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商標無効審判

2024-890027

ヤキトリマルマン、マルマン

審判番号
2024-890027
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2019-128454
登録番号
6329205
請求日
2024年05月29日
審決日
2024年12月24日
公報発行日
2025年05月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】田口 孝光
  • 【請求人代理人】有吉 修一朗
  • 【請求人代理人】森田 靖之
  • 【請求人代理人】遠藤 聡子
  • 【被請求人】株式会社 丸万本舗
  • 【被請求人代理人】田上 洋平
  • 【被請求人代理人】笠井 康平
  • 【被請求人代理人】西川 大貴
審判長/審判官
  • 審判長 大森 友子
  • 審判官 清川 恵子
  • 審判官 白鳥 幹周
分類
T111 .22 -Y (W2943) / T111 .25 -Y (W2943) / T111 .222-Y (W2943)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法4条1項10号商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第10号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第19号、商標法第31条第3項、商標法第4条第10号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6329205号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6329205号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1の構成からなり、令和元年10月2日に登録出願、第29類「焼鳥,鶏のもも焼,地鶏焼,鶏の串焼,焼きとり丼のもと,鶏肉,食肉」及び第43類「焼鳥(もも焼・地鶏焼・串焼)を主とする飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同2年10月1日に登録査定、同年12月15日に設定登録されたものである。 第2 請求人が引用する商標 本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第19号に該当するとして、引用する商標は、別掲2のとおり「丸万」の文字からなるもの(以下「引用商標」という。)であり、請求人及び有限会社丸万焼鳥本店(以下、有限会社丸万焼鳥本店の経営する店舗を「丸万本店」という場合がある。)が昭和29年頃から役務「焼鳥(もも焼き・地鶏焼)を主とする飲食物の提供」に使用して周知であると主張するものである。 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。 2 商標法第4条第1項第10号について (1)丸万について 引用商標を使用している「丸万本店」「丸万支店」及び「高宮店」について説明する。 ア 丸万本店について A氏は、宮崎県庁前の屋台で鶏のもも焼きの販売を開始し、昭和29年に、宮崎市内の繁華街(現在の「丸万本店」の場所である。)に、「丸万」の屋号で店舗を出し、このときから引用商標を使用している(甲2、甲3、甲4)。A氏の死後、A氏の長男であるB氏(2代目)、その後、B氏の長男であるC氏(3代目)が事業を承継し(甲4)、平成7年に有限会社丸万焼鳥本店設立(甲5)、2023年(令和5年)にはC氏の次男であるD氏(4代目)が事業を承継した。 イ 丸万支店について A氏の次男であるE氏は、暖簾分けにより、「丸万」の屋号で別店舗を開業し、令和元年に株式会社丸万本舗(被請求人)を設立した(甲6、以下、被請求人の経営する店舗を「丸万支店」という場合がある。)。E氏の死後、E氏の長男であるF氏が事業を承継した。 ウ 丸万本店と丸万支店について 「丸万」には、「丸万本店」と「丸万支店」が存在し(より詳しくは、後述する「高宮店」も存在する)、「丸万本店」と「丸万支店」のルーツは同じであるものの、経営を含めて一切関係が無いことは、一般に知られている(甲7)。 また、審判請求時点においては、「丸万支店」は「支店」という表記を行っていないが、甲第7号証の6、甲第8号証から、2018年頃までは、「支店」という表記を行っていたことが分かる。 エ 高宮店について 請求人の叔父であるG氏が「丸万支店(都城店)」の店長になったことから、請求人は1980年に「丸万支店(都城店)」で従業員として働くようになった。1981年に請求人とG氏は「丸万支店(鹿児島店)」に異動となり、1994年まで「丸万支店(鹿児島店)」で働いた。 そして、請求人とG氏の退職金の代わりに、G氏は「丸万」の暖簾を分けてもらい、1994年に福岡市内で「丸万」の屋号で店舗(以下、G氏が開業した店舗を「高宮店」という場合がある。)