商標異議申立
2023-900274
マスターサケソムリエ、マスター、サケソムリエ、サケ、ソムリエ
- 審判番号
- 2023-900274
- 法域
- 商標
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 商願2023-027403
- 登録番号
- 6740054
- 請求日
- 2023年12月04日
- 審決日
- 2024年07月25日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サケ ソムリエ アカデミー リミテッド
- 【異議申立人】コート オブ マスター ソムリエズ,アメリカズ
- 【異議申立人代理人】弁理士法人小笠原特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 旦 克昌
- 審判官 小林 裕子
- 審判官 大島 勉
- 分類
- T1651.22 -Y (W41) / T1651.271-Y (W41) / T1651.272-Y (W41)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 商標法4条1項7号商標法4条1項15号商標法4条1項16号商標法43条の2商標法43条の3第4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 商標法第4条第1項第15号、商標法第4条第1項第7号、商標法第4条第1項第16号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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登録第6740054号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。
結論
結 論
登録第6740054号商標の商標登録を維持する。
理由
理 由
第1 本件商標
本件登録第6740054号商標(以下「本件商標」という。)は、「Master Sake Sommelier」の文字と「マスター酒ソムリエ」の文字を上下二段に横書きした構成からなり、令和5年3月15日に登録出願、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,教育上の試験の実施,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),インターネットを利用して行う映像の提供,インターネットを利用して行う音楽の提供,映画の上映・制作又は配給,録音又は録画済み記録媒体の複製,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与」を指定役務として、同年9月6日に登録査定され、同月27日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由に該当するとして引用する商標は、「Master Sommelier」の文字又は「マスターソムリエ」の文字からなる商標(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)であり、申立人が「ワイン等酒類及びソムリエに関する知識の教授、セミナーの開催等」に使用していると主張するものである。
第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第15号、同項第7号及び同項第16号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、取り消されるべきである旨申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)申立人及び引用商標「Master Sommelier」、「マスターソムリエ」について
コート・オブ・マスター・ソムリエは、1977年に英国においてワイン等の飲料に関する知識とホテルやレストラン等のホスピタリティ業界のサービスにおいて最高水準のソムリエを養成・認定する組織として設立された(甲第3号証)。当時、ワイン商や販売元は、商品を売るために高度な訓練を受けた知識豊富な人や代理店を必要としていたが、業界団体の中に、ソムリエサービスの資格を認定する団体は存在しなかった。ワインを販売するため、また、ソムリエに教育と訓練を奨励するため、ヴィントナーズ・カンパニー、マスターズ・オブ・ワイン協会、グレートブリテンホテル&レストラン協会、グレートブリテンワイン&スピリッツ協会、卸売タバコ取引協会は、1969年にロンドンのヴィントナーズ・ホールで最初のマスターソムリエ試験を実施した。試験官は、スポンサー団体及び業界の著名なメンバーから選ばれた。試験は、理論、実技、6種類のワインのブラインド・テイスティングを含むもので、試験の基準は、現在も維持されている。当時、マスターソムリエ資格のための研修機関は存在しなかったことから、マスターソムリエ資格取得を支援するためにコート・オブ・マスター・ソムリエが設立された。申立人は、アメリカ支部として1987年に設立された。
