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商標無効審判

2024-890017

ティルリル

審判番号
2024-890017
法域
商標
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
商願2021-127926
登録番号
6561302
請求日
2024年04月03日
審決日
2024年12月23日
公報発行日
2025年05月30日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】シルラ ジュエリー カンパニー,リミテッド
  • 【請求人代理人】藤本 綾子
  • 【被請求人】株式会社 D&ACE
  • 【被請求人代理人】岩瀬 ひとみ
  • 【被請求人代理人】船橋 理恵
  • 【被請求人代理人】大坂 尚輝
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 雅也
  • 審判官 馬場 秀敏
  • 審判官 小田 昌子
分類
T111 .18 -Z (W1418) / T111 .25 -Z (W1418) / T111 .271-Z (W1418) / T111 .22 -Z (W1418) / T111 .222-Z (W1418)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
商標法4条1項19号商標法46条1項
条文(本文から自動抽出・参考)
商標法第4条第1項第19号、商標法第4条第1項第10号、商標法第4条第1項第7号、商標法第3条第1項、商標法第34条第1項第13号、商標法第34条第1項第12号、商標法第4条第1項第15号、商標法第34条第1項第7号、商標法第4条第1項第11号、商標法第34条第1項第9号、商標法第34条第1項第11号、商標法第7条第1項第11号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の登録第6561302号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 登録第6561302号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 本件商標 本件登録第6561302号商標(以下「本件商標」という。)は、「ティルリル」の文字を標準文字で表してなり、令和3年10月14日に登録出願され、第14類「イヤリング,ピアス,ネックレス,ブレスレット,指輪,ブローチ,身飾品,時計,キーホルダー」及び第18類「バッグ,ポーチ,かばん,袋物,傘」を指定商品として、同4年5月19日に登録査定、同月25日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が、本件商標の無効の理由において引用する4件の商標は、いずれも請求人の業務に係る「イヤリング、ピアス、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、指輪、身飾品及び時計」(以下「請求人商品」という。)を表示するものとして我が国及び韓国を含む外国において周知になっていると同人が主張するものであり、別掲1のとおりの構成態様で「Tirr Lirr」の欧文字を横書きしてなるもの(甲第2号証の1。以下「引用商標1」という。)、別掲2のとおり、大韓民国(以下「韓国」という。)で使用されているハングル(朝鮮語の表音文字)で「TirrLirr」を一列に横書きしてなるもの(甲第2号証の2。以下「引用商標2」という。)、別掲3のとおりの構成態様で「Tirr Lirr」及び「POETIC JEWELRY」の欧文字を二段に表してなるもの(甲第2号証の3。以下「引用商標3」という。)、及び「ティルリル」の片仮名を横書きしてなるもの(甲第2号証の4。以下「引用商標4」という。)である。 以下、引用商標1ないし引用商標4をまとめて「引用商標」という場合がある。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求めると主張し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第51号証(枝番号を含む。)を提出した(甲第37号証は欠番となっている。)。 以下、証拠の記載に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する場合があり、枝番号を全て記載するときは、枝番号を省略して記載する。 1 商標法第4条第1項第19号該当性について (1)引用商標と本件商標の類似性 ア 称呼上の類似 本件商標は、引用商標と「ティルリル」の称呼において同一であり、引用商標と類似する商標である。 イ 外観上の類似 本件商標は標準文字の片仮名文字「ティルリル」が横一列に書されているのに対して、引用商標4は「ティルリル」が横一列に書されており、構成文字が同一であるから、本件商標は引用商標4と外観において同一である。 (2)韓国を含む外国における引用商標の周知著名性 ア 請求人の業務 請求人は、1989年に創業した身飾品を製造販売する企業であり、日本、アメリカ及びヨーロッパ等20か国余りの国に身飾品を輸出しており、引用商標「TirrLirr」は、2010年頃から韓国内で販売が開始された身飾品の請求人のメインブランドであり、ひばりの清やかで軽やかなさえずりの音にヒントを得て創作した造語である(甲3)。 請求人の商標「TirrLirr」を付したネックレス、ピアス、イヤリング等の身飾品は、韓国において2010年頃から製造・販売が開始されており、韓国の主要都市であるソウル、釜山、大邱、大田、全州、光州、蔚山、仁川等における韓国大手百貨店のロッテ百貨店、新世界百貨店、ギャラリア百貨店、現代百貨店等、百貨店を中心に続々と出店を進め、2023年末現在で53店舗を設け、大規模に身飾品の販売を継続しており、百貨店への出店だけではなく、免税店への出店や、韓国のソウル市江南区新沙洞(シンサドン)に位置する若者・女性に人気の洒落たエリア「カロスキル」にも旗艦店を出店したり、また、アメリカのニューヨークにも出店したり、多様な販売場所・販売形態での販売を行っている(甲4)。 イ 引用商標を付した商品の広告宣伝及び評判等 引用商標を付した商品の広告宣伝は、韓国の有名芸能人による間接広告、ファッションショー、関連行事、雑誌広告、テレビショッピング、展示会等、多様な方法を通じて行われている。また、その広範囲な宣伝により、引用商標を付した商品は韓国内で高い人気を誇っており、認知度調査で取り上げられ、また、需要者によるインターネット上の書き込み等も多数存在する(甲5~甲21)。 (ア)韓流ドラマ内の間接広告 韓国において2010年に韓国のテレビ局であるMBC(文化放送)社によって制作・放映されたドラマ「逆転の女王」では、主人公を演じたキム・ナムジュに引用商標を付したハートのイヤリングを着用させて間接広告が行われている(甲6の1~3)。この広告宣伝の効果で、キム・ナムジュのファッションが注目され、韓国のインターネットでは「(逆転の女王の)一話で『ティルリル』のイヤリングを二度も付けているのね」等と言う書き込みがある等、引用商標を付したイヤリングが話題に上っている(甲6の4)。 また、韓国において2011年に韓国MBC社によって制作・放映されたドラマ「マイ・プリンセス」では、日本の韓流ファンにも高い人気のあるキム・テヒが主人公を演じているが、出演者が本件商標を付したイヤリング及びカチューシャを着用していたことが話題となっている(甲7)。 さらに、韓国において2016年に韓国MBC社によって制作・放映されたドラマ「運勢ロマンス」では、主人公を演じたファン・ジョンウムが本件商標を付したイヤリングを着用していたことが話題となっている(甲8)。 その他、日本でも人気のある韓国人シンガーソングライターのIU(アイユー)(甲9)ほか、多数の芸能人により、韓国のテレビ局(MBC、SBS、KBS他)が制作したドラマ、バラエティ等のテレビ番組、高級ブランド品の展示イベント、ファッションショー、SNS等での間接広告を通じて継続的に引用商標を付した商品が宣伝されており、それらの事実について韓国内でブログ等に多数投稿されている(甲10)。 (イ)受賞歴 請求人は、2016年1月21日に、韓国の主要新聞社である東亜日報、韓国の国家行政機関である未来創造科学部、中小企業庁、中小企業振興公団等が主催・後援する「2016 大韓民国中小企業大賞」で、経営革新企業大賞部門で大賞を受賞しており、この事実が東亜日報で報道され、その報道内で引用商標を付した商品が紹介されている(甲11、甲12)。 また、請求人及び請求人の代表者であるチョン・ユンヒは、1991年頃から現在に至るまで韓国の国家機関から様々な賞を授けられており(甲13)、これらの賞を受けたことは、引用商標が韓国において一般需要者に広く認識されていることに大いに貢献している。 (ウ)ファッションショー、関連行事、広告モデル等 2015年には、ファッションショー「第5回コリアスタイルウィーク」でも引用商標を付した商品が紹介されている(甲14)。 また、2015年7月には、引用商標を付した商品の販促のためのモデル選抜イベントが開催されており(甲15の1)、2017年6月には、引用商標を付した商品の発売から7年経ったことを記念する「777イベント」、「サポーターズ2期募集」等の関連行事も行われている(甲15の2、3)。 2018年頃には韓国の女優ソン・ハギュンが、2019年頃には韓国ドラマ・映画で活躍する女優のシン・セギョンが、2022年頃には日本でも人気の韓国女性アイドルグループ「少女時代」のメンバーである「ソヒョン」が、それぞれ引用商標を付した商品の広告モデルを務めており(甲16の1)、これらの事実は、日本においてもインターネット上で記事になっている(甲16の2、3)。 (エ)雑誌広告、新聞広告等 引用商標を付した製品は、2010年頃より2022年にかけて、韓国のファッション専門雑誌「ELLE」、「CECI」等に数十回にわたって記事及び広告が掲載され(甲17の1、2)、また、2010年8月には、「ティルリルを探せ!」と題して、ロッテ百貨店光復店(釜山)及び大邱店のオープンを記念して、新聞広告を行っている(甲17の3)。さらに、同時期に釜山の地下鉄の車両内及び駅構内では、引用商標を付した商品の広告を大々的に行っている(甲17の4)。 (オ)テレビショッピング 2015年頃より2022年にかけて、韓国のCJホームショッピング、ロッテホームショッピング等のテレビホームショッピングチャンネルを通じ、数十回にわたって引用商標を付した商品の広告宣伝及び商品販売が行われている(甲18の1)。 (カ)展示会 2015年頃より、海外のジュエリー展示会等(香港及び日本)において複数回引用商標を付した商品が紹介されている(甲18の2~3)。 (キ)業界順位・認知度調査等 韓国の雑誌「Fashion Gio」の2012年2月14日付の記事では、ファッションジュエリー市場が分析されており、『百貨店3社バイヤーが注目したブランドとして、新世界百貨店は‘プリプリ’、ロッテ百貨店は‘ティルリル’、現代百貨店は‘パンドラ’を選んだ。』という記載がある(甲19の1)。 また、韓国の調査機関メッシュ&Cが20代~50代の女性1,500名に対して行ったアンケート調査において、女性消費者が選ぶ最高のジュエリーブランドの総合順位のランキングで引用商標が選ばれたことが2013年8月14日付で公開されている(甲19の2)。 身飾品の産業に関するレポート等を発行することで定評のある韓国の財団法人ウォルゴクジュエリー産業研究所の認知度の調査では、2013年及び2015年の時点で、引用商標の商品が韓国国内トップ30ブランドの一つとしてランキングされている(甲19の3)。 その他、韓国ジュエリーに関する比較分析をする個人ブログにおいても、引用商標がラインアップされている(甲19の4)。 (ク)インターネットの口コミ、評判 2010年頃から2022年にかけて、韓国人が最も利用するポータルサイトNaverでの記事、ブログ等の書き込みは、毎年数千件に及び、引用商標を付した商品は、長年継続して多くの需要者に認知され大きな話題になっている(甲20)。 (ケ)その他プラットフォーム(SNS等) 請求人は、引用商標を付した商品に関するウェブサイト、フェイスブック、インスタグラム、YouTubeのアカウントを開設し、複数の情報を投稿することによって、継続的、かつ積極的に引用商標を付した商品を広告宣伝している(甲21)。 (コ)引用商標の海外商標登録・出願例 請求人は、引用商標と同一又は類似の商標について、韓国において多数の商標登録・出願を所有しており(甲22)、アメリカにおいても引用商標と類似する商標について商標登録を所有している(甲23)。 (サ)引用商標を付した商品の海外における売上高及び広告費 引用商標の一部については、当初、株式会社クァンソンゴールドリッチ(韓国企業)(甲24)が韓国で商標登録を所有しており、引用商標を付した商品の製造、販売を行っていたが、請求人が2014年9月頃に18億4,250万ウォン(約1億8,900万円)で譲り受け、主力ブランドとして使用してきた。2010年から2017年までの引用商標を付した商品の売上実績の合計は約300億ウォン(約30億円)を超えており(甲25の1)、当該売上実績は、取引先の中でオンライン、ホームショッピング及び百貨店の各売上合計額を足したものであり、その他食堂、病院等が取引先の売上額は除いたものであるにもかかわらず、毎年数十億ウォン(数億円)の売上げを達成している。 また、上記売上額は、後述する株式会社ティルティルの所有する韓国商標登録第1310418号「TIRTIR」(第3類、第35類)及び韓国商標登録第1310429号「(ティルティルのハングル)」(審決注:「(ティルティルのハングル)」は「ティルティル」のハングル表記。以下同じ。)に対して、請求人が韓国で請求した無効審判の審決取消訴訟の判決(甲27の1、甲28の1)で認められたものである。 そして、請求人は、本件商標が登録された2022年にかけても引用商標を付した商品を初め身飾品類の製造・販売を継続しており、請求人の2020年から2022年の売上実績は約198億ウォンないし約202億ウォン台で推移している(甲25の2)。 さらに、請求人は、引用商標を付した商品と関連して多額の広告費及び販売促進費をかけており、2014年から2017年までの引用商標を付した商品に関する広告費は、約2,568万ウォンないし約2億5,276万ウォン、販売促進費は、約2,408万ウォンないし約2億2,370万ウォンで推移しており、広報活動を活発化させた2015年及び2016年には、広告費及び販売促進費を合計して1年で50億ウォン(約5億円)近くの金額に上っている(甲26)。 請求人は本件商標が登録された2022年にかけても引用商標を付した商品をはじめ身飾品類の製造・販売と関連して継続して広告販促活動を続けており、請求人の2020年から2022年の広告・販促費は約5億8,747万ウォンないし約6億1,527万ウォンで推移している(甲25の2)。 (シ)引用商標の著名性を認めた韓国の判例 韓国特許法院において、引用商標の著名性が認められている。 請求人は、請求人が韓国において所有している韓国登録商標第808904号「TirrLirr/POETIC JEWELRY/(ティルリルのハングル)+図形」(第14類)(甲22の1、2)及び韓国商標登録第1919170号「TirrLirr/POETIC JEWELRY/(ティルリルのハングル)+図形」(第35類)(甲22の3、4)を引用商標として、被請求人の韓国本国法人:株式会社ティルティル(以下「ティルティル社」という。)に対して、2019年10月にティルティル社の所有する韓国商標登録第1310418号「TIRTIR」(第3類、第35類)及び韓国商標登録第1310429号「(ティルティルのハングル)」への無効審判を請求した。 上記無効審判の審決では、請求人の主張を容認し、韓国商標法第34条第1項第7号「先出願による他人の登録商標(登録された地理的表示団体標章を除く)と同一・類似した商標として、その指定商品と同一・類似した商品に使用する商標」(日本商標法第4条第1項第11号に相当)に該当し商標登録を受けることができないとして、第35類の一部の指定役務が無効とされた。 しかし、請求人は、上記以外の無効理由が容認されなかったことを不服として韓国特許法院に審判取消訴訟を提起した。 審決取消訴訟の判決(判決日:2021年9月10日、甲27の1、甲28の1)では、原告の上記引用商標の周知著名性を認め、被告の2商標は、韓国商標法第34条第1項第13号「国内又は外国の需要者らに特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(地理的表示は除く)と同一・類似した商標として、不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を負わそうとする等、不正な目的で使用する商標」(日本商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に相当)及び、韓国商標法第34条第1項第12号「商品の品質を誤認させるか需要者を欺瞞する恐れがある商標」(日本商標法第4条第1項第7号)に該当すると判断された。これにより、上記2商標は、先の審決における一部無効ではなく、その余の部分についても無効となり、全部無効となった(甲27、甲28)。 当該判決において、「先使用商標(引用商標)が原告(請求人)の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていたと判断される」と判示されており、無効対象商標の出願日時点及び登録日時点での引用商標の周知著名性が韓国特許法院の判決で認定されている。 本判決では、先使用商標(引用商標)「TirrLirr」等が第14類に属する貴金属アクセサリー、時計に使用されているのに対して、無効となった韓国登録商標「TIRTIR」が第3類に属する「化粧品」について出所について混同するおそれがあると認められている。