商標異議申立
2024-900019
ミツイセーヤク、ミツイ
- 審判番号
- 2024-900019
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2023-025975
- 登録番号
- 6754610
- 請求日
- 2024年01月25日
- 審決日
- 2024年12月25日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日本三井製薬株式会社有限公司
- 【権利者代理人】坪内 康治
- 【異議申立人】三井薬品 株式会社
- 【異議申立人代理人】中里 浩一
- 【異議申立人代理人】中里 卓夫
- 【異議申立人代理人】八鍬 昇
- 【異議申立人】三井物産 株式会社
- 【異議申立人代理人】田中 伸一郎
- 【異議申立人代理人】中村 稔
- 【異議申立人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【異議申立人代理人】藤倉 大作
- 【異議申立人代理人】相良 由里子
- 【異議申立人代理人】石戸 孝
- 【異議申立人代理人】松野 仁彦
- 【異議申立人代理人】尾首 智子
- 【異議申立人代理人】渡邊 由水
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 和行
- 審判官 大森 友子
- 審判官 小俣 克巳
- 分類
- T1651.18 -Z (W0310293044) / T1651.22 -Z (W0310293044) / T1651.261-Z (W0310293044) / T1651.262-Z (W0310293044) / T1651.263-Z (W0310293044) / T1651.271-Z (W0310293044)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法3条1項商標法4条1項7号商標法4条1項11号商標法4条1項15号商標法43条の3第2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第11号、商標法第4条第1項第15号、商標法第3条第1項、商標法第4条第1項第7号、商標法第43条の4第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
登録第6754610号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6754610号商標の商標登録を取り消す。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6754610号商標(以下「本件商標」という。)は、「三井製薬」の文字を横書きした構成からなり、令和5年2月27日に登録出願、第3類、第10類、第29類、第30類及び第44類に属する別掲1のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年11月6日に登録査定され、同月16日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
1 登録異議申立人「三井薬品株式会社」(以下「申立人1」という。)の引用商標
申立人1が、本件商標の登録異議の申立ての理由において、引用する商標は、以下の2件の商標であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第6338114号商標(以下「引用商標1」という)は、「三井薬品」の文字を標準文字により表してなり、令和2年1月10日に登録出願、第10類「マッサージ機器,医療用機械器具,血圧計,医療用温度計,医療用リハビリテーション機械器具,体脂肪測定器,体組成計,血糖測定器,ガルヴァーニ電気治療機械,医療用冷却パッチ」を指定商品として、同3年1月7日に設定登録されたものである。
(2)登録第6348480号商標(以下「引用商標2」という)は、別掲2のとおりの構成からなり、令和2年9月23日に登録出願、第3類、第5類、第10類及び第35類に属する別掲3のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同3年2月3日に設定登録されたものである。
上記の引用商標1及び引用商標2をまとめていうときは、以下「引用商標」という。
2 登録異議申立人「三井物産株式会社」(以下「申立人2」という。)の引用標章
申立人2が、本件商標の登録異議の申立ての理由において、引用する標章(以下「引用標章」という。)は、「三井」ないし「三井」を含む「三井グループ」の文字からなり、申立人2が、申立人2及びその関連会社の商品及び役務を表示するものとして、周知・著名であると主張する標章である。
第3 登録異議の申立ての理由
1 申立人1の申立ての理由(申立番号01)
申立人1は、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第10類「全指定商品」(以下「申立てに係る商品」という。)について商標法第4条第1項第11号に該当するから、同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきである旨申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第25号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、申立人1が提出した証拠を表示する場合は、以下「甲第○号証A」とし、これを省略して「甲○A」のように記載する。また、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを表示する場合は、枝番号を省略する。
(1)本件商標について
本件商標は、漢字「三井」と漢字「製薬」を横書きで結合したものであり、語頭の漢字「三井」は、「姓氏の一つ」を意味し、語尾の「製薬」は、「医薬品を製造すること」を意味する(甲12A)。
また、「医薬品」は、一般的に「疾病の診断・治療・予防に使用する薬品」を意味することを踏まえれば(甲12A)、本件商標は、「姓氏の一つである三井の疾病の診断・治療・予防に使用する薬品を製造すること」程度の意味合いを想起させる。
(2)引用商標について
ア 引用商標1は、漢字「三井」と漢字「薬品」を標準文字により横書きで結合したものであり、引用商標1の語頭「三井」は、「姓氏の一つ」を意味し(甲12A)、語尾の漢字「薬品」は「薬種の品類」を意味し、「薬種」は「薬の材料」を意味することを踏まえれば(甲12A)、引用商標1から、「姓氏の一つである三井の薬の材料」程度の意味合いを想起させる。
