特許拒絶査定不服審判
2015-014610
設計を計算するまたは選択することによって眼科用メガネレンズを提供するための方法
- 審判番号
- 2015-014610
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-538359外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年08月04日
- 審決日
- 2017年01月10日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラル ドプティック)
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 分類
- P18 .537-WZ (G02C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第184条の4第1項、特許法第184条の6第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-538359「設計を計算するまたは選択することによって眼科用メガネレンズを提供するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月19日国際公開,WO2011/058177,平成25年 3月28日国内公表,特表2013-511060〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2010年11月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年11月13日,欧州特許庁)を国際出願日とする特許法184条の4第1項の外国語特許出願であって,平成24年7月10日に国際出願日における明細書及び請求の範囲の翻訳文(特許法184条の6第2項の規定により,国際出願日における明細書及び請求の範囲の翻訳文はそれぞれ本願の明細書及び特許請求の範囲と,国際出願日における図面は本願の図面とみなされる。以下,それぞれを単に「明細書」,「特許請求の範囲」及び「図面」という。)が提出され,平成26年7月17日付けで拒絶の理由が通知され,同年10月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年3月27日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成27年8月4日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成28年8月22日付けで拒絶理由が通知され,同年11月21日に意見書及び手続補正書が提出された。
2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は,平成28年11月21日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は,次のとおりである。(なお,平成28年11月21日提出の手続補正書によって,請求項1は補正されていない。)
「コンピュータ手段を通じて少なくとも部分的に実施される,眼科用メガネレンズを着用者に提供するための方法であって,次の連続的なステップ,
a)前記着用者の目(両目)の低次(球面および/または円柱面)収差を,前記収差が0.25ジオプトリーよりも大きい場合に補正するために眼科用補正デバイスを前記着用者に提供するステップと,
b)前記着用者の目が,実質的に低次収差がないまたはステップa)に従って補正された状態で,前記着用者の目の視力値,VA,または前記着用者の両目の両眼視力値,VAbinoを測定するステップと,
c)ステップb)の前記測定された視力値に基づいて所与の注視方向の残留非点収差の最大許容レベルを定義することによって前記眼科用メガネレンズの設計をコンピュータ手段によって計算するまたは眼科用メガネレンズ設計データベースで設計を選択するステップと,
を含む,方法。」(以下,当該発明を「本願発明」という。)
3 当審において通知した拒絶理由について
当審において平成28年8月22日付けで通知された,本願発明に対する拒絶理由の一つは,概略次のとおりである。
本願明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されているのは,着用者に提供する累進多焦点レンズの設計を「設計パラメータDP1」(【0048】)を用いて行うことによって,「視力がより低いほど,着用者のための設計がよりソフトであり,それに応じて視力がより高いほど,着用者のための設計がよりハードである」(【0048】,【0069】)ようにしたもののみと認められるところ,当該事項に関して,請求項1には,眼科用メガネレンズの設計に関して,「c)ステップb)の前記測定された視力値に基づいて所与の注視方向の残留非点収差の最大許容レベルを定義することによって前記眼科用メガネレンズの設計をコンピュータ手段によって計算するまたは眼科用メガネレンズ設計データベースで設計を選択するステップ」なる発明特定事項が記載されているのみであって,眼科用メガネレンズが累進多焦点レンズであるのか否かや,ソフトな設計にするのかハードな設計にするのかの選択を視力値に基づいて行うこと等については何ら規定されていないから,本願発明が,発明の詳細な説明に記載されたものであると認めることはできない。
