特許拒絶査定不服審判
2015-017719
マイクロ構造および/またはナノ構造の構造基板をコーティングするための方法
- 審判番号
- 2015-017719
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-184894外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年09月29日
- 審決日
- 2017年03月22日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エリッヒ・タールナー
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】久野 琢也
- 【請求人代理人】高橋 佳大
- 分類
- P18 .121-WZ (B05D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-184894「マイクロ構造および/またはナノ構造の構造基板をコーティングするための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月12日出願公開、特開2013-248617〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本件出願は、2007年3月13日を国際出願日とする特願2009-501894号(パリ条約に基づく優先権主張2006年3月28日、欧州特許庁、2006年3月28日、米国)の一部を平成25年9月6日に新たな特許出願としたものであって、平成26年9月29日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月4日に意見書が提出され、平成27年6月15日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成27年9月29日に本件審判が請求されると同時に手続補正がなされ、平成28年2月3日に上申書が提出され、当審において平成28年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月2日に手続補正されるとともに意見書が提出されたものである。
第2.本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1~13に係る発明は、平成28年11月2日に手続補正された特許請求の範囲の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「マイクロ構造および/またはナノ構造の構造基板をコーティングするための方法であって、
構造基板を真空チャンバに装填するステップと、
前記真空チャンバを真空にするステップと、
前記真空チャンバが真空にされる前に、および/またはその間に、および/またはその後に、コーティング物質リザーバから前記真空チャンバ内にコーティング物質を導入するステップであって、前記コーティング物質は、少なくとも25体積%の含有量の溶剤を有しているステップと、
流体膜として前記構造基板上に前記コーティング物質を分布するステップと、
前記コーティング物質が導入された後に、前記真空チャンバ内の圧力を上昇させるステップと、
その後、前記コーティング物質が前記構造基板の表面のトポグラフィ上に均一的に分布されるような方法で前記溶剤を気化させるステップと、を含む方法。」(以下、「本願発明」という。)
2.刊行物に記載された発明
当審による平成28年8月8日付け拒絶理由通知書に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である特開平6-232038号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 半導体基板を窪みに入れ載置するテーブルと、このテーブルを回転させるスピンモータと、前記半導体記憶装置に塗布液を滴下するノズルと、前記半導体基板と前記テーブル及び前記ノズルの先端分を包む閉鎖空間をつ真空室と、この真空室を減圧する真空ポンプと、この真空ポンプと協働して前記真空室に導入されるガス圧を制御する排気調整弁とを備え、前記真空室のガス圧を小さくした状態で前記ノズルより塗布液を滴下し、前記テーブルを回転し滴下さた前記塗布液を前記半導体基板に引き伸ばし、しかる後前記真空室を大気に戻すことを特徴とする回転塗布装置。
【請求項2】 前記導入されるガスが前記塗布液の溶剤が気化されたものであることを特徴とする請求項1記載の回転塗布装置。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明の回転塗布装置に関し、特に半導体製造工程で微細パターン上に塗布膜を形成する回転塗布装置に関する。」
(ウ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、半導体基板の塗布面は必ずしも一様でなく、予め形成れたパターンにより凹凸がある。このような凹凸がある場合には、その凹部の底まで塗布液が行届かず、しばしば気泡として残る。そして、この後の半導体基板加熱工程により残された気泡が膨らみ、塗布膜の剥れを起し、半導体基板上に形成されていたパターンがくずれてしまうという問題点があった。」
