特許異議申立
2026-700125
情報処理装置、方法、及びプログラム
- 審判番号
- 2026-700125
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-030457
- 登録番号
- 7721200
- 請求日
- 2026年02月12日
- 審決日
- 2026年05月22日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】Recustomer株式会社
- 【権利者代理人】IPTech弁理士法人
- 【異議申立人】神尾 隆佑
- 【異議申立人代理人】丸林 敬子
- 【異議申立人代理人】丸林 啓介
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 直也
- 審判官 田川 泰宏
- 審判官 笠田 和宏
- 分類
- P1651.121-Y (G06Q) / P1651.537-Y (G06Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7721200号発明「情報処理装置、方法、及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7721200号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7721200号の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和7年2月27日の出願であって、同年8月1日にその特許権の設定登録がされ、同年8月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和8年2月12日に異議申立人 神尾隆佑(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7721200号の請求項1~10に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明10」という。)
「【請求項1】
プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、
電子商取引における商品の試用要求を受け付けるステップと、
前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第1オーソリ処理を行うステップと、
前記第1オーソリ処理の後に、前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップと、
前記試用要求を受け付けた商品の購入の確定情報を受け付けた場合、又は前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合に、前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理を終了するステップと、
を実行させるプログラム。
【請求項2】
前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理は、複数回行われる、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理は、所定期限内に少なくとも1回行われる、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項4】
前記所定期限は、前記第2オーソリ処理の有効期限である、
請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
前記試用要求を受け付けた商品の購入の確定情報を受け付けた場合に、決済処理を行うステップを前記プロセッサに実行させる、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項6】
前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合であって、当該商品が不良品と判定された場合に、決済処理を行うステップを前記プロセッサに実行させる、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項7】
前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合であって、当該商品が良品と判定された場合に、第2オーソリ処理をキャンセルするステップを前記プロセッサに実行させる、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項8】
前記試用要求を受け付けた商品の試用期限内に、商品の購入の確定情報及び返品された商品の検品の完了情報を受け付けない場合に、前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理を終了するステップと、
決済処理を行うステップと、
を前記プロセッサに実行させる、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項9】
プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータに実行される方法であって、前記プロセッサが、
電子商取引における商品の試用要求を受け付けるステップと、
前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第1オーソリ処理を行うステップと、
