特許拒絶査定不服審判
2015-017496
蒸気を使用する髪の処理方法
- 審判番号
- 2015-017496
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2010-085876外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年09月25日
- 審決日
- 2017年11月06日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .537-WZ (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2010- 85876「蒸気を使用する髪の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月28日出願公開、特開2010-241812〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 主な手続の経緯
本願は,平成22年4月2日(パリ条約に基づく優先権主張 平成21年4月3日,フランス共和国)にされた特許出願であって,平成27年5月18日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年9月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に誤訳訂正書により特許請求の範囲及び明細書が補正され,平成29年3月8日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知され,同年9月13日に意見書が提出されたものである。
第2 本件拒絶理由
本件拒絶理由は,要するに,この出願は特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たしていないし(以下「理由1」という。),同項2号で規定する要件(いわゆる明確性要件)も満たしていない(以下「理由2」という。),というものである。
第3 特許を受けようとする発明(特許請求の範囲の記載)について
特許を受けようとする発明は,平成27年9月25日に補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち,請求項1の記載は,次のとおりである。(以下,請求項1の記載に係る発明を「本願発明1」という。)
「以下の工程:
髪繊維に,5g/分以下の量で蒸気を適用する工程,
これら髪繊維を90乃至230℃の温度で成形する工程,
を含み,
前記蒸気の適用と前記成形とが,連続しておらず,
前記成形工程が蒸気を適用する工程の後に実施される,髪繊維に蒸気を適用することのできる平滑化アイロンによる髪繊維のストレートパーマ処理方法。」
第4 本願が拒絶されるべき理由
1 サポート要件について
(1) 本願明細書の記載
本願発明1について,本願の願書に添付された明細書(以下「本願明細書」という。)には次の記載がある(なお,下線は,審決による。)。
・「【0001】
本発明は,髪繊維,特に髪を処理するための新規な方法に関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】…
【0007】
…本発明の目的は,容易であり,迅速に実行され,且つ少なくとも一度の洗浄に対して持続性である方法により,髪繊維の美容特性及び外観特性の改善を得ることを可能にする,ケラチン繊維の処理のための新規な方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は,本発明によって達成されるが,その主題は,
(i)髪繊維に,5g/分以下の量で蒸気を適用する工程,
(ii)これら髪繊維を50℃より高い温度で成形する工程,
を含み,前記蒸気の適用と前記成形とが連続していない,髪繊維の処理方法である。
【0009】
換言すれば,髪繊維の処理済み毛房に対して,蒸気を適用する工程と成形の工程とは,髪繊維の同一部分に同時には行われない。それでもなお,これら二つの工程は,これら二つの工程を連続して行うために構成された同一の装置で実行することが可能である。あるいはまた,二つの別々の装置を使用して,これらの不連続な工程を実行することも可能である。」
・「【0022】
本発明の方法により,特に蒸気の適用が成形の前に行われる場合に,50℃を超える温度での成形の実施の間の繊維への損傷を低減するために,前記繊維に十分に潤いを与えることが可能になる。」
・「【実施例】
【0079】
(実施例1)
髪の毛房を洗って絞る。次に,この髪を,およそ80%の乾燥が得られるまで予備乾燥させる。
これらの予備乾燥させた毛房に,3g/分のオーダーで蒸気を適用し,この蒸気の適用に次いで,少なくとも100℃に加熱したアイロンを用いて,成形/平滑化の工程を実施する。この処理は,毛房一つ毎に,頭髪全体に亘って実施する。
次いで,色調5.64(Majirouge領域の赤銅色を帯びた明るい栗茶)のパーマネント酸化染料を適用し,その操作は,髪繊維への,1つもしくは複数の酸化ベースとパーマネント染色の分野において周知の1つもしくは複数のカップラーとを,酸性化剤(過酸化水素)の存在下で適用することである。
