特許拒絶査定不服審判
2024-016757
磁性流体、動作機構および検査方法
- 審判番号
- 2024-016757
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-110881
- 請求日
- 2024年10月21日
- 審決日
- 2025年12月24日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ
- 【請求人代理人】名古屋国際弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 浩
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 藏田 敦之
- 分類
- P18 .121-WZ (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-110881「磁性流体、動作機構および検査方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月13日出願公開、特開2022- 7758〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、令和2年6月26日の出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和6年 3月 8日付け:拒絶理由通知書(最初)
同年 5月17日提出:意見書、手続補正書
同年 7月 9日付け:拒絶査定
同年10月21日提出:審判請求書、手続補正書
令和7年 1月29日提出:上申書
同年 7月 8日付け:拒絶理由通知書(最初)(以下「当審拒絶理由通知」という。)
同年 9月16日提出:意見書、手続補正書
第2 本願発明(本願発明の認定)
本願の請求項1~4に係る発明は、令和7年 9月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「光透過性の材料からなるキャリア液体の分散媒と、
前記分散媒中に10%~20%の濃度で分散された磁性粒子と、
前記分散媒中に分散された蛍光染料と、からなり、
前記蛍光染料は、1%~20%の濃度で分散されている、
紫外線を受けて蛍光染料の特性に応じた色で発光する磁性流体。」
第3 当審における拒絶の理由
当審拒絶理由通知により通知した拒絶理由は、概略、次の理由を含むものである。
(進歩性)令和6年10月21日提出の手続補正書により補正された請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2001-106954号公報
第4 引用文献及び引用発明
1 当審拒絶理由通知において引用文献1として引用した特開2001-106954号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は、当審で付した。)。
(1)「【従来の技術】紙幣、有価証券、郵便切手、収入印紙、乗車券、当籤金付き証票等(以下、真券という)が、これらを取り扱う金融機関や郵便局、駅、宝くじ販売所等から強盗等によって不正に奪取されることがある。係る 不正奪取行為を想定し、噴射器または容易に破壊し得る 樹脂容器に、黄または橙などの目立つ色の蛍光染料を充填したものを上記金融機関等に予め用意しておき、実際の不正奪取行為の発生に際し、犯人又は真券に向けて前記噴射器の引き金を引いたり、前記容器を投げつけ容器を破壊したりして、蛍光染料を犯人又は真券に付着させ、犯人を容易に追跡できるようにする試みがなされている。しかし、犯人が追跡を振り切り逃げ失せてしまった事例も少なくなく、逃走に成功した場合には、不正に奪取された真券をそれ以外の真券から容易に識別できることが重要である。」(【0002】)
(2)「本発明の真券汚染用インキは、非水性の液状媒体に平均粒径5~25nmの磁性粒子を0.05~90重量%分散せしめたものであることが好ましく、2~50重量%分散せしめたものであることがより好ましい。インキ中の磁性粒子含有量が0.05重量%未満だと不正奪取行為に際し、適当に真券を汚染できたとしても、色が薄いため目視で、又は磁気が弱いため現金自動預け払い機等の機器の真贋検知用の機能を撹乱し、その真券が不正手段によって奪取されたものであることを認識することは難しい。また、インキ中の磁性粒子含有量が90重量%よりも多くても、その含有量に応じた効果が期待できないばかりか、経済的に不利になるので好ましくない。」(【0016】)
(3)「本発明の真券汚染用インキには、さらに平均粒径5~25nmの磁性粒子の分散状態を損なわない範囲で、顔料、染料、樹脂等を含有せしめることができる。磁性体は、一般に暗黒色若しくは茶褐色を呈することが多いが、比較的薄い色の磁性粒子を用いたり、暗黒色若しくは茶褐色の磁性粒子を比較的少量、例えばインキ中に20重量%程度含有せしめる場合に、顔料、染料を併用すると、磁気を帯びつつ暗黒色若しくは茶褐色以外のインキを得ることができる。真券汚染用インキ中に含まれ得る顔料としては、分散安定性の点から0.1~5μm程度の粒径を有するものが好ましく、また真券汚染用インキ中に含まれ得る染料としては酸やアルカリに強く容易には退色しないようなものが好ましい。」(【0022】)
