特許拒絶査定不服審判
2025-000805
電気・電子機器接続部材及びその製造方法、並びに、コイル及び電気・電子機器
- 審判番号
- 2025-000805
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-548736
- 請求日
- 2025年01月21日
- 審決日
- 2026年06月08日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】古河電気工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人クオリオ
- 【請求人代理人】赤羽 修一
- 【請求人代理人】星野 宏和
- 【請求人代理人】篠田 育男
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 孝明
- 審判官 岩瀬 昌治
- 審判官 中屋 裕一郎
- 分類
- P18 .561-Z (H01R) / P18 .537-Z (H01R) / P18 .121-Z (H01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第17条の2、特許法第36条第6項第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2021-548736「電気・電子機器接続部材及びその製造方法、並びに、コイル及び電気・電子機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月 1日国際公開、WO2021/059903〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)9月2日(優先権主張 令和元年9月27日)を国際出願とする出願であって、その手続の経緯は概ね以下のとおりである。
令和5年12月28日付け:拒絶理由通知書
令和6年 5月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 6月28日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和6年 8月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年10月28日付け:令和6年8月27日の手続補正について
の補正の却下の決定、拒絶査定
令和7年 1月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年1月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年1月21日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1~12の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 【請求項1】
軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、電気・電子機器用部材の複数の導体端部と、前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部を有する接続用部材(ただし、樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材を除く)とが融接され、
前記接続用部材が前記複数の導体端部と同じ材質で形成されている、電気・電子機器接続部材。
【請求項2】
前記位置ズレ拘束部が導体の軸線方向に交差する方向への前記導体端部の位置ズレを拘束する、請求項1に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項3】
前記位置ズレ拘束部が導体の軸線方向への前記導体端部の位置ズレを拘束する、請求項1又は2に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項4】
前記接続用部材が前記導体端部の外側に装着されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項5】
前記導体端部が前記位置ズレ拘束部と係止する被拘束部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項6】
前記接続用部材が単一部材又は複数の部材で構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項7】
前記接続用部材が、前記導体端部と接合する接合基部と、前記接合基部の端縁から前記導体端部の側面に沿ってその軸線方向に延在する裾部とを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項8】
前記接続用部材がレーザ溶接により前記導体端部と融接されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材の製造方法であって、
軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、電気・電子機器用部材の複数の導体端部に前記接続用部材を装着し、次いで、前記導体端部と前記接続用部材とを融接する、電気・電子機器接続部材の製造方法。