つまり、引用商標が韓国において身飾品について高度な著名性を有しているので、化粧品についても混同が生ずると判断されたものである。 上記のとおり、引用商標は本件商標の査定時はもとより、出願日時点において韓国において著名な商標である。 (3)日本における引用商標の周知著名性 ア 韓流ブームについて 韓国のドラマ、音楽、映画、ファッション等の大衆文化については、「韓流」と呼ばれており、日本では2000年代初めに韓国ドラマ「冬のソナタ」の放送がきっかけに人気に火が付いた(甲29)。このような日本での韓国大衆文化の流行は「韓流ブーム」と呼ばれ、現在に至るまでその高い人気が継続し、衰えることを知らない。東京の新大久保地域や大阪の鶴橋地域にはコリアンタウンが存在するが、韓国の服飾雑貨や化粧品、芸能人関連グッズ、韓国料理店の店が数多く立ち並び、韓国の文化を好む多くの需要者が連日押し寄せる状況となっている。韓国の文化を好む需要者は主に若年層から中高年層の女性であり、特に韓国の服飾、化粧品等に関しては、ファッションに敏感な女性の間で流行する例が多くある。このように韓国に対してより深い興味を持つ需要者は、日本に入ってくる韓国文化を待つのではなく、韓国に旅行したり、インターネット等を通じて直接韓国の情報を得たりする等して、自発的に韓国の最新情報を入手している。 韓国のドラマ内で俳優が着用する引用商標が付された商品については、韓国の取引者又は日本の韓流ファン等によってインターネット記事等を通じて日本に紹介されており(甲30)、「BUYMA」等の海外商品を直接購買できる通販サイトによって、韓国で販売される引用商標を付した商品は日本にいながらにして購入することもできる(甲31)。 このように20年前から日本において韓流ブームが継続しており、韓流ファンが直接韓国からの最新の情報を入手している実情に鑑みると、引用商標が付された商品が2015年に日本で販売開始される前から、韓国の情報に関心がある日本の需要者の間で、引用商標が知られている状況であるといえる。 イ 日本での事業展開 請求人は、2015年頃に日本においても本格的に引用商標を付した商品の販売を開始し、現在まで継続的に販売している。請求人は日本への事業展開に当たり、時計貴金属卸売事業を行っている株式会社共栄商会(日本法人)と2015年10月1日に商標ライセンス及び代理店契約を結び(甲32)、2016年1月より身飾品、時計等の全国販売を開始し(甲33)、日本公式ページも設け、積極的に販売活動を行っている(甲34)。 引用商標を付した商品は、日本全国に広く所在するハピネス、フィットハウスカンパニー等のジュエリー又は時計専門小売店、ヨドバシカメラ等の大型量販店等で販売され、2021年4月現在で約130店舗に及ぶ小売店で販売するに至っている(甲35の1、2)。また、日本の有名な女優、ファッションモデルに引用商標を付した商品を贈呈し、その商品を売場で展示する等して、積極的に宣伝販売活動を行っている(甲35の3)。 さらに、インターネットにおけるオンライン通信販売も盛んに行われており、楽天市場、ヤフー、Amazon、ヨドバシカメラ等の大手インターネットショッピングサイト(甲36の1~4)、BUYMA、Qoo10等の海外商品通販サイト、その他ハピネス等のジュエリー小売店の通販サイト等でも多数取り扱われている(甲36の5~7)。加えて、メルカリ、楽天フリマ等のインターネットフリーマーケットサイトや、ヤフーオークション等のインターネットオークションサイトでも引用商標を付した商品の中古品が多数出品されている(甲36の8~10)。 上記のとおり、引用商標は本件商標の出願日時点において、日本において請求人の出所表示として身飾品及び時計の需要者の間で全国的に認識されている商標である。 (4)本件商標権者の不正の目的 ア 不正の目的について 引用商標は韓国において著名な商標であり、また、日本においても全国的に知られている商標であり、かつ、本件商標は少なくとも引用商標と称呼が同一であるため、同一又は極めて類似している商標に該当し、引用商標は、ひばりの清やかで軽やかなさえずりの音にヒントを得て創作した独創性の高い請求人の造語であり、第三者が偶然に引用商標と同一・類似する商標を採択することはあり得ない。かつ、引用商標は辞書等に載録されている成語でもないから、被請求人が引用商標について全く知らずに偶然に本件商標を採択して出願することはあり得ない。このような著名商標を出願する行為は商標を盗用する行為であって、商標法の目的である、商標の使用をする者の業務上の信用の維持にもとるものであることは明らかであるから、本件商標は、外国及び国内の周知著名な商標を不正の目的をもって使用するものと推認すべきである。 イ 被請求人について 被請求人は、ティルティル社の日本現地法人であり、日本において、ティルティル社の商号商標、商標登録第6249694号「TIRTIR」(第3類)及び第6256092号「TIRTIR」(第35類)の商標権者である(甲38、甲39)。 ティルティル社の商号商標は、当初、ティルティル社の代表である「リ ボヒー(イ・ボヒ)」の名義で出願されている(甲40、甲41)(ティルティル社の登記簿謄本の訳文では「イ・ボヒ」と記載されているが、翻訳上の差異であり、同一人である。)(甲42)、その後、出願人名義変更届を提出して、登録時には「ティアティア インコーポレーティッド」の名義(代表者リ・ボヒー)になるが、これはティルティル社自体である(甲43、甲44)。その後、「ティルティル インコーポレイテッド」、「株式会社ティルティル」と表示変更登録されるが、韓国語の片仮名表記を変更したものであり、主体は変更されることなく同一である。 さらに、上記商標は、2022年(令和4年)3月17日に、移転登録申請書が提出され「株式会社ティルティル」から「株式会社D&ACE」に権利移転されている(甲45、甲46)。 被請求人は、海外の顧客が日本でビジネス展開を始める際の企画や提案等を行っている会社であり、顧客会社として主に韓国の商品のインターネット通信販売を行っている「Qoo10」や「DHOLIC」の名前があがっている(甲47)。 被請求人の代表者は「李智哲(イ・ジチョル)」であり(甲47)、「李智哲(イ・ジチョル)」は、ティルティル社の社内理事である(甲42)。 請求人がティルティル社所有の韓国商標登録第1310418号「TIRTIR」(第3類、第35類)及び韓国商標登録第1310429号「(ティルティルのハングル)」に対して無効審判を請求したのも、請求人が、被請求人の本国会社であるティルティル社との間で韓国において商標に関する複数の紛争事件の一環であり、当該無効審判事件の審決取消訴訟では、2021年(令和3年)9月10日付で韓国商標登録第1310418号「TIRTIR」(第3類、第35類)及び韓国商標登録第1310429号「(ティルティルのハングル)」を無効とすべきとして、審決を取り消した判決が出された(甲27、甲28)。 本件商標は、上記の審決取消訴訟の判決日から僅かほぼ一か月後に出願されたものであり、ティルティル社は本国である韓国において自身の商標登録が無効になる可能性が濃厚となったので、対抗手段として日本において、請求人の固有の商標を盗用登録すべく出願したものであり、自己の名を隠すために自己の名義でなく日本法人である被請求人の名義で出願したものである。被請求人は、請求人が日本へ業務を拡大するのを妨害し、又は請求人が日本進出する時に取引材料とするため出願したものと容易に推察できる。 また、ティルティル社は請求人に対して口頭で幾度か商標紛争解決の話合いの提案を持ちかけてきており、令和4年3月17日には書面でも要請があった(甲48)。請求人はティルティル社の要求が条件に見合わないため拒否したが(甲49)、このような事実に鑑みると、ティルティル社は請求人との商標紛争において、請求人より優位な立場を得るために、意図的に請求人の商標と同一の本件商標の出願を被請求人の名義によって我が国で行ったといえる。 さらに、引用商標は請求人によって日本で既に大規模に使用されている一方で、ティルティル社及び被請求人は、本件商標の出願日から既に2年5月経過するにもかかわらず、日本で本件商標を自ら使用しておらず、請求人と被請求人の本国会社であるティルティル社との紛争に火を注ぐことになるので、本件商標を使用することができないのが実情であり、ティルティル社及び被請求人は、本件商標を使用する意思はなく、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で本件商標の登録を得ていると言わざるを得ない。 このように、ティルティル社の日本法人である被請求人は、引用商標が韓国及び日本で著名であることをちしつしており、著名な請求人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、請求人の日本国内事業の拡大を阻止する、又は事業を妨害するために出願したもの、若しくは高額で買い取らせるために先取り出願したもの、又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について、出所表示機能を稀釈化させ、かつ、その名声等を毀損させる目的、つまり不正の目的をもって出願したものである。 (5)まとめ 以上のとおり、引用商標は、本国韓国において著名性を有しており、日本国内においても全国的に知られている商標である。また、本件商標は、前述した韓国において周知な商標、及び日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似する商標であり、かつ、その周知な商標が造語よりなるものであるため、不正な目的をもって使用するものと言うことができる。さらに、被請求人はティルティル社と一体の日本現地法人であり、ティルティル社が請求人と韓国において商標と関連して争っている中で、ティルティル社が対抗手段として日本国内において請求人の商標と同一の商標を出願する際に被請求人の名義で出願したと考えられる。したがって、本件商標は、韓国及び日本において周知著名な商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、請求人の日本国内事業の拡大を阻止しようとする等の不正の目的をもって使用するものに該当する。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 2 商標法第4条第1項第10号該当性について 本件商標と引用商標の類似性について、本件商標及び引用商標から「ティルリル」の称呼が自然に生じるため、称呼において同一であり、互いに同一又は類似の商標であり、本件商標の指定商品中「イヤリング,ピアス,ネックレス,ブレスレット,指輪,ブローチ,身飾品,時計」は、引用商標が使用されている商品と同一又は類似であるので、商品においても類似するものであるから、本件商標はと引用商標は互いに同一又は類似の商標である。 また、引用商標を付した商品は、韓国において2010年頃から現在にかけて継続的に、かつ、大規模に販売され、また、ドラマ等における間接広告、ファッションショー、雑誌広告、テレビショッピング、展示会等を通して活発に広告宣伝活動も行っており、韓国において著名性を有している。さらに、引用商標を付した商品は、日本においても2015年頃から現在にかけて日本全国のジュエリーショップ、大型量販店で継続的に販売され、また、大手インターネットショッピングサイト、海外商品通販サイト、フリーマーケット及びオークションサイト等の様々なウェブサイトを通じてインターネット通信販売もされており、日本においても著名性を有しているから、引用商標は、査定時はもとより、本件商標の出願日の時点において需要者の間に広く認識されている商標に該当する。 したがって、本件商標は指定商品「イヤリング,ピアス,ネックレス,ブレスレット,指輪,ブローチ,身飾品,時計」について、商標法第4条第1項第10号の規定に該当する。 3 商標法第4条第1項第15号該当性について 本件商標と引用商標の類似性については、本件商標及び引用商標から「ティルリル」の称呼が自然に生じるため、称呼において同一であり、互いに同一又は類似の商標であり、査定時はもとより、引用商標は、本件商標の出願日の時点において韓国及び日本において著名性を有しているので、日本の需要者の間に広く認識されている商標に該当する。 引用商標はひばりの清やかで軽やかなさえずり音にヒントを得て創作した造語よりなるものであるから、引用商標と酷似する本件商標が使用された場合、請求人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあるといえる。 また、引用商標が使用されている商品「イヤリング,ピアス,ネックレス,ブレスレット,アンクレット,指輪,身飾品」は、流行に敏感な主に女性が着飾るために身に付ける装飾品であるが、本件商標の指定商品「キーホルダー」(第14類)及び「バッグ,ポーチ,かばん,袋物,傘」(第18類)についても、ファッション性を求める流行に敏感な女性が好んで購買するものであり、需要者層が共通する。 イヤリング等の身飾品とキーホルダー、バッグ、傘等は、百貨店でいえば、いずれも婦人洋品、婦人雑貨のカテゴリーに属するものであり、隣接する売場や、同一の階で陳列・販売されていることが多いのが実情である(甲50、甲51)から、本件商標の指定商品「キーホルダー」及び「バッグ,ポーチ,かばん,袋物,傘」は、引用商標が使用されている商品「イヤリング,ピアス,ネックレス,ブレスレット,アンクレット,指輪,身飾品」と深い関連性を有し、本件商標が「キーホルダー」及び「バッグ,ポーチ,かばん,袋物,傘」について使用された場合、本件商標に接する需要者・取引者は、請求人の商品であるか、あるいは、請求人と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認を生ずるおそれがある。 したがって、本件商標は、指定商品「キーホルダー」(第14類)及び「バッグ,ポーチ,かばん,袋物,傘」(第18類)について、商標法第4条第1項第15号に該当する。 4 商標法第4条第1項第7号該当性について 本件商標は、被請求人が韓国及び日本において請求人の商品を表す商標であることを知っていたにもかかわらず、商標登録がなされていないことを奇貨として、本件商標を選択・出願したものであり、引用商標は請求人の独創に係る造語であり、被請求人が偶然に本件商標を採択したものでないから、そのような商標の選択・使用は剽窃的な出願であり、取引秩序の混乱を招来するものであり、公の秩序又は善良の風俗に反するものである。 また、被請求人は、韓国企業のティルティル社の日本現地法人であり、韓国において、請求人とティルティル社との間では商標に関して複数の紛争事件を抱えており、ティルティル社が被請求人と共謀して、我が国において請求人の商標が今後出願されることを予想して、先回りして本件商標を出願したものである。 さらに、ティルティル社及び被請求人は、本件商標を使用する意思はなく、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で本件商標の登録を得ているものであるから、このような出願は健全な商取引を乱すものであり、本件商標の出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に当たる。 また、本件商標の出願は、請求人と被請求人間の韓国における商標関連の紛争を我が国に持ち込む意図があり、国際信義にも反するものである。よって、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 5 商標法第3条第1項柱書について 本件商標は日本において、被請求人又は被請求人の本国会社であるティルティル社によって現在使用されておらず、被請求人及びティルティル社は、韓国内での商標紛争に端を発し、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で本件商標の登録を得ており、仮に日本国内で本件商標を使用すれば、韓国内での紛争を日本国内に持ち込むことになるので、使用することは事実上不可能であり、被請求人及びティルティル社は、その事実を認識しているからこそ、現在まで本件商標の使用を開始しておらず、請求人の日本国内での引用商標の使用に対して何ら商標権侵害の主張をしてきておらず、このような商標は、自己の業務について使用する意思のある商標といえず、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない。 第4 被請求人の答弁 1 被請求人について 被請求人は顧客のビジネス展開に関し企画や提案等を行うマーケティング会社であり、甲第47号証のPARTNERSの欄に「TIRTIR」のロゴがあるから、ティルティル社は、被請求人の顧客にすぎず、被請求人はティルティル社の日本現地法人であるとの認識は誤りである。 したがって、当該認識に基づく主張は、その前提としての認識に誤りがあり、審判請求書に記載されている韓国における請求人とティルティル社の紛争は本件に直接関係するものではない。 2 引用商標の周知性について (1)韓国を含む外国における引用商標の周知著名性について ア 引用商標を付した商品の広告宣伝及び評判等について 請求人は、主に韓国における引用商標を付した請求人の商品に係る広告宣伝、展示会、需要者の認知度等に関する証拠に基づき、引用商標の外国での周知著名性について主張するが、請求人が根拠として提出した証拠は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務を表すものとして需要者間で周知著名であったことを裏付けるものとはいえない。 (ア)韓流ドラマ内の間接広告 提出された証拠は韓国ドラマの紹介及びこれに出演した女優「キム・ナムジュ、キム・テヒ、ファン・ジョンウム」の3名に関するウィキペディア記事などであり、引用商標が言及されているのは、2011年1月11日及び同月15日の書き込み(甲6の4)、2014年4月7日の書き込み(甲7の4)、2016年6月3日及び同月13日の書き込み(甲8の3)などであって、その数は多いとはいえず、かつ、古い日付の証拠である。 