特許拒絶査定不服審判
2024-006334
抽出装置および抽出方法
- 審判番号
- 2024-006334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-053776
- 請求日
- 2024年04月15日
- 審決日
- 2026年05月29日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立大学法人北海道大学
- 【請求人代理人】駒井 慎二
- 【請求人】株式会社イズミフードマシナリ
- 【請求人代理人】駒井 慎二
- 審判長/審判官
- 審判長 齋藤 恵
- 審判官 野田 定文
- 審判官 新留 豊
- 分類
- P18 .113-WZ (B09B) / P18 .121-WZ (B09B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 53776「抽出装置および抽出方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月 7日出願公開、特開2021-154183〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 9月 5日付け:拒絶理由通知
同年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 1月 9日付け:拒絶査定
同年 4月15日 :審判請求書の提出
令和 7年12月 5日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 8年 1月22日 :意見書、手続補正書の提出
第2 特許請求の範囲の記載
本願の請求項1に係る発明は、令和8年1月22日提出の手続補正書(以下「後の手続補正書」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本願発明1」ということがある。)である。
「【請求項1】
農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物からケルセチンを抽出することにより当該廃棄物を有効利用するための抽出装置であって、
前記廃棄物が収納される収納部と、
前記収納部にエタノール水溶液を供給して、前記エタノール水溶液と前記廃棄物とを接触させるエタノール水溶液供給ラインと、
前記エタノール水溶液に対し、前記収納部内および前記エタノール水溶液供給ライン内のうちの少なくとも一方で加熱を行う加熱部とを備え、
前記加熱部は、常圧時の前記エタノール水溶液の沸点よりも高い温度で、該エタノール水溶液を加熱するものであり、
前記収納部は密閉可能に構成され、前記加熱されたエタノール水溶液の供給に伴う蒸気圧の上昇によって当該収納部内が加圧された状態でケルセチンの抽出が行われる
ことを特徴とする抽出装置。」
第3 当審において通知した拒絶理由の概要
令和5年11月9日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、令和7年12月5日付けで当審において通知した拒絶理由は、理由1及び2からなり、その概要は、次のとおりのものである。
「[理由1](新規性)
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2](進歩性)
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
「1 引用文献及び引用文献の記載事項
(1)引用文献
・・・
引用文献1:特開2004-229615号公報
(原審において引用された引用文献1)
引用文献2:日本食品科学工学会誌,2005年,Vol.52, No.9,424-428
(原審において引用された引用文献2)
引用文献4:特開2010-213790号公報
(原審において引用された引用文献4)
引用文献5:国際公開第2019/244597号
(原審において引用された引用文献5)
引用文献6:DIONEX 「ASE、(R)((R)は、○囲いのRを表す。)200 Accelerated Solvent Extractor」カタログ、Dionex Corporation、2006年、Thermo Fisher Scientific社ウェブサイト[検索日2025年11月5日]、<URL: https://documents.thermofisher.com/TFS-Assets/CMD/Specification-Sheets/PS-LPN-0981-ASE-200-Accelerated-Solvent-Extractor-LPN0981-EN.pdf>
(当審合議体による新たな文献)
引用文献7:DionexTM 100/150/200/300/350 Extraction Cell Filters、ThermoFisher社ウェブサイト[検索日2025年11月5日]、<URL: https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/068093?SID=srch-srp-068093>
(当審合議体による新たな文献)」
そして、令和7年12月5日付け拒絶理由通知で通知した請求項1に対する拒絶理由は、請求項1に記載された発明は引用文献2に記載された発明であるという理由(理由1)及び請求項1に記載された発明は、引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである理由(理由2)(2 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について(引用文献2を主引用例とする拒絶理由)(3))並びに、請求項1に記載された発明は引用文献4に記載された発明及び引用文献1に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるという理由(理由2)(3 理由2(進歩性)について(主引用例として引用文献4を用いる構成) (3))を含むものであった。
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、本願は令和7年12月5日付けで通知した理由1及び理由2によって、拒絶されるべきものであると判断する。
その理由の詳細を以下に述べる。
1 引用文献の記載事項
摘記中の下線は合議体が追加したものを含んでいる。
(1)引用文献1
1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチンとケルセチン配糖体とプロトカテキュ酸とをモル比1.5~2.5:1:1.5~2.5で含有するケルセチン組成物。
・・・
