特許拒絶査定不服審判
2026-000453
楽譜及びそれを備える練習セット
- 審判番号
- 2026-000453
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2024-570358
- 請求日
- 2026年01月13日
- 審決日
- 2026年06月22日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】千葉 登世
- 【請求人代理人】瀬戸口 克
- 審判長/審判官
- 審判長 圓道 浩史
- 審判官 伊藤 隆夫
- 審判官 坂東 大五郎
- 分類
- P18 .121-WZ (G10G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2024-570358「楽譜及びそれを備える練習セット」拒絶査定不服審判事件〔令和 8年 3月19日国際公開、WO2026/058363〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2024年(令和6年)9月12日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和6年12月25日付け:拒絶理由通知書
令和7年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和7年 5月12日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和7年 9月11日 :意見書の提出
令和7年10月 6日付け:拒絶査定
令和8年 1月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和8年 3月 5日付け:拒絶理由通知書(当審)
令和8年 5月11日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~2に係る発明は、令和8年5月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。なお、記号A~Kは、分説するために当審で付したものであり、記号A~Kに対応する発明特定事項を、以下、構成A~構成Kという。
(本願発明)
A 五線譜と、前記五線譜に記譜される音符部と、を有し、
B 前記音符部は、音高及び音価を表示する音符部本体と、前記音符部本体と一体的に又は近傍に表示され、この音符部本体の音高を三味線で弾奏するための表示を行う表示手段と、を含み、
C 前記表示手段は、前記三味線において弾奏すべき弦を示す弦表示手段と、この弦の押圧すべき位置を示す押圧位置表示手段と、を含み、
D 前記押圧位置表示手段は、前記三味線の勘所に対応する数字又は記号であり、
E 前記五線譜には、三味線の調弦と、演奏記号が表示されており、
F 前記弦表示手段は、前記音符部本体に付された色であり、
G 前記色は、弾奏対象となる前記三味線の弦毎に異なった色相である、
H 楽譜と、
I 三弦を有する三味線と、
を備え、
J 該三味線の各弦には、それぞれ、前記弦表示手段に対応した色が付されている、
K 三味線の練習セット。
第3 当審の拒絶の理由
令和8年3月5日付けで当審が通知した拒絶の理由のうちの理由2は、概略、次のとおりのものである。
理由2.(進歩性)この出願の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.千葉登世,「五線と文化譜でわかりやすい!やさしい三味線講座」,株式会社自由現代社,2023年10月30日,第32-37,66,82,90,113-115頁
2.実願昭54-183920号(実開昭56-102566号)のマイクロフィルム
第4 引用文献
1 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は、強調のために当審で付したものである。
ア「2 実用新案登録請求の範囲
(1) ギターの弦をそれぞれ異なつた色で表示して区別したギターと、使用する弦と同色に音符を着色し且つ該音符にフレツト数を表示した楽譜との組合せから成るギター練習用具。」(第1頁第3~7行目)
イ「(3) 弦の区別が弦自身の色によつて行なわれていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第(1)項に記載のギター練習用具。」(第1頁第11~13行目)
