商標異議申立
2025-900019
ブイエルテイワイ、ブルティー
- 審判番号
- 2025-900019
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2024-028752
- 登録番号
- 6863519
- 請求日
- 2025年01月16日
- 審決日
- 2025年07月07日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】堺 未来
- 【異議申立人】ヴァレンティノ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
- 【異議申立人代理人】山尾 憲人
- 【異議申立人代理人】田中 陽介
- 【異議申立人代理人】久保 怜子
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 良成
- 審判官 小田 昌子
- 審判官 馬場 秀敏
- 分類
- T1651.22 -Y (W25) / T1651.261-Y (W25) / T1651.262-Y (W25) / T1651.263-Y (W25) / T1651.271-Y (W25) / T1651.222-Y (W25)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法4条1項11号商標法4条1項15号商標法4条1項19号商標法43条の2商標法43条の3第4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第11号、商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項第15号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
登録第6863519号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6863519号商標の商標登録を維持する。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6863519号商標(以下「本件商標」という。)は、「VLTY」の欧文字を標準文字により表してなり、令和6年3月19日に登録出願、第25類「被服,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,タンクトップ,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,履物,ナイトガウン,ネグリジェ,パジャマ,バスローブ」を指定商品として、同年10月28日に登録査定され、同年11月11日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する国際登録第1392762号商標(以下「11号引用商標」という。)は、「VLTN」の欧文字を横書きしてなり、2017年5月30日にイタリアにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2017年(平成29年)7月24日に国際商標登録出願、「Clothing; coveralls; underwear; jumpers; shirts; sweaters; tutus; ready-made clothing; breeches; tops [clothing]; articles of knitwear; coats; skirts; petticoats; sweaters; topcoats; jackets [clothing]; quilted jackets; ski jackets; ski trousers; parkas; leather clothing; tee-shirts; chemisettes; trousers; dressing gowns; tights; gilets; jerseys; pajamas (Am.); robes; brassieres; vest tops; bustiers; briefs; children's wear; layettes; swimming caps; swimming costumes; clothing for gymnastics; rainproof clothing; mackintoshes; masquerade costumes; footwear; slippers; bath sandals; boots; galoshes; shoes; beach shoes; sandals; headgear; hats; berets; visors; socks; stockings; gloves [clothing]; fingerless gloves; muffs [clothing]; shawls; neckties; bow ties; scarves, sashes for wear; veils [clothing]; bandanas [neckerchiefs]; furs (clothing); stoles of fur; waist belts; wedding dresses.」を含む第25類、第18類、第28類及び「retail services or wholesale services for clothing and footwear.」を含む第35類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載された商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和元年7月5日に設定登録され、この商標権は、現に有効に存続しているものである。
2 申立人が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項19号に該当するとして引用する商標は、いずれも「VLTN」の欧文字を横書きしてなる標章(以下「引用商標1ないし引用商標3」という。)であり、申立人の業務に係る「婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、バッグ、時計、眼鏡、サングラス、化粧品、香水、ネックレス、イヤリング、ピアス、ブレスレット、家具、インテリア、シガレットケース」等(以下「申立人商品」という。)に使用して、我が国及び外国において需要者の間に広く知られている旨主張するものである。
なお、引用商標1ないし引用商標3をまとめていう場合は、以下「引用商標」という。