【請求項9】
ケルセチンとケルセチン配糖体とプロトカテキュ酸とをモル比1.5~2.5:1:1.5~2.5で含有するケルセチン組成物の製造方法であって、タマネギの外皮を水と低級アルコールとの混合液を用いて抽出する工程と;ケルセチンとケルセチン配糖体とプロトカテキュ酸とを上記範囲で含む抽出液を回収する工程とを含む製造方法。
・・・
【請求項11】
抽出に用いる混合液中の低級アルコールの濃度が20~80容量%である請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
低級アルコールがエタノールである請求項9、10又は11に記載の製造方法。」
1b)
「【0041】
(III)ケルセチン組成物の製造方法
基本的構成
本発明のケルセチン組成物の製造方法は、ケルセチンとその配糖体とプロトカテキュ酸とをモル比1.5~2.5:1:1.5~2.5で含有するケルセチン組成物の製造方法であって、タマネギの外皮を、水と低級アルコールとの混合液を用いて抽出する工程と;ケルセチンとその配糖体とプロトカテキュ酸とを上記範囲で含む抽出液を回収する工程とを 含 む製造方法である。タマネギ外皮は鱗片のままで使用してもよいが、抽出効率の点で、粉砕した形状で抽出に供することが好ましい。抽出液としては、水と低級アルコールとの混合液を用いる。低級アルコールは、炭素数1~3のアルコールが好ましい。炭素数1~3のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが挙げられる。毒性及び臭気がない点でエタノールが好ましい。
【0042】抽出液中の低級アルコールの比率は、得られる組成物の組成及び収率を考慮すれば、例えば20~80容量%程度、特に30~60容量%程度、さらに特に40~50容量%程度が好ましい。
・・・
【0044】
抽出液の使用量は特に限定されず、タマネギを浸漬できるだけの容量を用いればよい。
抽出方法
抽出は、タマネギと抽出液とを接触させることにより行う。抽出方法は特に限定されず、浸漬法、散水法、循環法のような公知の方法を採用できる。タマネギと抽出液との混合物を撹拌しつつ抽出することもできる。」
1c)
「【0051】
【実施例】
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1-1
タマネギ外皮を手で粉砕し、その150mgを秤量した。室温(20℃)下で、この外皮にエタノールと水との混合液(エタノール90容量%)5mlを添加し1時間インキュベートした。次いで、3000gで10分間遠心した後、上清を採取した。上清1mlについて液体分をエバポレーターを用いて蒸発させることにより濃縮乾固した。
実施例1-2~1-9
実施例1-1において、抽出液としてエタノールと水との混合液5mlを使用し、エタノール濃度をそれぞれ80、70、60、50、40、30、20、10容量%とした。その他は、実施例1-1と同様にしてタマネギ外皮抽出物を得た。・・・
実施例2-1~2-9
実施例1-1~1-9において、抽出操作(インキュベーション)を温度20℃に代えて温度60℃で行った他は、実施例1-1~1-9と同様にしてタマネギ外皮抽出物を得た。・・・」
(2)引用文献2(なお、「,」及び「.」は当審においてそれぞれ「、」及び「。」に置き換えた。)
2a)
「タマネギ(Allium cepa L.)は日常広く食され、様々な加工食品にも利用されている野菜である。・・・含硫化合物以外にも、タマネギはポリフェノールの1種であるケルセチン類を含み、抗酸化活性や抗変異原性などの機能性を発現する2)。・・・タマネギからのケルセチン類の抽出方法としては、新鮮物もしくは凍結乾燥品から含水エタノール・メタノールなどを用いて抽出する方法が一般的であるが、本抽出法では抽出効率を上げるために抽出時間を延長したり多量の抽出溶媒を用いたりする必要があり、また多検体の処理にはやや不向きである。
他方、抽出技術に関しては、高温・高圧下で有機溶媒を用いて抽出を行う方法(pressurized liquid extraction, PLE)が近年開発され、土壌や食品中から農薬や脂質を抽出する場合に広く用いられている。本手法は所要時間の短縮と抽出効率の上昇、また専用装置を用いて自動化が図れるという利点を有している。このような利点があるにもかかわらず、農作物からのポリフェノール類の抽出にPLEを適用した例は少なく10)、タマネギを対象にした報告は未だなされていない。
そこで本研究では、PLEを用いたタマネギからのケルセチン類の抽出条件を検討するとともに、品種/産地の異なるタマネギのケルセチン類含量を定量した。」(424頁左欄1行~425頁左欄4行)
2b)
「3. 高圧抽出装置によるタマネギ抽出液の調製
高圧溶媒抽出装置はDionex社製ASE-200を用いた。タマネギ凍結乾燥品(・・・)を抽出セル(11ml)に充填後、セルトレイに配列した。・・・抽出溶媒には脱イオン水-エタノール混合溶液を用い、抽出条件を検討した場合は結果を記した図の脚注に示した条件下で1500psiにて抽出を行った。抽出液はセルから自動的に捕集バイアルへ送られ、次いでセル容量70%に相当する抽出溶媒でセル内が洗浄され、その洗液も捕集バイアルに移された。洗浄工程後、窒素ガスを60秒間送り込むことにより、セル内に残存する溶媒は捕集バイアルに排出された。捕集バイアルに溜められた抽出液は抽出溶媒で25mlに定容後、PVDFフィルター(・・・)で濾過し、HPLC分析とラジカル消去活性測定用の試料とした。」(425頁左欄下から5行目~右欄11行)
2c)
「1. 抽出溶媒の検討
タマネギに含まれるケルセチン類の大部分がQ-3,4'-diGlcとQ-4'-Glcであること9)12)から、これらを対象成分として、PLEでの抽出条件の検討を行った。PLEの溶媒は一般的に従来の抽出方法と同じ溶媒が使用されること13)から、エタノール濃度を変えて抽出量の検討を行った。・・・これらのことから、PLEに用いる溶媒としては80%エタノール水溶液を選択した。
2. 抽出温度、静置時間、サイクル数の検討
ケルセチン類抽出に及ぼす抽出温度の影響について検討した結果、Q-3,4'-diGlc並びにQ-4'-Glcともに、40℃から80℃まではほぼ同程度抽出され、100℃での抽出では抽出量が減少することが明らかとなった(図2)。・・・なお、100℃におけるケルセチン類の抽出量の減少は、その抽出中にケルセチンが検出されなかったことから、加水分解ではなく、分子内酸化還元反応や重合10)などに起因するものであろうと考えられた。その一方、抽出温度の上昇に伴い、得られたタマネギ抽出液の色は透明から黄褐色に変色し、抽出温度の上昇により何らかの化学反応が進行していると推測された。以上のことから、PLEにおける抽出温度は40℃で設定した。