を開業し、引用商標の使用を開始した(請求人は、高宮店で従業員として働くようになった)。 その後、2003年にG氏が死亡し、「高宮店」の事業は請求人が承継した(請求人は、丸万支店のE氏に電話連絡し、引用商標を継続して請求人が使用することについて了承を得た上で、「高宮店」の事業を承継した)。 このように、「丸万」の屋号の店舗は、「丸万本店」「丸万支店」「高宮店」が存在し、これらの店舗で引用商標を使用しているものの、A氏が開業した「丸万」の事業を主として承継したのは「丸万本店」であり、「丸万支店」及び「高宮店」は、暖簾分けを受けたに過ぎない。 (2)丸万ブランドの周知性 昭和30年代後半から「宮崎への新婚旅行」の人気が高まり、そうした中で、昭和天皇の親族が、お忍びで「丸万」を訪れたところ、週刊誌に撮られ、「丸万」が全国的に有名になった。 また、昭和29年から現在に至るまで「丸万本店」が引用商標を使用し、「丸万支店」及び「高宮店」も開業から現在に至るまで引用商標を使用しており、丸万ブランドは、本件商標の出願時点(令和元年10月2日)において広く知られるものであった。 そして、旅行ガイドブックとしてメジャーな「るるぶ(発行所:JTBパブリッシング)」及び「まっぷる(発行所:昭文社)」の掲載状況は丸万本店が主であり(甲9、甲10)、引用商標の知名度と信用の獲得について、「丸万本店」の寄与度が極めて大きいことが分かる。 (3)本件商標について 本件商標は、別掲1のとおり「焼鳥丸万」の文字を縦書きにしたものであるところ(甲1)、(ア)A氏が開業した「丸万」の事業を主として承継したのは、上記(1)のとおり「丸万本店」であること、(イ)引用商標の知名度と信用の獲得に大きく貢献したのは上記(2)のとおり「丸万本店」であること、を考慮すれば、少なくとも、丸万本店とは無関係の本件商標出願について、引用商標と類似する本件商標の登録が認められるべきではなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する(平成9年(行ケ)318号)。 仮に、引用商標が「丸万支店」の業務を表示するものとしても広く認識されていたとしても、「丸万本店」の業務を表示するものとして広く認識されている以上、丸万支店のF氏に本件商標の登録が認められるべきではない。 3 商標法第4条第1項第19号について (1)丸万本店の引用商標の周知性について 上記2(2)に記載のとおり、「丸万本店」が使用している引用商標は、本件商標の出願時には既に、「丸万本店」の業務を表示するものとして、取引者・需要者の間に広く認識されており、その状態は、本件商標の登録査定時にも継続している。 (2)本件商標について 本件商標は、「丸万本店」が使用している引用商標と類似である。 (3)不正の目的について 被請求人は、F氏を代表取締役として令和元年7月29日に設立されていることから(甲6)、被請求人の会社設立の時点で、F氏は「丸万支店」の事業のことを充分に理解していたと考えられる。すなわち、F氏は、被請求人の会社設立時点(本件商標の出願日より前である)で、「丸万支店」が「丸万本店」から暖簾分けされた店舗であることは知っていたといえる。 また、本件商標の出願日である令和元年10月2日時点において、「丸万本店」及び「丸万支店」は、隣接する建物に入居している。 そうとすると、本件商標の出願時において、F氏は、「丸万本店」の存在及び活動について、更には、「丸万本店」の引用商標について熟知していたといえる。 そして、「丸万本店」の引用商標と実質同一である本件商標を、「丸万本店」から暖簾分けを受けたF氏が出願し登録を受けるべき合理的理由は無い。 むしろ、F氏は、「丸万本店」の引用商標が商標登録されていないことを奇貨として、これを剽窃的に先取りし、引用商標に化体した顧客吸引力、信用、名声を不正に利用し、不正の利益を得る目的、他人たる「丸万本店」に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を出願し登録を受けたものと言わざるを得ない(無効2012-890081)。 (4)小括 以上のとおり、丸万ブランドの周知性、及び、本件商標の登録出願の経緯等を総合すれば、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 4 商標法第4条第1項第7号について (1)上記2(1)エのとおり、高宮店は、「丸万支店」から暖簾分けを受けて、1994年G氏が高宮店を開業し、2003年に請求人が承継した(甲11)。 このように、高宮店は1994年の開業以来、30年以上に渡って福岡市内で営業を行っており、「丸万本店」の4代目の実兄が高宮店に訪れるといった関係でもある。 なお、万が一にも、「丸万支店」が暖簾分けの事実を否定したとしても、高宮店の開業以来、長きに渡って、高宮店による「丸万」を含む商号や引用商標の使用に対して、「丸万本店」や「丸万支店」から異議が述べられていないことを考慮すると、引用商標の使用について許諾があったものとして取り扱うべきである(参考:令和2年(ネ)第10017号)。 このように、請求人は、「丸万本店」や「丸万支店」の先代とは円満な関係を続けていたところ、突如として、被請求人から警告書が届いた(甲12)。 (2)これらの事実を総合してみれば、F氏は、請求人に対して本件商標に基づく権利を行使することによって、請求人の引用商標の使用、請求人の業務に係る地鶏料理の提供を困難にし、被請求人の業務に係る地鶏料理の提供によって不当な利益を得る目的を有していたと推認できる。 そうとすると、F氏は、本件商標について、高宮店が引用商標を使用していることを知った上で、請求人の営業の妨害をする目的をもって登録出願したものとみるのが相当であり、本件商標は、出願の経過、目的に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認できない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する(無効2019-890076)。 第4 被請求人の主張 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。 1 商標法第4条第1項第10号に該当しないこと (1)請求人は、要旨、引用商標が「丸万本店」の業務を表示するものとして広く認識されていることから、本件商標の登録は無効である旨主張し、その理由として、ア A氏が開業した「丸万」の事業を主として承継したのは「丸万本店」であること、イ 引用商標の知名度と信用の獲得に大きく貢献したのは「丸万本店」であること、ウ 本件商標出願は「丸万本店」とは無関係であること等を述べる。 上記アについて、丸万本店のみがA氏の開業した「丸万」を承継したとの主張は真実に反する。 A氏が開業した地鶏料理の販売・提供を行う飲食店事業は、地鶏料理である炭火のもも焼きを提供する店舗であり、遅くとも昭和29年頃には、宮崎市にて営業を開始した。その後、同人は、昭和42年頃、宮崎市内の被請求人の住所地において2店舗目を開業した。 なお、その後、A氏が開業した住所の店舗は「丸万本店」、被請求人の所在地の店舗を「丸万支店」と呼称するようになった。 このように、「丸万本店」と「丸万支店」はいずれもその起源をA氏とする同一の関係にあり、「丸万本店」は、「丸万支店」の事業をE氏より承継した本件商標出願人であるF氏との関係において、商標法第4条第1項第10号における「他人」にはあたらない。 (2)次に、上記(1)イについて、「丸万本店」の宣伝や雑誌の掲載が行われたとしても、被請求人設立の経緯や、後述(2(4))のとおり、E氏が乙第2号証及び乙第3号証記載の商標について商標登録出願を行うことにより、丸万という商標がE氏に帰属することを公示していたことからすれば、本件商標が「丸万本店」の業務に係る商品又は役務を表示するものとしてのみ、需要者の間に広く認識されているに至っているとは到底いうことはできない。 (3)次に、上記(1)ウについては真実に反する。丸万本店は、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けている立場である(乙1)。すなわち、本件商標に関する権利については、被請求人に帰属していることを丸万本店が認めている。したがって、本件商標は「丸万」や「丸万本店」とは無関係ではなく、E氏から続く被請求人に係る商品・役務の周知性に基づくものである。 なお、請求人は、東京高等裁判所平成10年12月24日判決/平成9年(行ケ)318号事件判決(判例時報1679号140頁)を挙げているが、丸万焼鳥本店(丸万本店)は、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けている立場である(乙1)。すなわち、本件商標に関する権利については、被請求人に帰属していることを丸万本店が認めており、かつ被請求人の許諾の下使用しているのであるから、商品・役務の出所の混同のおそれという状況はあり得ない。 加えて、上記裁判例の事案とは異なり、「丸万本店」と「丸万支店」はいずれもその起源をA氏とする同一の関係にあることは、上記(1)において主張したとおりである。 (4)以上のとおり、本件商標は、A氏の「丸万支店」の事業をE氏が承継し、当該事業を承継したF氏の出願によるものであり、自らの周知商標を出願したものであり、「他人の」周知商標を出願したものではない。 したがって、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとの請求人の主張には理由がない。 2 商標法第4条第1項第19号に該当しないこと (1)請求人は、F氏が不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって引用商標を使用していた旨主張しており、その理由として、 ア 丸万本店が本件商標を使用していたことを知っていたこと及び イ 「丸万本店」から暖簾分けを受けたF氏が出願し登録を受けるべき合理的理由がないことを挙げる。 まず、当該請求人の主張は、F氏が出願し登録を受けるべき合理的理由がないということのみで、不正の目的があることを推認しようとするものであり、論理の飛躍がある。 (2)また、このことをおくとしても、以下のとおり合理的理由がある。 