ウ「ギター演奏を習いたいという初心者にとつて、ギターのうちの、どの弦のどのフレツトを手指で押さえて弾けば、どの様な音階の音が出るのかを覚えることは仲々困難である。従つて大部分の初心者は当初は仲々うまく演奏することができず、興味も次第に薄れ、ほんの初歩の部分の演奏を習つただけで終つてしまうのが実情である。そのため、習い始めの初心者であつても、ギターを簡単に演奏し得て興味を持ち続け得る様な練習用具の実現が望まれていた。
この様な事情に鑑み、本考案はなされたものであり、その目的は、特に初心者に好適するといつたギター練習用具を提供するにある。」(第2頁第2~14行目)
エ「一方、第3図において、(30)は初心者がギター演奏するに好適するギター演奏曲、例えば「旅愁」の楽譜であり、そして、この曲のメロディーを構成する数多くの音符を、それぞれ使用する弦の色(前述した黄色、橙色、桃色、緑色、青色、茶色のうちのいずれか)と同色に着色すると共に、該音符の内に、手指で押さえるべきフレツト数を表示している。」(第4頁第12~20行目)
オ「従つて、ギター演奏を習い初めの初心者であつても、音符の色によつて、使用する弦がたちどころに知られ、また、該音符内の数字によつて、手指で押さえるべきフレツトがたちどころに知られる。従つて、初心者であつても僅かに練習するだけで、即、ギター演奏を上手に行なうことができるという効果が得られる。しかも、上達の度合も従来に比して格段に早い。また、音符を読めない人にとつても都合が良い。」(第6頁第7~15行目)
カ「本考案は以上説明した様に、ギターの六本の弦をそれぞれ異なつた色で表示して区別したギターと、音符を使用する弦と同色に着色し且つ該音符にフレツト数を表示した楽譜との組合せから成るものであつて、これによつて特に初心者に好適し、ギター演奏の上達度合も早めることができるという実用的効果を奏するギター練習用具を提供できる。」(第7頁第12~19行目)
キ「
[図:0001439143000001.jpg]
」
(2)引用文献2の記載から把握できる事項
上記(1)キの第3図、第4図には、楽譜が、五線譜と、五線譜に記譜される音符を有することが記載されているといえる。
(3)引用発明2
上記(1)、(2)の事項を総合すると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。なお、2a~2dは、説明のために当審で付したものであり、対応する構成を、以下、構成2a~2dという。 また、各構成の末尾の括弧内に対応する記載箇所を示した。
(引用発明2)
2a ギターの六本の弦をそれぞれ異なつた色で表示して区別したギターと、使用する弦と同色に音符を着色し且つ該音符にフレツト数を表示した楽譜との組合せから成るギター練習用具であって((1)ア、カ)、
2b ギター演奏曲の楽譜は、五線譜と、五線譜に記譜される音符を有し((1)エ、(2))、
2c 曲のメロディーを構成する数多くの音符を、それぞれ使用する弦の色(黄色、橙色、桃色、緑色、青色、茶色のうちのいずれか)と同色に着色すると共に、該音符の内に、手指で押さえるべきフレツト数を表示しており((1)エ)、
2d 弦の区別が弦自身の色によつて行なわれている((1)イ)、
2a ギター練習用具。
2 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。
「
[図:0001439143000002.jpg]
」(第82頁)
(2)引用文献1の記載から把握できる事項
上記(1)によれば、引用文献1には、楽譜が記載されており、当該楽譜は、三味線のための五線譜と、当該五線譜に記譜される音符を有しているといえる。
また、上記(1)によれば、当該五線譜の上部には文化譜が記載されており、当該文化譜には、五線譜上の各音符の水平方向の位置と対応する位置において、一の糸、二の糸、三の糸と名称が付されたいずれか一つの水平線上に、勘所の位置を示す数値又は記号が記載されている。
また、上記(1)の楽譜の1段目の上部には「三下り」と表示されており、1段目の五線譜の最後には、反復記号が表示されている。
(3)文献1技術事項
