特許拒絶査定不服審判
2025-003341
圧縮機および冷凍サイクル装置
- 審判番号
- 2025-003341
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-159036
- 請求日
- 2025年03月03日
- 審決日
- 2026年05月13日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 芝井 隆
- 分類
- P18 .113-Z (C10M) / P18 .121-Z (C10M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-159036「圧縮機および冷凍サイクル装置」拒絶査定不服審判事件〔令和6年4月11日出願公開、特開2024-52371〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、令和4年9月30日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである
令和5年11月30日付け 拒絶理由通知書
令和6年 3月19日 意見書、手続補正書の提出
令和6年 6月26日付け 拒絶理由通知書(最後)
令和6年11月25日付け 拒絶査定
令和7年 3月 3日 審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明は、令和6年3月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒を使用し、ポリオールエステルまたはポリビニルエーテルを含む冷凍機油を使用して、冷凍サイクルを行う冷凍サイクル装置(20)における圧縮機(30)であって、
5wt%以上25wt%以下のシリコンを含むアルミニウム合金で構成された摺動部(79s)を備え、
前記冷凍機油は、酸捕捉剤または酸素捕捉剤を含み、下記関係式を満たす、
圧縮機。
冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量[wt%]≧(2.3+2.6×(冷媒におけるハイドロフルオロオレフィンの含有量[wt%])-1.6×(摺動部におけるシリコンの含有量[wt%]))/100」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、理由2(新規性)及び理由3(進歩性)は、次の理由を含むものである。
理由2(新規性)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3(進歩性)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献等一覧)
1.特開2009-222033号公報
第4 引用文献1の記載及び引用発明
1 引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機を備えて冷凍サイクルを行う冷凍装置に関し、特に圧縮機の圧縮機構の摺動部に係るものである。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示の冷媒(C3HmFn)は、水分や酸素等に対して比較的不安定な分子構造を有するため、長期の冷凍サイクルに伴い冷媒が劣化して不純物等が生成してしまうことがある。このような不純物が生成されると、圧縮機構の摺動部(例えば可動スクロールの摺動面や、軸受け等)が物理的、あるいは化学的に変性して劣化/損耗してしまう。その結果、摺動部の耐久性/信頼性が損なわれてしまう虞がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、分子式1:C3HmFn(但し、m及びnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒から成る単一冷媒又は該冷媒を含む混合冷媒が用いられる冷媒回路に接続される圧縮機において、摺動部の耐久性/信頼性を確保することである。」
(3)「【発明の効果】
【0037】
本発明では、冷媒回路(10)の冷媒として、分子式1:C3HmFn(但し、m及びnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒、又は該冷媒を含む混合冷媒が用いられる。これにより、冷凍サイクルの理論上の成績係数(COP)が高い冷凍装置を提供できる。
【0038】
ここで、上記の冷媒は、二重結合を有する等の理由により比較的不安定な分子構造であり、冷媒が劣化して不純物等が生成され易い。このため、圧縮機構(82)の摺動部(80)は、このような不純物の影響により化学的/物理的に変性して劣化してしまう虞がある。しかしながら、本発明の摺動部(80)は、12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するアルミニウム合金で構成されているので、上記不純物の影響により、摺動部(80)が化学的/物理的に変性してしまうことが回避される。従って、摺動部(80)では、所望とする耐久性/潤滑性を得ることができ、摺動部(80)の信頼性を確保できる。
【0039】