【請求項10】
前記導体端部と前記接続用部材とをレーザ溶接により融接する、請求項9に記載の電気・電子機器接続部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材を有するコイル。
【請求項12】
請求項11に記載のコイルを有する電気・電子機器。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和6年5月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~12の記載は次のとおりである。なお、令和6年8月27日付け手続補正書でした補正は令和6年10月28日付けの補正の却下の決定により却下された。
「 【請求項1】
軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、電気・電子機器用部材の複数の導体端部と、前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部を有する接続用部材とが接合された電気・電子機器接続部材。
【請求項2】
前記位置ズレ拘束部が導体の軸線方向に交差する方向への前記導体端部の位置ズレを拘束する、請求項1に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項3】
前記位置ズレ拘束部が導体の軸線方向への前記導体端部の位置ズレを拘束する、請求項1又は2に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項4】
前記接続用部材が前記導体端部の外側に装着されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項5】
前記導体端部が前記位置ズレ拘束部と係止する被拘束部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項6】
前記接続用部材が単一部材又は複数の部材で構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項7】
前記接続用部材が、前記導体端部と接合する接合基部と、前記接合基部の端縁から前記導体端部の側面に沿ってその軸線方向に延在する裾部とを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項8】
前記接続用部材がレーザ溶接により前記導体端部と接合されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材の製造方法であって、
軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、電気・電子機器用部材の複数の導体端部に前記接続用部材を装着し、次いで、前記導体端部と前記接続用部材とを接合する、電気・電子機器接続部材の製造方法。
【請求項10】
前記導体端部と前記接続用部材とをレーザ溶接により接合する、請求項9に記載の電気・電子機器接続部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気・電子機器接続部材を有するコイル。
【請求項12】
請求項11に記載のコイルを有する電気・電子機器。」
2 補正の適否
(1)新規事項追加の有無について
ア 当審合議体の判断
(ア)本件補正により、本件補正前は「接合」であったものを、本件補正後は「融接」としたので、この点について検討する。
(イ)まず、上記本件補正前の「接合」に着目すると、本件の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、次の記載がある。なお、以下、当初明細書等の摘記中の下線は当審合議体が付したものである。
「電気・電子機器用部材の接合方法は、接合する部材や電気・電子機器への実装位置等に応じて適切な方法が適用され、例えば、導体同士を突き合わせて接合(溶接)する方法、導体同士を対面配置して接合(溶接)する方法等が挙げられる。中でも、電気・電子機器の小型化、また接合部の強度向上に資する点で、導体同士を、溶接可能な近傍、通常対面配置(接触(重ね合わせ)及び非接触を問わない)して、接合、好ましくは溶接する方法が用される。」(【0002】)
「上述の従来の溶接方法では、溶接時に付与する熱エネルギーが導体を保持している保持機構に伝播するため、導体同士を所期の溶接状態となるように溶接するには、付与する熱エネルギーを溶接に必要なエネルギーよりも過剰に付与する必要がある。そのため、絶縁電線材等の、樹脂部材を有する電気・電子機器用部材を溶接する場合、過剰に付与した熱エネルギーが導体を介して伝播した樹脂部材(絶縁電線材の絶縁被覆層)を劣化させ、また溶接部に樹脂部材が残存しているとブローホール等が発生するという問題が生じる。ブローホールの発生は、溶接強度の低下や電気抵抗の上昇を招来することになる。そこで、通常の溶接方法では、上記問題を回避するために、対面配置させる導体の対面面積、通常対面長さ(溶接代、結果的に溶接領域)を大きくして、熱エネルギーの樹脂部材までの伝播を抑制している。