前記第1オーソリ処理の後に、前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップと、
前記試用要求を受け付けた商品の購入の確定情報を受け付けた場合、又は前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合に、前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理を終了するステップと、
を実行する方法。
【請求項10】
制御部と、記憶部とを備える情報処理装置であって、前記制御部が、
電子商取引における商品の試用要求を受け付けるステップと、
前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第1オーソリ処理を行うステップと、
前記第1オーソリ処理の後に、前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップと、
前記試用要求を受け付けた商品の購入の確定情報を受け付けた場合、又は前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合に、前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理を終了するステップと、
を実行する情報処理装置。」
第3 申立理由の概要
1 申立人の提出した証拠
申立人が提示した各甲号証(以下「甲1」等という。)は、次のとおりである。
甲1:「ecbeing 公式記事「Amazon Pay CV2 再オーソリ機能を標準機能として搭載」、[online]、株式会社ecbeing、[取得日2026年2月11日]、取得先<https://www.ecbeing.net/contents/detail/375>
甲2:「Amazon Pay FAQ」、[online]、Amazon Pay、[取得日2026年2月11日]、取得先<https://web.archive.org/web/20240910233359/https://www.amazonpay-faq.jp/faq/QA-13>
2 申立理由の概要
申立人による申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性)
請求項1~10に係る発明は、甲1、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下、「申立理由1」という。)
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1、9、10の記載は発明の詳細な説明に記載されていない点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(以下、「申立理由2」という。)
(3)申立理由3(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1、9、10の記載が明確でない点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(以下、「申立理由3」という。)
第4 甲号証
1 甲1について
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。以下同じ。)。
ア 「株式会社ecbeing (イーシービーイング 本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:林 雅也、以下「弊社」)の提供する、14年連続ECサイト構築パッケージシェアNo.1※1のECサイト構築プラットフォーム「ecbeing」は、Amazon Pay CV2再オーソリ機能を最新版パッケージの標準機能として搭載することをお知らせします。
これにより事業者様は注文から発送まで30日以上の期間がある予約商品においてもAmazon Payのご利用が可能となりました。」
イ 「Amazon Pay CV2再オーソリ機能とは
Amazon Pay(新バージョンCV2)は、Amazonアカウントに登録された住所情報とお支払い情報を利用してAmazon 以外の EC サイトでスピーディにお買い物ができる ID 決済サービスです。
この度2022年11月にAmazon Pay CV2において再与信作業を自動で行う再オーソリ機能が「ecbeing」の標準機能として搭載されました。
これにより事業者様は注文から発送まで30日以上の期間を要する予約商品や受注生産品にも運用負担なく、Amazon Pay CV2をご利用いただけるようになりました。
この再オーソリ機能により、新規のお客様のさらなる獲得や代引き利用による受取拒否、販売機会ロス等のリスク軽減も期待できます。
Amazon Pay CV2は通常、注文時に取得したオーソリの有効期限が30日となっており、有効期限を超えると自動的にオーソリのステータスがキャンセルとなります。今回ecbeingにて対応したAmazon Pay CV2再オーソリ機能は注文の有効期限が30日以上であっても180日以内であれば、Create Charge APIを呼び出すことにより、自動的に再度オーソリ処理が行われ、発送時に事業者様側で再度オーソリ処理を実施する必要がなく売上請求が可能になります。さらにAmazon Payをご利用されているお客様にとっても、通常の商品と同じように限定の予約商品や受注生産商品もスムーズにお買い物ができるようになります。」