(エ)「【0012】図2は従来装置と本発明の装置による気泡発生率を示すグラフである。試みにコンタクト穴が形成された半導体基板に塗布膜を形成し、従来装置と本発明の装置とで気泡発生率を比較したところ、図2に示すように、従来装置ではコンタクト穴の深さが深い程、2次元的に増加すのに対し、本発明の装置によれば、コンタクト穴の深さによらず気泡の発生は皆無であった。」
(オ)「【0013】図3は本発明の他の実施例の回転塗布装置の概略を示す図である。この回転塗布装置は、図3に示すように、配管3に塗布液の溶剤である溶剤タンク9と、溶剤を気化する気化器10と、気化される溶剤ガスの流量を調整するマスフローコントローラ11を設けたことである。それ以外は前述の実施例と同じである。」
(カ)「【0014】この回転塗布装置の動作は、半導体基板5を収納した真空室2を減圧した後に、気化器10からの溶剤ガスをマスフローコントローラ11にて流量を制御し真空室2に導入し、そして溶剤のガスと排気調整弁4により真空室2を一定の減圧状態としこの状態で回転塗布を行う。」
(キ)「【0015】この実施例では溶剤のガスが塗布雰囲気となるため、塗布液中の溶剤が蒸発し難く塗布液の粘度が低く保たれ、半導体基板5上に一様に拡ろがり、均一な膜厚の塗布膜が形成できる利点がある。」
(ク)「【0016】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、塗布すべき半導体基板を包み閉鎖空間をもつ真空室と、この真空室を減圧状態にする真空排気手段と、大気圧に戻すガス供給手段とを設け、前記閉鎖空間の雰囲気を減圧状態で塗布液を滴下して塗布し、しかる後に雰囲気を大気圧に戻すことにより、半導体基板の微細パターンの凹部まで塗布液が充分埋まり、塗布膜中に気泡が出来ず、塗布の後工程で半導体基板を加熱しても塗布膜が剥れないという効果がある。」
これらの記載事項を、技術常識を考慮しながら整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認める。
「半導体製造工程で微細パターン上に塗布膜を形成する(摘記事項イ)ための方法であって、
半導体基板5を収納した真空室2を減圧(摘記事項カ)し、
半導体基板5上に一様に拡ろがり、均一な膜厚の塗布膜が形成できる(摘記事項キ)ように、塗布液の粘度が低く保たれ(摘記事項キ)た状態で、
閉鎖空間の雰囲気を減圧状態で塗布液を滴下して半導体基板5に塗布し、しかる後に雰囲気を大気圧に戻し(摘記事項ク)、
塗布の後工程で半導体基板を加熱(摘記事項ク)する、方法。」
3.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを比較する。
引用発明の「半導体製造工程で微細パターン上に塗布膜を形成する」(摘記事項イ)は、本願発明の「基板をコーティングする」に相当する。
引用発明の「半導体基板5を収納した真空室2を減圧」(摘記事項カ)する処理は、本願発明の「基板を真空チャンバに装填するステップ」及び「前記真空チャンバを真空にするステップ」に相当する。
引用発明の「閉鎖空間の雰囲気を減圧状態で塗布液を滴下」(摘記事項ク)は、本願発明の「前記真空チャンバが真空にされる・・・後に、コーティング物質リザーバから前記真空チャンバ内にコーティング物質を導入するステップ」に相当する。
引用発明の「半導体基板5上に一様に拡ろがり、均一な膜厚の塗布膜が形成できる」(摘記事項キ)ように半導体基板5に塗布することは、本願発明の「流体膜として前記」「基板上に前記コーティング物質を分布するステップ」に相当する。
引用発明の「しかる後に雰囲気を大気圧に戻し」(摘記事項ク)は、本願発明の「前記コーティング物質が導入された後に、前記真空チャンバ内の圧力を上昇させるステップ」に相当する。
引用発明の「塗布の後工程で半導体基板を加熱」(摘記事項ク)は、半導体基板5上に一様に拡ろがった均一な膜厚の塗布膜を加熱するのであるから、溶剤が気化することは明らかであり、本願発明の「その後、前記コーティング物質が前記」「基板の表面のトポグラフィ上に均一的に分布されるような方法で前記溶剤を気化させるステップ」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致している。
[一致点]
「基板をコーティングするための方法であって、
基板を真空チャンバに装填するステップと、
前記真空チャンバを真空にするステップと、
前記真空チャンバが真空にされた後に、コーティング物質リザーバから前記真空チャンバ内にコーティング物質を導入するステップと、
流体膜として前記基板上に前記コーティング物質を分布するステップと、
前記コーティング物質が導入された後に、前記真空チャンバ内の圧力を上昇させるステップと、
その後、前記コーティング物質が前記基板の表面のトポグラフィ上に均一的に分布されるような方法で前記溶剤を気化させるステップと、を含む方法。」
そして、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点1]
