特許拒絶査定不服審判
2014-024424
有機電界発光表示素子及びその製造方法
- 審判番号
- 2014-024424
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-237516外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2014年12月01日
- 審決日
- 2017年01月17日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】岡部 讓
- 【請求人代理人】吉澤 弘司
- 分類
- P18 .537-WZ (H05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-237516「有機電界発光表示素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月24日出願公開,特開2013-125746〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成24年10月29日(パリ条約による優先権主張2011年12月14日,韓国)の出願であって,平成25年11月8日付けで拒絶理由が通知され,平成26年2月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成26年7月22日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年12月1日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成27年12月18日付けで拒絶理由が通知され,平成28年6月22日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月7日付けで審尋がなされ,同年12月8日に回答書が提出された。
2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成28年6月22日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は,次のとおりである。
「複数の画素を含む第1基板及び第2基板と,
前記第1基板上に形成された薄膜トランジスタと,
前記薄膜トランジスタを含む前記第1基板上に形成された第1絶縁層と,
画素領域における前記第1絶縁層上に形成されたカラーフィルタ層と,
前記カラーフィルタ層を含む前記第1基板上に形成された第2絶縁層と,
前記第2絶縁層上に形成され,水素非含有物質からなり,かつ屈折率1.5~2.7の透明物質からなる入射する光を屈折させる光学補償層であって,前記薄膜トランジスタのドレインのパッドに接した光学補償層と,
前記各画素領域における前記光学補償層上に形成された画素電極と,
前記画素電極上に形成されて発光する有機発光部と,
前記有機発光部上に形成された共通電極と
を含み,
前記光学補償層に形成されて異物を排出する複数の孔をさらに含むことを特徴とする,有機電界発光表示素子。」(以下,当該発明を「本願発明」という。)
3 当審において通知した拒絶理由について
当審において平成27年12月18日付けで通知された拒絶理由の一つは,概略次のとおりである。(以下,当該理由を「当審拒絶理由」という。)
本願は,発明の詳細な説明の記載が次の点で,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(1) 本願明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題について,「しかし,このようなCOT(Color Filter on TFT)構造の有機電界発光表示素子においては,視野方向によって色変換が生じて視野角が狭くなるという問題があった。」(【0005】)と記載されているが,COT構造の有機電界発光表示素子において,どのような原理で視野方向によって色変換が生じるのか当業者が理解できないから,本願明細書の発明の詳細な説明は,発明が解決しようとする課題を当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