1990年代から2000年代において、マスターソムリエが広く認識されるようになるとともにコート・オブ・マスター・ソムリエも着実な成長を遂げた。1990年にオーストラリアで入門コースと上級試験が実施され、続いてドイツ、ニュージーランドで研修と試験が実施された。近年においても、ソムリエという職業への関心が新たな国々に広がり、その拡大が続いている。オーストラリア、カナダ、メキシコ、ニュージーランドはいずれも、コート・オブ・マスター・ソムリエによる検証を受けながら、ソムリエコミュニティを発展させてきた。南米とアジアも急速に発展している。国籍の多様性が増し、男女のバランスも改善している。このような変化を背景に、コート・オブ・マスター・ソムリエは、ホスピタリティ業界における卓越した飲料サービスのグローバルスタンダードを確立し、誠実さ、模範的な知識、謙虚さをもってそれを行うというビジョンを果たし続けることで、その存在意義を保っている。
マスターソムリエは、コート・オブ・マスター・ソムリエが認定する最高ランクのソムリエ資格であり、ワインとスピリッツの知識、ソムリエサービスにおける能力、ホスピタリティ業界におけるプロフェッショナリズムの最高峰を示すものである。
コート・オブ・マスター・ソムリエは、ソムリエ入門コース及び試験、認定ソムリエ試験、上級ソムリエコース及び試験、マスターソムリエディプロマ試験の4段階の資格認定を行っている(甲第4号証)。「マスターソムリエ」は、最上位のソムリエ資格であり、その合格率は3~8%で、世界で最難関と評されている(甲第2号証の2)。マスターソムリエ試験の合格者の数は、世界に273人で、そのうち170人がアメリカ支部に属している。日本人では、2019年にA氏、2023年にB氏の2名が認定された(甲第5号証)。なお、2019年の合格者は5名、2023年は2名にすぎない。
日本においては、2012年に日本初のソムリエ入門試験の合格者が現れ、2014年に日本初の認定ソムリエが誕生した。申立人は、日本人を対象にプログラム及び試験の提供をしており、日本において2015年に2件の商標登録出願を行い、2016年に商標登録を受け、2023年に「MASTER SOMMELIER」の商標登録出願も行っている(甲第6号証の1)。申立人の記録によれば、コート・オブ・マスター・ソムリエを受講した日本人は80人おり、さらに、コート・オブ・マスター・ソムリエのメーリングリストに、日本から160人、アジアでは630人が登録している(甲第6号証の2)。
2021年に、コート・オブ・マスター・ソムリエのオンライン入門ソムリエコースと試験は、日本においても受講可能となり、これまでに7人の日本人が受講し、合格している。2024年2月3日、東京都港区においてコート・オブ・マスター・ソムリエのソムリエ入門コース及び試験が実施された(甲第2号証の2)。申立人は、キャプラン・ワインアカデミー及びパソナHRソリューション株式会社とパートナーシップを締結し、日本において追加プログラムを実施している。
現在、日本、アジア、世界におけるコート・オブ・マスター・ソムリエの認定受講者数、マスターソムリエ資格保有者数は、日本では、全レベルにおいて90人認定・CMSメーリングリスト160件、アジアでは、全レベルにおいて350人認定・CMSメーリングリスト630件、世界では、入門ソムリエ76,521人・認定ソムリエ23,758人・上級ソムリエ 2,280人・マスターソムリエ 273人である。
マスターソムリエは、40年以上前に英国において関連する業界団体の要望から設立された資格であり、ワインやソムリエサービスに関する技能は、申立人の提供する研修制度、試験を通じて、現在も受け継がれている。マスターソムリエは専門家として、ワインの品質、ホスピタリティサービスの質の高さを担保する役割も担っている。
(2)引用商標「Master Sommelier」、「マスターソムリエ」の周知性について
上記(1)に記載のとおり、日本人のコート・オブ・マスター・ソムリエ受講者、認定資格保有者が存在する。全国で開業が相次ぐ外資系最高級ホテルやインバウンド需要の取り込みを見据えたレストラン等では、マスターソムリエに代表される、料理や飲料に関する知識に精通した、国際基準の認定有資格者によるハイクラスのサービスが求められている(甲第2号証の2)。
また、マスターソムリエに関する新聞記事や日本においてサービスを提供する航空会社、ホテル、レストラン等の飲食店及びワインの生産者・販売者等が、そのサービスや商品について「マスターソムリエ」が推奨していることをうたった宣伝広告がある(甲第7号証)。
上記の企業の宣伝広告や新聞記事より、マスターソムリエは、世界で最難関といわれるソムリエ資格であること、マスターソムリエの資格保有者の中に有名な一流の航空会社、ホテル、レストラン等においてソムリエとして従事している者が多数存在すること、国際的なワイン品評会の審査員を務めていること等が明らかであり、日本においてワイン、レストラン、ホテル、旅行等の関係団体や取引者及び需要者に広く認知されていることを示している。
