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商標異議申立

2026-900052

イマル、イワル、ワンマル、ワンワル、イチマル、イチワル、マル、ワル

審判番号
2026-900052
法域
商標
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
商願2024-135391
登録番号
6996399
請求日
2026年02月18日
審決日
2026年07月16日
公報発行日
2026年08月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】項 茜曼
  • 【異議申立人】東急 株式会社
  • 【異議申立人代理人】岩瀬 ひとみ
  • 【異議申立人代理人】齊藤 良平
  • 【異議申立人代理人】中村 聖
審判長/審判官
  • 審判長 大橋 良成
  • 審判官 馬場 秀敏
  • 審判官 滝口 裕子
分類
T1651.261-Y (W25) / T1651.262-Y (W25) / T1651.263-Y (W25) / T1651.22 -Y (W25) / T1651.25 -Y (W25) / T1651.271-Y (W25)
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第11号、商標法第4条第1項第10号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

登録第6996399号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。

結論

結 論 登録第6996399号商標の商標登録を維持する。

理由

理 由 1 本件商標 本件登録第6996399号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和6年12月3日に登録出願、第25類「被服,洋服,帽子,マフラー,靴類」を指定商品として、同7年7月15日に登録査定、同年12月12日に設定登録されたものである。 2 登録異議申立人が引用する商標 (1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、以下のアないしエであり、いずれも現に有効に存続しているものである。以下、これらをまとめて「引用商標」という。 ア 登録第5018940号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 指定商品:第14類、第18類、第22類ないし第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 登録出願日:平成15年7月23日 設定登録日:平成19年1月19日 イ 登録第5018943号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 指定役務:第35類ないし第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務 登録出願日:平成15年7月23日 設定登録日:平成19年1月19日 ウ 登録第6652869号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲3のとおり 指定商品:第9類及び第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 登録出願日:令和4年7月22日 設定登録日:令和4年12月15日 エ 登録第6490887号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の構成:別掲4のとおり 指定役務:第35類、第36類、第41類、第43類ないし第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務 登録出願日:令和3年2月19日 設定登録日:令和3年12月23日 (2)申立人が、本件異議申立ての理由において引用する標章は、以下ア及びイであり(以下、これらをまとめて「申立人標章」という。)、申立人が同人に係る標章と主張するものである。以下、「引用商標」と「申立人標章」をまとめていう場合には、「引用商標等」という。 ア 「SHIBUYA109」の文字を横書きしてなるもの(以下「申立人標章1」という。) イ 「109」の文字を横書きしてなるもの(以下「申立人標章2」という。) 3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第7号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第83号証を提出した。 以下、証拠の記載に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する。 (1)申立人の概要 申立人は、1918年(大正7年)に設立された田園都市株式会社を母体に、1922年(大正11年)9月2日に設立された目黒蒲田電鉄株式会社を起源とし、1942年(昭和17年)5月1日に商号を「東京急行電鉄株式会社」とし、その略称から「東急」との商標が生まれた。