イ 引用商標2は、図形の下に、漢字「三井薬店」を配置し、その下に欧文字「Mitsui Drugstore」を配置した3段からなる。漢字「三井薬店」は、漢字「三井」と漢字「薬店」を左右に並べて結合したものであり、語頭の「三井」は、「姓氏の一つ」を意味し(甲12A)、語尾の「薬店」は、「薬を売る店」を意味することを踏まえれば(甲12A)、引用商標2は、「姓氏の一つである三井の薬を売る店」程度の意味合いを想起させる。
(3)商標法第4条第1項第11号について
ア 申立人1について
申立人1は、令和元年12月18日に設立され、親会社を「香港康虹薬業集団有限会社」とし(甲13A、甲14A)、日本のOTC医薬品(一般用医薬品)及び自社開発の医薬品等を取り扱っており(甲14A)、これらの商品を自社のウェブサイトで販売(甲15A)するとともに自社の店舗(甲16A)でも販売し、直近では2億5,700万円売り上げていることから、日本の需要者に認識された企業であることが明らかである(甲17A)。
イ 「三井薬品」及び「三井薬店」は、申立人1のものとして需要者に認識されていることについて
申立人1は、用途を皮膚治療薬、目薬、鎮痛剤、解熱鎮痛剤とする一般医薬品など(甲20Aの2~14)を販売しており、第5類の「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」及び「サプリメント」に属する商品も販売している(甲25A)。これらの各商品(甲20A)には、いずれのパッケージにも別掲4のとおりの商標及び登録商標を示す表示が付されており、漢字「三井薬店」を登録商標として使用していることが明らかである。
また、申立人1は、各種医薬品や体温計などを収納した薬箱を令和3年6月11日のみでも1,990個の製造を委託しており(甲22A、甲23A)、第20類に属する商品も少なくとも販売予定があることも明らかである(甲24A)。この薬箱の正面には、引用商標2が付されており(甲22A)、漢字「三井薬店」を、第20類の指定商品において、申立人1の商標として使用していることが明らかである。
そして、申立人1は、上記のような商品を販売することで、令和3年から年間3,590万円以上売り上げており、直近では2億5,700万円売り上げている(甲17A)。
したがって、申立人1は、「三井薬品」や「三井薬店」を使用して、第5類の商品や第20類に属する商品を多岐に渡り製造販売しており、直近では2億5,700万円売り上げていることから、「三井薬品」及び「三井薬店」が、申立人1のものとして需要者に認識されていることが明らかである。
ウ 申立人1の保有商標について
申立人1は、商号「三井薬品」を含む商標として、引用商標1の他にも登録商標(甲10A、甲11A)を保有しており、異議申立て対象の第10類以外にも多くの登録商標を保有している。
また、申立人1は、自社の店舗名を示す商標(甲8A)も第3類、第5類、第10類及び第35類において保有している。
エ 本件商標が引用商標1との関係において商標法第4条第1項第11号に該当することについて
(ア)本件商標と引用商標1が類似することについて
a 称呼について
本件商標は、漢字「三井」と漢字「製薬」を左右に結合した商標であり、語尾の「製薬」は「医薬品を製造すること」を意味するため、第10類の指定商品との関係で品質表示に該当し、語頭の「三井」に比べて識別力が明らかに弱いから、本件商標の語頭「三井」から「ミツイ」の略称が生じる。
これに対して、引用商標1は、漢字「三井」と漢字「薬品」を左右に結合したものであり、語尾の「薬品」は「薬の材料」を意味するため、第10類の指定商品との関係で品質表示に該当し、語頭の「三井」に比べて識別力が明らかに弱いから、引用商標1の語頭「三井」から「ミツイ」の略称が生じ、本件商標と類似の称呼が生じる。
したがって、本件商標と引用商標1の称呼が類似することが明らかである。
b 外観について
本件商標は、引用商標1と4文字中3文字が共通しており、大部分で共通しているため、本件商標と引用商標1は、外観も類似することが明らかである。
c 観念について
本件商標は、漢字「三井」と漢字「製薬」を左右に結合した商標であり、「姓氏の一つである三井の疾病の診断・治療・予防に使用する薬品を製造する」程度の意味合いを想起させる。
これに対して、引用商標1は、「姓氏の一つである三井の薬の材料」程度の意味合いを想起させ、本件商標と同様の意味合いを想起させる。
したがって、本件商標と引用商標1は、観念も類似することが明らかである。
d 小括
上記aないしcで説明したように、本件商標と引用商標1は、外観、称呼及び観念が類似することから、商標が類似することが明らかである。
(イ)本件商標の申立てに係る商品と引用商標1の指定商品が抵触することについて
本件商標の申立に係る指定商品は、第10類「哺乳瓶,酸素吸入器,マッサージ機器,血圧計,心電計,体温計,除細動器,補聴器,医療用呼吸マスク」である(甲1A、甲2A)。
本件商標の申立に係る指定商品における、「哺乳瓶」は類似群コード01C01であり、「酸素吸入器,血圧計,心電計,体温計,除細動器,補聴器,医療用呼吸マスク」は類似群コード10D01であり、「マッサージ機器」は類似群コード09E25、10D01、11A08である(甲18A)。
これに対して、引用商標1の指定商品中、「医療用冷却パッチ」は類似群コード01C01であり、「血圧計,医療用温度計,体脂肪測定器,体組成計,血糖測定器,ガルヴァーニ電気治療機械」は類似群コード10D01であり、「マッサージ機器」は類似群コード09E25、10D01、11A08であり、「医療用機械器具,医療用リハビリテーション機械器具」は類似群コード10D01、10D02である(甲18A)から、引用商標1の指定商品は、本件商標の申立てに係る商品の全ての類似群コードと同一のものであることが明らかである。
したがって、本件商標の申立てに係る商品は、引用商標1の指定商品の指定商品と抵触することが明らかである。
オ まとめ
引用商標1は、本件商標に対して他人の先願先登録商標に該当する。
また、本件商標は、引用商標1と外観、称呼及び観念が類似し、需要者が出所の混同が生じ、商標が類似する。
そして、本件商標の申立てに係る商品は、引用商標1の指定商品と抵触する。
したがって、本件商標は、引用商標1との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当することが明らかである。
カ 本件商標が引用商標2との関係において商標法第4条第1項第11号に該当することについて
(ア)本件商標と引用商標2が類似することについて
a 称呼について
本件商標は、上記エ(ア)aのとおり、語頭「三井」から「ミツイ」の略称が生じる。
これに対して、引用商標2は、図形の下に、漢字「三井薬店」を配置し、その下に欧文字「Mitsui Drugstore」を配置した3段からなるところ、中段の漢字「三井薬店」は、漢字「三井」と漢字「薬店」を左右に並べて結合したものであり、中段の漢字の語尾「薬店」は、「薬を売る店」程度の意味合いを想起させ、第10類の指定商品との関係で品質表示に該当し、語頭の「三井」に比べて識別力が明らかに弱いから、引用商標2の語頭「三井」から「ミツイ」の略称が生じる。