ウ 「先行導入事例も続々 ETVOS(エトヴォス)様に導入済み
ecbeingではすでに今回の再オーソリ機能の先行導入事例としてETVOS(エトヴォス)様にてリリースをおこなっております。」
エ 「ETVOS(エトヴォス)様 画面イメージ
[図:0001437418000001.jpg]
」
(2)甲1に記載されているといえる事項
ア 上記(1)ウ、エの「ETVOS(エトヴォス)様」は、ECサイト構築プラットフォーム「ecbeing」を提供する株式会社ecbeingがサービスを提供する「事業者様」すなわち「事業者」であって、上記(1)イから、スピーディにお買い物ができるAmazon以外の「ECサイト」を提供する「事業者」であることいえる。そして、ECサイトはサーバコンピュータで実行されるプログラムによって実現されることは明らかである。
上記(1)エから、お客様すなわち顧客の端末コンピュータは、事業者が提供するECサイトにアクセスして、「予約商品詳細ページ」、「カート画面」、「Amazonログイン画面」、「注文確認画面」を表示することができることが看取される。
そうすると、甲1には、「スピーディにお買い物ができるECサイト(ETVOS)を提供する事業者のサーバコンピュータとECサイト(ETVOS)にアクセすることのできる顧客の端末コンピュータからなるシステムにおける事業者のサーバコンピュータで実行されるプログラム」が記載されているといえる。
イ 上記(1)エから、ECサイト(ETVOS)は、顧客の端末コンピュータから、商品の予約、注文を受け付ける機能を有することが看取され、顧客の端末コンピュータは、ECサイトにアクセスして、顧客が予約した商品の詳細を表示する機能を有することが看取される。
また、上記ア、ウから、ECサイト(ETVOS)は、Amazon Pay CV2再オーソリ機能を有している。
そうすると、甲1には、「ECサイト(ETVOS)は、Amazon Pay CV2再オーソリ機能を有し、顧客の端末コンピュータから、商品の予約、注文を受け付ける機能を有する」ことが記載されているといえる。
ウ 上記(1)エから、顧客の端末コンピュータは、ECサイトにアクセスして、顧客が予約した商品の注文に関する画面を表示する機能を有し、「カート画面」において、カートに入っている商品とともに表示されている「ご注文手続きへ」ボタンが選択されることで「Amazonログイン画面」が表示され、「Amazonログイン画面」において、「お届け先住所」、「お支払い方法」を入力して「続行」ボタンが選択されることで「注文確認画面」が表示され、「注文確認画面」において、「ご注文商品」とともに表示されている「注文を確定する」ボタンを選択することで商品の注文を行うことができることが看取される。
エ 上記(1)イから、甲1には、「Amazon Pay CV2再オーソリ機能は、Amazonアカウントに登録された住所情報とお支払い情報を利用してAmazon以外のECサイトでスピーディにお買い物ができるID決済サービスであり、再与信作業を自動で行う再オーソリ機能であり、注文時に取得したオーソリの有効期限が30日となっており、有効期限を超えると自動的にオーソリのステータスがキャンセルとなり、注文の有効期限が30日以上であっても180日以内であれば、自動的に再度オーソリ処理が行われる」ことが記載されているといえる。
オ 上記ア~エによれば、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「スピーディにお買い物ができるECサイト(ETVOS)を提供する事業者のサーバコンピュータとECサイト(ETVOS)にアクセすることのできる顧客の端末コンピュータからなるシステムにおける事業者のサーバコンピュータで実行されるプログラムであって、
ECサイト(ETVOS)は、
Amazon Pay CV2再オーソリ機能を有し、
顧客の端末コンピュータから、商品の予約、注文を受け付ける機能を有し、
顧客の端末コンピュータは、
ECサイトにアクセスして、顧客が予約した商品の注文に関する画面を表示する機能を有し、
「カート画面」において、カートに入っている商品とともに表示されている「ご注文手続きへ」ボタンが選択されることで「Amazonログイン画面」が表示され、「Amazonログイン画面」において、「お届け先住所」、「お支払い方法」を入力して「続行」ボタンが選択されることで「注文確認画面」が表示され、「注文確認画面」において、「ご注文商品」とともに表示されている「注文を確定する」ボタンを選択することで商品の注文を行うことができ、
Amazon Pay CV2再オーソリ機能は、
Amazonアカウントに登録された住所情報とお支払い情報を利用してAmazon以外のECサイトでスピーディにお買い物ができるID決済サービスであり、
再与信作業を自動で行う再オーソリ機能であり、
注文時に取得したオーソリの有効期限が30日となっており、有効期限を超えると自動的にオーソリのステータスがキャンセルとなり、注文の有効期限が30日以上であっても180日以内であれば、自動的に再度オーソリ処理が行われる
プログラム。」
2 甲2について
(1)甲2の記載
甲2には、「Amazon PayのFAQ」として、以下の記載がある。
「オーソリの有効期限は30日(※SANDBOXは有効期限2日) で、有効期限を越えるとオーソリのステータスは自動的にCanceledに遷移します。
注文から出荷まで30日を越える場合はCharge Permissionオブジェクトの有効期限180日以内であれば、再度Create Charge APIを呼び出し、オーソリすることができます。