特に、第2の発明では、可動スクロール(76)の自転を防止する自転防止機構(79)の摺動部(80)として、12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するアルミニウム合金を用いているので、自転防止機構(79)の摺動部(80)の耐久性や信頼性を充分確保できる。また、第3の発明では、可動スクロール(76)の摺動部(80)として、12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するアルミニウム合金を用いているので、可動スクロール(76)の摺動部(80)の耐久性や信頼性を充分確保できる。」
(4)「【0045】
第10や第11の発明の冷凍機油では、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤、及び銅不活性化剤の6種類の添加剤のうち少なくとも1種類の添加剤が添加されている。このため、冷媒や冷凍機油を安定化させることができ、不純物の発生を抑制できる。その結果、摺動部(80)の耐久性/信頼性を更に向上できる。」
(5)「【0050】
本実施形態は、本発明に係る冷凍装置(20)によって構成された空気調和装置(20)である。本実施形態の空気調和装置(20)は、図1に示すように、室外機(22)と3台の室内機(23a,23b,23c)とを備えている。なお、室内機(23)の台数は、単なる例示である。
【0051】
上記空気調和装置(20)は、冷媒を充填されて冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備えている。冷媒回路(10)は、室外機(22)に収容される室外回路(9)と、各室内機(23)に収容される室内回路(17a,17b,17c)とを備えている。これらの室内回路(17a,17b,17c)は、液側連絡配管(18)及びガス側連絡配管(19)によって室外回路(9)に接続されている。これらの室内回路(17a,17b,17c)は、互いに並列に接続されている。
【0052】
本実施形態の冷媒回路(10)には、冷媒として2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(以下、「HFO-1234yf」という。)の単一冷媒が充填されている。なお、HFO-1234yfの化学式は、CF3-CF=CH2で表される。
【0053】
〈室外回路の構成〉
室外回路(9)には、圧縮機(30)、室外熱交換器(11)、室外膨張弁(12)、及び四路切換弁(13)が設けられている。
【0054】
圧縮機(30)は、例えば運転容量が可変なインバータ式の圧縮機として構成されている。圧縮機(30)には、インバータを介して電力が供給される。圧縮機(30)は、吐出側が四路切換弁(13)の第2ポート(P2)に接続され、吸入側が四路切換弁(13)の第1ポート(P1)に接続されている。なお、圧縮機(30)についての詳細は後述する。」
(6)「【0060】
〈圧縮機の構成〉
圧縮機(30)は、例えば全密閉の高圧ドーム型のスクロール圧縮機として構成されている。圧縮機(30)の構成を図2及び図3に従って説明する。
【0061】
圧縮機(30)は、縦型の密閉容器を形成するケーシング(70)を備えている。ケーシング(70)の内部には、下から上へ向かって、電動機(85)と圧縮機構(82)とが配置されている。
【0062】
電動機(85)は、ステータ(83)とロータ(84)とを備えている。ステータ(83)は、ケーシング(70)の胴部に固定されている。一方、ロータ(84)は、ステータ(83)の内側に配置され、クランク軸(90)が連結されている。
【0063】
圧縮機構(82)は、可動スクロール(76)と固定スクロール(75)とを備え、スクロール式の圧縮機構を構成している。可動スクロール(76)は、略円板状の可動側鏡板(76b)と、渦巻き状の可動側ラップ(76a)とを備えている。可動側ラップ(76a)は可動側鏡板(76b)の前面(上面)に立設されている。また、可動側鏡板(76b)の背面(下面)には、クランク軸(90)の偏心部が挿入された円筒状の突出部(76c)が立設されている。可動スクロール(76)は、オルダムリング(79)を介して、可動スクロール(76)の下側に配置されたハウジング(77)に支持されている。一方、固定スクロール(75)は、略円板状の固定側鏡板(75b)と、渦巻き状の固定側ラップ(75a)とを備えている。固定側ラップ(75a)は固定側鏡板(75b)の前面(下面)に立設されている。圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)と可動側ラップ(76a)とが互いに噛み合うことによって、両ラップ(75a,76a)の接触部の間に複数の圧縮室(73)が形成されている。」
(7)「【0074】
