であることが好ましく,0.950以上であることがより好ましく,0.955以上であることがさらに好ましい。ピーク強度比が前記範囲を外れると,偏光板の耐久性が低下する傾向がある。なお,ラマン分光スペクトルは,励起波長514.5nmのAr+レーザー照射によって測定できる。なお,105cm-1付近の最大のピーク強度とは,105±5cm-1の範囲におけるピークトップのラマン散乱強度のことである。
【0015】
一般にヨウ素染色処理された偏光子中では,ヨウ素は三ヨウ素イオン(I3-)及び五ヨウ素イオン(I5-)とポリビニルアルコール(PVA)との錯体として存在しているが,ラマン分光法における105cm-1付近のピークは,PVAとI3-との錯体(PVA-I3-錯体)のラマン散乱に対応する。そのため,このピークが特定の比率を満たすということは,偏光子中のPVA-I3-錯体が厚み方向に所定の濃度分布を有していることを意味する。
…(省略)…
【0017】
[偏光子]
本発明の偏光板を構成する偏光子としては,ヨウ素を含有するポリビニルアルコール系偏光子を用いる。
…(省略)…
【0018】
また,偏光子は,一般にヨウ素染色および延伸することによって得られるが,本発明の偏光板を構成する偏光子においては,延伸前の原寸フィルムの膜厚が20~100μmであることが好ましく,40~75μmであることがより好ましい。
…(省略)…
【0020】
[偏光子の製造方法]
このような偏光子の製造方法は特に限定されないが,少なくとも,前記ポリビニルアルコール系フィルムを,ヨウ素および/またはヨウ素イオンを含む溶液(染色浴)に浸漬する工程(以下,「ヨウ素染色工程」と称する場合がある)および,ヨウ素染色工程の後に,ホウ酸等の架橋剤を含む溶液(架橋浴)に浸漬する工程(以下,「架橋工程」と称する場合がある)を含み,ヨウ素染色工程における染色浴浸漬時間tBと,架橋工程における架橋浴浸漬時間tCの比tC/tBが1.30~3.90であることが好ましく,1.40~3.00であることがより好ましく,1.50~2.60であることがさらに好ましい。
【0021】
「ヨウ素染色工程」と「架橋工程」の浸漬時間の比tC/tBが前記範囲内である場合,厚み方向中心部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T1と,該偏光子の厚み方向端部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T2との比が,前記した好ましい範囲内となり,高温高湿下においてヨウ素の色抜けが抑制される傾向がある。
【0022】
一方,tC/tBが小さい場合,偏光子の厚み方向中心部のヨウ素イオン濃度は,偏光子の表面付近のヨウ素イオン濃度よりも相対的に大きくなる,すなわち,T2/T1は前記好ましい範囲を下回り,耐久性が低下する傾向がある。このように浸漬時間の比によって耐久性が異なる原因は必ずしも明らかではないが,「架橋工程」における浸漬時間tCが相対的に短いために,ホウ酸によるPVAの架橋が不十分となることが一因として考えられる。PVAの架橋が不十分であると,高温高湿環境下において,ヨウ素イオン(PVA-I3-錯体)が不安定となるため,光学特性の劣化が大きく,色相のニュートラル性に欠けるものと推定される。また,「ヨウ素染色工程」における浸漬時間tBが相対的に長いために,ヨウ素が偏光子の厚み方向に均一に存在することも耐久性に影響を与えていると推定される。
【0023】
逆にtC/tBが大きいと,偏光子の厚み方向中心部のヨウ素イオン濃度が相対的に低くなるため,T2/T1は前記の好ましい範囲を上回り,耐久性が低下する傾向がある。このように浸漬時間が耐久性に影響を与える一因として,「架橋工程」における浸漬時間tCが相対的に長いためにホウ酸によるPVAの架橋が過度に進行することが考えられる。このように架橋が過度に進行すると,PVA-I3-錯体がより多く生成すると考えられるが,PVA-I3-錯体はPVA-I5-錯体に比して,高温高湿環境下での相対的な安定性に欠けるため,光学特性の劣化が大きく,色相のニュートラル性に欠けるものと推定される。また,「ヨウ素染色工程」における浸漬時間tBが相対的に短いために,偏光子の厚み方向端部(表面)が中心部に比して選択的にヨウ素染色されることによって,ホウ酸による架橋が阻害され,架橋が不十分であることによって,高温高湿環境下での光学特性の劣化が大きくなるものと推定される。」
エ 「【0044】
偏光子の厚さは特に制限されないが,一般的に,5~80μm程度である。偏光子の厚みが薄くなると,保護フィルムと貼り合せる際の乾燥工程等において,偏光子中の水分が揮発しやすくなる。」
オ 「【実施例】
【0071】
以下に,本発明を実施例をあげて説明するが,本発明は以下に示し実施例に制限されるものではない。なお,以下の実施例および比較例の評価は,下記の方法によりおこなったものである。
…(省略)…
【0075】
(光学特性の測定)
積分球付き分光光度計(日本分光製,V7100)を用いて,単体透過率Tsを求め,単体透過率Tsの測定値から表面反射を除くことにより,視感度補正した単体透過率Ts(Y)を算出した。
また,下記式により偏光板の二色比DRを算出した。下記式において,Ts(Y)は前記視感度補正した単体透過率(%),Pは偏光度(%)を表す。
