特許拒絶査定不服審判
2024-008049
炭素繊維の製造方法
- 審判番号
- 2024-008049
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-132924
- 請求日
- 2024年05月15日
- 審決日
- 2025年08月22日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
- 【請求人代理人】弁理士法人服部国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 松永 稔
- 審判官 棚田 一也
- 審判官 小川 将之
- 分類
- P18 .536-Z (D01F) / P18 .537-Z (D01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-132924「炭素繊維の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 3月 9日出願公開、特開2023- 33198〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和4年 8月24日(パリ条約による優先権主張 2021年 8月25日(TW)台湾)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 7月20日付け 拒絶理由通知
同年11月14日 意見書、手続補正書の提出
令和 6年 1月10日付け 拒絶査定(以下、「原査定」という。)
同年 5月15日 審判請求書の提出
第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
理由1(実施可能要件)本願明細書の発明の詳細な説明には、アクリロニトリルモノマーにおける不純物の含有量を、請求項1に記載されるような範囲に低減させる具体的な方法が記載も示唆もされておらず、また、そのようなことが技術常識であるともいえない。
そうすると、どのようにすれば不純物の含有量が請求項1に記載される範囲内のアクリロニトリルモノマーを得ることができるのか不明であるから、請求項1に係る発明を実施することができない。また、請求項1の記載を引用する請求項2~9の記載についても同様である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない点で、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第3 請求人の主張
令和6年5月15日提出の審判請求書における請求人の主張は、本願出願の出願日以前にも、下記一覧に記載されるように、不純物の除去方法に関する文献は多数存在し、アクリロニトリル中の不純物を除去する方法は、従来の方法によって得ることができるから、請求項1に記載された特定の範囲の含有量までアクリロニトリルモノマーの不純物を除去する方法が記載されていなくても、本願明細書の記載は実施可能要件を満たすことができ、請求項2~9に関しても同様であるというものである。
<資料一覧>
資料1:CN102199104A
資料2:JP2010222309A
資料3:CN107778197A
資料4:CN103804226A
資料5:CN113637105A
第4 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明(以下、「本願発明1~9」等といい、まとめて「本願発明」ともいう。)は、令和 5年11月14日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
アクリロニトリルモノマー及び共重合モノマーからアクリロニトリル共重合体を製造する炭素繊維の製造方法であって、
アクリロニトリル共重合体を得るように、アクリロニトリルモノマー、共重合モノマー、開始剤、及び溶媒からなるアクリロニトリル共重合体のポリマー溶液を混合し、重合反応を行い、前記アクリロニトリルモノマーは、アクリロニトリル、水、メタクリロニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール、パラヒドロキシアニソール、ブテノン、及びメタクリル酸エステルを含み、前記アクリロニトリルモノマーの重量が100重量%であることを基準として、前記アクリロニトリルの含有量は99.93重量%より大きく、前記アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、前記水の含有量は600ppm未満であり、前記メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、前記プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、前記オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、前記パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、前記ブテノンの含有量は2ppm未満であり、前記メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満であるステップと、
共重合体原糸を得るように、前記アクリロニトリル共重合体に対して紡糸操作を行い、前記アクリロニトリル共重合体の落球粘度が550秒~700秒であるステップと、
原糸繊維を得るように、前記共重合体原糸に対して延伸操作を行うステップと、
酸化繊維を得るように、前記原糸繊維に対して酸化処理を行うステップと、
炭素繊維を得るように、前記酸化繊維に対して炭素化処理を行うステップと、を含み、
前記重合反応は、60~70℃で4~6時間続け、更に1~3時間かけて70~80℃まで昇温し、7~9時間続けることである炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記アクリロニトリルモノマー及び前記共重合モノマーの総重量が100重量%であることを基準として、前記アクリロニトリルモノマーの使用量は98.0重量%~99.8重量%であり、前記共重合モノマーの使用量は0.2重量%~2.0重量%である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記アクリロニトリルモノマーは、鉄及び/又は銅を更に含み、前記アクリロニトリルモノマーの前記重量が1×106ppmであることを基準として、前記鉄の含有量は0.001ppm未満であり、前記銅の含有量は0.002ppm未満である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記アクリロニトリル共重合体の重量平均分子量が380000g/mole~450000g/moleであり、前記アクリロニトリル共重合体の分子量分布が3.5未満である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記延伸操作の総延伸倍率は、11.2倍~12.8倍である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
前記延伸操作の後、更に、油剤塗布原糸を得るように、前記原糸繊維に油剤を塗布するステップを含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
乾燥原糸を得るように、前記油剤塗布原糸に対して乾燥操作を行うステップを更に含む請求項6に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項8】
前記炭素化処理の後、更に、表面処理炭素繊維を得るように、表面酸化処理を行うステップを含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項9】
前記炭素繊維の内部孔径は10nm未満である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。」
第5 当審の判断