設立以来100年以上にわたり、申立人及び申立人を含む東急グループ(以下「申立人グループ」という。)は、東京都南西部から神奈川県にかけての鉄道事業及び都市開発を牽引してきた企業群である。 特に、引用商標等を使用する申立人商業施設が所在する「渋谷」の開発において、申立人は歴史的かつ主導的な役割を果たしてきた。1927年(昭和2年)の東横線渋谷駅開業、1934年(昭和9年)の東横百貨店(関東初のターミナルデパート)開業を経て、渋谷を単なる交通結節点から、日本を代表する商業・文化の中心地へと発展させたのは、申立人グループによる長期的かつ戦略的な「まちづくり」の成果に他ならない。 現在においても、申立人は申立人グループの中核企業として、渋谷駅周辺の再開発事業を推進し、「エンタテイメントシティSHIBUYA」の実現に向けた都市ブランドの向上に尽力している。引用商標等は、申立人グループの都市開発戦略における象徴的プロジェクトとして誕生し、現在に至るまでグループの最重要資産の一つとして位置づけられている(甲6、甲7)。 (2)引用商標等の概要 引用商標等は申立人商業施設において主に使用されており、申立人商業施設は、1979年(昭和54年)4月、申立人(当時の東京急行電鉄株式会社)の手により、「ファッションコミュニティー109」として開業した。名称の由来は、東急(トウキュウ)グループの「10(とお)・9(きゅう)」の語呂合わせであるとともに、当時の営業時間が午前10時から午後9時までであったことにちなむものであるとも言われている。 開業当初より、渋谷のスクランブル交差点に面し、引用商標1及び引用商標2が掲げられた円筒形のシリンダー型建築は渋谷の象徴となり、1990年代以降の「コギャルブーム」「ギャル文化」の爆発的流行とともに、その存在は不動のものとなった。引用商標1及び引用商標2は、申立人商業施設の開業時から40年にわたり、円筒形のシリンダー型建築の広告等に使用されていたが、40周年を迎えた2019年に、大幅リニューアルを行い引用商標3及び引用商標4へと変更された(甲8、甲9)。 現在では、申立人商業施設の運営は、申立人グループ会社である株式会社SHIBUYA109エンタテイメント(以下、「申立人グループ企業」という。)によって行われており(甲10、甲11)、当該会社では、引用商標等や申立人商業施設の文化的価値を活用し、Z世代のトレンド発信地として、マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」(甲12、甲13)を運営している。当該機関の調査結果はニュース番組で引用されるなど、申立人グループ企業は若者文化の権威として認知されており、申立人グループ企業に使用されている引用商標はまさに若者文化を象徴するものとして広く認知されている(甲14)。 (3)引用商標等の周知・著名性 引用商標等は、以下のとおり、単なる申立人商業施設の名称又は略称としての意味を超え、特定の文化(若者ファッション、ギャル文化)を象徴する「聖地」として社会現象化し、周知・著名性を獲得している。 ア 来館者数と通行量 申立人商業施設の年間来館者数は、2008年から2024年において、コロナ禍中の数年間を除き、700万人を超え、970万人に達したこともある(甲15)。これは国内の主要レジャー施設を凌ぐ集客力であり、単一のファッションビルとしては異例の規模である(甲16)。また、当該施設前面のスクランブル交差点付近の通行量は、休日1日あたり約10万5,000人、平日1日あたり約65,000人に及ぶ(2023年9月計測、甲17)。これらの通行人は、入館の有無にかかわらず、施設外壁の巨大な引用商標に係るロゴを視認しており、その認知度は計り知れない。 イ 広告媒体としての価値 引用商標が掲載されている(た)申立人商業施設の円筒形のシリンダー型建築に掲出される広告(以下「シリンダー広告」という。)は、日本の屋外広告の中で最も注目度の高い媒体の一つである。具体的には、2週間の掲出料は約1300万円~(時期・プランによる)とも言われており(甲18)、製作・施工費を含めると数千万円規模の投資となる。このような高額な費用にもかかわらず、広告の出稿が絶えない事実は、申立人商業施設の認知度及びシリンダー広告の媒体としての注目度の高さと相俟って引用商標等が有するブランド価値がいかに巨大であるかを証明している。 ウ 観光地としての評価 申立人商業施設は、単なる商業施設の枠を超え、日本を代表する観光地としても評価されており、ギネス世界記録に認定された旅行雑誌や創刊60年を超える旅行雑誌である日本の二大旅行雑誌に、東京の人気観光スポットとして多数掲載されている(甲19~甲26)。 エ メディア・エンタテイメントにおける露出 申立人商業施設は、有名なファッション雑誌やニュース・バラエティ番組等のテレビ、アニメ、新聞等の様々なメディアにおいて多数取り上げられている。実例には枚挙にいとまがない。 (ア)ファッション雑誌 大学生の女性や働く若い女性などの20歳代前半ぐらいの女性を対象としたファッション雑誌分野において圧倒的な発行部数を誇る「ViVi」に多数掲載されている(甲27、甲35)。 (イ)テレビ番組 申立人商業施設は、若者文化やファッションの発信地としての高い知名度から、全国ネットのテレビ番組をはじめとする多数のメディアにおいて頻繁に取り上げられている(甲36ないし甲53)。 これらの全国放送のテレビ番組においては、単に申立人商業施設が紹介されたにとどまらず、引用商標等が画面上に明確に掲載されるとともに、同施設を象徴するシリンダー広告部分や活気ある店頭の様子が映像として全国に放映された。さらに、番組内においては、出演する演者やナレーターによって「109(イチマルキュー)」と繰り返し発言されており、画面上のテロップにおいても申立人標章2が、施設の名称又は略称として明記された状態で放送されている。 このように、視覚(ロゴや象徴的な外観、テロップ)及び聴覚(演者やナレーターによる発言)の両面を通じて「SHIBUYA109=109=イチマルキュー=申立人商業施設」として全国の視聴者に繰り返し提示されている事実は、引用商標等が、申立人商業施設を指し示すものとして日本全国の需要者の間に極めて広く認識され、確固たる周知著名性を獲得していることを強力に裏付けるものである。 (ウ)その他掲載例一覧 上記以外にも、様々な分野において各種メディアを通して申立人商業施設が取り上げられ、直近1年の主要なメディアによるものだけを抽出しても、その数は多数に及ぶ(甲54)。 オ アパレル商品等の企画・販売及びプロデュース 申立人グループ企業は、引用商標等を申立人商業施設の名称又は略称として使用し、建物の管理を行っているだけではなく、自ら引用商標等を使用し又は他社と協力し、アパレル商品や雑貨の企画・販売及びプロデュースを行っている(甲55、甲56)。 カ 他社とのコラボ商品 申立人グループ企業は、「ディズニー」、「ONE PIECE」、K-POPアーティスト(BLACKPINK,NiziU等)等とコラボし、109のロゴや名称を冠した限定アパレル商品や雑貨等を多数販売している(甲57~甲60)。 上記以外にも、申立人グループ企業は引用商標等を使用して、アニメやゲーム、アーティスト等とコラボし、アパレル商品や雑貨の企画・販売及びプロデュースを行った例は、多数に及ぶ(甲61)。 キ 過去の審決 引用商標等は、過去の審決において、我が国において周知・著名であることが認定されている(甲62、甲63)。 上記判断は、本件商標の指定商品(第25類)との関係においては、その需要者の注意力その他取引の実情を考慮すれば、引用商標等のような「イチマルキュー」の称呼が生じる商標については、申立人を示すものとして容易に認識されることを裏付けるものといえる。 以上に述べた事実・証拠から、引用商標等は、申立人商業施設の名称又は略称として広く認識されていることは明らかである。 (4)本件商標の構成及びその使用態様について ア 本件商標の構成について 本件商標は上記のとおり、左端部に6輪の小さな花と思しき図形を書し、右端部にやや大きくハイビスカスと思しき図形を書し、これらの間に「r」の欧文字部分をハート型にやや図案化して「1maru9」の文字を筆記体と思しき書体で書してなるものである。 本件商標の構成中、文字部分については、やや図案化されているものの、筆記体と思しき書体で書されていることから、「1maru9」と認識することができる。また、日本の需要者にとって、当該外観及び称呼から認識し得る観念については、ローマ字「maru」は日本語の「丸(まる)」を意味し、「丸」は、例えば「101号室」を「イチマルイチ」と発音するように、数字の「0(ゼロ)」を読み上げる際の通称(例:電話番号の読み上げ、部屋番号等)として一般的に用いられることから、該文字全体からは「109」や「イチマルキュー」の文字が想起され、該文字に照応して「イチマルキュー」又は「ワンマルナイン」の称呼が生ずるものである。そして、申立人標章2は、上記のとおり申立人商業施設の略称として周知・著名であり、本件商標の指定商品が被服に関するものであることも考慮すれば、「イチマルキュー」の称呼が生じる本件商標を見た需要者は、申立人商業施設の観念を感得するものということができる。 イ 本件商標の使用態様について 本件商標権者は、本件商標の指定商品である「被服」等について、以下のとおり、自社ウェブサイト及びSNS(Instagram、TikTok等)を通じて広く販売・宣伝広告を行っている。その使用例は、本件商標の使用に加えて、本件商標構成中の「1maru9」の文字部分のみや「109」の文字のみ使用している。さらには、2000年代の申立人及び申立人商業施設の施設内での映像も投稿している。 (ア)ウェブサイトにおける本件商標及び引用商標等の使用 本件商標権者は、オンラインショップを開設し(甲64)、一般消費者に向け、本件商標を付したTシャツ、パーカー、帽子等のアパレル商品を販売している。同ウェブサイトにおいて、本件商標は商品の胸部に単体でプリントされている例もあれば(甲65)、「1maru9」の文字だけでなく、ズボンの臀部やパーカーの背面部に「109」の数字が明瞭に、需要者が容易に認識できる態様で使用されている(甲66、甲67)。 (イ)SNS(Instagram、TikTok)における本件商標及び引用商標等の使用 本件商標権者は、動画投稿SNSであるTikTok及び写真共有SNSであるInstagramにおいて公式アカウントを運用している。