【数1】
【0076】
[実施例1]
(偏光子の調製)
重合度2400,ケン化度99.9%,厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを,30℃の温水中(膨潤浴)に浸漬し,膨潤させながら,ポリビニルアルコールフィルムの長さが元長の2倍となるように自由端一軸延伸をおこなった。ついで,ヨウ素とヨウ化カリウムの混合物(重量比1:16)の濃度が0.3重量%の水溶液(染色浴)に浸漬し,ポリビニルアルコールフィルム長さがの元長の3倍となるように自由端一軸延伸しながらフィルムを染色した。その後,ホウ酸3重量%,ヨウ化カリウム3重量%の水溶液(架橋浴1)中に浸漬しながら,ポリビニルアルコールフィルムの長さが元長の4倍となるように延伸した後,60℃のホウ酸4重量%,ヨウ化カリウム5重量%の水溶液(架橋浴2)中で,ポリビニルアルコールフィルムの長さが元長の6倍となるように延伸した。その後,ヨウ化カリウム3重量%の水溶液(ヨウ素含浸浴)でヨウ素イオン含浸処理を行った後,60℃のオーブンで4分間乾燥し,偏光子を得た。得られた偏光子の厚みは28μmであった。
…(省略)…
【0083】
実施例および比較例で得られた偏光板のラマンスペクトルの測定結果,及び,偏光板を温度60℃・湿度95%の加熱加湿条件に250時間放置した前後での,視感度補正した単体透過率Ts(Y)の変化量ΔTs(Y),および波長410nmでの二色比DR(410)の変化量ΔDR(410)を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2から明らかなように,偏光子の厚み方向中心部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T1と,該偏光子の厚み方向端部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T2との比が本発明の範囲にある実施例の偏光板は,高温高湿環境下にける光学特性の変化が小さく,耐久性に優れていることがわかる。」
(2) 引用発明1
前記(1)の記載からみて,引用例1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 偏光子断面の厚み方向中心部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T1と,該偏光子の厚み方向端部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T2との比が,0.920≦T2/T1≦0.985,との関係を満たし,
ラマン分光法における105cm-1付近のピークは,PVAとI3-との錯体,すなわちPVA-I3-錯体のラマン散乱に対応するため,このピークが特定の比率を満たすということは,偏光子中のPVA-I3-錯体が厚み方向に所定の濃度分布を有していることを意味する,
ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素染色処理を施した偏光子。」
2 引用発明2~引用発明4
(1) 引用発明2
引用例2(公開日:平成24年6月7日,発明の名称:「偏光子の製造方法,偏光子,偏光板,光学フィルムおよび画像表示装置」,出願番号:特願2010-255054号,出願日:平成22年11月15日,出願人:日東電工株式会社)は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である。
そして,引用例2の,特許請求の範囲の請求項1及び請求項6記載からみて,引用例2には,次の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。
「 ポリビニルアルコール系フィルムに,染色浴中での染色工程,架橋浴中での架橋工程および延伸浴中での延伸工程を少なくとも施す製造方法により得られる偏光子において,
前記染色工程,架橋工程および延伸工程のいずれか少なくとも1つの工程に係る処理浴は,ヨウ化化合物およびホウ素化合物を含有する混合水溶液を有し,かつ,
前記染色工程,架橋工程および延伸工程のなかで,前記混合水溶液が用いられる最後の工程に係る最終処理浴の混合水溶液は,ヨウ化化合物およびホウ素化合物の他に,0.00002~0.015重量%の水溶性酸化防止剤を含有する,
偏光子。」
(2) 引用発明3
引用例3(公開日:昭和56年2月12日,発明の名称:偏光フイルムないしシートの製造方法,出願番号:特願昭54-90221号,出願日:昭和54年7月16日,出願人:信越化学工業株式会社)は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である。
そして,引用例3の特許請求の範囲及び3頁左上欄9~15行の記載からみて,引用例3には,次の発明が記載されている(以下「引用発明3」という。なお,「フイルム」は「フィルム」に書き改めた。)。
「 塩化ビニル系樹脂フィルムの低温プラズマ処理面に,ポリビニルアルコールの被覆層を設けた後,
該フィルムを延伸し,
ついでヨード処理してなり,
