商標異議申立
2024-900213
ニンジャリンピック
- 審判番号
- 2024-900213
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2023-076110
- 登録番号
- 6829807
- 請求日
- 2024年10月09日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サムライ金沢株式会社
- 【異議申立人】コミッティー インターナショナル オリンピック
- 【異議申立人代理人】田中 尚文
- 【異議申立人代理人】岡田 淳
- 【異議申立人代理人】渡部 彩
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 良成
- 審判官 小田 昌子
- 審判官 馬場 秀敏
- 分類
- T1651.21 -Y (W2541) / T1651.22 -Y (W2541) / T1651.261-Y (W2541) / T1651.262-Y (W2541) / T1651.263-Y (W2541) / T1651.271-Y (W2541)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項6号商標法4条1項7号商標法4条1項11号商標法4条1項15号商標法43条の2商標法43条の3第4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第6号、商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第11号、商標法第2条、商標法第4条第1項第10号
- データ出所
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登録第6829807号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6829807号商標の商標登録を維持する。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6829807号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、令和5年6月26日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。),運動用特殊靴」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,インターネットを利用して行う音楽の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),写真の撮影」を指定商品及び指定役務として、同6年6月6日に登録査定され、同年8月1日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、引用する国際登録第1128501号商標(以下「引用商標」という。)は、「OLYMPIC」の文字からなり、2011年(平成23年)9月16日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年11月8日に国際商標登録出願、第1類ないし第22類及び第24類ないし第45類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成27年6月19日に設定登録され、その後、指定商品及び役務については、2021年(令和3年)10月28日に国際登録簿に記録された指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分の減縮により、第1類ないし第3類、第5類、第7類ないし第12類、第14類、第16類ないし第19類、第21類、第24類、第25類、第28類、第32類、第35類ないし第39類、及び第41類ないし第44類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務となり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
2 申立人が、同人の運営・統括の中心となって開催する「オリンピック競技大会」やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業を示すものとして、需要者の間に広く知られていると主張する標章は、引用商標と構成を同じくする「OLYMPIC」の文字よりなる標章(以下「「OLYMPIC」標章」という。)である。
以下、引用商標と「OLYMPIC」標章をまとめていうときは、「引用商標及び標章」という。
第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第6号、同項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第132号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第6号について
(1)申立人について
申立人は、近代オリンピックの創始者であるフランス人、ピエール・ド・クーベルタン男爵の提唱で1894年6月23日に設立された、オリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体である(甲4)。
申立人は、世界中の競技者を一同に集めて開催される偉大なスポーツの祭典たるオリンピック競技大会の運営・統括とともに、オリンピックの理念であるオリンピズムを具現化し、次の世代へと受け継いでいく様々な活動たるオリンピック・ムーブメントを統括する最高機関として、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを普及させる役割を担っている(甲4)。