また、多数の芸能人によりドラマ、バラエティ等のテレビ番組、高級ブランド品の展示イベント、ファッションショー、SNS等での間接広告を通じて商品が宣伝広告されており、それらの事実について韓国内でブログ等に多数投稿されている(甲9、甲10)と主張するが、少なくとも2018年以降の証拠は単に写真のみで、引用商標が認識できないものが多く存在するから、これらの証拠は、間接広告を通じて本件商標の登録出願時点及び登録査定時点で需要者間において引用商標を広く認識していたことを裏付けるものとはいい得ない。 (イ)受賞歴 いずれも請求人及び請求人代表に対して、中小企業としての企業経営や納税に関して与えられた賞であり、引用商標に係る商品への受賞ではなく、引用商標自体の周知著名性を直接裏付けるものではない。 (ウ)ファッションショー、関連行事、広告モデル等 これらのイベントや行事が行われたこと自体はうかがい知ることができるが、これらの規模や頻度は不明である。 (エ)雑誌広告、新聞広告等について、 請求人は2015年に掲載された雑誌広告の写しを提出しているが(甲17の2)、対象雑誌の売上げ、部数、頒布範囲などは不明であり、それ以外に請求人のブログにリストされている雑誌(甲17の1)や広告(甲17の3、4)については、請求人が商標権譲渡を受ける前である2011年以前の古い証拠であり、本件商標の登録出願時及び登録査定時における周知著名性を裏付けるものとはいえない。 (オ)テレビショッピング テレビショッピングが行われた回数は2015年~2022年の8年間に、わずか21回のみであり、これらの視聴率なども不明である。 (カ)展示会 展示会は8回のみであり、参加会社数、来場者などの開催状況は不明である上、そのほとんどが香港で開催されており、少なくとも韓国における周知著名性を裏付ける証拠になり得ない。 (キ)業界順位・認知度調査 いずれの証拠も古いものであり、本件商標の登録出願時及び登録査定時の周知著名性を直接裏付けるものではなく、引用商標はJewelryブランドとして言及されているものの、具体的な業界の順位や認知度は不明であり、そのほか、インターネットの口コミ、評判、その他のプラットフォーム(SNS等)に関しては、アクセス数、閲覧数は一切不明である。請求人に係るウェブサイトやフェイスブックなどが存在するが、これらの存在をもって、引用商標に関する需要者の認識を裏付けるものとはいえない。 イ 引用商標を付した商品の海外における売上高及び広告費について 引用商標を付した商品の2010年度から2017年度(8年間)の売上実績である約300億ウォン(約30億円)という売上額は、年間約3.75億円程度であって、日本市場におけるジュエリーブランドの年間の売上高規模感が数百億円であることを踏まえると(乙2)、上記売上額は周知著名性が是認される程度に高いといえるかは疑義があり、請求人の引用商標に係る商品の市場シェア等を把握できる証拠も提出されていない。証拠として提出されている甲第25号証の1からは、大雑把な販売経路の記載はあるものの、どのような商品の売上げであるか判別不可能なものであり、販売数量や販売金額についても確認することができない。 また、2020年から2022年の売上実績を示す標準財務諸表証明書(甲25の2)には請求人が取り扱う全体の売上げ及び広告費用が確認できるものの、それが引用商標を使用した商品に対するものか否かが不明であるため、これをもって引用商標の周知著名性を推し量ることはできないし、請求人の外国における商標の登録例は、引用商標及び標章の周知著名性を直接的に裏付けるものではない。 ウ 引用商標の著名性を認めた韓国の判例について 韓国特許法院における判決で認められているのは、「先使用商標(引用商標)が原告(請求人)の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた」ことであり、引用商標の周知著名性までが認定されたわけではなく、引用商標が韓国において高い周知著名性を有していたという証左とはいえない。 実際、韓国商標法においては、先使用商標の周知性を要件とする条文である韓国商標法第34条第1項第9号、著名性を要件とする条文である韓国商標法第34条第1項第11号があるが、韓国特許法院における判決(甲27の1)において、これらの条文に基づいて引用商標の周知著名性が判断されたわけではない。 当該判決において争われた韓国商標法第34条第1項第13号は、2007年に改正された条文である。以前の旧法第7条第1項第11号は、需要者間に顕著に認識されている他人の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがある商標であることを要件としていたが、現行法第34条第1項第13号では、国内又は外国の需要者に特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(地理的表示は除く)と同一・類似の商標であって、不当な利益を得ようとし、又はその特定人に損害を負わせようとするなど不正の目的で使用する商標であることを要件としている。つまり、旧法では「顕著に認識」されることを要件としていた一方、2007年1月3日施行の改正法からは、これを「特定人の出所表示」として認識されることを要件としており、周知性より低い水準の認識度を要求しているものと解釈されるから、韓国商標法第34条第1項第13号で求められるのは、周知性より低い水準の認識度で十分足りるものであって、請求人が主張する「日本商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に相当」するものではなく、「引用商標の周知著名性が韓国特許法院の判決で認定されている。」との主張は根拠に欠ける。 また、同判決においては、韓国商標法第34条第1項第12号にも該当するとの認定であるが、同号は、条文上に認識度の要件はないものの、判例解釈上、先使用商標が「特定人の出所表示」として認識されることを要件としており、これもまた周知性よりは低い水準の認識度と解釈される。 韓国大法院2013フ2675判決において「登録無効審判請求の対象となった登録商標が商標法第7条第1項第11号(現行法第34条第1項第12号)で規定している需要者を欺まんするおそれがある商標に該当するには、その登録商標や指定商品と対比される先使用商標やその使用商品が必ず著名でなければならないものではないが、少なくとも国内の一般取引において、需要者や取引者にその商標や商品といえば直ちに特定人の商標や商品であると認識されることができるほどは知られていなければならず、ここで言う特定人の商標や商品と認識されるというのは、先使用商標に関する権利者の名称が具体的に知られていなければならないのではなく、誰かはわからないとしても同一で一貫した出所と認識されることができれば足りる」と判示している。 以上より、引用商標は、韓国を含む外国において周知著名性を獲得していたと認められるべきものではない。 (2)日本における引用商標の周知著名性 請求人が提出した証拠及び同人の主張から、請求人商品について、請求人の我が国における販売代理店である株式会社共栄商会と商標ライセンス及び代理店契約を結び、日本における販売状況や宣伝活動を行っていることは確認できるものの、請求人商品の販売数量、市場シェア並びに広告宣伝の方法及び回数など取引状況を具体的に示す証拠については提出されておらず、我が国における客観的な使用事実に基づいて、その使用状況を把握することができないことから、引用商標は、引用商標は我が国の需要者の間で広く認識され、周知著名性を獲得していたとは認められないものである。 以上からすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表すものとして、日本国内又は外国における需要者に広く認識されるに至っていたとは認められない。 3 商標法第4条第1項第19号 (1)引用商標の周知性について 我が国では先願主義を原則とするところ、それを修正し引用商標について出願を怠っていた者らを保護するためには、それ相応に高いハードルを課すべきであり、周知性の要件は、同号の保護を受ける適格性の要件であるともいえるから、本条項が制定された趣旨にも鑑みて、その周知性の程度は著名に近い程度が要求されるべきものといえる。 外国での周知性についても、請求人の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていたレベルではなく、請求人の商品を表すものとして外国の需要者の間に広く認識される程度が求められるべきであるところ、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表すものとして、商標法第4条第1項第19号が求める程度の周知性を有していたとはいえない。 以上から、引用商標は、同号に規定する本件商標の登録出願時及び登録査定時において、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。 (2)不正の目的について 請求人は、ティルティル社が口頭で幾度か商標紛争解決の話合いの提案を持ちかけ、書面でも同様の要請があったことに触れているが、被請求人はティルティル社の日本現地法人ではなく、ティルティル社と請求人との紛争とは無関係であるから、被請求人の不正の目的を立証する直接的な根拠とはなり得ない。 請求人に対しティルティル社は、自己の商標「TirTir」に関する韓国特許法院の判断を受け入れる意思があることを伝え、商標権紛争の早期解決を目指すため、事業的な協力を提案し、一定の金銭を負担する意思もあることを述べているところ(甲48、甲49)、当該提案は、本件商標とは異なる商標「TirTir」に関するものであって、かつ、ティルティル社が独占排他的な権利・立場を利用して請求人に何かの要求や有利な条件で取引を引き出そうとしたものではなく、むしろ、ティルティル社が自己の事業を継続できるよう、金銭的な負担をも受け入れる用意もある上で、請求人に申入れをしている状況であったとうかがい知ることができる。 また、請求人は請求書において、(i)引用商標は請求人によって日本で既に大規模に使用されている旨、(ii)ティルティル社及び被請求人は、本件商標の出願日から既に2年5月経過するにもかかわらず、日本で本件商標を自ら使用していない旨、(iii)請求人と被請求人の本国会社であるティルティル社との紛争に火を注ぐことになるので、本件商標を使用することができないのが実情である旨を述べ、これらの事実より、ティルティル社及び被請求人は、本件商標を使用する意思はなく、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で本件商標の登録を得ているといわざるを得ないと主張するが、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標が不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的)をもって使用されるものであることを具体的に裏付ける証拠提出は何らなされておらず、請求人が単に上記(i)から(iii)を主張するのみでは、被請求人が本件商標を不正の目的をもって使用をするものとは認められるものではない。 また、請求人提出の証拠からは、被請求人が本件商標を利用して不正な利益を得たり、請求人の事業活動を阻害しているような事実関係は何らうかがえず、実際、請求人が、日本で既に大規模に引用商標を使用しているという主張を踏まえれば、被請求人によって事業の妨害や事業拡大の阻止をされていないことは容易に推認でき、本件商標の登録出願及び登録が、不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的などの不正の目的をもってなされたものでないことは明白である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号の規定に該当しない。 4 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号 引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商品を表すものとして、本条項が求める我が国における周知著名性を有するものとはいえないから、本件商標と引用商標の類否、両商標に関する商品の類否、出所混同の可能性の有無を検討するまでもなく、本件商標は、同条項に該当するものではない。 5 商標法第4条第1項第7号 請求人は、本件商標に係る出願は健全な商取引を乱すものであり、本件商標の出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に当たる旨、また、本件商標に係る出願は請求人と被請求人間の韓国における商標関連の紛争を我が国に持ち込む意図があり、国際信義にも反するものである旨主張する。 しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば、同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号同20年6月26日判決参照)。 引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表すものとして、我が国又は外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものであり、被請求人が、引用商標の信用にただ乗りし、引用商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させるものというべき事実は見いだせないし、他に不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を出願し、登録を受けたと認めるに足りる具体的事実も見いだせず、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであり、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき証左も見いだせない。 請求人が引用商標に係る日本における商標登録出願(商願2023-111719)を行ったのは、2023年10月6日(乙3)と日本における引用商標の使用から8年以上を経過してからであり、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合に該当する。 そうすると、請求人と被請求人の間における商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであり、公序良俗概念の適用により先願主義が修正されることは、極めて強い悪意が客観的にみて明らかな場合という例外を除き、許されるものではない。 韓国において、請求人とティルティル社との間で商標に関する複数の紛争事件を抱えているとしても、第三者である被請求人が、周知著名性が到底認められない引用商標を我が国において出願しても、これをもって、客観的に被請求人に強い悪意があることが推認されるものではない。 さらに、請求人の主張によれば、請求人は日本において引用商標を付した商品の販売を現在まで継続的に行っているとのことであり、かつ、被請求人やティルティル社は請求人による日本国内での引用商標の使用に対して何らの商標権侵害の主張をしていない旨述べており、これらは、請求人が、これまで、被請求人などから日本での事業拡大の阻止や事業を妨害された事実がないことを明確に示すものである。 以上を総合すると、被請求人による本件商標の出願行為は、商標法の先願登録主義を上回るような、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすことができないものであり、被請求人による不正目的又は不正な行為があったと認めることはできない。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しない。 6 商標法第3条第1項柱書 請求人は、被請求人又はティルティル社によって本件商標がいまだ日本において使用されていない点、被請求人が不正の目的を持って本件商標の登録を得ている点、被請求人による本件商標の使用が、韓国内での紛争を日本国内に持ち込むことになるため事実上不可能である点、被請求人がその事実を認識し、請求人による日本国内での引用商標の使用に対して何らの商標権侵害の主張をしていない点を根拠に、被請求人には本件商標を使用する意思がない旨主張するが、商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」における「使用をする」とは、「現在使用をしているもの及び使用をする意思があり、かつ、近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含む。」と解される。 また、同法第3条第1項柱書は自己の業務に係る商品又は役務について同法第2条第3項に掲げられた行為を行っている又は行う意思があれば良く、請求人は、被請求人又はティルティル社によって、本件商標がいまだ日本において使用されていない点、被請求人が不正の目的を持って本件商標の登録を得ている点、被請求人による本件商標の使用が、韓国内での紛争を日本国内に持ち込むことになるため事実上不可能である点、被請求人がその事実を認識し、請求人による日本国内での引用商標の使用に対して何らの商標権侵害の主張をしていないことを挙げて、商標の使用意思がないと主張しているにとどまり、被請求人が本件商標の登録査定時において、本件商標の使用意思を有しておらず、将来において本件商標の使用する予定のないことを具体的に証明しているわけではないから、請求人の主張は採用されるべきではない。 したがって、本件商標は、その登録査定時において、商標法第3条第1項柱書の要件を具備していた。