(2) 本願の請求項1(審決注:平成28年6月22日提出の手続補正書による補正前の請求項1である。)には,「前記第2絶縁層上に形成され,水素非含有物質からなり,かつ屈折率1.5~2.7の透明物質からなる入射する光を屈折させる光学補償層であって,前記薄膜トランジスタのドレインのパッドに接した光学補償層」との発明特定事項が記載され,本願明細書の発明の詳細な説明には,前記発明特定事項の「光学補償層27」が光を「屈折」させることで「視野角特性」や「光の色視野角」を向上させられることが記載されているが,光を「屈折」させると,どのような原理で「視野角特性」や「光の色視野角」が向上するのか記載されておらず,かつ,本願明細書の発明の詳細な説明に,「光学補償層」を形成することで実際にどの程度「視野角特性」や「光の色視野角」が改善するのかを示す実験結果等が記載されているわけでもないので,本願明細書の発明の詳細な説明は,発明が解決しようとする課題の解決手段を当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
(3) 本願明細書の発明の詳細な説明は,「光学補償層」の技術上の意義を理解できるように記載されているとはいえないものであるから,請求項に記載された「有機電界発光表示素子」をどのように作るのか,例えば,「光学補償層」又はそれに隣接する「第2絶縁層」及び「画素電極」として,具体的にどのような屈折率を持つどのような材料をどのような膜厚で形成すればよいのか当業者が理解できないから,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
4 当審拒絶理由についての判断
(1)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。(下線は,後述する「(2)発明の詳細な説明の記載から把握される事項」における認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機電界発光表示素子に関し,特に,色視野角を改善することのできる有機電界発光表示素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0004】
現在は,液晶表示装置と同様に各画素に能動型駆動素子を備えたアクティブマトリクス有機電界発光表示素子が,フラットパネルディスプレイとして盛んに研究されている。特に,近年は,カラーを実現するためのカラーフィルタ層を薄膜トランジスタが形成される基板に形成し,発光部から発光した光がカラーフィルタ層を透過することによりカラーを表示するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし,このようなCOT(Color Filter on TFT)構造の有機電界発光表示素子においては,視野方向によって色変換が生じて視野角が狭くなるという問題があった。
【0006】
本発明は,このような問題を解決するためになされたもので,光学補償層を形成して視野角特性を向上させることのできる有機電界発光表示素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
・・・(中略)・・・
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために,本発明による有機電界発光表示素子は,複数の画素を含む第1基板及び第2基板と,前記第1基板上に形成された薄膜トランジスタと,前記薄膜トランジスタを含む前記第1基板上に形成された第1絶縁層と,画素領域における前記第1絶縁層上に形成されたカラーフィルタ層と,前記カラーフィルタ層を含む前記第1基板上に形成された第2絶縁層と,前記第2絶縁層上に形成され,水素非含有物質からなる光学補償層であって,前記薄膜トランジスタのドレインのパッドに接した光学補償層と,前記各画素領域における前記光学補償層上に形成された画素電極と,前記画素電極上に形成されて発光する有機発光部と,前記有機発光部上に形成された共通電極とを含む。
【0010】
前記光学補償層は,屈折率1.5~2.7のSiNx,ITO(Indium Tin Oxide),又はIZO(Indium Zinc Oxide)などで形成される。前記SiNxは,1500~2000Åの厚さで積層される。前記光学補償層には複数の孔が形成されており,真空キュア時に異物を排出する。
・・・(中略)・・・
【0015】
前記光学補償層は,屈折率1.5~2.7の透明物質からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては次のような効果が得られる。
【0017】
第一に,本発明においては,1.5~2.7の屈折率を有する透明な光学補償層を形成することにより,視野角特性を向上させることができる。」
イ 「【図面の簡単な説明】
【0020】
・・・(中略)・・・
【図2】本発明の第1の実施の形態による有機電界発光表示素子の構造を示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【図4】本発明の第2の実施の形態による有機電界発光表示素子の構造を示す断面図である。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,添付図面を参照して本発明について詳細に説明する。