「ワインリンク」ウェブサイトのワイン用語辞典には、「マスター・ソムリエ(Master Sommelier)」が「1977年にイギリスに設立されたThe Court of Master Sommelier」の資格。難易度では世界トップクラス。セオリーより実サービスに重点を置いている。4つのレベルに分かれた試験にクリアして、マスター・ソムリエとなる事が出来る」を意味するものとして掲載されている(甲第8号証)。このことは、「マスター・ソムリエ」が日本においてワインに関連する用語と認められていることを示している。
申立人は、「MEET&GREETS(ミートアンドグリート)」と名付けた、マスターソムリエ資格者と候補者との交流会を各地で開催している。日本においては、2018年3月、2023年4月、2024年2月に開催しており、2024年2月の会合は、東京において、GO-TO WINE(東京に所在するワイン輸入販売業者)、アサヒビール等がスポンサーとなり、開催された(甲第2号証)。
申立人は、広報活動として、様々なソーシャルメディアを活用しており、そのフォロワー数は、インスタグラム34,700、フェイスブック33,167、リンクトイン18,700、ユーチューブ164,000である(甲第9号証)。
過去12ヶ月におけるコート・オブ・マスター・ソムリエのウェブサイト利用者数は、322,000人であり、そのうち日本からは943人である。また、ユーザーインタラクション数は、世界で1,900万であり、そのうち日本からは7,944である。
以上より、日本において、本件商標の出願前から現在に至るまで、「マスターソムリエ」は申立人の認定する最高位のソムリエ資格として、ソムリエの間においては、当然知られていると考えられる。近年のインバウンド需要の増大や国内産ワイン等の外国における受賞等を考慮すれば、一流ホテル、レストラン、旅行等のホスピタリティサービスの提供者、ワイン生産者・販売者等の取引者や、これらの商品及び役務の需要者の間においても、広く認識されているものであるといえる。
(3)本件商標と引用商標との類似性について
本件商標は、上段に「Master Sake Sommelier」、下段に「マスター酒ソムリエ」の文字を二段書きに表してなり、「マスターサケソムリエ」の称呼が生じる。「Master」「マスター」は「師匠。物事に熟達すること」等、「Sake」「酒」は「エチルアルコールを含んだ飲料の総称。清酒の通称。英語でもsakeで通用する」、「Sommelier」「ソムリエ」は「レストランで、客の相談にのってワインを選び、サービスをする専門職」(「デジタル大辞泉」小学館)を意味することから、全体として「熟達した清酒のソムリエ」程の観念が生じる。
引用商標「Master Sommelier」、「マスターソムリエ」からは、「マスターソムリエ」の称呼のみが生じ、上記(1)のとおり、コート・オブ・マスター・ソムリエが行うソムリエ資格認定試験における最上位の資格であり、世界的に、そして日本においても、ワイン、ホテル、飲食、旅行業界等の取引者・需要者に広く知られているものである。よって、引用商標からは申立人の認定する資格「マスターソムリエ」との観念が生じる。
本件商標と引用商標とを比較すると、本件商標は、引用商標「Master Sommelier」(マスターソムリエ)を商標中に完全に包含し、「Master」、「マスター」と「Sommelier」、「ソムリエ」の間に「Sake」、「酒」の文字を挟んだにすぎないものである。しかし、酒類に関する役務、例えば、酒類に関する知識の教授やセミナーの企画・運営又は開催等の役務との関係において、「Sake」「酒」の文字は役務の内容を表示するに過ぎず、識別力がない。本件商標を構成する文字のうち、「Master Sommelier」(マスターソムリエ)は、ソムリエ、ワイン等の分野において強い識別力を有することから、本件商標に接した取引者、需要者は、「Master Sommelier」(マスターソムリエ)の文字部分に着目するものといえる。したがって、本件商標の要部は「Master Sommelier」(マスターソムリエ)の部分であり、本件商標の要部と引用商標とを比較すれば、構成文字が同一であり、外観及び観念において相紛らわしいものといえる。よって、本件商標と引用商標との類似性は極めて高いものといえる。
(4)商品間又は商品と役務間の関連性について
