意匠拒絶査定不服審判
2025-017896
薬剤デリバリ器
- 審判番号
- 2025-017896
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 意願2025-004096
- 登録番号
- 1824449
- 請求日
- 2025年11月11日
- 審決日
- 2026年03月09日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】イーライ リリー アンド カンパニー
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】岡田 貴子
- 【請求人代理人】瀧澤 文
- 審判長/審判官
- 審判長 前畑 さおり
- 審判官 綿貫 浩一
- 審判官 清野 貴雄
- 分類
- D18 .113-WY (J7-4)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 意匠法10条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第3条第1項第3号、意匠法第10条第1項、意匠法第3条第1項第1号、意匠法第10条の2第1項、意匠法第10条、意匠法第10条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
意願2025- 4096「薬剤デリバリ器」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由
理 由
第1 事案の概要
1 手続の経緯
本願は、意匠法第10条の2第1項の規定により意願2024-015067の一部を分割し、新たな意匠登録出願として出願した、令和7年(2025年)3月3日(原出願(意願2024-015067)の出願日:令和6年(2024年)7月22日、原出願のパリ条約による優先権主張:2024年1月22日、アメリカ合衆国)の、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であって、その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和7年(2025年) 3月25日付 拒絶理由通知書
同年 7月 1日 意見書の提出
同年 同日 手続補正書の提出
同年 7月30日付 拒絶査定
同年 11月11日 審判請求書の提出
2 本願の意匠
本願の意匠(以下「本願意匠」という。)は、願書及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品を「薬剤デリバリ器」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)を願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり、意匠登録を受けようとする部分を、「実線で表した部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であり、破線及び破線で表されたテキストは意匠を構成しない。」としたものである(別紙第1参照)。
3 原査定における拒絶の理由及び引用した意匠
原査定における拒絶の理由は、本願意匠が、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものと認められるため、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)に該当するとしたものであって、拒絶の理由に引用した意匠(以下「引用意匠」という。別紙第2参照)は次のとおりである。
「この意匠登録出願の意匠の意匠登録を受けようとする部分と、引用意匠の対応する部分を意匠全体として観察します。
意匠に係る物品について、本願意匠は「薬剤デリバリ器」であり、引用意匠は「注射器」ですが、いずれも、注射針部にキャップ配し、キャップの反対側端部に投与薬剤を回転してセットして使用する、ペン型の注射器であって、概ね共通します。
用途及び機能、並びに物品全体の中の位置、大きさ及び範囲については、投与量設定ダイヤル部及び回転繰り出し部を除く容器部であって、共通します。
形状については、容器部中央正面に表された矩形状模様部の有無に差異が見受けられるものの、その余の態様が同一といえるほどに強く共通する両意匠間においては、限られた箇所における付加的な変更の域を出るものとはいえません。
したがって、差異点は共通する態様が奏する美感に包含され、両意匠を別異のものとするには至りませんので、本願意匠は引用意匠に類似するものと認められます。
なお、本願意匠の出願人と引用意匠の権利者は同一の者と認められますが、本願意匠(物品の容器部のみについて意匠登録を受けようとするもの)は、引用意匠(物品全体について意匠登録を受けようとするもの)と、その範囲が大きく異なるため、引用意匠の関連意匠として意匠登録を受けることはできません。