1 実施可能要件についての判断基準
特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件については、明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を実施すること(物を生産する方法の発明について、その方法により物を生産できること)ができる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきである。
2 本願明細書の記載
本願明細書には、以下の記載がある。(下線は、判断における引用箇所を示すため、当審で付加した。)
「【0007】
本発明の一態様の炭素繊維の製造方法によれば、アクリロニトリル共重合体を得るように、アクリロニトリルモノマー、共重合モノマー、開始剤及び溶媒を混合し、重合反応を行い、アクリロニトリルモノマーは、アクリロニトリル、水、メタクリロニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール、パラヒドロキシアニソール、ブテノン、及びメタクリル酸エステルを含み、アクリロニトリルモノマーの重量が100重量%であることを基準として、アクリロニトリルの含有量は99.93重量%より大きく、アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、水の含有量は600ppm未満であり、メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、ブテノンの含有量は2ppm未満であり、メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満である。続いて、共重合体原糸を得るように、アクリロニトリル共重合体に対して紡糸操作を行って、アクリロニトリル共重合体の落球粘度が550秒~700秒である。更に、原糸繊維を得るように、共重合体原糸に対して延伸操作を行う。その後、酸化繊維を得るように、原糸繊維に対して酸化処理を行う。更に、炭素繊維を得るように、酸化繊維に対して炭素化処理を行う。」
「【0025】
アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、ブテノンの含有量は2ppm未満であり、パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満である。メタクリロニトリル、オキサゾール、ブテノン、パラヒドロキシアニソール及びメタクリル酸エステルの含有量が前記範囲外であると、炭化処理の際に、環化反応により繊維内部の欠陥が大きくなり、且つ炭素繊維の内部孔径が増大して、炭素繊維の強度が低下する。好ましくは、メタクリロニトリルの含有量は1ppm未満であり、パラヒドロキシアニソールの含有量は1ppm未満である。」
「【0050】
・・・(中略)・・・実施例1の炭素繊維を得た。この炭素繊維について下記の評価試験を行い、評価結果を下記表1に示す。
・・・(中略)・・・
【0052】
実施例2~3及び比較例1は、アクリロニトリルモノマーの純度、すなわち不純物の含有量を変更した以外は、実施例1と同様にして調製される。実施例2~3及び比較例1についての具体的な条件及び評価結果は下記の表1に示すとおりである。
【0053】
表1
[図:0001431686000001.jpg]
」
3 実施可能要件について
(1)本願発明1について
ア 本願発明1は、上記第4によれば、「炭素繊維の製造方法」という物を生産する方法の発明であるから、その実施をすることができるとは、その方法により物を生産することができることである。
イ そして、本願発明1を実施するためには、本願発明を特定する事項である「アクリロニトリル、水、メタクリロニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール、パラヒドロキシアニソール、ブテノン、及びメタクリル酸エステルを含み、前記アクリロニトリルモノマーの重量が100重量%であることを基準として、前記アクリロニトリルの含有量は99.93重量%より大きく、前記アクリロニトリルモノマーの重量が1×106ppmであることを基準として、前記水の含有量は600ppm未満であり、前記メタクリロニトリルの含有量は2ppm未満であり、前記プロピオニトリルの含有量は1ppm未満であり、前記オキサゾールの含有量は2ppm未満であり、前記パラヒドロキシアニソールの含有量は40ppm未満であり、前記ブテノンの含有量は2ppm未満であり、前記メタクリル酸エステルの含有量は1ppm未満である」「アクリロニトリルモノマー」(以下、「高純度アクリロニトリルモノマー」という。)を調製できることが必要である。
ウ そこで、上記1及び上記イに鑑みて、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、上記イの高純度アクリルモノマーを調製できる程度に明確かつ十分に記載されているかについて、検討する。
エ 本願明細書の段落0007、段落0025、及び、段落0053の実施例1~3には、上記イの高純度アクリロニトリルモノマーと対応する記載があるものの、本願明細書の発明の詳細な説明には、アクリロニトリルモノマーにおける不純物の含有量を、上記イの高純度アクリロニトリルモノマーの範囲内に制御して調製する具体的な方法については何ら記載されていない。
オ ここで、上記第3のとおり、請求人は、審判請求書において、資料1~5に記載されるように、不純物の除去方法に関する文献は多数存在し、、アクリロニトリル中の不純物を除去する方法は、従来の方法によって得ることができる旨主張し、資料1には、段落0021に、アクリロニトリル中のメタクリロニトリル、プロパンニトリルは全部検査し出すことができず、オキサゾール含有量は1.5ppmであったことが記載され、資料2には、表1に、オキサゾールの含有量が1質量ppm未満であったことが記載され、資料3には、請求項1に、アクリロニトリルの精製方法が記載され、資料4には、段落0056の表に、オキソザールの含有量を0.0015%(wt)まで低減できることが記載され、資料5には、段落0083に、処理後のオキサゾールの含有量が1.8ppmであったことが記載されている。
しかしながら、資料1~5のいずれにも、アクリロニトリルモノマーに含有される「水」、「パラヒドロキシアニソール」、「ブテノン」及び「メタクリル酸エステル」を含む全ての不純物について、上記イの高純度アクリロニトリルの範囲に制御する方法は記載されていないから、資料1~5に記載された従来の方法によって、上記イの高純度アクリロニトリルモノマーを得ることはできない。
また、アクリロニトリルモノマーにおける不純物の含有量を、上記イの高純度アクリロニトリルモノマーの範囲内に制御して調製する方法が、本願出願時の技術常識であったともいえない。
カ 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者において、その記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明1を実施できる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(2)本願発明2~9について
上記第4のとおり、請求項2~9の記載は、請求項1の記載を引用するものであるところ、本願発明2~9は、本願発明1の構成をすべて含むものである。
よって、上記(1)における検討と同様の理由で、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者において、その記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明2~9を実施できる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の拒絶の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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