再度Create Charge APIを呼び出すタイミングの例
例として以下の3パターンがあります。
1.出荷の見込みがついたタイミング(売上請求する出荷時の数日前)にCreate Charge APIを呼び出す
2.売上請求する出荷時まで30日を切ったら Create Charge APIを呼び出す
3.30日ごとに Create Charge APIを呼び出す」
(2)甲2に記載されているといえる事項
上記(1)の記載によれば、甲2には「注文から、出荷まで30日を超える場合には、Charge Permissionの有効期限180日以内であれば、30日ごとに再度Create Charge APIを呼び出してオーソリする」(以下、「甲2記載事項」という。)ことが記載されている。
第5 当審の判断
1 申立理由1 (進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア) 「プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、」について
甲1発明の「サーバコンピュータ」が、プロセッサとメモリを備えることは技術常識であるから、本件発明1における「プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータ」に相当し、甲1発明の「プログラム」は、後述する相違はあるものの、プロセッサによって実行されることは明らかであるから、本件発明1のプロセッサによって実行される「プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータに実行させるためのプログラム」に相当する。
(イ) 「電子商取引における商品の試用要求を受け付けるステップと、」について
甲1発明は、「事業者」が「ECサイト(ETVOS)」を顧客に提供して「商品」を販売するサービスを行うものであり、そのサービスとして顧客の端末コンピュータに「顧客が予約した商品の注文に関する画面を表示」させ、顧客が商品の注文を行うことができるものである。
してみると、甲1発明と本件発明とは、「電子商取引における商品の要求を受け付ける」点で共通する。
他方、本件発明1は受け付けるものが「商品の試用要求であるのに対して、甲1発明は受け付けるものが商品の注文であって、「試用要求」でない点で相違する。
(ウ) 「前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第1オーソリ処理を行うステップと、」について
甲1発明は、「注文時に取得したオーソリの有効期限が30日となって」いる。このオーソリ機能は、顧客の情報端末からの「注文」時に実行されることは明らかである。
してみると、甲1発明と本件発明1とは、「前記要求を受け付けた商品の第1オーソリ処理を行う」点で共通する。
他方、上記(イ)の相違点に加えて、本件発明1の第1オーソリが、「商品の価格に応じた」ものであるのに対して、甲1発明の注文時に取得したオーソリがそのような特定がされていない点で相違する。
(エ) 「前記第1オーソリ処理の後に、前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップと、」について
甲1発明は、「注文の有効期限が30日以上であっても180日以内であれば、自動的に再度オーソリ処理が行われる」ものである。
そうすると、甲1発明の「再度オーソリ処理」は、注文のオーソリ処理以降に実行されるオーソリ処理である点で、本件発明1の「第2オーソリ処理」に相当する。
したがって、甲1発明と本件発明1とは、「第1オーソリ処理の後に、前記要求を受け付けた商品の第2オーソリ処理を開始する」ものである点で共通する。
他方、上記(イ)(ウ)の相違点に加えて、本件発明1が「第2オーソリ処理」について「バッチ処理」を開始するのに対して、甲1発明は「再度オーソリ」について「バッチ処理」を開始することがされていない点で相違する。
(オ)「前記試用要求を受け付けた商品の購入の確定情報を受け付けた場合、又は前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合に、前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理を終了するステップと、」について
甲1発明は、このようなステップを実行しない点で、本件発明1と相違する。
イ 一致点及び相違点
上記(1)で対比した事項を踏まえると、本件発明1と甲1発明は、
「プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、
電子商取引における商品の要求を受け付けるステップと、
前記要求を受け付けた商品の第1オーソリ処理を行うステップと、
前記第1オーソリ処理の後に、前記要求を受け付けた商品の第2オーソリ処理を開始するステップと、
を実行させるプログラム。」という点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は、受け付けるものが「商品の試用要求」であるのに対して、甲1発明は、受け付けるものが商品の注文であって、「試用要求」でない点。
(相違点2)
本件発明1は、第1オーソリが、「商品の価格に応じた」ものであるのに対して、甲1発明の注文時に取得したオーソリがそのような特定がされていない点。
(相違点3)
本件発明1は、「第2オーソリ処理」について「バッチ処理」を開始するのに対して、甲1発明は、「再度オーソリ」について「バッチ処理」を開始することがされていない点。