(2)「OLYMPIC」標章の著名性及び公益性について
申立人が運営・統括に携わる、近代オリンピック競技大会の誕生は、今から130年以上前の1896年であり、同年に第一回オリンピックアテネ大会が開催され、以後、オリンピック競技大会は1世紀以上にわたり、美と技を競う世界規模の平和とスポーツの祭典として原則として2年又は4年に一度開催されてきた。
近年に開催された、2008年の第二十九回夏季オリンピック北京大会及び2012年の第三十回夏季オリンピックロンドン大会には、いずれも204の国と地域から1万人以上もの選手が参加し(甲5)、また、2016年の第三十一回夏季オリンピックリオデジャネイロ大会には過去最大の205の国と地域から1万1000人以上の選手が参加しており(甲6)、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の数十億の人々に視聴された。
甲第7号証ないし甲第66号証は、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍の一部であり、「OLYMPIC」の文字からなる引用商標と同一の標章が、オリンピック競技大会を表すものとして、130年以上もの間継続して使用されてきた事実をうかがい知ることができる。
以上より、1886年の第一回オリンピックアテネ大会から2024年の第三十三回夏季オリンピックパリ大会までの130年以上の長期にわたり、世界の各都市を舞台として盛大に開催されてきた、オリンピック競技大会を指称する「OLYMPIC」なる標章は、全世界で老若男女問わず、申立人がその運営・統括の中心となって開催するオリンピック競技大会やその関連活動等を広く示すものとして認識されており、その程度は極めて高く、世界でも最も著名な標章の一つであるとともに、公益性も非常に高いものであることは明白である。
上述の諸点に加え、申立人及び「OLYMPIC」標章の公益性について更に触れると、オリンピック憲章では、申立人の使命として、「スポーツと文化および教育を融合させる活動を奨励し支援する」と規定されている(甲4)。かかる規定に基づき、申立人は、オリンピック・ムーブメントの一環として、様々な教育・文化活動を世界的規模で行い、「OLYMPIC」標章は、これらの各種教育・文化活動についても広く用いられ、親しまれている。我が国では、日本オリンピック委員会(JOC)等がオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業として、各種の教育・文化活動を国内で精力的に行っており(甲67~甲119)、このような活動は多岐にわたる。
以上より、申立人は、多くの協力者とともに、オリンピック・ムーブメントと呼ばれる、オリンピックの理念であるオリンピズムを具現化し、次の世代へと受け継いでいく様々な活動を行い、また、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを推進すべく、普遍かつ恒久的な活動を行っており、このような活動の状況からしても「OLYMPIC」が公益性の高い標章であることは明らかである。
(3)本件商標と「OLYMPIC」標章について
本件商標は、2023年5月に石川県金沢市で開催された、パルクール、ブレイクダンス、BMX、3×3バスケットボール等をはじめとする都市型スポーツの大会「忍者リンピック金沢城大会2023」のロゴとして採択及び使用されたものである(甲122~甲124)。他方、申立人に係るオリンピック競技大会を表象する「OLYMPIC」標章は、欧文字を横書きにして表されてなるものである。
しかして、本件商標を構成する「NINJALYMPIC」の文字は、「忍者」の語をローマ字で表記した「NINJA」と「OLYMPIC」の語を組み合わせてなるものであると容易に理解させるものであるところ、当該都市型スポーツの大会の種目の一つであるパルクールは、「現代版忍者」とも称されていることに加え、当該都市型スポーツの大会以外にも、当該競技と忍者とを融合させたコンセプトからなる大会やイベント等が開催されており、更には、当該競技を扱った記事等では、これを形容するに際して「まるで忍者のよう」等といった忍者と紐づけた表現が多く用いられている実情があることを考慮すると(甲125~甲131)、需要者等の間において、「忍者」の語は当該競技と密接な関連性を有するものとして十分に認識されているものと思料されるから、本件商標の構成中の「NINJA」の文字部分は、単に「OLYMPIC(オリンピック)」に係る種目の一つを表したものと把握されるにすぎないものといい得るものである。
加えて、上記大会は「パルクール、ストリートダンス、ブレイクダンス、BMX、3×3バスケットボール、カポエイラ、タグラグビー、モルックといった若者に人気のある都市型スポーツの普及や育成を目的としたイベント」であって、「石川県内で全国大会を開いた実績のある忍者パルクール協議会が、競技の枠を超えてアーバンスポーツを盛り上げようと、集結を呼びかけたことが発足のきっかけとなります。」と紹介されており、このことから当該都市型スポーツの大会は、その規模や期間等に顕著な差異はあれど、申立人に係るオリンピック競技大会や申立人がオリンピック・ムーブメントの普及・啓発活動の一環として精力的に行ってきたオリンピック競技大会に関連する各種教育・文化活動とその内容や理念等において相通じるところがあることは明らかである。
