特許異議申立
2026-700385
L-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法
- 審判番号
- 2026-700385
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-139957
- 登録番号
- 7762942
- 請求日
- 2026年04月30日
- 審決日
- 2026年08月24日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】森田薬品工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 【異議申立人】梅澤 孝志
- 審判長/審判官
- 審判長 齋藤 恵
- 審判官 宮田 透
- 審判官 野田 定文
- 分類
- P1651.121-Y (C07F) / P1651.536-Y (C07F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7762942号発明「L-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7762942号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7762942号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年8月30日に出願され、令和7年10月23日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の全請求項に係る特許に対し、令和8年4月30日に、特許異議申立人 梅澤 孝志(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行い、同年7月8日及び同年同月15日に、手続補正書(方式)を提出した。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5(以下、請求項の番号順に「本件請求項1」等ということがある。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号順に「本件発明1」等ということがある。)。
「【請求項1】
次の4工程を含むL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法、
第一工程:L-チロシンを、テトラヒドロフランや1,4-ジオキサン等エーテル系溶媒中,一般式(1)で表されるトリエチルボランまたはトリブチルボラン等のホウ素誘導体と沸点以上の温度で、12~96時間反応させて、一般式(2)で表されるホウ素エステルを製造する工程、
【化1】
[図:0001439251000001.jpg]
(式中R1、R2およびR3は、同一で炭素数2または3のアルキルを表す。)
第二工程:第一工程で得られたホウ素エステルを、アセトニトリル、1,4-ジオキサンまたはシクロペンチルメチルエーテルに溶解させ、トリアルキルアミンの存在下、-20℃~-60℃に冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と15~60分反応させて、一般式(3)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを製造する工程、
【化2】
[図:0001439251000002.jpg]
(式中R1、R2およびR3は、同一で炭素数2または3のアルキルを表す。)
第三工程:第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルを、アセトニトリル、1,4-ジオキサンまたはジメチルスルホキシドに溶解させ、PdCl2(dppe)、PdCl2(dppp)、PdCl2(dppf)・CH2Cl2、PdCl2(PPh3)2およびPd(PPh3)4のいずれか1種のパラジウム触媒の存在下、一般式(4)で表されるホウ素化合物または一般式(5)で表わされたホウ素化合物と60℃~120℃で6時間~24時間反応させて、一般式(6)で表わされるアリールボロン酸エステルを製造する工程
【化3】
[図:0001439251000003.jpg]
(式中R1およびR2は、同一で炭素数2~3のアルキルを表し、R4、R5、R6およびR7は同一で炭素数1~2のアルキルを表す。)
および
第四工程:第三工程で得られたアリールボロン酸エステルをジオキサン中、酸性条件下30℃~70℃で5時間~20時間反応させることによりL-p-ボロノフェニルアラニンを製造する工程
【化4】
[図:0001439251000004.jpg]
(式中R1およびR2は、同一で炭素数2~3のアルキルを表し、R4、R5、R6およびR7は同一で炭素数1~2のアルキルを表す。)
【請求項2】
ホウ素化合物がビスピナコラートジボロンであることを特徴とする請求項1記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項3】
ホウ素化合物がピナコールボランであることを特徴とする請求項1記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項4】
第二工程で使用するトリアルキルアミンがトリメチルアミンまたはトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンであることを特徴とする請求項1から請求項3いずれか1項に記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。