したがって,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。(以下,当該理由を「当審拒絶理由」という。)
4 当審拒絶理由についての判断
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書(本願明細書は,本願の手続を通じて一度も補正されたことがないから,国際出願日における明細書の翻訳文のままである。)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。(下線は,後述する「本願明細書の発明の詳細な説明の記載から把握される事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「技術分野】
【0001】
本発明は一般に,視力改善の分野に関し,より具体的には設計を計算するまたは選択することによって眼科用メガネレンズを提供するための方法に関する。眼科用メガネレンズは,例えば累進多焦点レンズ,単焦点レンズとすることができる。本発明はまた,眼科用メガネレンズを作るための方法にも関する。さらに,本発明は,本発明の眼科用メガネレンズの設計のための計算方法を実施するために構成された一組のソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用メガネレンズは,多くの異なる種類の視力不足を補正するために着用されて広く使用される。これらの視力不足には,近くが見えること(近視)および遠くが見えること(遠視),乱視などの欠陥,ならびに通常老化に関連する近接範囲視力の欠陥(老眼)が含まれる。
・・・(中略)・・・
【0006】
光学系の非点収差は,局所的円環状面および光線の傾斜性(像および物体が軸を越えているとき)の両方に起因する。累進多焦点レンズなどでの複雑な表面は,レンズの各点で変わる非点収差を発生させている。レンズの非点収差と目の屈折異常に対応する処方された乱視との間の差は,残留非点収差と呼ばれる。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決することを目指す問題は,レンズ使用者の視覚要求をよりよく満たし,レンズ使用者,特に累進多焦点レンズの使用者の快適さを改善し,使用者のレンズへの適応を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために,本発明の1つの主題は,眼科用メガネレンズを着用者に提供するための方法であり,その方法は,次の連続的なステップ,
a)着用者の目(両目)の低次(球面および/または円柱面)収差を,前記収差が0.25ジオプトリーよりも大きい場合に補正するために眼科用補正デバイスを着用者に提供するステップと,
b)着用者の目が,実質的に低次収差がないまたはステップa)に従って補正される場合には,着用者の目の視力値,VA,または着用者の両目の両眼視力値,VAbino,を測定するステップと,
c)ステップb)の測定された視力値に基づいて残留非点収差の管理を適応させることによって眼科用メガネレンズの設計をコンピュータ手段によって計算するまたは眼科用メガネレンズ設計データベースで設計を選択するステップとを含む。
【0012】
前記方法はそれ故に,少なくとも部分的にコンピュータ手段を通じて実施される。」
イ 「【0015】
本発明の一実施形態によると,「測定された視力値に基づいて残留非点収差の管理を適応させること」は,残留非点収差の最大許容レベルが,所与の注視方向について定義され,前記レベルが,所与の視力値について定義されることを意味する。
【0016】
本発明の一実施形態によると,着用者の目の視力値,VA,または着用者の両目の両眼視力値,VAbino,を測定することは,前記目の最大視力値を測定することに関係する。
・・・(中略)・・・
【0018】
本発明の枠内では,着用者の目は,前記収差の値が0.25ジオプトリー以下であるとき実質的に低次収差がない。
【0019】
眼科用メガネレンズ,および特に累進多焦点レンズは,残留収差,大部分は非点収差を伴う。それ故に,本発明は,使用者の目の視力測定結果に基づいて残留非点収差の管理をカスタマイズし,このようにして鋭敏さ/歪みの妥協を最適化することを提供する。実際,本発明者は,残留非点収差の視覚への影響が,着用者の視力のレベルに依存することを検証することができた。
・・・(中略)・・・
【0036】
組み合わせることができる異なる実施形態によると,
- ステップa)の眼科用補正デバイスは,目の注視方向に1つの補正レンズまたは複数の補正レンズを含み,検眼レンズが,この目的のために使用されてもよい。
- ステップa)はまた,目のより高次の収差を補正するために眼科用補正デバイスを着用者に提供するステップも含む。
- ステップa)および/または前述の請求項の眼科用補正デバイスは,適応光学視覚シミュレータを含み,一実施形態によると,適応光学視覚シミュレータは,Company Image Eyesによって商品化されたcrx1(商標)装置である。・・・(中略)・・・
【0039】
本発明の一実施形態によると,眼科用メガネレンズは,累進多焦点レンズである。
・・・(中略)・・・
【0042】
累進多焦点レンズ設計は,度数および非点収差の分布に基づいて「ハード」型設計または「ソフト」型設計として広く分類される。