このため、引用商標2から「ミツイ」の略称が生じ、本件商標と同一の称呼が生じる。
したがって、本件商標と引用商標2の称呼が類似することが明らかである。
b 外観について
本件商標は、引用商標2の中段と4文字中3文字が共通しており、大部分で共通しているため、本件商標と引用商標2は類似することが明らかである。
c 観念について
本件商標は、漢字「三井」と漢字「製薬」を左右に結合した商標であり、「姓氏の一つである三井の疾病の診断・治療・予防に使用する薬品を製造する」程度の意味合いを想起させ、引用商標2は、「姓氏の一つである三井の薬を売る店」程度の意味合いを想起させる。
したがって、本件商標と引用商標2は、観念も類似することが明らかである。
d 小括
本件商標と引用商標2は、外観、称呼及び観念が類似することから、商標が類似することが明らかである。
(イ)本件商標の申立てに係る商品が引用商標2の指定商品と抵触することについて
本件商標の申立に係る指定商品は、第10類「哺乳瓶,酸素吸入器,マッサージ機器,血圧計,心電計,体温計,除細動器,補聴器,医療用呼吸マスク」であり、類似群コード類似群コード01C01、09E25、10D01、10D02、11A08を有する(甲18A)のに対して、引用商標2の指定商品中、第10類「医療用指サック,おしゃぶり,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,哺乳用具,魔法哺乳器,医療用冷却パッチ」は類似群コード01C01であり、「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」は類似群コード09E25であり、「家庭用電気マッサージ器」は類似群コード11A08であり、「マッサージ機器」は類似群コード09E25、10D01、11A08であり、「体脂肪測定器,体組成計,血糖測定器,業務用美容マッサージ器,治療用機械器具,血圧計,医療用温度計,ガルヴァーニ電気治療機械」は類似群コード10D01であり、「医療用機械器具,医療用リハビリテーション機械器具」は類似群コード10D01,10D02である(甲18A)から、引用商標2の指定商品は、本件商標の指定商品の類似群コードと同一のものであることが明らかである。
したがって、本件商標の申立てに係る商品は、引用商標2の指定商品の指定商品と抵触することが明らかである。
(エ)まとめ
引用商標2は、本件商標に対して他人の先願先登録商標に該当する。
また、本件商標は、引用商標2と外観、称呼及び観念が類似し、出所の混同が生じ、商標が類似する。
そして、本件商標の申立てに係る商品は、引用商標2の指定商品と抵触する。
したがって、本件商標は、引用商標2との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当することが明らかである。
2 申立人2の申立ての理由(申立番号02)
申立人2は、本件商標は商標法第4条第1項第15号及び同項第7号に該当し、又は同法第3条第1項柱書の要件を具備しないにも関わらず登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきである旨申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第64号証を提出した(申立人2は、令和6年4月4日付け上申書とともに甲第65号証ないし甲第75号証を提出しているが、これは、商標法第43条の4第2項に規定する、期間経過後の提出であるから、採用しない。)。
なお、申立人2が提出した証拠を表示する場合は、以下「甲第○号証B」とし、これを省略して「甲○B」のように記載する。
(1)「三井グループ」に関する説明
ア 「三井グループ」を表象する「三井」
「三井グループ」の起源は、三井家の三井則兵衛高俊とその妻である殊法が、江戸時代初期に開始した松阪(現在の三重県)における酒・味噌などの商いである(甲2B、甲3B)。延宝元年(1673年)には、三井則兵衛高俊の末子であり、後に「三井家の家祖」とも言われる三井高利が、江戸本町一丁目(現在の東京都日本橋本町)で「三井越後屋呉服店」の営業を開始した。更に少なくとも天和3年(1683年)以前に、店内の結束強化と他店との違いを明らかにするために「丸に井桁三」の暖簾印を定め、両替商にも進出した(甲4B)。呉服業及びその店舗拡張に伴い開店した両替店を活用した為替業は、その後の「三井グループ」の二大事業としてその繁栄の基礎となった。
三井家は、明治9年(1876年)に、日本で初の民間銀行である「三井銀行」を開業するとともに、「旧三井物産会社」を設立し、近代的企業の軌道が敷かれた。日清戦争、日露戦争後の好景気により、三井傘下の各企業はいずれも急成長し、明治42年(1909年)に、「三井合名会社」が設立され、三井一族が株式を通じて傘下の企業を支配するという財閥の体制を整えた(甲30B)。
その後、昭和19年(1944年)に、三井財閥の中枢機構として「株式会社三井本社」が設立され、第二次世界大戦後、連合国の財閥解体の政策により解体したが、その後の我が国の経済復興に伴い、三井財閥傘下にあった諸会社は、「三井グループ」として、引き続き日本経済において重要な地位を占めている(ただし、法的には旧三井物産と現在の三井物産には継続性はなく、全く個別の企業体である。)。
今日では金融、貿易、金属、化学品、エネルギー、食品、不動産等に代表されるあらゆる事業を国内外で展開する「三井グループ」は、78社を超す三井系企業により構成されており、その大半が引き続き商号中に「三井」の名前を冠し事業を行っている(甲5B、甲6B)。
上述の三井越後屋呉服店から350年以上にわたる伝統、現在における「三井物産株式会社」、「三井不動産株式会社」等、三井と業務内容などを示す語を組み合わせ、社名に三井を共通して用いる著名なるグループ各社の存在により、「三井」の表示は、「三井グループ」、あるいはグループに属する各社を連想させるものとなっている。「三井グループ」各社は、その結束と「三井」の名に蓄積した信用を維持するため、昭和31年(1956年)に「三井商号商標保全会」が設立し、そこでは「三井グループ」の企業が「三井」のほか、「ミツイ」、「MITSUI」、「みつい」及び「丸に井桁三」(以下、これらをまとめて「三井等」という場合がある。)を商号の一部、あるいはCIとして使用するに際しては、事前に同会の承認を得る必要があるなど、「三井」を含む商号商標を使用し、保全していくための基準が厳格に定められている(甲7B)。「三井等」を商号等として使用することについて、昭和32年(1957年)12月から令和3年(2021年)3月までに同会の承認を得た企業等の一覧を提出する(甲60B)。
以上のとおりであり、市場の関係者においては、「三井」を含む商号商標の表示が使用された場合、「三井グループ」が当然に想起されることは明らかである。
イ 申立人2に関する説明