本件商標の指定役務中、「酒・ワイン・ソムリエの資格に関する知識の教授」や「酒・ワイン・ソムリエの資格に関するセミナーの企画・運営又は開催」は、申立人の提供するソムリエ入門コース及び試験、認定ソムリエ試験、上級ソムリエコース及び試験、マスターソムリエディプロマ試験の4段階の認定資格に関する知識の教授やセミナー開催等と同一又は類似する。また、本件商標の他の役務のうち、ワインやソムリエに関する「電子出版物の提供,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),インターネットを利用して行う映像の提供,インターネットを利用して行う音楽の提供,映画の上映・制作又は配給,録音又は録画済み記録媒体の複製,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与」は、申立人の提供する上記の役務と極めて関連性が高いものといえる。
(5)需要者の共通性について
申立人の提供するソムリエ認定資格の受講生には、ホテルやレストラン等のホスピタリティサービス業関係者や、ワイン生産者・販売者や、ワイン愛好家等が含まれる(甲第6号証の2)。本件商標の「酒・ワイン・ソムリエの資格に関する知識の教授」や「酒・ワイン・ソムリエの資格に関するセミナーの企画・運営又は開催」等、酒に関する役務の需要者には、ホテルやレストラン等のサービス業従事者やワイン愛好家も含まれると考えられるから、需要者が共通する。
(6)混同のおそれ
引用商標は英国発祥の資格であるとしても、40年以上にわたる長年の使用を通じて、国際的に同資格の認知度が高まり、英国以外の地域においてもソムリエ資格制度への要請が発生し、米国、オーストラリア、アジア、日本へと地理的範囲を拡張している。加えて、甲第7号証に示すように、昨今の日本におけるマスターソムリエに関連する記事等や、ワインを含む酒造メーカー、ホテル、飲食、旅行業界等の宣伝広告より、マスターソムリエが権威ある資格として認識されていることがうかがえる。
引用商標と「Sake」「酒」の文字の有無しか相違しない本件商標は、引用商標と外観、観念において、相紛らわしいものであるから、本件商標がその指定役務に使用されると、取引者・需要者は引用商標「Master Sommelier」、「マスターソムリエ」と同一の文字部分に着目して、申立人の業務に係る役務であるとの混同又は申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し、役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
以上より、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、その構成中に引用商標を完全に包含するものであり、その指定役務に使用されると、需要者が申立人の認定するマスターソムリエ資格に関係があるものと誤認混同するおそれがある。また、申立人の認定するマスターソムリエの資格取得者は、一流ホテル、レストラン等においてソムリエとして、また世界的なワイン品評会等において審査官を務める等活躍しており、一流ホテル、レストラン等におけるサービスの質やワインの品質を担保する役割を果たしている。本件商標がその指定役務に使用されると、申立人の認定した「マスターソムリエ」資格保有者によるホテル、レストラン等におけるサービスの質やワインの品質を保証する機能に影響が生じかねない。よって、本件商標は、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合に該当する。
加えて、本件商標権者は、「MASTER SOMMELIER OF SAKE」(商願2023-37634)の商標登録出願も2023年4月7日に行っている(甲第10号証)。上述のように、2019年に日本人が初めてマスターソムリエに認定されたことにより、マスターソムリエが日本において注目を集めている時期に、本件商標権者は、本件商標や「MASTER SOMMELIER OF SAKE」など、引用商標を商標中に包含する商標の登録出願を行っている。一方で、日本において公的にソムリエ資格の認定を行っている一般社団法人日本ソムリエ協会は、同協会が認定するマスターソムリエ呼称を2014年に廃止している(甲第11号証)。本件商標権者は、コート・オブ・マスター・ソムリ工が長年の間継続して最高水準のソムリエを養成し、認定してきた努力をおもんぱかることなく、「マスターソムリエ」に化体した信用を利用する意図をもって、これらの商標登録出願を行ったものといわざるを得ない。しかし、甲第7号証の宣伝広告等に記載されているように、訪日観光客の増加に伴い、日本国内のホテル、レストラン業界において世界基準の認定有資格者によるサービスを求める機運が高まっていることや、国内産ワインの輸出増加のために外国において需要の高いワインを生産する努力を生産者が行っていることを考慮すれば、今後、ますます日本においてコート・オブ・マスター・ソムリエが長年受け継いできたソムリエやワインに関する専門知識が必要とされるといえる。それにも関わらず、本件商標権者が本件商標をその指定役務について使用することは、申立人によるソムリ工試験の実施及びその受験者に対し、混乱を生じさせるものとなる。よって、本件商標は、出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に該当するものといえる。