本実施形態のオルダムリング(79)は、その全体がシリコンを含有するアルミニウム合金(いわゆるハイシリコンアルミニウム材料)で構成されている。オルダムリング(79)を構成するアルミニウム合金は、そのシリコンの含有量が12.6質量%以上18質量%以下となっている。つまり、オルダムリング(79)は、可動スクロール(76)やハウジング(77)に対する摺動部(80)(即ち、冷媒及び冷凍機油に接触可能に配設され、且つ部材同士が互いに摺接する部位)が、12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するアルミニウム合金で構成されている。なお、オルダムリング(79)について、その外表面(即ち、摺動部(80))にだけに上記のアルミニウム合金を別体で形成しても良い。」
(8)「【0075】
〈冷凍機油について〉
本実施形態では、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、及びポリビニルエーテルの3種類の基油のうち少なくとも1種類を主成分とする冷凍機油を圧縮機(30)に用いることが可能である。例えば、本実施形態の冷凍機油には、この3種類のうちポリビニルエーテルだけを主成分とする冷凍機油が用いられている。」
(9)「【0084】
また、本実施形態の冷凍機油には、添加剤として、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤、及び銅不活性化剤が添加されている。なお、本実施形態では上記6つの添加剤を全て使用しているが、各添加剤は必要に応じて添加すればよく、添加剤が1つだけであってもよい。個々の添加剤の配合量は、冷凍機油に含まれる割合が0.01質量%以上5質量%以下になるように設定されている。なお、酸捕捉剤の配合量、及び酸化防止剤の配合量は、0.05質量%以上3質量%以下の範囲が好ましい。
【0085】
酸捕捉剤には、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α-オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を用いることができる。なお、これらの中で相溶性の観点から好ましい酸捕捉剤は、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α-オレフィンオキシドである。アルキルグリシジルエーテルのアルキル基、及びアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよい。これらの炭素数は、3以上30以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であれば更に好ましい。また、α-オレフィンオキシドは、全炭素数が4以上50以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であれば更に好ましい。酸捕捉剤は、1種だけを用いてもよく、複数種類を併用することも可能である。」
(10)「【0093】
また、酸化防止剤には、フェノール系の酸化防止剤やアミン系の酸化防止剤を用いることができる。フェノール系の酸化防止剤には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール等がある。また、アミン系の酸化防止剤には、N,N’-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、N.N’-ジ-フェニル-p-フェニレンジアミン等がある。なお、酸化防止剤には、酸素を捕捉する酸素捕捉剤も用いることができる。」
(11)「【0101】
-実施形態の効果-
本実施形態では、冷媒回路(10)の冷媒として、分子式1:C3HmFn(但し、m及びnは1以上5以下の整数で、m+n=6の関係が成立する。)で表され且つ分子構造中に二重結合を1個有する冷媒から成る冷媒(即ち、HFO-1234yf)を用いている。これにより、冷凍サイクルの理論上の成績係数(COP)が高い空気調和装置(20)を提供できる。
【0102】
一方、HFO-1234yfは、二重結合を有する等の理由により比較的不安定な分子構造であり、冷媒が劣化して不純物等が生成され易い。このため、上述したオルダムリング(79)の摺動部(80)は、このような不純物の影響により化学的/物理的に変性して劣化してしまう虞がある。しかしながら、本実施形態のオルダムリング(79)は、12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するアルミニウム合金で構成されている。このため、上記の不純物の影響により、オルダムリング(79)の摺動部(80)が化学的/物理的に変性してしまうことが回避される。従って、オルダムリング(79)の摺動部(80)では、所望とする耐久性/潤滑性を得ることができ、圧縮機構(82)の信頼性を確保できる。
【0103】
また、本実施形態では、温度30℃、相対湿度90%における飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を用いているので、冷媒中の水分を冷凍機油に捕捉させることができる。このため、水分の影響によりHFO-1234yfが劣化してしまうのを防止できる。また、冷凍機油は、塩素濃度が50ppm以下であるので、塩素成分の影響により冷媒の劣化が促進してしまうことも防止できる。更に、冷凍機油は、硫黄濃度が50ppm以下であるので、硫黄成分の影響により、冷媒の劣化が促進してしまうことも防止できる。