しかし、近年、電気・電子機器の小型化、高性能化等は急速に進展しており、溶接代を大きく設定する必要のある従来の溶接方法では十分に対応できない。」(【0004】)
「本発明は、導体同士を高強度かつ低抵抗で接合することができ、しかも電気・電子機器の小型化、高性能化等の要求に応えうる、電気・電子機器接続部材、及びその製造方法を提供することを課題とする。また、この電気・電子機器接続部材を用いたコイル、及びこのコイルを用いた電気・電子機器を提供することを課題とする。」(【0005】)
以上を総合すると、本件の当初明細書等には、「接合」の1つとして「溶接」が挙げられていることがわかる。
(ウ)次に、上記(イ)に鑑み、「溶接」に着目すると、当初明細書等には、次の記載がある。
「本発明において、接合には、溶接(突き合わせ溶接、重ね溶接、スポット溶接等)に加えて、導電性接着剤、導電性接着シート等を用いた接着等を包含するが、接合部の接合強度及び電気抵抗の点で、溶接が好ましく、レーザ溶接がより好ましい。」(【0013】)
「[電気・電子機器接続部材の好ましい形態]
以下に、図を参照して、電気・電子機器接続部材の好ましい形態を具体的に説明する。
下記の電気・電子機器接続部材は、いずれも、接続用部材の外側から導体端部の軸線方向に沿って(接続用部材の上方から導体端部に向けて)発射されるレーザ光を、適宜に接続用部材を介して軸線方向の垂直方向に掃引(走査)させつつ導体端部の端面に照射して、導体端部の端面の少なくとも一部が接続用部材に溶接されている。これらの電気・電子機器接続部材は、後述するように、従来の溶接方法で得られる接続用部材では実現しえない狭小ないしは短小な溶接代で、電気・電子機器用部材と接続用部材とが所期の接合状態(高強度及び低抵抗)で接合されている。」【0024】
「更に、接合方法として、溶接法、特に高出力のファイバレーザ溶接を採用すると、絶縁電線材等の絶縁層の劣化を抑えつつも溶接代を更に狭小化することができ、強度及び低抵抗を高い水準での両立しつつ、電気・電子機器の更なる小型化、高性能化を図ることができる。」(【0047】)
「導体端部と接続用部材との接合は、通常の方法を特に制限されることなく適用でき、例えば、通常用いられる各種導電性接着剤、導電性接着シート等を用いた接着法、各種溶接法が挙げられる。中でも、接合強度等に優れる点で、溶接法が好ましい。溶接法としては、TIG溶接(Tungsten Insert Gas溶接)等が挙げられるが、レーザのエネルギー密度が高く、しかも溶接部が20mm程度必要なTIG溶接に対してレーザを20μm程度の狭い幅に照射できるファイバレーザ溶接が好ましい。このファイバレーザ溶接法は、高いエネルギー密度によって、電気・電子機器用部材が有する樹脂部材(絶縁電線材においては導体絶縁層や外周絶縁層)を形成する樹脂等を溶接時に焼失させることができ、溶接時に発生、残存するススやブローホールによる問題の発生(溶接強度低下等)を回避できる。更には、ファイバレーザでは低セントリックレンズシステムを用いることで処理時間の短縮が可能となり、量産の際に有利である。ファイバレーザ溶接は、熱伝導型レーザ溶接でもよいが、深溶け込み型溶接(キーホール溶接)とすることが好ましい。」(【0050】)
以上の記載を総合すると、当初明細書等に記載されていたものは、「溶接代を大きく設定する必要のある従来の溶接方法では十分に対応できない」ことに鑑み「狭小ないしは短小な溶接代」で接合できる「レーザ溶接」であり、これに加えて、せいぜい「溶接部が20mm程度必要なTIG溶接」にとどまり、他方で「融接」という文言は記載されていない。
(エ)そこで、「融接」について検討すると、「融接」とは、「溶融溶接の略称。母材の一部を溶融し、機械的圧力を付加せずして行う溶接方法のことをいう。抵抗溶接、ガス圧接、フラシュバット溶接、高周波溶接、液相拡散接合などの接合法においても母材の一部が溶融するが、これらの接合法は融接には加えない。融接の中にはアーク溶接、エレクトロスラグ溶接、ガス溶接、テルミット溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接などの溶接方法がある。」を意味する用語である
(機械工学辞典、一般社団法人日本機械学会、https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/doku.php?id=08:1012933&s[]=%E8%9E%8D%E6%8E%A5)。
(オ)そうすると、「融接」には、少なくとも、アーク溶接、エレクトロスラグ溶接、ガス溶接、テルミット溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接などの溶接方法が含まれることが当業者の技術常識であるところ、上記(ウ)のとおり、当初明細書等に記載されていた「溶接」は、レーザ溶接及びTIG溶接にとどまるのであって、アーク溶接のうちTIG溶接以外のもの(例えば、MIG溶接やMAG溶接)、エレクトロスラグ溶接、テルミット溶接及びガス溶接などの溶接方法は当初明細書等には記載又は示唆されていない。