申立人2である三井物産株式会社は、明治9年(1876年)に設立された旧三井物産会社に根源を持つ「三井グループ」の中核会社で、我が国の五大商社の一角をなし、三菱商事株式会社とともに日本の商社の両巨頭と称され、金属、機械情報、化学品、エネルギー、生活産業、物流・金融の各分野において、グローバルに広がる拠点の情報力と総合力を活用し、商品の国内卸売販売、輸出入、外国間貿易、さらには、資源開発や新分野での技術開発など各種事業を多角的に展開する日本を代表する世界的に著名な総合商社である。
申立人2の令和5年(2023年)3月31日現在の資本金は約3,426億円であり、同3月の売上総利益はグループ企業全体の連結計上で1兆3,962億円、申立人2単独での純利益は9,226億円を計上するとともに、従業員数は日本国内においてもグループ企業全体で4万6,811名、申立人2単独で5,449名に及ぶ一大企業である(甲8B)。
申立人2の主な業務範囲は金属資源、エネルギー、プロジェクト、モビリティ、化学品、鉄鋼製品、食料、流通事業、ウェルネス事業、ICT事業、コーポレートデイベロップメントの各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活かし、多種多様な商品販売とそれを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など多岐にわたるものである(甲9B)。申立人2は、これらの幅広い分野にわたる日本国内外での事業展開にあたり、「三井」を継続して使用している。しかして、総合商社たる申立人2による「三井」の使用の結果、「三井」ないし「三井物産株式会社」が需要者及び取引者の間において、幅広い事業の出所を示す商品等表示として広く知られていることは疑いがない。
三井物産株式会社は「三井グループ」の中核会社で、三井商号商標保全会の主要メンバーとして、幹事である三井不動産株式会社と共に、「三井」の商号商標の保全に努めている。
ウ 三井化学株式会社と三井製薬工業株式会社
「三井グループ」の一つである三井化学株式会社は、その起源を明治45年(1912年)に大牟田(現在の福岡県大牟田市)で三井鉱山(戦前三井銀行、三井物産と共に、三井財閥の御三家企業と言われた。)が始めた化学事業に遡り、三井鉱山の流れを汲む昭和8年(1933年)設立の東洋高圧工業株式会社と昭和16年(1941年)設立の三井化学工業株式会社とが昭和43年(1968年)に合併した「三井東圧化学株式会社」と、昭和30年(1955年)設立の「三井石油化学工業株式会社」とが合併し、平成9年(1997年)に設立された(甲10B)総合化学メーカーであり、我が国の総合化学メーカーのなかでも売上高第4位を誇る大企業である(甲12B)。三井化学株式会社は、主に、ライフ&ヘルスケア・ソリューション事業(スペシャリティケミカル事業、食品・健康関連事業、医療関連事業)、モビリティソリューション事業(エラストマー重合製品、複合材料製品、ソリューション型ビジネス)、ICTソリューション事業(半導体・電子部品工程部材、光学材料、リチウムイオン電池材料、高機能食品包装材料)及びベーシック&グリーン・マテリアルズ事業(フェノール/PTA事業、ポリウレタン事業、グリーンケミカル事業)等の幅広い分野にまたがる事業を手掛けており、国内はもちろんのこと、アジア、アメリカ、ヨーロッパ及び南米の各所に拠点を有し、グローバルな活動を行っている(甲11B、甲13B)三井化学株式会社の令和5年(2023年)7月26日現在の資本金は125,738百万円(甲11B)であり、同年3月の売上収益は1,879,547百万円を計上するとともに、従業員数は18,933名に及ぶ(甲11B、甲14B)。
三井化学株式会社、特に旧三井東圧系は、医薬品分野において戦前より長い経験と技術蓄積を持ち、アスピリン、サルチル酸を始めとする各種医薬品を手掛け、業界において確固たる地位を築いてきた、そして昭和46年(1971年)には、当時の「三井東圧化学株式会社」の医薬品部門として、その全額出資の下、「三井製薬工業株式会社」が分離独立された(甲15B~甲17B)。「三井製薬工業株式会社」は、医薬品メーカーとして、三井物産などの「三井グループ」の出資等もなされ、三井化学株式会社の傘下の「三井グループ」系企業として、精力的に事業活動を行い、平成13年(2001年)に日本シェーリング株式会社(現バイエル薬品工業)に吸収合併されたが(甲61B)、三井製薬工業の名は、約30年にわたる営業活動の中で、「三井グループ」の企業としてマスコミ等でも報道され、業界においては知られ、またその営業活動のため、複数の商標登録を保有していた(甲18B~甲26B)。
エ 「三井」又は「mitsui」を含む商標に対する無効審判及び審決取消訴訟における判断
過去に、「三井グループ」以外の他人により行われた商標登録出願又は登録に対し、「三井グループ」を構成する企業により行われてきた複数の異議申立、無効審判及び審決取消訴訟において、「三井」又は「mitsui」が著名であること、及び、他人によって「三井」又は「mitsui」を含む商標が使用された場合には、その商品役務の出所が、「三井グループ」の業務にかかるものであるかのように混同を生ずるおそれがあることが認められてきた(甲27B~甲31B、甲62B、甲63B)。
江戸時代初期に根源を有する「三井グループ」は、永年にわたり「三井」又は「mitsui」の文字からなる標章を自己の商品若しくは役務であることを示す標章として使用し、営業活動を続け、「三井グループ」としての名声と信用を築き上げてきたものであって、「三井グループ」の全体としての事業規模の大きさや営業活動の期間の長さを考慮すれば、「三井」又は「mitsui」の文字からなる標章は、「三井グループ」の商品若しくは役務を表示するものとして、本件商標の登録出願の日前に、取引者、需要者間に広く認識され、全国的に著名となっていたことが認められ、このような取引の実情のもとにおいて、「三井」といえば、「三井グループ」の商品若しくは役務を想起させる機能を持つに至っていることは、上記判決例等においても既に認められている。これらの事実は「三井」を含む「三井製薬」なる本件商標に対する異議申立においても参酌されるべきものである。
オ 小括
以上述べてきたとおり、「三井」は、世界的な大企業である申立人2に代表される「三井グループ」により行われる多種多様な事業活動について、350年以上にわたり継続して使用されていたこと、及び、判決並びに審決に鑑みても、「三井」が、「三井グループ」の著名な商号商標、あるいはその要部であり、「三井グループ」を表象するものとして、我が国の需要者及び取引者間に広く知られていること、及び、「三井グループ」以外の他人により、「三井」を含む商標が、その商品又は役務において使用された場合に、これに接する取引者、需要者は、その商品又は役務が「三井グループ」に属する会社の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
(2)本件商標権者について