当該アカウントでは、本件商標を付したアパレル商品を着用したモデルの写真を多数投稿している。具体的には、TikTokではアカウント名を「*1maru9」としており、投稿文において「Shibuya109」を使用したり、申立人商業施設にあるテナントの店内での映像や位置情報を使用するなど、引用商標等及び申立人商業施設の信用にフリーライドする形で積極的な宣伝広告活動を行っている(甲68~甲70)。 Instagramにおいてはアカウントページにおいて「*1マル9」と記載しており、投稿内の写真で「109」を表示したり、投稿に対するキャプションで引用商標等及び申立人商業施設を明確に意識した説明がなされている(甲71~甲75)。 以上の事実から、本件商標権者が、本件商標を被服等の出所識別標識として、インターネットを通じて需要者に対して使用していることが明らかである。さらに、その使用は、本件商標に加えて、「109」の文字の使用や「SHIBUYA109」での映像など申立人グループ企業及び申立人商業施設との関係性をうかがわせるような使用をしていることも明らかである。 (5)商標法第4条第1項第11号該当性 ア 本件商標の態様の検討 本件商標は、上記のとおり、左端部に6輪の小さな花と思しき図形を書し、右端部にやや大きくハイビスカスと思しき図形を書し、これらの間に「r」の欧文字部分をハート型にやや図案化して「1maru9」の文字を筆記体と思しき書体で書してなるものである。 この点、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決同39年(行ツ)第110号、甲第76号証)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一又は類似であるといえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決同37年(オ)第953号、知的財産高等裁判所判決令和3年7月29日同3年(行ケ)第10026号、甲第77号証及び甲第78号証)。 本件商標は、「1maru9」の文字と図形が結合した態様からなるところ、図形と文字という構成要素の性質の違いや、文字部分が商標全体の構成の6~7割を占めていること、文字部分については容易に「イチマルキュー」や「ワンマルナイン」という称呼を有する部分として理解されることからすると、本件商標の図形部分と文字部分とは、外観上、明確に分離して看取することができるものであるといえる。そうすると、本件商標の図形部分及び文字部分について、それらの部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。さらに、当該文字部分は特徴的な書体で記載されており、需要者の印象に残りやすく、強い印象を与えるということができる。 そうすると、本件商標については、当該文字部分のみによって商標の類否を判断することも許されるということができる。 イ 本件商標と引用商標等の類似性 (ア)称呼 本件商標からは上記のとおり、「イチマルキュー」又は「ワンマルナイン」との称呼が生じるのに対して、引用商標からはその構成文字に照応して「シブヤイチマルキュー」の称呼が生じることに加えて、その構成中の「109」の文字は、上記のとおり、申立人商業施設を指し示すものとして周知・著名であることから「イチマルキュー」の称呼も生じるものである。そうすると、本件商標と各引用商標は「イチマルキュー」の称呼を共通にするものであることから、称呼において類似する。 (イ)観念 引用商標の構成中、「109」の文字は単なる数字ではなく、上記のとおり、申立人商業施設を指し示すものとして周知・著名になっていることから、当該文字からは、申立人商業施設の観念が生じる。一方で本件商標構成中の「1maru9」の文字は辞書等に掲載された語ではなく、造語であり、引用商標とは一部の文字種が異なるだけであり、その称呼は共通にするものであることから、申立人商業施設の観念が生じる。したがって、本件商標と引用商標は、申立人商業施設の観念を共通にするものであることから、観念においても類似する。 (ウ)外観 本件商標の文字部分は上記のとおりの特徴的な書体からなる。したがって、本件商標の文字部分は、視覚的には引用商標等と一定の差異があるようにも思える。 しかし、本件商標構成中の文字「1maru9」は本件商標全体の6~7割程度を占めるものであり、外観の差異は、本件商標構成中の文字を「1maru9」と認識し、「イチマルキュー」と称呼することができる程度の差異でしかない。上記のとおり、商標の類否判断は、外観・称呼・観念の各要素を総合的に観察し、取引の実情を加味して判断されるべきものである。本件のように、意図的に著名な商標の外観を変えて模倣している場合、需要者の注意を惹きつけ、かえって著名な商標との類似性を意識させる側面がある。したがって、本件商標と引用商標は、外観においても一定の差異はあるものの、取引の実情を加味すると、その差異は決して大きいものとは言えない。 ウ まとめ 上記のとおり、本件商標と引用商標は称呼及び観念において類似するものであって、外観上の差異はそれを凌駕するに足りない程度である。よって、本件商標と引用商標は類似する商標といえ、本件商標は、第4条第1項第11号に該当する。 (6)商標法第4条第1項第10号該当性 本件商標と申立人標章は、上記商標法第4条第1項第11号該当性における検討と同様の理由から称呼及び観念において類似するものであって、外観上の差異はそれを凌駕するに足りない程度である。よって、本件商標と申立人標章は類似する商標といえ、本件商標は、第4条第1項第10号に該当する。 (7)商標法第4条第1項第15号該当性 商標法第4条第1項第15号は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標について、登録を受けることができない旨を規定している。 ア 本号の適用要件と本件へのあてはめ 判例(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決同10年(行ヒ)第85号、甲79)を具体化した、特許庁の商標審査基準に沿って以下、各考慮要素を検討する。 イ 本件商標と引用商標等の類似性 本件商標と引用商標等は上記商標法第4条第1項第11号及び同項第10号の該当性にて検討したとおり、それぞれ類似する商標である。 ウ 引用商標等の周知性 引用商標等は、約50年にわたって使用されてきた商標であり、全国規模でメディアに大々的に取り上げられてきた経緯も踏まえれば、周知な商標である。 エ 引用商標等が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか 引用商標等は申立人の略称より着想された造語よりなるものであり、構成上顕著な特徴を有する。 オ 引用商標等がハウスマークであるか 引用商標等は、申立人グループの都市開発戦略における象徴的プロジェクトとして誕生し、現在に至るまでグループの最重要資産の一つとして位置づけられており、ハウスマークとして取り扱われている。 カ 企業における多角経営の可能性 申立人及び申立人グループ企業は、申立人商業施設を運営しているだけでなく、既述のとおり、キャラクター、アーティスト等と頻繁にコラボレーションを行っている。また、ロゴのリニューアルや、記念イベント等において、ロゴをアレンジしたデザインを使用することも一般的である。したがって、多角経営はもちろんのこと、多角的な引用商標等の使用が現に行われている。 キ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性/商品等の需要者の共通性その他取引の実情 本件商標の指定商品は「被服、帽子」等であり、これらは申立人グループ企業並びに申立人商業施設のテナントが販売する主力商品と完全に重複する。 引用商標等は頻繁に他のブランドとのコラボレーションを行っている一方で、本件商標権者は、既述のとおり、本件商標に加えて、「1maru9」や「109」と認識し得る態様でも商標を使用しており、さらには、申立人商業施設の映像の投稿や位置情報のタグをつけて投稿を行うなど、申立人等の事業に関係する情報も併せて使用している。このような取引の実情を考慮すれば、第25類(被服)等の商品に本件商標が付されていた場合、需要者は「これはSHIBUYA109のオリジナルブランドではないか?」「SHIBUYA109と提携したデザイナーによる、新しいストリート系ラインではないか?」「『イチマルキュー』をあえてローマ字にした、公式のパロディグッズではないか?」のように推測する蓋然性が極めて高いと考える。 ク まとめ 上記判例によれば、商標法第4条第1項第15号における「混同」には、狭義の混同(商品そのものの出所誤認)に加え、広義の混同(申立人と経済的・組織的に何らかの関係があるものと誤認すること)が含まれる。 この点、上記の各考慮要素及び本件商標権者が積極的に申立人商業施設及びグループ企業との関係性を想起・誤認させる態様で本件商標を使用している事実を踏まえれば、広義の混同が生じるおそれがあることは明らかである。そして、本件においては、申立人等の業務と密接に関連する商品において、引用商標等を想起させる本件商標を使用しているため、狭義の混同も生じるおそれがあると言える。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。 (8)商標法第4条第1項第7号該当性 ア 商標法第4条第1項第7号の適用範囲 知財高裁平成18年9月20日判決同17年(行ケ)第10349号(甲80)及び特許庁の商標審査基準によれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合等が含まれるというべきである。 そして、裁判例上、ひょう窃的な商標も同号に該当しうるとされており(知財高裁平成22年8月19日判決同21年(行ケ)第10297号(甲81)、知財高裁令和5年1月19日判決同4年(行ケ)10073号(甲82))は、「公序良俗の維持は法の原則であり、社会秩序や道徳秩序に反する商標を登録して助長すべきではないところ、ひょう窃的な商標登録出願が公正な取引秩序を害するものとなれば、公序良俗を害すると評価されるに至る場合があり、同項7号はこのような場合も想定しているものというべきである。」と判示している。 イ 既述のとおり、引用商標等は、申立人が独自に創作し、採択した造語商標であって、本件指定商品である被服関連製品の内容や品質を表示するものでもないから、その識別力は極めて高い表示である。