ヨード処理完了後,ヨードの散逸を防止する目的で安定化処理を施こすことが望ましく,この方法としてはたとえばほう酸,チオ硫酸ナトリウム,よう化カリ等の混合水溶液中に,ヨード処理されたフィルムを浸漬するという方法によればよい,
偏光フィルム。」
(3) 引用発明4
引用例4(公開日:平成20年3月27日,発明の名称:高耐久性偏光板,出願番号:特願2006-248838号,出願日:平成18年9月14日,出願人:日本化薬株式会社 他1名)は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である。
そして,引用例4の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて,引用例4には,次の発明が記載されている(以下「引用発明4」という。)。
「 二色性色素およびホウ酸を吸着し延伸された親水性高分子フィルムを,pHが1.0乃至6.0である溶液で処理されてなる偏光素膜を用いた偏光板であって,
該偏光板に重合性樹脂組成物を硬化させた層を少なくとも1層以上有する,
偏光板。」
3 本願発明1について
本願発明1と引用発明1を対比する。
(1) 対比
引用発明1は,「ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素染色処理を施した偏光子」である。また,技術的にみて,「ポリビニルアルコール系フィルム」は,「樹脂」フィルムである。
したがって,引用発明1の「偏光子」は,本願発明1の「偏光膜」に相当する。また,引用発明1の「偏光子」は,本願発明1の「偏光膜」が具備する,「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成され」という要件を満たす。
(2) 一致点
本願発明1と引用発明1は,次の構成で一致する。
「 ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成された,
偏光膜。」
(3) 相違点
本願発明1と引用発明1は,以下の点で相違する。
ア 相違点1
本願発明1の「偏光膜」は,(A)「該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面側の少なくとも一方がヨウ素低減層とされており」,(B)「該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの該ヨウ素低減層側の表面の波長680nmにおける異方性反射(Rc/Rp)が1.50以下であり(ここで,Rpは偏光膜の透過軸方向の反射率を,Rcは偏光膜の吸収軸方向の反射率を示す)」という要件を満たすものであるのに対し,引用発明1は,これが明らかではない点。
すなわち,上記(A)について,引用発明1の「偏光子」は,「偏光子断面の厚み方向中心部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T1と,該偏光子の厚み方向端部のラマン分光法による105cm-1付近の最大ピーク強度T2との比が,0.920≦T2/T1≦0.985,との関係を満た」すものである。そして,「ラマン分光法における105cm-1付近のピークは,PVAとI3-との錯体,すなわちPVA-I3-錯体のラマン散乱に対応するため,このピークが特定の比率を満たすということは,偏光子中のPVA-I3-錯体が厚み方向に所定の濃度分布を有していることを意味する」。したがって,引用発明1の「偏光子」において,偏光子断面の厚み方向中心部のPVA-I3-錯体の濃度に対する,偏光子断面の厚み方向端部のPVA-I3-錯体の濃度の比(以下「PVA-I3-錯体濃度比」という。)は,0.920以上0.985以下の範囲にあるといえる。また,引用発明1の「偏光子」は,PVA-I3-錯体との関係でいえば,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面側の少なくとも一方がPVA-I3-錯体低減層とされているといえる。しかしながら,ヨウ素との関係でいえば,「該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面側の少なくとも一方がヨウ素低減層とされ」ているとまでは断定できない。
次に,上記(B)について,引用例1には,異方性反射に関する測定結果の記載がない。したがって,引用発明1の「偏光膜」が,異方性反射が1.50以下であるという要件を満たすか,引用例1の記載からは,明らかであるとはいえない。
イ 相違点2
本願発明1の「偏光膜」は,(C)「該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚みが7μm以下であり」,(D)「単体透過率が,40.0%以上であり,かつ,偏光度が,99.8%以上である」のに対し,引用発明1の「偏光子」は,これが明らかではない点。
すなわち,上記(C)について,引用例1の段落【0044】には,「偏光子の厚さは特に制限されないが,一般的に,5~80μm程度である。」と記載されている。したがって,引用発明1の「偏光膜」は,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚みが7μm以下であるものに限られる発明ではない。