【0043】
ハードレンズ設計は,累進多焦点光学をレンズ表面のより小さな領域に集中させ,それによって周辺での不要な円柱面度数の勾配および全体の大きさを高めることを犠牲にしてはっきりとした視覚のエリアを拡大する。
【0044】
ソフトレンズ設計は,レンズ表面のより大きな領域にわたって累進多焦点光学を広げ,それによってはっきりとした視覚のエリアを狭くすることを犠牲にして不要な円柱面度数の勾配および全体の大きさを低減する。
【0045】
付加度数の比較的緩やかな累進を持つより長い累進回廊長は通常,ソフトレンズ設計を与え,一方付加度数の比較的急な累進を持つより短い回廊長は通常,ハードレンズ設計を与える。
・・・(中略)・・・
【0048】
本発明の実施形態によると,
- 着用者のための設計の計算または選択は,視力がより低いほど,着用者のための設計がよりソフトであり,それに応じて視力がより高いほど,着用者のための設計がよりハードであるように行われる。
- 設計パラメーター(DP1)は,着用者のための設計を計算するまたは選択するために使用され,ここで,
DP1=EHC+(1-EHC)×DP
であり,ただし,
EHCは,目-頭部係数であり,
DPは,視力値によって計算される設計パラメーターであり,ただしハード設計についてはDP=0であり,ソフト設計についてはDP=1である。
【0049】
本発明の枠内では,「目-頭部係数」は,着用者の注視方向が変化しているときに着用者の目および頭部のそれぞれの動きの相対振幅を特徴付けるのに適した係数である。目-頭部係数は,「目/頭部」運動協調検査によって着用者について測定できる。
【0050】
一実施形態によると,EHCは,着用者が見ている目標の角度離心率(E)で割った着用者の頭部の角度変位(αT)の関数である。前記EHCは,目標を見るときに頭部の向きを変えただけである着用者については1に等しく,目標を見るときに目の向きを変えただけである着用者については0に等しい。
・・・(中略)・・・
【0053】
本発明による方法はまた,既存のレンズ設計の選択を最適化するためにも使用できる。特に,視力に応じて,視野の全体で処方された補正とのよりよい一致を可能にする機能,または組立てパラメーターおよび着用モードを考慮に入れる機能を使用するかまたは使用しないことが可能である。」
ウ 「【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】初期視力値に応じた視力微分変化に関する実験結果を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図3a】異なる累進多焦点レンズ設計のための非点収差分布を示す図である。
【図3b】異なる累進多焦点レンズ設計のための非点収差分布を示す図である。
【図4a】異なる累進多焦点レンズ設計のための非点収差分布を示す図である。
【図4b】異なる累進多焦点レンズ設計のための非点収差分布を示す図である。」
エ 「【発明を実施するための形態】
【0063】
図1は,複数の着用者について各着用者の目の初期視力値VAinitに応じた視力微分(varVA_cyl)変化の実験データを示し,視力値は,LogMAR単位で表される。着用者の視力は,値VAinitが低いときは高く,値VAinitが高いときは低いことを強調すべきである。視力微分(varVA_cyl)は,追加非点収差度数(追加円柱面度数)の関数としての合成視力変化の勾配として計算され,対応する単位は,1ジオプトリー当たりのLogMARである。初期視力値VAinitが,初めに着用者について測定され,複数の非点収差値が次いで,前記着用者のために追加され,合成視力が,前記非点収差値追加を持つ着用者について測定される。なされた実験によると,勾配は,0.25,0.5および0.75ジオプトリーの3つの異なる追加非点収差値を使ってそれぞれ得られる合成視力の3つの測定結果の線形補間から計算される。
【0064】
視力は,図2を述べるときに開示される方法に従って測定される。
【0065】
本発明者は,前記視力微分(varVA_cyl)が,初期視力値に大きく依存し,平均依存直線101,102が,プロットできることを確証した。
【0066】
決定係数R2が,計算され,ただしRは,ピアソンの相間パラメーターである。
【0067】
矩形(各矩形は,所与の着用者についての実験結果である)および直線101は,着用者の目が,実質的に低次収差がない場合のデータに関係する。本実験では,低い収差は,適応光学視覚シミュレータによって補正され,検眼レンズもまた,同じ目的のために使用できる。直線101を計算するときの決定係数R2は,R2=0.32である。
【0068】
ひし形(各ひし形は,所与の着用者についての実験結果である)および直線102は,着用者の目が,実質的に低次収差がなく,着用者の目がまた,適応光学視覚シミュレータを使用することにより実質的により高次の収差もない場合のデータに関係する。直線102を計算するときの決定係数R2は,R2=0.44である。
【0069】
それ故に,初期視力値が,例えばLogMAR(VAinit)が-0.20から-0.05の間に含まれるように高い着用者の目は,非常に高感度(高い視力微分)であり,一方初期視力値が,例えばLogMAR(VAinit)が0.15から0.30の間に含まれるように低い着用者の目の視力は,低感度(低い視力微分)であると決定できる。この教示のおかげで,「ハード設計」眼科用メガネレンズを初期視力値が高い着用者に,および「ソフト設計」眼科用メガネレンズを初期視力値が低い着用者に有利に提供できる。