記
<引用意匠>
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第1556736号
(意匠に係る物品、注射器)の意匠の、本願意匠が意匠登録を受けようとする部分に対応する部分」
第2 当審の判断
1 本願意匠と引用意匠の類否判断
本願意匠が、引用意匠との関係において、意匠法第3条第1項第3号に該当するものであるかについて検討する。
(1)本願意匠の認定
ア 意匠に係る物品
本願意匠の、意匠に係る物品は「薬剤デリバリ器」である。
イ 意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本願意匠の意匠登録を受けようとする部分(以下「本願部分」という。)の用途及び機能は、疾患者に薬剤を注射するために用いるもので、先端部を保護するキャップ部にクリップを備え、薬剤を格納する胴体部と投与量を表示する表示部からなるものである。また、本願部分の位置、大きさ及び範囲は、願書及び願書に添付した図面の記載内容を総合すると、薬剤デリバリ器のうち、破線で表された部分(後端部のダイヤル部及び回転繰り出し部)及び胴体部に表されたテキストを除いた、全体の約9割の部分である。
ウ 本願部分の形状等
(ア)本願部分全体は、キャップ部、細帯環状部、胴体部及び表示部で構成している。
(イ)キャップ部は、キャップとクリップで構成しており、キャップは全体を略縦長弾丸形状とし、キャップの長さは、本願部分全体の約4/7で、キャップ先端側からキャップ側方に屈曲するように略細板状のクリップが設けられ、クリップの長さはキャップ長の約4/5で、クリップの幅はキャップ幅の約1/3であり、クリップ先端は略円弧状となっている。
(ウ)細帯環状部は、キャップ部と胴体部の間に位置し、細帯環状部の幅はキャップ部と等しく、長さはキャップ長の約1/37である。
(エ)胴体部は、略円柱形状で細帯環状部と表示部の間に位置し、胴体部の幅は細帯環状部と等しく、長さは胴体部幅の約2倍である。また、正面視において、胴体部周面右寄り下方に、紫色に着色した縦長五角形状の模様、左寄りに胴体部の長さと等しい黄色に着色した縦長長方形状の模様が記されている。
(オ)表示部は、略円柱形状で、表示部周面は隣接する胴体部からわずかに窄まっており、表示部の長さ:幅は約1:1である。正面視において、表示部周面中央下方に確認窓が設けられ、確認窓は略平行四辺形状であり、その上辺と左右辺には表示部の厚み分の壁が形成され、確認窓上辺の上方に、確認窓よりわずかに小さな略平行四辺形状の凸状部が備わり、確認窓上辺壁中央には、略矩形状の突出部が設けられている。
(2)引用意匠の認定
引用意匠の、本願意匠の意匠登録を受けようとする部分に対応する部分を、以下「引用部分」という。
ア 意匠に係る物品
引用意匠の意匠に係る物品は「注射器」であり、当該意匠公報の「意匠に係る物品の説明」の欄によれば、「本物品のキャップを外した端部には、注射針が装着される。投与薬剤をセットする場合、注射針を装着した端部の反対側にある他方の端部を回転させる。」としたものである。
イ 引用部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
引用部分の用途及び機能は、疾患者に薬剤を注射するために用いるもので、先端部を保護するキャップ部にクリップを備え、薬剤を格納する胴体部と投与量を表示する表示部であり、引用部分の位置、大きさ及び範囲は、注射器全体から後端部のダイヤル部を除いた、全体の約9割の部分である。
ウ 引用部分の形状等
(ア)全体は、キャップ部、細帯環状部、胴体部及び表示部で構成している。
(イ)キャップ部は、キャップとクリップで構成しており、キャップは全体を略縦長弾丸形状とし、キャップの長さは、引用部分全体の約4/7で、キャップ先端側からキャップ側方に屈曲するように略細板状のクリップが設けられ、クリップの長さはキャップ長の約4/5で、クリップの幅はキャップ幅の約1/3であり、クリップ先端は略円弧状となっている。
なお、正面図と、左右側面図及び斜視図のクリップ先端形状が一致しないものの、当審では、総合的に判断して、正面図が誤記であるものとし、クリップ先端は略円弧状と認定する。
(ウ)細帯環状部は、キャップ部と胴体部の間に位置し、細帯環状部の幅はキャップ部と等しく、長さはキャップ長の約1/22である。
(エ)胴体部は、略円柱形状で細帯環状部と表示部の間に位置し、胴体部の幅は細帯環状部と等しく、長さは胴体部幅の約2倍である。なお、胴体部周面には模様がない。
(オ)表示部は、略円柱形状で、表示部周面は隣接する胴体部からわずかに窄まっており、表示部の長さ:幅は約1.1:1である。正面視において、表示部周面中央下方に確認窓が設けられ、確認窓は略平行四辺形状であり、その上辺と左右辺には表示部の厚み分の壁が形成され、確認窓上辺の上方に、確認窓よりわずかに小さな略平行四辺形状の凸状部が備わり、確認窓上辺壁中央には、略矩形状の突出部が設けられている。