【請求項5】
第三工程で使用する触媒がパラジウム触媒であり、助触媒が酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、ジイソプロピルアミンまたはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンのいずれか1種、または複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1から請求項3いずれか1項に記載のL-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要及び添付した証拠方法は、以下に示すとおりである(以下(3)に示す甲号証を、それぞれ番号順に「甲1」等という。)。
(1) 申立理由1(特許法第29条第2項:進歩性違反)
本件発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2~甲10に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に本件特許の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2) 申立理由2(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件違反)
本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、以下に示す点で、本件発明1~5について、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、本件請求項1~5に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件発明1~5について、第四工程に関する本件明細書の記載では、当業者が明細書の記載及び甲11~甲15記載の出願時の技術常識に基づいて試行錯誤を行っても、目的とする化合物を得ることはできない。
(3) 甲号証等一覧
甲第1号証:国際公開第2004/020392号
甲第2号証:Synthesis, 1990, 2, pp. 119-122
甲第3号証:Synthesis, 1993, 12, pp. 1261-1266
甲第4号証:Tetrahedron Asymmetry, 2000, 11, pp. 991-994
甲第5号証:Tetrahedron, 1983, 39(18), pp. 2995-2998
甲第6号証:Organic Letters, 2002, 4(8), pp. 1249-1251
甲第7号証:Tetrahedron Letters, 1997, 38(7), pp. 1181-1182
甲第8号証:Synthesis, 1993, 8, pp. 735-762
甲第9号証:Tetrahedron Letters, 1997, 38(19), pp. 3447-3450
甲第10号証:Tetrahedron Letters, 1999, 40(2), pp. 213-216
甲第11号証:Tetrahedron Letters, 1994, 35(29), pp. 5109-5112
甲第12号証:J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, pp. 12637-12638
甲第13号証:J. Am. Chem. Soc., 1994, 116, pp. 10860-10869
甲第14号証:J. Med. Chem., 1996, 39, pp. 2087-2094
甲第15号証:Peter G. M. Wuts, Greene's Protective Groups in Organic Synthesis Fifth Edition, John Wiley & Sons. Inc., 2014, pp. 540-543, 830-837, 1072-1077
第4 甲号証の記載事項
以下、下線の一部は当審合議体が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。
また、甲2~9については外国語の文献であるので、特許異議申立書に添付の「証拠文献の抄訳」を示す。
1 甲1の記載事項
摘記(1a) 「技術分野
本発明はα-アミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシル基の同時保護基としてのボロオキサゾリドン(正式名称:1,3,2-オキサザボロリディン-5-オン、英語名:1,3,2-Oxazaborolidin-5-one)の穏和で高効率なα-アミノ酸への変換方法に関する。」(1頁3~7行)
摘記(1b) 「本発明は、ボロオキサゾリドンのより穏和で、簡便で、かつ所望の脱保護体(α-アミノ酸)に高い効率で変換し得る、開環・脱保護方法を提供することを目的としている。本明細書により、ボロオキサゾリドンの新規開環・脱保護法が開示されることによって、同化合物は、アミノ酸関連化合物およびペプチドないしは糖ベプチド等の合成における有用なビルディングブロック的合成中間体としての地位を不動のものとし、今後、該合成分野における標準手法となり得る。」(3頁6~11行)
摘記(1c) 「上記のボロオキサゾリドンをTHF溶媒中、1.5当量(mol/mol)のトリエチルアミン存在下、室温で1.5当量(mol/mol)の30%過酸化水素水を加え、2時間撹拌することによって、定量的に対応するアミノ酸に変換可能である。
[図:0001439251000005.jpg]