高圧溶媒抽出装置では抽出溶媒ならびに温度の設定のみならず、溶媒を高圧・高温下で静置する時間(静置時間)とその反復数(サイクル数)の設定により抽出の効率化を図ることが可能である。・・・次いで静置時間を5分間に設定し、サイクル数について検討したところ、Q-3,4'-diGlc並びにQ-4'-Glcともに3回のサイクルで抽出が完了していることが明らかとなった(図3)。しかしながら、ケルセチン類が高含量の品種にも適用できるように、サイクル数は4回に設定した。
以上の検討により、高圧溶媒抽出装置ASE-200を用いたタマネギ凍結乾燥品からのケルセチン類の最適抽出条件として、抽出溶媒;80%エタノール水溶液、抽出温度;40℃、静置時間;5分、サイクル数;4回を設定した。」(426頁左欄2行~右欄7行)
2d)
「
[図:0001437722000001.jpg]
」(426頁図2)
(3)引用文献4
4a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出原料に処理液を注いで前記抽出原料から抽出される抽出成分を含む抽出液を生成する抽出器本体と、その抽出器本体から排出される抽出液を加熱する加熱装置を備え、
前記抽出器本体と前記加熱装置が互いに接続されて、前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる密閉式の循環経路が形成されるとともに、その循環経路内に加圧用流体を圧入して当該経路内を加圧可能な加圧装置が設けられ、
前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる循環加熱運転を行うに、前記加圧装置を作動させて、前記循環経路内における前記処理液の飽和蒸気圧より高い圧力に前記循環経路内を加圧する制御手段を備えた循環加熱式の抽出装置。
・・・
【請求項4】
抽出原料に処理液を注いで前記抽出原料から抽出される抽出成分を含む抽出液を生成する抽出器本体と、その抽出器本体から排出される抽出液を加熱する加熱装置を備え、
前記抽出器本体と前記加熱装置との間に設けられた密閉式の循環経路を介して、前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる循環加熱運転を行うに、
前記循環経路内に加圧用流体を圧入して、前記循環経路内における前記処理液の飽和蒸気圧より高い圧力に前記循環経路内を加圧した状態で、前記抽出器本体から排出される抽出液を加熱しながら循環させて抽出を行う循環加熱式の抽出方法。」
4b)
「【0013】
本特徴構成によれば、加熱装置内の抽出液の温度を検出する温度検出手段を備え、前記制御手段が、温度検出手段による抽出液の検出温度の温度上昇に対応して加圧装置を制御し、前記循環経路内の圧力を、その検出温度下における処理液の飽和蒸気圧より高い圧力に上昇させるように構成されているので、加圧装置による循環経路内の加圧は、抽出液の温度上昇に対応して徐々に行うことが可能となり、抽出作業の効率化を図ることができる。また、循環経路が密閉式であることから加熱装置による加熱に伴い当該経路内の圧力が上昇するので、上記加圧装置は飽和蒸気圧に対して不足する分のみ加圧すればよく、加圧のためのエネルギ消費を抑制することができる。
・・・
【0015】
本特徴構成によれば、抽出原料に処理液を注いで抽出原料から抽出される抽出成分を含む抽出液を生成する抽出器本体と、その抽出器本体から排出される抽出液を加熱する加熱装置を備え、抽出器本体と加熱装置との間に設けられた密閉式の循環経路を介して、抽出器本体から排出される抽出液を加熱装置により加熱して抽出器本体に循環させて抽出を行う、いわゆる、循環加熱式の抽出方法であるから、抽出液を循環させながら加熱することにより、結果的に、処理液の温度を無理なく、例えば、200℃以上の高温にまで昇温して、その温度を容易に維持することができる。
そして、その循環経路内に加圧用流体を圧入して当該流路内を加圧可能な加圧装置によって、循環経路内における処理液の飽和蒸気圧より高い圧力に循環経路内を加圧した状態で、抽出器本体から排出される抽出液を加熱しながら循環させて抽出を行うので、加熱装置を含む循環経路内において処理液が沸騰する可能性は少なく、加熱装置や循環経路の内壁に対する抽出成分の焦げ付きが抑制される。
・・・
【0017】
本発明による循環加熱式の抽出装置と抽出方法につき、その実施の形態を図面に基づいて説明する。
第1の実施形態による循環加熱式の抽出装置は、図1に示すように、高温と高圧に耐え得る高温高圧型の抽出器本体1と加熱装置2などを備えている。
抽出器本体1は、抽出原料の一例である粉砕されたコーヒー豆Cに処理液としての湯水Wを注いでコーヒー豆Cから抽出される抽出成分を含む抽出液を生成するもので、その上方開口部には、開閉自在な蓋体3が設けられ、その内部の抽出室4には、粉砕されたコーヒー豆Cを収納する固液分離用のメッシュなどからなる籠5が取り外し自在に配置されている。
【0018】
抽出器本体1の抽出室4には、湯水Wを供給するための第1配管L1が連通接続され、その第1配管L1には第1開閉弁V1が設けられ、第1配管L1の先端部には、図示はしないが、湯水Wをコーヒー豆Cに均等に注ぐための回転式のシャワーノズルと、コーヒー豆Cを平らに均すための回転式の均し羽根が設けられている。
抽出器本体1の底部には、抽出室4内から湯水Wや抽出液を排出するための第2配管L2が連通接続され、その第2配管L2に第2開閉弁V2が設けられて、第2配管L2が加熱装置2に連通接続されている。
その加熱装置2は、抽出器本体1から第2配管L2を通して排出される湯水Wや抽出液を加熱するためのもので、例えば、高温の蒸気や気体などと熱交換するタイプのものや、ヒータなどにより直接加熱するタイプのものなど、各種タイプの加熱装置を使用することができる。
【0019】
そして、その加熱装置2の入口側に第2配管L2が連通接続され、加熱装置2の出口側には、第1配管L1が連通接続されている。つまり、抽出器本体1と加熱装置2が、第1配管L1と第2配管L2により互いに連通接続されて、抽出器本体1から排出される抽出液を加熱装置2により加熱して抽出器本体1に循環させる密閉式の循環経路6が形成されている。
その循環経路6を形成する第2配管L2には、抽出液を循環させるための循環ポンプ7が、第2バルブV2と加熱装置2の間に位置して配設され、第1配管L1には、制御弁V3を有する第3配管L3が、加熱装置2と第1バルブV1の間に連通接続され、その第3配管L3には、窒素などの不活性ガスや空気などの加圧用ガス(加圧用流体の一例)を圧入(高圧で供給)して、抽出器本体1の抽出室4や循環経路6などを加圧可能なコンプレッサなどの加圧装置8が接続されている。尚、本実施形態において、加圧用ガスを圧入するための上記第3配管L3を、上記第1配管L1に接続した例を説明するが、当該第3配管は、循環経路6における如何なる部分に接続しても構わず、例えば蓋体3を介して抽出器本体1の抽出室4に接続しても構わない。