本件商標権者は日本三井製薬株式会社有限公司という奇妙な名前の香港法人であり、申立人においてこれまで調査したところでは、「三井」というより日本とは何らの関係もなく、少なくとも我が国においては何ら営業の実体はないにもかかわらず、本件商標である「三井製薬」、「三井」又は「mitsui」からなるか、これらを含む商標について多数出願している。更に、本件商標権者は中国においても、同様に「三井製薬」、「三井」又は「mitsui」に関する多数の商標出願を行っている(甲36B、甲37B、甲44B)。
申立人2の調査によると、本件商標権者と、極めて密接な関係がある中国在住者を代表者とする日本法人が、令和5年(2023年)に「三井製薬株式会社」に商号を変更している。この会社の営業の実体は何ら認められないが、本件商標権者と同じく「三井製薬」、「三井」又は「mitsui」からなるか、これらを含む商標についての多数の商標出願を特許庁、及び中国の当局にしている(甲38B、甲39B、甲45B)。
更なる状況として、データベース(J-Platpat)で「三井製薬」の検索したところ、3つの商標登録出願又は登録が抽出され、それぞれの権利者は)「小石丸有限公司」、本件商標権者及び「三井製薬株式会社」の3社である(甲32B)。
また、商標「三井製薬」を出願していないが、「三井製薬株式会社」(甲33B)と同名の「三井製薬株式会社」(以下「三井製薬社2」という。)が存在する(甲34B)。
さらに、中国において、「日本三井製藥株式會社集團有限公司」が存在する(甲64B)。
上記のうち、本件商標権者、「三井製薬株式会社」及び「三井製薬社2」は、特許庁に対し、「三井製薬」の他、「三井」又は「mitsui」からなるか、これらを含む商標を合わせて8件出願している(甲36B~甲43B)。これら8件の商標出願は、いずれも令和5年(2023年)中に集中して行われたものである。
また、本件商標権者、「三井製薬株式会社」及び「日本三井製藥株式會社集團有限公司」は、中国において「三井」、「mitsui」又は「ミツイ」からなるか、これらを含む商標を多数出願しており、その出願数は110件以上に及ぶ(甲44B~甲46B)。これらの多数の商標出願は、いずれも令和5年(2023年)又は同4年(2024年)に集中して行われたものである(甲36B~甲43B)。
加えて、「三井製薬株式会社」の代表者は、中国において、個人名義で「三井研」なる商標の出願を行っている(甲47B、甲48B)。
本件商標権者の代表者であるA(甲56B)と「三井製薬株式会社」の代表者であるBとは、中国における複数の企業で互いに法定代表者、監事、株主等の関係にある(甲49B~甲55B)。
しかして、上記が全て一つのグループによって行われているのかは確認できていないが、同時期の動きであり、また表向きには無関係だが、実際には同一視し得る複数の企業が、他人の著名な商品等表示を劉窃する目的で、大量出願を行う手法が日本や中国において頻繁に採られている。そして、この中国におけるここ二、三年の、「三井」「mitsui」又は「ミツイ」の商標を取得し、「三井グループ」の世界的な信用にただ乗りしようとの動きは、申立人2その他「三井グループ」の各社にとって憂慮する事態となっているのである。
本件商標権者についてこれまで確認されている実体、更に上に説明した状況に鑑みると、本件商標もそのような「三井グループ」の世界的な信用へのただ乗りを意図した剽窃出願の一つと合理的に考えられる。
(3)取消理由
ア 商標法第4条第1項第15号
前述のとおり、「三井」ないし「三井」を含む「三井グループ」の名称は商品等表示として永年にわたり多岐にわたる商品役務に使用されていたことから、本件商標の登録出願時である令和5年2月27日はもとよりそのはるか以前から、我が国において著名であったことは疑いが無い。すなわち、「三井グループ」は戦前の三井財閥に期限を有する巨大企業グループであり、その事業の範囲は全産業に及び、その販売する商品又は提供する役務の性質及び用途は多岐にわたるところ、本件商標のいずれの指定商品役務と関連性は高く、取引者・需要者の共通性は明らかである。
そうであるところ、「三井グループ」に属する各社は、申立人2、あるいは三井化学というように、「三井」と業務内容を示す語を組み合わせて自らの商号としている会社が多いところ、本件商標は「三井」と業務内容を示す語である「製薬」を組み合わせた「三井製薬」であるから、本件商標が指定商品役務に使用された場合、製薬を事業に含む「三井グループ」の会社が販売等する商品又は提供する役務であるかの如く、その出所が誤認混同されることは必定である。
さらに、過去に「三井グループ」を構成する三井化学株式会社の傘下に、「三井製薬」と酷似した「「三井製薬工業」株式会社」が存在したから、「三井製薬」なる本件商標がその指定商品役務について使用された場合には、「三井グループ」の三井製薬工業株式会社、あるいは三井製薬株式会社として新たに設立された会社の商品役務と誤認混同される可能性は極めて大きいものと考えられる。
ところで、上記2で説明したとおり、本件商標権者及び関連する会社、その他確認できない中国系企業による「三井」、「mitsui」又は「ミツイ」を含む多数の商標出願がなされており、これは明らかに中国系企業による「三井グループ」の世界的な信用にただ乗りしようという動きである。このような多数の商標登録出願、登録商標が多く存在している中で、「三井」を要部とする本件商標の登録が維持され、登録商標としての使用がなされた場合、この中国系企業による「三井グループ」の世界的な信用にただ乗りしようという動きについて「三井グループ」による新たな動きとの誤解が生じ、出所の混同が生ずる危険は大きいものと考えられる。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
イ 商標法第4条第1項第7号該当性について
繰り返し述べるとおり、「三井」の語は、「三井グループ」により、350年以上にわたり継続的に使用されてきた結果、「三井」ないし「三井」を含む「三井グループ」の名称は「三井グループ」の販売する商品又は提供する役務を表象する商品等表示として、本件商標の登録出願日である令和5年2月27日以前より、我が国においては誰もが知るところであり、外国においても広く知られているものである。
本件商標権者は日本三井製薬株式会社有限公司という奇妙な名前の香港法人であり、申立人においてこれまで調査したところでは、日本とは何らの関係もなく、もちろん「三井」との何ら関係なく、少なくとも我が国においては何ら営業の実体のない者である。そして、本件商標権者は、あるいは別の名義も用い、日本及び中国において大量の剽窃出願を行っている。
このような「三井グループ」とは一切関係なく、日本とも「三井」とも関係がなく、日本で事業をなしていない者が、「三井製薬」なる「三井グループ」の会社の商標と見紛う商標を登録するのは、商道徳に反する意図から出たものとしかおよそ考えられないところである。さらにここ数年において、中国系企業による「三井」「mitsui」又は「ミツイ」を含む多数の商標出願をして、「三井グループ」の世界的な信用にただ乗りしようという動きがみられ、本件商標はこの動きの中での商標出願の一つであると考えられる。