この酸化によるα-アミノ酸のボロオキサゾリドンの開環脱保護反応を、本発明者にちなんで、Umezawa reactionと命名する。なお、後述のルイス酸とアルコールの作用による、α-アミノ酸のボロオキサゾリドンの第2の開環脱保護反応についても、Umezawa reactionと命名し、これらを特に区別したい場合には、酸化によるUmezawa reaction、及びルイス酸によるumezawa reactionと呼称することにする。」(5頁1~9行)
摘記(1d) 「また、本発明において、ボロオキサゾリドンの、上記とは異なる開環脱保護反応が同時に開発された。すなわち、ジクロロメタン、アセトニトリル、THF等の一般的有機溶媒中、室温で、ボロオキサゾリドンに対して1当量(mol/mol)のルイス酸(TMSOTf、BF3・Et2O等)と1当量のアルコール(EtOH、MeOH、i-PrOH、n-BuOH等)とを6時間作用させることによっても定量的に対応するアミノ酸に変換可能である(次式)。この反応をルイス酸を用いるUmezawa reactionと呼称する。
[図:0001439251000006.jpg]
」(9頁7~13行)
摘記(1e) 「スレオニン以外のα-アミノ酸でも、下記のような側鎖に活性水素を有するアミノ酸由来のボロオキサゾリドン
[図:0001439251000007.jpg]
に対しては、アルコールを添加することなく、TMSOTfの添加のみで、上記のスレオニン由来のボロオキサゾリドンと同様に、所望の開環脱保護反応がスピーディーに進行した。」(10頁4~8行)
摘記(1f) 「実施例1:スレオニンの側鎖OH基をベンジル保護したモデル化合物を用いた開環脱保護
(i)スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンの合成
[図:0001439251000008.jpg]
L-スレオニン1.37g(11.5mmol)を200ml容量のナスフラスコに入れ、高純水(蒸留したイオン交換水をいう。以下、同じ)31mlを加えて完全に溶解させた。この溶液を0℃に冷却し撹拌しながら、この溶液に2.0MのHCl水溶液5.8mlを2分間かけて滴下して加えた。0℃での撹拌を更に1時間続けた後、ロータリーエバボレーターを用い、バス温40℃以下を保持して、1時間かけて反応液に含まれる水を減圧留去した。更に真空ポンプを用いて、室温で1時間減圧乾燥した。ナスフラスコには無色の粘性固体が得られた。
・・・
上記のようにして得られたスレオニンの塩酸塩に高純水25mlを加えて再び水溶液とした。なお、前述の濃縮および乾燥は過剰に含まれるHClを除去するために行なったものである。
上記スレオニンの塩酸塩の水溶液にテトラフェニルほう酸ナトリウム(NaBPh4)3.96g(11.6mmol)を加え、23時間、オイルバス上で加熱還流させた。この加熱による反応の間、数回にわたる反応液の外観の際だった変化が繰り返され、加熱後、液全体が白色乳濁し、その乳濁液中に白色の小塊が浮遊した状態となった。白色の小塊を桐山ロート(桐山製作所(株)製)で濾別した。桐山ロート上の白色結晶を高純水で洗浄すると、白色結晶が得られた。濾液と洗液を1つにして、これにクロロホルム250mlとジエチルエーテル50mlと高純水250mlを加え、分液し、有機層に無水硫酸マグネシウムを適量加えて乾燥後、濾過し、濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。白色結晶が得られた。この白色結晶を先の白色結晶と合わせ、これに溶解に必要な最少量のメタノールを加えて溶解し、ビーカー中で撹拌させた300mlのヘキサン中に1滴づつゆっくりと滴下して加えた。
2,2-ジフェニル-4-(1-ヒドロキシエチル)-1,3,2-オキサザボロリディン-5-オン、純白色結晶 3.02g(10.7mmol)が得られた。収率 93%。融点 205-207℃(dec)。
・・・
(ii)スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンのベンジル化
[図:0001439251000009.jpg]
(i)で得たスレオニンのBPh2ボロオキサゾリドン142mg(0.50mmol)をジクロロメタン(脱水)10mlに溶解し、さらにベンジルトリクロロアセトイミデート189mg(0.75mmol)を加えた。この溶液を氷冷下、撹拌しながら、この溶液に銅(II)ビストリフレート(Cu(OTf)2)217mg(0.60mmol)をマイクロシリンジにて加え、30分間、氷冷下、撹拌を続けた後、室温で3時間撹拌した。TLCにて、原料であるスレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンの消失が確認できたため、反応液を分液ロートに移し、酢酸エチル250mlで洗い移し、更に高純水250mlを用いて反応に用いたフラスコを洗って、分液ロートに移し入れた。激しく分液ロートを振ってから静置し、下層である水層を抜き取った後、高純水250mlを加えて、もう1度、同じ操作を繰り返した。有機層を集め、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後、ロータリーエバポレーターにて減圧下、溶媒を留去した。得られた白色結晶をクロロホルム:メタノール=9:1(容積比)の混合溶媒を用いて溶解し、シリカゲルを充填剤とするフラッシュカラムクロマトグラフィーにて分離精製を行なった。2,2-ジフェニル-4-(1-ベンジルオキシエチル)-1,3,2-オキサザボロリディン-5-オンが白色結晶として得られた。収量 177mg(0.475mmol)、収率 95%。