・・・
【0021】
つぎに、第1の実施形態による循環加熱式の抽出装置の動作を説明するとともに、循環加熱式の抽出方法について言及する。
例えば、抽出原料がコーヒー豆で、処理液が湯水であれば、抽出器本体1の蓋体3を開けて、籠5の中に粉砕されたコーヒー豆Cを仕込み、かつ、抽出室4内に湯水Wを仕込んで蓋体3を閉じ、第4開閉弁V4と第5開閉弁V5を閉じるとともに、第1開閉弁V1と第2開閉弁V2を開けて、抽出器本体1と加熱装置2を含む循環経路6を密閉する。
その後は制御部9が制御することになり、上記循環加熱運転を行うに、制御弁V3を開弁して加圧装置8を作動させ、不活性ガスなどの加圧用ガスにより湯水Wの最高抽出温度における飽和蒸気圧より高い圧力に循環経路6内を加圧する。
【0022】
例えば、水の場合であれば、温度と飽和蒸気圧(ゲージ圧)は、図2に示す関係にあるので、湯水Wによる最高抽出温度を200℃に設定した場合であれば、200℃における飽和蒸気圧(約1.5MPa)より高い圧力に循環経路6内を加圧し、抽出室用圧力センサ10からの信号により所定の圧力になったことを確認した後、循環ポンプ7を作動させて、抽出室4内の湯水Wを循環経路6に沿って循環させる。・・・」
4c)
「【0027】
〔別実施形態〕
第1と第2の実施形態では、抽出原料がコーヒー豆で、処理液が湯水の場合を例にして説明したが、抽出原料としては、コーヒー豆以外にも、ココアや各種のお茶類などが使用可能であり、その場合、処理液としては、主として湯水が使用される。
さらに、抽出原料として、畜肉系原料、水産系原料、食品・農産・水産廃棄物など、種々のものが使用可能であり、その抽出原料に応じて、処理液としては、エタノール(アルコール系有機溶剤)、アセトン(ケトン系有機溶剤)、ヘキサンなどが使用され、その使用される処理液によって、温度と飽和蒸気圧の関係も異なる。
【0028】
一例を挙げると、エタノールであれば、温度と飽和蒸気圧(ゲージ圧)の関係は、図4に示すようになる。
したがって、第2の実施形態の場合であれば、図4に示す温度と飽和蒸気圧との関係がデータとして制御部9に記憶されることになり、さらに、制御部9に水やエタノールを含めて、アセトンやヘキサンなどの温度と飽和蒸気圧との関係を全てデータとして記憶させておき、使用する処理液に応じて選択使用して実施することもできる。
【0029】
さらに、本願発明者らは、抽出温度を195℃程度とすることにより、処理液である水を使用して、抽出原料であるココアからルチンや抗アレルギー成分として有効なケルセチンなどを抽出できることを見出した。抽出温度が高いため、ケルセチンは、ルチンの加水分解により得られるものと解される。」
4d)
「【図1】
[図:0001437722000002.jpg]
」
(4)引用文献6(図の説明は英語なので、訳文を示す。)
6a)
「
[図:0001437722000003.jpg]
ユーザーフレンドリーなAutoASEソフトウェアの主操作スクリーンは現在の操作情報、例えばセルのサイズ、合計溶媒容積、使用溶媒、及び設定された、及び実際の温度と圧力を示す。・・・」(4頁目の図)
(5)引用文献7
7a)
「サーモ・サイエンティフィック(商標)
Dionex(商標)100/150/200/300/350抽出セル用フィルター
サーモ・サイエンティフィック(商標)Dionex(商標)ASE(商標)100、150、200、300、または350加速溶媒抽出機の抽出セルで使用することにより、目詰まりを防止し、抽出液の分離を最大化してください。」(タイトルと説明文)
2 理由1及び2(引用文献2を主引例とする場合)について
(1)引用文献2に記載された発明
引用文献2には、高温・高圧下で有機溶媒を用いてタマネギの凍結乾燥物からケルセチンの抽出を行う方法において、高圧溶媒抽出装置はDionex社製ASE-200を用い、抽出溶媒には脱イオン水-エタノールの混合溶液を用いたことが記載され(摘記2a及び2b)、抽出条件として80%エタノール水溶液を用いて、4サイクルの抽出によりケルセチンの抽出に及ぼす抽出温度の検討を行った結果である温度と抽出量の関係を示す図2に、40℃、60℃、80℃及び100℃における抽出量が示されている(摘記2c、2d)。引用文献2には、上記抽出が1500psiの条件下で行われ、抽出液はセルから自動的に捕集バイアルへ送られ、次いで抽出セルが抽出溶媒で洗浄され、さらに窒素ガスによりセル内に残存する溶媒が捕集バイアルに排出されたことも記載されている(摘記2b)。
そして、高圧溶媒抽出装置Dionex社製ASE-200について、製造元のカタログである引用文献6には、溶媒をポンプで加圧して供給用のラインで抽出セルに送り、抽出セルをオーブンで加熱することができ、抽出液を抽出セルから排出用のラインを経由して収集バイアルに送ることができること、また抽出セルの上流から窒素ガスを抽出セルに送り込むラインを有する構造であることが図示されている(摘記6a)。
さらに、引用文献7は、同製品を販売しているThermo Fisher Scientific社のウェブサイトであるが、上記のASE-200機種の抽出セルで使用することにより、目詰まりを防止し、抽出液の分離を最大化に使用できるフィルターが販売されていることが記載されている(摘記7a)。ここで、同フィルターが抽出セル用とされ、抽出セル内のサンプルによる目詰まりを防ぐ目的であることから、抽出セル内の下部に取り付けられるものであり、また交換可能な製品であることから、抽出セルの下部の蓋を開いて格納するものであることが理解できる。
以上から、引用文献2には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明2A」という。)。
<引用発明2A>
「タマネギ凍結乾燥品からケルセチンを抽出する高圧溶媒抽出装置であって、タマネギ凍結乾燥品が抽出セルに入れられ、抽出溶媒である80%エタノール水溶液が供給用のラインを経由して前記抽出セルに送り込まれ、前記抽出セルに取り付けられたオーブンにより40℃、60℃、80℃又は100℃に加熱され、1500psiの圧力条件下で10分間静置するというサイクルを4回行ってケルセチンが抽出され、抽出後の抽出液がセルから排出用のラインを経由して捕集バイアルに送られ、次いで抽出溶媒で前記セル内が洗浄され、洗浄工程後、窒素ガスが窒素ガスを送り込むラインにより送り込まれるという操作に使用される、高圧溶媒抽出装置であって、抽出セルの下部の蓋を開いて格納されるフィルターを備えた装置。」
(2)本願発明1と引用発明2Aとの対比