(4)「本発明の真券汚染用インキには、さらに800~1500nmの範囲に少なくとも1つ以上の吸光スペクトルを有する物質や、250~380nmの波長の光を照射した場合に蛍光を発する物質をそれぞれ0.01~10重量%添加することもできる。すなわち、真券には磁気インキの他に、赤外線吸収インキ、蛍光発色インキ等によって真贋検知用の印刷が施されることもあり、現金自動預け払い機等は磁気のみならず、種々の光学センサーを具備する場合もある。従って、不正手段によって奪取された真券であることをこれらのセンサーによっても識別し得るようにするために、赤外線吸収物質や蛍光発色物質をさらに含有することもできる。」(【0023】)
2 引用発明
上記1(1)~(4)の記載から、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。
「液状媒体に、磁性粒子を2~50重量%分散せしめ、250~380nmの波長の光を照射した場合に蛍光を発する蛍光発色物質を0.01~10重量%添加した真券汚染用インキ。」
第5 対比
1 本願発明と、引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「液状媒体」及び『「液状媒体に」「分散せしめ」た「磁性粒子」』は、それぞれ、本願発明における「キャリア液体の分散媒」及び『「前記分散媒中に」「分散された磁性粒子」』に相当する。
(2)引用発明における「液状媒体に、磁性粒子を2~50重量%分散せしめ」た「真券汚染用インキ」は、本願発明の「磁性流体」に相当する。
(3)「250~380nmの波長の光」は、紫外線であり、インキの技術分野において、添加物が、分散媒中に分散せしめられていることは技術常識であり、蛍光発色物質が添加されたインキが、蛍光発色物質の特性に応じた色で発光することも技術常識である。
よって、本願発明における「前記分散媒中に分散された蛍光染料」と、引用発明において「添加」された「250~380nmの波長の光を照射した場合に蛍光を発する蛍光発色物質」とは、「前記分散媒中に分散された蛍光発色物質」である点で共通する。また、本願発明における「紫外線を受けて蛍光染料の特性に応じた色で発光する磁性流体」と、引用発明の「蛍光を発する蛍光発色物質を0.01~10重量%添加した真券汚染用インキ」とは、「紫外線を受けて蛍光」発光物質「の特性に応じた色で発光する磁性流体」である点で共通する。
2 以上のことから、本願発明と、引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「キャリア液体の分散媒と、
前記分散媒中に分散された磁性粒子と、
前記分散媒中に分散された蛍光発色物質と、からなり、
紫外線を受けて蛍光発色物質の特性に応じた色で発光する磁性流体。」
<相違点1>
キャリア液体の分散媒が、本願発明においては、「光透過性の材料からなる」と特定されているのに対して、引用発明においては、そのように特定されていない点。
<相違点2>
磁性粒子の濃度が、本願発明においては、「10%~20%」と特定されているのに対して、引用発明においては、2~50重量%である点。
<相違点3>
蛍光発色物質が、本願発明においては、「染料」であると特定されているのに対して、引用発明においては、そのように特定されていない点。
<相違点4>
蛍光発色物質の濃度が、本願発明においては、「1%~20%」と特定されているのに対して、引用発明においては、0.01~10重量%である点。
第6 判断
1 上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
インキにおける視認性は、専ら顔料または染料によりもたらされるものであって、分散媒としては、(無色)透明のものが用いられることは、本願出願前においての技術常識である。
してみれば、分散媒が光透過性の材料からなることは、実質的な相違点とはいえない。
また、仮に実質的な相違点であるとしても、分散媒として光透過性の材料からなるものを採用することは、当業者であれば上記技術常識に基づいて容易に想到し得たことである。
(2)相違点3について
紫外線を受けて蛍光発色物質の特性に応じた色で発光する磁性流体(真券汚染用インキ)は、暗黒色若しくは茶褐色以外のインキといえ、引用文献1の、「本発明の真券汚染用インキには、さらに平均粒径5~25nmの磁性粒子の分散状態を損なわない範囲で、顔料、染料、樹脂等を含有せしめることができる。」との記載からすると(【0022】参照)、紫外線を受けて蛍光発色物質の特性に応じた色で発光する磁性流体(真券汚染用インキ)を得るために、蛍光発色物質として染料を採用することは、引用文献1に記載されているところである。よって、引用発明において、分散媒中に分散された蛍光発色物質として染料を併用、すなわち、用いることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(3)相違点2、4について
引用文献1には、インキ中の磁性粒子含有量が低いと、適当に真券を汚染できたとしても、色が薄いため目視で認識することが難しく、磁気が弱いため真贋検知用の機能により、その真券が不正手段によって奪取されたものであることを認識することは難しいことが開示されている(【0016】)。
引用文献1には、さらに、真券に蛍光発色インキによって真贋検知用の印刷が施されることもあり、現金自動預け払い機等が種々の光学センサーを具備する場合もあることから、不正手段によって奪取された真券であることをこれらのセンサーによっても識別し得るようにするために蛍光を発する物質を添加することが開示されている(【0023】)。
目視での認識を容易とするためには、インキが十分な濃度の磁性粒子及び蛍光発色物質(蛍光染料)を含有していることが必要であって、その具体的な濃度は、当業者が発明の実施に際して適宜定めるべきものである。