(カ)また、電気・電子機器接続部材の溶接方法として、アーク溶接のうちTIG溶接以外のもの、エレクトロスラグ溶接、テルミット溶接及びガス溶接などの溶接方法を用いることや、これらの溶接がレーザ溶接及びTIG溶接と比較して必要とされる溶接代が同等であるか少ないことが当業者の技術常識であるとはいえないから、当初明細書等に記載されていた「レーザ溶接」等に係る記載は、レーザ溶接及びTIG溶接以外の上記溶接方法の全てを含む「融接」の裏付けにはなり得ず、上記(ウ)で挙げた「レーザ溶接」等に係る記載を基に、当初明細書等に記載されていない「融接」へと上位概念化することは、当初明細書等の記載からみて自明な範囲内であるとは言えない。
(キ)以上のとおりであるから、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
(ク)したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
イ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、本発明の接合形態は、「溶接」の中でも、母材(接合する材料)よりも融点の低い金属等で接合する「ろう接(ろう付け、ハンダ付け)」ではなく、2つ以上の母材を物理的に溶かして接合する「融接」であることは、当業者の技術常識であり、本願明細書に記載された事項から当業者が明確に理解、把握できる事項である旨の主張をしているが、当初明細書等に記載されていた「溶接」については、上記アに示したとおりであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。
上記ウのとおりであるから、本件補正について特許法17条の2に規定される他の要件について検討するまでもないが、更に、その他の要件についても検討する。
(2)本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部を有する接続用部材」について、上記1(1)のとおり「前記接続用部材が前記複数の導体端部と同じ材質で形成されている、」との限定を付加する補正を含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)独立特許要件について
本件補正は、上記(2)のとおり特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の請求項1~12に記載される発明(以下総称して「本件補正発明」といい、請求項1~12に係る発明のそれぞれを「本件補正発明1」などという。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)、所謂独立特許要件について、検討する。
ア 当審合議体の判断
(ア)本件補正発明1では、「前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部を有する接続用部材」について「(ただし、樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材を除く)」と特定されているところ、「樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材」は、次の(i)~(iii)に挙げる点で不明確である。
(i)「樹脂ハンダで形成された」が「同軸ケーブル」のみを修飾しているのか、「同軸ケーブルの結束部材」全体を修飾しているのかが判然としない。
(ii)「同軸ケーブル」に続き格助詞「の」が記載されているが、格助詞「の」には「所属を表す」、「対象を示す」(広辞苑第7版)等様々な用法があるところ、「(ただし、樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材を除く)」の前後には「同軸ケーブル」や「結束部材」に係る特定は存在しないから、文脈を考慮しても、前記「の」の用法が判然としない。換言すると、「同軸ケーブルの結束部材」は、「同軸ケーブル」の一部を構成する「結束部材」ということなのか、「同軸ケーブル」を結束する機能を奏する「結束部材」であるのかが判然としない。
(iii)「結束」とは「むすびたばねること。」(広辞苑第7版)を意味するにとどまるところ、「結束部材」が何と何とをむすびたばねているのかが判然としない。
(イ)そして、上記(i)~(iii)に挙げた点について本件の明細書又は図面の記載を参酌するとしても、そもそも本件の明細書又は図面には「樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材」という文言自体が存在せず、「樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材」という用語について、当業者における普遍的な定義が存在するわけでもないから、当業者の技術常識を考慮しても、上記(i)~(iii)の点は不明確である。
(ウ)そうすると、その定義が不明確な「樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材」を除くことにより「前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部を有する接続用部材」としてどのようなものを特定しているのかが不明である。
(エ)したがって、本件補正発明1~12は明確ではない。