本願発明1を引用発明2Aと対比する。
引用発明2Aの「抽出セル」、「供給用のライン」、「オーブン」及び「ケルセチンが抽出され」る「高圧溶媒抽出装置」はそれぞれ、本願発明1の「収納部」、「エタノール水溶液供給ライン」、「加熱部」及び「ケルセチンを抽出する抽出装置」に相当する。
また、引用発明2Aの「抽出セルに取り付けられたオーブンにより40℃、60℃、80℃又は100℃に加熱され」は、本願発明1の「前記収納部内および前記エタノール水溶液供給ライン内のうちの少なくとも一方で加熱を行う」に相当する。
さらに、本願発明1の「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」と引用発明2Aの「タマネギ凍結乾燥品」とは、抽出原料であるという点で共通する。
したがって、本願発明1を引用発明2Aとは以下の一致点で一致し、相違点2-1~2-4において相違する。
<一致点>
「抽出原料からケルセチンを抽出する抽出装置であって、
前記抽出原料が収納される収納部と、
前記収納部にエタノール水溶液を供給して、前記エタノール水溶液と前記抽出原料とを接触させるエタノール水溶液供給ラインと、
前記エタノール水溶液に対し、前記収納部内および前記エタノール水溶液供給ライン内のうちの少なくとも一方で加熱を行う加熱部とを備える、
ことを特徴とする抽出装置。」である点。
<相違点2-1>
本願発明1が抽出原料として「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」であるのに対して、引用発明2Aでは「タマネギ凍結乾燥品」を用いている点。
<相違点2-2>
本願発明1の加熱部が、「常圧時の前記エタノール水溶液の沸点よりも高い温度で、該エタノール水溶液を加熱する」ことを特徴とするものであるのに対して、引用発明2Aでは40℃、60℃、80℃又は100℃に加熱しているものの、常圧時の前記エタノール水溶液の沸点よりも高いか明確でない点。
<相違点2-3>
本願発明1が「廃棄物を有効利用するための抽出装置」であるのに対し、引用発明2Aではそのことが特定されていない点。
<相違点2-4>
本願発明1が「収納部は密閉可能に構成され、前記加熱されたエタノール水溶液の供給に伴う蒸気圧の上昇によって当該収納部内が加圧された状態でケルセチンの抽出が行われる」のに対し、引用発明2Aではこのことが不明である点。
(3)相違点についての判断
ア 相違点2-1について
「タマネギ凍結乾燥品」を原料に用いる引用発明2Aの装置と、「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」を原料に用いる本願発明1の装置は、いずれも加熱したエタノール水溶液を、原料がセットされた収納部に供給できる構造であればよいと理解される。そして、明細書の記載を参酌しても、本願発明1において、特に、「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」を用いるための特別な構造を要するとも解されない。したがって、両者は装置として区別できない。
また、タマネギも、単に余剰である等の理由で、食べずに、又は調理を経ずに廃棄物となる場合があることから、農業廃棄物又は食品廃棄物となり得るものであり、その意味で廃棄物となる前の農産物及び食物と「農業廃棄物および食品廃棄物」とは、成分・組成等に明確な違いがあるものではなく、本願発明1の装置が「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」を抽出原料として用いる抽出装置であることによって、引用発明2Aが異なる構成を備える装置として、明確に区別できるものであるとはいえない。
したがって、相違点2-1は、実質的な相違点ではない。
イ 相違点2-2について
たとえば、東京理科大学 教授 大江修造氏のウェブサイト、https://s-ohe.com/VLE_Data/Ethanol_Water.htmの気液平衡曲線などに示されるように、80%エタノール水溶液の沸点は約78℃であるから、引用発明2Aの80%エタノール水溶液を80℃又は100℃に加熱している点は「常圧時の前記エタノール水溶液の沸点よりも高い温度で、該エタノール水溶液を加熱する」ことに相当する。
したがって、相違点2-2は実質的な相違点ではない。
ウ 相違点2-3について
引用文献2には、「タマネギはポリフェノールの1種であるケルセチン類を含み、抗酸化活性や抗変異原性などの機能性を発現する」ことが記載されており(摘記2a)、また引用発明2Aを用いたタマネギ凍結乾燥品からのケルセチン抽出について、「抽出の効率化を図ることが可能である」と記載されている(摘記2c)。
このように、引用発明2Aはタマネギ凍結乾燥品から効率的にケルセチンを抽出することが可能であり、当該ケルセチンは抗酸化活性や抗変異原性などの機能性を発現するために利用できるものであるから、抽出原料であるタマネギ凍結乾燥品を有効利用するために用いることができるといえる。
したがって、相違点2-3は実質的な相違点ではない。
エ 相違点2-4について
上記(1)で述べたとおり、引用発明2Aの高圧溶媒抽出装置は、「高温・高圧下で有機溶媒を用いてタマネギの凍結乾燥物からケルセチンの抽出を行う方法」に利用されるものであるため、本願発明1の収納部に相当する抽出セルも、抽出時には高圧条件を維持しうる密閉状態に維持されているから、「収納部は密閉可能に構成され」ているといえる。
また、密閉状態で、エタノール水溶液等の液体をその沸点よりも高い温度に加熱すると、通常、蒸気圧が上昇するものであるから、上記イで述べたとおり、引用発明2Aの80%エタノール水溶液を80℃又は100℃に加熱している点は「常圧時の前記エタノール水溶液の沸点よりも高い温度で、該エタノール水溶液を加熱する」ことに相当するとともに、「加熱されたエタノール水溶液の供給に伴う蒸気圧の上昇によって当該収納部内が加圧された状態」にすることにも相当する。
したがって、相違点2-4は実質的な相違点ではない。
オ 小括
よって、本願発明1は引用文献2に記載された発明である。
また、引用発明2Aの構成について、その本質的な機能を損なわない範囲で改良等を行うことは、当業者が容易になし得たことである。
(4)請求人の主張
請求人は令和8年1月22日受付の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、以下の主張を行っている。