(3)本願意匠と引用意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「薬剤デリバリ器」であり、引用意匠の意匠に係る物品は「注射器」であり、表記は異なるものの、いずれも薬品を投与する際に使用する医療機器であるから、本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は一致する。
イ 本願部分と引用部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本願部分と引用部分(以下「両部分」という。)の用途及び機能については、疾患者に薬剤を注射するために用いるもので、先端部を保護するキャップ部にクリップを備え、薬剤を格納する胴体部と投与量を表示する表示部からなり、一致する。また、位置、大きさ及び範囲は、両部分とも、後端部のダイヤル部等を除く、全体の約9割の部分であるので、一致する。
ウ 両部分の形状等
(ア)共通点
共通点あ キャップ部について、キャップとクリップで構成しており、キャップは全体を略縦長弾丸形状とし、キャップの長さは、両部分ともに全体の約4/7で、キャップ先端側からキャップ側方に屈曲するようにクリップが設けられ、クリップの長さはキャップ長の約4/5で、幅はキャップ幅の約1/3であり、クリップ先端は略円弧状となっている点。
共通点い 細幅環状部について、キャップ部と胴体部の間に位置し、細帯環状部の幅はキャップ部と等しい点。
共通点う 胴体部について、略円柱形状で細帯環状部と表示部の間に位置し、胴体部の幅は細帯環状部と等しく、長さは胴体部幅の約2倍である点。
共通点え 表示部について、略円柱形状で、隣接する胴体部からわずかに窄まっており、正面視において、表示部周面中央下方に確認窓が設けられ、確認窓は略平行四辺形状であり、その上辺と左右辺には表示部の厚み分の壁が形成され、確認窓上辺の上方に、確認窓よりわずかに小さな略平行四辺形状の凸状部が備わり、確認窓上辺壁中央には、略矩形状の突出部が設けられている点。
(イ)相違点
相違点あ 細帯環状部の長さについて、本願部分は、キャップ幅の約1/37であるのに対して、引用部分は、キャップ幅の約1/22である点。
相違点い 胴体部周面の模様について、本願部分は正面視において、胴体部周面右寄り下方に、紫色に着色した縦長五角形状の模様、左寄りに胴体部の長さと等しい黄色に着色した縦長長方形状の模様が記されているのに対して、引用部分の胴体部周面には模様及び色彩がない点。
相違点う 表示部の長さ:幅について、本願部分の表示部の長さ:幅は約1:1であるのに対して、引用部分の表示部の長さ:幅は約1.1:1である点。
(4)類否判断
以上の共通点及び相違点が本願意匠と引用意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し、総合的に観察して、両部分の類否を意匠全体として検討し、判断する。
ア 本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品
意匠に係る物品は一致するから同一である。
イ 両部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
両部分の用途及び機能及び位置、大きさ及び範囲は一致するから同一である。
ウ 両部分の形状等の評価
(ア)共通点の評価
共通点あ キャップ部について、そのほぼ全面にわたり同一の形状を呈するものであって、両意匠とも、両部分全体に対し、キャップ部が約4/7と半分以上の割合を占めるほど大きく、使用時にキャップ部を脱着したりクリップで挟んで固定したり、実際に需要者が触れる機会も多く、また目立つ部分でもあるため、類否判断に与える影響は大きいものである。
共通点い 細帯環状部は、キャップ部と胴体部の間の目立つ位置に設けられているものの、全体に占める割合が小さいことから、類否判断に与える影響は小さいものである。
共通点う 胴体部は、細帯環状部と表示部の間の目立つ位置に設けられているものの、両意匠ともありふれた略円柱形状であることから、類否判断に与える影響は小さいものである。
共通点え 表示部は、略平行四辺形状をした確認窓と凸状部とが隣接する特徴的な配置が共通しており、需要者に共通する印象を与えるものであるため、類否判断に与える影響は大きいものである。
(イ)相違点の評価
相違点あ 細帯環状部の長さについて、引用部分の方が本願意匠よりも長いものの、両部分全体に対するその違いは微差であるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点い 胴体部周面の色彩を有する模様の有無について、両部分は相違するが、本願部分に付された模様及び色彩自体は格別特徴と呼べるものではないため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点う 表示部の長さについて、引用部分の方が本願部分よりもわずかに長いものの、その違いもわずかであるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