そうとすれば、本件商標は、その構成中の「LYMPIC」の文字部分について、格段に強い自他商品・役務識別力を有するものと認められることから、これに接する取引者・需要者は、「LYMPIC」の文字が語順を入れ替えることもなくそのまま「OLYMPIC」に包含されることも相まって、当該文字部分からオリンピック憲章に基づく著名な標章たる「OLYMPIC」を想起し、記憶にとどめるものというべきであり、「OLYMPIC」の標章と何らかの関連性があると捉えられ、全体として相紛らわしい類似の商標と認識されると考えられる。
(4)小括
以上を総合すると、「OLYMPIC」標章は、申立人に係る公益に関する事業であって営利を目的としない事業であるオリンピック競技大会を表象するものとして、本件商標の登録出願時には、我が国はもとより世界的に著名になっており、かつ、その状態は登録査定時においても継続していたと認められるものである。そして、本件商標と「OLYMPIC」商標とは類似するものであることからすると、本件商標は、商標法第4条第1項第6号の規定の規定に違反して登録されたことが明らかである。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)「OLYMPIC」標章は極めて公益性が高く、世界各国で著名に至っていることは明白であるから、これと同一又は類似、あるいは、これとの関連性を想起させるような商標の登録・使用が認められれば、スポーツによる教育、平和への貢献といったオリンピック・ムーブメントにより築き上げられた価値観が棄損され、公益に反する結果を招くことは想像に難くなく、特に、2021年の夏には東京で第三十二回夏季オリンピック東京大会が開催され、日本でもオリンピック・ムーブメントの公益的な目標の達成に向けて官民一体となって邁進してきたことにも鑑みると、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性の検討に際しては、「OLYMPIC」標章及びこれの使用される各種活動の公益性という点が十分に考慮されるべきである。
(2)申立人は、オリンピズムの理念に基づいてオリンピック競技大会を頂点としたオリンピック・ムーブメントを永きにわたり主導的な立場で推進してきたが、申立人と何ら関わりのない本件商標は、著名な「OLYMPIC」標章に便乗し、その信用、名声にあやかろうとする意図が明らかであって、申立人が推進してきたオリンピック・ムーブメントが阻害されるに他ならない。
本件商標は、「忍者」の語をローマ字で表記した「NINJA」と「OLYMPIC」の語を組み合わせて構成されてなるものと容易に理解させるものであることから、著名な「OLYMPIC」標章に着想を得て創作されたものであることは明白であるとともに、スポーツの大会用に採択されたロゴであって、その大会の内容や理念等についてもオリンピック競技大会やそれに関連した各種教育・文化活動と相通じる要素があること等をも鑑みると、これに接する需要者等をして「OLYMPIC」標章との関連性を想起させるおそれが極めて高いというべきである。
上述の諸点に鑑みると、本件商標は、「OLYMPIC」標章に化体した信用にただ乗りし、不正な利益を得ようとしたものであって、スポーツを通じ、平和でよりよい世界の実現に貢献するという、まさに公共の利益を追求するオリンピック競技大会の尊厳が害されるおそれがあるのみならず、「OLYMPIC」標章の著名性にあやかって不正な利益を得ようとするものであり、公正な取引秩序を乱すばかりか、国際信義及び公序良俗にも反するものである。
したがって、本件商標のように申立人と何ら関係のない者が本件商標を独占して使用することは、オリンピック憲章に基づき開催されるオリンピック競技大会の権威を損なうおそれがあるばかりか、社会公共の利益に反し、公の秩序を乱すものと判断されるのが相当である。
そうすると、本件商標は、「OLYMPIC」標章に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して出願し登録を受けたもので、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。
(3)小括
上述のとおり、本件商標は、申立人が運営・統括に携わるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメント推進のための様々な式典やイベントで使用されている著名な「OLYMPIC」標章に化体した信用にただ乗りし、あやかろうとしたものであり、社会公共の利益に反し、公の秩序を乱すことは明らかであって、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたことが明らかである。
3 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標とが類似の関係にあることは前記1(3)のとおりであって、また、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とは類似のものである。
したがって、引用商標に係る出願日及び登録日のいずもれが本件商標に係る商標登録出願の出願日及び登録日に先立つものであることも考慮すると、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものである。
(2)小括
上述のとおり、本件商標は、引用商標と同一又は類似の商標であって、その指定商品及び指定役務も同一又は類似のものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたことが明らかである。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)「OLYMPIC」の著名性について
申立人が運営・統括に携わり、1886年の第一回オリンピックアテネ大会から2024年の第三十三回夏季オリンピックパリ大会までの130年以上の長期にわたり、世界の各都市を舞台として開催されてきた、オリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業にて使用されてきた「OLYMPIC」標章が、我が国は当然として全世界で極めて著名性の高いものであることは、上記1(2)のとおりである。