ア 「高精度の定量分析が求められる実験分析装置(Dionex社製ASE-200)と、本願発明のような「廃棄物からケルセチンを抽出することにより当該廃棄物を有効利用するための抽出装置」とは、単に「加熱したエタノール水溶液を、原料がセットされた収納部に供給できる構造であればよい」ものではなく、例えば、その収容部の規模(容量)の設計上の観点からも、前者は、均一に調整された供試材料を対象として高精度の定量分析を行う実験分析装置としての構造、具体的には11mL程度の抽出セルやセルトレイの構造を必要とするものであって、後者(廃棄物を有効利用する工業的な生産装置)が想定する収容部の規模(容量)や構造とは明らかに異なります。」
イ 「本願発明の具体的な特徴についてみると、その収納部内(抽出セル内)の圧力が、引用発明2Aとは大きく異なっています。
まず、引用発明2Aは、定量分析を高精度に行う(供試材料から極限まで抽出を行う)必要がある実験分析装置であることから、102気圧という高圧下で抽出を行っており、そのための加圧装置を当然に備えています。高精度な定量分析を取り扱う技術分野では、こうした装置構成や抽出手法は当然の前提です。
これに対し、本願発明は、付加的な加圧装置を用いることなく(所謂「圧力鍋」のように)収容部を密閉し、「加熱されたエタノール水溶液が収納部に供給されることにより、収納部内の圧力が上昇して、収納部内が加圧状態となる。このような加熱と加圧との相乗効果により、ケルセチンの抽出が促進される」ものです(段落0027)。この圧力は約2.5気圧であり、引用発明2Aの圧力値とは大きく異なっています。
引用発明2Aのような微量試料の定量分析装置であれば、102気圧の高圧構造が求められるとしても、廃棄物を連続的に処理し、大量・安価・安全にケルセチンを抽出して廃棄物を有効利用しようとする工業的な生産設備を取り扱う技術分野(産業上の利用分野)においては、簡易な構造で大量・安価・安全にケルセチンを抽出することが目的(課題)として存在しており、102気圧という高圧下で抽出を行う装置構成は現実的ではありません。本願発明は、実験室レベルの発明ではなく、工業レベルでの高い実用性がある発明です。」
ウ 「引用発明2Aは、微少な資料を基に高精度な定量分析を行う(極限まで抽出を行う)ことを目的とした実験分析装置であって、その設計思想は、本願発明のように簡易な構造で大量・安価・安全にケルセチンを抽出する技術分野における装置の設計思想とは相反します。
そのため、当業者において、引用発明2Aに基づいてその収納部内(抽出セル内)の圧力を102気圧から2.5気圧に改変する動機はなく、また、本来の目的である定量分析の精度が悪化するという観点から阻害要因があるとも言えます。
同様に、引用文献2の図2には、抽出温度が80℃を超えると抽出量が低下することを示したグラフが記載され、同文献第426頁左欄第26-28行には「高圧溶媒抽出装置を用いてリンゴからポリフェノール類の抽出を試み,60℃以上の抽出条件ではポリフェノール類の抽出量が減少することを確認している」と説明されており、そして、実際の抽出条件としても「抽出温度:40℃」(同右欄下から2行目)を採用していることからも、引用発明2Aの技術分野(定量分析)に属する当業者が、引用文献2に記載の発明に基づいて発明をする際に、あえて抽出効率が低下する80℃以上(常圧時の80%エタノールの沸点以上)を採用して抽出しようとする動機はなく、本来の目的である定量分析の精度が悪化するという観点から阻害要因があるとも言えます。」
(5)上記主張についての判断
ア 上記(4)アの主張について
請求人の主張は、要するに、引用文献2に記載の装置は、高精度の定量分析が求められる実験分析装置であるのに対し、本願発明のような「廃棄物からケルセチンを抽出することにより当該廃棄物を有効利用するための抽出装置」は、収容部の規模(容量)が異なることから、相違点2-1及び相異点2-3が実質的な相異点である旨をいうものである。
しかし、本願発明1は、農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物からケルセチンを抽出することにより当該廃棄物を有効利用するための抽出装置であることが特定されているものの、収容部の規模については、何ら特定されておらず、また上記(3)ウで述べたとおり、引用発明2Aも抽出原料を有効利用するために用いることができるため、相違点2-3は実質的な相違点ではない。
したがって、主張(4)アは採用できない。
イ 上記(4)イの主張について
「引用発明2Aに基づいてその収納部内(抽出セル内)の圧力を102気圧から2.5気圧に改変する動機はな」い点について、本願の請求項1には、「加熱されたエタノール水溶液の供給に伴う蒸気圧の上昇によって当該収納部内が加圧された状態」があること以外に、用いる圧力及び圧力の制御方法について何ら具体的な特定はなされていないから、上記主張は請求項1の記載に基づかないものである。
すなわち、請求人は、本願発明1が「付加的な加圧装置を用いることなく(所謂「圧力鍋」のように)収容部を密閉し、「加熱されたエタノール水溶液が収納部に供給されることにより、収納部内の圧力が上昇して、収納部内が加圧状態となる。このような加熱と加圧との相乗効果により、ケルセチンの抽出が促進される」ものです」と主張しているが、請求項1には「付加的な加圧装置を用いることなく」といった記載は存在しない。むしろ、本願明細書の【0049】には、
「また、収納部2内を加圧状態とする方法としては、前記各実施形態では、加熱されたエタノール水溶液EAを収納部2内に供給する方法を採っているが、これに限定されず、例えば、収納部2内に空気を供給する方法を採ってもよい。」
として、付加的な加圧装置を組み合わせてもよいことが記載されている。
したがって、上記主張は本願発明1の構成及び明細書の記載に基づかないものである。
また、仮に圧力の値や圧力の制御方法について、本願発明1と引用発明2Aに相違点があったとしても、「AutoASEソフトウェアの主操作スクリーンは・・・設定された、及び実際の温度と圧力を示す。」と摘記6aに記載されるように、引用発明2Aは圧力を設定することができるから、圧力条件を適宜調整することも、当業者が容易になし得たことである。
したがって、主張(4)イは採用できない。
ウ 上記(4)ウの主張について
請求人は、本願発明は、簡易な構造で大量・安価・安全にケルセチンを抽出する技術分野における装置の設計思想のものである旨を主張するが、これらに対応する事項は特定されておらず、「収納部内(抽出セル内)の圧力を102気圧から2.5気圧に改変する動機はな」いとする主張についても、上記イで述べたとおり、本願発明1は用いる圧力について何ら具体的に特定していないから、上記主張は請求項1の記載に基づかないものである。
また、上記イのとおり、引用発明2Aは圧力を設定することができ、102気圧という高圧力をかけることができることから、当然、より低い2.5気圧程度の圧力の設定も可能であると考えられるから、請求人の主張によって、本願発明1が引用発明2Aに対して、新規性及び進歩性を有するということはできない。