第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第72号証を提出した。
以下、証拠の表記に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する。
1 本件商標について
本件商標は、2024年3月19日付で、商標権者によって出願され、同年11月11日に設定登録された(甲1)。
2 申立人のブランドについて
本件異議申立は、「ヴァレンティノ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ(VALENTINO S.P.A.)」が請求するものであり、甲第3号証は申立人の海外法人を含めた組織図である。
申立人は、1933年に生まれたValentino Garavani氏(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)が立ち上げた引用商標に係るブランド「VALENTINO」を世界的に展開しており、本国イタリア及び日本、欧州、北米、アフリカ、アジア等において申立人商品の販売を行った結果、世界的に著名なブランドとなり、特許庁における過去の審決及び異議決定において、我が国における使用実績及び著名性が認められている(甲4~甲10)。
例えば、2019年5月22日に確定している不服2017-10825審決(甲10)においては、「商品「時計」について引用商標と類似の商標を使用した場合、時計はファッション関連の商品であり、引用商標が使用されるファッション関連の商品群と関連性を有し、その需要者は共に一般消費者であり共通するため、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのブランドを連想又は想起させ、経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する業務に係る商品であるかのように、出所について混同を生ずるおそれがあるというべき」と判断されている。
また、異議2022-900274決定(甲11)において、「申立人のブランドにかかる商標「VALENTINO」等は、2021年11月10日において、ブランドとしての認知度は世界的に維持されており、今もなお我が国におけるアパレル分野の需要者・取引者の間で広く知られ、周知・著名であると認められる」旨認定されている。
また、2019年には、世界的に著名な雑誌である米国のTIME誌が選ぶ「最も影響力のある100人」に「VALENTINO」のクリエイティブディレクターを務めるピエールパオロ・ピッチョーリ氏が選出され、日本においても話題となった(甲12)。
以上より、申立人のブランドは、歴史ある著名ブランドとしての認知度は世界的に維持されており、今もなお我が国におけるアパレル分野の需要者・取引者の間で広く知られ、周知・著名であることは明らかである。
3 引用商標の使用実績及び著名性について
引用商標「VLTN」については、ブランド名の短縮版の商標として、著名なデザイナーのピエールパオロ・ピッチョージ氏が考案し、2018年の春夏コレクションに向けて2017年から使用が開始され、商標の出願は2017年6月以降に行われ、各国にて登録されている。
引用商標「VLTN」のコレクションについて取り上げた記事(甲13)には、当該コレクションがスポーツウェア等を展開するものであり、リリースに際してニュ―ヨーク、ミラノ、香港及び東京でポップアップイベントが行われる旨や、新しいアイコンロゴとして引用商標が発表されたことを掲載している。甲第14号証ないし甲第19号証は引用商標を使用した当該コレクションの商品をモデルが着用した写真である。
(1)販売実績
引用商標を使用した「VLTN」コレクションについては、リリース以来、世界的に多くの商品が販売され、甲第20号証は、2020年から2024年までの各年の日本における当該コレクションの売上げを示しており、毎年72万9,000ユーロ(約1億1,664万円)ないし416万4,000ユーロ(約6億6,624万円)の売上げを計上している。甲第21号証は、2018年から2021年春夏シーズンまでの売上げを示しており、日本におけるこの期間の引用商標を使用した商品の売上げ(服、バッグ、靴、アクセサリー類)は183万3,000ユーロ(約2億9,328万円)となっている。また、甲第22号証は、当該コレクションの2017年から2020年までの世界の売上高を示しており(直営店、アウトレット、オンラインにおける服、バッグ、靴、アクセサリー類)、例えば、直営店の売上げにおいては、日本の売上げが北米の約2倍の1,483万ユーロ(約23億4,780円)であり、アウトレットにおいても中国とほぼ同額の56万4,000ユーロ(約9,024万円)、オンラインでは41万2,000ユーロ(約6,592万円)となっている。
「VLTN」コレクションの商品・型番の一覧及びこれらが販売された際の領収書の一部(甲23~甲25)には、大々的に引用商標が使用されている。
甲第11号証の店舗リスト及び現在の申立人ホームページからは、申立人が日本全国において多数の店舗(24店舗)を有することが明らかであり、これらの店舗にて「VLTN」コレクションの商品が販売されている(甲26)。
(2)宣伝広告
申立人は、引用商標を使用した「VLTN」コレクションについても、日本を含む世界中で宣伝広告を継続的かつ大々的に行っている。甲第27号証は、当該コレクションの2017年から2019年の全世界における宣伝広告費であり、年間15万9,075ユーロ(約2,545万2,000円)ないし844万4,989ユーロ(約13億5,119万8,240円)が費やされ、日本の金額は本国イタリアを上回り、アメリカに次いで2番目に多い金額となっている。
(3)引用商標の近年の著名性
申立人のブランドが歴史ある著名なラグジュアリーブランドであることに加え、引用商標は、2019年に世界的に著名な雑誌である米国のTIME誌が選ぶ「最も影響力のある100人」に選ばれる等注目を浴びるクリエイティブ・ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリ氏(甲12)が考案して注目されているコレクションの新ロゴであり、ブランドを象徴するアイコニックなロゴとして様々な媒体にて取り上げられている。
我が国では、2017年10月に開催された「VLTN トウキョウポップアップストア」においてピエールパオロ・ピッチョーリ氏が来日し、スポーツ色の強い当該新コレクションについてのインタビューが著名なファッション誌のサイトであるELLEにて取り上げられている(甲28)。