・・・(中略)・・・
【0071】
図3aおよびbならびに4aおよびbは,着用者の初期視力値に応じて,非点収差の分布が典型的にレンズ使用者の2つのカテゴリーに調整された状態の,累進多焦点レンズの設計の2つの例を二度示す。
【0072】
図3aおよびbは,累進チャネル長が18mmである累進多焦点レンズの設計の2つの例を示す。
【0073】
図4aおよびbは,累進チャネル長が14mmである累進多焦点レンズの設計の2つの例を示す。
【0074】
図3aおよび4aは,初期視力値が高く,好ましくはLogMAR(VAinit)が,-0.05未満(およびより好ましくは-0.10未満)である人のために調整された設計例の非点収差分布を示す。
【0075】
図3bおよび4bは,初期視力値が低く,好ましくはLogMAR(VAinit)が,0.10よりも大きい(およびより好ましくは0.20よりも大きい)人のために調整された設計例の非点収差分布を示す。
【0076】
遠い視覚(またはFV)エリアおよび近い視覚(またはNV)エリアでのより高いレベルの非点収差は,許容されるので,図3bおよび4bの設計は,図3aおよび4aの設計よりもはるかにソフトであり,従ってそれに適応することは,歪みの観点からはるかに容易であることになる。」
オ 「【図1】
・・・(中略)・・・
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
」
(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載から把握される事項
本願明細書の発明の詳細な説明の【0010】の記載によれば,本願発明が解決しようとする課題は,「レンズ使用者の視覚要求をよりよく満たし,レンズ使用者の快適さを改善し,使用者のレンズへの適応を容易にする」ことにあると認められる。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明の【0019】には,「本発明者は,残留非点収差の視覚への影響が,着用者の視力のレベルに依存することを検証することができた。」と記載され,当該「検証」の具体的内容については,図1に「複数の着用者について各着用者の目の初期視力値VAinitに応じた視力微分(varVA_cyl)変化の実験データ」(【0063】を参照。)を示した上で,これら実験データに基づいて,【0065】では「視力微分(varVA_cyl)が,初期視力値に大きく依存し,平均依存直線101,102が,プロットできる」と,【0069】では「初期視力値が,例えばLogMAR(VAinit)が-0.20から-0.05の間に含まれるように高い着用者の目は,非常に高感度(高い視力微分)であり,一方初期視力値が,例えばLogMAR(VAinit)が0.15から0.30の間に含まれるように低い着用者の目の視力は,低感度(低い視力微分)であると決定できる。この教示のおかげで,『ハード設計』眼科用メガネレンズを初期視力値が高い着用者に,および『ソフト設計』眼科用メガネレンズを初期視力値が低い着用者に有利に提供できる。」と説明されている。
以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは,初期視力値(請求項1では「測定された視力値」と表現されている。)が高い着用者の目は高感度であり,初期視力値が低い着用者の目は低感度であることから,初期視力値が高い着用者には「ハード設計」眼科用メガネレンズを,初期視力値が低い着用者には「ソフト設計」眼科用メガネレンズを提供するようにすることで,着用者の視覚要求を満たし,快適さを改善できること,すなわち,前述した本願発明の課題を解決できることを理解することができる。
なお,本願明細書の発明の詳細な説明の【0043】及び【0044】の記載によれば,「ハード設計」とは,累進多焦点レンズにおいて,累進領域を小さな領域に集中させ,それによって周辺での不要な円柱面度数の勾配および全体の大きさを高める(要するに,累進領域周辺での非点収差が大きくなってしまう)代わりに明視域を拡大する設計のことであり,「ソフト設計」とは,累進多焦点レンズにおいて,大きな領域にわたって累進領域を広げ,それによって明視域が狭くなる代わりに不要な円柱面度数の勾配および全体の大きさを低減する(累進領域周辺での非点収差を小さくする)設計のことと解される。
また,本願明細書の発明の詳細な説明の【0053】には,「本発明による方法はまた,既存のレンズ設計の選択を最適化するためにも使用できる。特に,視力に応じて,視野の全体で処方された補正とのよりよい一致を可能にする機能,または組立てパラメーターおよび着用モードを考慮に入れる機能を使用するかまたは使用しないことが可能である」との記載があるものの,当該記載中の「視力に応じて,視野の全体で処方された補正とのよりよい一致を可能にする機能」や,「組立てパラメーターおよび着用モードを考慮に入れる機能を使用するかまたは使用しないこと」が,初期視力値に応じて,どのような設計を行うことを指しているのか,たとえ当業者といえどもその具体的内容を理解することができず,当該記載が,「測定された視力値に基づいて所与の注視方向の残留非点収差の最大許容レベルを定義する」ことによって眼科用メガネレンズを設計するという請求項1に記載された方法を,開示しているとは認められない。加えて,「視力に応じて,視野の全体で処方された補正とのよりよい一致を可能にする機能」や,「組立てパラメーターおよび着用モードを考慮に入れる機能を使用するかまたは使用しないこと」が如何なることを意味しているにせよ,当該態様は,あくまで,初期視力値が高い着用者には「ハード設計」眼科用メガネレンズを,初期視力値が低い着用者には「ソフト設計」眼科用メガネレンズを提供するようにすることで,着用者の視覚要求を満たし,快適さを改善できるという知見の範囲内での設計変更を示唆するものと解するのが相当であって,当該知見を越えた技術思想を具体的に示すものとはいえない。