(相違点4)
本件発明1は「前記試用要求を受け付けた商品の購入の確定情報を受け付けた場合、又は前記試用要求を受け付け、返品された商品の検品の完了情報を受け付けた場合に、前記第2オーソリ処理の前記バッチ処理を終了する」ステップを実行するのに対して、甲1発明は、そのようなステップを実行する特定がされていない点。
ウ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1、4について検討する。
本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の「一方、EC(電子商取引)サイトにおいて、商品を購入して試用(試着)をした後に返品可能なサービスが知られている。しかしながら、特許文献1のような処理では、商品購入時にオーソリだけではなく、決済処理まで完了させることになる。このため、商品を返品する場合、一度決済処理まで完了した後に返金することになり、所定の決済手数料が発生してしまう。」との課題を解決するためのものである。すなわち、本件発明1は、「商品を購入して試用(試着)をした後」の「返品可能なサービス」における上記課題を解決するものである。
一方、甲1の「Amazon Pay CV2再オーソリ機能」を導入することで、「これにより事業者様は注文から発送まで30日以上の期間を要する予約商品や受注生産品にも運用負担なく、Amazon Pay CV2をご利用いただけるようになりました。」との記載から、甲1発明は、いわゆるエスクローを想定していることは明らかであり、商品を顧客に引き渡す時に決済処理が行われることは明らかである。そのため、甲1発明には、ECサイトが、顧客に返品可能な状態で商品を引き渡して、商品の購入や返品が確定した後に決済を行うようにしようとする動機付けはなく、むしろ阻害要因がある
そのため、甲1発明に基づいて、相違点1、4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものではない。
なお、甲2には甲2記載事項に示すように「注文から、出荷まで30日を超える場合には、Charge Permissionの有効期限180日以内であれば、30日ごとに再度Create Charge APIを呼び出してオーソリする」することが開示されているにとどまり、甲1発明に甲2記載事項を適用しても、相違点1、4に係る構成に至らない。
そして、本件発明1は、相違点1、4に係る構成を採用することにより、「ECにおける購入及び試用サービスの返品手続において、決済手数料の発生をなくし、費用負担軽減を図ることができる。」(【0008】)との効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また甲1記載の発明及び甲2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 申立人の主張
(ア) 申立人は、特許異議申立書で次のように主張する。
本件発明1と甲1発明との相違点について、
「・適用される取引形態が、「本件発明は試用サービス」であり、一方の甲1は「予約商品・受注生産品の注文取引」である点
すなわち、相違点は取引形態(業態)の違いにとどまり、決済管理技術としての基本構造は同一である。」
その相違点の判断として、
「・試用サービスは周知である(本件明細書[0005])
・本件発明は予約購入にも適用可能である(本件明細書[0110]、
[0112])
・甲1は予約取引における自動再オーソリ管理を開示する
ことから、本件特許発明1におけるA2~A4及びA5の相違点は、取引形態(試用サービスか予約サービスか)の違いに由来するのみであり、決済管理技術としての本質的差異ではないと評価される。
すなわち、本件特許発明は、甲1の技術を周知の試用サービスに適用するという、当業者にとって容易な設計的適用(単なるシナリオ置換)にすぎないものと解される。」旨主張する(異議申立書 第10~13頁)
(イ) 申立人の主張についての検討
上記ウで検討したとおり、本件発明1と本件発明とは、前提が異なり、決済処理の概念も異なるものであるから、試用サービスが周知であるとしても、甲1発明において、再オーソリ処理を商品の返品の場合の決済処理に適用しようとする動機付けはなく、むしろ阻害要因があることは明らかである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2乃至8について
本件発明2乃至8は、本件発明1を引用する発明であり、上記相違点に係る構成を備えるものであるから、上記1と同じ理由で、本件発明2乃至8は、甲1記載の発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明9について
本件発明9は、本件発明1に対応する「方法」の発明であるから、上記1と同様の理由で、本件発明9は、甲1に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明10について
本件発明10は、本件発明1に対応する「情報処理装置」の発明であるから、上記1と同様の理由で、本件発明10は、甲1に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2(サポート要件)、申立理由3(明確性)について
事案に鑑み、申立理由2と申立理由3とをまとめて判断する。
(1) 申立人の主張する申立理由2、3の概要
ア 申立理由2(サポート要件)について