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求することにつき、利害関係を有することは、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判の利害関係を有するものと認めるので、本案に入って審理し、判断する。 1 請求人の主張及び同人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1)引用商標の韓国における周知性について ア 請求人は、1989年に創業した身飾品を製造販売する韓国の企業であって、「TirrLirr」(ハングル表記のものを含む。以下同じ。)からなる商標(以下「TirrLirr」商標という。)は、2010年頃から韓国内で販売が開始された請求人のメインブランドであり、2023年末時点で韓国国内の百貨店を中心とした53店舗において、請求人商品が取り扱われており、これらの店舗に、引用商標1が使用されている(請求人の主張、甲3、甲4、甲21)。 イ 「TirrLirr」商標に係る請求人商品は、2010年ないし2024年に、韓国の複数の芸能人による間接広告(企業などを直接的に明示しないでする広告)(甲6~甲10)、ファッションショー(甲14)、関連行事(甲15)、広告モデル(甲16)、雑誌・ウェブサイト及びSNS(甲17、甲21)、テレビショッピング(甲18の1)、展示会(甲18の2、3)等を通じて宣伝広告されており、これらの宣伝広告において、請求人商品には「TirrLirr」商標が使用されている。 また、請求人の「TirrLirr」商標は、2012年ないし2017年に、韓国における大手百貨店のバイヤー、ジュエリーブランドのアンケート調査や認知度調査、ブログ等で取り上げられた(甲19)。 さらに、韓国における2010年ないし2022年のポータルサイトでの記事やブログ等において、「TirrLirr」商標が使用された請求人商品に関する書き込みが多数された(甲20)。 ウ 2010年から2017年までの「TirrLirr」商標に関する商品の売上実績の合計は約300億ウォン(約30億円)を超え、2020年から2022年の売上実績は190億ウォンないし200億ウォン台で推移しており、2014年から2017年までの引用商標に関する商品の広告費及び販売促進費について、2015年及び2016年の1年間で50億ウォン(約5億円)であった(請求人の主張、甲25、甲26)。 エ 我が国においては、請求人は日本法人と2015年10月1日に、「TirrLirr」商標に関する商標ライセンス及び代理店契約を結び(甲32)、2016年(平成28年)に請求人商品の販売が開始された(甲33)。 また、「TirrLirr」商標を使用した請求人商品は、2021年4月現在で約130店舗の小売店(甲35の1、2)において取り扱われているほか、複数のオンラインショップにおける販売(甲36の1~7)に加え、複数のインターネットフリーマーケットサイトにおいても中古品が出品されている(甲36の8~10)。 オ 請求人を原告とし、ティルティル社を被告とする韓国特許法院における2件の審決取消訴訟の判決(2021年9月10日付け)において、別掲4のとおり、「Tirr Lirr」の文字及びそのハングル音表記からなる原告の先使用商標の周知性について、2017年11月23日当時、原告の先使用商標に係る売上額及び広告費等の各規模、有名芸能人やファッション専門誌、ファッションショー、テレビホームショッピングチャンネル等を通じたプロモーション形態と頻度、SNSやポータルサイトを通じた書き込み及び検索回数、百貨店の売場数等を総合的にみると、原告の先使用商標は原告(請求人)の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた旨判示された(甲27の1、甲28の1)。 カ 以上によれば、請求人は、1989年に創業した身飾品を製造販売する韓国の企業であって、本件商標の登録出願(令和3年(2021年)10月14日)前から、韓国及び我が国において、「TirrLirr」商標を使用した請求人商品が継続して販売されたこと、「TirrLirr」商標に係る請求人商品の韓国の芸能人による間接広告、「TirrLirr」商標を使用した請求人商品について、ファッションショー、関連行事、広告モデル、雑誌・ウェブサイト及びSNS、テレビショッピング、展示会等の多様な方法を通じて広告宣伝が行われたこと、「TirrLirr」商標を使用した請求人商品が韓国におけるジュエリーブランドのアンケート調査や認知度調査で取り上げられたこと、韓国におけるポータルサイトでの記事やブログ等で「TirrLirr」商標を使用した請求人商品に関する書き込みが多数されたこと、韓国特許法院における審決取消訴訟の2021年9月10日の判決において、「TirrLirr」の文字及びそのハングル音表記からなる原告の先使用商標が原告の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた旨判示されたことが認められたこと、これらの事柄を併せ考慮すれば、少なくとも「TirrLirr」の文字及びそのハングル音表記からなる引用商標1及び引用商標2は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商標として、韓国における需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当であり、当該認識は、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても継続していたものということができる。 (2)ティルティル社と被請求人の関係について ア 上記(1)オのとおり、2021年9月10日付けの請求人の「TirrLirr」商標に係る韓国特許法院における2件の審決取消訴訟の判決(原告:請求人、被告:ティルティル社)において、「TirrLirr」の文字及びそのハングル音表記からなる原告の先使用商標が、原告(請求人)の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた旨判示された(甲27の1、甲28の1)。 イ 被請求人は、上記第1のとおり、令和3年(2021年)10月14日に本件商標を登録出願し、本件商標は同4年5月19日に登録査定されたものであるが、当該出願日は上記アの判決日直後である。 ウ 被請求人は、我が国で、本件商標に先立ち、2件の登録商標「TIRTIR」(登録第6249694号商標及び登録第6256092号商標)を有しているところ、その商標登録の経緯をみると、いずれもその商標登録出願人は、「リ ボヒー(LEE BOHEE)」(住所又は居所:韓国)であったが、令和2年(2020年)1月13日に同人が代表者である「ティアティアインコーポレーティッド」(住所又は居所:大韓民国 04043 ソウル マポグ ジャンダリロ 3アンギル 5)に譲渡され、それぞれ同年5月7日及び同年6月2日に商標登録を受けた後に「ティルティルインコーポレイテッド」、「株式会社ティルティル」(ティルティル社)と登録名義人が表示変更登録され、さらに、下記エのティルティル社から請求人に対する協議提案の通知と同日の2022年(令和4年)3月17日に移転登録により被請求人に権利移転されている(甲38~甲46。職権調査)。 ここで、上記「ティアティアインコーポレーティッド」の住所と、上記アに係る訴訟の被告であるティルティル社の住所は同じである(甲27の1、甲28の1)。 また、ティルティル社の履歴事項全部証明書に記載された同社の代表理事の氏名「イ・ボヒ」は、上記の登録商標の当初の商標登録出願人の「リ ボヒー」と一致するといい得るとともに(甲42)、被請求人の代表者「李智哲(イ・ジチョル)」(甲47)は、ティルティル社の履歴事項全部証明書に記載された同社の社内理事「李智哲」とも一致する(甲42)。 エ 2022年3月17日付けの書面(手紙)で、ティルティル社は、代理人を通じ、請求人に対し、上記アの商標権紛争に関連して、特許法院の判断を受け入れる意思があること、商標紛争解決のためにティルティル社が請求人の商品に対する積極的な広報、販売、企画、コラボ等において請求人の意向に沿うように協力すること、ティルティル社は受け入れ可能な範囲内で一定の金銭を負担する意思もある旨の協議提案を通知した(甲48)が、請求人は、2022年4月1日付けの書面(手紙)で、ティルティル社から請求人に対する協議提案について、応じる意思がない旨を通知した(甲49)。 