以上より、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、その構成中に、「Sake」、「酒」の役務の質や内容を表す文字を有するから、本件商標に接した需要者は、役務の内容が酒、主に清酒に関するものと理解、認識するといえる。したがって、その指定役務中、清酒を主とする酒に関係する役務以外の役務に使用されると、需要者の間に役務の質及び内容について誤認を生ずるおそれがある。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
第4 当審の判断
1 引用商標「Master Sommelier」又は「マスターソムリエ」の周知性について
(1)申立人の提出に係る証拠及び申立人の主張によれば、以下のとおりである。
ア コート・オブ・マスター・ソムリエは、1977年に英国において、飲料に関する知識とサービスにおいて最高水準のソムリエを養成・認定する組織として設立された(甲第3号証)。申立人は、1987年にコート・オブ・マスター・ソムリエのアメリカ支部として設立された(申立人の主張)。
イ 申立人は、ソムリエ入門コース、認定ソムリエ、上級ソムリエ、マスターソムリエの4段階の資格認定を行っている(甲第4号証)。「マスターソムリエ」は、最上位のソムリエ資格であり、その合格率は3~8%で、世界で最難関と評されている(甲第2号証の2)。日本人では、2019年、2023年にそれぞれ1名が認定された(甲第5号証)。
ウ マスターソムリエに関する新聞記事や日本においてサービスを提供する航空会社、レストラン等の飲食店及びワインの生産者・販売者等が、そのサービスや商品について「マスターソムリエ」が推奨していることをうたった宣伝広告などがある(甲第7号証)。
エ 「ワインリンク」ウェブサイトのワイン用語辞典には、「マスター・ソムリエ(Master Sommelier)」が「1977年にイギリスに設立されたThe Court of Master Sommelierの資格。難易度では世界トップクラス。セオリーより実サービスに重点を置いている。4つのレベルに分かれた試験にクリアして、マスター・ソムリエとなる事が出来る」旨の記載がある(甲第8号証)。
(2)上記によれば、コート・オブ・マスター・ソムリエは1977年に設立され、申立人はそのアメリカ支部として1987年に設立され、ソムリエの4段階の資格認定を行っている。そして、そのうちの「マスターソムリエ」は最上位のソムリエ資格であり、その合格率は3~8%という世界で最難関と評されるものであって、コート・オブ・マスター・ソムリエないし申立人が、現在でも当該資格の認定を行っている実情はうかがえる。
しかしながら、申立人による、引用商標を使用したワイン類等酒類及びソムリエに関する知識の教授やセミナーの開催についての広告宣伝規模や売上げの規模等、引用商標の周知性を客観的に判断するための具体的な証拠が提出されていないことから、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性の程度を推し量ることができない。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表すものとして、需要者の間に広く認識されるに至っていたと認めることができない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性について
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「Master Sake Sommelier」の文字と「マスター酒ソムリエ」の文字を上下二段に横書きした構成からなるところ、構成中の「Master」及び「マスター」の文字は「修得すること。熟達すること」の、「Sake」及び「酒」の文字は「米とこうじで醸造した、日本特有のアルコール含有飲料」の、「Sommelier」及び「ソムリエ」の文字は「フランス料理店などで、ワインの仕入れ・管理を担当し、また客の相談を受けてワインを選定・提供する専門職」(いずれも広辞苑第七版 岩波書店)の意味をそれぞれ有する語であるが、これらを結合した「Master Sake Sommelier」及び「マスター酒ソムリエ」の文字は、辞書等に載録された語ではなく、また、直ちに特定の意味合いを理解させるというべき事情も認められないから、造語として理解されるというのが相当である。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「マスターサケソムリエ」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。