・・・
(iv) (ii)で得られたThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドンのルイス酸による開環脱保護
[図:0001439251000010.jpg]
(ii)で得られたThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドン 108mg(0.290mmol)と微粉末状でよく乾燥させたモレキュラーシーブスAW-300 150mgを30ml容量の2口ナスフラスコに入れ、真空乾燥後、アルゴン置換し、ジクロロメタン(脱水)20mlを入れ、溶液とした。次に室温下、15分間撹拌した後、室温下、トリメチルシリルトリフレート67.8mg(0.305mmol)をマイクロシリンジにて加え、次いで、エタノール(脱水)14.1mg(0.305mmol)をマイクロシリンジにて加えた。室温で6時間撹拌後、TLCにてThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドンの完全消失が確認できたため、以下に示す後処理を行なった。まず、飽和NaHCO3水溶液 10mlを注入し、系中に生じていると予想されるTfOHをクエンチした。セライト(和光純薬 NO.545)を用いて濾過し、フラスコをまず高純水 200mlを用いて少しずつ洗ってはセライト上にかけ、次いでジクロロメタン 計200mlで洗い込み濾過した。濾液を500mlの分液ロートに入れ、激しく振った後、分液した。下層のジクロロメタン層を抜き取った後、酢酸エチル 200mlを入れ、分液し、下層の水層を抜き取った。分液ロートに高純水 100mlを入れ、分液し、下層の水層を抜き取り、先の水層と合わせた。更に、最初のジクロロメタン層を別の分液ロートに入れ、高純水100mlを用いて再度分液し、この水層を先の水層と合わせた。水層を11のナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーターでバス温40℃以下を保持して含まれる水を留去した。得られた白色結晶を必要最少量の高純水で溶解し、さらにpH6.8のリン酸バッファ一を加えて約2倍の容積にした後、内径38mm、長さ300mmでオルガノ(株)製の合成吸着剤XAD-2を充填したカラムにチャージした。初め高純水のみ600mlで溶出し、次いで、10%メタノールの高純水溶液 200mlで溶出し、その後、50%メタノールの高純水溶液で溶出し、最後にメタノールのみ1000mlで溶出した。3番目のフラクション(50%メタノール)に目的物であるH-Thr(Bzl)-OH、すなわち、3-O-ベンジル-L-スレオニンが含まれており、収量 57.5mg(0.275mmol)が得られた。収率 95%。」(13頁5行~20頁21行)
摘記(1g) 「請求の範囲
1.α-アミノ酸のα-アミノ基及びα-カルボキシル基の同時保護基としてのボロオキサゾリドンの開環脱保護による対応するα-アミノ酸への変換方法であって、該ボロオキサゾリドンに対し、1当量以上2当量以下のアミンおよび1当量以上2当量以下の過酸化水素とを作用させることからなる変換方法。
・・・
4.α-アミノ酸のα-アミノ基及びα-カルボキシル基の同時保護基としてのボロオキサゾリドンの開環脱保護による対応するα-アミノ酸への変換方法であって、該ボロオキサゾリドンに対し、1当量のアルコールと1当量のルイス酸とを作用させることからなる変換方法。」
2 甲2の記載事項
摘記(2a)
「
[図:0001439251000011.jpg]
[図:0001439251000012.jpg]
」
3 甲3の記載事項
摘記(3a) 「
[図:0001439251000013.jpg]
[図:0001439251000014.jpg]
[図:0001439251000015.jpg]
」
4 甲4の記載事項
摘記(4a) 「
[図:0001439251000016.jpg]
[図:0001439251000017.jpg]
」
5 甲5の記載事項
摘記(5a) 「
[図:0001439251000018.jpg]
[図:0001439251000019.jpg]
」
6 甲6の記載事項
摘記(6a) 「
[図:0001439251000020.jpg]
[図:0001439251000021.jpg]
」
7 甲7の記載事項
摘記(7a) 「
[図:0001439251000022.jpg]
」
8 甲8の記載事項
摘記(8a) 「
[図:0001439251000023.jpg]
」
9 甲9の記載事項
摘記(9a) 「
[図:0001439251000024.jpg]
」
10 甲10の記載事項
甲10には、原料ボロンとして、ビス(ピナコラート)ジボランだけでなく、ピナコールボランも使用し得ることが記載されている。
11 甲11の記載事項
甲11には、アミノ酸骨格に隣接するアミノ基を有するボロン酸誘導体が、溶液中で閉鎖型として安定に存在できず、分子内でB-N縮合を起こして環状型へと変化することが記載されている。
12 甲12の記載事項
甲12には、pinanediol boronateの加水分解により一時的に生成する閉鎖型ボロン酸が、水中では安定して存在できず、分子内B-N縮合を起こして別の環化構造に変換されることが記載されている。
13 甲13の記載事項
甲13には、pinanediol boronateの加水分解が中性条件でも40~50%にとどまり、生成したボロン酸が水中で安定に存在できず、分子内B-N縮合を起こして別構造に変換されることが記載されている。
14 甲14の記載事項