そうであるところ、著名な商品等表示である「三井」を含む本件商標が維持され、本件商標権者が登録権者としてその指定商品役務について「三井グループ」のコントロールが及ばないというより、商道徳に反する使用がなされることになると、単に国際的に著名な「三井」に蓄積した信用を失われるにとどまらず、需要者(取引者を含む)が日本経済を牽引する「三井グループ」により販売される商品又は提供される役務であると誤信して取引をしてしまうことによって、社会、経済的に大きな損失、混乱を生じさせるおそれがある。また、上述した中国系企業による「三井」「mitsui」又は「ミツイ」を含む多数の商標登録出願がなされている中で、本件商標が維持される場合、中国系企業の動きは更に助長され、この混乱は、一つの剽窃商標の使用から予想されるところより、より大きな混乱が予想されるものと考えられる。
すなわち、本件商標の登録を認めることは、取引秩序を大きく乱すおそれがあり、社会公共の利益に明らかに反する。このような外国系企業による剽窃と解される商標について国家の行政処分たる登録査定を受けうる事態を容認することは、国民の行政に対する信頼の喪失をも招来する結果となる。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
ウ 商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないことについて
本件商標は多数の商品又は役務を指定するものであるが、我が国において本件商標がその指定商品又は役務の一つにも使用された形跡はないし、本件商標権者によりその準備が進められているとも認められない。
さらに、すでに述べたとおり、本件商標権者は、複数の名義を利用し、日本及び中国において、「三井グループ」を表象する著名な商品等表示「三井」、「mitsui」又は「ミツイ」を含む大量の商標を出願しているところ、これらの指定商品役務は広い範囲に及び、一貫性もない。しかして、本件商標権者は、「三井グループ」の著名な「三井」を認識した上で、本件商標を登録出願したものと考えるのが相当である。すなわち、本件商標は、本件商標権者により行われた著名な「三井」に関する大量の剽窃出願のうち、登録された商標が収集されたにすぎないというべきである。
したがって、本件商標は、登録査定時において、本件商標権者が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上、将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思もないというべきであるから、商標法第3条第1項柱書の要件を満たさない。
(4)むすび
以上詳述したとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同項第7号又は同法第3条第1項柱書の要件を満たさないにも関わらず登録されたものである。
第4 取消理由の通知
当審において、商標権者に対し、「本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。」旨の取消理由を令和6年8月7日付けで通知した。
第5 商標権者の意見
前記第4の取消理由に対し、商標権者は、何ら意見を述べていない。
第6 当審の判断
1 申立人2の引用標章の周知性について(申立番号02)
(1)申立人2の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 「三井グループ」及び「三井」について
「三井グループ」の起源は、三井家の三井則兵衛高俊とその妻である殊法が、江戸時代初期に開始した松阪(現在の三重県)における酒・味噌などの商いである(甲2B、甲3B)。延宝元年(1673年)には、三井則兵衛高俊の末子の三井高利が、江戸本町一丁目(現在の東京都日本橋本町)で「三井越後屋呉服店」の営業を開始した。さらに少なくとも天和3年(1683年)以前に、「丸に井桁三」の暖簾印を定め、両替商にも進出した(甲3B、甲4B、甲6B)。
三井家は、明治9年(1876年)に、日本で初の民間銀行である「三井銀行」を開業するとともに、「旧三井物産会社」を設立した。また、三井銀行、旧三井物産をはじめとする三井傘下事業の経営を全般に統轄し、資本の拡大を狙う組織として、明治42年(1909年)に、持株会社「三井合名会社」が設立された(甲6B)。
その後、昭和19年(1944年)に、三井財閥の中枢機構として「株式会社三井本社」が設立され、第二次世界大戦後、連合国の財閥解体の政策により解体したが、その後の我が国の経済復興に伴い、三井財閥傘下にあった諸会社は、「三井グループ」として存続している(甲6B)。
今日では金融、貿易、金属、化学品、エネルギー、食品、不動産等に代表されるあらゆる事業を国内外で展開する「三井グループ」は、78社を超す三井系企業により構成されており、その大半が引き続き商号中に「三井」の名前を冠し事業を行っている(申立人2主張、甲5B、甲6B)。
「三井グループ」各社は、その結束と「三井」の名に蓄積した信用を維持するため、昭和31年(1956年)に「三井商号商標保全会」を設立し、そこでは「三井グループ」の企業が「三井」の文字又は「丸に井桁三」マークを含む商号、商標等を商標、あるいはCIとして使用するに際しては、事前に同会の承認を得る必要があるなど、「三井」を含む商号商標を使用し、保全していくための基準が厳格に定められている(申立人2主張、甲7B)
申立人2は、「三井グループ」の中核会社で、三井商号商標保全会の主要メンバーとして、「三井」の商号商標の保全に努めている(申立人2主張)。
イ 申立人2について
申立人2は、明治9年(1876年)に設立された旧三井物産会社に根源を持つ「三井グループ」の中核会社で、昭和22年(1947年)に設立された総合商社である(申立人2主張、甲8B、甲9B)。
申立人2の令和5年(2023年)3月31日現在の資本金は3,425億6,027万4,484円であり、同年3月の売上総利益はグループ企業全体の連結計上で1兆3,962億円、申立人2単独での純利益は9,226億円を計上するとともに、従業員数は日本国内においてもグループ企業全体で4万6,811名、申立人2単独で5,449名である(甲8B)。
申立人2の主な業務範囲は金属資源、エネルギー、プロジェクト、モビリティ、化学品、鉄鋼製品、食料、流通事業、ウェルネス事業、ICT事業、コーポレートデイベロップメントであり、これらの各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活かし、各種事業を多角的に展開している(甲8B、甲9B)。申立人2は、これらの幅広い分野にわたる日本国内外での事業展開にあたり、「三井」を継続して使用している。
ウ 三井化学株式会社と三井製薬工業株式会社