オリンピック競技大会の開催をはじめとするオリンピック・ムーブメントの諸活動を継続的に実施のためには莫大な費用が必要であり、オリンピック・ムーブメントの推進には、民間企業等の資金的・技術的な協力が不可欠であることから、申立人は、世界各国でオリンピック・ムーブメントの推進と、オリンピック競技大会運営のための資金調達を目的としたマーケティング活動を実施している。
このようなマーケティングの主なものとしては、スポンサーシップ、放映権、ライセンシングがある(甲120、甲121)。このうち、スポンサーシップ契約は、原則として1業種につき1社のみとされ、これにより契約したスポンサーは、契約したスポンサーの種類に応じ、「OLYMPIC」の名称、オリンピック・シンボル(五輪マーク)、大会のエンブレムと大会マスコット等のオリンピック資産を利用した様々なマーケティング活動を行うことができる。オリンピックのスポンサー契約のうち、最高位のスポンサーシッププログラムが、申立人が1985年にスタートさせたTOP(THE OLYMPIC Partner)プログラムであり、TOPのスポンサー企業は、世界的規模で、契約を締結した各分野について独占的に、オリンピック資産を活用したマーケティングを行うことが可能となる(甲121)。なお、2014年の冬季オリンピックソチ大会及び2016年の夏季オリンピックリオデジャネイロ大会のTOPスポンサーは12社という非常に厳選された数字となっている。
また、オリンピック開催国では、国内マーケティングプログラムが用意され、TOPスポンサーの業種との調整を踏まえて、業種別にスポンサー企業が決められることになっており(甲121)、例えば、2012年の夏季オリンピックロンドン大会のスポンサー企業の数は42社、2014年の冬季オリンピックソチ大会のスポンサー企業の数は46社に上った。
そして、2021年に開催された第三十二回夏季オリンピック東京大会でも、TOPスポンサー企業、東京2020オリンピックゴールドバートナー及び東京2020オリンピックオフィシャルパートナーとしての契約がこれまでと同様に締結され、同大会の開催に伴う経済波及効果は約3兆円との試算が示されていることからも分かるように、マーケティング活動を介しても、「OLYMPIC」が著名なものとなっていることが容易に理解できるものである。
(2)出所の混同のおそれについて
ア 上述のように、「OLYMPIC」は、申立人が中心となって開催されるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業にて長年にわたって使用され、著名であることは、特許庁における数多の異議・審判事件からも疑いようのない事実であることから、この点を十分に踏まえた上で、本件商標が出所の混同を生ずるか否かを以下に検討する。
イ 商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は登録を認めないこととし、同項第10号から同項第14号までに該当しない商標であっても、取引の実情等を勘案して登録を認めないことにより、具体的観点から出所の混同を防止しようとする規定と考えられる。
そして、その出願商標(の使用)により混同が生じる対象を、「他人の業務に係る商品又は役務」としていることからすると、当該他人がその業務に係る商品等に使用する商標のみに限定されず、名称や略称、ブランド名等のように、商標的な使用(商標法第2条1項各号、同3項各号、同4項)がなされていない標章等であっても、他人以外の者に使用された場合、その使用された商品又は役務との関係で出所表示機能を発揮し得る可能性があれば、これらも含めた上で同号に規定する「混同の生じるおそれ」の有無を判断するものと理解される。
そもそも、同号が規定された趣旨・目的は、商標法第4条第1項第10号から同項第14号に該当しない商標のうち、主に周知・著名な標章との関係で相紛らわしい商標の登録を認めないことにより、実際の取引における商品等の出所の混同が生じるおそれを未然に防ぎ、需要者の利益の保護を図るという側面がある一方、これらが周知・著名に至るにはその使用等をする者において多大な労力、費用、時間を費やしているものの、そのような周知・著名な標章はその顧客吸引力に着目した他人による便乗使用等が起こり易く、使用者自身が他人による不利益をこうむらないためには、自らが当該他人に係る商標の使用を行う予定がないとしても、これと同一又は類似の商標について防衛的に登録出願をせざるを得ず、更なる出費や市場監視等の負担を課することとなるから、このような理不尽な事態を招くおそれを予め排除し、周知・著名商標の希釈化を防ぐと共に、その使用をする者の業務上に限定されない全般的な信用の維持を図り、更にこれらの者に無駄な負担を課すことなく標章等の継続的な使用を確保し、最終的に取引秩序の維持を達成することをも目的にしていると考えられるものである。
そうとすると、商標法第4条第1項第15号の適用に当たっては、混同を生ずるおそれがある対象が当該他人の使用する商標であるかは全く問題とならず、法上の商標としては認められないものの、商品等との関係で周知・著名な当該他人の名称や略称、又はその者に係る各種活動等も当然にその対象に含み、かつ、出願商標の採択の必要性、取引の実情等を多角的に十分に勘案した上で同号の該当性を判断するのが、規定中の文言及び立法趣旨からも妥当である。
ウ このような状況において、申立人の使用に係る「OLYMPIC」が1894年から現在に至るまでおよそ130年以上にわたり、世界最大級のスポーツの祭典であるオリンピック競技大会を指称する商標として使用されており、オリンピック競技大会といったスポーツの興行の企画・運営にとどまらず、これに関連した極めて広範な商品や役務との関係で著名であることは、上述の諸点より明らかである。