同時に,上記試験を再度行うが,その前の条件下での蒸気適用の工程または成形の工程は実施しない一方で,従来の加熱アイロンを用いる平滑化を実行する。
蒸気を用いて処理された髪が,従来の加熱アイロンのみで処理された髪よりも光沢があり,且つ,より平滑であることが観察される。」
・「【0080】
(実施例2)
チオグリコール酸塩を含む還元性クリームを,洗って絞った髪の毛房に,ブラシを用いて適用する。設定時間後,毛房を再度リンスし,その後絞って,ヘアドライヤーを使用して80%にまで予備乾燥させる。
これらの予備乾燥させた繊維に,以上に定義される条件下で蒸気を適用し,この蒸気の適用に次いで,少なくとも100℃に加熱したアイロンを用いて,成形/平滑化の工程を実施する。この処理は,毛房一つ毎に,頭髪全体に亘って実施する。…
【0081】
(実施例3)
シリコーン及びカチオン性界面活性剤を含む,洗い流さないケア製品である,Kerastase製のケア製品,「Ciment thermique」を,洗って絞った髪の毛房に適用する。その後,この毛房を,およそ80%の乾燥が得られるまで予備乾燥させる。
これらの予備乾燥させた毛房に,以上に定義される条件下で蒸気を適用し,この蒸気の適用に次いで,少なくとも100℃に加熱したアイロンを用いて,成形/平滑化の工程を実施する。…
【0082】
(実施例4)
Elseveブランドのコンディショナー,「Nutriceramide」を,洗って絞った髪の毛房に適用する。設定時間後,毛房をリンスし,絞って,およそ80%の乾燥が得られるまで予備乾燥させる。
これらの予備乾燥させた毛房に,以上に定義される条件下で蒸気を適用し,この蒸気の適用に次いで,少なくとも100℃に加熱したアイロンを用いて,成形/平滑化の工程を実施する。…
【0083】
(実施例5)
髪の毛房を洗って絞る。次に,この髪を,およそ80%の乾燥が得られるまで予備乾燥させる。
これらの予備乾燥させた毛房に,本発明において定義される条件下で蒸気を適用し,この蒸気の適用に次いで,少なくとも100℃に加熱したアイロンを用いて,成形/平滑化の工程を実施する。この処理は,毛房一つ毎に,頭髪全体に亘って実施する。…」
(2) 本願がサポート要件を満たさない具体的理由について
ア 本願明細書(上記(1))の記載によれば,本願発明1の解決課題は,「髪繊維の美容特性及び外観特性の改善を得ることを可能にする,ケラチン繊維の処理のための新規な方法」(本願明細書【0007】)を提供することにあると認められ,また,本願明細書には,「この目的は,本発明によって達成されるが,その主題は,(i)髪繊維に,5g/分以下の量で蒸気を適用する工程,(ii)これら髪繊維を50℃より高い温度で成形する工程,を含み,前記蒸気の適用と前記成形とが連続していない,髪繊維の処理方法である。」(【0008】)との記載があり,この記載に係る技術事項は本願発明1の構成を包含するものである。
そこで,上記技術事項に係る構成に着目しつつ,本願発明1が上記課題を解決できるといえるかについて,以下検討する。
イ 本願発明1は,「髪繊維に,5g/分以下の量で蒸気を適用する工程」を含むことを特定事項とするものであるが,請求項1には,どの程度の時間,蒸気を適用するのかについての記載がされておらず,また本願明細書にもその点についての記載がない。
例えば,本願明細書には,実施例1において,「3g/分のオーダーで蒸気を適用し」との記載があり,さらに実施例2~5には「以上に(本発明において)定義される条件下で蒸気を適用し」との記載があるものの,適用した時間についての記載はなく,これら実施例において,髪繊維に対しどの程度の量の蒸気が適用されたのか明らかでない(3g/分のオーダーで蒸気を適用しても,適用時間の長短により,髪繊維に対して作用する蒸気の量が異なることになるのは自明である。)。
そうすると,どの程度の量の蒸気が髪繊維に適用されることで上記課題が解決できるといえるか,本願明細書の記載から,あるいは,本件出願日当時の技術常識に照らし,当業者は理解することができない。
なお,本願明細書の実施例には,蒸気を用いて処理された髪が,従来の加熱アイロンのみで処理された髪よりも光沢があり且つより平滑であることが観察される旨の記載があるが,これらの記載がどの様な尺度に基づくものか客観的指標が不明である。
この点,請求人は,請求書において,「かかる独自の構成に基づく本願発明の顕著な効果を明示するために,以下の実験結果を補足させていただきます。」と主張しつつ,その実験結果として【表1】を提示するが,当該実験においては,単位時間あたりの蒸気の適用量は理解できるものの,適用時間は不明であるし,当該【表1】において,評価の数値(縦軸)が何を示しているのか,平成29年9月13日付け意見書の主張(2頁下から9行)を参酌しても,依然として不明である。よって,請求人の主張によっても異なる量の蒸気による平滑化効果を理解することができない。
ウ また,蒸気を適用する工程と高い温度で成形する工程とが「連続しておらず」との特定事項について,請求項1には,連続していない両工程との間にどの程度の時間間隔を有するのかについても記載がされておらず,また明細書にも記載がない。