(ウ)両部分の形状等の類否判断
よって、両部分は、共通点が類否判断に与える影響が総じて大きいものであるのに対して、相違点が類否判断に与える影響は小さいものであって、両部分を全体として見た場合、需要者に共通する美感を起こさせるものであるから、形状等において、両部分は類似する。
(5)小括
以上のとおり、本願意匠と引用意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が同一であり、形状等においても、両部分の形状等は類似するものであるから、本願意匠と引用意匠は類似する。
2 意匠法第10条について
請求人は、原査定における拒絶の理由に対し、意見書において、本願意匠が意匠登録第1556736号の意匠に類似するものであって、これを本意匠とする関連意匠として意匠登録を受けることができるものであると主張するとともに、手続補正書を提出し、本願意匠を意匠登録第1556736号を本意匠とする関連意匠に補正したので、これについて検討し、判断する。
(1)本願意匠の認定
ア 意匠に係る物品
前記1(1)アに記載のとおりである。
イ 意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
前記1(1)イに記載のとおりである。
ウ 本願部分の形状等
前記1(1)ウに記載のとおりである。
(2)本意匠の認定
本意匠は、請求人が平成26年(2014年)12月25日(パリ条約による優先権主張:2014年6月26日)にした意匠登録出願(意願2014-029245)であり、平成28年(2016年)7月22日に設定登録(意匠登録第1556736号)されたものであり、その意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりの全体意匠である。
ア 意匠に係る物品
本意匠の意匠に係る物品は「注射器」であり、意匠に係る物品の用途及び機能は、疾患者に薬剤を注射するために用いるもので、先端部を保護するキャップ部にクリップを備え、薬剤を格納する胴体部と投与量を表示する表示部を有している。
イ 本意匠の形状等
(ア)全体は、キャップ部、細帯環状部、胴体部、表示部及びダイヤル部で構成している。
(イ)キャップ部は、キャップとクリップで構成しており、キャップは全体を略縦長弾丸形状とし、キャップ部の長さは全体の約5/9で、キャップ先端側からキャップ側方に屈曲するように略細板状のクリップが設けられ、クリップの長さはキャップ長の約4/5で、クリップの幅はキャップ幅の約1/3であり、クリップ先端は略円弧状となっている。
なお、正面図と、左右側面図及び斜視図のクリップ先端形状が一致しないものの、当審では、総合的に判断して、正面図が誤記であるものとし、クリップ先端は略円弧状と認定する。
(ウ)細帯環状部は、キャップ部と胴体部の間に位置し、細帯環状部の幅はキャップ部と等しく、長さはキャップ長の約1/22である。
(エ)胴体部は、略円柱形状で細帯環状部と表示部の間に位置し、胴体部の幅は細帯環状部と等しく、長さは胴体部幅の約2倍である。なお、胴体部周面には模様がない。
(オ)表示部は、略円柱形状で、表示部周面は隣接する胴体部からわずかに窄まっており、表示部の長さ:幅は約1.1:1である。正面視において、表示部周面中央下方に確認窓が設けられ、確認窓は略平行四辺形状であり、その上辺と左右辺には表示部の厚み分の壁が形成され、確認窓上辺の上方に、確認窓よりわずかに小さな略平行四辺形状の凸状部が備わり、確認窓上辺壁中央には、略矩形状の突出部が設けられている。
(カ)ダイヤル部は、下方端部に位置し、わずかに拡がった略円錐台形状であり、長さは表示部長の約半分程であり、その周面をほぼ均等な12区画に分け、一つおきにごく浅い凹部を設けている。また、表示部との間にわずかな隙間を設け、そこに表示部幅の約8割の幅を有する略軸部によって、投与量設定ダイヤル部と表示部とが嵌合されている。
(3)本願意匠と本意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「薬剤デリバリ器」であり、本意匠の意匠に係る物品は「注射器」であり、表記は異なるものの、いずれも薬品を投与する際に使用する医療機器であるから、本願意匠と本意匠の意匠に係る物品は一致する。
イ 用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本願部分の用途及び機能については、疾患者に薬剤を注射するために用いるもので、先端部を保護するキャップ部にクリップを備え、薬剤を格納する胴体部と投与量を表示する表示部からなる点で本意匠の意匠に係る物品の用途及び機能とおおむね共通する一方、位置、大きさ及び範囲は、本願部分は後端部のダイヤル部等を除く、全体の約9割の部分であるのに対し、本意匠は注射器全体であるから相違する。
ウ 本願部分と本意匠の形状等
(ア)共通点