磁気及び蛍光センサーによる検知(認識)についても、磁性粒子の濃度、蛍光発色物質(蛍光染料)の濃度が高い方が、検知される確率を高め得ることが当業者に自明であって、その具体的な濃度は、使用する磁性粒子の磁気強度・分散性、蛍光発色物質の色調等に基づき、当業者が発明の実施に際して適宜定めるべきものである。
してみれば、引用発明において、相違点2、4に係る構成となすことに格別な困難性は認められない。
2 審判請求人の主張について
(1)請求の理由について
a 審判請求人は、引用発明1において「光透過性の材料からなるキャリア液体の分散媒」としてしまうことは、そもそものインクとしての視認性を損なうものであり、その適用に阻害要因があると主張している。
b 上記主張について検討する。
上記1(1)にて述べたように、インキにおける視認性は、専らインキに含まれる顔料または染料によりもたらされるものであって、分散媒としては、(無色)透明のものが用いられることは技術常識である。そうすると、引用発明において、「光透過性の材料からなるキャリア液体の分散媒」を採用することに何ら問題はなく、阻害要因は認められない。
(2)令和7年 9月16日提出の意見書について
a 審判請求人は、令和7年 9月16日提出の意見書において、次の主張をしている。
(a)本願発明のような磁性流体では、磁性粒子の濃度がある程度高くなると蛍光染料による発光の外部への到達が妨げられる一方、蛍光染料の濃度が高くなるほど磁性流体としての流動性が低下するため、高い方が、検知される確率を高め得るというような単純なものではない。
(b)引用文献1に記載された発明は、真券に付着させてその表面や内部に定着した磁性粒子および蛍光発色物質を事後的に判別可能にする、という技術思想をベースにしているため、この技術思想のもとでは、流動性のある状態での発光が想定されず、磁性粒子の濃度範囲に対して蛍光染料の濃度を調整する必要もなく、そのための具体的な数値範囲へと想到することはできない。
(c)引用文献1は、蛍光染料を用いた証拠の識別に否定的であり、段落0023の記載は、磁性粒子を用いて識別する基本構成に対する選択的な適用可能性に言及したに過ぎず、数値範囲の根拠も一切示されていないことからも、磁性粒子の濃度との関係を考慮したものではないことは明らかであるから、引用文献1からは、磁性粒子の濃度範囲に対して蛍光染料における濃度の下限および上限を規定した構成にまで想到することが容易であるということはできない。
(d)引用文献1の段落0016は、磁性粒子含有量についてのみを説明する段落であり、「色が薄いため目視で」といった文字列があるものの、これは前後の文脈と整合していないため、この段落0016から蛍光発色物質の濃度に言及する展開には無理があり、具体的な濃度は、適宜定めるべきものであると結論づけるのは妥当ではない。
b 上記主張について検討する。
(a)上記a(a)の主張について
本願発明における蛍光染料の濃度が1%~20%であるのに対して、引用発明における蛍光発色物質の添加量は0.01~10重量%であり、その上限同士の比較において、引用発明は、本願発明の半分に過ぎないことからすると、検知を妨げる程に、蛍光染料の濃度の高さに起因した流動性の低下が生じる蓋然性は低い。
よって、上記a(a)の主張は採用することはできない。
(b)上記a(b)の主張について
「流動性のある状態での発光」は、本願発明の発明特定事項に基づくものではない。
また、引用発明においても、前記1(3)に記載したとおり、インキが十分な濃度の磁性粒子及び蛍光発光物質を含有することが必要であるから、磁性粒子の濃度範囲に対して蛍光発光物質の濃度を調整する必要があるといえる。
よって、上記a(b)の主張を採用することはできない。
(c)上記a(c)の主張について
上記(b)のとおり、引用発明においても、磁性粒子の濃度範囲に対して蛍光発光物質の濃度を調整する必要があるといえるから、磁性粒子の濃度範囲に対して蛍光発光物質の濃度を規定することは、当業者が容易になし得たことである。
また、上記1(3)の「引用発明において、相違点2、4に係る構成となすこと」とは、引用発明における磁性粒子の濃度を「10%~20%」に含まれる値とし、かつ、蛍光染料の濃度を「1%~20%」に含まれる値となすことを意味するところであって、進歩性の判断に際して、審判請求人が主張するような「磁性粒子の濃度範囲に対して蛍光染料における濃度の下限および上限を規定した構成にまで想到すること」が求められるものではない。
よって、上記a(c)の主張は採用することはできない。
(d)上記a(d)の主張について
前記1(3)に記載したとおり、引用文献1の【0023】の記載に基づけば、目視での認識を容易とするためには、インキが十分な濃度の磁性粒子及び蛍光発色物質(蛍光染料)を含有していることが必要であるから、当該主張を採用することはできない。
よって、上記a(d)の主張を採用することはできない。
3 作用効果について
引用発明は、真券汚染用インキを、採用した蛍光発光物質(蛍光染料)の特性に応じた色で発光するという作用効果を有するものである。そうすると、本願発明の作用効果は、引用文献1の記載から、当業者が予測し得た範囲のものであって、格別ないし異質なものであるとは認められない。
また、上記相違点2、4の数値範囲としたことによる臨界的な効果の差異は認められない。
4 小括
上記1~3のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび(結論)
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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