例えば,本願明細書には,蒸気を適用する工程と成形する工程とが連続する場合と連続しない場合のそれぞれについて,その相違を説明する具体的な記載はなく,また原審において示された引用文献5(特表2005-530583号公報)に示された技術(蒸気を適用する工程と成形する工程とが同時であるもの。)との効果の相違も明らかでない。その結果,「連続しておらず」という構成に基づく効果が不明である。
そうすると,上記時間間隔を何ら特定しない「連続しておらず」との構成を有することで,常に,本願発明1が上記課題を解決できることを,当業者は認識することができない。
(3) 平成29年9月13日付け意見書における請求人の主張について
ア 請求人は,髪繊維に適用される蒸気(審決注:請求書に記載の「上記」は「蒸気」の誤記と解する。)の量について,本願発明では各毛房に対して蒸気を15秒間に亘って2回(合計で30秒間)適用すると述べつつ,本願明細書の【0022】及び【0023】の記載を挙げて,本願発明の課題解決のためには,蒸気の絶対的な適用量よりも蒸気の適用により髪繊維に「十分に潤いを与えること」が重要であり,髪繊維に十分に潤いを与えた上で加熱を伴った成形処理を行うという本願発明の独自の構成により髪繊維の美容特性及び外観特性の改善が可能になったことが本願明細書に明示されている旨主張する。
しかし,本願明細書には,本願発明において各毛房に対して蒸気を15秒間に亘って2回(合計で30秒間)適用するとの記載はなく,この点に係る主張は根拠のない,請求人の独自の見解にすぎないといえる。また,本願明細書の【0023】の記載は,蒸気の適用が成形の後に行われる場合についてのものであって,そもそも蒸気の適用が成形の前に行われることを特定する本願発明1とは無関係である。
さらに,請求人は,髪繊維に十分に潤いを与えることが重要である旨主張するが,そもそも本願発明1は,請求人が主張するような髪繊維に十分に潤いを与えることを特定事項とするものではないし,髪繊維にどの程度の水分量が施されること・浸透することをもって「十分に潤いを与え」たことになるか,客観的指標は依然として明らかでない。
請求人の髪繊維に適用される蒸気の量についての上記主張は,その前提において採用できない。
イ また請求人は,蒸気の適用と成形とが連続しておらずとの構成について,例えば,アイロンの加熱面(髪繊維との接触面)に蒸気が噴出する孔が設けられ,髪繊維に蒸気と熱とを同時に適用することを意図した従来技術によるヘアアイロンとは異なり,本願発明は,アイロンの加熱面(髪繊維との接触面)外にオリフィス(蒸気の噴出孔)が設けられている装置を用いることを意図しており,このため,髪繊維に蒸気と熱とが同時に適用される従来技術とは異なり,蒸気の適用と熱の適用との間に少なくとも数秒間の時間差が生じることを特徴としている旨主張する。
しかし,本願発明1は,請求人が主張するような構成(アイロンの加熱面外にオリフィスが設けられている装置を用いることや,蒸気の適用と熱の適用との間に少なくとも数秒間の時間差が生じること)を特定事項とするものではなく,このような本願発明1とは関係のない事項に基づく主張は,そもそも採用の限りでない。仮に,上記構成が本願発明1と関係があるといえたとしても,本願発明1が上記構成を有することで直ちに上記課題を解決できることにはならないといわざるを得ず,その意味においても,請求人の主張は採用できない。
(4) 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものではないといわざるを得ず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから,いわゆるサポート要件を満たさない。
2 明確性要件について
(1)ア 請求項1には「髪繊維に,5g/分以下の量で蒸気を適用する工程」との記載があるが,その「適用」が,どの程度の時間,蒸気を適用することを意味するのか明確でない。
また,蒸気を適用する工程と高い温度で成形する工程とが「連続しておらず」との特定事項についても,連続していない両工程との間にどの程度の時間間隔を有することを意味するのか明確でない。
イ 請求人は,本願発明の特徴的な構成は,蒸気の絶対的な適用量によって規定されるものではなく,蒸気の適用によって髪繊維が十分に潤いを与えられた状態で加熱による成形工程が行われることであり,この点は,本願特許請求の範囲の記載に加え,明細書全体の記載を併せて参照することで,当業者には十分明確に理解される旨主張する。
しかし,請求人の上記主張に理由がないのは,上記1(3)で述べたとおりである。
(2) 小括
以上のとおりであるから,本願の請求項1の記載は,いわゆる明確性要件を満たさない。
第5 むすび
以上のとおり,本願は,請求項1について,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号及び同項2号で規定する要件を満たしていない。そして,本件拒絶理由は妥当なものであって,平成29年9月13日付け意見書の内容を検討しても,これを覆すに足りる根拠が見いだせないから,本願は拒絶すべきものである。
そうすると,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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