イ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において「まず、接続用部材から、上記第1.(7)拒絶理由通知(最後)における引用文献1(特開2002-298995号公報)に記載された発明の内容となっている「樹脂ハンダで形成された同軸ケーブルの結束部材」のみを、除外しました。」と主張している。
しかし、特許請求の範囲の記載については、特許法第36条第6項第4号において「その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。」と規定され、特許法施行規則第24条の4において「願書に添付すべき特許請求の範囲は、様式第二十九の二により作成しなければならない。」と規定され、これを受けて、同様式第29の2の備考7において「文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して特許請求の範囲の記載に代えてはならない。」と規定されているとおりであって、特許請求の範囲に記載された発明が明確であるか否かは、もとより他の文献等に記載された内容を援用して判断されるものではなく、このことは、所謂「除くクレーム」においても変わるところはない。
したがって、審判請求人が挙げる特開2002-298995号公報に記載された内容の如何は、上記アの判断を左右しない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明1~12は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(4)本件補正についてのむすび
上記(1)ウのとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、上記(3)ウのとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願の請求項1~12に係る発明について
1 本願の請求項1~12に係る発明
令和7年1月21日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~12に係る発明は、令和6年5月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)の請求項1に記載された事項により特定されるものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~4、6~10に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2002-298995号公報)に記載された発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 当審合議体の判断
(1)引用文献1に記載された事項
ア 引用文献1の記載
引用文献1には次の記載がある。以下、引用文献1の摘記中の下線は当審合議体が付したもの。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、中心導体及び外部導体を同軸上に配置してそれぞれ絶縁被覆で覆ってなる同軸ケーブルを、終端において他の部材に接続するための技術の分野に属する。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このように電気接続具又はプリント配線板に外部導体及び中心導体をハンダ付けする場合、導体を電気接続具又はプリント配線板に当てて溶融したハンダを塗布することになる。しかし、例えば電気コネクタの奥まった部分に導体をハンダ付けする場合又はプリント配線板の内部に導体をハンダ付けする三次元実装の場合は、ハンダ付け作業のためのスペースが十分にとれないので、ハンダ付けは困難ないしは不可能である。また、このハンダの塗布作業にはハンダのきめ細かな品質管理、温度管理等が求められるので、その分、管理工数が増す。
【0004】また、導体は、ばらけやすい。導体がばらけるとハンダ付けの作業性が悪い。しかも外部導体がばらけたときは、ばらけた分だけシールド性が損なわれる。」
「【0041】次に、本発明の実施形態を説明する。第1実施形態として示すのは、樹脂ハンダを用いた同軸ケーブルの結束部材である。図3に示すように、同軸ケーブル80は、中心導体81と、この中心導体81を覆う絶縁被覆82と、編組線よりなり絶縁被覆82の外側を覆う外部導体83と、外部導体83を覆う絶縁被覆84とを備えている。図1及び図2に示すように、結束部材には、外部導体83の結束部材10と、中心導体81の結束部材20とがある。外部導体83の結束部材10は絶縁被覆84から露出する外部導体83に被さる筒形に形成されている。結束部材10は筒形であれば形状を問わないが、ここでは貫通孔11を有する円筒形に形成されている。貫通孔11の一方の開口には必要に応じて面取り部12が形成されており、これによって同軸ケーブル80の端部を貫通孔11に案内するようにしている。中心導体81の結束部材20は絶縁被覆82から露出する中心導体81に被さる筒形に形成されている。結束部材20は筒形であれば形状を問わない。ここでは一端にのみ開口する有底穴21を有する円筒形に形成されているが、この有底穴21の代わりに貫通孔としてもよい。有底穴21の開口には必要に応じて面取り部22が形成されており、これによって中心導体81の端部を有底穴21に案内するようにしている。そして、これらの結束部材10、20は、導電性樹脂組成物からなる鉛フリー超高導電性プラスチックにより形成されている。