甲14には、アミノ酸骨格を有するボロン酸誘導体を目的物として得るためには、pH管理や特殊精製など特別な条件が不可欠であり、通常、閉鎖型ボロン酸は保持できず、分子内及び分子間B-N縮合や分解により失われることが記載されている。
15 甲15の記載事項
甲15には、有機合成化学における保護基に関する一般的な事項が記載されている。
第5 当審における判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項:進歩性違反)について
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、「α-アミノ酸のα-アミノ基及びα-カルボキシル基の同時保護基としてのボロオキサゾリドンの開環脱保護による対応するα-アミノ酸への変換方法」について(摘記(1a)~(1d)及び(1g))、「アミン」又は「ルイス酸」を用いることが記載されており、実施例1として、アミノ酸であるL-スレオニンの水酸基のベンジル化にあたり、α-アミノ基及びα-カルボキシル基の同時保護基としてボロオキサゾリドンを導入し、また、ルイス酸を用いて開環脱保護することが具体的に記載されている(摘記(1f))。
そうすると、甲1には、以下に示す実施例1に係る甲1発明が記載されているといえる。
<甲1発明>
次の(i)、(ii)及び(iv)の3工程を含む、L-スレオニンを原料とする3-O-ベンジル-L-スレオニンの製造方法、
(i)スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンの合成
[図:0001439251000025.jpg]
L-スレオニンに高純水を加えて完全に溶解させ、この溶液にHCl水溶液を加えてスレオニンの塩酸塩とし、その水溶液にテトラフェニルほう酸ナトリウム(NaBPh4)を加え、23時間、オイルバス上で加熱還流させ、2,2-ジフェニル-4-(1-ヒドロキシエチル)-1,3,2-オキサザボロリディン-5-オンを得る。
(ii)スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンのベンジル化
[図:0001439251000026.jpg]
(i)で得たスレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンをジクロロメタンに溶解し、ベンジルトリクロロアセトイミデートを加え、銅(II)ビストリフレート(Cu(OTf)2)を加え、30分間、氷冷下、撹拌を続けた後、室温で3時間撹拌し、2,2-ジフェニル-4-(1-ベンジルオキシエチル)-1,3,2-オキサザボロリディン-5-オン(Thr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドン)を得る。
(iv) (ii)で得られたThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドンのルイス酸による開環脱保護
[図:0001439251000027.jpg]
(ii)で得られたThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドンと微粉末状でよく乾燥させたモレキュラーシーブスを2口ナスフラスコに入れ、真空乾燥後、アルゴン置換し、ジクロロメタンを入れ溶液とし、室温下、15分間撹拌した後、トリメチルシリルトリフレートを加え、次いで、エタノール(脱水)を加え、室温で6時間撹拌して、3-O-ベンジル-L-スレオニンを得る。
(2) 本件発明と甲1に記載された発明との対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
a 甲1発明は、(i)の工程において、α-アミノ酸である「L-スレオニン」を塩酸塩とし、さらに、その水溶液に、テトラフェニルほう酸ナトリウム(NaBPh4)を添加し、23時間、オイルバス上で加熱還流させることで、「スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドン」を製造しており、甲1発明の「テトラフェニルほう酸ナトリウム(NaBPh4)」は、本件発明1の「ホウ素誘導体」に相当し、甲1発明の「23時間」の「加熱還流」は、本件発明1の「沸点以上の温度で、12~96時間反応」させることといえる。
また、甲1発明の「L-スレオニン」塩酸塩は、本件発明1の「L-チロシン」に対して、「L-アミノ酸」系化合物の点で共通する。
そして、甲1発明の「スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドン」は、本件発明1の「一般式(2)で表されるホウ素エステル」に対して、
「
[図:0001439251000028.jpg]
」部位(以下「環状NBエステル」という。)を有する点で、分子の部分構造が共通するL-アミノ酸のホウ素エステルである。
b 甲1発明は、(ii)の工程において、スレオニン由来の水酸基をベンジルエーテル化(水素の置換反応)しており、本件発明1は、第二工程及び第三工程において、フェノール性水酸基自体を置換反応しており、両者は置換反応物を得ている点で共通する。
c 甲1発明は、(iv)の工程において、「(ii)で得られたThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドン」の「環状NBエステル」を、ルイス酸により開環脱保護しており、本件発明1は、第四工程において、酸性条件下で、「環状NBエステル」と「アリールボロン酸」部位を開環脱保護をしており、両者は、酸性条件下で「環状NBエステル」を開環脱保護し、「L-アミノ酸の置換反応物」を得ている点で共通する。