A氏が当該事業から引退する際、いわゆる「丸万本店」は長男であるB氏が承継し、いわゆる「丸万支店」は、次男であるE氏が承継し、その後、E氏からF氏、そして被請求人に至るまで一貫して使用を継続しているのであり、「丸万本店」から暖簾分けを受けたとの主張が、そもそも真実に反するものであり、前提において請求人の主張は当を得ないものである。 (3)本件商標については、E氏に帰属させるものとされ、「丸万本店」もこれを認めていた。なお、現在の丸万本店が被請求人から本件商標の使用許諾(乙1)を受けているのは、本件商標については、E氏に帰属させるものとされ、「丸万本店」もこれを認めていたことも理由のひとつである。 (4)E氏は、上記(3)を背景に、乙第2号証記載の商標について、平成17年11月30日に商標出願を行い、同18年8月18日に登録に至った。また、E氏は、乙第3号証記載の商標についても、同18年7月25日に商標出願を行い、同19年3月23日に登録に至った。 なお、これらの商標登録について、丸万本店を含む、歴代の「丸万本店」の事業主体からは、何ら異議は出されることはなかった。 これらの商標は、E氏が更新手続を失念した為、登録抹消された。そして、F氏は、E氏から当該事業の事業譲渡を受けた際、当該登録抹消の事実を認識して、F氏は、改めて本件商標出願を行った。 (5)以上のとおり、F氏の本件商標の登録には合理的理由があり、不正の目的はないことから、商標法第4条第1項第19号該当性の主張は当を得ないものである。 まして、丸万本店が本件商標の通常使用権の許諾を受けていることからすれば、引用商標を剰窃的に先取りしたなどとの請求人の主張が成り立つ余地はない。 また、上記1(1)において主張したとおり、「丸万本店」と「丸万支店」はいずれもその起源をA氏とする同一の関係にあり、「丸万本店」は、F氏との関係において商標法第4条第1項第19号における「他人」にはあたらない。 (6)よって、被請求人はA氏の代から引用商標を使用し続けているのであり、不正の利益を得る目的など存在しないし、ましてや、通常使用権を許諾している「丸万本店」に損害を加える目的やその他不正の目的が認められる余地などない。 したがって、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するとの請求人の主張には理由がない。 3 商標法第4条第1項第7号に該当しないこと (1)請求人は、「丸万支店」から暖簾分けを受けて、1994年にG氏が高宮店を開業したなどと主張するが、事実に反する。E氏が暖簾分けを行ったのは、G氏のみであり、請求人でもなければ、「高宮店」でもない。 そして、G氏への暖簾分けは、同人に対する属人的な関係に基づくものであることから、G氏の一身に専属するものであり、G氏の事業を承継した者にまで、E氏のG氏に対する引用商標の使用許諾の効果が及ぶ理由は皆無である。このことは、特許権の通常実施権とは異なり、商標権の通常使用権は相続その他の一般承継の場合に限り移転できるとされていること(商標法第31条第3項)からも明らかである。 よって、請求人及び高宮店への引用商標に対する使用許諾の事実はない。 (2)また、甲第12号証の記載内容から明らかなとおり、被請求人は請求人に対して本件商標権の侵害行為の差止を求めるものであり、請求人の業務に係る地鶏料理の提供を困難にしたり、被請求人の業務に係る地鶏料理の提供によって不当な利益を得たりする目的などを有していないことは自明である。そもそも、引用商標はA氏の代から続く事業を承継した被請求人が、E氏及びF氏を経由して自己の事業に使用を継続していたものであり、請求人の提供する商品・役務との出所の誤認混同を避けることは、被請求人(本件商標権者)が有する極めて正当な利益に他ならない。 (3)そして、F氏は、E氏から「丸万支店」の事業譲渡を受けるまで、E氏に雇用された従業員として当該事業に従事していたにすぎず、E氏の経営について意見をいう立場にはない。また、F氏は高宮店において従事したこともない。したがって、請求人がどのように引用商標を使用しているかについて熟知することはなく、熟知できる立場にもなかった。 F氏が本件商標の登録出願をおこなった経緯は、上記2(4)記載のとおりであり、その出願には合理的理由がある。 (4)以上のことからすれば、F氏による本件商標の出願の経緯に不当な利益を得る目的や、請求人の営業の妨害をする目的といったような社会的相当性を欠くといった事情は存在せず、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないといった事情も存在しない。 したがって、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとの請求人の主張は当を得ないものである。 第5 当審の判断 1 利害関係について 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがないものであり、請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認められるから、本案に入って審理する。 