2018年には、「VLTN」コレクションは著名ブランドである「ヨウジヤマモト」や「モンクレール」とのコラボ商品を展開し、話題となっている(甲29~甲32)。「VLTN」コレクションはスポーツ色が強いこともあり、メンズ商品も人気であり、2018年に当該コレクションのメンズ限定店もオープンし、紹介されている(甲33)。2018年11月には、著名ブランドのみを取り扱う商業施設である東京銀座のギンザシックスにおいてコンセプトストアが開かれ、日本限定の「VLTN」コレクションの商品が展開され、様々な媒体において取り上げられた(甲34~甲37)。当該コンセプトストアに合わせたお披露目のショーやパーティーには著名モデルのM氏がイベントを体感する動画が発表され、様々な媒体において話題となった(甲38)。2019年には、著名なサンダルのブランドであるビルケンシュトックと当該コレクションのコラボ商品が発売された(甲39、甲40)。その人気を背景に2020年には大阪を代表する百貨店の一つである阪急メンズ館においてポップアップストアが開催された(甲41、甲42)。その他にも様々な雑誌等で当該コレクションの商品が紹介され、需要者・取引者に認知されている(甲43~甲60)。
前述のとおり、申立人は当該コレクションのアイコンロゴである引用商標を法的に守り維持するために、多大な費用を費やして世界各国において商標出願を行い、登録を保有しており、このことは権利リスト(甲61)からも明白である。このように、申立人が2017年から海外出願を大々的に行い、権利化に向けて継続的に取り組んだ結果、引用商標の登録済国数は世界79か国に上る(甲62~甲72)。
以上のことから、引用商標が我が国はもちろんのこと世界中において著名である。
4 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性
本件商標は、申立人の業務を表示するものとして著名な11号引用商標「VLTN」とは、外観・称呼・観念において類似する。
まず、両商標の外観については、欧文字4文字中、最後の1文字「N」以外の3文字「V」「L」「T」が共通し、両商標とも標準的な書体にて一連一体に書されていることから、時と場所を異にする離隔観察において混同が生じるおそれがあるため、外観上類似する。
称呼においては、本件商標が書された欧文字をそのまま称呼した「ヴイエルティーワイ」が自然であり、11号引用商標は「ヴイエルティーエヌ」と称呼され得る。両商標は称呼の全音中、前半部の4分の3が共通するため、相紛らわしく称呼上類似する。
観念においては、11号引用商標「VLTN」は申立人の著名ブランド「VALENTINO」の略称版として既に著名であるため、VALENTINOの観念が生じ得る。
また、11号引用商標「VLTN」がVALENTINOのアイコンロゴとして既に著名に至っている取引実情があり、ブランド名を想起させる暗号のような特徴が両商標に共通することを踏まえると、「被服」等アパレル関連の指定商品に使用された際には、本件商標からも申立人の著名ブランド「VALENTINO」の観念が生じ得ることは否定できず、両商標は観念において類似する。
また、本件商標の指定商品「被服,洋服,下着,帽子,履物」等は、当該商標の指定商品「clothing;underwear,headgear,shoes」等と同一又は類似である。
したがって、本件商標と11号引用商標は、外観・観念・称呼において類似しているほか、指定商品も同一又は類似の関係に当たるため、両商標は出所について混同を生じるおそれがある類似商標である。
以上より、本件商標は、11号引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当する。
5 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
申立人のブランド「VALENINO」に係る商品は、長年にわたって我が国を含む世界各国において大々的かつ継続的に展開された結果、アパレル分野においては著名なブランドとしての地位を確立し、当該ブランドのアイコンロゴである引用商標「VLTN」も我が国において広く親しまれていることは前述のとおりである。その認知度は、本件商標の出願時点で「被服、かばん、靴」等の商品を中心とするアパレル分野において著名の域に達していた。
また、引用商標「VLTN」は申立人の著名なブランド「VALENTINO」を短縮して暗号化したような独創的な商標であり、本件商標は引用商標と最後の一文字のみしか相違せず既に述べたとおり、類似性が高い上、引用商標自体もアイコンロゴとして世界的に注目されているコレクションの商標として著名となっている。
加えて、本件商標の指定商品である「被服,洋服,下着,帽子,履物等」は引用商標の指定商品や申立人商品と同一であるため、本件商標を使用した場合には、需要者・取引者が申立人のブランドにかかる商品と混同を生ずるおそれがある、又は申立人と何らかの関係があると誤認されるおそれがあることは明らかである。
したがって、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第15号に該当する。
6 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標と引用商標とは類似している。
そして、申立人は、2017年から引用商標の使用を開始し、引用商標は本件商標の出願日以前から申立人の業務に係る商品を表示するものとして世界各国における需要者等の間において既に広く認識され、その周知・著名性は、本件商標の登録査定時においても継続している。
引用商標が申立人の著名ブランドのアイコンロゴとして注目され、アパレル業界において広く知られた後である2024年に、本件商標の出願人が指定商品「被服,履物」等を指定して引用商標と最後の一文字のみ異なる本件商標を出願していることは偶然の一致とは考えられず、かかる行為は、商標権者が、申立人の引用商標の有する周知・著名性へのフリーライドの意図を有し、不正の目的をもって申立人が引用商標を使用していた商品を指定して登録出願したものであると捉えざるを得ない。
本件商標権者は、「被服,履物」等の商品を指定していることから、引用商標が著名な申立人のブランドのアイコンロゴであることは、当然認識していたはずである。
ところで、商標審査基準改訂第16版によれば、対象商標が、「一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するもの」である場合、不正の目的をもつて使用するものと推認すると明示されている。