また、本件商標は、上述のとおり、「忍者」の語をローマ字で表記した「NINJA」と「OLYMPIC」の語を組み合わせて構成されてなるものと容易に理解させるものであることから、著名な「OLYMPIC」標章に着想を得て創作されたものであることは明白であるとともに、スポーツの大会用に採択されたロゴであって、その大会の内容や理念等もオリンピック競技大会やそれに関連している各種教育・文化活動と相通じる要素があることも考慮すると、「OLYMPIC」の極めて高い著名性と相まって、本件商標は「OLYMPIC」関連の一群の商標と認識され得るものである。
そして、申立人は、各企業とのスポンサーシップ契約を締結し、それらのスポンサーがオリンピック資産を利用したさまざまなマーケティング活動を行っているという実態からすれば、著名な「OLYMPIC」標章との関係性を容易に想起させる本件商標が付された本件指定商品・指定役務が実際の商取引に資された場合、これに接した需要者・取引者は、申立人あるいは日本オリンピック委員会と正式なスポンサー契約を締結した、オフィシャルスポンサーの業務に係る商品・役務であるかのごとく、商品・役務の出所について混同を生じるおそれがあることは明らかである。
(3)小括
したがって、申立人が中心となって開催されるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業を表示する「OLYMPIC」と密接な関連性を印象付ける本件商標は、これが使用された場合、オリンピック競技大会を容易に想起又は連想させ、申立人あるいは日本オリンピック委員会とスポンサー関係にある者の業務に係る商品又は役務であると商品・役務の出所について混同を生じさせるおそれがあることから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
第4 当審の判断
1 引用商標及び標章の周知性について
(1)申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 申立人は、1894年に設立された、オリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体であり、オリンピック競技大会は、1896年の第1回オリンピックアテネ大会以降、約130年にわたり、世界規模のスポーツの祭典として、原則として4年に一度開催され、多くの国と地域から多数の選手が参加しており、2008年の第29回夏季オリンピック北京大会及び2012年の第30回夏季オリンピックロンドン大会には、いずれも204の国と地域から1万人以上の選手が参加し(甲5)、2016年の第31回夏季オリンピックリオデジャネイロ大会には、205の国と地域から1万1000人以上の選手が参加し、テレビ、インターネット及びラジオを通じて世界中の人々に視聴された(甲6)。
また、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍などに「OLYMPIC」の文字及びその片仮名表記である「オリンピック」の文字がオリンピック競技大会を表示するものとして継続して使用されたことがうかがえる(甲7~甲66)。
イ オリンピック憲章では、申立人の使命として「スポーツと文化および教育を融合させる活動を奨励し支援する」と規定されており(甲4)、申立人は、当該規定に基づき、「OLYMPIC」標章の下、オリンピック・ムーブメントの一環として、様々な教育・文化活動を世界的規模で行い、我が国では、日本オリンピック委員会(JOC)等がオリンピック・ムーブメントの普及、啓発活動として、各種の教育・文化活動を多岐にわたり行っている(甲67~甲119)。
(2)上記(1)よりすれば、オリンピック競技大会は、約130年にわたり開催され、多くの国と地域から多数の選手が参加しており、テレビ、インターネット及びラジオを通じて世界中の人々に視聴され、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍などに「OLYMPIC」の文字及びこれより構成される引用商標が、オリンピック競技大会を表示するものとして継続して使用されたこと、申立人は、引用商標及び標章を使用し、オリンピック競技大会及びオリンピック・ムーブメントと呼ばれる様々な教育・文化活動を行っていたことなどから、引用商標及び標章は、多くの国と地域から多数の選手が参加する、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたといえる。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、デザイン化された「NIN」の文字に続き「JALYmPIC」の文字からなる別掲のとおりの構成よりなるところ、本件商標はその構成全体に相応した「ニンジャリンピック」の称呼を生じるものである。
そして、「NINJALYmPIC」の文字は、一般の辞書等に載録された語ではなく、直ちに何らかの意味合いを理解、認識させるものでもないから、一種の造語として認識されるものである。
したがって、本件商標からは、「ニンジャリンピック」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標について