「本件明細書に開示された発明は、第1オーソリ処理の完了を契機として第2オーソリ処理のバッチ処理を開始する点に技術的特徴を有するものである。
しかしながら、本件特許発明1では、「前記第1オーソリ処理の後に、」と記載されているのみであり、第1オーソリ処理をトリガとして第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するという技術的事項は特定されていない。
その結果、本件特許発明1は、第1オーソリ処理をトリガとして第2オーソリ処理のバッチ処理を開始する態様に限られず、第1オーソリ処理の完了後であれば時間的制約なく第2オーソリ処理のバッチ処理を開始する態様をも包含することとなり、第1オーソリ処理の有効期限経過後に第2オーソリ処理のバッチ処理を開始する態様をも包含することとなる。
このような構成は、本件明細書に記載された発明の内容から当業者が理解し得る技術的範囲を超えるものであり、本件特許発明1は、本件明細書の記載により十分にサポートされていない。
また、本件明細書段落0098に記載された「ECにおける購入及び試用サービスの返品手続において、決済処理をせずにオーソリ処理によるクレジットカードの利用枠を『確保し続ける』ことができる。」等の作用効果は、第1オーソリ処理をトリガとして第 2オーソリ処理を行うことを前提とするものであり、上記のように 第1オーソリの有効期限経過後に第2オーソリ処理が開始される態様を含む本件特許発明 1の構成からは、当該作用効果が発揮されるとはいえない。」(異議申立書第21頁~第22頁)
イ 申立理由3(明確性)について
「本件特許発明1では、「第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップ」と規定されているのみであり、当該バッチ処理の開始と、第2オーソリ処理の実行との時間的関係について、何ら特定されていない。
すなわち、本件特許発明1からは、バッチ処理の開始と同時に第2オーソリ処理が実行されるのか、それともバッチ処理の開始後、一定期間を経過した後(第1オーソリ有効期限経過後)に第2オーソリ処理が実行されるのかを一義的に特定することができない。
その結果、本件特許発明1の権利範囲には、バッチ処理開始後直ちに第2オーソリ処理を実行する態様と、バッチ処理開始後、一定期間をおいて(第1オーソリ有効期限経過後に)第2オーソリ処理を実行する態様の双方が含まれるのか否かが不明である」(異議申立書第22頁)
(2) 判断
ア 本件発明1の「前記第1オーソリ処理の後に、前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップ」は、その記載から、「第2オーソリ処理」は「第1オーソリ処理」に後に実行されればよく、第2オーソリ処理は、第1オーソリ処理と同じ「前記試用要求を受け付けた商品」の価格に応じたオーソリ処理であるものと解釈される。
イ 本件特許明細書は、従来技術として、「クレジットカードを利用する際、決済前に利用枠を確保するオーソリ処理が実行される。」(【0002】)、発明が解決しようとする課題として、「しかしながら、特許文献1のような処理では、商品購入時にオーソリだけではなく、決済処理まで完了させることになる。このため、商品を返品する場合、一度決済処理まで完了した後に返金することになり、所定の決済手数料が発生してしまう。」(【0005】)、そして、課題を解決するための手段として、「前記第1オーソリ処理の後に、前記試用要求を受け付けた商品の価格に応じた第2オーソリ処理のバッチ処理を開始するステップ」(【0007】)との構成を採用するものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「また、カード会社サーバ40は、オーソリ処理の有効期限を経過した場合にクレジットカードの利用枠を解放する。」(【0031】)、「第2オーソリ処理は、第1オーソリ処理と同様の処理であって、ユーザのクレジットカードに対して、試用要求を受け付けた商品の価格に応じた利用枠を確保する処理である。」(【0053】)、「このとき、次のオーソリ処理(例えば、1回目の第2オーソリ処理)が完了した場合、直前のオーソリ処理(例えば、第1オーソリ処理)の利用枠はキャンセルされる。EC事業者は、第1オーソリ処理及び第2オーソリ処理と並行してユーザに試用要求を受け付けた商品を発送する。」(【0074】)との記載がある。
ウ このように、上記イの記載から、本件発明の発明の詳細な説明には、第2オーソリ処理は、第1オーソリ処理の「後に」実行されるものであって、第2オーソリ処理が、第1オーソリ処理の対象となった商品に対してオーソリ処理を行うことが記載されている(第1オーソリ処理で確保した与信枠が、第2オーソリ処理が実行される前に解放されると、第1オーソリ処理で確保した与信枠を、第2オーソリ処理で確保することができなくなることは明らかである。)。
エ そうすると、本件発明1の上記アの解釈と本件明細書の発明の詳細な説明のウの解釈は整合しており、第三者に不測の不利益をもたらすものではない。(明確性)
オ そして、本件発明1は、当該構成により、上記課題を解決することができることは明らかである。(サポート要件)
(3)小括
よって、本件発明1、9、10は、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、特許法第36条第6項第1号、同項第2号の規定に違反しているとはいえず、異議申立の主張する申立理由2、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700125