既に述べたとおり、本件商標は、出願日において我が国及び本国イタリアを含む世界各国において周知著名であった引用商標と類似する。また、引用商標は、申立人のアパレル分野における多大な使用実績により、世界的な著名性を獲得している商標である。したがって、商標権者が偶然の一致をもって本件商標を第25類の申立人の展開する商品と同一の商品を指定して出願したとは到底考え難く、商標権者が不正の目的を有していたことは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(7)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号に定める「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」は、商標審査基準改訂第16版によれば、「商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与える文字」等でなくても、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」も該当すると明示されている。
本件商標は申立人の引用商標と類似していることは明白であり、本件商標を引用商標と偶然に一致して採択したとは到底考えられず、商標権者が申立人によって既に使用されている商品と同一の商品を指定し、本件商標を出願した際に既に引用商標に係るブランドの存在を知っていたことは明白である。すなわち、商標権者は、引用商標に依拠し、本件商標をひょう窃的に採択し、出願した蓋然性が極めて高いといえる。また、本件商標に係る出願に際し、商標権者より承諾を受けていたと認める事実もない。したがって、本件商標は、引用商標の顧客吸引力に便乗し、不当な利益を得る目的で出願した商標であるといわざるを得ない。
かかる状況において、本願商標の登録出願を正当化すれば、商標登録制度に対する信頼は損なわれ、また、市場流通秩序を乱し、需要者を混乱に陥らせることになりかねない。
そうすると、本件商標は、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くというべきであり、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものというべきである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)申立人の主張及び同人の提出した証拠によれば、次のとおりである。
ア 申立人は、1933年に生まれたValentino Garavani氏(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)が立ち上げたブランド「VALENINO」(以下「Valentinoブランド」という。)を世界的に展開しており、イタリア及び日本、欧州、北米、アフリカ、アジア等において申立人商品の販売を行った結果、世界的に著名なブランドとなっており、「VLTN」の文字は、Valentinoブランド名の短縮版として、申立人のクリエイティブディレクターが考案し、2017年から使用が開始された(申立人の主張、甲3)。
なお、「Valentino」の文字について我が国における周知性が認められた特許庁の審決及び異議決定が存在する(甲4~甲11)。
イ 引用商標を使用した「VLTN」コレクションについて、2020年ないし2024年の我が国における当該コレクションの売上高は約72万ユーロないし約416万ユーロで推移(甲20)し、2018年ないし2021年の我が国における当該コレクションの売上高は約183万ユーロ(甲21)、2017年ないし2020年の当該コレクションの世界の売上高において、我が国の直営店売上高は約1,480万ユーロ、アウトレット売上高は約56万ユーロ、オンライン売上高は約41万ユーロ(甲22)とされ、本件商標の登録査定前に「VLTN」の文字が使用されたバッグや靴が我が国で実際に販売されたことはうかがえる(甲23~甲25)が、申立人商品の分野における当該コレクションの市場占有率は確認できない。
ウ 2017年ないし2019年の全世界の引用商標を使用した「VLTN」コレクションの広告宣伝費について、我が国での宣伝広告費は約15万ユーロないし約84万ユーロで推移していることがうかがえる(甲27)。
エ 申立人の我が国の旗艦店やポップアップストアにおいて、「VLTN」の文字が使用された被服、靴が販売されたこと、2018年の「VLTN」コレクションとされる写真には、「VLTN」の文字が使用された被服、バッグ等が掲載されていることはうかがえるが、これらの写真は「VALENTINO」の文字が目立つように表示されたものも多く、常に「VLTN」の文字のみが印象づけられるように使用されたとはいい難い(甲13~甲19、甲35、甲37、甲41、甲42ほか)。
オ 2017年ないし2024年に発行された我が国の複数の雑誌やウェブサイト等に、「VLTN」コレクションの紹介や「VLTN」の文字が使用された他ブランドとのコラボ商品の紹介記事などが掲載されたことはうかがえるが、それらの記事の多くは、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の見出しの下、記事中に「VLTN」の文字が使用されている例が多く見受けられる(甲28~甲43、甲57~甲60ほか)。
(2)上記(1)からすれば、申立人は、1933年に生まれたValentino Garavani氏(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)が立ち上げたValentinoブランドを世界的に展開しており、「VLTN」の文字は、Valentinoブランド名の短縮版として、2017年から使用が開始されたこと、「VLTN」コレクションは、2017年から販売され、我が国においても一定程度の売上げがあること、2017年以降に発行された雑誌やウェブサイトを通じて「VLTN」コレクションの紹介や「VLTN」の文字が使用された他ブランドとのコラボ商品などの広告宣伝を行っていることはうかがえることから、申立人商品の分野において、「VLTN」の文字は、一定程度知られていたことがうかがえる。
しかしながら、「VLTN」コレクションの使用期間は、販売開始から約7年とさほど長い期間とはいえないうえ、申立人商品の分野における「VLTN」コレクションの市場占有率は確認できないことから、当該コレクションの売上高の多寡を判断することはできず、「VLTN」コレクションの写真や雑誌及びウェブサイトは「VALENTINO」の文字が目立つように表示されたものや、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の見出しの下、記事中に「VLTN」の文字が使用されている例も多く、「VLTN」の文字のみが印象づけられるように使用されたとはいい難い。