上記(1)、(2)の事項を総合すると、引用文献1には、以下の技術事項(以下、「文献1技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、1a~1dは、説明のために当審で付したものであり、対応する構成を、以下、構成1a~1dという。
(文献1技術事項)
1a 楽譜であって、
1b 三味線のための五線譜と、当該五線譜に記譜される音符を有し、
1c 当該五線譜の上部には文化譜が記載されており、当該文化譜には、五線譜上の各音符の水平方向の位置と対応する位置において、一の糸、二の糸、三の糸と名称が付されたいずれか一つの水平線上に、勘所の位置を示す数値又は記号が記載されており、
1d 当該楽譜の1段目の上部には「三下り」と表示されており、五線譜には、反復記号が表示されている、
1a 楽譜。
第5 対比
以下、本願発明と引用発明2を対比する。
1 構成Hについて
構成2a、2bの「楽譜」は構成Hの「楽譜」に相当する。
2 構成Aについて
構成2bの「五線譜と、五線譜に記譜される音符を有し」は、構成Aの「五線譜と、前記五線譜に記譜される音符部と、を有し」に相当する。
3 構成Bについて
構成2b、2cの「音符」が、音高及び音価を表示するものであることは当業者にとって明らかであるから、当該「音符」は、構成Bの「音高及び音価を表示する音符部本体」に相当する。
また、構成2cによれば、「音符」は、「それぞれ使用する弦の色(黄色、橙色、桃色、緑色、青色、茶色のうちのいずれか)と同色に着色すると共に、該音符の内に、手指で押さえるべきフレツト数を表示して」いるところ、当該「色」や、音符内に表示された「手指で押さえるべきフレツト数」は、音符と一体的に又は近傍に表示されたものといえる。
そして、構成2bによれば、「楽譜」は、「ギター演奏曲」のものであるから、構成2cの「音符」の「色」や「手指で押さえるべきフレツト数」は、当該「音符」が示す音高をギターで弾奏するための表示であるといえる。
よって、構成2cの「音符」の「色」や「手指で押さえるべきフレツト数」は、音符部本体の音高をギターで弾奏するための表示を行う表示手段といえる。
そして、構成Bの「三味線」と構成2aの「ギター」は、いずれも、撥弦楽器である点で共通するものである。
以上によれば、本願発明と引用発明2の「楽譜」は、「前記音符部は、音高及び音価を表示する音符部本体と、前記音符部本体と一体的又は近傍に表示され、この音符部本体の音高を撥弦楽器で弾奏するための表示を行う表示手段と、を含」む点で共通する。
しかしながら、「撥弦楽器」が、本願発明では、「三味線」であるのに対し、引用発明2では、「ギター」である点で、両者は相違する。
4 構成Cについて
構成2cの「音符」の「色」は、「使用する弦」を示すものであるから、ギターにおいて弾奏すべき弦を示す弦表示手段といえる。
また、構成2cの音符内に表示された「手指で押さえるべきフレツト数」は、ギターの弦の押圧すべき位置を示す押圧位置表示手段といえる。
以上によれば、本願発明と引用発明2の「楽譜」は、「前記表示手段は、前記撥弦楽器において弾奏すべき弦を示す弦表示手段と、この弦の押圧すべき位置を示す押圧位置表示手段と、を含」む点で共通する。
しかしながら、「撥弦楽器」が、本願発明では、「三味線」であるのに対し、引用発明2では、「ギター」である点で、両者は相違する。
5 構成Dについて
構成2cの音符内に表示された「手指で押さえるべきフレツト数」は、ギターのフレツトに対応する数字又は記号であるといえる。
そして、構成Dの「三味線の勘所」と構成2cの「手指で押さえるべきフレツト数」は、いずれも、撥弦楽器の弦の押圧位置を示すものである点で共通する。
よって、本願発明と引用発明2の「楽譜」は、「前記押圧位置表示手段は、前記撥弦楽器の弦の押圧位置に対応する数字又は記号であ」る点で共通する。
しかしながら、「撥弦楽器の弦の押圧位置」が、本願発明では、「三味線の勘所」であるのに対し、引用発明2では、「ギターのフレツト」である点で、両者は相違している。
6 構成Eについて
本願発明では、「前記五線譜には、三味線の調弦と、演奏記号が表示されて」いるのに対し、引用発明2では、前記五線譜には、三味線の調弦と、演奏記号が表示されていない点で、両者は相違している。
7 構成Fについて
構成2cの「音符」が「それぞれ使用する弦の色(黄色、橙色、桃色、緑色、青色、茶色のうちのいずれか)と同色に着色」されていることは、構成Fの「前記弦表示手段は、前記音符部本体に付された色であ」ることに相当する。