したがって、引用商標等は、独創性の高い商標である。 そして、引用商標等は、申立人及び申立人商業施設の出所を示すものとして、需要者の間に広く認識されており、50年近くにわたり、被服関連商品・役務に使用されており、本件商標が登録出願された時点においては、日本国内の被服関連商品役務の取引者、需要者間において相当程度認知されていたものである。 ウ 本件商標と引用商標等の同一又は類似性 本件商標と引用商標等は、既述のとおり、称呼と観念を共通にする、類似性の高い商標である。 エ 本件商標の指定商品と引用商標等の(使用)商品・役務 既述のとおり、本件商標登録の指定商品には、引用商標等の指定(使用)商品である「被服」が含まれるものである。 オ 本件商標の出願の経緯及び本件商標権者の不正行為 本件商標権者は、東京都に住所を有し、渋谷区に所在する「文化服装学院」及び「文化ファッション大学院大学」を卒業・修了見込み(2024年時点)であると考えられる(甲83)。申立人商業施設は、東京都内の渋谷区に所在し、しかも本件商標権者がファッション業界関係者であればその存在を知らないことは社会通念上考え難い。実際に、Instagramの投稿においては、「109」ブランドを意識していることがうかがえる(甲74、甲75)。その上で、本件商標権者は、あえて数字の「109」ではなく、「1maru9」という、称呼上「イチマルキュー」と読ませる技巧的な構成の本件商標を採用し、かつ指定商品を申立人及びそのグループ企業の業務と競合する「被服」等に限定して出願を行い商標登録を得たものである。さらに、申立人商業施設との関連を示唆する態様での本件商標の使用行為を行っている(甲64~甲75)。 したがって、本件商標は、申立人及び申立人グループ企業に係る引用商標等との直接的な類似を形式的に回避しつつ、実質的には引用商標等の著名性に便乗して顧客を誘引しようとする、ひょう窃的かつ悪意ある出願によるものであるということができる。 カ まとめ これらの事情を総合的に考慮すれば、本件商標は、登録出願の経緯及びその使用態様に社会的相当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることは、公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当である。そして、著名商標を巧妙に模倣した本件商標の登録を認めれば、申立人が長い年月をかけて築き上げてきた引用商標等に化体する業務上の信用は著しく損なわれ、需要者においては「109」ブランドの品質保証機能を信頼できなくなる結果を招く。これは、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法第1条)にも反するものであり、まさに「公の秩序」を害するものである。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。 4 当審の判断 (1)引用商標等の周知著名性について 申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。 ア 申立人商業施設の年間来館者数は、2008年から2024年において、コロナ禍中の数年間を除き、700万人を超え、970万人に達したこともあり(甲15)、これは国内の主要レジャー施設を凌ぐ集客数ともいえる(甲16)。 イ 申立人商業施設は、日本の旅行雑誌に東京の人気観光スポットとして2019年6月から2024年7月において6回掲載されている(甲19~甲26)。また、申立人商業施設は、ファッション雑誌に2009年12月1日から2013年6月10日において7回掲載されている(甲29~甲35)。 ウ 申立人商業施設は、全国ネットのテレビ番組をはじめとする多数のメディアにおいて、2014年5月17日から2026年1月22日にわたり、19回報道・紹介された(甲14、甲36~甲53)。 これらの全国放送のテレビ番組においては、申立人商業施設が紹介され、引用商標等が画面上に掲載され全国に放映された。さらに、番組内においては、画面上のテロップ等において申立人標章2が、施設の名称又は略称として放送されている。 上記以外にも、様々な分野において各種メディアを通して申立人商業施設が取り上げられ、直近1年の主要なメディアによるものだけを抽出しても、100回に及ぶとされる(申立人の主張、甲54)。 エ 申立人グループ企業は、引用商標等を申立人商業施設の名称又は略称として使用し、建物の管理を行っているだけではなく、自ら引用商標等を使用し又は他社と協力し、「SHIBUYA109」のロゴ入りTシャツ、マグカップ、タオル、ステンレスボトル等を販売し(甲55、甲56)、他者とコラボし、109のロゴや名称を冠した限定アパレル商品や雑貨等を販売し(甲57~甲60)、アパレル商品や雑貨の企画・販売及びプロデュースを行っていることがうかがわれる(甲61)。 オ 上記アないしエで認定した事実によれば、少なくとも引用商標等は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、東京都渋谷区にある若者向けファッション関連(申立人グループの運営に係る)の商業施設であり、申立人の業務に係る「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等(以下「申立人役務」という。)