なお、申立人は、申立人に係る「Valentino」の文字について、我が国において周知性が認められた審決や異議決定が存在する旨主張しているが、これらは、「Valentino」の文字の周知性について判断されたものであり、「VLTN」の文字の周知性について判断されたものではないから、これらの審決や異議決定の存在をもって、Valentinoブランド名の短縮版である「VLTN」の文字までもが需要者の間に広く認識されているとはいい難いものである。
その他、「VLTN」の文字からなる引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたものと認めるに足りる事実は見いだせない。
そうすると、申立人提出に係る全証拠によっては、申立人商品の分野において引用商標が一定程度知られていたとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたとは認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「VLTY」の欧文字を標準文字により表してなるところ、当該文字は、一般の辞書等に載録のないものであり、特定の意味を有するものとして認識されている事情も見いだせないから、特定の観念を生じない一種の造語として看取されるものである。
してみれば、本件商標は、その構成文字に相応して「ブイエルティーワイ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないというのが相当である。
(2)11号引用商標について
11号引用商標は、「VLTN」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字は、一般の辞書等に載録のないものであり、特定の意味を有するものとして認識されている事情も見いだせないから、特定の観念を生じない一種の造語として看取されるものである。
してみれば、11号引用商標は、その構成文字に相応して「ブイエルティーエヌ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないというのが相当である。
(3)本件商標と11号引用商標の類否について
ア 外観について
本件商標と11号引用商標とは、4文字と短い構成中、4文字目の「Y」と「N」の文字の有無の差異により、外観上、明確に区別できるものである。
イ 称呼について
本件商標から生じる「ブイエルティーワイ」の称呼と11号引用商標から生じる「ブイエルティーエヌ」の称呼とは、さほど冗長とはいえない音数において、語尾の「ワイ」及び「エヌ」の音の有無の差異により、明瞭に聴別し得るものである。
ウ 観念について
本件商標及び11号引用商標からは、特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念において比較できない。
エ 小括
そうすると、本件商標と11号引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と11号引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
以上のとおり、本件商標と11号引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似する商品であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知性について
引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く知られていたとはいえないものである。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度について
11号引用商標と引用商標はいずれも「VLTN」の欧文字よりなるところ、11号引用商標は、上記2(3)のとおり、非類似の商標であるから、
これと同じつづりよりなる引用商標も本件商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であるといえるから、本件商標と引用商標との類似性の程度は低いといえる。
(3)出所の混同のおそれについて
上記(1)及び(2)からすると、引用商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることができず、本件商標と引用商標とは、類似性の程度は低いものである。
そうすると、本件商標の指定商品と申立人商品との関連性が高く、その需要者を共通にするとしても、本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用をした場合、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想、想起し、申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係のある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
(4)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されているところ、上記(1)のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることができないものである。
そして、上記からすると、引用商標が需要者の間に広く認識されていることを前提に、本件商標は、不正の目的をもって使用をするものであるとする申立人の主張は、その前提を欠くものである。
また、申立人が提出した甲各号証からは、本件商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実を見いだすことはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから、本件商標は、申立人商標の周知性にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
そして、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えることはないものであり、さらに、申立人の提出に係る証拠によっては、本件商標が、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないというべきものであるなど、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものとはいえず、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、その登録は、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-900019