イ 引用商標は、上記第2のとおり、「Master Sommelier」の文字又は「マスターソムリエ」の文字を横書きした構成からなるところ、上記アと同様に、構成中の「Master」及び「マスター」の文字は「修得すること。熟達すること」の、「Sommelier」及び「ソムリエ」の文字は「フランス料理店などで、ワインの仕入れ・管理を担当し、また客の相談を受けてワインを選定・提供する専門職」の意味をそれぞれ有する語であるが、これらを結合した「Master Sommelier」又は「マスターソムリエ」の文字は、辞書等に載録された語ではなく、また、直ちに特定の意味合いを理解させるというべき事情も認められないから、造語として理解されるというのが相当である。
そうすると、引用商標は、それぞれの構成文字に相応して、「マスターソムリエ」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。
ウ 本件商標と引用商標の外観を比較すると、中間部における「Sake」及び「酒」の文字の有無に差異を有するものであるから、この差異が両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は少ないとはいえず、両者は、外観上、相紛れるおそれはない。
次に、本件商標から生じる「マスターサケソムリエ」の称呼と引用商標から生じる「マスターソムリエ」の称呼を比較すると、中間部において「サケ」の音の有無という差異を有するから、この音の差異が、全体の称呼に及ぼす影響は大きく、聴別できる。
また、両者の観念については、ともに特定の観念が生じないから、観念において比較することができない。
以上からすると、本件商標と引用商標とは、外観及び称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないから、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものであって、その類似性の程度は低い。
(2)引用商標の周知性について
引用商標は、上記1のとおり、申立人の業務に係る役務について使用する商標として、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたとは認めることができない。
(3)出所の混同のおそれについて
上記(1)及び(2)のとおり、本件商標と引用商標の類似性の程度が低く、引用商標は、申立人の取扱いに係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているとは認められない。
そうすると、本件商標は、これに係る指定役務の取引者、需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すれば、本件商標権者が、本件商標をその指定役務について使用しても、取引者、需要者をして、引用商標を連想又は想起することはなく、その役務が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が引用商標と出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、上記2(1)アのとおり、特定の観念は生じないから、その指定役務との関係において、役務の質を具体的に表示するものとして直ちに理解されるとはいい難いものである。
したがって、本件商標は、これをその指定役務に使用しても、役務の質について誤認を生ずるおそれがあるものとは認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は、本件商標はその構成中に引用商標を完全に包含するものであり、その指定役務に使用されると、需要者が申立人の認定するマスターソムリエ資格に関係があるものと誤認混同するおそれがあること、本件商標権者は、コート・オブ・マスター・ソムリエが長年の間継続して最高水準のソムリエを養成し、認定してきた努力をおもんぱかることなく、「マスターソムリエ」に化体した信用を利用する意図をもって、この商標登録出願を行ったものといわざるを得ないこと、これらから本件商標は、当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない旨主張する。
しかし、上記2のとおり、本件商標は、引用商標とは非類似の商標であって、引用商標を連想又は想起させるものでもない。
そして、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものからなるものではない。また、その構成自体がそのようなものではなくとも、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を著しく欠くものでもない。さらに、本件商標を指定役務に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえず、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第16号に違反して登録されたとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-900274