8 構成Gについて
構成2cの「それぞれ使用する弦の色(黄色、橙色、桃色、緑色、青色、茶色のうちのいずれか)」は、弦毎に異なった色相の色であるといえる。
よって、本願発明と引用発明2の「楽譜」は、「前記色は、弾奏対象となる前記撥弦楽器の弦毎に異なった色相である」点で共通する。
しかしながら、「撥弦楽器」が、本願発明では、「三味線」であるのに対し、引用発明2では、「ギター」である点で、両者は相違する。
9 構成Iについて
構成2aの「六本の弦」を有する「ギター」は、構成Iの「三弦を有する三味線」と、「複数の弦を有する撥弦楽器」である点で共通する。
しかしながら、「複数の弦を有する撥弦楽器」が、本願発明では、「三弦を有する三味線」であるのに対し、引用発明2では、「六本の弦」を有する「ギター」である点で、両者は相違する。
10 構成Jについて
構成2a、2dによれば、引用発明2のギターは、「ギターの六本の弦をそれぞれ異なつた色で表示して区別したギター」であって、「弦の区別が弦自身の色によつて行なわれて」いるものであり、また、「音符」については、「使用する弦と同色に音符を着色」しているのであるから、引用発明2のギターの各弦には、それぞれ、音符の色に対応した色が付されているといえる。
よって、本願発明と引用発明2は、「該撥弦楽器の各弦には、それぞれ、前記弦表示手段に対応した色が付されている」点で共通する。
しかしながら、「撥弦楽器」が、本願発明では、「三味線」であるのに対し、引用発明2では、「ギター」である点で、両者は相違する。
11 構成Kについて
構成2aの「ギターの六本の弦をそれぞれ異なつた色で表示して区別したギターと、使用する弦と同色に音符を着色し且つ該音符にフレツト数を表示した楽譜との組合せから成るギター練習用具」は、構成Kの「三味線の練習セット」と、「撥弦楽器の練習セット」である点で共通する。
しかしながら、「撥弦楽器」が、本願発明では、「三味線」であるのに対し、引用発明2では、「ギター」である点で、両者は相違する。
12 対比のまとめ
以上によれば、本願発明と引用発明2の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
A 五線譜と、前記五線譜に記譜される音符部と、を有し、
B’ 前記音符部は、音高及び音価を表示する音符部本体と、前記音符部本体と一体的に又は近傍に表示され、この音符部本体の音高を撥弦楽器で弾奏するための表示を行う表示手段と、を含み、
C’ 前記表示手段は、前記撥弦楽器において弾奏すべき弦を示す弦表示手段と、この弦の押圧すべき位置を示す押圧位置表示手段と、を含み、
D’ 前記押圧位置表示手段は、前記撥弦楽器の弦の押圧位置に対応する数字又は記号であり、
F 前記弦表示手段は、前記音符部本体に付された色であり、
G’ 前記色は、弾奏対象となる前記撥弦楽器の弦毎に異なった色相である、
H 楽譜と、
I’ 複数の弦を有する撥弦楽器と、
を備え、
J’ 該撥弦楽器の各弦には、それぞれ、前記弦表示手段に対応した色が付されている、
K’ 撥弦楽器の練習セット。
[相違点]
(相違点1)「撥弦楽器」が、本願発明では、「三味線」である(構成B、C、G、J、K)のに対し、引用発明2では、「ギター」である点。
(相違点2)「撥弦楽器の弦の押圧位置」が、本願発明では、「三味線の勘所」である(構成D)のに対し、引用発明2では、「ギターのフレツト」である点。
(相違点3)本願発明では、「前記五線譜には、三味線の調弦と、演奏記号が表示されている」(構成E)のに対し、引用発明2では、前記五線譜には、三味線の調弦と、演奏記号が表示されていない点。
(相違点4)「複数の弦を有する撥弦楽器」が、本願発明では、「三弦を有する三味線」(構成I)であるのに対し、引用発明2では、「六本の弦」を有する「ギター」である点。
第6 判断
以下、当該各相違点について検討する。
1 相違点1について
引用文献1には、上記第4の2(3)のとおりの文献1技術事項が記載されている。
そして、当該文献1技術事項の構成1a、1bによれば、三味線のための五線譜を有する楽譜は公知であったといえる。
また、引用発明2の楽譜及び文献1技術事項は、いずれも、初心者・入門者を対象としたものであり、譜面をわかりやすくするために五線譜を採用していると解される。
さらに、引用発明2の「ギター」と文献1技術事項の「三味線」は、いずれも、所定の弦の、所定の押圧位置を押圧して弾奏する撥弦楽器である点で共通する。