を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に一定程度の周知性を有していたものと認められる。 (2)本件商標と引用商標等との類似性について ア 本件商標について 本件商標は、別掲1のとおりの構成からなり、アスタリスク様の記号を伴って何らかの文字をデザイン化した図形(以下「左側構成部分」という。)の右側に、ハイビスカスのごとき花を背負ったカタツムリと思しき図形(以下「右側構成部分」という。)を配してなるところ、左側構成部分は、何らかの文字をデザイン化したものと看取される可能性はあるものの、デザイン化の程度が顕著であり、直ちに特定の文字として判読し難いことから、これよりは特定の称呼が生じるとはいえない。 また、観念においては、本件商標の右側構成部分からは、ハイビスカスのごとき花を背負ったカタツムリのように、何らかの事物を想起又は印象付ける場合があるとしても、これより直ちに特定の観念が生じるものとは認め難いものである。 イ 引用商標等について 引用商標等は、「109」又は「SHIBUYA109」の文字を書してなるところ、その構成文字に相応して、「イチマルキュー」又は「シブヤイチマルキュー」の称呼を生じ、「申立人グループの運営に係る商業施設」ほどの観念を生じるものである。 ウ 本件商標と引用商標等の類否について 本件商標と引用商標等は、それぞれ上記ア及びイのとおりの構成よりなるところ、両商標は、外観において、その構成態様等が明らかに異なり、相紛れるおそれのないものである。 また、称呼においては、本件商標からは特定の称呼が生じないのに対し、引用商標等は「イチマルキュー」又は「シブヤイチマルキュー」の称呼を生じるため、称呼において、相紛れるおそれはない。 次に、観念においては、本件商標からは特定の観念が生じないのに対し、引用商標等からは「申立人グループの運営に係る商業施設」の観念が生じるから、観念において、相紛れるおそれはない。 そうすると、本件商標と引用商標等とは、外観、称呼及び観念において区別できることから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は相紛れるおそれのない非類似の商標である。 (3)商標法第4条第1項第10号及び同項第11号について 上記(2)のとおり、本件商標と引用商標等は非類似の商標である。 したがって、本件商標の指定商品と申立人役務及び引用商標の指定商品とが同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当しない。 (4)商標法第4条第1項第15号について 本件商標は、上記(2)のとおり、引用商標等とは、非類似の商標であって、全体の印象が大きく異なる別異の商標であるから、両者の類似性の程度は低い。 そうすると、引用商標等が申立人の業務に係る役務等を表示するものとして需要者の間に広く認識され、その使用に係る役務と本件商標の指定商品とが、需要者を共通とし関連性を有するとしても、本件商標は、引用商標等とは非類似の商標であって、別異の商標であるから、本件商標権者がこれをその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして引用商標等を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (5)商標法第4条第1項第7号該当性について 本件商標は、別掲1のとおり、文字と図形との組み合わせの構成からなり、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような構成態様からなるものではない。 また、上記(3)のとおり、本件商標と引用商標等とは、非類似の商標であって別異の商標であるから、本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者をして引用商標等を連想又は想起させることのないものであって、かつ、引用商標等の信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれもないものである。 その他、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合等、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であると認めるに足る具体的な証拠の提出はない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 (6)むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号、同項第15号及び同項第7号のいずれにも該当するとはいえず、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2026-900052

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