次に,上記(D)について,引用例1には,偏光子の単体透過率及び偏光度に関する具体的な値の記載がない。したがって,引用発明1の「偏光膜」が,「単体透過率が,40.0%以上であり,かつ,偏光度が,99.8%以上である」という要件を満たすか,引用例1の記載からは,明らかであるとはいえない。
(4) 判断
前記(3)アで述べたとおり,引用発明1の「偏光子」のPVA-I3-錯体濃度比は,0.920以上0.985以下の範囲にある。
しかしながら,異方性反射が1.50以下となるか否かは,ヨウ素濃度の「比」ではなく「量」に左右される(本件出願の明細書の段落【0013】~【0015】参照。)。すなわち,偏光子のPVA-I3-錯体濃度比が判明していても,そこから異方性反射の値を,直ちに導き出すことはできない。
したがって,引用発明1からは,前記相違点1のうち,少なくとも,相違点1の(B)の構成を,直ちに導き出すことはできない。
さらにすすんで検討すると,仮に,引用発明1が相違点1に係る構成を具備するとしても,引用発明1に基づいて,相違点1及び相違点2に係る構成の全てを具備してなる偏光膜の構成に至るとはいえない。
まず,周知技術として挙げられた引用例4~引用例6には,厚みが7μm以下,単体透過率が40.0%以上,かつ,偏光度が99.8%以上である偏光子は記載されていない。
次に,仮に,厚みが7μm以下,単体透過率が40.0%以上,かつ,偏光度が99.8%以上である偏光子が周知であるとしても,相違点1に係る構成を維持しつつ,相違点1及び相違点2に係る構成を具備する偏光膜が得られるか判らない。例えば,引用例1の記載及び周知技術を考慮しても,引用発明1の構成を具備する偏光子の製造方法と,周知の偏光子の製造方法を両立できるか判らないから,本願発明1の偏光膜に到るか判らない。
偏光膜は,物として一体不可分である。そして,偏光膜の厚み,単体透過率,偏光度及び異方性反射は,すべて,この一体不可分な物の物性値である。加えて,これら物性値に,トレードオフを含む相関関係があることは,技術的にみて明らかである。したがって,本願発明1の偏光膜の厚み,単体透過率及び偏光度の要件を満たす偏光膜と,本願発明1の異方性反射の要件を満たす偏光膜が,それぞれ,公知又は周知であり,また,仮に,前者の製造方法と後者の製造方法を組み合わせることができたとしても,組み合わせた後の偏光膜の各物性値が,本願発明1の要件をすべて満たすとは限らない。
(5) 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明1及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(6) 引用発明2~引用発明4について
引用発明2の偏光子において,ポリビニルアルコール系フィルムの表面側のヨウ素濃度は不明である。したがって,引用発明2からは,異方性反射値の構成を導き出すことはできない。
また,引用例2の記載及び周知技術を考慮しても,本願発明1の偏光膜の厚み,単体透過率,偏光度及び異方性反射に関するすべての要件を満たす偏光膜の製造方法が判らないから,本願発明1の偏光膜に到らない。
その詳細は,前記(4)と同様である。
引用発明3及び引用発明4についても,同様である。
したがって,本願発明1は,引用発明2~引用発明4のいずれか,及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
4 本願発明2~本願発明9について
本願発明2及び本願発明9は,本願発明1の発明特定事項をすべて含む発明である。
したがって,本願発明2及び本願発明9は,いずれも,本願発明1と同様の理由により,引用発明1~引用発明4のいずれか,及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本願発明3は,本願発明1偏光膜の製造方法,又は本願発明2の製造方法の発明である。また,引用例1~引用例4の記載及び周知技術を考慮しても,本願発明1の偏光膜の厚み,単体透過率,偏光度及び異方性反射に関するすべての要件を満たす偏光膜の製造方法が判らないことは,前記3(4)及び(6)で述べたとおりである。
したがって,本願発明3は,引用発明1~引用発明4のいずれか,及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本願発明4~本願発明8は,本願発明3の発明特定事項をすべて含む発明である。
したがって,本願発明4~本願発明8は,いずれも,本願発明1と同様の理由により,引用発明1~引用発明4のいずれか,及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第3 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明1~本願発明9は,いずれも,特許法29条2項の規定に違反しないものである。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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2015-022579