そうすると、引用発明2の楽譜と文献1技術事項は、いずれも、所定の弦の、所定の押圧位置を押圧して弾奏する撥弦楽器のための五線譜を有する楽譜である点で技術分野が共通し、また、引用発明2の楽譜と文献1技術事項は、いずれも、初心者・入門者を対象とし、譜面をわかりやすくするためのものである、という点で、解決しようとする課題や作用・機能も共通しているから、引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、「三味線」とすることは、「所定の弦の、所定の押圧位置を押圧して弾奏する撥弦楽器のための五線譜を有する楽譜」の技術分野の当業者が、文献1技術事項に基いて、容易に想到し得ることである。
2 相違点2について
上記1のとおり、引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、「三味線」とすることは、「所定の弦の、所定の押圧位置を押圧して弾奏する撥弦楽器のための五線譜を有する楽譜」の技術分野の当業者が、文献1技術事項に基いて、容易に想到し得ることであり、そうした場合に、「ギターのフレツト」に対応するものが、「三味線の勘所」になることは当然のことである。
よって、引用発明2の楽譜において、「ギターのフレツト」に代えて、「三味線の勘所」を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。
3 相違点3について
文献1技術事項の構成1a、1b、1dのとおり、三味線のための五線譜を有する楽譜において、楽譜の1段目の上部に「三下り」と表示することは、公知であったといえる。
ここで、当該「三下り」という記載は、構成Eの「三味線の調弦」に相当する。
そして、上記1のとおり、引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、「三味線」とすることは、「所定の弦の、所定の押圧位置を押圧して弾奏する撥弦楽器のための五線譜を有する楽譜」の技術分野の当業者が、文献1技術事項に基いて、容易に想到し得ることであり、そうした場合に、三味線の調弦を楽譜に表示する必要があることは当業者にとって明らかであるから、引用発明2の楽譜の五線譜に三味線の調弦を表示することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、五線譜に演奏記号を表示することは、極めて一般的に行われていることである(例えば、文献1技術事項の構成1dの「五線譜には、反復記号が表示されている」を参照。)から、引用発明2の楽譜において、五線譜に演奏記号を表示することも、当業者が容易に想到し得ることである。
4 相違点4について
上記1のとおり、引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、「三味線」とすることは、「所定の弦の、所定の押圧位置を押圧して弾奏する撥弦楽器のための五線譜を有する楽譜」の技術分野の当業者が、文献1技術事項に基いて、容易に想到し得ることであり、三味線が三弦を有することは当然のことである。
よって、引用発明2において、「六本の弦」を有する「ギター」に代えて、「三弦を有する三味線」を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。
5 まとめ
以上によれば、本願発明は、引用発明2及び文献1技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 請求人の主張について
(1)請求人は、令和8年5月11日提出の意見書において、以下の主張を行っている。
「5.理由2)進歩性について
審判官殿は、拒絶理由通知12ページの「相違点1」において、「撥弦楽器が、本願の請求項1に記載されたものでは、三味線であるのに対し、引用発明2ではギターである点」で相違すると認定されています。
また、「4 判断(1)相違点1について」において、「引用発明2及び引用発明1は、いずれも、初心者・入門者を対象としたもの」と認定されています。
上記2点の認定について、異論ございません。