2 商標法第4条第1項第10号及び同項第19号の「他人」について 商標法第4条第10号及び同項第19号は、商品若しくは役務の出所の混同防止を図り、又は出所表示機能の希釈化からの保護を図ることなどを目的として、商標登録を受けることができない商標を定めるものである。そうすると、上記各号に規定する「他人」とは、当該商標が出所を表示する主体とは異なる者と解するのが相当である。なぜなら、当該商標が出所を表示する主体と「他人」とが同一である場合には、そのような商標を使用したときであっても、当該使用行為が、出所の混同又は出所表示機能の希釈化を招く余地がないからである(平成29年(行ケ)第10078号・平成30年4月17日判決言渡)。 (1)請求人及び被請求人の提出の甲乙各号証、同人及び被請求人の主張によれば、次のとおりである。 ア 丸万本店及び丸万支店について (ア)丸万本店は、A氏が昭和29年(甲2、甲3)に、宮崎市内の繁華街に「丸万」の屋号で鶏のもも焼の店舗を出し、このときから引用商標を使用している。A氏の死後、A氏の長男B氏、さらにB氏の長男C氏、続いてC氏の次男D氏が事業を承継しており、平成7年に有限会社丸万焼鳥本店を設立し(甲5)、丸万本店を経営している。 (イ)丸万支店は、A氏が昭和42年頃に上記(ア)の「丸万」の2店舗目として開業し、A氏の死後、A氏の次男E氏、さらにその長男のF氏が事業を承継している。令和元年に株式会社丸万本舗(被請求人)を設立し(甲6)、丸万支店を経営している。 (ウ)上記(ア)及び(イ)のとおり、丸万本店は、有限会社丸万焼鳥本店が経営する店舗(甲5)であり、丸万支店は、被請求人が経営する店舗(甲6)であるところ、それぞれの店舗の経営は、A氏から暖簾分けを受けたA氏の長男B氏及び次男E氏、そして、その息子たちに代々承継されて、現在は、丸万本店はD氏及び丸万支店はF氏が代表者となっており、これらのことについては、本件商標の登録出願時及び登録査定時を含め、当事者間に争いはない。 (エ)丸万本店の看板、箸袋等には、引用商標(同視できるもの及び色彩が異なるものを含む。以下同じ。)が使用されている(甲7の1)。 また、丸万支店の看板、のぼり等にも引用商標と同視できる商標が使用されている(甲7の2、甲7の4)。 (オ)丸万支店のE氏は、「丸万」に係る商標(乙2、乙3)を登録していたが、これらの商標登録について、歴代の「丸万本店」の事業主体からは、何ら異議は出されることはなく、本件商標の登録出願についても同様である。そして、「商標通常使用権許諾契約書」(乙1)によれば、被請求人(丸万支店)と丸万本店(有限会社丸万焼鳥本店)は、本件商標に関して通常使用権の許諾契約をしている。当該許諾契約の契約日は明らかにされていないが、本件商標の登録番号の記載より、少なくとも本件商標の設定登録後であることが推認できる。 イ 本件商標と引用商標について 本件商標は、別掲1のとおり、「焼鳥丸万」を筆書き風に縦書きにしてなるところ、構成中の「焼鳥」の文字はその指定役務との関係で提供する商品を表した文字であって、自他役務の識別標識としての機能を有しないか、極めて弱いというのが相当であるから、本件商標の要部は、「丸万」の文字にあるといえる。他方、引用商標は、「丸万」を赤字で筆書き風に縦書きしてなるものであるから、本件商標の要部との比較において、両者は、ともに「丸万」の漢字からなり、当該文字部分に相応して「マルマン」の称呼が生じ、観念については造語と認められるから生じないとしても、同じ漢字より構成されるものであるから、観念において異なるところはないといえる。 したがって、本件商標と引用商標は類似するものであるというのが相当であるところ、これらの類否については当事者間に争いはない。 ウ 高宮店について 高宮店は、請求人の叔父であるG氏が、丸万支店のE氏から暖簾分けをうけ、1994年に福岡市内で「丸万」の屋号で「高宮店」を開業した。2003年にG氏が死亡し、請求人が高宮店を承継した。 (2)上記(1)によれば、以下のように判断できる。 ア 引用商標は、昭和29年あるいは昭和42年以来、本件商標の登録出願時及び登録査定時に至るまで、A氏を起源とし、同じ宮崎市内の繁華街に「丸万」の屋号で鶏のもも焼を提供する店舗である、「丸万本店」及び「丸万支店」が使用していることが認められる。 そうすると、本件商標がその登録出願時及び登録査定時に出所として表示するのは、同じ引用商標を使用し、同じ宮崎市内の繁華街に「丸万」の屋号で鶏のもも焼を提供していた「丸万本店」及び「丸万支店」(両者は暖簾分けを通じたグループ関係にあるといえる。)であるから、引用商標の使用者は、実質的に同一人と理解できる。 また、本件商標登録後は、丸万支店と丸万本店は「商標通常使用権許諾契約書」(乙1)を交わし、引き続き本件商標を使用していく契約となっているので、そのグループ関係が契約により裏付けられてもいる。 イ そうとすれば、引用商標(及び本件商標)を使用して「鶏のもも焼き」等を提供している者は「丸万」を屋号とする「丸万本店」及び「丸万支店」というグループであって、それらは本店や支店という事業者ごとに把握されるというものでもないから、引用商標(及び本件商標)の出所を表示する主体は丸万を屋号とするグループの両者であって、本件商標権者(被請求人、丸万支店)も含まれる。 