基板が、本願発明においては「マイクロ構造および/またはナノ構造の構造」基板であるのに対し、引用発明においては、半導体基板である点。
[相違点2]
コーティング物質が、本願発明においては「少なくとも25体積%の含有量の溶剤を有している」のに対し、引用発明においては、「半導体基板5上に一様に拡ろがり、均一な膜厚の塗布膜が形成できるように、塗布液の粘度が低く保たれた状態」ではあるものの、具体的な溶剤の含有量が示されていない点。
4.相違点の検討
[相違点1]について
引用発明においても、図2の図中に示されている凹部の幅が1μmとされた寸法を見れば、コーティング対象はマイクロ構造の構造基板であるといえる。
また、仮に引用発明のコーティング対象がマイクロ構造の構造基板と必ずしもいえないとしても、マイクロ構造基板をコーティングすることは、特開2004-174663号公報(段落0001~0006、図10等参照。)、特表2002-537113号公報(請求項1、Fig.1等参照。)に示すように従来周知の技術的事項であり、かかる従来周知の技術的事項に倣い、コーティング対象としてマイクロ構造基板を選択することは、何ら特別なことではない。
よって、相違点1に係る相違は、実質的な相違ではない。
[相違点2]について
引用発明でも一様に拡がる程度に粘度が低く保たれているのであるから、粘度を低く保つ程度の量の溶剤が入っていることは当然であり、その値として少なくとも25体積%の含有量は、例えば特表2002-527795号公報(段落0019等参照。)、特開2004-233954号公報(段落0063等参照。)に示すように、通常用いられる程度のものである。
そして、引用文献1の段落0015に「粘度が低く保たれ、半導体基板5上に一様に拡ろがり、均一な膜厚の塗布膜が形成できる」と記載されているように、引用発明において用いられた塗布液の粘度は、通常用いられると認識されるものである。したがって、コーティング物質として少なくとも25体積%の含有量の溶剤を有するようなものを選定することに、格別な困難性があったとは認められない。
また、本願発明が奏する効果は、引用発明及び上記の各周知技術から当業者が予測できたものであり、格別なものとはいえない。
以上のことから、本願発明は、引用発明及び上記の各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5.請求人の主張について
審判請求人は、平成28年11月2日付け意見書において、次のように主張している。
「引用文献1に記載の発明においては、コーティングを行う前にガス置換ステップが行われ、雰囲気を、コーティング材料中にも存在する同じ溶剤を用いて置換しています。・・・
すなわち、引用文献1に記載の発明は、本願発明の『前記コーティング物質が前記構造基板の表面のトポグラフィ上に均一的に分布されるような方法で前記溶剤を気化させるステップ』という特徴を全く教示しておりません。むしろ、引用文献1に記載の発明では、雰囲気をコーティング材料と同一の物質にすることで、塗布液から溶剤が蒸発(気化)し難くなるような処理について教示されており、本願発明の上記特徴とは正反対の教示がなされています。」(2頁17行-28行)
しかしながら、引用発明も、そもそも、塗布液中の気泡が半導体基板加熱工程で膨らむことにより問題を生ずるのを防ぐため、微細パターンの凹部まで塗布液が充分埋まり、後工程で半導体基板を加熱しても塗布膜が剥れないようにしたものであり(上記第2 2.(ク)より)、引用発明において塗布膜が形成されるのは、後工程で半導体基板を加熱して溶剤を気化させる結果に他ならない。
しかも、本願発明の「前記コーティング物質が前記構造基板の表面のトポグラフィ上に均一的に分布されるような方法で前記溶剤を気化させるステップ」について、本願の発明の詳細な説明には、
「次のステップにおいて、構造基板8は、真空チャンバ3より取り出され、加熱板11の上方に配置される。構造基板8が加熱板11に近づく間に(好ましくはこれは、ゆっくりと、規定の速度で行われる)、構造基板8と、凹部8v内に位置するコーティング物質24と、構造基板8上に位置するコーティング物質24とは、規定の態様で既に加熱され、これによって、気化されるべきコーティング物質24の溶剤および含有物質が、可能な限りゆっくりとおよび規定の通りに気化される。コーティング物質24中における溶剤の比較的高い含有率に起因して、コーティング物質の体積は著しく低減し、構造基板8のトポグラフィまたは表面、および凹部8vの表面の上に均質に分布された図7に図示されるコーティング24が残る。」(段落【0047】)
と記載され、単に「規定の」と説明されているとおり、通常の加熱による気化処理が示されるのみであって、「溶剤を気化させるステップ」自体によってコーティング物質の分布を均一的とするような特段の方法が示されている訳でもない。
よって、引用発明の気化と、請求項1に規定された本願発明の気化とは何ら異なるものではないから、審判請求人による上記主張は採用することができない。
6.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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