また、同段落において「引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、引用発明1のごとく、「三味線」とすることは、当業者が容易に想到しうることである」と記載されています。ここでの「当業者」がギターの技術分野に属する当業者(以下、ギターの当業者とします)、すなわち三味線の技術分野を知らない当業者であれば、三味線に適用しようとする可能性があります。しかし重大な阻害要因が存在するため、適用を断念することとなります。後述します。
そして、拒絶理由通知13ページの「(3)相違点3について」において「上記(1)のとおり、引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、引用発明1のごとく、「三味線」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、そうした場合に、三味線の調弦を楽譜に表示する必要があることは当業者にとって明らかであるから、引用発明2の五線譜に三味線の調弦を表示することは、当業者が容易に想到し得ることである。」と認定されました。
しかしながら引用発明2の技術的課題に基づけば、三味線の調弦の表示を引用発明2に適用することはできません。以下、説明します。
5-1.引用発明2の目的
引用文献2の2ページに下記が記載されています。
「ギター演奏を習いたいという初心者にとって、ギターのうちの、どの弦のどのフレットを手指で押さえて弾けば、どの様な音階の音が出るのかを覚えることは仲々困難である。」
ギターに初めて触れるギター初心者はまずチューニングの方法を覚え、そして楽譜を見て曲を演奏しようと試みます。この際、楽譜に記載された音符の音高を発音するために、どの弦のどのフレットを押さえればよいのかをひとつひとつ確認します。最初は楽譜の「ド」の一音を鳴らすために、どの弦に「ド」の音があるのか、そしてその弦の何フレットが「ド」なのかを教本等で確認して、押さえたのち、やっと当該「ド」を撥弦します。
この作業を何百回、何千回と繰り返しながら、徐々に音符とギターの指板上の位置関係を覚えていきます。このようになってやっと、楽譜の音符を見て楽曲を演奏することが出来るようになっていきます。
しかしこれは非常に忍耐を要する作業です。引用文献2の同ページに下記の記載があります。
「従って大部分の初心者は当初は仲々うまく演奏することができず、興味も次第に薄れ、ほんの初歩の部分の演奏を習っただけで終わってしまうのが実情である。そのため、習い始めの初心者であっても、ギターを簡単に演奏し得て興味を持ち続け得る様な練習用具の実現が望まれていた。」
以上の記載から、引用発明2は、
ギターに初めて触れる初心者を対象とし、
音符の音高と、ギター指板上の位置関係を、覚えることの補助を目的とする。
と解釈することができます。
5-2.撥弦楽器を「ギター」に代えて「三味線」とすることの阻害要因
ギターの当業者は、三味線の調弦が、曲や歌い手に合わせて都度変わることを知りません。これは日本の初等教育において邦楽に属する三味線についての知識を教授する場がほとんどないことに起因します。
三味線の調弦が都度変わることを知らないギターの当業者は、安易に引用発明2を三味線に適用可能と考える可能性はあります。適用に際し、三味線は都度調弦が変わり、その楽譜においては調弦の表示が必須であるという知識を得たとき、ギターの当業者は引用発明2の目的が達成できなくなることを認識します。
引用発明2は、ギターのチューニング(調弦)が原則固定であることを前提としています。この前提があるため、どの楽曲においても、五線の下第二線の「ド」は5弦の3フレットを押さえて撥弦すればよく、これを繰り返すことで、音符と指板上の位置関係を覚えることができるものです。
しかし、調弦が都度変わってしまうと、音符と指板上の位置関係も毎回変わってしまい、それを覚えることは不可能となります。すなわち引用発明2の技術的課題を解決できないこととなります。
よって、たとえ「引用発明2の五線譜に三味線の調弦を表示することは、当業者が容易に想到し得ることである。」であったとしても、そのようにした場合には、引用発明2の技術的課題が解決不可能になるという阻害要因が存在します。
5-3.引用発明1について
次に、三味線の技術分野に属する当業者(以下、三味線の当業者とします)の立場から検討します。
引用発明1について、先述した通り「初心者・入門者を対象としたもの」との認定について同意します。