以上のように、本実施形態では、冷媒の劣化を極力防止するように冷凍機油を選定しているので、冷媒の劣化に起因する不純物の生成を抑えることができ、これによりオルダムリング(79)等の摺動部(80)の変性/劣化を効果的に防止できる。
【0104】
また、冷凍機油は、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、及びポリビニルエーテルのうち少なくとも1つを主成分としている。これにより、冷媒と冷凍機油とが相互に溶け易くなる。このため、冷媒回路(10)中に冷凍機油が流出しても、この冷凍機油は冷媒に溶け込んで圧縮機(30)に返送され易くなる。その結果、圧縮機(30)における油上がりを抑制することができるので、圧縮機(30)の冷凍機油不足、更には潤滑不良を未然に回避できる。従って、圧縮機(30)の信頼性を向上させることができる。
【0105】
一方、このような冷凍機油は、長期の冷凍サイクルにより劣化して不純物が生成することがある。しかしながら、本実施形態のオルダムリング(79)は、12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含有するアルミニウム合金で構成されているので、冷凍機油の劣化に起因する不純物の影響により、オルダムリング(79)の摺動部(80)が化学的/物理的に変性してしまうことも回避される。」
(12)「【0120】
例えば、HFO-1234yfとHFC-32の2成分からなる混合冷媒を用いてもよい。この場合は、78.2質量%のHFO-1234yfと、21.8質量%のHFC-32とからなる混合冷媒を用いることができる。なお、HFO-1234yfとHFC-32の混合冷媒は、HFO-1234yfの割合が70質量%以上94質量%以下でHFC-32の割合が6質量%以上30質量%以下であればよく、好ましくは、HFO-1234yfの割合が77質量%以上87質量%以下でHFC-32の割合が13質量%以上23質量%以下であればよく、更に好ましくは、HFO-1234yfの割合が77質量%以上79質量%以下でHFC-32の割合が21質量%以上23質量%以下であれば更に好ましい。」
2 引用発明
上記1(1)~(12)の記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「HFO-1234yfの単一冷媒を使用し、ポリビニルエーテルを主成分とする冷凍機油を使用して、冷凍サイクルを行う空気調和装置20における圧縮機であって、
12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含むアルミニウム合金で構成されたオルダムリング79の摺動部80を備え、
前記冷凍機油は、酸捕捉剤、及び酸素捕捉剤を用いることができる酸化防止剤を含み、下記関係を満たす、
圧縮機。
冷凍機油における酸捕捉剤、及び酸素捕捉剤を用いることができる酸化防止剤の含有量は、それぞれ、0.05質量%以上3質量%以下である。」
第5 対比
1 本願発明と引用発明とを、その有する機能に照らして対比する。
引用発明の「HFO-1234yfの単一冷媒」は、本願発明の「ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒」に相当し、同様に、「ポリビニルエーテルを主成分とする」は「ポリオールエステルまたはポリビニルエーテルを含む」に、「空気調和装置20」は「冷凍サイクル装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「12.6質量%以上18質量%以下」は、5~25質量%の範囲内にあるから、本願発明の「5wt%以上25wt%以下」に相当する。
さらに、引用発明の「オルダムリング79の摺動部80」は、本願発明の「摺動部」に相当する。
加えて、引用発明の「酸素捕捉剤を用いることができる酸化防止剤」は、本願発明の「酸素捕捉剤」に相当する。
2 一致点及び相違点
そうすると、本願発明と引用発明は以下の一致点で一致し、相違点で一応相違する。
<一致点>
「ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒を使用し、ポリオールエステルまたはポリビニルエーテルを含む冷凍機油を使用して、冷凍サイクルを行う冷凍サイクル装置における圧縮機であって、
5wt%以上25wt%以下のシリコンを含むアルミニウム合金で構成された摺動部を備え、
前記冷凍機油は、酸捕捉剤または酸素捕捉剤を含む、
圧縮機。」
<相違点>
本願発明は、「冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量[wt%]≧(2.3+2.6×(冷媒におけるハイドロフルオロオレフィンの含有量[wt%])-1.6×(摺動部におけるシリコンの含有量[wt%]))/100」の関係式を満たすのに対し、
引用発明は、冷凍機油における酸捕捉剤、及び酸素捕捉剤を用いることができる酸化防止剤の含有量が、それぞれ、0.05質量%以上3質量%以下であるものの、上記関係式で特定されたものではない点。
第6 判断
1 以下、相違点について検討する。