引用商標は、上記第2の1のとおり、「OLYMPIC」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「オリンピック」の称呼が生じ、上記1のとおり、当該文字が、「オリンピック競技会」を表示するものとして、需要者の間に広く知られていることから、「オリンピック競技会」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標を比較すると、両者は、上記(1)及び(2)のとおりの構成よりなるところ、外観において、本件商標の構成全体と引用商標とは、前半部分のデザイン化された「NIN」の文字の有無によって、明確に区別できるから、両者は、外観において、明確に区別し得る。
次に、称呼においては、本件商標から生じる「ニンジャリンピック」の称呼と引用商標から生じる「オリンピック」の称呼とは、「ニンジャ」と「オ」の音の差異及び構成音数が相違するから、明瞭に聴別され、相紛れるおそれはない。
さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは、「オリンピック競技大会」の観念が生じるから、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにもおいても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(4)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務との類否について言及するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第6号該当性について
オリンピック憲章(甲4)によれば、申立人は、オリンピック競技大会を運営、統括する国際的な非政府の非営利団体であって、オリンピック・ムーブメントを統括する最高機関として、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを奨励し、オリンピック・ムーブメントを主導する役割を担っているものと認められ、申立人が主催するオリンピック競技大会は、正に「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」に該当するものである。
そして、引用商標及び標章は、上記1のとおり、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして著名なものと認められる。
しかしながら、「OLYMPIC」の文字からなる引用商標及び標章は、上記2(3)のとおり、本件商標と非類似の商標である。
そうすると、本件商標は、「公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」とはいえないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標及び標章の周知性について
上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標及び標章は「オリンピック競技大会」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く知られていたものである。
(2)本件商標と引用商標及び標章の類似性の程度について
本件商標と引用商標及び標章とは、上記2(3)のとおり、非類似の商標であって、別異の商標というべきものであるから、その類似性の程度は極めて低い。
(3)出所の混同のおそれについて
上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標及び標章は、我が国の需要者の間に広く知られていたものであるとしても、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標及び標章とは、類似性の程度は極めて低いことから、引用商標及び標章が使用される商品及び役務の需要者と本件商標の指定商品及び指定役務の需要者が一部共通するとしても、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品及び指定役務に使用したときに、これに接する取引者、需要者が、引用商標及び標章を連想、想起するとはいえず、その商品及び役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれはないというべきである。
その他、本件商標が引用商標及び標章との関係において、出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、本件商標権者がその指定商品及び指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が、引用商標及び標章を連想、想起するとはいえず、その商品及び役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
上記1のとおり、引用商標及び標章が我が国の需要者の間に広く知られているものであるとしても、本件商標と引用商標及び標章とは上記2(3)のとおり、非類似の商標であり、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど、登録を維持することが商標法の予定する秩序に反するものというべき証左も見いだせない。
さらに、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではなく、特定の国若しくは国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
そうすると、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第6号、同項第7号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも該当するものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-900213