また、「あえて抽出効率が低下する80℃以上(常圧時の80%エタノールの沸点以上)を採用して抽出しようとする動機はな」いとの主張については、摘記2cに記載されるとおり、引用発明2Aで80%エタノール水溶液を用いて、80℃及び100℃における抽出を行っているため、この点はそもそも相違点に該当しないため、上記主張は当を得ないものである。
したがって、主張(4)ウは採用できない。
エ 小括
よって、請求人の主張はいずれも採用できない。
(6)理由1及び2(引用文献2を主引例とする場合)のまとめ
以上から、本願の請求項1に係る発明は引用文献2に記載された発明である。
また、本願の請求項1に係る発明は引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 理由2(引用文献4を主引例とする場合)について
(1)引用文献4に記載された発明
上記1(2)ウから、引用文献4には、
抽出原料に処理液を注いで前記抽出原料から抽出される抽出成分を含む抽出液を生成する抽出器本体と、その抽出器本体から排出される抽出液を加熱する加熱装置を備え、
前記抽出器本体と前記加熱装置が互いに接続されて、前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる密閉式の循環経路が形成されるとともに、その循環経路内に加圧用流体を圧入して当該経路内を加圧可能な加圧装置が設けられ、
前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる循環加熱運転を行うに、前記加圧装置を作動させて、前記循環経路内における前記処理液の飽和蒸気圧より高い圧力に前記循環経路内を加圧する制御手段を備えた循環加熱式の抽出装置(摘記4a、【請求項1】)が記載されている。
そして、上記装置には、上記抽出器本体の中の抽出室に抽出原料を収納する固液分離用のメッシュなどからなる籠が取り外し自在に配置され、上記抽出室には、湯水等の処理液を供給するための第1配管及び抽出液を排出するための第2配管が連通接続され、上記加圧用流体として窒素などの不活性ガスなどが用いられることも記載されている(摘記4b)。
さらに、具体的な態様として、抽出温度を195℃程度とすることにより、処理液である水を使用して、抽出原料であるココアからケルセチンを抽出できることも記載されている(摘記4c)。
以上から、引用文献4には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明4A」という。)。
<引用発明4A>
「抽出原料であるココアからケルセチンを抽出する装置であって、抽出原料に処理液を注いで前記抽出原料から抽出される抽出成分を含む抽出液を生成する抽出器本体と、その抽出器本体から排出される抽出液を加熱する加熱装置を備え、
前記抽出器本体と前記加熱装置が互いに接続されて、前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる密閉式の循環経路が形成されるとともに、その循環経路内に加圧用流体を圧入して当該経路内を加圧可能な加圧装置が設けられ、
前記抽出器本体から排出される抽出液を前記加熱装置により加熱して前記抽出器本体に循環させる循環加熱運転を行うに、前記加圧装置を作動させて、前記循環経路内における前記処理液の飽和蒸気圧より高い圧力に前記循環経路内を加圧する制御手段を備えた循環加熱式の抽出装置であって、
抽出器本体の中の抽出室に抽出原料を収納する固液分離用のメッシュなどからなる籠が取り外し自在に配置され、また上記加圧用流体として窒素などの不活性ガスなどが用いられ、
抽出温度を195℃程度とすることにより、処理液である水を使用して、抽出原料であるココアからケルセチンを抽出できる装置。」
(2)本願発明1と引用発明4Aとの対比
本願発明1と引用発明4Aを対比すると、引用発明4Aの「ケルセチンを抽出する装置」、「抽出器本体」及び「加熱装置」はそれぞれ、本願発明1の「ケルセチンを抽出する抽出装置」、「収納部」及び「加熱部」に相当する。
また、引用発明4Aの「ココア」は、本願発明1の「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」と、抽出原料である点であるという点で共通する。
さらに、引用発明4Aの「抽出液」は、本願発明1の「エタノール水溶液」と、抽出液である点で共通する。
そして、引用発明4Aの「循環経路」は抽出液を抽出器本体に循環させるものであるから、本願発明1の「供給ライン」に相当し、上記加熱装置は循環経路において抽出液を加熱するものであるので、本願発明1の「収納部内および前記」抽出液の「供給ライン内のうちの少なくとも一方で加熱を行う加熱部」に相当する。
さらに、引用発明4Aの「抽出温度を195℃程度とすることにより、処理液である水を使用して」は、常圧時の水の沸点が100℃であることから、本願発明1の「常圧時の前記」抽出液「の沸点よりも高い温度で、該」抽出液「を加熱する」に相当する。
したがって、本願発明1を引用発明4Aとは以下の一致点で一致し、相違点4-1~4-4において相違する。
<一致点>
「抽出原料からケルセチンを抽出する抽出装置であって、
前記抽出原料が収納される収納部と、
前記収納部に抽出液を供給して、前記抽出液と前記抽出原料とを接触させる抽出液供給ラインと、
前記抽出液に対し、前記収納部内および前記抽出液供給ライン内のうちの少なくとも一方で加熱を行う加熱部とを備え、
前記加熱部は、常圧時の前記抽出液の沸点よりも高い温度で、該抽出液を加熱することを特徴とする抽出装置。」である点。
<相違点4-1>
本願発明1が抽出原料として「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」であるのに対して、引用発明4Aでは「ココア」を用いている点。
<相違点4-2>
本願発明1の抽出液が「エタノール水溶液」であるのに対して、引用発明4Aの抽出液が「水」を処理液とする水溶液であり、エタノールを含まない点。
<相違点4-3>
本願発明1が「廃棄物を有効利用するための抽出装置」であるのに対し、引用発明4Aではそのことが特定されていない点。
<相違点4-4>
本願発明1が「収納部は密閉可能に構成され、前記加熱されたエタノール水溶液の供給に伴う蒸気圧の上昇によって当該収納部内が加圧された状態でケルセチンの抽出が行われる」のに対し、引用発明4Aではこのことが不明である点。
(3)相違点についての判断
ア 相違点4-1について