引用発明1は三味線の教本に記載された楽譜ですので、その目的は楽譜に記載された楽曲を三味線で演奏するための教授であると共に、三味線の初心者・入門者に向けて三味線の楽譜である文化譜の読譜についての教授が含まれます。
その場合、三味線の当業者にとって引用発明2は文化譜の表示を含まず、引用発明1に代えて引用発明2を採用することには、三味線の教授に含まれる文化譜の読譜の教授という目的を達成することが出来なくなるという阻害要因が存在します。
5-4.本願について
引用発明1、引用発明2は、いずれも、初心者・入門者を対象としたものです。
一方、本願は必ずしも初心者・入門者を対象としたものではありません。
拒絶理由通知5ページ(4)に下記の記載があり、出願人はこの認定に同意するものです。
「(4)上記記載によれば、本願の請求項1に記載されたものが解決しようとする課題は、専門的な弦楽器の知識を持っている者であっても、五線譜上の音符と、これを弾奏する際に用いる弦及び押圧すべき弦上の位置とをリンクさせることが、困難な場合が多いため、主に弦楽器特有の譜読み及び演奏の負担を軽減するための、楽譜及びそれを備える練習セットを提供することである。」
すなわち「専門的な弦楽器の知識を持っている者」が対象に含まれ、このときの「専門的な弦楽器の知識を持っている者」とは洋楽器の知識を持っている者です。
本願の目的は、引用発明2とは異なり、初心者・入門者が音符とギター指板上の位置関係を覚えることを補助するものではなく、五線譜の読譜力を持っている者に対し、三味線特有の譜読み及び演奏の負担を軽減するための練習セットを提供することです。
換言すると、洋楽の知識を持った者に対し、その知識を生かして三味線の演奏の習得を提供するものであり、ひいては洋楽と邦楽の橋渡しを担うことを目的とします。
また、拒絶理由通知12ページ「(1)相違点1について」に記載されている通り、「三味線のための五線譜を有する楽譜は公知」であり、「譜面をわかりやすくするために五線譜を採用して」いますが、従来は引用文献1のように必ず文化譜と五線譜をセットで表示する必要がありました。
可変調弦環境下においては、文化譜と調弦情報のみでは演奏される音高を把握することが難しく、そのため補助的に五線譜を表示していました。一方、可変調弦環境下において、五線譜のみではどの弦のどこを押さえればよいのかが分からず、楽曲を演奏することが不可能です。
すなわち、従来技術において文化譜と五線譜の上下対比表示が行われていたこと自体が、当業者において、可変調弦環境下で両者を統合的に扱うことが容易ではなかったことを示しているといえます。
本願はこのような従来技術の状況において、当業者が想到不可能であった新規の課題を見出し、邦楽楽器である三味線の可変調弦環境下における五線譜と、従来文化譜が担っていた押弦情報とを統合的に扱うことを可能としたものです。
以上説明した通り、本願は、引用発明2と外観上は類似するものであったとしても、まったく異なる技術的思想のもとに創作されたものであり、ギターの当業者や三味線の当業者では、到底発想し得ない技術的飛躍(文化譜と五線譜の統合)を発想したものです。もって明細書に記載の各効果を創出しています。
したがって、本願は引用発明2及び引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、よって進歩性要件を満たし、理由2(進歩性)の拒絶理由には該当しません。」
(2)以下、当該主張について検討する。
ア 5-1の主張(引用発明2の目的)について
請求人は、引用発明2の目的について、「引用発明2は、ギターに初めて触れる初心者を対象とし、音符の音高と、ギター指板上の位置関係を、覚えることの補助を目的とする。と解釈することができます。」と主張している。
しかしながら、引用文献2には、「音符の音高と、ギター指板上の位置関係を、覚えることの補助を目的とする。」ということは何ら記載されていない。
そして、引用文献2には、上記第4の1(1)ウのとおりの記載があり、当該記載によれば、引用発明2の目的は、「特に初心者に好適するといつたギター練習用具を提供すること」であるといえる。
また、引用文献2には、上記第4の1(1)オのとおりの記載があり、当該記載によれば、引用発明2は、「ギター演奏を習い初めの初心者であつても、音符の色によつて、使用する弦がたちどころに知られ、また、該音符内の数字によつて、手指で押さえるべきフレツトがたちどころに知られる」ために、「初心者であつても僅かに練習するだけで、即、ギター演奏を上手に行なうことができる」という効果が得られるものであるといえる。