共通点あ キャップ部について、キャップとクリップで構成しており、キャップは全体を略縦長弾丸形状とし、キャップ先端側からキャップ側方に屈曲するようにクリップが設けられ、クリップの長さはキャップ長の約4/5で、幅はキャップ幅の約1/3であり、クリップ先端は略円弧状となっている点。
共通点い 細幅環状部について、キャップ部と胴体部の間に位置し、細帯環状部の幅はキャップ部と等しい点。
共通点う 胴体部について、略円柱形状で細帯環状部と表示部の間に位置し、胴体部の幅は細帯環状部と等しく、長さは胴体部幅の約2倍である点。
共通点え 表示部について、略円柱形状で、隣接する胴体部からわずかに窄まっており、正面視において、表示部周面中央下方に確認窓が設けられ、確認窓は略平行四辺形状であり、その上辺と左右辺には表示部の厚み分の壁が形成され、確認窓上辺の上方に、確認窓よりわずかに小さな略平行四辺形状の凸状部が備わり、確認窓上辺壁中央には、略矩形状の突出部が設けられている点。
(イ)相違点
相違点あ 本意匠は、キャップ部、細帯環状部、胴体部、表示部及びダイヤル部で構成しているのに対して、本願部分は、キャップ部、細帯環状部、胴体部及び表示部で構成している点。
相違点い 細帯環状部の長さについて、本意匠は、キャップ幅の約1/22であるのに対して、本願部分は、キャップ幅の約1/37である点。
相違点う 胴体部周面の模様について、本意匠の胴体部周面には模様がないのに対して、本願部分は正面視において、胴体部周面右寄り下方に、紫色に着色した縦長五角形状の模様、左寄りに胴体部の長さと等しい黄色に着色した縦長長方形状の模様が記されているのに対して、引用部分の胴体部周面には模様及び色彩がない点。
相違点え 表示部の長さ:幅について、本意匠の表示部の長さ:幅は約1.1:1であるのに対して、本願部分の表示部の長さ:幅は約1:1である点。
(4)類否判断
以上の共通点及び相違点を評価、総合し、本願意匠と本意匠の類否について判断する。
ア 意匠に係る物品
本願意匠と本意匠の、意匠に係る物品は一致するから同一である。
イ 用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲
本願部分の用途及び機能については、(3)イのとおりであり、本意匠のそのほとんどにおいて共通する。また、本願部分の位置、大きさ及び範囲は、(3)イのとおりであり、本意匠との相違は、意匠登録を受けようとする部分が全体の約9割か、物品全体かの相違にすぎないものである。したがって、本願部分と本意匠の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は、類似する。
ウ 本願部分と本意匠の形状等の評価
(ア)共通点の評価
共通点あ キャップ部について、そのほぼ全面にわたり同一の形状を呈するものであって、本願部分と本意匠とも、全体に対するキャップ部が占める割合が大きく、使用時にキャップ部を脱着したりクリップで挟んで固定したり、実際に需要者が触れる機会も多く、また目立つ部分でもあるため、類否判断に与える影響は大きいものである。
共通点い 細帯環状部は、キャップ部と胴体部の間の目立つ位置に設けられているものの、全体に占める割合が小さいことから、類否判断に与える影響は小さいものである。
共通点う 胴体部は、細帯環状部と表示部の間の目立つ位置に設けられているものの、本願部分と本意匠ともありふれた略円柱形状であることから、類否判断に与える影響は小さいものである。
共通点え 表示部は、略平行四辺形状をした確認窓と凸状部とが隣接する特徴的な配置が共通しており、需要者に共通する印象を与えるものであるため、類否判断に与える影響は大きいものである。
(イ)相違点の評価
相違点あ 本意匠は、本願部分に相当しない部分(ダイヤル部)の形状を有する点で相違するが、本意匠におけるダイヤル部は、本意匠全体の約1割にすぎず、その形状は、略短円柱形状で周面に滑り止めの凹凸を備えた、さほど特徴がないものといえるから、その有無の違いは微弱であって、意匠全体の美感にさほど影響を与えるものではないため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点い 細帯環状部の長さについて、本意匠の方が本願部分よりも長いものの、意匠全体に対するその違いは微差であるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点う 胴体部周面の色彩を有する模様の有無について、本願部分と本意匠は相違するが、本願部分に付された模様及び色彩自体は格別特徴と呼べるものではないため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点え 表示部の長さについて、本意匠の方が本願意匠よりもわずかに長いものの、その違いもわずかであるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
(ウ)形状等の類否判断