・・・(中略)・・・
【0027】
図2は,本発明の第1の実施の形態による有機電界発光表示素子の構造を示す断面図である。同図を参照して本発明の第1の実施の形態による有機電界発光表示素子の構造を説明する。
・・・(中略)・・・
【0030】
図2に示すように,ガラスやプラスチックなどの透明物質からなる第1基板16はR,G,B画素に分けられ,R,G,B画素にはそれぞれ駆動薄膜トランジスタが形成されている。
・・・(中略)・・・
【0033】
前記駆動薄膜トランジスタが形成された第1基板16には第1絶縁層24が形成される。第1絶縁層24は,SiO2などの無機絶縁物質を用いて約4500Åの厚さで形成してもよい。第1絶縁層24上のR,G,B画素には,それぞれRカラーフィルタ層17R,Gカラーフィルタ層17G,Bカラーフィルタ層17Bが形成される。
【0034】
Rカラーフィルタ層17R,Gカラーフィルタ層17G,Bカラーフィルタ層17B上には第2絶縁層26が形成される。第2絶縁層26は,第1基板116平坦化するためのオーバーコート層であり,フォトアクリルなどの有機絶縁物質を用いて約3μmの厚さで形成してもよい。
【0035】
第2絶縁層26上には光学補償層27が形成される。光学補償層27は,カラーフィルタ層17R,17G,17Bに入力される光を屈折させて光の視野角特性を向上させるためのものであり,屈折率1.5~2.7のSiNx層を1500~2000Åの厚さで積層することにより形成してもよい。光学補償層27は,SiNx層に限定されるものではなく,屈折率1.5~2.7の透明物質であればいかなる物質でも使用可能である。例えば,透明なITOやIZOを使用して光学補償層27を形成してもよい。ここで,光学補償層27は,第1基板16全体にわたって形成されるので,ITOやIZOの組成比を調節して電気伝導度を最小限に抑えることで導電性を除去することが好ましい。
【0036】
ここで,光学補償層27は,水素を含有しない層であり,例えば光学補償層27としてSiNx層を形成する際に,水素を含まない雰囲気で形成することにより,薄膜トランジスタのチャネル層に水素が浸透して薄膜トランジスタが劣化することを防止することができる。
【0037】
光学補償層27上のR,G,B画素にはそれぞれ画素電極21R,21G,21Bが形成される。・・・(中略)・・・
【0039】
画素電極21R,21G,21Bは,ITOやIZOなどの透明な酸化金属物質からなるが,本発明においては,画素電極21R,21G,21BをそれぞれのR,G,B画素に約500Åの厚さで形成してもよい。
・・・(中略)・・・
【0041】
有機発光部23は,白色光を発光する白色有機発光層を含む。前記白色有機発光層は,R,G,Bの単色光をそれぞれ発光する複数の有機物質を混合して形成してもよく,R,G,Bの単色光をそれぞれ発光する複数の発光層を積層して形成してもよい。・・・(中略)・・・
【0042】
有機発光部23上には,第1基板16全体にわたって共通電極25が形成される。共通電極25は,Ca,Ba,Mg,Al,Agなどからなる。
【0043】
・・・(中略)・・・有機発光層に含まれるR,G,B発光層からそれぞれ赤色光,緑色光,青色光が発光し,これらの光が混合されて白色光が発散する。そして,発散した白色光は,それぞれR,G,Bカラーフィルタ層17R,17G,17Bを透過し,該当画素に対応するカラーの光のみが出力される。
【0044】
共通電極25上に接着剤が塗布されて接着層42が形成され,接着層42上に第2基板50が配置され,接着層42により第2基板50が第1基板16に貼り付けられる。
・・・(中略)・・・
【0048】
前述したように,本発明においては,有機発光部23の下部に光学補償層27を形成することにより,有機発光部23からR,G,Bカラーフィルタ層17R,17G,17Bに入射する白色光を補償し,視野角特性を向上させる。
・・・(中略)・・・
【0071】
前述したように,本発明においては,有機発光部23の下部に光学補償層27を形成して有機発光部23から発光する光を屈折させることにより,R,G,Bカラーフィルタ層17R,17G,17Bを透過する光の色視野角を向上させることができる。」
エ 「【0072】
図4は,本発明の第2の実施の形態による有機電界発光表示素子の構造を示す断面図である。なお,第2の実施の形態の構造は図2に示す第1の実施の形態の構造と類似しているので,同じ構造については簡単に説明し,異なる構造については詳細に説明する。
・・・(中略)・・・
【0076】