「ココア」を原料に用いる装置と、「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」を原料に用いる装置は、いずれも加熱した抽出液を、原料がセットされた収納部に供給できる構造であればよいと理解される。そして、明細書の記載を参酌しても、本願発明1において、特に、「農業廃棄物および食品廃棄物のうちの少なくとも1種を含む廃棄物」を用いるための特別な構造を要するとも解されない。したがって、両者は装置として区別できない。
また、ココアも単に余剰である等の理由で、食べずに、又は調理を経ずに、廃棄物となる場合があることから、農業廃棄物又は食品廃棄物となり得るものであり、その意味で廃棄物となる前の農産物及び食物と「農業廃棄物および食品廃棄物」とは、成分・組成等に明確な違いがあるものではなく、人間の扱いによる違いしかないから、本願発明1と引用発明4Aは、両発明の方法に用いる抽出原料の点でも明確に区別できるものではない。
したがって、相違点4-1は実質的な相違点ではない。
また、仮に実質的な相違点があったとしても、引用文献4には抽出原料として、畜肉系原料、水産系原料、食品・農産・水産廃棄物など、種々のものが使用可能であることが記載されているから(摘記4c)、それぞれの原料に応じた装置の構成とすることも、当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点4-2について
引用文献4には抽出原料に応じて、処理液として、エタノール(アルコール系有機溶剤)等も使用可能であると記載されている(摘記4c)ところ、引用文献1には、玉ねぎの外皮からエタノール水溶液でケルセチンを抽出できることが記載されているから(摘記1a~1c)、抽出原料として玉ねぎの外皮を用い、抽出液の溶媒(処理液)としてエタノール水溶液を使用できる装置とすることも、当業者が容易になし得たことである。
そして、そのことによる効果について、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、当業者が予測し得ない格別顕著なものとは認められない。
ウ 相違点4-3について
引用文献4には、引用発明4Aの抽出原料として、畜肉系原料、水産系原料、食品・農産・水産廃棄物など、種々のものが使用可能であることが記載されているから(摘記4c)、引用発明4Aを、廃棄物を有効利用するために用いることができるといえる。
したがって、相違点4-3は実質的な相違点ではない。
エ 相違点4-4について
引用発明4Aは、本願発明1の「収納部」に相当する「抽出器本体」が密閉式の循環経路に組み込まれており、「密閉可能に構成され」ているものといえる。
また、摘記4bの【0013】に記載されるとおり、「循環経路が密閉式であることから加熱装置による加熱に伴い当該経路内の圧力が上昇する」ものであるところ、当該加熱は「抽出液の沸点よりも高い温度」となるように行われるものであるから、上記「加熱に伴い当該経路内の圧力が上昇する」ことは、抽出液の蒸気圧の上昇によるものであるといえる。
したがって、相違点4-4は実質的な相違点ではない。
オ 小括
よって、本願発明1は引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
(4)請求人の主張
請求人は意見書において、以下の主張を行っている。
「本願発明は、補正後の請求項1で特定したとおり「収納部は密閉可能に構成され、前記加熱されたエタノール水溶液の供給に伴う蒸気圧の上昇によって当該収納部内が加圧された状態でケルセチンの抽出が行われる」ものであって、引用発明4Aのように付加的な加圧装置を設けるものではありません。そのため、収容部内の圧力も、引用発明4Aが20気圧であるのに対し、本願発明は2.5気圧程度となるものであり、大きく異なります。
このように本願発明は、特に「エタノール水溶液」を用いて廃棄物からケルセチンを抽出する方法に着目し、当該方法の場合には「加熱と加圧との相乗効果により、ケルセチンの抽出が促進される」ことに基づいて、請求項1で特定した構成を採用することによって簡易な構造で大量・安価・安全にケルセチンを抽出することが可能になることを見出したものであり、実用性の高い工業レベルの廃棄物利用装置として高い意義があります。
引用発明4Aの主たる目的に鑑みれば、高圧下(20気圧)での運転を実現するために採用した加圧装置を取り除くことは、引用発明4Aの本来の目的に反することとなり、引用発明4Aが機能しなくなることから、当業者が引用発明4Aに基づいて改変(設計変更)を行うことにより本願発明に容易に到達できた、と判断することはできません。」
(5)請求人の主張についての判断
請求人の「引用発明4Aのように付加的な加圧装置を設けるものではありません。」との主張について、請求項1には「付加的な加圧装置を用いることなく」といった記載は存在しない。むしろ、本願明細書の【0049】には、
「また、収納部2内を加圧状態とする方法としては、前記各実施形態では、加熱されたエタノール水溶液EAを収納部2内に供給する方法を採っているが、これに限定されず、例えば、収納部2内に空気を供給する方法を採ってもよい。」
として、付加的な加圧装置を組み合わせてもよいことが記載されている。
したがって、上記主張は本願発明1の構成及び明細書の記載に基づかないものである。
また、請求人の「収容部内の圧力も、引用発明4Aが20気圧であるのに対し、本願発明は2.5気圧程度となるものであり、大きく異なります。」との主張は、本願の請求項1に「2.5気圧程度の圧力で抽出を行う」ことが特定されているわけでもないため、本願発明1の構成に基づかないものである。
なお、引用文献4には「循環経路が密閉式であることから加熱装置による加熱に伴い当該経路内の圧力が上昇するので、上記加圧装置は飽和蒸気圧に対して不足する分のみ加圧すればよく、加圧のためのエネルギ消費を抑制することができる。」(摘記4bの【0013】)と記載されているため、引用発明4Aの装置は、必ずしも「高圧下(20気圧)での運転を実現する」必要性はなく、エネルギー消費を抑制し、簡便に抽出を行う等の観点から、20気圧よりも低い気圧を使用することや、加圧装置を使用しないことも実行可能な装置であることは明らかである。
したがって、上記主張は採用できない。
(6)理由2(引用文献4を主引例とする場合)のまとめ
以上から、本願の請求項1に係る発明は、引用文献4に記載された発明及び引用文献1に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび(結論)
上記のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
さらに、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4に記載された発明及び引用文献1に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-006334