よって、本願部分と本意匠は、共通点が類否判断に与える影響が総じて大きいものであるのに対して、相違点が類否判断に与える影響は小さいものであって、意匠全体として見た場合、本願部分と本意匠は需要者に共通する美感を起こさせるものであるから、形状等において、本願部分と本意匠は類似する。
(5)小括
以上のとおり、本願意匠と本意匠は、意匠に係る物品が同一であり、本願部分と本意匠の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が類似し、形状等においても、本願部分と本意匠の形状等は類似するものであるから、本願意匠と本意匠は類似する。また、本願意匠は、本意匠に対し、意匠法第10条第1項に規定する関連意匠の要件を全て満たすものと認められる。したがって、本願意匠は本意匠の関連意匠として意匠登録を受けることができるものである。
3 本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当するかについて
本願意匠が引用意匠との関係において、意匠法第3条第1項第3号に該当するものであるかについて検討する。
引用意匠は、本意匠である意匠登録第1556736号が意匠公報に掲載された意匠である。そして、前記2で判断したとおり、本願意匠は意匠法第10条第1項の規定により、本意匠の関連意匠として意匠登録を受けることができるものであるから、引用意匠は、同条第2項の規定により、意匠法第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至らなかったものとみなされる。したがって、本願意匠は引用意匠をもって、意匠法第3条第1項第3号に該当するものとすることはできない。
4 請求人の主張について
なお、請求人は、「意匠法第3条第1項第3号(新規性等)の適用においては、本願意匠(意匠登録を受けようとする部分)と引用意匠の対応部分とを比較する「部分対部分」の判断により「類似」と結論づけ、意匠法第10条第1項該当性の判断においては「全体対部分」の判断により「非類似」と結論づける、という類否判断の手法は相互に矛盾するものであり、意匠法第3条第1項第3号と・・・意匠法第10条第1項において「類似する意匠」と同じ語により規定する意匠に出願にかかる意匠が該当するか否かについて正反対の結論に至るという点において深刻な論理矛盾があり、かつ、後述の平成18(行ケ)10317 審決取消請求事件、平成19年1月31日 知的財産高等裁判所 1部 判決・・・の判示事項と矛盾している」と主張する。
しかし、意匠法第10条第1項の適用の判断において、全体意匠である本意匠と、その関連意匠として部分意匠である本願意匠とを対比する場合には、本意匠全体と、本願意匠の意匠登録を受けようとする部分とを対比することになるのに対して、意匠法第3条第1項第3号の適用の判断において、本願意匠と公知意匠としての引用意匠とを対比する場合は、既に公知となっている引用意匠のうちの一部にでも同一又は類似の意匠が含まれている場合には、新規性の欠如(意匠法第3条第1項第1号~第3号)を認めるのが相当であるから、本願意匠と引用意匠の一部(引用部分)を対比することとなる。このように、一方(本願意匠)が部分意匠であって、他方(引用意匠ないし本意匠)が全体意匠である場合には、本意匠と関連意匠としての本願意匠が類似するかを判断するときと、本願意匠と引用意匠が類似するか(新規性等)を判断するときとで、対比する範囲が異なり、それによって判断が相違することがあることは何ら不当なことではない(令和6年(行ケ)第10108号 審決取消請求事件 知的財産高等裁判所判決 令和7年5月29日判決言渡において同旨の判示がなされている。)ため、審決は請求人のこの主張を採用するものではない。
また、請求人は、本件拒絶査定が、本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲の認定において、破線部分が適切に参酌されておらず、引用の裁判例と矛盾するとも主張する。しかしながら、本願部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲については、破線部分も参酌の上、上記1(1)イのとおり認定できるものであるから、その点について原査定の判断に誤りはなく、請求人が挙げる裁判例との矛盾はない。したがって、審決は、請求人のこの点にかかる主張を採用するものでもない。
第3 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、意匠登録第1556736号を本意匠とする関連意匠として登録を受けることができるものであり、引用意匠は、意匠法第10条第2項の規定の適用により、本願意匠の新規性等の判断の基礎となる意匠から除外されるものである。
したがって、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。また、当審においてさらに審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-017896