光学補償層127には複数の孔127aが形成される。複数の孔127aは各画素領域の外周壁に形成されている。孔127aは,第2絶縁層126又は他の層で発生する異物を排出する。後述するが,光学補償層127の上部には有機発光層が形成されるが,当該有機発光層を形成する前に,有機発光層の下部に形成された層の異物などを除去するために,真空状態で下部層を所定時間露出する真空キュア工程を行う。このような真空キュア工程で,第2絶縁層126などで発生する異物をガスの形で外部に排出しなければならないが,光学補償層127が形成されている場合は,異物が排出されなくなり,不良が発生する。
【0077】
本発明においては,光学補償層127に複数の孔127aを形成することにより,真空キュア時に孔127aから異物が排出されるようにする。ここで,孔127aは,光学補償層127全体にわたって形成してもよく,R,G,B画素に対応する光学補償層127の領域にのみ形成してもよく,規則的に形成してもよく,不規則的に形成してもよい。」
オ 「【図2】
【図4】
」
(2)発明の詳細な説明の記載から把握される事項
本願明細書の発明の詳細な説明の【0005】の記載から,本願発明が解決しようとする課題の一つが,カラーフィルタ層を薄膜トランジスタが形成される基板に形成し,発光部から発光した光がカラーフィルタ層を透過することによりカラーを表示する構造(COT構造)の有機電界発光表示素子における「視野方向によって色変換が生じて視野角が狭くなる」という問題であることを把握できる。
しかしながら,COT構造の有機電界発光表示素子において,視野方向が変わるとなぜ「色変換」が生じるのか,その理論上の説明は,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。
また,本願明細書の発明の詳細な説明の【0017】,【0035】,【0048】,【0071】には,「1.5~2.7の屈折率を有する透明な光学補償層」を設けると,当該光学補償層がカラーフィルタ層17R,17G,17Bに入力される光を屈折させて,「視野角特性」(【0071】に記載された「光の色視野角」が,「視野角特性」と同義であることは明らかであるから,「視野角特性」に統一して表現する。)を向上させることができること,すなわち,前記課題を解決できることが説明されているが,光学補償層による光の屈折によって,なぜ,視野方向の変化に伴う「色変換」を補償できるのか,その原理の説明も,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。
さらに,本願明細書の発明の詳細な説明には,屈折率以外にどのような構成(材質,膜厚等)を有する「光学補償層」を形成したCOT構造の有機電界発光表示素子が,「光学補償層」を形成しないCOT構造の有機電界発光表示素子に比べて,どの程度「視野角特性」が改善するのか等を示す具体的な実施例等は,記載されていない。
(3)請求人の釈明
請求人は,COT構造の有機電界発光表示素子において視野方向によって「色変換」が生じる理由については,平成28年6月22日提出の意見書(以下,単に「意見書」という。)で,
「色変換に関し,本発明のような構造の有機電界発光表示素子においては,金属からなる共通電極により,有機発光部から発光した光が光学的に共振するマイクロキャビティ(micro cavity)現象が発生します。
この共振現象では,有機発光部と共通電極との間の距離に応じて有機電界発光表示素子の発光スペクトル(electroluminescene spectrum)の強度が異なります。したがって,視野角によって光の経路(光が伝播する距離)が変更され,視野角によって光の強度が変化します。
このような各単色光の強度変化によって,混合された光には,色変換が発生します。例えば,青色の強度が大きくなり,他の色の強度が小さくなると,青みがかった色(bluish)に変換されます。
このような共振現象および随伴する現象は当業者には周知な現象であると思料します。」
などと説明し,光学補償層によって視野方向の変化に伴う「色変換」を補償できる理由については,この点の釈明を求めた審尋に対して,回答書で,
「(3)回答の内容
(A)・・・(中略)・・・
本発明の光学補償層は,単に光学補償層で屈折する光の経路を変更するのではなく,透過する単色光の発光スペクトル,すなわちR,G,Bの単色光のピーク波長帯を変更することで視野角及び色視野角を補償するものです。
本発明のような構造の有機電界発光表示素子においては,金属からなる共通電極により,有機発光部から発光した光が光学的に共振するマイクロキャビティ(micro cavity)現象が発生します。このマイクロキャビティ現象は,発光する単色光のピーク波長帯を元の単色光のピーク波長帯からシフトさせます。