d そうすると、本件発明1と甲1発明とは
「次の工程1~3を含むL-アミノ酸の置換反応物の製造方法、
工程1:L-アミノ酸系化合物を、溶媒中,ホウ素誘導体と沸点以上の温度で、12~96時間反応させて、「環状NBエステル」を有するL-アミノ酸のホウ素エステルを製造する工程、
工程2:「環状NBエステル」を有するL-アミノ酸のホウ素エステルの水酸基に関する置換反応をする工程、
工程3:工程2で得られた「環状NBエステル」を有するL-アミノ酸のホウ素エステルの水酸基に関する置換反応物について、酸性条件下で「環状NBエステル」を開環脱保護する工程」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
原料である「L-アミノ酸系化合物」及び目的生成物である「L-アミノ酸の置換反応物」について、本件発明1は、「L-チロシン」及び「L-p-ボロノフェニルアラニン」であるのに対して、甲1発明は、「L-スレオニン塩酸塩」及び「3-O-ベンジル-L-スレオニン」である点
<相違点2>
工程1のホウ素エステルを製造する工程について、本件発明1は、
「テトラヒドロフランや1,4-ジオキサン等エーテル系溶媒中,一般式(1)で表されるトリエチルボランまたはトリブチルボラン等のホウ素誘導体と反応させること
[図:0001439251000029.jpg]
(式中R1、R2およびR3は、同一で炭素数2または3のアルキルを表す。)」
であるのに対して、甲1発明は、
「水溶液中、テトラフェニルほう酸ナトリウム(NaBPh4)と反応させること」
である点
<相違点3>
工程2の水酸基に関する置換反応をする工程について、本件発明1は、
「第二工程:第一工程で得られたホウ素エステルを、アセトニトリル、1,4-ジオキサンまたはシクロペンチルメチルエーテルに溶解させ、トリアルキルアミンの存在下、-20℃~-60℃に冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物と15~60分反応させて、一般式(3)で表されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを製造する工程、
【化2】
[図:0001439251000030.jpg]
(式中R1、R2およびR3は、同一で炭素数2または3のアルキルを表す。)、及び
第三工程:第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルを、アセトニトリル、1,4-ジオキサンまたはジメチルスルホキシドに溶解させ、PdCl2(dppe)、PdCl2(dppp)、PdCl2(dppf)・CH2Cl2、PdCl2(PPh3)2およびPd(PPh3)4のいずれか1種のパラジウム触媒の存在下、一般式(4)で表されるホウ素化合物または一般式(5)で表わされたホウ素化合物と60℃~120℃で6時間~24時間反応させて、一般式(6)で表わされるアリールボロン酸エステルを製造する工程
【化3】
[図:0001439251000031.jpg]
(式中R1およびR2は、同一で炭素数2~3のアルキルを表し、R4、R5、R6およびR7は同一で炭素数1~2のアルキルを表す。)」
であるのに対して、甲1発明は、
「スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドンをジクロロメタンに溶解し、ベンジルトリクロロアセトイミデートを加え、銅(II)ビストリフレート(Cu(OTf)2)を加え、30分間、氷冷下、撹拌を続けた後、室温で3時間撹拌する、以下の反応工程
[図:0001439251000032.jpg]
」
である点
<相違点4>
工程3の開環脱保護する工程について、本件発明1は、
「第三工程で得られたアリールボロン酸エステルをジオキサン中、酸性条件下30℃~70℃で5時間~20時間反応させることによりL-p-ボロノフェニルアラニンを製造する工程
【化4】
[図:0001439251000033.jpg]
(式中R1およびR2は、同一で炭素数2~3のアルキルを表し、R4、R5、R6およびR7は同一で炭素数1~2のアルキルを表す。)」
であるのに対して、甲1発明は、
「(ii)で得られたThr(Bzl)のBPh2ボロオキサゾリドンと微粉末状でよく乾燥させたモレキュラーシーブスを2口ナスフラスコに入れ、真空乾燥後、アルゴン置換し、ジクロロメタンを入れ、溶液とし、室温下、15分間撹拌した後、室温下、トリメチルシリルトリフレートを加え、次いで、エタノール(脱水)を加え、室温で6時間撹拌する、以下の反応工程
[図:0001439251000034.jpg]
」
である点
(イ) 相違点についての検討
事案にかんがみ、まず、相違点1及び相違点4について検討する。
a 相違点1について
甲1には、アミノ基とカルボキシ基にホウ素エステル保護基を導入する「α-アミノ酸」として、「チロシン」が挙げられているが(摘記(1e))、甲1には、「L-チロシン」について、そのフェノール性水酸基を置換反応させることを示唆する記載はなく、「L-p-ボロノフェニルアラニン」を得ることを動機づけるような記載は認められない。
そして、当該置換反応は、甲2~9のいずれにも記載されておらず(摘記(2a)~摘記(9a))、甲10にも「ピナコールボランの使用」が記載されているだけで、同様に当該置換反応についての記載がない。また、甲5、甲6及び甲8においても、「チロシン」又は「チロシン誘導体」についての記載があるにとどまるものである(甲5:2995頁右欄8行等、甲6:1250頁右欄表1の3c等、甲8:743頁左欄スキーム23の48等)。