「三井グループ」の一つである三井化学株式会社は、その起源を明治45年(1912年)に大牟田(現在の福岡県大牟田市)で三井鉱山が始めた化学事業に遡り、三井鉱山の流れを汲む昭和8年(1933年)設立の東洋高圧工業株式会社と同16年(1941年)設立の三井化学工業株式会社とが同43年(1968年)に合併した「三井東圧化学株式会社」と、同30年(1955年)設立の「三井石油化学工業株式会社」とが合併し、平成9年(1997年)に設立された(甲10B、甲13B)総合化学メーカーであり、我が国の総合化学メーカーのなかでも売上高第4位を誇る企業である(甲12B)。三井化学株式会社の令和5年(2023年)7月26日現在の資本金は1,257億3800万円(甲11B)であり、同年3月の売上収益は1兆8,795億4,700万円を計上するとともに、従業員数は1万8,933名である(甲11B、甲14B)。
旧「三井東圧株式会社」は、医薬品分野において戦前より、アスピリン、サルチル酸を始めとする各種医薬品を手掛け、昭和46年(1971年)には、「三井東圧化学株式会社」の医薬品部門として、「三井製薬工業株式会社」が分離独立された(甲15B~甲17B)。「三井製薬工業株式会社」は、平成13年(2001年)に日本シェーリング株式会社に吸収合併されたが(甲18B~甲24B、甲61B)、約30年にわたる営業活動の中で、「三井グループ」の企業としてマスコミ等でも報道され、「三井製薬」と略称されている(甲18B~甲24B)。
(2)上記(1)によれば、申立人2及び三井グループに属する各企業(以下「申立人2ら」という。)は、三井財閥の傘下にあった時代以来、「三井」の文字からなる商標を自己の業務に係る商品又は役務について永年にわたり使用して、三井系企業としての名声と信用を築き上げてきたものであって、申立人2らの事業規模の大きさ、営業活動の期間の長さを考慮すると、「三井」の文字からなる引用標章は、本件商標の登録出願前より、三井グループに属する企業の使用に係る商標として、取引者、需要者間に広く認識され、全国的に著名となっていたと認められる。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用標章の周知性について
「三井」の文字からなる引用標章は、上記1(2)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、三井グループに属する企業の使用に係る商標として、取引者、需要者間に広く認識され、全国的に著名となっていたと認められるものである。
(2)本件商標と引用標章の類似性の程度
本件商標は、前記第1のとおり、「三井製薬」の文字を書してなるところ、構成文字全体として特定の意味合いを有する語として知られているものではない。
しかしながら、構成中の「三井」の文字部分は、上記1(2)のとおり、三井グループに属する企業の使用に係る著名な「三井」の文字と同一であるから、当該文字部分が需要者に対し強く支配的な印象を与えるものである。
一方、「製薬」の文字部分は、「医薬品を製造すること。製造した薬剤。」の意味を有する語であり、本件商標の指定商品には「薬剤」は含まれていないものの、製薬会社において普通に使用される文字であり、業種名を表す文字とも認められることから、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。
そうとすれば、本件商標は、構成中の「三井」の文字部分より、三井グループに属する企業の使用に係る商標を連想するというのが相当である。
したがって、引用標章「三井」と本件商標の類似性の程度は低いとはいえない。
(3)本件商標の指定商品及び指定役務と申立人2らの業務に係る商品及び役務との関連性の程度並びに取引者及び需要者の共通性について
ア 本件商標の指定商品及び指定役務は、前記第1のとおり、第3類、第10類、第29類、第30類及び第44類に属する別掲1のとおりの商品及び役務であるところ、申立人2らの事業範囲は全産業にわたり、多種多様な商品を販売し、役務を提供していることを考慮すれば、本件商標の指定商品及び指定役務と申立人2らの業務に係る商品及び役務とは、幅広い分野の需要者を共通にすることがあり、互いに密接な関連性を有するといえる。
イ また、本件商標の指定商品及び指定役務の需要者と申立人2らの業務に係る商品及び役務の需要者は、一般の消費者を含むものであるから、取引の際に払われる注意力はさほど高いものとはいえない。
(4)混同を生ずるおそれについて
以上のとおり、「三井」の文字からなる引用標章の周知著名性の程度並びに本件商標の指定商品及び指定役務と申立人2らの業務に係る商品及び役務とは密接な関連性を有するといえるものであり、また、需要者を共通にするものであって、本件商標の指定商品及び指定役務の需要者が取引に際して普通に払われる注意力はさほど高いとはいえないものである。
そして、本件商標は、上記(1)のとおり、三井グループに属する企業の使用に係る著名な商標である「三井」の文字を含むものである。
してみると、本件商標は、その構成中「三井」の文字部分が強く印象づけられ,これを本件商標中の要部として三井グループに属する企業の使用に係る商標を連想するというのが相当である。
そうとすれば、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品及び指定役務について使用するときは、需要者をして、該商品及び役務が申立人2らの業務に係る商品及び役務又はこれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのように、その出所について混同を生じさせるおそれがあるものというべきである。
(4)小括
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
3 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「三井製薬」の文字を横書きした構成からなるところ、該文字は、同じ書体、同じ大きさで、同間隔に、視覚上、まとまりよく一体的に表されているものであって、「三井」の文字部分又は「製薬」の文字部分が独立して強調されているものではない。
また、その構成文字全体から生じる「ミツイセイヤク」の称呼も格別冗長というべきものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、本件商標の構成中の「三井」の文字が、「姓氏の一つ」を理解させ、「製薬」の文字が、「医薬品を製造すること」(いずれも広辞苑第七版参照)を理解させる場合があるとしても、これらを組み合わせてなる本件商標は、直ちに特定の観念を生じない一種の造語として看取されるものであって、先に認定したとおり、本件商標は、いずれかの文字部分のみが着目されるような構成にはなっていないから、全体が不可分一体のものとして、取引者、需要者に記憶されるというのが相当である。
してみれば、本件商標は、「三井製薬」の構成文字全体で取引に資されるとみるべきであって、「三井」の文字部分をのみもって取引に資されるというべき特段の事情は見いだせないから、該文字部分のみを捉えた称呼及び観念は生じないというのが相当である。