このピーク波長帯のシフトは,元の単色光のピーク波長帯における単色光の強度を減少させるので,視野角に応じた色変換を生じさせ,視野角及び色視野角の不良を発生させます。
これに対し,本願発明では,光学補償層を備え,シフトしたピークを元の波長帯に復元することにより,実際には単色光のピーク波長帯における単色光の強度が減少しなくなり,視野角及び色視野角の不良を防止することができます。
すなわち,本願発明は,光学補償層により光の出射角度を変更して視野角を補償するのではなく,単色光のピーク値の強度の減少を防止して視野角の不良を防止するものです。
有機電界発光表示素子においては,視野角によって発光層から使用者の目に入射する光の経路の長さが異なり,経路の長さが増加すると,発光層から発光する光が透過する画素電極,光学補償層,第2絶縁層,カラーフィルタ層,第1絶縁層,ゲート絶縁層及び第1基板における光の伝播距離が長くなり,当該視野角におけるこれらの層によるマイクロキャビティ現象が増加します。
このように視野角によってマイクロキャビティ現象の程度が変化するので,図1に示すように,視野角が増加すると,青色の単色光の強度と黄色の単色光の強度が変化します。特に,黄色の単色光の強度が視野角によって大きく変化し,その変化により視野角に応じた色変換が生じます。
【図1】
(B) 本願発明では,光学補償層を備えることにより,視野角に応じた色変換を防止します。
【図2】
図2は,光学補償層を備えない構造(No SiNx),並びにSiNxが1200Å及び1600Åの厚さで形成された光学補償層を備える本発明の構造(SiNx 1200及びSiNx 1600)における光学スペクトルを示すグラフです。
ここで,Blue PLは青色の単色光のスペクトルを示し,Yellow PLは黄色の単色光のスペクトルを示します。
【表1】
図2及び表1に示すように,光学補償層を備えない場合は,黄色の単色光のピークが元の黄色の単色光の波長から約+40nmシフトし,黄色の単色光のピーク値の減少により視野角の不良が発生します。
これに対し,1200Åの厚さの光学補償層を備えた場合は,青色及び黄色のピークがシフトしないので,単色光のピーク値の減少による視野角の不良が発生しません。
また,1600Åの厚さの光学補償層を備えた場合は,黄色の単色光のピークが元の黄色の単色光の波長から約+10nmシフトするものの,光学補償層を備えない場合に比べて黄色の単色光のピーク値の減少が僅かであり,視野角の不良がほとんど発生しません。
このように,本願発明の光学補償層は,屈折率差により単に光の経路を変更するのではなく,単色光のピーク値の強度の減少を防止することにより視野角に応じた色変換を防止するものです。」
などと説明している。
(4)判断
ア 委任省令要件違反について
(ア) 請求人の意見書での説明には,例えば,有機発光部と共通電極は接して設けられていることから「有機発光部と共通電極との間の距離」はそもそもゼロであるはずにもかかわらず,当該説明中の「有機発光部と共通電極との間の距離」がゼロを指していないことが明らかであるから,当該記載が如何なる距離を指しているのか特定できない点や,「共振現象」とは,一般に,共振構造の両端部で光が繰り返し反射して共振構造内を繰り返し往復することで,共振構造内を光が往復する光路長(以下,「往復光路長」という。なお,「光路長」とは,光が進む距離に媒質の屈折率をかけたもの,すなわち光学的距離のことである。)に相当する波長(以下,「共振波長」という。)の光の強度が大きくなることをいうところ,COT構造の有機電界発光表示素子内部で当該共振現象が発生しているとすると,視野角が大きくなるにつれ,観察される光の共振構造内での進路が傾き,往復光路長すなわち共振波長が大きくなって,当該観察される光の色が赤色方向にシフトすることが自然法則から明らかであるにもかかわらず,なぜ「青みがかった色(bluish)に変換され」るという例示をしているのかが不可解である点など,理解し難い点が多々あるものの,有機電界発光表示素子の技術分野において,内部に共振構造(一般に「マイクロキャビティ」ということもある。典型的には,有機発光層と透明電極と光路長調整層とにより共振構造が構成される。例えば,特表2008-525993号公報,特開2011-139995号公報等を参照。)を形成することで,出射する光の色純度を向上させる技術が本願の優先権主張の日より前に当業者に周知であることを考慮すると,前記意見書での説明は,本願発明が前提とするCOT構造の有機電界発光表示素子が,内部に共振構造を形成したものであること,したがって,視野角が変わることによって共振波長が変化して,観察される光の波長が変化してしまうことを説明したものと理解することが一応可能である。