【0042】この結束部材10、20の使用方法を説明する。図3に示すように、絶縁被覆84の端部を剥離して外部導体83を露出させ、露出した外部導体83を裏返して絶縁被覆84の新たな端部に被せる。この場合、露出した外部導体83をそのままにしておいてもよい。また、絶縁被覆82の端部を剥離して中心導体81の端部を露出させる。図4に示すように、この結束部材10を絶縁被覆84から露出する外部導体83に被せ、両者の接触部分を加熱すると、結束部材10の鉛フリー超高導電性プラスチックが含有する鉛フリーハンダが融け出して外部導体83に付着し、これが冷却して固まると結束部材10が外部導体83に接続される。また、図5に示すように、結束部材20を絶縁被覆82から露出する中心導体81に被せ、両者の接触部分を加熱すると、結束部材20の鉛フリー超高導電性プラスチックが含有する鉛フリーハンダが融け出して中心導体81に付着し、これが冷却して固まると結束部材20が中心導体81に接続される。上記加熱は、例えば熱風を吹き付けたり、高周波又はレーザー光線を照射して熱エネルギーを付与することにより行う。
【0043】この同軸ケーブル80に接続された結束部材10、20を、電気接続具又はプリント配線板に当てて両者の接触部分を加熱すると、結束部材10、20の鉛フリー超高導電性プラスチックが含有する鉛フリーハンダが融け出して電気接続具又はプリント配線板に付着し、これが冷却して固まると結束部材10、20が電気接続具又はプリント配線板に接続される。これによって同軸ケーブル80が電気接続具又はプリント配線板に接続される。上記加熱は、例えば熱風を吹き付けたり、高周波又はレーザー光線を照射して熱エネルギーを付与することにより行う。図7は結束部材10、20をプリント配線板90に接続した使用例を示し、外部導体83の結束部材10をプリント配線板90の接地導体91に接続し、中心導体81の結束部材20をプリント配線板90の信号導体92に接続している。結束部材10、20をターミナル、電気接触子等の電気接続具に接続した使用例は後述する。
【0044】この第1実施形態の結束部材を用いた場合、同軸ケーブル80を電気接続具又はプリント配線板90に接続するときに、別途にハンダを塗布する作業が不要となる。そのため、ハンダ付け作業のためのスペースが十分にとれない場合であっても、電気接続具又はプリント配線板90に同軸ケーブル80を容易に接続することができる。また、ハンダの品質管理、温度管理等がなくなり、その分、管理工数が減る。しかも、結束部材10、20が外部導体83又は中心導体81を環状に覆って外部導体83又は中心導体81がばらけないので、外部導体83又は中心導体81を電気接続具又はプリント配線板90に容易に接続することができて作業性が良く、しかも結束部材10、20は導電性を有するから信号線のシールド性も確保される。さらに、極細線の接続が自動機でもできることになり、生産性が高くなってコストが低減される。また、鉛フリー超高導電性プラスチックは、体積固有抵抗値で10-3Ω・cm以下という高い導電性を示す。そのため、結束部材10、20の電気抵抗を低くすることができる。また、同軸ケーブル80を接続したあと通常レベルで通電しても発熱によって鉛フリー超高導電性プラスチックが融け出すことがない。しかも、鉛フリー超高導電性プラスチックは、絶縁体の表面に導電性のメッキ層を形成するMIDの技術に較べて、導体の断面積、体積を大きくとれるので、導体抵抗を小さくすることができ、熱放散が良好である。したがって大電流を流すことができる。さらに、鉛フリー超高導電性プラスチックは射出成形が可能であるので、結束部材10、20を射出成形により一挙に成形することができる。しかも、成形の自由度が大きいので結束部材10、20を使用箇所に応じて種々の形状に成形することが可能である。そのため、インピーダンス整合を得ることが容易である。」
「図5
[図:0001437931000001.jpg]
」
以上の記載から、結束部材20が中心導体81に接続された部材に関して、次のことがわかる。
・同軸ケーブル80のばらけやすい中心導体81の端部が、電気接続具又はプリント配線板90に接続される(【0001】【0003】【0004】【0041】【0043】)。
・結束部材20が、中心導体81に被さる筒型に形成され、結束部材20が、中心導体81を環状に覆って中心導体81がばらけない(【0041】【0044】図5)。
・結束部材20と中心導体81の接触部分を加熱すると、結束部材20の鉛フリー超高導電性プラスチックが含有する鉛フリーハンダが溶け出して中心導体81の端部に付着し、これが冷却して固まり、結束部材20が中心導体81の端部に接続される(【0042】)。
イ 引用文献1に記載された発明
上記アから、引用文献1には、以下の発明が(以下「引用発明」という)記載されていると認められる。
「電気接続具又はプリント配線板90に接続される同軸ケーブル80のばらけやすい中心導体81の端部と、
前記中心導体81に被さる筒型に形成され、前記中心導体81を環状に覆って中心導体81がばらけない結束部材20と、