そして、当該目的及び効果に鑑みれば、引用発明2は、初心者でもギター演奏を上手に行うことができるようにすることを主たる目的とするものであり、「音符の音高と、ギター指板上の位置関係を、覚えることの補助」までをも目的とするものとはいえない。
イ 5-2の主張(阻害要因)について
請求人は、「三味線は都度調弦が変わり、その楽譜においては調弦の表示が必須であるという知識を得たとき、ギターの当業者は引用発明2の目的が達成できなくなることを認識します。」、「調弦が都度変わってしまうと、音符と指板上の位置関係も毎回変わってしまい、それを覚えることは不可能となります。すなわち引用発明2の技術的課題を解決できないこととなります。」、「よって、たとえ「引用発明2の五線譜に三味線の調弦を表示することは、当業者が容易に想到し得ることである。」であったとしても、そのようにした場合には、引用発明2の技術的課題が解決不可能になるという阻害要因が存在します。」と主張している。
しかしながら、ギターにおいても、標準チューニングのほかに、オープンGやドロップDのような、いわゆる変則チューニングが存在しており、調弦が変わり得ることは、当業者に周知である。
そして、引用発明2において、調弦が都度変わったとしても、一度調弦が決まれば、所定の音高の音を弾奏するための弦と押圧すべきフレツトの位置は決まるのであるから、それにより、音符に付す色とフレツト数も決まるといえ、演奏者は、当該音符に付された色とフレツト数を見ることにより演奏ができるのであるから、調弦が都度変わったとしても、「初心者でもギター演奏を上手に行うことができるようにする」という目的は達成されるといえる。
また、上記アのとおり、引用発明2は、初心者でもギター演奏を上手に行うことができるようにすることを主たる目的とするものであり、「音符の音高と、ギター指板上の位置関係を、覚えることの補助」までをも目的とするものとはいえない。
よって、調弦が都度変わることをもって、引用発明2の目的が達成できなくなったり、引用発明2の技術的課題が解決できなくなるとはいえないから、引用発明2において、五線譜が対象とする撥弦楽器を、「ギター」に代えて、「三味線」とすることに阻害要因があるとはいえない。
ウ 5-3の主張(引用発明1)について
請求人は、「三味線の当業者にとって引用発明2は文化譜の表示を含まず、引用発明1に代えて引用発明2を採用することには、三味線の教授に含まれる文化譜の読譜の教授という目的を達成することが出来なくなるという阻害要因が存在します。」と主張している。
しかしながら、当審の判断は、「引用発明1に代えて引用発明2を採用する」というものではないから、当該主張は妥当とはいえない。
エ 5-4の主張(本願)について
請求人は、「本願の目的は、引用発明2とは異なり、初心者・入門者が音符とギター指板上の位置関係を覚えることを補助するものではなく、五線譜の読譜力を持っている者に対し、三味線特有の譜読み及び演奏の負担を軽減するための練習セットを提供することです。」、「本願はこのような従来技術の状況において、当業者が想到不可能であった新規の課題を見出し、邦楽楽器である三味線の可変調弦環境下における五線譜と、従来文化譜が担っていた押弦情報とを統合的に扱うことを可能としたものです。」と主張している。
しかしながら、上記アのとおり、引用発明2は、「ギター演奏を習い初めの初心者であつても、音符の色によつて、使用する弦がたちどころに知られ、また、該音符内の数字によつて、手指で押さえるべきフレツトがたちどころに知られる」ために、「初心者であつても僅かに練習するだけで、即、ギター演奏を上手に行なうことができる」という効果が得られるものであり、これは、「譜読み及び演奏の負担を軽減する」ことに他ならない。
また、引用発明2の構成2cは、「五線譜」と「押弦情報」を「統合的」に扱っていることに他ならない。
よって、本願発明と引用発明2で、目的や効果が格別異なっているとはいえない。
オ 請求人の主張についてのまとめ
以上によれば、請求人の主張は、いずれも採用することができない。
第7 むすび
以上によれば、本願発明は、引用発明2及び文献1技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2026-000453