当該理解を前提とすると,前記(2)で述べた「COT構造の有機電界発光表示素子における視野方向によって色変換が生じて視野角が狭くなる」との本願発明の解決課題は,COT構造の有機電界発光表示素子の内部に共振構造を形成したときに生じる視野角特性の悪化のことということになる。
(イ) しかるに,回答書の図1では,視野角が40°程度までは,視野角が大きくなっても黄色光の強度(Intensity)はさほど変化しないのに対して,青色光の強度は小さくなることが示され,回答書の図2及び表1では,光学補償層を備えない構造,1200Åの光学補償層を備える構造及び1600Åの光学補償層を備える構造の光学スペクトルにおける青色領域での各ピーク値が,いずれも青色単色光の波長(約450nm)と一致している一方で,黄色領域でのピーク値が黄色単色光の波長(約560nm)と一致しているのは1200Åの光学補償層を備える構造のみであり,光学補償層を備えない構造では+40nmのズレが,1600Åの光学補償層を備える構造では+10nmのズレが生じることが示されているが,これらの事項は前記(ア)で述べた理解とは整合しない。(COT構造の有機電界発光表示素子の内部に共振構造を形成したものであるならば,視野角が大きくなれば共振波長は大きくなるはずであって,青色領域のピーク値も長波長側にずれるはずである。)
そうすると,前記(ア)で述べた理解は正しくないということになるが,それでは,なぜ視野方向が変化すると色変換が生じるのか,その理由が不明であり,かつ,たとえ当業者といえども,本願明細書の発明の詳細な説明の記載や技術常識からは,光学補償層を設けるという構成を具備する本願発明によって課題を解決できると理解することもできないということになる。
加えて,回答書の図1,図2及び表1に示されたデータが,如何なる構造(具体的には,有機発光層,個別電極等の各層の屈折率や膜厚等)のものを如何なる条件(図2や表1における視野角等)で測定又はシミュレーションしたものであるのか,回答書では一切明らかにされていないことを措くとしても,本願明細書の発明の詳細な説明には,R,G,Bの単色光を混合して白色光とするもののみが記載されているところ(【0041】を参照。),このような白色光から(仮に,青色光と黄色光の混合による白色光だとしても),回答書の図2に示されたような,可視光領域全域にわたるスペクトルが得られるとはおよそ考え難いから,図2に示されたシミュレーション結果自体が不可解である。このような回答書での説明から,視野方向が変化すると色変換が生じる理由や,光学補償層によって色変換を補償する作用機序を理解することはできない。
(ウ) 以上のとおりであって,意見書や回答書での請求人の説明を参酌したとしても,本願明細書の発明の詳細な説明の記載や技術常識からは,たとえ当業者といえども,本願発明が解決しようとする課題や,本願発明によって当該課題を解決できると理解することができないから,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものでないといわざるを得ない。
イ 実施可能要件違反について
前記アで述べたように,視野方向が変化すると色変換が生じる理由が不明であり,光学補償層によって前記色変換を補償する作用機序も不明ではあるが,少なくとも,光学補償層の存在ばかりでなく,有機電界発光表示素子の各層を構成する材質(屈折率)や膜厚等が,請求人がいう共振現象に影響を及ぼすことは明らかであるから,色変換を補償できる「光学補償層」を具備したものを実施するには,各層の材質(屈折率)や膜厚等について課題を解決できるような組合せとする必要があることが容易に推察されるところ,本願明細書の発明の詳細な説明に開示された事項に合致するもの全てが課題を解決できるとは,技術常識からは到底考えられないから,本願明細書の発明の詳細な説明に開示された事項に合致するものの中から,課題を解決できるものを見出すためには,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるといわざるを得ない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものともいえない。
ウ 小括
前記ア及びイのとおり,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものでなく,かつ,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでもないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
5 むすび
以上のとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
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2014-024424