(3)本願発明について
本願発明は,前記2で認定したとおりのものであって,着用者の初期視力値に応じて眼科用メガネレンズを設計することについて,請求項1には,「c)ステップb)の前記測定された視力値に基づいて所与の注視方向の残留非点収差の最大許容レベルを定義することによって前記眼科用メガネレンズの設計をコンピュータ手段によって計算するまたは眼科用メガネレンズ設計データベースで設計を選択するステップ」を含むという発明特定事項が記載されているのみである。
当該発明特定事項における「所与の注視方向の残留非点収差の最大許容レベル」とは,「ハード設計」及び「ソフト設計」の程度に相当するパラメータ(最大許容レベルが大きくなるほど「ハード設計」となり,小さくなるほど「ソフト設計」となる。)と理解されるところ,着用者の初期視力値(請求項1では「測定された視力値」と表現されている。)に応じて眼科用メガネレンズを設計する手法として,当該発明特定事項のみが規定された本願発明が,初期視力値が高い着用者には「ハード設計」眼科用メガネレンズを,初期視力値が低い着用者には「ソフト設計」眼科用メガネレンズを提供する方法ばかりでなく,例えば,初期視力値が高い着用者には「ソフト設計」眼科用メガネレンズを,初期視力値が低い着用者には「ハード設計」眼科用メガネレンズを提供する方法をも包含していることは明らかである。
しかるに,前記(2)で述べた本願明細書の発明の詳細な説明の記載から把握される事項によれば,「初期視力値が高い着用者には『ソフト設計』眼科用メガネレンズを,初期視力値が低い着用者には『ハード設計』眼科用メガネレンズを提供する方法」では,本願明細書の発明の詳細な説明から把握される前記(2)で述べた知見とは反対方向の方法(課題を解決せず,むしろ悪い結果を及ぼすと考えられる方法)を提供することになると理解されるから,「レンズ使用者の視覚要求をよりよく満たし,レンズ使用者の快適さを改善し,使用者のレンズへの適応を容易にする」という本願発明の課題を解決できないこともまた明らかである。
以上によれば,請求項1には,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,本願発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって,本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
(4)請求人の主張について
平成28年11月21日提出の意見書において,請求人は,「本願明細書段落〔0011〕には,
「本発明の1つの主題は,眼科用メガネレンズを着用者に提供するための方法であり,
その方法は,次の連続的なステップ,
a)着用者の目(両目)の低次(球面および/または円柱面)収差を,前記収差が0.25ジオプトリーよりも大きい場合に補正するために眼科用補正デバイスを着用者に提供するステップと,
b)着用者の目が,実質的に低次収差がないまたはステップa)に従って補正される場合には,着用者の目の視力値,VA,または着用者の両目の両眼視力値,VAbino,を測定するステップと,
c)ステップb)の測定された視力値に基づいて残留非点収差の管理を適応させることによって眼科用メガネレンズの設計をコンピュータ手段によって計算するまたは眼科用メガネレンズ設計データベースで設計を選択するステップとを含む。」との記載;
・・・(中略)・・・
があり,請求項1・・・(中略)・・・の内容をサポートしています。
・・・(中略)・・・ソフトな設計,ハードな設計に関しては,旧請求項9の内容で関係することであり請求項1及び12記載方法において,ソフトな設計にするのかハードな設計にするかまで限定する必要はありません。」などと主張する。
しかしながら,前記(3)で述べたように,「初期視力値が高い着用者には『ソフト設計』眼科用メガネレンズを,初期視力値が低い着用者には『ハード設計』眼科用メガネレンズを提供する方法」を包含する本願発明では,「レンズ使用者の視覚要求をよりよく満たし,レンズ使用者の快適さを改善し,使用者のレンズへの適応を容易にする」という本願発明の課題を解決できないことは明らかであるから,本願発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものといわざるを得ない。
したがって,請求人の主張は採用できない。
5 むすび
以上のとおり,本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
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2015-014610