まず、引用発明は、「冷凍機油における酸捕捉剤、及び酸素捕捉剤を用いることができる酸化防止剤の含有量は、それぞれ、0.05質量%以上3質量%以下である」ところ、当該含有量が、本願発明の関係式を満たすか否かを検討すると、引用発明は、「HFO-1234yfの単一冷媒を使用」していることから、「冷媒におけるハイドロフルオロオレフィンの含有量[wt%]」は、100である。また、「オルダムリング79の摺動部80」は、「12.6質量%以上18質量%以下のシリコンを含むアルミニウム合金で構成され」ていることから、「摺動部におけるシリコンの含有量[wt%]」は、12.6~18である。これらの数値を本願発明の関係式にあてはめると、引用発明の「冷凍機油における酸捕捉剤、及び酸素捕捉剤を用いることができる酸化防止剤」の合計含有量(「冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量[wt%]」)が、(2.3+2.6×100-1.6×12.6)/100~(2.3+2.6×100-1.6×18)/100以上、すなわち、2.4214~2.335質量%以上であれば、上記関係式を満たすことになる。
そして、引用発明は、冷凍機油における酸捕捉剤の含有量が、0.05質量%以上3質量%以下であるから、上記2.4214~2.335質量%以上のもの、例えば2.5~3質量%であるものを含むところ、冷凍機油における酸捕捉剤の含有量が当該範囲(例えば2.5~3質量%)にあるものは、上記関係式を満たすものとなるから、「圧縮機」という物の発明において、本願発明と引用発明とは、差異がない。
また、引用発明は、酸化防止剤として酸素捕捉剤を用いた場合、冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量も、上記2.4214~2.335質量%以上のもの、例えば2.5~6質量%であるものを含むところ、冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量が、当該範囲(例えば2.5~6質量%)にあるものは、上記関係式を満たすものとなるから、「圧縮機」という物の発明において、本願発明と引用発明とは、差異がない。
よって、上記相違点は、実質的な相違点とはいえない。
したがって、本願発明と引用発明とは相違するところがないから、本願発明は引用発明である。
また、上記相違点が、実質的な相違点であるとしても、本願の発明の詳細な説明には、単に、上記関係式が示され、また、限定的な実施例及び比較例の試験結果(例えば、段落0096を参照)が示されるのみで、上記関係式によって特定される「冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量[wt%]」の効果を裏付けるものは、何ら示されていない。
そして、そのような効果の裏付けがない、上記関係式によって特定される「冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量[wt%]」に臨界的意義は認められない。
そうすると、引用発明において、冷凍機油における酸捕捉剤と酸素捕捉剤の含有量を、それぞれ「0.05質量%以上3質量%以下」の範囲で調整し、これらの合計含有量が上記関係式を満たすようなものにすることは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。
以上によれば、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 請求人の主張について
請求人は審判請求書で、「引用文献1においては、アルミニウム合金におけるシリコンの割合を12.6質量%以上18質量%以下の範囲内において増減した場合の傾向は、なんら開示されていないといえることから、アルミニウム合金におけるシリコンの範囲の下限を採用した場合に酸捕捉剤等の配合量の範囲の上限を採用することは具体的には開示されているとはいえません。」と、そして、「本願発明は、引用文献1に記載の発明に対し、新規性を有します。」(審判請求書3.(2))と主張する。
しかし、上記1で検討したように、引用発明には、例えば、冷凍機油における酸捕捉剤の含有量が2.5~3質量%であるもの、あるいは酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量が2.5~6質量%であるものが含まれるところ、冷凍機油における酸捕捉剤の含有量、あるいは酸捕捉剤と酸素捕捉剤の合計含有量が当該範囲(前記した2.5~3質量%、あるいは2.5~6質量%)のものにおいて、本願発明と引用発明とは、「圧縮機」という「物」の発明として、その構成に差異がない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
3 本願発明の効果について
本願発明の奏する効果をみても、引用発明から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものとは認められない。
4 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明である、又は引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-003341