ウ 以上のとおり、請求人が無効理由として主張する、引用商標(及び本件商標)に係る事業者としての丸万本店は、取引の実態を踏まえると、本件商標権者を含むグループ関係にあるから、両者は実質的に同一人というべきである。 したがって、請求人が主張する「他人」が、本件商標の出所を表示する主体と異なる者とは認められないから、商標法第4条第1項第10号及び同項第19号には該当するものとはいえない。 エ なお、請求人提出の証拠からは丸万本店及び丸万支店によるグループの引用商標の使用は認められるものの、丸万本店に係る引用商標の周知性を客観的に評価、把握できるような証拠は提出されていない。また、請求人が主張する高宮店については、高宮店に係る引用商標の使用事実等、周知性を客観的に判断するための具体的な証拠も提出されていない。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができないと規定され、これに該当する商標には、「ア その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、イ 当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、ウ 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、エ 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、オ 当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである。」と判示されているところである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決参照)。 これを本件についてみるに、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様ではないこと及び特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものではないことは明らかである。 また、本件商標をその指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもない。 その他、請求人提出の証拠によっては、被請求人と請求人との契約関係や取引関係などは明らかではなく、被請求人が本件商標を利用して不正な利益を得たり、請求人の事業活動を阻害しているような事実関係は把握できない。 そうすると、請求人提出の証拠によっては本件商標の登録出願及び登録が、不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的などの不正の目的をもってなされたものということはできない。 以上によれば、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標とはいえない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 4 請求人の主張について (1)請求人は、丸万本店が引用商標の周知、著名性に貢献しているから、本件商標の出願及び登録は、被請求人ではなく、丸万本店が取得するべきである旨主張している。 しかしながら、上記2(2)のとおり、丸万本店と丸万支店は、A氏を起源とする暖簾分けを通じたグループ関係にあり、実質的に同一人というべきであるから、「他人」ということはできず、商標法第4条第1項第10号及び同項第19号には該当するものとはいえない。また、丸万本店に係る引用商標の周知性については、その周知性を客観的に判断するための具体的な証拠は提出されていないから、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性の程度を推し量ることはできない。 (2)請求人は、請求人が、長きにわたって引用商標を使用していたにもかかわらず、被請求人より警告書が届いた事実等から、F氏が、請求人に対して本件商標に基づく権利を行使することによって、請求人の引用商標の使用、請求人の業務に係る地鶏料理の提供を困難にし、被請求人の業務に係る地鶏料理の提供によって不当な利益を得る目的を有していたと推認できる旨主張している。 しかしながら、請求人が主張する事情は、被請求人との間の契約関係や取引関係などに関連するものであって、それが本件商標に係る不正の出願目的や出願経緯を示すものでもなく、当事者同士の私的な問題として解決すべきものというべきであるから、商標法第4条第1項第7号の判断の基礎となる事実関係ではない。 (3)したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。 5 まとめ 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第19号及び同第7号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。

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