オ 上記アないしエの事実によれば、韓国特許法院における2件の2021年9月10日付け「TirrLirr」商標に係る判決において、原告である請求人の先使用商標が、請求人の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた旨判示された直後、被請求人は、令和3年(2021年)10月14日に本件商標を登録出願し、当該商標は同4年(2022年)5月19日に登録査定されるに至ったものであるが、本件商標に先立ち、被請求人が所有している我が国の登録商標は、ティルティル社の代表者により商標登録出願されたものであって、ティルティル社自身が商標権者であったこと、また、被請求人の代表者とティルティル社の社内理事は同一人であること、さらには、請求人の「TirrLirr」商標に係る上記判決に関連するティルティル社と請求人との協議提案があったこと、及び当該協議提案の通知と同日の2022年(令和4年)3月17日に本件商標が移転登録により、ティルティル社から被請求人に権利移転されたことを併せ考慮すれば、被請求人は、ティルティル社と密接な関連を有する者であって、請求人の韓国における商標権紛争について知り得る立場にあったものとみることができ、本件商標を使用する意思なく、請求人との間の商標をめぐる交渉を有利に運ぶための意図をもって、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で設定登録を受けたものと推認せざるを得ない。 2 商標法第4条第1項第19号該当性について (1)引用商標の周知性について 上記1(1)のとおり、請求人は、1989年に創業した身飾品を製造販売する韓国の企業であって、本件商標の登録出願前から、韓国及び我が国において、引用商標1を使用した請求人商品を継続して販売してきたこと、引用商標を使用した請求人商品の韓国の芸能人による間接広告、ファッションショー、関連行事、広告モデル、雑誌・ウェブサイト及びSNS、テレビショッピング、展示会等の多様な方法を通じて広告宣伝が行われたこと、請求人商品が韓国におけるジュエリーブランドのアンケート調査や認知度調査で取り上げられたこと、韓国におけるポータルサイトでの記事やブログ等で請求人商品に関する書き込みが多数されたこと、韓国特許法院における審決取消訴訟の判決において、「TirrLirr」の文字及びそのハングル音表記からなる原告の先使用商標が、原告の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた旨判示されたことを総合的に考慮すると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商標として、韓国における需要者の間に広く認識されていたと判断するのが相当である。 (2)本件商標と引用商標1との類否について ア 本件商標は、上記第1のとおり、「ティルリル」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「ティルリル」の称呼を生じ、観念については、「ティルリル」の文字は、我が国においては、一般的な辞書等に載録のない語であり、特定の意味を有する語として認識されているともいい難いことから、一種の造語としてみるのが相当であり、特定の観念を生じないものである。 イ 他方、引用商標のうち、引用商標1は、別掲1のとおり、「TirrLirr」の文字を横書きしてなるものであるところ、その構成文字に相応して、本件商標と共通する「ティルリル」の称呼を生じ、本件商標と同様に、我が国においては、特定の観念を生じないものである。 ウ 本件商標と引用商標1を比較すると、両商標は外観において、文字種が相違するものの、商標の使用において、その構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記することが一般的に行われていることに鑑みれば、本件商標と引用商標1は、それぞれの文字を置き換えたものとして、取引者、需要者に認識されるものであるから、両者における文字種の相違が出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとまではいえないものであり、称呼において「ティルリル」の称呼を共通にし、いずれも特定の観念を生じないから観念において比較できないものである。 そうすると、本件商標と引用商標1は、観念において比較できないとしても、外観上の差異が強い印象を与えるとまではいえず、称呼を共通にする類似の商標と判断するのが相当である。 (3)不正の目的をもって使用するものであることについて さらに、上記1(2)のとおり、被請求人とティルティル社は密接な関係があったといえ、被請求人は、請求人とティルティル社との間の商標権紛争や韓国特許法院の判決での判断を踏まえた書面でのやりとりを把握し得る立場にあったとみるのが自然であるから、これらを総合的に勘案すれば、被請求人が、引用商標1と類似し、かつ、造語よりなる本件商標を偶然に採択したとはいい難く、むしろ、本件商標の登録出願時に引用商標1の存在を認識した上で、引用商標1が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、本件商標を使用する意思なく、請求人との間の商標をめぐる交渉を有利に運ぶための意図をもって、請求人の日本における事業拡大を阻止、又は事業を妨害するという不正の目的で設定登録を受けたものと推認せざるを得ない。 そうすると、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品(身飾品など)を表示するものとして、韓国における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 3 被請求人の主張について (1)被請求人は、周知性の要件は、商標法第4条第1項第19号の保護を受ける適格性の要件であるともいえるのであるから、本条項が制定された趣旨にも鑑みて、その周知性の程度は著名に近い程度が要求されるべきものといえ、外国での周知性についても、請求人の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていたレベルではなく、請求人の商品を表すものとして外国の需要者の間に広く認識される程度が求められるべきであるところ、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表すものとして、同号が求める程度の周知性を有していたとはいえない旨主張する。 しかしながら、上記1(1)のとおり、引用商標の周知性については、韓国特許法院における審決取消訴訟の判決において、引用商標と類似する原告の先使用商標が原告の商品を表示する商標として認識され得る程度に知られていた旨判示されたことのみでなく、本件商標の登録出願前から、韓国及び我が国において、引用商標を使用した請求人商品を継続して販売してきたこと、引用商標を使用した請求人商品の韓国の芸能人による間接広告、ファッションショー、関連行事、広告モデル、雑誌・ウェブサイト及びSNS、テレビショッピング、展示会等の多様な方法を通じた広告宣伝が行われたこと等を併せ考慮した結果、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商標として、韓国における需要者の間に広く認識されていたものと判断したものである。 (2)被請求人は、請求人は、ティルティル社が口頭で幾度か商標紛争解決の話合いの提案を持ちかけ、書面でも同様の要請があったことに触れているが、被請求人はティルティル社の日本現地法人ではなく、ティルティル社と請求人との紛争とは無関係であるから、被請求人の不正の目的を立証する直接的な根拠とはなり得ない旨主張する。 しかしながら、上記1(2)のとおり、本件商標の出願の経緯及び被請求人とティルティル社の関係を併せ考慮すれば、被請求人がティルティル社の日本現地法人ではないとしても、被請求人とティルティル社は密接な関係があったといえ、被請求人は、請求人とティルティル社との間の商標権紛争や韓国特許法院の判決での判断を踏まえた書面でのやりとりを把握し得る立場にあったとみるのが自然であるから、被請求人が、引用商標1と類似し、かつ、造語よりなる本件商標を偶然に採択したとはいい難く、むしろ、本件商標の登録出願時に引用商標1の存在を認識した上で、引用商標1が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、引用商標1と類似する本件商標を登録出願し、設定登録を受けたものと推認せざるを得ない。 よって、被請求人の上記主張はいずれも採用することはできない。 4 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当し、同条第1項の規定に違反して登録されたものであるから、その他の無効理由について論及するまでもなく、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきである。 なお、本件審判の審理終結後においても、請求人は、令和6年12月4日付け審理再開申立書、審判事件弁駁書(甲52~甲63)及び同月13日付け上申書(甲64~甲85)を提出しているが、その主張立証内容は、上記判断に影響のあるものではないから、審理の再開は行わないこととした。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-890017

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