そうすると、甲1発明において、原料及び目的生成物を、「L-チロシン」及び「L-p-ボロノフェニルアラニン」に変更することは、甲1~甲10のいずれにも動機づけの記載がなく、当業者が容易になし得ることとはいえない。
b 相違点4について
本件発明1は、第四工程の酸性条件下で、「環状NBエステル」と「アリールボロン酸」部位の両者を開環脱保護しているところ、甲1には、上記aで述べたとおり、本件発明1の原料及び目的生成物の反応系に関する示唆も記載もないから、「環状NBエステル」と「アリールボロン酸」部位の両者を開環脱保護する対象自体が存在せず、甲1発明において、相違点4に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
c まとめ
以上のとおり、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。
(ウ) 申立人の主張について
特許異議申立書の内容を検討しても、甲1発明において、甲1発明の「L-スレオニン」から「スレオニンのBPh2ボロオキサゾリドン」を製造するという構成について、「L-チロシン」から「L-p-ボロノフェニルアラニン」を製造するように変更する動機付けがあることの証拠に基づく説明はなく、相違点1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たものでないことは上記(イ)のとおりであるから、本件発明1が進歩性を有していないという申立人の主張は採用できない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1を更に限定するものであるから、本件発明2~5は、上記アと同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2~甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。
(3) 小括
したがって、申立理由1(進歩性違反)によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断の前提
発明の詳細な説明が方法の発明について実施可能要件を満たすためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要するものである。
(2) 本件明細書の記載
摘記(A)
「【実施例】
【0052】
実施例1
L-p-ボロノフェニルアラニンの製造
第一工程
【化6】
[図:0001439251000035.jpg]
で示されるL-チロシン(451.6mg、2.50mmoL:富士フィルム和光純薬工業株式会社製)をフラスコにはかりとる。フラスコに磁気撹拌子とテトラヒドロフラン(17.5mL:関東化学株式会社製)を加えた後に、フラスコ内をアルゴンで置換し、アルゴンを流しながら、トリエチルボラン溶液(ca.1moL/L in テトラヒドロフラン,7.5mL,7.50mmoL(3.01eq):関東化成工業株式会社製)を加えた。およそ100℃の油浴にフラスコを付け、41時間加熱還流し、反応溶液を室温まで放冷した。反応溶液を減圧濃縮すると、無色の液体を得た。シロップ状の粗生成物にヘキサン(約50mL)を加えて、得られた固体を吸引ろ過し、ヘキサンで洗浄することによって
【化7】
[図:0001439251000036.jpg]
で示されるホウ素エステルを得た(576.1mg、2.31mmoL、92%)。
【0053】
得られたホウ素エステルは、TLCで単一物質を同定し、その構造は1H NMRおよび13C NMRで確認した。・・・
【0055】
第二工程
第一工程で得られたホウ素エステル(3.4g、13.53mmol)と磁気撹拌子をフラスコに入れ、フラスコ内部をアルゴンで置換した後に無水アセトニトリル(135mL:シグマーアルドリッチ社製)をフラスコに加えた。トリエチルアミン(4.3mL、30.85mmoL(2.28eq):富士フィルム和光純薬株式会社製)をフラスコに加え、フラスコを-40℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(2.4mL、14.27mmoL(1.06eq):シグマ-アルドリッチ社製)を滴下し、同温度で30分間反応させた。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(約20mL)を加えて、反応混合物が室温に温まるまで放置した後、酢酸エチル(約50mL)を加えたのち、内容物を分液ロートに移して、酢酸エチル溶液を分取した。得られた酢酸エチル溶液を10%リン酸水溶液、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を自然ろ過にて除き、エバポレーターを用いて溶媒を減圧留去することにより、淡黄色油状物質を得た。この粗生成物をテトラヒドロフラン(約20mL)に溶解し、ヘキサン(約200mL)加えると白色の沈殿が発生した。この沈殿を吸引ろ過で集め、ヘキサンで洗浄し、減圧乾燥することによって、
【化8】
[図:0001439251000037.jpg]
で示されるトリフルオロメタンスルホン酸エステルを白色綿状結晶または無色針状結晶として得た(3.7g、9.68mmoL、72%)。
【0056】
得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステルは、TLCで単一物質を同定し、その構造は1H NMRおよび13C NMRで確認した。・・・ 【0058】
第三工程