前記結束部材20と前記中心導体81の接触部分を加熱すると、前記結束部材20の鉛フリー超高導電性プラスチックが含有する鉛フリーハンダが溶け出して中心導体81の端部に付着し、これが冷却して固まり、結束部材20が中心導体81の端部に接続された部材。」
(2)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比する。
同軸ケーブルの中心導体は軟銅線又はこれをより合わせたもの等からなることが当業者の技術常識であるところ(参考:JIS C 3501-1993「高周波同軸ケーブル」)、「ばらける」とは「まとまっていたものが、ばらばらになる。」(広辞苑第7版)を意味するから、引用発明の「ばらけやすい中心導体81」は、複数の導体をより合わせたものであることがわかる。
そして、複数の導体をより合わせたものである以上、複数の導体の端部相互は、複数の導体の軸線方向に沿って並列な状態で対面配置されることになるから、引用発明の「電気接続具又はプリント配線板90に接続される同軸ケーブル80のばらけやすい中心導体81の端部」と本願発明の「軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、電気・電子機器用部材の複数の導体端部」とは、「軸線方向に沿って並列に対面配置された、複数の導体端部」の点で共通する。
引用発明において、「中心導体81の端部」が「ばらける」と、中心導体81のより合わされた複数の導体の端部同士が互いに離れた状態となるが、引用発明にいては、このような複数の導体の端部同士が互いに離れた状態となることが、「拘束部材20」が、「前記中心導体81に被さる筒形に形成され、前記中心導体81を環状に覆」うことで防止される。これに対して、本願発明の「導体端部の対面配置状態の位置ズレ」とは、「導体端部の軸線に交差する方向への導体端部の位置ズレを含み」、「導体の軸線方向に交差する方向への導体端部の位置ズレは、導体端部同士の対面距離が広がる(重なり方向に離間する)位置ズレを含」み(本願明細書【0014】)、また、本願発明の「接続用部材は、自身が単独で位置ズレ拘束部を兼ねてもよく」、「接続用部材自身が単独で位置ズレ拘束部を兼ね場合、詳細は後述するが、例えば、接続用部材に設けられる導体端部を収納する空隙部(有底孔)が位置ズレ拘束部として機能する態様が挙げられる」(本願明細書【0015】)。これらを踏まえれば、引用発明の「前記中心導体81に被さる筒型に形成され、前記中心導体81を環状に覆って中心導体81がばらけない結束部材20」が、本願発明の「前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部」に相当するとともに、本願発明の「位置ズレ拘束部を有する接続用部材」に相当する。
引用発明の「前記結束部材20と前記中心導体81の接触部分を加熱すると、前記結束部材20の鉛フリー超高導電性プラスチックが含有する鉛フリーハンダが溶け出して中心導体81の端部に付着し、これが冷却して固まり、結束部材20が中心導体81の端部に接続された」との事項は、本願発明の「複数の導体の端部と、」「接続用部材とが接合された」との事項に相当する。
引用発明の「結束部材20が中心導体81の端部に接続された部材」と本願発明の「電気・電子用機器接続部材」とは、「部材」との点で共通する。
したがって、本願発明と引用発明は、次の点で、一致及び相違する。
[一致点]
軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、複数の導体端部と、前記導体端部における対面配置状態の位置ズレ拘束部を有する接続用部材とが接合された部材。
[相違点]
「軸線方向に沿って並列に対面配置された、複数の導体端部」、及び「部材」に関し、本願発明は、これらが、「軸線方向に沿って並列な状態で対面配置された、電気・電子機器用部材の複数の導体端部」及び「電気・電子機器接続部材」であるのに対し、引用発明は、これらが、「電気接続具又はプリント配線板90に接続される同軸ケーブル80のばらけやすい中心導体81端部」及び「結束部材20が中心導体81の端部に接続された部材」である点。
(3)判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「同軸ケーブル80」は、「電気接続具又はプリント配線板90に接続される」ものであるところ、電気接続具やプリント基板は電気・電子機器を構成する部品として存在することが当業者の技術常識であるから、当業者であれば、引用発明の「同軸ケーブル80」を、電気・電子機器に接続される部材、すなわち電気・電子機器用部材と考えることが自然である。
そうすると、引用発明の「電気接続具又はプリント配線板90に接続される同軸ケーブル80のばらけやすい中心導体81端部」は、電気・電子機器用部材の複数の導体端部といえる。
以上によれば、引用発明を上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が引用発明を具体化する際に設計上適宜になし得たことであり、このようなことは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願の請求項2~12に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-000805