したがって、本件商標は、「ミツイセイヤク」のみの称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)申立人1の引用商標について
引用商標1は、「三井薬品」の文字を横書きした構成からなり、引用商標2は、別掲2のとおり、緑色の半楕円状の円弧図形の下に、漢字「三井薬店」を配置し、その下に欧文字「Mitsui Drugstore」を配置した構成からなるところ、「三井薬品」及び「三井薬店」の各文字は、いずれも同じ書体、同じ大きさで、同間隔に、視覚上、まとまりよく一体的に表されているものであって、「三井」の文字部分又は「薬品」及び「薬店」の文字部分が、他の部分から独立して強調されているものではない。
また、該構成文字全体から生じる「ミツイヤクヒン」又は「ミツイヤクテン」の称呼も格別冗長というべきものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、引用商標1及び引用商標2の構成中の「三井」の文字が、「姓氏の一つ」を理解させ、引用商標1の「薬品」の文字が、「くすり」の意味を有し、引用商標2の「薬店」の文字が「薬を売る店」の意味(いずれも広辞苑第七版参照)を理解させる場合があるとしても、これらを組み合わせてなる引用商標は、いずれも直ちに特定の観念を生じない一種の造語として看取されるものであって、全体が不可分一体のものとして、取引者、需要者に記憶されるというのが相当である。
してみれば、引用商標1及び引用商標2の構成中の「三井薬店」の文字部分は、いずれも構成文字全体で取引に資されるとみるべきであって、「三井」の文字部分をのみもって取引に資されるというべき特段の事情は見いだせないから、該文字部分のみを捉えた称呼及び観念は生じないというのが相当である。
したがって、引用商標1は、「ミツイヤクヒン」のみの称呼を生じ、引用商標2の構成中の「三井薬店」の文字部分は、「ミツイヤクテン」のみの称呼を生じ、いずれも特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と申立人1の引用商標との類否
本件商標と引用商標1及び引用商標2の構成中の「三井薬店」の文字部分は、上記(1)及び(2)で認定したとおり、いずれも一体不可分の構成からなるものであって、たとえ両者の「三井」の文字部分が共通するとしても、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれはないものである。
以上のとおり、本件商標は、引用商標と非類似の商標であるから、本件商標の申立てに係る商品と引用商標の指定商品が同一又は類似するとしても、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
なお、申立人1は、引用商標は、申立人1の商標として需要者に認識されている旨主張しているので付言するに、申立人1は、第5類の商品や第20類に属する商品を多岐に渡り製造販売しており、直近では2億5,700万円売り上げているとして、「2021年度~2023年度の異議申立人(三井薬品株式会社)の売上高」(甲17A)を提出しているが、該書類は、2021年から2023年度の数字及び合計数を羅列したものであって、その作成日、作成者等は不明であり、客観的な資料に基づいて立証されているものでもなく、その他に周知性を立証する証拠、例えば、申立人1の業務に係る商品の売上高、市場シェアなどの販売実績、宣伝広告の回数や宣伝広告の額などの広告実績等、周知性を客観的に確認できる証拠の提出はないから、これらの主張及び証拠をもって、「三井薬品」及び「三井薬店」の商標ないし引用商標の周知性を推し量ることはできない。
したがって、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人1及び申立人1の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものとは認められないから、本件商標に接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起するものということはできない。
よって、申立人1の上記の主張は採用することができない。
4 商標法第4条第1項第7号の該当性について
商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10349号)。
これを本件についてみると、本件商標は、前記第1のとおり、「三井製薬」の文字からなるものであるから、上記(1)に該当しないことは明らかであり、(2)ないし(5)に該当するものとすべき事情も見あたらない。
なお、申立人2は、「本件商標権者の行為は、申立人が使用する標章が登録されていないことを奇貨として、不正の目的をもって先取り的に同一の商標を商標登録出願し、商標権を取得し、その商標権を高額な金額で販売することを目的としてされたものであり、本件商標は、当該商標登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものであり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。」旨主張している。
しかしながら、申立人2が提出した全証拠を勘案しても、本件商標権者が引用商標に化体した業務上の信用を利用して不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認め得るような具体的事情は見いだすことができない。
その他、本件商標が公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 商標法第3条第1項柱書について
商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用する」とは、現に行っている業務に係る商品又は役務について、現に使用している場合に限らず、将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解されることから、仮に、本件商標権者が、現在、本件商標の指定役務に係る業務を行っていないとしても、当該業務を将来行う意思があれば足りるといえる。
そこで、本件商標についてみると、たとえ、申立人2主張のとおり、本件商標がその指定商品又は指定役務の一つにも使用された形跡がなく、本件商標権者によりその準備が進められているとも認められないとしても、本件商標権者が、本件商標について、将来使用する意思及び予定がなかったということはできない。
したがって、本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないということはできない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第7号及び同法第4条第1項第11号には該当しないとしても、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-900019