第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸エステル(380.0mg、1.00mmoL)、PdCl2(dppf).CH2Cl2(41.0mg,0.05mmoL(5moL%):シグマ-アルドリッチ社製),ビスピナコラートジボロン(383.2mg、1.51mmoL(1.51eq):シグマ-アルドリッチ社製)、酢酸カリウム(395.7mg、4.00mmoL(4.04eq):関東化学株式会社製)をフラスコにはかりとり、フラスコ内をアルゴンで置換した後、無水アセトニトリル(3.3mL:シグマ-アルドリッチ社製)を加えた。あらかじめ100℃に加熱した油浴にフラスコを付け、12時間加熱還流し、反応混合物を室温まで放冷する。およそ10mLの酢酸エチルで反応混合物を希釈した後、分液ロートに内容物を移して蒸留水を加え、酢酸エチル溶液を分取した。酢酸エチル溶液を50mL三角フラスコに移し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、乾燥剤を自然ろ過にて除いた。エバポレーターを用いて溶媒を減圧留去することにより、黒色油状物質を得た。この粗生成物を少量(約10mL)の酢酸エチルに溶解し、ほぼ同量のヘキサンを加えた後、シリカゲルのパッド(シリカゲル15g)を通過させて、
【化9】
[図:0001439251000038.jpg]
で示される構造を持つアリールボロン酸エステル(351.1mg、0.98mmoL、98%)を得た〔シリカゲルはヘキサン、酢酸エチル(2:1)の混合溶液で溶出させ、TLCにて生成物の含まれた留分を確認し、集めて濃縮した〕。
【0059】
得られたアリールボロン酸エステルは、TLCで単一物質を同定し、その構造は1H NMRおよび13C NMRで確認した。・・・
【0061】
第四工程
第三工程で得られたアリールボロン酸エステル(413.8mg、1.15mmoL)をフラスコにはかりとり、1,4-ジオキサン(2.3mL:関東化学株式会社製)、2moL/L塩酸(3.0mL、6.00mmol(5,21eq):富士フィルム和光純薬株式会社製)をフラスコに加えた。フラスコ内をアルゴンで置換した後に、50℃に温めておいた油浴にフラスコを浸け、14時間加熱した。室温まで放冷した後に、反応混合物を陽イオン交換樹脂(Dowex50,H+型、樹脂体積50mL)に通した。蒸留水で樹脂を洗浄した後に2%アンモニア水溶液でL-p-ボロノフェニルアラニンを溶出した。L-p-ボロノフェニルアラニンを含む留分を集めてエバポレーターで減圧濃縮し、減圧乾燥することによって、
【化10】
[図:0001439251000039.jpg]
で示されるL-p-ボロノフェニルアラニン(205.8mg、0.98mmoL、98%)を得た。
【0062】
得られたL-p-ボロノフェニルアラニンの構造は、1H NMRおよび13C NMRで確認した。・・・
【0064】
L-p-ボロノフェニルアラニンのL-チロシンからの収量は63.6%と高収率であった。」
(3) 検討
ア 本件発明1について
(ア) 上記第2に示したとおり、本件発明1は、L-p-ボロノフェニルアラニンの製造方法の発明であって、第一工程~第四工程を含むところ、各工程はいずれも、溶媒、反応温度及び反応時間という反応条件が特定されている。
(イ) そして、本件明細書には、実施例1(摘記(A))として、原材料の使用量とともにより具体的な反応条件が記載され、第四工程の最終生成物である「L-p-ボロノフェニルアラニン」だけでなく、第一工程~第三工程の生成物についても、1H NMR及び13C NMRを測定し、各工程の生成物の物性を確認しており、また、結果として、本件発明1の「L-p-ボロノフェニルアラニン」を高収率(63.6%)で製造できているから、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の各工程を実施でき、本件発明1の「L-p-ボロノフェニルアラニン」を製造することができるものである。
(ウ) そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の方法を使用することができる程度の記載がされているものといえる。
(エ) したがって、本件発明1について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されている。
(オ) 申立人の主張について
申立人は、本件発明1の第四工程について、甲11~甲15の記載から、ピナコラートボロンを酸性条件下では加水分解できない旨の主張をしている。
しかしながら、甲11~甲15には、本件発明1の第四工程において特定されている反応条件下(ジオキサン中、酸性条件下30℃~70℃で5時間~20時間の反応)で加水分解反応ができないことが記載されているものではなく、甲11~甲15において加水分解反応ができない化合物は、そもそも、本件発明1の第四工程における原料である特定の「アリールボロン酸エステル」とは異なるものである。
そうすると、反応条件及び原料が異なる甲11~甲15の結果から、本件明細書に記載の実施例1が事実に反するとすることはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1を更に限定するものであるから、本件発明2~5は、上記アと同様の理由により、当業者が、その発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されている。
(4) 小括
したがって、申立理由2(実施可能要件違反)によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700385